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■12814 / inTopicNo.1)  BLUE AGE─U
  
□投稿者/ 秋 一般♪(6回)-(2005/09/12(Mon) 15:58:19)
    ─青。


    それは可能性。
    それは未知なる広がり。


    深みを増して、
    けれどなお澄み渡る。





    透明な時代も、

    残りわずか──







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■12898 / inTopicNo.2)  秋さ〜ん!(>▽<)
□投稿者/ よー 一般♪(1回)-(2005/09/14(Wed) 00:13:15)
    1番げっと(笑)
    blue ageずっと更新待ってましたよ☆
    読みきりの方も読ませてもらいました。
    続き楽しみです!

    上手な感想文句を持ってないから上手く言えませんが、んも〜、すごく面白いです!
    更新いつまでも待ち続けるので、頑張ってください♪


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■12903 / inTopicNo.3)  よーさんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(34回)-(2005/09/14(Wed) 01:15:31)
    私の気紛れな更新を待つと言ってくださって、とても嬉しいです。
    のんびりしたペースで書いてはいますが、そろそろ終わりも見えてきました。一年越しでしっかり完結させたいと思っているので、最後までお付き合いくださいm(__)m
    ストレートな言葉は真摯に伝わります。ありがとうございました。


    (携帯)
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■13256 / inTopicNo.4)  NO TITLE
□投稿者/ hina 一般♪(1回)-(2005/10/09(Sun) 19:10:49)
    秋さん
    貴方の言葉はとても親しくまっすぐなのに読者と距離を置いてるように感じます
    私は貴方に近付きたい
    どうすればいいですか?
引用返信/返信 削除キー/
■13667 / inTopicNo.5)  hinaさんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(2回)-(2006/02/16(Thu) 15:28:01)
    「秋」はネットの中の存在であり、実際の私とは異なります。
    だからhinaさんにそう感じさせてしまったのも必然なのかもしれません。
    ですが、確かに私はここに居て、呼ばれればこうして応えます。
    それではだめでしょうか。


引用返信/返信 削除キー/
■13668 / inTopicNo.6)  ─restrict
□投稿者/ 秋 一般♪(3回)-(2006/02/16(Thu) 15:28:46)
    2006/02/16(Thu) 15:29:54 編集(投稿者)

    あ、まただ。

    彼女の姿が目に留まって、私は小さく息を吐き、そちらへと向かう。

    「こら、樋山。その制服の着崩し、何とかならない?」

    欠伸を噛み殺しながら教室へと入ってきたその人は、私をちらりと一瞥してもう一度大きく欠伸をした。

    「もう、ほんとにだらしないなぁ。ネクタイちゃんと締めて。上履きだって履き潰しちゃってるんだから。せめてシャツのボタンくらいきちんと留めなさい」
    いつも注意してるでしょ?と、彼女のシャツに指を伸ばして外れたボタンに手を掛けた。

    「はいはい、ごめんなさい」
    されるがままの樋山は大して反省を感じさせない口調で頭を下げる。

    「風紀委員長様の手を煩わせてほんとにすみませんねー」
    委員長自ら勧告してくれて感激ですよ、言いながら欠伸を一つ。

    「…服装ごときで毎回毎回目くじら立ててうるさいやつだなぁって?」

    かちんときた私は、ボタンを留め終えた胸元をとんと押して精一杯の嫌味を言ってみる。
    樋山はというと、あははと邪気なく笑い、
    「そこまで言ってないじゃーん。やだなぁ委員長」
    愛想の良い目元をふにゃりと緩めた。

    「委員長に構われるの嫌いじゃないし、あたしがだらしないから注意してくれんでしょ?」

    樋山は眼前で恭しく手を合わせて「感謝してます」と、私を拝んだ。


    …ずるいなぁ、この子は。
    こうやっていつも樋山のペースだ。
    邪気をすっかり抜かれた私はただ苦く笑むしかない。
    はぁ、と。
    溜め息を吐いた時。


    「──…でもね」

    拝む顔を上げた樋山は─

    「窮屈なのは嫌いなんだ」

    自身の首元から一気にボタンをひとつふたつと外した。
    うっすらと、白い肌と鎖骨が覗く。

    「締め付けられるのは苦しいでしょ」

    樋山は愛想良く垂れる瞳を鋭く光らせ、にっと笑った。


    それで私は、いつも何も言えなくなる。
    ふにゃふにゃと愛想の良い樋山の瞳は、とても優しく、そして時々冷たい。





    委員会が長引くのはよくある事。
    今日も風紀委員会は、生徒達の風紀の乱れについての議論で大盛り上がりだった。
    話し合いを終え、書類を仕上げた頃には会議室には既に私一人。
    この分では校内の生徒もほとんど下校しているだろう。
    薄暗い廊下を歩きながらそう思ってみる。
    まだ夕方だというのに、外はすっかり夜の気配。
    冬の空だな、と。
    窓から差す月の光を頼りに廊下を歩いた。
    見慣れた自分の教室の前を通り過ぎようとして、その足を止める。
    目を凝らして見てみると、窓際の席に突っ伏している人影が月明かりに浮かんでいた。

    ゆっくり近付く。
    寝息を立てるその人の肩にそっと触れて。

    「樋山」

    名を呼んだ。

    珍しく樋山は、一度声を掛けただけでもそもそと身を起こした。
    「ほら、起きて。帰ろ?もう暗いよ」
    「んー…」
    目を擦りながら立ち上がる樋山。
    やっぱり制服を着崩している。
    「起こしてくれてありがとね」
    樋山はふにゃりと笑うと、くるりと背を向けて出口へと歩き出した。

    束縛が苦手な樋山。
    窮屈なのが嫌いな樋山。
    それが何だ。
    知った事か。
    私は風紀委員長の使命を全うするのみ。

    悪戯心が芽生えた私は前を歩く彼女を追い掛け、その背中に思い切り抱きついた。
    首に腕を回し、きつくきつく締め付ける。

    「縛られるの、嫌いでしょ?」

    耳元で甘く甘く囁いてやった。

    さぞかし驚いている事だろうと口元が綻びそうになるのを堪え、冗談だよと回した腕を緩めようとすると─



    「こんな枷なら悪くはないね」



    優しい声が私に届いた。


    振り払われると思っていた腕には、意外にも彼女自身の手が添えられて。
    戸惑う私は、重なった肌から伝わる熱に浮かされ、樋山の肩に顔を押し付けるしかなかった。
    くっくっと喉を鳴らす樋山が憎らしい。
    きっとその目はいつものように愛想良く垂れているに違いないから。




    縛りが解けるその前に、
    この火照りを冷まさなければ。



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■13669 / inTopicNo.7)  ─fallin'
□投稿者/ 秋 一般♪(4回)-(2006/02/16(Thu) 15:32:01)
    「あんたの話にはいつもオチがない」

    さもつまらなそうに、目の前のカナコは言った。

    「だらだらだらだら喋った揚句、で?続きは?それで終わり?なんじゃそりゃぁぁ!」

    一人憤慨しているカナコを余所に、あたしはまた何を話そうかとのらりくらり考え始める。
    「ねぇカナコ」
    話し始めようと声を掛けると、カナコはキッとあたしを睨み、
    「つまんない話したら怒るからねっ」
    オチをつけろオチを、と。
    もう怒っているじゃないかと思わずそう言いたくなるような口調でまくし立てるから。
    あたしは開いた口を再びつぐんで、うーんと腕を組んで頭を捻った。
    そして、椅子に腰掛ける彼女の隣に屈んで、

    「あ」

    視線の少し上を指差した。

    カナコはあたしの声に釣られて顔を上げ、指先の方向をじっと見る。

    「何?何にもないじゃ──…」

    カナコの言葉を待たぬまま、あたしは空を仰いだ恰好の彼女の唇をそっと塞いだ。
    ゆっくり、顔を離す。

    「どう?話にオチついてた?」

    にやりと笑うあたしに、

    「…わたしが落ちたわ、アホ」

    カナコは俯きがちにぼそぼそと漏らした。


    その呟きを聞き逃してはあげないあたしは、にやっと口の端を持ち上げ。

    顔を必死に隠そうとするカナコの顎に手を添えて。

    わずかに上を向かせた彼女の額に、もう一度、キスを落とすのだ。



引用返信/返信 削除キー/
■13670 / inTopicNo.8)  ─不器用な子供たち。《side A 》
□投稿者/ 秋 一般♪(5回)-(2006/02/16(Thu) 15:34:46)
    冬の寒さが体の芯まで堪える、一月も半ば。
    この日。
    授業中だというのに慌てた様子の担任が教室に飛び込んできて、笹木を廊下へと手招いた。
    そっと、担任は笹木に耳打ちする。
    その瞬間─笹木の顔が青冷めて、普段の彼女らしからぬ足音を立てながら廊下を駆けて行った。
    そんな様子を、私達クラスメートはきょとんとした顔をして見送っていたんだ。
    すぐさまそのざわめきは授業の担当教師によって静められてしまったけれど。
    …数学なんかよりも。
    あんな悲痛な表情をした笹木の方が、よっぽど気掛かりだった。
    結局笹木は、荷物もそのままに教室へは戻って来なかったから。



    その日の放課後、寮に帰ってからようやく事の真相を知る。
    どうやら笹木の祖母が倒れたらしい。
    急を要する為、笹木は学校まで迎えに来た両親の車に乗り込み、そのまま祖母の元へ向かったと言う。
    だからしばらく寮には戻って来ない、そう寮監の先生に聞かされた。
    その間の代打寮長を、私と川瀬で代わる代わる引き受ける事になって。
    夜の見廻りをしながら、おばあちゃん子の笹木の事だ、容態が落ち着くまでは学校休むだろうな、大した事ないといいんだけど、そんな事を考えた。
    夜の廊下を一人歩く笹木は、いつも何を想っただろう。

    ─その日の深夜、笹木の祖母は息を引き取った。



    告別式や心身を立て直すのに費やしているのだろう、笹木が休み続けて十日が過ぎようとしていた。
    彼女の居ない教室はどことなくぎこちなくて。
    笹木の笑顔がここの空気を緩和していたのだと、改めて気付かされた。
    「笹木大丈夫かなー。もう一週間以上経つし」
    昼食用のメロンパンをかじりながら皐月が言った。
    「向こうから連絡ないからさ、こっちからもメールしづらいじゃん?」
    ねぇ?そう言う皐月に、パックのレモンティーを啜って私も頷いた。
    どうしてるのかなぁ、陽子や弥生も心配そうに口にする。
    川瀬だけは何を考えているのかわからないいつもの仏頂面で黙々と弁当を頬張っていたので、私は横目でじろりと睨み、ふんと鼻を鳴らした。
    …本当に、笹木はどうしているのだろう。
    レモンティーをまた一口、ずずっと啜る。
    椅子の背にもたれ、うーんと大きく伸びをしてみた。
    と─

    「皆、久し振り」

    頭上から降り注ぐ柔らかな、声。
    その姿を確認しようと、がばっと振り返った。

    「笹木っ!」

    皆が一斉に振り返る。
    ふわふわと微笑む笹木がそこに居た。
    「十日くらい顔を見てないだけなのに、すごく懐かしい気持ちになるね」
    そう言ってまた微笑む。
    急速に、場が和む。
    もう平気なの?落ち着いた?
    そう口々に話し掛けるクラスメートに、笑って応えている。
    程なくして、私達の元へ寄ってきた。
    「笹木。もう…大丈夫?」
    恐る恐る尋ねる陽子に、
    「…ん。無事にお葬式は済んだし。それにね、おばあちゃん、最期は眠るように逝ったの。私がいつまでも悲しんでたら心配されちゃうでしょう?」
    そう言って笑う。
    「でも今こっちに戻ってきたんでしょ?今日くらい休んで、部屋でのんびりしてれば良かったのに」
    そう言う皐月にも、
    「んー…午後の授業には間に合いそうだったからそのまま来ちゃった」
    笑って返した。
    そしてこちらに目を向けると、
    「茜と川瀬が点呼やってくれてたんだって?ありがとう」
    ふわっと笑む。
    「今日から寮に帰るから、ちゃんと私が仕事するね」
    また、笑う。
    いつもの笹木の笑み─…じゃない。

    笹木はいつも、涙を見せない。
    振る舞うのは笑顔だけ。

    だけどそんな痛々しいあんたを、私は見てられないよ。

    何も言わない私の顔を、どうしたの?怪訝そうに覗き込む笹木。
    「…無理しなくていいよ」
    私はぽつりと呟いた。
    虚を突かれたのか一瞬笹木はきょとんとして、すぐさま体勢を立て直した。
    また、ふふっと苦笑する。
    「茜?何言ってるの?」
    そんなに無理矢理笑わなくていいのに。
    私は自身の腑甲斐なさに、奥歯をぎりっと噛み締めた。

    笹木の家は両親共働きで、朝も晩もあまり笹木と顔を合わす事はなかった。
    聞き分けの良い子供だった笹木は、それに対して何の文句も言わなかった。
    代わりに、近くに住む祖母が、笹木の面倒を見てくれていたから。笹木のおばあちゃん。言わば、育ての親だったんだ。
    いつも近くに居てくれたから、幼い笹木は寂しくなかった。
    支えだった、祖母は。
    その支えが折れてしまって、あんたがそんな風に笑っていられるはずがないだろう?

    「ばればれなんだよ」
    今度ははっきりと、強く告げた。
    「──…え?」
    笹木の目が思わずといった感じで、緩む。
    「高校からのあんたしか知らないけどね、そんなに浅い付き合いしてきたつもりはないよ」
    私は真っ直ぐに笹木を見つめる。
    「何で我慢しようとするんだ。無理しないでよ」
    せめて私達の前だけでは。
    そう続けようとした時、
    「無理なんか──…」
    口元に笑みを添えたまま、笹木の頬を涙が伝った。
    「…あれ?」
    自身の手の甲で頬を拭う笹木。
    「おかしいなぁ…何でだろ…?」
    自分でも戸惑っているのか、ごしごしと目元を擦るが、流れ始めた涙は止まらなかった。
    「───…っ」
    笹木から笑みが消え、彼女は声にならない嗚咽を漏らした。
    そして─
    「──ごめんっ…」
    一言呟き、教室を飛び出して行った。
    残された私達。
    陽子と弥生は事態が飲み込めずにぽかんとしていたが、慌てて笹木の後を追って教室から出て行った。
    皐月は事の成り行きを見届けるように、少しも動じずメロンパンをかじっていた。
    さて、と。
    彼女達では笹木の居場所を掴めないだろう。
    私はぼけっと突っ立っている川瀬のブレザーの襟をぐいっと掴んだ。
    背の高い彼女を、下から睨みつける。
    「何してんだよ。早く行け」
    川瀬は、はぁ?と私を上から見下ろした。

    本当に癪だ。
    何でこいつなんだ。
    …でも、仕方ないんだよなぁ。

    私は更に川瀬を睨みつけ、掴んだ胸倉を引き寄せた。
    「何でわかんないんだよ!ルームメイトだろ?!笹木だっていつも笑ってるわけじゃないんだっ。泣きたい時もあるんだよ!あんた、あいつの笑顔に救われてるくせに、その笹木を一人ぼっちで泣かせとく気っ?!」
    川瀬は、切れ長の瞳を微かに見開いた。
    「…部屋に籠もって啜り泣いてるよ、きっと。どうせあんた、授業なんか寝てんだから、出ても出なくても変わんないでしょ」
    言いながら、すっと川瀬のブレザーから手を離す。
    ぽん、と。
    小さく肩を押した。
    瞬間─
    「あたし、早退するから」
    言っといて、と。
    耳元に低い声が届いて、川瀬はゆっくりとその長い足を踏み出した。
    徐々に加速し、教室から駆け出していく。
    そして私は、大きく息を吐いた。
    自分から泣かせておいて…と、少し苦笑する。
    完全に教室のドアから消え去った川瀬の背中を見送り。
    口には出さないものの明らかに呆れ顔をしている皐月に気付かない振りをする。
    どうせいつものように「ばぁか」とでも言いたいんでしょう?
    何故自分で行かないのか、と。
    何故川瀬に行かせるのか、と。
    何が馬鹿なものか。
    今の笹木には川瀬だ。
    川瀬の方がいい。
    私ではなく。
    元気な時に更なる笑顔を振り撒くのが私なら、川瀬は笹木の微笑みを取り戻す。
    それを私は知っていた。
    こんなところで気が回る自分を少し恨めしく思いながら、けれど力不足は認めていたから。
    さぁ笑え。
    私がここまでお膳立てをしたんだ。
    次にあんたを見た時は、きっと笑顔でいるはずだよね?
    私も皆も、ここに居るから。

    だから、ねぇ…頼んだよ、川瀬。

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■13671 / inTopicNo.9)  ─不器用な子供たち。《side C 》
□投稿者/ 秋 一般♪(6回)-(2006/02/16(Thu) 15:35:54)
    完全に核心を突かれた。
    あ、と思った時にはもう遅かった。
    笑う事もできなくなった私は、逃げるようにしてその場から駆け出していた──



    久し振りに足を踏み入れた寮は、昼間という事もあって閑散としていて。
    久し振りに中を覗いた自分の部屋は、ルームメイトの性格そのものに生活感がまるでないさっぱりとしたもので。
    その相変わらずさにほっとしながらも、立ち尽くしたままの私は、止まらない涙を流し続けた。
    けれど、これも性格というものね。
    私は声を殺して泣く術しか知らない。
    ただ頭が痛くなるだけで、こうする事でどうやってすっきりさせるのかなんてわからなかった。
    だから笑っていた方が楽なのに、それでも私の意志とは無関係に涙は頬を伝うから。
    …私には、この止め方さえわからない。



    「結局学校休んじゃった…」
    何の為に教室まで行ったんだか、と苦い笑みが漏れる。
    あんな風に立ち去った後では、
    「今更戻れないよね…」
    思う事をぽつりと呟いてみたら、

    「いいんじゃないの、戻んなくて」

    低く響く声が私を包んだ。
    とっさにドアの方を振り返る。
    「いっつも生真面目すぎるってほど学校行ってんだ。こんな時ぐらい休めば」
    息を切らせたその人は後ろ手に部屋の扉を閉めて、ゆっくりとした足取りで窓際に立ち尽くす私の横に並ぶ。
    「川瀬…?何で……」
    私の問いを無視し、川瀬は呼吸を整えながら床にどかっと座り込んだ。
    彼女の制服のシャツから覗く細い首筋には、うっすらと汗が滲んでいる。
    「もしかして走ってきたの…?」
    小さく尋ねると、川瀬はわずかにむっとしてぷいっと顔を背けた。
    この仕草を、私は彼女との生活の中でわかりつつある。

    照れているんだ。

    そう思うと少しばかり可笑しくなって、そして何だか気が緩んだ。
    溜まっていた何かを吐き出すように、喉の奥から鳴咽が漏れる。
    それを必死に止めようと、私は口元に両手を添えて体を丸めるようにしゃがみ込んだ。
    押し殺そうとして、それでも声は、想いは、溢れ出ては止まってくれない。

    息が詰まる。
    喉が熱い。
    胸が灼けてしまいそう。

    身を強張らせて、縮こまって、口元を両手で覆って耐える私に、


    「我慢するな」


    そっぽを向いて隣に座る川瀬が口を開いた。

    「いいんだよ、我慢しなくて」

    顔を向こうに逸らしたまま、言う。
    ゆっくりとこちらを振り向いた川瀬は、私を見つめながら静かに手を伸ばした。
    そっと、彼女の冷たい手の平が私の頬に触れて。
    じわりじわりと目元が熱くなるのを感じながら、私は固く目を閉じた。
    頬を、一筋の熱さが伝う。
    その瞬間、川瀬が私の頭を引き寄せた。

    「全部、吐き出しな」

    手の平の冷たさと裏腹にふわりと包まれた川瀬の胸の温かさは、きっと彼女自身の優しさだったのだと思う。

    「もう、いいから」

    「───…っ」

    ぽん、と頭を撫でられた瞬間、頑なだった何かは緩やかに崩れた。
    うっ、と。鳴咽が漏れる。
    次第にそれは大きくなって。
    私の背中に回された川瀬の腕は優しい熱を帯びていた。

    「泣きたい時は泣けばいい」

    相変わらずの素っ気ない声で川瀬は言う。
    そして続けた。

    「皆あんたの笑顔が好きなんだ」

    腕に、わずかに力がこもる。

    「だけど辛そうに笑う姿だったら見たくない」

    低く響く、穏やかな川瀬の声。

    「だから泣く時は泣いて、そしてまた笑ってほしい」

    優しく、優しく。冷たいけれど暖かい川瀬の指先が私の髪を撫でて。

    「…もしも笹木が泣きたい時は、あんた一人じゃ泣かせないから」

    また笑えるようになるまでこうしているよ、小さく漏らした。


    川瀬の腕の中は心地が良くて。
    うっすらと香る川瀬の匂いが私の鼻先をくすぐる。


    ─私はきっと、此処でなら安心して泣けるみたい。


    川瀬の腕に包まれた私は、この日、初めて泣いた。
    彼女の胸に額を押し付けて、ブレザーの袖をぎゅっと握りしめて、声とも取れない声を上げて。

    その間中ずっと、川瀬は私を抱き締めてくれていた。





    この腕が欲しい、と。
    側に居てほしい、と。
    そう、強く思った。


引用返信/返信 削除キー/
■13672 / inTopicNo.10)  ─不器用な子供たち。《side S 》
□投稿者/ 秋 一般♪(7回)-(2006/02/16(Thu) 15:36:58)
    ─もしも笹木が泣きたい時は、あんた一人じゃ泣かせないから。


    小刻みに震える笹木の肩を抱きながら漏れた言葉は、多分、本心だったと思う。

    この日、あたしは初めて笹木の涙を目にした。
    いつもにこにこと穏やかに微笑んでいる笹木が、こんな風に声を上げて泣く姿を。





    腕の中の震えが、少しずつ、少しずつ、治まってゆく。
    まだわずかにしゃくり上げる笹木は、それでも呼吸を整えながら落ち着きを取り戻していた。
    あたしの胸に押し付けた顔を離し、俯きながら鼻を啜る。
    ゆっくりと顔を上げた笹木は涙で顔がぐちゃぐちゃだったけれど、確かに微笑んでいた。
    いつものように、微笑んでいた。

    「ありがと、川瀬」

    鼻声ではあっても、おっとりとしたいつもの口調。
    すん、と鼻をもう一度鳴らして、ふふっと笑う。
    真っ直ぐに向けられる笹木の瞳が恥ずかしくて、先程までの自分の言動が照れ臭くて、思わず顔を背けてしまいたくなった。
    だけど。
    傾きかけた顔を引き止めて、あたしも笹木を見つめ返した。
    きっと眉を寄せたしかめっ面なのだろうけれど、それでもあたしは精一杯に笑ってみせる。
    笹木のそれとは比べものにはならない、苦い、苦い、あたしの笑顔。
    そんなあたしに笹木は驚いたように目を見開いて、「今日は何だからしくないね」すぐにふわりと微笑んだ。

    またひとつ、涙がこぼれてしまったけれど。
    きっとそれは、悲しい雫じゃないはずだ。


    互いの体が離れた後も、あたし達は部屋の片隅で隣り合って座っていた。
    何も口にはせず、それぞれに違う方向を眺め、肩が触れ合いそうなわずかな距離を保ちながら。

    繋がれた手だけは、しっかりと結んで。





    薄情なあたしは、あんたの悲しみを背負って共に泣いてやる事は出来ないけれど。
    あんたの笑顔のお陰で、仏頂面のこのあたしにもぎこちない笑みが宿るようになった。
    だから今度はあたしが、あんたが声を上げて涙するのを受け止める場所で在りたいと。
    …いや。
    もっと単純な事だ。

    ただ笹木の側にいたい。独りで泣かせる事はしないよう、すぐ手が差し出せるような、そんなすぐ側に。
    そしてまた、笑ってくれたら。
    そう、強く思った。


引用返信/返信 削除キー/
■13673 / inTopicNo.11)  ─1%
□投稿者/ 秋 一般♪(8回)-(2006/02/16(Thu) 15:37:52)
    タッタッタッと、一定の足音を響かせて夕暮れのグラウンドを駆ける。
    肌を刺すような冷たい空気が、鼻を、喉を、刺激する。
    真っ直ぐに伸びた道を一気に駆け抜ける短距離走は勿論好きだけれど、より長く走っていられるという理由で、長距離走も好きだ。
    単純に、走るという行為が好きなのだと思う。
    だから時々、私はゴールを定めずにひたすら走り続ける。
    ただ黙々と。
    息が上がっても。
    次第に頭はぼんやりしてきて、けれど冴え渡ってくる。
    白く霞みがかっているようで、感覚は鋭くなるのだ。
    この矛盾に、私はひどく惹かれる。

    「茜っそろそろ上がるよ!」

    部長の声に、引き戻される。
    走っている最中の私の頭の中は空白だ。
    はーいと呼び掛けに答え、あと2周走り終えたらアップしよう、思い直して、緩めた足を再び動かす。

    ─せっかくイイ感じで入り込んでたのにな…。

    一度引き戻された意識を、再び集中へと導くのは容易ではない。
    そう思うと、さっきまでの高揚はどこへやら、頭の中が急速に冷えてきた。
    アップも兼ねて、先程よりもペースを落とす。
    グラウンドを見渡せば、陽はすっかり陰り、他の運動部は既に活動を終えたのか、人影もまばらだ。
    校門には続々と下校する生徒達。
    その姿が普段よりも多いので、疑問に思ったけれど。
    そう言えば笹木が、今日は各委員会の会議があると言っていた。
    道理でこの時間帯に部活者以外の人間の姿が多いわけだ。
    うんうんと一人納得しながら、最後の一周へと突入した。
    続々と下校する生徒を横目に、校門脇を通り過ぎる。
    ふと、目の端に捕らえてしまった何かがあって。
    それはいつもの私なら絶対に気にしていない、いや、気付かないもので。
    いくらスピードを上げても振り払う事は出来なくて。
    私の集中を奪った部長を少しだけ恨んだ。

    動悸に合わせて息を吸う。
    吐く。
    繰り返しては、繰り返す。
    それでも、集中の途切れた私の意識には様々なものが流れ込む。
    それを振り切ろうとすればする程、余計に強く考えてしまうから。
    浮かぶ顔は、なかなか消えてくれやしない。
    人間の思考というのは厄介なものだ、と。
    呼吸とは違う息をひとつ大きく吐いて、浮かんでくる思いに意識を委ねた。

    ─何とかの半分はやさしさでできている、とか何とか。
    よく耳にするような。笹木も、それと同じだ。
    ただ、笹木はすべてがやさしさでできている。
    半分なんてものじゃない。
    そんなんで疲れないの?ってくらいに。
    やさしい、やさしい、そんな人だ。
    けれど。
    100%やさしさ成分の笹木の99%は他者へのやさしさ。
    残りの1%は──ある一人の誰かの為に注がれる。
    笹木自身、気付いていないだろうけれど。
    当人でさえも。
    あらゆる人に平等なやさしさを振りまく笹木の、その1%の重みを、私は誰より知っていた。
    そしてもう、わかっている。
    わかっているんだ。
    思えばいつも。
    彼の人の視線の先はあいつで。
    優しさの行方も。
    悲しみの原因も。
    想いの向かう場所も。
    全部が──…あいつで。

    川瀬には笹木が必要なんだ。
    そして笹木もそれに応えようとしている。
    …いや、そんな川瀬の側に居たいと、力になりたいと、笹木は心の底から望んでいる。
    むしろ今の笹木の方が、川瀬を必要としているのかもしれない。

    私は自分がどうするべきかも、本当はとっくに気付いていた。

    先程のランニング途中、笹木と川瀬、校門を並んで出て行く二人を見て、チクリと痛んだ胸の傷みを、一生私は口にしない。
    一月の乾いた風が熱の冷めない私の心を突き抜けても。


    周回を2周走り終えても、私はひたすら走り続けた。
    余計な事を考えずに済むように、と。
    想いに霧がかかるまで。

引用返信/返信 削除キー/
■13674 / inTopicNo.12)  ─やさしいひと
□投稿者/ 秋 一般♪(9回)-(2006/02/16(Thu) 15:38:39)
    いつも皆を笑わせて。
    彼女の事も笑わせて。
    そんな素振りは決して見せない。
    気付かせない。
    その茜が─
    時折愛おしむように、慈しむように、彼女を見つめる眼差しが、あたしには堪らなく切ないんだ。
    そう──
    茜がそんな顔をするなんて、本当に誰も知らないけれど。





    今日もまた、いつものように茜と川瀬が悪態を吐き合っている。
    それを見て苦笑する笹木の姿。
    変わらない、普段通りの日常の風景。

    ──本当に?

    あの日の、あの後。
    笹木の背を追った川瀬。
    二人の間に何があったのかなんて知らない。
    けれど、そこに流れる空気の変化に気付かないほどあたしは鈍くはなくて。
    その事にはとっくに気付いているはずの茜も何も口にはしないから。
    正直なところ、あたしには何もわからない。
    茜の想いも。
    笹木の願いも。
    川瀬の気持ちも。
    何も、何も。
    だからこうして、振る舞われる日常を黙って見つめているしかないのだ。



    「もう、諦めた?」
    その日の放課後、体育館脇の水飲み場でひとり顔を洗っている部活中の茜を偶然見かけて。
    近寄ったあたしは、不躾な第一声を発した。
    顔を上げた茜は訝しげに眉をひそめる。
    「何、唐突に」
    首からかけたタオルで顔を拭きながら、言った。
    「気付いてるんでしょ?笹木と川瀬の事」
    あたしの言葉に、茜は少なからずむっとした。
    「何かあったな、って。気付いてるでしょ」
    構わずあたしは続ける。
    「何があったかなんて、私は知らないよ」
    「やっぱりね」
    そう呟くと、何が?と茜は睨んだ。
    「向こうは何も言わないし、こっちも何も聞かない。だから事実は知らない。でも何かあったかはわかってるんだ、茜は」
    そーゆー事でしょ?ふふんと笑ってみせると、茜は降参したように息を吐いた。
    「──…あの時川瀬を行かせた事、後悔してる?」
    静かに訊ねると、茜は苦笑しながら小さく首を横に振った。
    「私が行くのは無意味だったよ」
    「でも笹木と川瀬の空気が変わったのもあの日からじゃん」
    「…あの日がなくても、多分こうなってたよ」
    あれはただのきっかけだ、そう茜は苦く笑んだ。
    歯痒い。
    笹木と川瀬の関係に茜が無関係ならば、あたしなんてまるで関わりがないというのに、何でこうも歯痒いのだろう。
    「二人の関係に気付いて、諦めた?」
    ゆっくりと言葉にする。
    茜は少し考えるようにして首を傾げて。
    うーんと唸った後、ぱっと顔を上げた。
    「諦めたっていうより、わかっちゃったから」
    にっと笑う。
    わからないという顔をするあたしに気付いていないのか、「うん…わかっちゃったんだよな」独り言のように口の中で噛み締める茜。
    そしてあたしの顔を見た。
    「笹木はさ、分け隔てなく人に優しいじゃん?だから皆に必要とされる。それに笹木自身も応えようとする。それじゃ疲れちゃうよ。誰もに必要とされる人にだって、必要とされるだけじゃなくて、自分が必要とする人が居るはずじゃん」
    言っててよくわかんなくなっちゃった、茜は笑った。
    あたしは笑わずに、茜をじっと見つめた。
    「それが川瀬?」
    「…今までは、さ。川瀬が笹木を必要としてるんだと思ってた」
    濃い朱に染まる空を仰ぎ見て、白い息を吐き出すように茜はぽつりぽつりと言葉を吐き出した。
    「でも今は、笹木の方が川瀬を必要なんだ」
    多分、と。
    茜は独り言のように付け加え、うんと頷く。
    そして、あたしの顔を見て微笑んだ。
    「人の事ばっかりの笹木が初めて欲を出したんだよ。欲しい、必要だ、って。それが私には嬉しい」
    相手が誰であれね、冗談めかして笑う。

    その相手は茜だっていいじゃないか──

    …そんな事、あたしにはどうしたって言えるはずがなかった。
    彼女の答えは聞かずとも明らかだったから。

    「私は、さ。一番になりたいとか、そんなんじゃないんだ」
    ぽりぽりと頭を掻く茜。


    「笹木が川瀬の側に居たくても。この先他の誰かを好きになっても。結婚して子供を産んで家庭を作り上げても。私はいつも笹木の近くに居る。友達って立場で。ずっとずっと笹木の味方で居るんだ」


    そう言ってあたしに笑い掛けた茜は吹っ切れたような清々しい表情で。
    何だか無性に泣き出してしまいたくなったあたしは茜から顔を背け、
    「…つらくないの?」
    そんな馬鹿な質問を投げ掛けてしまった。
    ははっと苦笑する茜は、
    「つらくはないよ」
    優しい声でそう答え、

    「徹するって、決めたから」

    はっきりと、口にした。


    その言葉で、
    あたしは理解したんだ。

    茜は気持ちを昇華させてはいない。
    ただひたすら笹木の為に。
    ただひたすら笹木を想って。
    決して悟らせる事なく、一番近くで見守り続ける。

    切ないよ、茜。
    そんなのは、切なすぎる。

    あたしは涙をぐっと堪えて、瞼をぎゅっと強く瞑った。

    「茜はほんとにばかだ…」

    小さく言うと、

    「皐月には、何度ばかって言われただろうね」

    目を開いて眼前で見た茜は、やっぱり穏やかに笑っていた。
    何で泣くの、って呆れながら。





    どうしたってあたしは、茜に肩入れしてしまう。

    あたしを見ているようで──

    あたしを、
    見ているようで──?

    …いや、違う。
    茜はもう、自分の取るべき行動をすでに決めてしまっている。
    彼女の事だ、それこそその姿勢を頑として崩さないだろう。

    あたしは自分の姿を茜に投影していたけれど、あたしと茜は全然違う。
    笹木を想って告げない言葉を飲み込む茜。
    あたしが伝えないのは、いや、伝えられないのは─
    ただ、恐いだけだ。


    弥生の顔を思い浮かべて、きっとあたしは茜のようにはいかないだろうと思った。
    けれど今は、自身の想いの行方よりも、茜の為に流せる涙がある事を誇ろう。




    笹木を優しいという、そんな茜こそ優しいとあたしは思う。

引用返信/返信 削除キー/
■13675 / inTopicNo.13)  ─ただ素直に
□投稿者/ 秋 一般♪(10回)-(2006/02/16(Thu) 15:39:25)
    泣く必要なんてないんだよ、皐月。
    誰にも知られるはずがなかったこの想いを、皐月だけは見届けてくれたじゃないか。


    固く閉じた目の端からじわりじわりと涙を滲ませた皐月は、

    「茜はほんとにばかだ…」

    鼻を鳴らしてそう言ったので、私は思わず苦笑してしまった。

    ほんとにもう…

    「皐月には、何度ばかって言われただろうね」

    へらっと笑ってみせる。



    どうしてだろう。
    穏やかな気持ちばかりが広がっていくのは。



    何で泣くの、と苦笑しながら漏らすと、

    「茜が泣かないからじゃんかー…」

    皐月は情けなく呻いた。



    あぁ、そうか──…

    だからだ。



    制服の袖で目元をぐしぐしと乱暴に拭って、「見んな、ばか」と両手で顔を覆う皐月。

    私は堪えきれず、はははと声を上げて笑ってしまった。

    手の隙間からわずかに顔を覗かせた皐月がじろりと睨みつけていたけれど、それに構わず私は笑った。

    恨めしそうにこちらを見る皐月も、観念したのか、困ったような笑みを浮かべた。

    空は、どこかの誰かを切なくさせるような鮮やかな茜色が広がる、そんな冬の空だったけれど。
    それでも私達は笑っていたね。



    ありがとう、皐月。






    見返りは求めていない、なんて。
    嘘になるかもしれないけれど。
    私が好きならいい。
    私が笹木を好きだというその事実だけで、いい。
    ただそれだけ。

    ただ素直に好きと言う。
    言えなくとも、思っていれば。
    想いさえあれば。


    願わくば、
    君が笑顔でいる事を。


引用返信/返信 削除キー/
■13678 / inTopicNo.14)  秋さんだ!秋さんだ!!
□投稿者/ さぼ 一般♪(15回)-(2006/02/17(Fri) 01:29:54)
    初めまして!
    随分前から愛読させて頂いてたんですが、どうも偉大すぎて書き込めなかったヘタれです。

    やっぱ・・秋さんは凄いですね。
    文章にもすごい引き込まれてしまいます。

    青春だなぁ・・なんて思いながらも、ほんのりビター香るお話を
    これからも楽しみに待たせて頂きます。



    なんってクサい事言ってるんでしょうね!体中痒くなりました!!(笑
引用返信/返信 削除キー/
■13788 / inTopicNo.15)  さぼさんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(11回)-(2006/03/02(Thu) 02:19:27)
    偉大。
    何だか私には不似合いな気がして、有り難い半面、照れ臭い思いです。
    ありがとう。
    ただただこの一言に尽きます。
    嬉しい言葉をありがとう。
    返せる何かを持っていないので、感謝の気持ちをを文章に乗せて、それが少しでも足しになればと思います。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■13872 / inTopicNo.16)  ─shortcut
□投稿者/ 秋 一般♪(21回)-(2006/03/13(Mon) 15:34:08)
    ルームメイトが寝転ぶ床へと、あたしも静かに腰を下ろす。
    ベッドで寝たら?なんて、そんな野暮な事は言わない。
    代わりに彼女をクッションに、あたしも横になるだけだ。

    「重い」

    不平を漏らすその声はまったく苦しそうではないから、

    「重いってば」

    いたずらに腰へと腕を回して、背中に顔を押し付けて。
    まるで甘える子猫のよう。

    腹這いの彼女は身をよじり、あたしの髪をくしゃりと撫でる。

    「猫みたい」

    鼻にかかった声でそんな風にくすりと笑われたら、あぁ何だかくすぐったい。

    「相変わらず柔らかい髪ね」

    くしゃくしゃと弄ばれる髪。

    彼女はゆっくりと身を起こすと、あたしの頭をお腹で抱えるようにして抱いた。

    「いい匂い」

    ふわふわとしたあたしの髪に、鼻先を埋めて。

    「伸ばせばいいのに」

    きっと似合うわ、と。
    襟足のすっきりとしたあたしの首筋に滑らかな指を這わせた。

    ぞくぞくして、どきどきして。

    腰に回した手を淫らに動かしてみたら「くすぐったいって」笑う声がした。
    そのまま二人してじゃれ合って絡まって。
    なんてバカだろう。
    なんてバカなふたり。

    こんな風に抱き合って、穏やかな眠りについて、それならあたしはバカでいい。





    「いい加減にしなさいよ、あんた」
    彼女はしょっ中、ちゃらんぽらんなあたしに苛立ってそんな言葉を口にする。
    喧嘩して呆れられ。
    あなたに捨てられそうになったその時は、ご機嫌伺いにあなたがねだるようにこの髪を伸ばしてみようか。
    そうは思うのだが、そんな事しなくてもこの先ずっとあなたがあたしの側を離れないという自信があるので、あたしの髪は短いままだ。





    いつの間にか寝ていたようで、真冬だというのに床で重なるおバカがふたり。

    首筋がすーすーと寒い。

    独占欲の強いあなたが付けたあたしだけのシルシも、無神経なダレカに見られるのもいい加減癪だから。
    襟足だけでも、伸ばしてみようか。

    結局は、思うだけなのだけど。

    だってあなたが、
    「何で伸ばしてくれないのよ。髪の長いあんたも見たいのに」
    そう言いながらも満更ではないように笑うから。
    誇示欲の強いあたしは、首筋の赤いシルシを世間の皆さんに見せびらかす。
    あたしはあの人の唯一人なのよ!って。


    だからあたしの髪はベリーベリーショートカット。



引用返信/返信 削除キー/
■14962 / inTopicNo.17)  ─内の鬼
□投稿者/ 秋 一般♪(2回)-(2006/06/12(Mon) 14:39:58)
    ─泣いちゃいな。

    意地っ張りで泣き虫な私に、望はいつも、「早く泣いちゃいなよ」そう言いながら頭を撫でて、私の泣く場所になってくれた。





    「豆炒ってきたよー」
    大声を上げながら部屋へと入ってきた望は、香ばしい匂いの漂う大きな深皿を手にしていた。
    中を覗くと炒られた大豆がぎっしり入っている。
    「どうしたの、これ」
    まだ湯気を立てているそれを指差して問う。
    「さっき調理場借りて氷野ちゃん達と炒ったんだ」
    答えながら望は、炒りたて大豆って美味しそうな匂いだよね、にいっと笑った。
    つられて笑いそうになりながら、
    「そうじゃなくて、何で豆?」
    質問の仕方を変えてみた。
    「あー気付いてないんだ。梢、今日は何日?」
    逆に問われて。
    「二月…三日?」
    思い出しながら答える。
    それが何?と言おうとして。
    「…あ!節分か!」
    ようやく思い至った。
    「正解〜」
    望はぱちぱちと手を叩いた。
    「ほら、氷野ちゃんてこーゆーイベント事好きじゃん。有志でお金出し合って大豆大量に買ってきてさ、食堂のおばちゃんも協力してくれた」
    たくさん炒って各部屋に配ったわけよ、にししと望は歯を見せて笑った。
    「さぁさぁ食べよう。せっかくだから炒りたて熱々の内に召し上がれ」
    私に皿を渡して促す。
    いただきまーすと豆に手を伸ばす望を見て、
    「撒かないの?」
    節分の豆なんでしょ?
    そんな目を向ける。
    望は口いっぱいに豆を頬張って、
    「そんな事したら掃除大変じゃん。それにもったいない!」
    ぽりぽりと音を立てた。
    あまりのらしさについ笑ってしまう。
    「望はほんと、色気より食い気だねー」
    私も皿に手を伸ばした。

    ぽり、固い音。

    「そんな事ないよー」
    望もまた豆を摘んだ。

    ぽりぽり、かりっ、砕く音が響く。

    そんなにがっついてよく言うよ、笑ってやろうとして。

    「あたしさー、彼氏出来てさー」

    噛むのも忘れて飲み込んで、危うく喉に詰まるかと思った。

    「つい最近の事だから梢に言い損ねてたけど」
    にひっと笑う。
    「これからどんどん色気出していくよー」
    おどける望に、思わずわしっと掴んだ豆を投げつけてしまった。
    「わっ!いきなり何?!」
    驚く望。
    「ちょっと待った待った!」
    望は狭い部屋の中を逃げ、私は彼女を追い掛け豆をぶつけ続けた。

    二人してどたばたと走り回って数分間─
    ぜいぜいと激しく息切れしながら床にへたれ込む。
    「何なのよ、もー」
    あたしは鬼かい?、からから笑う望を見て、私は「う゛ー…」と低く唸った。
    「…どしたの?」
    おどけたような表情をやめ、優しい顔をしながら望は私の側に寄る。
    じっと確かめるように私の顔を覗き込んで、
    「泣いちゃいな」
    私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
    「早く泣いちゃいなよ」
    ね?、笑いながら静かに髪を撫でる。
    私はまた「…うー」と、声にならない呻きを上げて、ゆっくりと泣き出した。
    「望のばかー…」
    「さっきから何なのあんたは。小憎らしいっ」
    望はおどけるような調子で笑って、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫で回した。






    あなたに泣かされた場合は、どうしたらいいのだろう。



    鬼は外。

    福は内。

    鬼は外、鬼は外、鬼は外───……

    あなたも私の内から出てってしまえ。




引用返信/返信 削除キー/
■14963 / inTopicNo.18)  ─びたぁべぃびぃ
□投稿者/ 秋 一般♪(3回)-(2006/06/12(Mon) 14:41:08)
    私の恋人はかわいくない。


    「ばか」だの「へたれ」だの、口悪く罵る事は日常茶飯事。

    休日だからどこか出掛けようかと誘えば、
    「めんどくさい」
    と一刀両断。

    それでもようやく外に出て「昼に何食べたい?」と聞くと、
    「肉」
    なんとまぁ漢らしいこの一言。


    今日も今日とて日曜日だというのに寮に閉じこもってごろごろしている。
    私はというと、彼女の「ポッキー食べたい」という要望に応えて二月のくそ寒い気候の中、自転車でコンビニまでひとっ走りしてきたところだ。
    肩で息をする私に、労うでもなくコンビニ袋だけ引ったくってまたベッドに戻っていく彼女。
    これじゃあ単なるパシリだ。
    私も大概甘いのかもしれないが、これはいけないんじゃなかろうか。
    ここはびしっと、ね。
    積極的にというか、リードしていくというか。
    私がしっかり手綱を握って主導権を得るべきでないかい?
    なぁ、私。

    胸中で自問自答し、よし!と、気合を入れた。

    ベッドに近付き、仰向けの恰好で読書をする彼女の本を静かに奪う。
    そしてゆっくりと跨がって、彼女を自分の下に組敷いた。

    じっと、私を真っ直ぐに見つめる彼女。
    「本、読んでんだけど」
    その鋭い瞳に耐えきれず、視線を逸らし、
    「…ごめんなさい」
    思わず謝ってしまった。

    あぁ、もう私の負けです…。

    すごすごと彼女から離れてベッドを降りる。
    背を向けて体育座りをして、はぁぁぁ、大きな溜め息を吐いた。
    なんて情けなく格好悪い私。
    そんな私に更なる追い撃ちをかけるように、背中越しに罵声を浴びせる彼女。

    「ばーか」
    …はい。

    「へたれ」
    ごもっとも…。

    「何であそこまでやって手ぇ出せないかなー」
    仰しゃる通りです…。

    「あたしはいつまで待てばいいんだか」
    まさにそう……───って、えぇぇぇぇ!?


    ベッドの方を振り返ると、彼女は拗ねたように唇を尖らせ、私の視線に気が付くとぷいっと顔を背けてしまった。

    「いくじなし」

    そしてわずかに耳を紅潮させて、いつもの罵声を吐いたのだ。





    私の恋人はかわいくないけど、かわいい。



引用返信/返信 削除キー/
■14964 / inTopicNo.19)  ─きゃらめるはにぃ
□投稿者/ 秋 一般♪(4回)-(2006/06/12(Mon) 14:42:10)
    あたしのパシリは。
    あぁ間違えた、恋人は。
    『へたれ』
    表現するのに一言で済んでしまう。





    ─優しいっていうより、甘ちゃんなのよね。

    今日もあたしのわがままでこの冷え冷えする寒さの中をポテチを求めてパシリ中。
    十数分で帰ってきて「はい」と袋を手渡される。
    身を切るような寒さだったんだろう、頬も耳も、手の甲まで真っ赤だった。

    ─嫌なら嫌って、文句の一つでも言えばいいのに。

    彼女をじっと見つめると、「?」きょとんとした顔をしてへらっと笑った。
    あたしはすっと手を伸ばし、指先で彼女の鼻をぎゅっと摘む。
    「あだっ!何すんの!」
    思わずのけ反った彼女をちらりと見て、
    「間抜け面」
    一言吐き捨て、ポテチ片手にあたしはベッドに潜った。



    彼女の優しさに、時々ひどくイライラさせられる。
    そんな事を思うあたしは、きっとどうしようもなく性格が悪いのだろう。





    学校から寮へ帰宅するとちょうど大粒の雨が降ってきたところだった。
    濡れずに済んで助かった、ほっと胸を撫で下ろす。
    雨足はどんどん強まり、夕食を終えた頃には暴風雨になっていた。


    「雨、強いね」
    自室で数学の宿題に取り組んでいると、隣の机でも同じように英語のプリントと格闘している彼女が口を開いた。
    カーテンを閉じていてもわかる、窓越しに打ちつける激しい雨。
    「小腹空いたな」
    ぽつりと言ってみる。
    「おにぎり食べたい」
    ちらりと彼女を見ると、「この雨の中を?」と言いたげに眉根を寄せた。
    じっと、見つめる。
    彼女は小さく息を吐いてから、立ち上がった。
    「行ってくる」
    言いながらクローゼットからコートを取り出そうとするので、あたしは彼女の背中に向かってノートを投げつけてしまった。

    自分で言い出したくせに、とか。
    勝手なのは十分わかっている。
    けれど腹が立って仕方がない。

    「痛いなぁ、もう。何すんの」
    彼女は振り返って顔をしかめた。
    ノートを拾って、あたしの元へやってくる。
    「おにぎりいらないの?」
    「いる」
    「じゃあ買ってくるから」
    「いらない」
    「お腹空いたんでしょ?」
    「行かなくていいってば!」
    「…どうしたの」
    彼女は困ったように笑いながら恐る恐るあたしに触れた。
    そして髪を撫でる。
    「わがままに手を焼いてる?」
    視線を向けると、
    「いつもの事でしょ」
    目尻を下げてふにゃっと笑った。


    …………もうっ。


    「あんたはねぇ!あんたは───っ」
    優しすぎる。
    あたしのすべてを許してしまう。
    苛立ちも不安も焦りも怒りも。そんなすべてを吸収してしまう、スポンジのような人。

    目の前の彼女は続く言葉を待っているのか、「何?」と小首を傾げた。
    「…お人好し」
    「え?」
    「はっきり言っちゃえばバカよ、バカ。そんなんじゃいつか騙されて痛い目見るんだから」
    そんな可愛くない言葉しか口に出来ないあたしに、やっぱり彼女はへらへらと柔らかい笑みを向けていた。
    手厳しいな、なんて。
    ちょっと困り顔で。



    甘い。
    甘い、この人は。
    とろけるように。

    ばかで、へたれで、けれど甘ったるいキャラメルのような常習性─

    あぁ、
    胸焼けしてしまいそう。



引用返信/返信 削除キー/
■14965 / inTopicNo.20)  ─秘め事
□投稿者/ 秋 一般♪(5回)-(2006/06/12(Mon) 14:42:59)
    深夜─
    寮の門限はとっくに過ぎている。
    注意深く裏門から入り込み、角部屋の真横に佇む銀杏の木をよじ登って二階の窓をとんとんと叩いた。
    一瞬間の静寂の後、カラカラと乾いた音を立てて窓が開かれる。
    あたしは素早くそこから体を滑り込ませた。


    「今日はいつもより早いのね」
    静かに窓を閉めてカーテンを引いたルームメイトは、制服を脱ぎ捨てるあたしに近寄りながら言った。
    「それでも門限は過ぎてるでしょ」
    部屋着に着替えながらあたしも答える。
    「ちゃんと誤魔化しておいたから」
    彼女はあたしを引き寄せ、背中から抱き締めた。
    「それはどーも」
    襟足に顔を埋められ、首筋に舌が這う。
    かかる吐息がくすぐったくて、思わず身をよじった。
    体を離した彼女はあたしを向き合わせ、そしてゆっくりと唇を寄せた。

    ─いつもの、儀式だ。





    口止めだと、ルームメイトは言った。

    寮生活の窮屈さにうんざりなあたしは毎晩毎晩夜遊びをする。
    元々男友達の方が多いのだ、女子高の空気は息苦しい事他ならない。
    外には彼氏だっているし、抜け出して遊ぶスリルにはぞくぞくする。

    持ち掛けてきたのは彼女の方だ。
    自分もグルになって見回りが来てもあたしがいない事を誤魔化してやる、と。

    バレても構わない、そうも思ったけれど。
    あまりに寮の規則に違反すると退寮、下手したら退学になりかねない。

    「それじゃせっかくだからお願いしようかな」
    あたしは言った。
    「それじゃこれは口止めよ」
    彼女は言った。


    そして彼女は夜が来る度あたしに触れて、キスをする。
    秘密の夜の共犯者だ。





    「体、冷たい」
    抱き締める腕を緩めて、彼女はあたしを見た。
    「あぁ…今夜は特に寒かったから」
    そんな事より、とあたしは彼女を促す。
    「今日は何もしないの?」
    ほら、顎を軽く上げて唇を突き出してみせる。
    彼女は少し考え込んであたしの腕を掴んだ。
    「……?なに?」
    彼女は何も答えない。
    代わりにあたしをベッドまで引っ張った。
    どさり、静かに押し倒される。

    ─嫌?

    確かめるような、請うような、そんな瞳をしていた。

    今まで彼女があたしにする行為は拙い口付け、それだけ。
    初めて彼女が、あたしを求めた。

    あたしは小さく、首を横に振った。






    二人とも寝入ってしまったらしく、目を覚ますとカーテンの隙間からは薄い光が差していた。
    剥き出しになった肩が冷えて身震いする。
    布団を寄せて潜り込むと隣で眠るルームメイトがもぞもぞと動いた。
    「起こしちゃった?」
    声を掛けるとこちらを振り返り、
    「眠れなかったわよ」
    薄く笑った。

    そしてごろんと仰向けになる。
    しばらく天井をじっと見つめていた彼女はぽつりと呟いた。


    「私、女の子しか好きになれないの」

    「ふうん」

    「…気持ち悪くない?」

    「別に」

    本当に、そう思った。



    最初から嫌悪感はなかった。
    不思議なほど素直に、受け入れていた。
    口止めだなんて、口実だったのかもしれない。
    そうでもなかったら、キスなんて、ましてや身を委ねるだなんて、さすがのあたしでもしない。






    「今日も遅いの?」
    出掛け間際に掛かる声に、
    「うん、だからいつも通りよろしく」
    ひらひらと手を振る。
    わかった、そう言うように彼女はこくりと頷いた。






    彼女とあたしの秘め事は夜毎募り、あたしだけの秘め事は今日も彼女は知らぬまま。



    唇からの微毒は、少しずつあたしを蝕んでゆく─



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