| その週の金曜日、わたしは仕事を定時に切り上げて、大急ぎで大掃除をした。
今まで何度もはるかがうちに来たことはあったけれど。
今日、旅行前に呼んだのは、もちろん目的があって。
簡単に言えば、我慢できなかったのだ。
彼女を一刻も早くこの腕で抱きしめたかった。
彼女の意外と薄くて細い腰に腕を回し、顎を捕らえて、
彼女の唇を、きゅっと上がったきれいな口角を、わたしの唇で、舌でなぞりたかった。
彼女の感じる声を、吐息を、この耳で聴きたかった。
はるかが仕事をいつも通り終えて、一旦着替えに、そして荷物を取りに帰り、
うちにたどり着いたのは、既に土曜日になっていた。
家を出るまで、あと6時間、出国まであと9時間。
時間はまだたっぷりあった。
わたしの体はただひたすらに、彼女を求めていた。
「おじゃましまーす」
そう言って荷物を持ってはるかはいつもと変わらぬ素振りでうちに上がった。
羽織っているコートの下はジーンズにブーツというカジュアルな出で立ちだ。
足、とくに腿がもともと細い上、足が長いからそういう格好はよく似合っていた。
しかしはるかは、表情から察するにかなり疲れ切っているようだった。
精一杯見せてくれる笑顔にも、明らかに無理しているのが現れていた。
今週末に仕事出勤にならないよう、必死で仕事を終わらせたと言っていたから
それが影響しているのだろう。
「いらっしゃい。お仕事、大丈夫だった?」
「なんとかね。…早く、夏子に会いたかったからさ。頑張れたよ」
そう言って、へへへ、と笑うはるかの笑顔とその言葉にやられて。
まずわたしは、真っ先に彼女にキスをした。
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