| 「私と付き合って欲しい」
その言葉はアキには言わなかった。
でも
「私だけのものになって」
今ならとても言えないような
そんなセリフを伝えたかな。
同性と付き合うのは
アキは勿論初めてだったから―
迷いもあったらしい。
でも私が一日や二日
短いスパンでその距離を少し遠ざけると。
「なっちゃん…」
アキもまた
私の存在を求めてきた。
アキは失恋で痛手を負っていたというタイミング―
偶然ではあったけれど。
私はそこに入り込む形になった。
でも
何でもよかったんだ。
きっかけや理由なんて。
アキが
「これから私は…なっちゃんだけのものだよ」
そう電話で言ってくれた夜―
嬉しくて眠れなかったよ。
次の日には―
冷めた顔してヨウコに別れを告げたんだっけ。
「別れてきたよ」
アキに意気揚々と言った私は
完全に馬鹿だった。
アキは少し
悲しい顔をしていたね。
アキと付き合い初めて―
私達が幸せだった頃の記憶は
あまりない。
なぜだろう
二人が幸せだった頃の客観的な事実は覚えているけれど。
リアルな感情の記憶は
悲しいものが多い。
でもそうだな…
付き合い始めた春から夏にかけての私達の風景―
そこには確かに
笑顔があったよね。
大阪城公園に花見に行った4月
動物園でパンダを見た5月
レゴの展示会ではしゃいだ6月
同じ携帯に機種変した7月。
………。
でもやっぱりね
アキ。
私にとって一番印象的なのは
痛い記憶なんだ。
覚えてるかな?
あの日のこと。
私が幼い自分を痛感した
あの日のこと。
(携帯)
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