| 2001年春―
「新刊の補充は?」
「完了しました」
「版元さんに注文FAX流してくれた?」
「三日前に」
「助かるよー、なっちゃん」
「とんでもないです」
「ふふふ…」
「にゃはは」
アキは私より2つ年上。
私と同じアルバイト社員で
短大を卒業してからフリーターとしてその店で働いていた。
「じゃあ…検品行ってくる。あとよろしくね、なっちゃん」
「ハイ♪」
私達は二人共アルバイトだったけれど。
上司である社員さんが休みがちな方で
こうして二人で売り場を回していたんだっけ。
結構…
忙しかったなあ。
大学はほとんど行かずにバイトしてた。
ただそれは苦ではなく
私が選んでやっていたこと。
あそこでの経験は
“仕事”というものにプライドを持つきっかけにもなった。
時給860円で
月に12〜3万は稼いでいたあの頃。
「仕事が好き」だけじゃ
あのハードワークは成立しなかった。
生々しい理由はただひとつ―
アキがいたから。
アキと一緒に働く時間は
私にとっては労働じゃなかった。
交わす言葉
近づく距離
知り合える感覚。
アキと私にある隙間を埋めたくて
私はがむしゃらに働いていたように思う。
私がアキを想い始めたのはいつだったんだろう?
記憶は曖昧だけれど
きっかけは確かにあった。
それまでただの先輩だったアキを
目で追うようになったあの春―
私には別に彼女がいた。
大学の同級生だった、ヨウコ。
ヨウコとは真剣に付き合っていて
微塵の狂いもなく愛し合っていた。
ただ。
その微塵の狂いのなさが互いを苦しめ、
愛をはき違えていた
「恋愛末期」
“別れ”という言葉しか
私とヨウコには残されていなかったはずなのに。
互いにそれを切り出せない弱さ
失うことへの恐れ。
会えばケンカ
電話でもケンカ。
ベッドでは涙で涙を洗うような末期症状。
ヨウコとそんな関係を続ける中
私はアキに惹かれ始めたんだった。
(携帯)
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