■和美のBlue  
□つちふまず


抱き合ったまま。 「ハンバーグ…冷めちゃいますね。」 「…もう少し。」 背中に回された手に。 もっと力が篭って。 泣けて来そうな、 予感がした。 「………。あ、」 ナツさんは首にしがみついていた、私の体を。 スッと持ち上げて。 ナツさんはそのまま、 ソファに座った。 「…………。」 ナツさんの膝に。 ちょこんと座る私。 「あの………。」 「ん?」 「いえ、……。」 て、 照れる。 改めて。 「何?」 ナツさんの目は。 とっても優しい。 「うふふ。」 笑っちゃう。 なんか。 「ふっ。」 ナツさんも。 私の背中に手を回したまま。 少し照れたように笑った。 「嫌われてると、思ってた。」 ふう、とナツさんは。 溜め息を着いた。 「嫌い、じゃないです…。」 嫌いな訳ないよ。 こんなに好きなのに。 「カズ。」 「はい。」 「ごめん。」 「え。」 「この前。」 どう言えばいいかな、 とばかりに。 ナツさんは頬を掻いた。 ふふ。 ナツさんてば。 やっぱ可愛いかも。 「いいんです。だって…。」 「ん?」 「……いえ。」 だって抱かれたかったのは。本当だもの。 言わないけど、ね。 でも。 「大好きです。」 こう伝えるまでに。 結構時間かかっちゃった。 「カズ。」 額と額を付け合って。 「……はい。」 目を瞑って。 その空気に。 「……カズ。」 酔う。 「なんですか。ふふ。」 「………和美。」 「ん。………んっ。」 重なる唇から。 漏れる気持ち。 あなたを感じれる、 最大限の方法。 好き。 すっごい好き。 キスを交すのは。 もう何回目だろう。 でも今日は。 違うよ、ナツさん。 嬉しいキスは。 初めてかも。 いつも突然だったもの。 唇を離して。 「晩御飯に、しようか。」 笑顔のナツさん。 「はい。」 私も笑顔で答えた。
閉店後の─ お店で。 ライトは。 少しの灯りでいいよね。 音楽は。 音量を抑えた、ダイアナロス。 「いただきまーす!」 「ん。」 二人だけの。 晩御飯。 「ふふ、おいしー。」 自分で作ったのに。 我ながら、上出来。 「そうだ、カズ。」 「はい?」 ナツさんはナイフとフォークを置いて。 両肘を付いて、こちらを見た。 優しい目が。 ふと真剣に。 「恵比寿も売るつもりなんだ。」 「………え?」 「鎌倉だけでやる。」 鎌倉だけ、って…。 「そう…ですか。」 「腹を決めた。」 「……はい。」 「ん。だから、」 「?」 「ここに、いるよ。」 え!? いるよって…。 「今日、わかった。ホールに立って。」 頭が。 いい加減爆発しそう。 「ランチも始めよう。カズ。」 「え?」 ランチ? 「ここの客は、地元客が多い。…ランチを始めても、問題ない。」 「ランチ…ですか。」 うん、とナツさんは。 大きく頷いた。 「来年は、頼むよ。」 ナツさんは笑顔で。 ワインに口を付けた。 「へ?」 来年? 「店長候補で頼むよ。」 「えーっ無理ですよ!」 そんなそんな! むーりー! 「大丈夫。」 ふっとナツさんは笑った後。 「そうでしょ!父さん!」 は。 と、父さん? って? ナツさんの視線を追うと。 バーカウンター。 下から少しずつ。 金髪が見えて…。 「見付かっちゃった。ニヒ。」 手を挙げて。 ヤスさんが出てきた。 「えっ!えーっ!!」 ととと、 父さんって!! 「いやいや…ワッハッハ!」 大笑いで。 ヤスさんは。 こちらに歩いて来た。 「盗み聞き…全く趣味が悪い。」 ナツさんは。 肘を付いて。 「おや、こ…。え?」 二人を見て。 私は口を開けるだけ。 「娘の心配をして何が悪い!」 ヤスさんは、 ナツさんの背中を。 ドン、と叩くと。 「痛いって。」 ナツさんはヤスさんを。 思いっきり睨んだ。 親子…。 親子。 全っ然信じられない!!
テーブルを囲む。 三人。 「ダハハハハ!!」 「……静かにして。」 「ふふっ。それにしても…びっくり。」 ヤスさんと。 ナツさん。 まさか父娘だなんて…。 「おう。内緒だぞ?父親にはならなくていいから、店長になってって言われたんだからな。」 全くひどい娘だ、と。 また笑った。 「父さんに経営は無理。」 子どもだから、と。 ナツさんは呆れたように。 「でも随分若いパパですよね…。」 ナツさんとヤスさんを。 交互に見た。 「俺が20歳の時の子どもだからなぁ。大きくなったぜ、全く。」 「父さんは変わらないよ。」 フン、とナツさんは。 ワインに口を付けた。 普段は全然、 そんな感じはしないのに。 今日は父、娘。 いいなぁなんか♪ 「恵比寿も手引くんだろ?」 ヤスさんはタトゥーの腕を組んだ。 あ、よく考えたら。 タトゥーは親子揃って…。 いかついなぁ(涙) 「ん。そのつもり。」 「鎌倉に越せよ!なぁカズ!」 そーだそーだと。 ヤスさん。 あ、そうか。 恵比寿がなくなれば、 都内に住む理由も…。 でもそんな簡単に行く訳、 「ん、裏のマンション、買ったよ。」 ナツさんは。 店の裏手に、 指を向けた。 「おおそうか!そりゃいい!」 めでてえなぁ!と。 ヤスさん。 あの。 買った、って!? マンションを!? そんな醤油買っといたみたいな、軽いノリで…。 買っちゃうもんなの!? 「カズ。」 「え、はい!」 ヤスさんに呼ばれて、 慌てて向き直る。 ヤスさんはサングラスを外して、目がしらを押さえた。 「こいつはふつつか者だが、これからは俺の事を…お父、」 「やめて父さん。」 バシ、と。 ヤスさんのモヒカンが。 縦に大きく揺れた。 「いてえ!」 「余計な事しないで。」 「ぷっ!あはは。」 ナツさん…。 また意外な点、 発見しちゃった(笑) 「でもカズ、俺嬉しいぞ。」 「え?」 「娘が二人出来たみてーだし。父親としてこんなに幸せな事はない!!」 「…………。」 「…………。」 ぷっ。 ふふ…。 ナツさんと二人。 顔を見合わせて笑った。
「びっくりでした…。」 夜風が心地いい、 帰り道。 “送るよ。” ナツさんの言葉に甘えて。 約五分程の道のりを。 二人でゆっくりと。 「ん…うるさい父親。」 はぁとナツさんは。 夜空を見上げながら、 溜め息。 「すっかり遅くなっちゃいましたね…。」 今何時位なんだろう…。 見上げるとナツさんは。 していた時計を見ずに。 「大丈夫。」 前を見たまま。 小さく呟いた。 鎌倉の道は。 海沿いから一本入ると。 とっても静か。 「…………。」 無言だけど。 何故か、安心。 あ、……ふふ。 追い付けなかったコンパス。 今は。 私の歩幅に合わせて、 ゆっくり歩いてくれてる。 シャワシャワ、と。 虫が鳴く音。 「ん。」 はい、と。 ナツさんは、 利き手の左手を。 差し出した。 あ。 これ、は。 わわわわわ。 ナツさんに見えないように、ゴシゴシと右手を。 ジーンズで拭いて。 ナツさんの左手を握った。 あったかくて、 大きくて長い指。 う、嬉しい(歓喜) 「………。」 「ん、カズ?」 やば。 「……ふ、ふぇ。」 「………どした。」 突然、 泣けてきた。 立ち止まり。 ナツさんは手を握ったまま、私に向き合った。 ……止まんない。 「カズ。」 「す、すみません…、うっ。」 収まらない。 それ位好きで、 ずっと夢見てた。 叶わないものだと、 思ってた。 「………ですか。」 「………カズ。」 「私でいいんですか。」 なんにもないよ。 私。 「……いいの。」 「…………。」 顔を上げて。 ナツさんを見た。 「カズがいい。」 「う、……ふ、…っ」 フワッと、 抱き寄せられて。 ナツさんにすっぽり。 カンガルーの子どもみたいに。 収まった。 背中を優しく、 さすってくれた。 暫くして。 「来週、引っ越すから。」 顔を上げると。 ナツさんは困ったように。 でもこれは、 照れ笑いなんだと。 後から気付いた。 街灯と。 月明かりが、 手を繋いで。 終電が過ぎ去った、 江ノ電の踏み切りにもたれて。 いつまでも抱き合った。
翌週─ ナツさんの引っ越し日。 それまではかなり忙しかったようで。 会えずにいたから。 どうしても手伝いたい私は。 引っ越し先である、新築のマンションの前で。 待っていた。 「あっつ〜。」 ジリジリと、 差す太陽。 今日も暑くなりそう…。 あち、と。 手をはらはら振っていると。 赤いアルファロメオが、 五分後位に現れて。 来た♪ マンションの前で止まったのを確認して、 私は運転席側に回った。 「おはよう。」 ウィンドウを下げながら、 ナツさんは微笑んだ。 「おはようございます。…トラック、後から来るんですか?」 引っ越し業者の、トラックがいない事に気付いて。 「ん、来ないよ。頼んでない。」 ナツさんは眩しそうに、私を見た。 「え?」 「とりあえず、乗って。」 ウィーンと窓は閉まってしまったので。 あらら。 慌てて助手席側に、 回って車へと。 ─バタン 「涼しいーっ!」 ナツさんの車は、 とってもクーラーが効いていて。 「ごめん、待たせたね。」 ………。 や、優しい。 照れるよ〜!! 私のドキドキはおかまいなしに。車は発進した。 「引っ越し…。あれ?」 マンションに入らないの? 「全部置いて来たから。」 煙草いい?とナツさんは付け加えたので。 「あ、はい。…置いて来た?」 え? 「家具付きで売った。ついでに車も。」 車の天井にある、 空気清浄器に。 ナツさんは手を伸ばして。 「か、家具付き?」 マセラティも? ふーとナツさんは。 煙を小さく吐いて。 「ん。だからなんもない。」 服以外は、とナツさんは笑った。 な、 なんもない!? へ!? 「………という事は。」 「今から揃える。付き合って。」 煙草をくわえながら。 ナツさんはこちらを見て、 口の端を持ち上げた。 あ、あの。 それって、ね? ナツさん。 意識してないかもだけど。 「初デー…ト。」 「ん?」 「な、なんでも、ないです…。」 「……そうだね。」 「え。」 「ちょうどいい。」 「ちょうどいい?」 「いやいや何でもない。」 クックッと。 またナツさんは笑った。
「とりあえず…。家電、かな。」 横浜にある、大型のショッピングモールに入り車を止めた。 サイドブレーキを引く。 「あ、あの、ナツさん?」 「ん?」 バタン、バタンと。 ドアを閉める音が。 立体駐車場内に響く。 「今日…、」 「ん?」 「あ、いえ。」 まさか本当に。 今日揃えるわけ、じゃ。 ないよね。はは(笑) ウィーンと。 電気ストアに入る。 独特の活気が感じられた。 洗濯機、洗濯機…と。 呟きながら。 スタスタと歩いてしまう。 「あ、ま、待って〜。」 追い掛ける私。 とは言っても。 「やっぱり乾燥機付き、いいなー!あ、今の洗濯機って静かなんですよねー!」 電気屋さんは好きです♪ すっかりナツさんの、 引っ越しも忘れて。 はしゃいでばかり。 ナツさんは腕を組んで。 「うん…よし。次。冷蔵庫。」 アッと言う間に。 あらら。 ちゃんと見てるのかな? ま、いっか。 「はーい!」 楽しい♪ 冷蔵庫も、 五分程見て。 私がきゃあきゃあ騒いで見てるのを暫く見た後に。 「ん。じゃあ次はテレビ。」 テレビコーナーへ。 「こ、こんなテレビで見てみたい…。」 大画面の。 液晶プラズマ。 デジタル対応。 それを囲むように、 ホームシアターシステム。 いいなぁ…。 こんなテレビで。 ナツさんと映画なんか、 見ちゃったりして? くう〜っ(涙) 「ん。オッケー。行くよ。」 「あ、はーい。」 スタスタとナツさん。 レジに向かうと。 「これ。お願いします。」 は? お願いします? 手には。 気付かなかった。 注文カード。 五枚程持っていて。 「あの、…ナツさん?」 チョイチョイと。 ナツさんのTシャツの裾を、私が引っ張ると。 「ん?」 優しい瞳で。 見下ろされた。 「ま、まさか購入?」 「うん。もちろん。」 ………。 は。 早い(涙) 「あの…私が、選んじゃった、みたいな…。」 ナツさんは、はしゃいでいた私を、見てただけだし。 「今日届けてくれるって。」 良かった、と。 ナツさんは笑った。 これ、これが。 やるやるとは、 聞いていたけど。 金持ちA様?
「さて…次は、と。」 再び、アルファロメオ。 電気屋さんにいたのは、 約30分程で。 「…………。」 私は声を出せません(涙) 「家具、かな。」 あそこにしよう、と。 ナツさんは言って。 車は走り出した。 「あの、ナツ、さん?」 「ん?」 立体駐車場から出ると。 外はギラギラと。 眩しい光に照らされて。 「こんな早く、決めちゃって、というか私が決めちゃった、みたいな…。」 日本語おかしい(涙) 「いい。カズが使いやすい物、買いたかったし。」 また空気清浄器のスイッチを押して、ナツさんは煙草に火を着けた。 「はい?」 使いやすい? なんで? 「うちに来なよ。」 「行きますよ?言われなくても遊びに行っちゃうけど♪ふふっ。」 「…………。」 へ。 あり? シカト? 隣を見ると。 ナツさんは下唇を。 出していて。 びっくり。 「………へ、変な、顔。」 崩れたナツさんの顔を。 初めて見た衝撃に。 「あははは!」 私はお腹を抱えて、 笑った。 「…………ふん。」 れ? 今度は機嫌が…。 悪くなっちゃった。 「あれ、ナツさーん。」 「遊びに…遊びに、ね。」 ふーと煙を吐いて。 また下唇を突き出した。 「あ、何か…怒って、」 「遊びにじゃなくて。」 思い直したような声。 「はい?」 「違う…んだけど。」 車はいつの間にか。 大きな倉庫見たいな、 建物の側。 広い駐車場に入った。 「へ、違う?」 何が? はーとナツさんは。 溜め息をつきながら、 車のエンジンを切った。 「あのねカズ。」 にぶいな…と。 ナツさんは寂しい目をした。 え。 「鈍い?ですか?トロいとは良く…言われま、」 「一緒に暮らそうって事。」 口の端を持ち上げる仕草は。いつも通りのナツさんで。 「……………。」 「近いんだから。」 さて、と。 ナツさんは車のドアを開けて。 バタンとすぐに閉めた。 …………。 くらす、 暮らす? だれと? 誰が? コンコン、と。 窓をノックする音。 いつの間にかナツさんは。 助手席側に。 立っていて。 “い、く、よ” と。目の前の倉庫を指差した。
くらす…。 「ソファ、と…。」 暮らす、というのは。 同じ屋根の下で。 「これでいいかな。」 一緒にご飯食べたり。 「こっちの方が壁紙に合うかな…。」 一緒にテレビ見たり。 「カズ。」 その…。 生活するって。 「カズ。」 ことだよね。 私と…。 ナツさんが。 「和美。」 へ? 「あっはい!」 「どこに飛んでるの。」 ふーとナツさんは。 困ったように微笑んだ。 「す、すみません。」 リアルに飛んでた(涙) 「どれがいい?」 「はい?」 「ソファ。」 「あ、はい。………。」 ぐるっと。 店内を。 初めて見渡した。 広い倉庫の中は。 古い建物とは裏腹に、 モダンな輸入家具達が、 所狭しと並んでいた。 「お、洒落ですね…、ここ。」 改めて。 気付いた。 「ん?ああ…。何かと世話になってるよ。うちの店は全部ここ。」 アメリカン。 ヨーロピアン。 ジャパニーズモダン。 アジアン。 何でもありな、 店内だった。 「そうなんですか…。」 一日見ても、 飽きなそう。 「で、どうする。」 「はい?」 「ソファ。」 うーんとナツさんは。 腕を組んだ。 な、 なんか。 ほんのちょっぴり。 リアルに感じて来た。 “同棲” でもやっぱり…。 嬉しいよ〜!! きゃあーっ!! バフ、と近くにあったソファに、なだれ込むように顔を抑えて座る。 だめ。 超嬉しい〜!! 「それにするか。」 「…………は。」 はい? 顔を上げると、ナツさん。 「いいセンスだ。」 と、私の座っていた。 三点セット、低くてフカフカの白いソファを。長い指で撫でた。 あ。あれ? 「次は…と。」 ナツさんはスタスタと。 ベッドのコーナーへ。 歩いて行ってしまった。 「ま、待って〜。」 また慌てて、 ナツさんを追い掛けた。 続いてベッド。 ベッド…。 ベッド(赤面) 想像するなっていうのがおかしいから。 照れる…。 挙動不信な私をおかまいなしに。 「ベッドは私が決める。」 ナツさんの右眉が上がって、ちょっとエッチな目に見えたのは。 意識しすぎかなと。 私は赤くなった。
結局ナツさんは。 ソファと同じメーカーの、シンプルなWベッドを選んで(照) その他にも棚やサイドボード、テーブルも数点。 ベッドとソファは、 白色系の物。 それ以外の物は。 濃いブラウン。 きっと壁紙や、床の色を計算しているんだろう。 そして。 「これ、今日までに運んで。」 「マジっすか!?無理っすよ〜!」 「出来ない事はない。長い付き合いでしょ。」 「いやいやナツさん…参ったなぁ。」 若い店員さんと。 そんなやりとりを交して。 カードで購入(ブラックだった。やっぱり。) ま、まぁ? もうその辺は。 慣れて…。 「次は…と。」 まだ行くんですか(涙) でもま、ね? 「ナツさん。」 車に乗る前に。 「ん?」 アルファロメオのキーを。取り出した時に。 「嬉しい、です。」 恥ずかしくて。 やっぱり目が見れない。 いつになったら、 この人の顔を。 まっすぐ見れるのかな。 「…まだ足りない。」 「え?」 顔を上げると。 「これからだから。」 ナツさんは微笑みながら。 車に乗り込んだ。 それから買ったのは。 数点の食器類と、 調理器具。 私はキリンの形をしたケトルを。買って貰った(可愛い)。 ベッドカバーやラグも。 専門店に行って。 「これ、悪いけど夜までに。」 運んでね、と。 そのたびに得意先である店主は、焦りまくっていた。 好きな人と、 する買い物。 二人の生活の為の買い物程。 楽しいものはないんだと。 今日一日で。 凄く凄く実感した。 「一通り、いいかな。」 アルファロメオの後部座席は、いっぱいいっぱいになって。 ナツさんは手を叩いて。 満足そうに息をついた。 「買いましたね…。」 まさか本当に。 全部揃えるなんて。 やっぱりお金持ち、 だなーなんて(涙) 改めて実感。 だってナツさん。 まるで近所のスーパーに。 夕飯の買い出しにでも、 来たみたいなノリ。 ははは…(汗) 「あ、そうだ。もう一軒…。」 「まだあるんですか?」 「明日にしよう。」 これは急がなくてもいい、と。ナツさんは頷きながら。 車を走らせた。
得意先ばかりを選んで、 家具や生活用品を購入した訳が。 やっとわかった。 「それはここで。」 「ここっすか?壁に寄せます?」 「うん。」 「ナツさんこれ、組み立てときましたから。」 「どうも。」 「これお祝いです。観葉植物も置いてきますね。」 「ありがとう。」 ほとんどの作業。 やってくれちゃったから。 私はちょこんと座って。 見てるだけでした(汗) 電気屋さんも来て。 夜にはナツさんの2LDKのマンションは。 モデルルームみたいに、綺麗な形で。 住む準備が整った。 「さて、完了。」 業者の人達がいなくなり、 ナツさんはソファに。 深く腰掛けた。 隣のナツさんを見て。 「お疲れ様でした。」 「ん。」 一瞬の静寂で。 私はある事に気付いて。 「今度はオーシャンビューですね。」 「ん?あ…。うん。」 開いたブラインドの向こう、多分耳をすませば。 波音も聞こえる位。 「贅沢過ぎて、バチ当たりそう…。」 ナツさんの隣で。 膝を抱えて。 「ちゃんと働いてもらう。」 心配しなくていい、と。 ナツさんは煙草に火を付けようとしたので。 「ナツさん。」 待って。 「ん?」 くわえようとした煙草を。 ナツさんは引っ込めた。 「あ…あの。」 くっつきたいなーなんて。 「?」 「あ、暑いですね!」 「ん。クーラー入れる。」 ナツさんは立ち上がり、まだビニールにかかったままのエアコンのリモコンを。 手に取った。 あ、あら。 離れちゃった(涙) ああんもう…。 「カズ。」 ピ、という音の後に。 エアコンはすぐに。 冷風を吐き出してくれた。 「はい?」 ソファの後ろに回っていたナツさんが。 急に私の耳元に顔を近付けて来て。 思わず体が固まった。 「水玉パンツは…部屋で干してね。」 寝室を指差して。 ナツさんは笑った。 「んもう!」 「クックッ。ふっ!」 ペタペタと素足で。 ナツさんは笑いながら。 「着替え、とりあえず持っておいで。夕飯用意しておく。」 あ。 「は、はい!」 振り向いて見る、ナツさんの背中。 クックッと。 いつまでも笑ってた。
ズルズル。 「おいしーい!」 ピカピカの浴室で、 シャワーを浴びた後。 ナツさんの用意した、 冷たいおソバ。 梅とシソ、大根おろしと…。なめこが絡まってて。 夏らしい引っ越しそばを、 二人ですすった。 「ん。」 ナツさんも満足そうに、 蕎麦焼酎に口を付ける。 波音ひびく、 海沿いの部屋。 「なんか…。」 「ん?」 「夢、みたいな。」 気がします。 「そればっかり。」 クックッと。 ナツさんは。 笑ってばかり。 「す、すみません…。」 「カズの部屋の契約、切っておいたよ。」 え? は、はやっ! 「近い内に荷物、まとめておいて。」 「は、はい。」 「業者に連絡…、」 「あ、いらないです。」 「ん?」 ふふ、と思わず。 私は笑った。 「私も体一つで来ます。」 新しく始めるなら。 そうしたい。 「そう…わかった。」 ナツさんは目を落として。 またグラスに口を付けた。 ヒューパチパチと。 外で響く、 花火の音。 あ。 そうだ…。 「ナツさん。」 「ん?」 「あの…お願いが、あるんですけど。」 「何?」 「え、と…。」 「何かまだ、欲しいもの…。」 あるかな、と。 ナツさんは広い部屋を。 見渡した。 「ち、違います!」 欲しい物なんて、 これ以上ない。 「?」 「花火…しませんか。」 「花火。」 ああ、そうか、と。 ナツさんは外を見るように。 「あ、いや!いいです!疲れて…ますよね。」 「いいよ。」 見るとナツさん。 やっぱり優しい顔で。 「え。」 「やろう。」 わ。 わーい!!(涙) 「もういいの?」 おソバ、とナツさん。 「た、食べます!美味しいし!……ゴホ。」 慌てて口に入れたおソバ。 「ゆっくり。…時間はあるんだし。」 むせた私に。 ナツさんは呆れたように。 微笑んだ。 時間はあるんだし。 忙しいナツさんの言葉。 すごく嬉しい一言だった。
夜の海。 夏に酔いたい若者が。 いつまでも帰る事はない。 そこから少し離れて、 誰もいない海の家の前。 「花火が似合う。」 手持ち花火を、 両手に持った私を見て。 ナツさんは目を細めた。 「え?そうですか?」 パチパチと光る、 赤い火薬達は。 顔が赤くなるのを隠してくれるから、都合がいい。 「ナツさんも。はい。」 「ん。」 長い指に、 一本渡すと。 ろうそくにかざして、 すぐにパチパチと。 青い光を放った。 「カズのパンツの色だ。」 「え。」 何!? 慌ててかがんでいた、 自分の腰の辺りに触れる。 「今日一日見えてた。」 「ひゃあ〜っ!」 股上が浅いジーンズを。 履いていた事に気付いて。 気を付けないとパンツが見えちゃう形。 気が緩んでた…(涙) 「和美のBlue。」 クックッと。 ナツさんは口を抑えて。 「んもー!!」 頬を膨らます私に。 ナツさんの顔は青い光りに照らされたまま。 笑ってた。 「締めは線香花火でー!」 ナツさんの隣に座って。 細い線香花火に火を付ける。 ぶぶぶ、と。 火がくすぶった後に。 小さくパチパチと。 音を立てる。 「勝負しましょう。」 これがやりたかったの♪ 「ん。」 いい度胸だ、とナツさんも。私に体を寄せた。 最初は小さくパチパチと。 徐々に花開くように。 「綺麗。」 「ん。あ…。」 「え?」 見るとナツさんは。 口を少し開けて。 「…ックシュ!……あ。」 ポトリ。 ぷっ。 「ふっ。アハハハハ!」 「…………。」 むーと。 ナツさんは。 火の消えた線香花火の。 先を睨んで。 「あっけない…。」 ポツリと呟いた。 「ナツさん…面白い。……あ。」 私の線香花火も。 静かに消えて行った。 「ワンモア。」 「はいはい。」 次は勝つ、と。 また花火を手に。 ろうそくにかざす。 またぶぶぶ、と。 先端の塊が震えて、 徐々にパチパチと。 光りを放つ。 夏のわずかな。 赤い光達。 ふと隣を見ると。 ナツさんと目が合った。 どちらともなく。 顔を寄せて。 パチパチと花開く、 線香花火。 玉が落ちても。 キスを重ねた。
夏と。 夜の海と。 誰もいない海の家。 キスをするには。 盛り上がり過ぎる、 シチュエーション。 重なりあった唇から、 漏れる吐息と。 体にかかる、 海風に。 このまま、と。 考えてた。 「……好きだよ。」 少し離した唇から、 低くて甘い声。 「…私も。」 言っては重ね。 確かめ合う。 背中に回された手が。 長い指によって、 敏感な体に。 変化する。 「………ふ。」 体がびくっと。 跳ねてしまったので。 思わず顔を離した。 ちょっとした。 照れ隠し。 「ね、ナツさん。」 「ん。」 額をつけて。 「何でまた…私なんですか。」 ん、と付けていた額を。 ナツさんは離した。 あ、ありゃ。 ちょっとズレた…。 質問しちゃったかな(涙) 驚いたような瞳の後に。 ナツさんの顔は、 すぐに緩んだ。 「さぁ…どうしてだろう。」 遠い目をして。 海を見た。 「何だかまだ信じられなくて。」 朝起きたら夢だった、 なんて事…。 「例えば。」 「え?」 いつもはナツさんは。 あまり言葉が多くない。 「例えば…。美人を100人探すのは、楽だと思う。」 でも珍しく、 少し早口で。 「…………。」 ん? 「でも、“これだ”と思える人は…探すのは大変。」 「あ、…はい。」 「大抵私に近寄るのは…、同じタイプの人間が多い。」 美人ばっかり、 なんでしょうね…。 「お腹一杯なんだ。もう。」 ナツさんのお腹をさする仕草に、思わず微笑んだ。 「お腹一杯…ですか。」 「ゆっくり生きたい。」 「ん……。」 「まだ信じられない?」 「え…あ、まぁ。」 困ったな、と。 ナツさんは頬を掻いた。 「ふふ。でも…。」 ん?とナツさんはこちらを見た。 「…私も磨きます。待ってて下さいね。」 “女を磨く” これはこれからも…。 続行させなきゃね。 「それが見えるからかな。」 「え?」 「カズがいい理由。」 「そうですか(照)」 「育てたくなる。」 それって。 「遊び過ぎですよ、今まで。」 んもー。 頬を膨らますと。 ナツさんは私の肩を抱いて。 額にまた唇を寄せた。
「しろくじちゅうも…、」 手を繋いで。 浜辺を歩き、 「好きといって…、」 階段をゆっくり登って。 車道を渡る。 「ゆめのなかへ、」 人の少ない裏通り。 街灯の少ない、 古い路地。 「つれていって…。」 手を繋いで、 歩き歌う私に。 ナツさんはただ。 微笑むだけだけど。 それでもすごく。 嬉しい。 マンションが見えて来た時。 私は歌うのをやめた。 カツ、カツ、カツと。 ミュールを響かせて。 小柄な女性。 こちらに近付いて来る。 「…サキ。」 誰が教えたんだ?と、 ナツさん。 「え、誰?」 その女性は。 私達の前で止まり。 「随分毛色が変わった子、連れてるんですね。」 向き合ったその人は。 夏だというのに、 肌が真っ白で。 ナツさんが外人さんみたいに、彫りの深い顔なら。 その人はいわゆる、 日本美人。 「なんでここに?」 ナツさんは。 冷たい口調で。 「別にいいでしょう。」 その人も冷たく放った後に。私を見た。 う。 うわわわわ。 綺麗だけど、 怖い…(涙) 「この子?ナツさんに好きな子が出来たって…聞いたけど。」 「そうだよ。」 「……ふ。」 鼻で笑われた(涙) 繋いでいた、ナツさんの手に力を込めた。 「カズ、行こう。」 その人から。 離れようとすると。 「鍵、返して下さい。」 その人の声が。 静かな通りに響く。 鍵? ナツさんは止まって。 「郵送する。」 背中合わせの会話。 私は思わず、 振り向いてしまった。 ………あ。 あれ。 その人は。 寂しい表情で。 私を見てた。 首元のシンプルなネックレスが、綺麗な顔を際立たせて。 「頑張ってね。」 え。 その人は。 回れ右をして。 去って行った。 …………。 涙? 一瞬見えた、ような。 「行こう。」 ナツさんは私の肩を抱いて。 マンションに入った。 エレベーターに乗り。 「………ごめん。」 見上げるとナツさんは。 バツの悪そうな顔で。 「ううん…。」 大丈夫。 大丈夫、だけど。 「…………。」 なんとなく。 言葉を交しにくいまま。 部屋に入った。
「元カノ…ですか?」 部屋に入り。 リビングテーブルに。 キーケースを投げる、 ナツさんに聞いた。 「そんなんじゃ、ないよ。」 鍵を。 持っていたという事。 まだ返されてないという。 事実。 「鍵…。返して、ないんですか。」 ナツさんの隣に。 静かに座る。 「でももう、使わないし。」 飲み物入れよう、と。 ナツさんは立とうとしたので。 「待ってナツさん。」 「ん?」 立った姿勢のまま、 ナツさんは私を見下ろした。 「どこにあるの?鍵。」 「確か車の中に…。」 あるよ、と。 「返して来て下さい。」 え?とナツさんの、 驚いた瞳。 「いいよ。後から送る。」 断られた事が。 少し嫌な気分を産んだ。 「…………。」 いや。 なんとなく。 それじゃ、いやなの。 「でもあの人、もう終電間に合わないよ?」 都内の人なら。 ここからじゃ、 遠すぎる。 「…タクシーがあるよ。」 「……でも。」 うつ向いた私に。 ナツさんはしゃがんで。 「カズ。もう過去の事だし。」 ね?と肩を、 両手で撫でられて。 「じゃあどうして、まだ鍵を持ってるんですか。」 「…………。」 「返さない理由が、あるんじゃ?」 あの人は。 なんとなく。 “慣れてる”風だった。 ナツさんに。 彼女が出来た、 という事実に対しても。 「返す理由が、今までなかっただけだよ。」 真剣な目。 どういう意味? 「お願い。行って。」 「…………。」 ナツさんは。 何かを考えるように。 うつ向いた後。 「信じては、くれないの?」 また顔を上げて。 そう言った。 信じたい。 信じたいよ、ナツさん。 でも。 「…まだ無理です。」 正直な気持ちだった。 「わかった。すぐ戻る。」 うつ向いていた私の額に。 一回キスをして。 ナツさんは早足で。 部屋を出て行った。 バタンと閉まる音─ 「…………。」 バカ。 私……。 あれじゃただの、 ワガママじゃない…。 ソファにバタンと。 横になった。 行かせて良かったの? 本当に彼女じゃない? 考えたくない。 疑う気持ちが。 私の中に充満した。
何かを欲しいと思う事は。 ここ何年もなかった。 大抵の物は、 手に入れて来たから。 人も然り。 良い女だと思ったら。 自分の手の内に入れた。 事業も同じ。 お金も同じ。 全て同じ。 「…サキ!!」 鎌倉駅のロータリー。タクシーに乗り込む瞬間を抑える事が出来た。 「………。」 何で此処にあなたが? とでも言いそうな顔。 確かに。 私は絶対に。 人を追い掛けたりしない。 「ビーサンで走るナツさんなんておよそ見たくないんだけど。」 息を切らせる私に。 呆れたようにサキは、 溜め息を着いた。 「これ。」 握り締めていた鍵を。 サキの手を取り、 掌に滑り込ませた。 「……。」 サキは掌を広げて、 小さく微笑んだ後。 それを握った。 「今まで返す機会がなかった。ごめん。」 「一服付き合って下さい。」 サキはロータリーの端にあった、バス停のベンチを指差した。 「…わかった。」 早く帰りたいけど、仕方がないか。 静かなロータリー。 二人でくゆらせる、 煙がやけに目立つ。 「…皮肉ですね。」 フッとサキは。 一つ笑って。 「……何が?」 「結局ナツさん…。してやられたんでしょ?」 「………。」 「リョウに。」 「……まぁね。」 トントン、と。 ベンチの端で、 灰を落とす。 「かつての部下がね…。」 「仕方なかった。それにもういい。」 こう思えるのに。 結構な葛藤があったけど。 中目黒、 そして恵比寿。 私の経営していた二つのレストランバーは。同じ人間に買収された。 かつて私の下にいた人間。 「やり返さないの?」 フフとサキは。 面白い、とでも、 言いたそうな。 「しない。鎌倉があればいい。」 「ふーん。そう。」 つまんないの、と。 一つ呟いて。 「私には足りない物があった。だからリョウに負けたんだよ。」 絶対に気付かなかった。 多分失わなければ。 「何?お金?」 「違うね。」 「じゃ、何?」 「横の繋がり、縦の繋がり。人と繋がってなければ経営は出来ない。」 「ふーん。」 「それにリョウのバックには…。」 「え?」 「ん。いや…。ふふ。」 敵うはずがなかった。 リョウの上には。 彩子がいるんだから。
タバコは徐々に。 短くなって。 履いていたサンダルの裏に、押し付けた後に。 バス停に設置されていた缶詰の灰皿に捨てた。 「売って正解だったんだ。どうせ長くは持たないと思ってた。」 だからリョウに対して。 そこまで悪くは思えない。 プライドはあったけれど。 「ナツさんの失敗…か。全然想像つかないけど。」 「リョウが建て直すよ。」 心配ない。 あの子は優秀過ぎる位。 一県に一人位のね。 「全部置いて来たんでしょ?」 もう噂になってるわ、と。 ブルガリのブレスレットが小さく揺れた。 「ん。置いて来たよ。」 「もったいない…。」 マセラティ売ってくれれば、と。サキは小さく笑った。 「ここには必要ない。」 静かな街並みや。 自然と、 歴史と、 海がある。 「あの子だけで充分って訳ね。」 かっこいい〜、と。 ふざけた口調で。 「それだけじゃない。」 「え?」 「家族もいる。」 うるさい親父がね。 「え、本当に?」 「ん。」 「知らなかった。」 「誰も知らないよ。」 店の人間だって、 知ってるのはカズだけだし。 思えば父さんは。 やけにカズの事を、 気に入っている気がするな。 父娘そろって…。 「ナツさんがそんな顔するの、おかしい。」 「ん?あ……。」 顔が緩んでたか。 「信じられない。」 「ん?」 「全てを手にしてたのに。」 「………。ふ。」 「気付くと鎌倉で、ジーンズとヨレヨレのシャツで、ビーサン履いて、」 「ふふ。」 「女の子とバケツ片手に歩いてるなんて…。」 わからない、と。 サキは夜空を見上げた。 「確かに…。」 すごい変化かな。 「あの子が知ったらひっくり返るんじゃない?ナツさんのワルっぷり。」 「ん…。かな。」 「金、女、酒、ドラッグ、なんでもござれの越後屋だったのに。」 そんなイメージか。 ま、仕方ない。 「わからないなぁ……。」 私にはわかる。 色んな物を失って。 もうここしかないと、 思った時。 …あの子が作ってくれた。 あの時私は。 本当の自分の居場所を確認出来た気がして。 嬉しかった。 純粋に嬉しかったんだよ。
もうそろそろ、と思い。 腰を上げた時。 「何であの子な訳?」 めちゃめちゃ普通じゃない?と、皮肉たっぷりな口調。 「……んー。」 思わずまた腰掛けた。 「遊びじゃなさそうなのが、また意外だし。」 「遊びじゃない。」 あの子は違う。 「帝王ナツさんも遂に落ち着いた訳?」 「落ち着いてないよ。」 「え?」 「不安で仕方がない。いつかこの子も…離れて行くのかな、と思うとね。」 「……それがめちゃめちゃ意外。なんだけど。」 何か聞きたくない、と。 サキは耳を抑えた。 「かもね。」 「ふふ。」 サキは抑えた耳から、 手を離した。 「飽きるんじゃないの〜。」 どうせ、と。 サキはカマをかけるように。 「飽きない。」 「あらあら。」 飽きる訳がない。 だって。 ハンバーグは好きなんだよ。 「明るいんだよ。あの子。」 「……確かに、おめでたそうな子だったわね。」 「ん。それがいい。」 カズは。 一人のくせに。 欲しい物なんてまるでない、 みたいな。 嘘臭い人生観。 すれてない目。 私は何処に置いて来たのだろう。 「………意外。すっっごい意外。」 「娘みたいなもんだよ。」 「それって…。」 何か違くない? とサキ。 「違う?」 「恋愛対象じゃないって事じゃない?」 「それはわからない。」 「え?」 「そもそも恋愛って物に対して現実味を感じない。」 「傷付くわ……。」 「失礼。」 「ま、幸せに。また戻って来そうな感じしますけど。」 東京に、と。 言いながら、 サキは立ち上がった。 「……戻らないよ。」 もう戻らない。 私の場所は。 ここだと決めた。 「そんな優しい目で見ないでくれる?」 「……失礼。」 「そんなナツさんは見たくない。じゃね。」 ずっと待たせていたタクシーに、素早く乗り込んで。 振り返る事なく、 サキは去って行った。 見上げると。 うっすらと。 夜空の所々、 雲が見える。 変わった、か。 確かに。 早く帰らなきゃ。 あの子が待ってる。 カズは泣き虫だから。 走って帰ろう。
「ただいま。」 「23、24…あ、おかえり、なさい。」 びっくりした。 こんなに早く…。 ナツさんは30分位で、 戻って来た。 「カズ。何…してるの?」 フローリングに。 座っていた私を。 不思議そうに見下ろした。 「え?あ…腹筋してました。」 見付かっちゃった(涙) 「腹筋?こんな夜中に…。」 「邪念を取り払いたい時やるんです。」 「………。」 「自分の中で、やだなって思う気持ちが産まれた時に。」 やきもちとか。 疑いとか。 「結構スッキリするんですよ。」 私が笑うと。 ナツさんはキーをソファに投げて。私の隣にしゃがんだ。 「腹筋…ね。」 手を伸ばして。 私の頬に触れた。 私は思わず、 うつ向くと。 「また泣かせた。」 涙の跡は。 消えてなかったのかな。 たどるように、 長い指が触れる。 「あくびしすぎたからです。」 多分、と。 ナツさんの手を。 払おうとすると。 「…………。」 その手を掴まれて。 見るとナツさんは。 私の目を覗き込んだ。 「…ダメ。」 「え?」 何が? 「もう離さないって決めた。」 ナツさんの手に力が籠る。 「………。」 不思議だなと思った。 「カズ?」 「……。」 涙は何故か。 同じ通り道を辿るんだもん。 「おいで。」 抱き寄せられて、ナツさんの肩に私の頭が乗るように。 ナツさんのシャツが少し汗ばんでいたから。 その時やっと。 急いで帰って来てくれた事に気付いて。 「だって…絶対……っ。」 「……ん?」 絶対。 「帰って来ないと思ったんだもん!」 「……ごめん。」 よしよし、と。 背中を撫でられて。 私は子どもみたいに。 声を上げて泣いた。 本当は大人っぽく、 行きたかったのにな。 「…ふぇ。……ううっ。」 「………。」 「………っ!」 少し強引にキスをされたから、 私も少し乱暴に。 ナツさんの頭を抱えて。 涙まみれのまま唇を交した。 私の意識は、そこまでで。 眠ってしまったと気付いたのは、 次の日の朝だった。
翌朝─ んー。む……。 今日は涼し…。 ん? うちのベッドって…。 こんなひろ、 あれ!? 目を開けた。 白い天井。 寝室のブラインドから。 差し込む、 夏の日差し。 新築独特の匂い。 「あ、そっか…。」 ナツさん家だった。 広いベッドに一人。 ナツさんはいない。 ベッドから降りると、 フローリングがひんやりして。 クーラーが効いていた事に気付いた。 リモコンを探してオフにして、リビングルームへと。 広いシンプルなリビングに立つと、ナツさんの気配はなかった。 出かけたのかな。 キョロキョロと見渡すと。 リビングテーブルの上に。 メモ書きがあった。 それを手に取る。 “一時位には戻るよ。冷蔵庫に、朝食が入ってるから。” 二行だけの文章。 それを持って、 冷蔵庫を開ける。 「わ♪♪」 美味しそうなマンゴーが、二つに割られて、ラップしてあった。 ちょこんとスプーンも。 その上に。 「わーい♪」 両手でそれを持って。 リビングへと座る。 美味しい〜☆ パクパクと。 口を動かしていると。 あれ、そういえば。 今何時なんだろ(汗) 部屋を見渡すと、 時計がまだ無い事に気付いて。 外を見ると、 もう陽が高かった。 お昼は過ぎて…るのかな。 あ、そうだ。 テレビ付ければ…、 リモコンを探して。 電源を入れる。 ブン、と大画面に。 わあっ!大きい…。 初めて見る42型。 改めて。 「映画館みたい…。」 感動していた(涙) すると─ 「ただいま…。あっ!」 玄関から声。 の後にパタパタと。 何かが床を駆ける音。 帰って来たのかな? リビングを歩いて、 扉に向かおうと…。 え? 見るとドアを。 何かがカリカリと。 下の方を掻いてる。 え。 え? 「わんぱくめ…。」 ナツさんの声。 私はドアを開けると、 「…………あ。」 ぬいぐるみがちょこんと、 そこにお座りして。 黒い毛と。 クリクリした瞳。 太い足と。 合間に茶色い毛並。 「きゃあ!可愛い〜!!」 しゃがんで頭を撫でると。 「……ただいま。」 疲れた様子のナツさんが。 玄関にいた。
玄関から上がったナツさんは。 ヒョイと。 子犬を持ち上げて、 私の胸の辺りに。 抱かせてくれた。 もこもこ♪ 「可愛い〜!買ってきたの?」 ちょっと重いけど。 ハッハッと舌を出して。 大きな頭。 すんごい愛敬。 「ん。これで子犬だから。大きくなるよ。」 「なんていう犬ですか?」 「バーニーズマウンテンドッグ。」 ナツさんはそう言って微笑んだ後に。 「ゲージ車に取り行って来る。」 また部屋を出て行った。 「ふふっ。」 よしよし♪ ソファの上に降ろすと。 キョロキョロと頭を振って。ここはどこ?とばかり。 黒いクリクリした子犬らしい毛。の合間から。またクリクリした瞳が特徴的。 「可愛いーっ!」 メロメロ♪ すぐにナツさんは戻って来て。 リビングの窓際に、 ゲージをセットした。 さすがに大型犬用。 大きなゲージ。 「さて…と。」 「出来たみたいだよ〜。」 胸に抱いたその子を。 入れ…、 「カズ、入って。」 「はい?」 「いや、冗談。」 「………。」 言うと思った。 ごめんごめんとナツさんは笑いながら、その子を抱いて。 シートの上に乗せた。 「びっくりしましたよ。こんな可愛い子連れて来て。」 二人で覗き込む。 「ん。ずっと飼いたかった。」 ナツさんは、 子どもみたいな目で。 その子を見ていた。 「この子男の子ですか?」 下半身を覗き込むと。 「いや、女の子。」 「やっぱり。」 「何やっぱりって。」 「冗談です。」 私が笑うと。 「名前決めないと。」 見るとその子は。 クーラーの快適さを、 もう覚えたのか。 ちょっとうとうと…。 「ですね…。あ、寝そう(笑)」 「カズにしよう。」 「やめてください。」 「冗談だって。」 「ナツにします。」 「無理。」 「冗談ですって。」 「よく寝れた?」 見るとその子は。 むちむちした体を少し丸めて。 ふーと一息着いた。 「はい。昨日は…すみません。」 わがままだった、よね。 「私は眠れなかったよ。」 クアと一つ。 ナツさんは欠伸。 「え、なんで?」 「…………。」 教えてはくれなかった(笑) んも〜(照)
それから仕事に行くまでは。二人でゲージを囲んで。 「ゴン太!」 「メスだよ…カズ。」 「んーじゃあベス!」 「シンプル…却下。」 「ナツさんも考えてよー!!」 「んー。」 「ナイスな名前で♪」 「む…。」 「かつ可愛いやつで〜。」 「うーん。」 「みんなが呼び易いやつ…。」 「駄目、無理。」 思い付かない、と。 ナツさんは両手を上げて。 「んも〜。」 「時間だ。」 ナツさんは腕時計を見た。 「えっ!!今何時ですか!?」 「四時半。」 早いな、とナツさんは溜め息をついた。 「ちこくーっ!!」 マズイよー! バタバタと。 寝室に置いたバッグを、 取りに行こうと。 ナツさんも立ち上がって。 「急いで。タイムカード切れないよ。」 優雅なナツさんの一言…。 んもう(涙) 「ナツさんも早く入店して下さいよ〜!」 超特急で、 玄関に向かう。 「いいの、オーナーは。」 ミュールを引っかける私に。後ろから笑いながら。 …あ、そうだ。 やっぱりこういう時って…。 “行って来ます” かな? うきゃーっ! 照れるーっ!! 「すぐに行くよ。」 相変わらず、 テンパる私を。 なんのその。 ナツさんは私に近付いて。 私の腰の辺りに腕を回して。 わわわわ。 「行ってらっしゃい。」 頬に一回。 優しくキスされたもんだから。 さ、先に。 「言われちゃった、んもー…。」 悔しい(涙) ナツさんは“何?” と言いたそうで。 「何でもないですー。」 首に手を回して。 唇を開いて。 少し深くキスした。 「……ん、行ってきます。」 唇を離すと。 ナツさん…。 あ。 あれ? 少し驚いた様な目で。 長い睫毛をパチパチと。 「なんですか?」 私は手を緩めても。 ナツさんは腰に回した手を。 離してくれなかった。 「あ…いや、なんでも。」 ないよ、と。 少し慌てたように。 手を離した。 ふふ。 変なの…。 「行って来ます。」 改めてドアを開けながら言うと。 ナツさんはハラハラと。 何故か苦笑いで。 手を振ってくれた。 ものっすごいニヤニヤで。 和美の出勤(笑)
「何だカズ、締まりのない顔して。」 「ふぇ?あ…いえ。」 締まるはずがない。 何せさっきまで…。 ラブラブの大盛り♪ 大皿を抱えていた私に。 ヤスさんは呆れたように。 「またミソギするか?」 腕をモリっとさせたので。 「い、いいいらないです。」 キッチンにお皿を下げに走った。 ふふ♪ むふふふふ♪ あ、ダメ(笑) 笑っちゃう。 なんていうか? 「いらっしゃいませ〜♪」 声に色が付いて? 「ふんふんふーん♪」 思わず鼻唄とか? 自然に出ちゃうんだもん。 「おはようございます。」 ホールから聞こえる声。 あ、もしや。 急いで戻る。 夕陽に照らされたテラス。 その向こうに見える、 オレンジ色の空。 やっぱりきちんとした、 白のスーツ。 手にはノートPC。 やっぱり早く来てくれた♪ ホールの一人に。 何か指示してる…。 むふふふふ♪ あーダメ。 真剣な顔のナツさんに、 思わずまた顔が緩む。 ペチペチと頬を叩いて。 こちらに歩いて来るナツさんに。 「お疲れ様です。」 小さく頭を下げると。 「ん。」 いつも通りに…。 ──ポン。 え。 ちょっとした衝撃。 頭にそっと。 手が乗って。 振り返るとナツさんは。 いつも通りに店内へ。 あ。 んも〜(照) また私の顔が。 緩んだり。 マズイと思って絞めたり。 緩んだり絞めたり緩んだり絞めたり…。 なかなか。 これは慣れるまでに、 大変かもしれません。 とは言っても真夏の繁忙期。汗をかきかき。 動き回る私。 ナツさんもホールに立って。 満員御礼の店内で。 ずっと頭を下げて、 お客さんの要望や、料理の感想を聞いて回っていた。 このお店をもっと良くして行きたいっていう姿勢が。 私をもっと一生懸命にさせてくれる。 〜♪〜♪ あ。 レジの方向から。 電話の音。 誰もいない事に気付いて、急いでそれを取った。 「ありがとうございます。ブルーポイントです。」 「お世話になっております。マネージメントシステムの…、」 知らない会社だ。 「…スミ、と申しますが。」 知らない名前だった。
「オーナー。電話です。」 キッチンにいたナツさんの背中に声をかける。 「ん。わかった。」 「マネージメントシステムの…スミさん、とおっしゃってました。」 一瞬ナツさんの背中。 動きが止まったように見えた。 「ありがとう。これ、16番。」 料理が盛られたお皿を。 私の手に乗せて。 ナツさんはレジへと向かった。 ホールは数組の客で、 かなりざわついていたから。 電話を握るナツさんの声は、届くはずもなく。 でも。 ナツさんは何度か、 微笑んで。 頷いていた。 電話を終えたナツさんの。 シャツをチョイチョイと。 引っ張りながら。 「お客様ですか?」 それとなしに聞くと。 ナツさんは小さく、 苦笑いをした後に。 「私の店を買った人。」 なんのためらいもない、 声が聞こえて。 買った…、 え!? 「それってナツさん…。」 中目黒と、 恵比寿の人? 買収されたって、 聞いてた。 って事は、 あんまりよくない、 相手なんじゃ…。 「誕生日プレゼント送ったって。」 今夜届くらしい、と。 ナツさんは言いながらも、 何故か笑ってた。 「え?あ…、はい?」 全然意味が…わからない。 「何処に置くかな」 と。 ナツさんは混んだフロアを。 ぐるっと見渡した。 ??? 「後でわかるよ。」 私の頭を、 また優しく。 ポンと撫でた。 私は眉と眉の間を。 困らせて。 ?マークで一杯のまま。 仕事に向かった。 閉店後─ 「お疲れ様〜。」 みんなと裏へ下がろうとした時。 「カズ。」 テラスから店内に、 入るナツさんに呼ばれた。 「はい?」 ちょっと体を寄せて。 ナツさんを見上げると。 「今日遅くなる。先帰ってて。」 私を見下ろしながら言った。 「は〜い。」 ちょっと私が頬を膨らますと。 「ごめん、犬お願い。」 「あ、ですね。」 そうだ〜。 あの子一人っきりだし。 「名前決めた?」 「決めてない…。」 そうじゃん(涙) 「決めないとね。」 ナツさんは微笑んだ。 オーナーなんだけど。 恋人なんだよね。 なんていうか、 こういうコソコソ話。 結構好きかも(笑)
暗いナツさんのマンション。 「ただいま…。」 ガチャ、とドアを開けながら。 あ、 そだ。 ただいまって(笑) なんかなんだか。 照れちゃうけど。 むふふふふ♪ って笑ってる場合じゃなくて。 「ワンちゃん〜。」 サンダルを脱いで、 リビングに入って。 電気を着けると。 窓際で丸まっていた、 彼女が。 「………クア。ウ。」 明かりに気付いて、 駆け寄る私に。 「………ハウ。」 アクビをしながら、 濡れた瞳で。 うんと体を伸ばして。 短いシッポを揺らせた。 「ごめんね〜ごめんね〜。」 可愛すぎて泣きそう(涙) 抱き上げると。 ふにふにのお腹が。 クルクル、と。 「お腹減ったかな。」 ナツさんが出かけに、 用意してくれていたのか。 子犬用のドッグフードが。 キッチンにあった。 「ふがふがふが。」 うーん。 さすがの食いっぷり(笑) 背中を撫でながら。 「名前何がいいかな?」 いつまでも名無しじゃ。 可哀想だもんね。 食べ終えると、 その場にお座りして。 耳の裏をカシカシと。 短い足でかいて。 「可愛い名前がいいね♪」 頭を撫でると。 おすわりしたまま。 ジッと私を見上げた。 可愛い♪ おとなしいなぁ…。 「今日ナツさん遅いんだってー。」 寂しいね(涙) 見るとその子は。 左右をゆっくり見た後。 トテトテ、と。 フローリングの床を歩いて。 あらら。 どしたの? 私も後に続くと。 リビングのドアに両足をかけて。 「クー。」 と一回泣いた。 ………あら。 短いシッポをフリフリと。 「もしや…あなたも寂しい?」 抱き上げると。 ふーふーと。 鼻が鳴る音がした。 「行っちゃおっか♪お店♪」 どうせナツさんしか、 残ってないだろうし。 この子も随分のんびりしてるのか、全然暴れない。 「よーっし。レッツゴー!」 子犬を抱いて。 いざお店へ。 隠れて楽しい事しちゃ、 ダメなんだからね♪ ナツさん♪
パタパタと。 夜道を渡って。 海沿いの、 車道に出ると。 あ。 へ? なにあれ? お店に寄り添うように。 クレーン車が。 何かを吊り上げて、 テラスの方へ。 抱いていたワンコを。 思わず抱き直して。 テラスを上がると。 ナツさんがいた。 クレーンで上げられたそれを見ながら。 「そのまま、そこで。」 運送屋さんみたいな人に、 指示を出してた。 早足でナツさんの側に。 「ナツさん…。何あれ?」 見上げながら。 聞くと。 「ああ、カズ。」 お前さんもと、子犬の頭を撫でた。 「新しいテーブルか何か?」 ゆっくり降りてくる、 毛布にくるまれた。 かなり大きな…。 「違うよ。」 フッとナツさんは笑った瞬間、ドン、とテラスにそれが降りて。 大きな音に。 抱いていたワンコも。 びくっと反応した。 あ。 あーっ!! 下から見てたからわからなかった。 「ピアノ…。」 グランドピアノだった。 「ナイス、リョウ。」 ふふ、とナツさんは笑った。 リョウ? 「さっきの電話の人?」 「ん。商売敵からの誕生日プレゼント。」 ナツさんは。 作業に当たっていた人達に。 「そこから店内へ。」 グランドピアノを、 店内へ運ぶ用に指示した。 プレゼント、……って。 は。 は? はあーー!? セレブのプレゼント。 それにしては。 派手、過ぎ(汗) 作業を終えて。 店内は前もってナツさんが二席ほど減らしていたみたいで、 ピカピカのグランドピアノが…。 「すごーい!すごい!」 子犬をリードで繋いで。 ピアノに駆け寄ると。 「調律済みかな。」 ナツさんは扉を上げて、 ポーンと一つ鍵盤を。 叩く。 「本物だ…。」 響く、ソの音。 「調律済みだね。」 ナツさんは満足したように。 微笑んだ。 「まさか…ナツさん。」 いや、ナツさんなら。 全然ありえる。 「ん?」 「ナツさん弾ける…、」 とか、ですか。 あの。 「ん。たしなむ程度ね。」 微笑みながらグーパーと。 両手を上げる。 あの。 すんごい。 上手そうなんだけど(汗) (携帯)
続く 面白かったらクリックしてね♪ Back PC版|携帯版