ビアンエッセイ♪

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■13774 / inTopicNo.1)  ミュルティコロール 【18】 青のダルシー:優しい舌。-A
  
□投稿者/ 果歩 一般♪(2回)-(2006/02/28(Tue) 21:39:02)
    雨の中を走ると、自分が小型のクジラになったみたい。

    雨の日の運転は、四角いクジラになったみたい。


    「ここ曲がってからは?」

    「まっすぐよ」


    見慣れた道だったので、オッケイです。と返事した。

    泣いた後の顔は、パリパリして気持ち悪い。

    あたしは、そういうのを無償に思って言った。

    「洗顔したい。ものすっごく洗顔したいかも」

    ハツエさんが気味悪そうに言う。

    「誰もシイナのグチャグチャした顔なんて見ないからいいわよ」

    「ひっどいなぁ」
    「そこ右。」

    「え?ここ右なの?」
    「そうよ」


    あたしの友達の店がある近くだった。

    ヒキチは生きてるかな。

    店の前を通り過ぎそうなので、見えるかもしれないと思った。
    もうシノさんは、おなかが膨れているかもしれない。

    と、あたしは懐かしくてその店の一部が見えた時、じんわりと思う。

    「そこの緑色のとこね。教えてもらったお店なの。」
    「え!?ここ?」

    そうよ。と、ハツエさんが言う。

    「ここあたしの友達の店」と教えた。

    「え?そうなの?」


    やたらとイライラするのは、車を止める場所がものすっごくクランクなことだ。

    「駱駝よ?」
    「うん、ラクダ」

    「友達って?」
    「普通に友達」

    「何だそうなの?」
    「うん、あ、でもあたしはね、男も平気」

    「何いってるのよ・・」
    「え!?そういうことじゃないの?」

    「まあいいけど」


    「ちょっと・・・」

    「なに。」



    エンジンを止めてから、2秒、シーンとして、あたしとハツエさんは見詰め合ってしまった。


    あ、そうなの?ねえそうなの?ちょっと!ちょっと!という感じで、見詰め合って、途端に爆笑する。


    「何だそうだったの?ねえ!ちょっと!」

    「えー何ーもー」


    お互い同じ世界にいたことを、突然知ると、こんなに嬉しいものだと思う。

    そういうの、ちょっと、当然じゃなくて必然でもなくて、特殊になっちゃう、外の世界。

    あたしはいつもそこで吐いてる。




    「何だバカみたい」と、ハツエさんはクックックと歯を合わせたまま笑って、あたしの少し前までの時間と言葉と心の様子なんかをを振り返っているに違いない。


    「バカって」

    「バカ」


    両足を揃えて車から伸ばして降りたハツエは、あたしの肩でも叩く代わりのように、ドアをバタンと閉めてみた。


    「そうねーシイナは男より女って感じだものねー」と、店のドアに手をかけてハツエさんが笑った。

    「あたしをレッサーパンダみたいに扱わないでよ」と、あたしもニヤニヤして言い返した。



    女好きだと白状すると、みんな残らずあたしを檻の中に入れて眺めようとするんだから。

    そういうの、慣れたけど、かゆい。


    それよりもっとかゆいのが、面白がるより、納得されることだった。


    シイナなら、そういうのありかも。シイナなら、おかしくないかも。


    あたしなら、女を好きになっても、おかしくないってさ。



    納得されることの、気持ち悪さは、痛みでも悲しみでもない、無駄な、かゆみ。



    「そんな可愛い生き物じゃないから安心しなさいよね。」と、ハツエさんがチリリンとドアを開けた。すると。妊娠した人がいた。


    「シイナ!」


    店内は夕方を越えて、集まった人間でぎっしり賑わってた。

    あたし達と全く同じ色ではなくって、もちろん男、もちろん女。


    「ねえシイナが来た!」と、ヒキチ奥さんのシノさんが騒ぐ。

    少しだけあたしをジロジロと見る数人が居て、でも平気だった。


    ハツエさんが口を開いた。


    「こんばんは、早利の電話で一度お話させて貰ったんですけど。」



    「あ・・・」と、ヒキチの奥さんが口を丸く丸く、丸くして、「あ。」と言う。


    「一度来てみたくて、突然だけどよかったかしら」と、ハツエさんが丁寧に挨拶をしていた。


    「ああ!サリーの!」と、シノさんはまたうるさい。そして可愛い。でも。



    早利?


    サリー?



    あたしはカウンターに座って、奥で鍋を振り回しているヒキチを探した。



    ハツエさんは、微かにホっとして、あたしの隣に座る。だけどあたしはちゃんと気付いてあげていた。

    そのホっとするのを、気付いてあげていた。



    「お昼に来てました」と、花の匂いのするお茶を出してくれながら、奥さんがハツエさんに言った。


    「え?そうだったんですか・・」と、ハツエさんの少しビックリしたようなガッカリしたような顔が市子に見える。


    あたしは手元のお茶を顔に近づけた。

    温かい匂いが顔に触れて、優しい舌で舐められてるみたい。
    市子がよく、ふざけてあたしの顔をそうしてたように。


    「夜も来るって感じもしてたけど、あ!」

    「え?あの人そう言ってたんですか?」

    「一緒に連れてくるって言ってた人ってあなたのことじゃな・・」「え?聞いてないかもしれない」


    奥さんは、「あ、何だか、やっちゃった」という顔で言うのを止めた。

    ハツエさんはニッコリしている。


    要するに、ハツエさんの恋人だか何だかが、ここに昼間きていて、夜も誰かと同伴で来るって。

    そういうことだったかな。


    でもハツエさんじゃないって。 なんか面倒なヤツだよね。

    でもあたしも大概、面倒なヤツなので、そんなこと思ったって、そこだけ口にしない。


    「ええと、仕事関係の人だったりするかも」と、奥さんが意味の分からない言い訳してる。

    「いいの。慣れてるから」と、ニッコリとハツエさんは笑って言った。


    大人だ、と思う。


    別の女とどうにかしてる恋人を、どうにか出来る女って、多分ハツエさんのことだと思う。

    市子は、あたしをどうにか出来てた。

    あたしも市子をどうにか出来てた。

    なのに、どうにか出来なくて、どうにもならないことになると、呆気なく終ったの。



    市子はどうしてるんだろう。

    さっき泣いて飛ばしたものが、実はまだ残ってる感じがした。



引用返信/返信 削除キー/
■13775 / inTopicNo.2)   ミュルティコロール 【19】 青のダルシー:冷えた魚-B
□投稿者/ 果歩 一般♪(3回)-(2006/02/28(Tue) 21:44:51)
    「何ぼーっとしてるのよ。」と、お茶を啜ってハツエさんが言った。

    「別に。」と、タバコを口にあてる。そうでもしないと、さっきの続きでもしたい気になりそうだった。


    奥さんが料理を運びながら、忙しそうにしているので、あたしはタバコの火を消すと、椅子から降りてカウンターの中に入った。


    ヒキチが鬼のような顔で、鍋を振り回してる。

    あたしに気付いて、いよぅ。と目で頷き、出来上がった料理の皿をあたしが手にしても気にしない。


    「あー 久し振りに来たんだから座っててー」と、奥さん。


    あたしは知らん顔で伝票を眺めて、奥のテーブルに運んだ。

    ハツエさんはそれを満足そうに眺めて、目の前のピンクのラクダの人形を弄ったりしてる。


    あたしは再びカウンターに入って、そして皿を手にして、また運んで。


    「あと何?」とヒキチに聞くと


    「酒」とヒキチ。



    あたしは注文の酒を作って、ついでにハツエさんにも作って、運んだ。


    ハツエさんに酒を渡すと、ありがと。と言われた。どういたしまして。


    「お手伝い上手ね。」と、ハツエさんが母親のような口調でいった。

    「前も時々手伝ってたの。」と、あたしはそれに照れそうになるのを気付かれないように、冷めた声で言う。

    「ほんと、優しいの。シイナは。」と、奥さんが丁寧に言った。






    −シーちゃんは優しい。






    そんなことないよ。って、もう言い返したくない。



    あたしも自分が大概優しかったことに、今ふっと気付いた。



    「よく働くし。」と、ハツエさんが言う。

    「同じ職場なの?」と奥さんが言ったので、「そう。」とあたしは返事した。



    椅子に座りなおして、ヒキチが揚げる魚の匂いを嗅ぎ取ろうと、カウンターの向こうに鼻を突き向ける。


    「そうだったのねー。仕事してるシイナなんて想像つかないけど」と、奥さんは腰をトントンと叩きながら笑った。


    おなかに赤ちゃんがいると、腰に負担かかるんだね。



    「とても真面目。時々不真面目。」と、お酒を舐めながらハツエさんが言う。「けっこういいもの作るのよ。」


    「私も作ってもらったんですよー」と、奥さん。


    「あ、そうなんだ。」

    「うん、白で、スリットの入った・・・あれなんていうのかな・・・」

    「あ、それ見たことあるかも」と、ハツエさんが思い出して言う。



    あたしの作りたい花嫁衣裳は、どれも毎回最高に頑張るけど。



    市子の花嫁衣裳はとうとう、頑張れなかった。





    というのも思い浮かばないくらいのあたしになりたい。





    ヒキチが皿を差し出す。


    カラっと揚った魚に、野菜の甘酢あんかけが一杯。

    パシリと割り箸の音がして、ハツエさんはもう食べてた。
    あたしは大きく息をして、美味しいご馳走の匂いを嗅いだ。

    それを見てヒキチが、犬だなっていう目で軽蔑する。
    あたしを愛しく軽蔑する。

    優しくバカにするのっていうのは、在り得ると思った。


    あたしは自分を一番優しくバカにしたいし、して欲しい。

    市子とはそういう関係で、お互いの真実を誤魔化してたのにね。



    「サリーと一緒に住んでるの?」と、奥さんが聞いた。

    「ううん、今は違うの。」と、ハツエ。


    ホっとしてるあたしは、あたしが憎らしい。
    ハツエさんに男だか女だか恋人がいたって何だ。


    思わずご飯を口に詰め込んだ。



    「まだあのマンションに住んでるのかな」と、奥さんが言う。


    「行李坂を登ったところ。」
    「ああ、じゃあまだ同じマンションにいるのね」

    ヒキチがあたしの膨らんだほっぺたを、調理場から、何やってんだお前。と見ていた。

    妬いてる。多分ね。




    「あの人そんなに前からあそこに?」

    「うん。もう長いと思う。」

    この魚、何だろう。すっごく美味しくて、懐かしい。

    ハツエさんは、自分の知らない、恋人の昔を楽しもうとしている。

    「冷めちゃいますよ?」と言っても、うんうんと言うだけだ。


    「じゃあ尚更離れるのは難しいのかしら。」と、ハツエさんが呟いた。

    「そうねー。でもその方がいいのね。」

    「うん。」


    あたしは冷えた魚ほど、遊びで寝た女の子に似てるものはないと今気付いた。

    早く服を着ちゃってよ。と、あたしは思った時がある。


    「冷めちゃうよー」と、あたしは二度目を言った。


    「でも遠いね。」と、奥さん。


    ハツエさんは苦笑いして、漸く箸で魚をほじいた。


    「遠いって?」と、あたしは聞いた。



    一口を食べて、ニコニコしながらハツエさんが美味しいーと言う。




    「ねえ遠いって?」あたしは二度聞く。



    いつの間にかお客の数が減っていて、緩やかな店内の空気。


    あたしは市子を捨てた時程に似たものを感じた。




    ハツエさんが言った。


    「2人で一緒に行こうって約束した場所があるのよ」


    「旅行するの?」

    「ううん」と、ハツエさんが言った。


    「引越しですかー。」と、あたしはご飯をモグモグとする。


    「そうよー。」と、ハツエさんは魚を丁寧に食べてる。


    市子との違いは、不器用と丁寧と、歳。




    未来の市子がハツエさんだったらいいのに。




    「あたしんちと近くなる?」と、ヒキチに空の皿を渡した。ごつい手で、まるまる男に見える。


    「ううん。遠くなるわね。」

    「えー。」




    奥さんがレジを打ちに行った。




    ガシャーンという懐かしい古音。






    と、同時に、ドアが開いて。






    「あ、サリー」と、奥さん。


    ハツエさんが振り向く。


    あたしも振り向いて。そして。



    あ。



    カバンの女。
引用返信/返信 削除キー/
■13776 / inTopicNo.3)  ミュルティコロール 【20】 イエロー:許す言葉
□投稿者/ 果歩 一般♪(4回)-(2006/02/28(Tue) 21:53:14)
    走り去る先生の車から、振り向いて見せたアサコは普通のアサコだった。


    今甦って思うと、あれが一番本当のアサコだったのかもしれない。




    「どうしたの?」と、私は近寄って聞いた。


    作家の先生と話をしていて、しかめ面をしていたアサコは、それでも私の方を向いて笑顔だ。


    「何でもないの。」と、それだけいうと、私の手をとって「早くドレス見に行こうよ」と言う。



    う、うん。


    電話を思い出した。




    「ねえドレス作ってる子を紹介してくれるんだって」

    「デザイナーか何かなの?ややこしくない?」

    「ううん、そんなに大きな感じじゃないの」


    ふーん。と、アサコは建物の駐車場から出ると、タクシーを拾った。

    乗り込んでから、私が行き先を告げる。



    「ご飯食べながら話すけどいい?」

    「そういえばおなか空いちゃった」



    私はクスクスと笑った。



    と、その時。





    少しだけ目を閉じる。


    ああこんな時に。




    こんな時に。





    「どうしたの?」と、アサコが気付いた。



    「ちょっと、眠くなったの」と、説明する。


    「そういえばジュンコさん、今日は控え室にいなかったよね。」


    「うん」

    「私のこと見ててくれたの?」と、アサコがニコリとして腕に腕を絡めて触れた。


    「うん、いつもそうしてるでしょ?」
    「いつもしてくれてるの?」



    アサコがからかって言わせようとする。




    いつも見てる。




    「いつも見てるでしょう?」と、私はようやく笑って言った。



    それでも続くほのかなイエローに、少し目を閉じた。




    運転手さん、着いたら起こして。





    永遠に眠らせないで。


    とは、言わないけれど、アサコに目を閉じたまま呟く。


    「着いたら起こしてね。」




    アサコの声が耳元で聞こえた。



    「うん、いいよ。」




    いいよ。という言葉は、何かを許す言葉。

    許されないことなど今は欲しくなかった。




    私は店の住所を呟いてから、夜道に溶け込むタクシーと一緒に、寝たふりを決め込む。


    「その人、ビアンなの?」と、アサコ。


    「そうよ。」

    「ふーん」

    「名前は、シイナっていうの」


    「本名?HN?」


    私は目を閉じたまま笑顔で言った。


    「多分、本当の名前。」
引用返信/返信 削除キー/
■13778 / inTopicNo.4)  ミュルティコロール 【21】 薄桃:忘れてはいけないもの。
□投稿者/ 果歩 一般♪(5回)-(2006/02/28(Tue) 22:14:00)
    2006/02/28(Tue) 22:20:58 編集(投稿者)

    結局1人で舞い戻った店のドアを開けると、私の部屋を行き来する女と、そして私を撥ねた女。


    2人並んで座っていたので、最初は数秒だけ理解不可能で、そうして何となくじっとしていた。



    「おかえりーサリー。」と、駱駝の奥さんが迎えてくれた。


    私を見て驚く四つの目。


    私こそ二つの目で聞きたい。どうして一緒にいるの?




    「早利?」と、私の部屋にいた女が、驚いたけれど嬉しいわ。という声で言った。

    隣の女は、シイナという名前だった。覚えてる。

    耳たぶに見覚えのある薄赤いサンゴのピアス。

    シイナは、じっと見ている。



    「どうしてここに?」と、私はやっと声を出し、足を前に出し、コートを脱いで、一先ず2人と一つ離れてカウンターに腰掛けた。

    「ああ、こっちは会社の子なの。一度ここに来てみたかったし。でもこの子も常連だったの。」


    こっちは・・と女が言ったところで、ようやく向こう側の隣に座っていた彼女が、頭をゆっくり下げた。


    「うちの店、ちゃんと覚えててくれたのよー。」と、ジャスミン茶を差し出しながら奥さんが言った。

    「ああ、そう。」と、一口啜る。熱くて甘い。

    「今日来るんだったら、言ってくれればよかったのに。」と、女が言う。


    「仕事の接待でと思ってたから。」と、私は言った。カウンターからヒキチが見ている。

    全く、全くという目でじっと見ていた。

    私の、こうした、のらりくらりやり流す性格を、ヒキチは軽く熟知している。多分、奥さんも。

    私が昼間、好きな女を一人連れてくると言っておいたくせに、こうして手ぶらで戻っても、そうしてそこに別の女がいたとしたって。

    お前だからね、お前だしね。と、ヒキチは目で言ってくれる。多分、奥さんも。



    「そうだったの。」と、女は手に持っていた箸を置いて、私を見つめた。



    突然、密かな苛立ち。


    誰かこの女の名前を早く呼んでくれないか。私はそう願った。


    けれども誰も言わない。

    そして、私を車で撥ねた女は、ヒキチの料理を食べ続け、私を覚えているのか覚えていないフリなのか、まだ絡まない。



    「何食べてるの?」と、仕方なく続けた。

    「魚。」


    「ああ、そういえばそう言ってたっけ」
    「美味しいの。」

    「じゃあ同じの。」と、私は奥さんに言った。




    誰も話を続けない。




    込み合わない時間帯になってきて、緩やかな空気が私達を絡めて一つにまとめようとする。



    「ねえシイナ、今日ちょっとここで会わせたい人がいるんだけど。」と、アマレットが言う。私のアマレット、私の白い桃。

    「んー?」と、向こう側で食べていた皿からシイナが顔をあげた。一緒にいたイチコという女の子はどうしたのだろうと、ふと思う。

    「会社抜きでね、一着作ってみないかなって。」

    「友達ですか?」

    「うん。でもねちょっとびっくりしちゃうかも」

    「何?」

    フフフと女は笑って、立てかけてあったメニューを開いた。

    「甘いお酒が飲みたいわ。」
    「ああ、じゃあケイファンチュウ入れてあげる。」と、奥さん。


    「それってギャラ抜きってこと?」と、シイナがのんびり聞いた。

    「ううん、頼んできた人が、ちょっと会ったら驚く人ってことよ。」

    「ビアンなんでしょ?」
    「うん」


    私はそれらを、何となく仕方なく、仕方なく横顔で聞いて見ていた。


    奥さんからコップを受け取って、壁の木時計を見ながら、一口飲んでいる。


    「美味しい、いい匂いね。キンモクセイ」と、にっこり笑っている。


    私はそんなことすら、横顔で見て聞きながら、少しだけ居心地の無さを知らされていた。



    私の前に湯気の立つ魚料理が出された。

    「今日で二回目のヒキチのご飯。」と、私も笑顔で皿を取り、箸を取り、いただきますと言う。

    「あら、何回だって来てくれていいんですよ?」と、奥さん。お腹の大きな奥さんの声。もうじき母になる声。


    「もうすぐ来ると思うわ。」と、コップを揺らしつつ、女が言った。

    「ふーん」と、シイナは言うと、すっと立ち上がって手洗いに行ってしまった。


    「あの子、同じ職場の子でね、ちょっと仲いいのよ。」と、説明される。

    「うん。そうみたいだね」

    「ちょっと元気なかったから、面白い仕事させてあげたくて、ここにも来たかったし」と、また説明された。


    「シイナ元気なかったの?」と、奥さんが聞く。


    もう平気なんじゃない?とニッコリして、女はまた、コップの中身を飲んだ。

    一つ席を離れて座っていても、甘い花の匂いがする酒だと分かる。


    私は自分の皿の中身を食べながら、不思議な光景だと思った。


    この店の中にいるだけで、何一つまとまっている感じなど、すっかり無い気がする。


    と、ケータイが震えていた。

    箸を置いて出る。もしもし。





    『あたしです。』と、シイナの声がした。

    「ああ」


    私は周りに知らん顔で、仕事の電話のフリをする。




    『ええっと、何ていうか』



    「うん、今日はこのまま。」



    私は、今この店の中で、別の時間に別の場所で起こったことで出会った事実を取り出してみることは、相応しくないと、シイナが思っていることに同意していた。



    『また後で連絡します。』

    「うんうん。」




    じゃあ、とシイナが切った。


    「仕事?」と聞かれた。



    「そう」




    手洗いからシイナが戻る。


    「あたしも飲もうかなー。」


    「いいわよ。」

    「でも仕事の話するからダメでしょ。」


    「ううん、友達だし、いいわよ。」


    「じゃあお酒頂戴。」と、シイナがヒキチに言った。


    「でも酔っ払わないでね。」

    「はーい」



    本当に仲が良さそうだ。


    それに、私の部屋にいる時とは少しだけ違う。

    2人の時は、私しか見えていないと思うほどに、私と一緒の時間を食している。


    やっぱり、特別な女性だと思う。


    「どんな人?」
    「んー、可愛いわよ。ちょっかい出さないでね」

    「仕事する時はちゃんとしますけどー」
    「うんうん」

    「サリーは仕事でも、ちょっかい出してそうだけどね」と、奥さんが笑いながら言う。

    「あ、それ当たってるかも。」と、女が言って、2人でクスクス笑う。それを眺めて笑顔のシイナ。


    幾つもの笑顔の数だけ、幾つもの確かな存在。



    誰一人、私をサリーと呼び、シイナをシイナと呼ぶけれど、彼女の名前は出てこない。




    「ねえ隣に座って。」と、女が自分の隣の椅子をポンと叩く。

    私は一つずらして、真横に座り、シイナと私で彼女を挟んでカウンターに並んだ。


    彼女がそっとコップを持って置いている私の指を触り、ニッコリする。

    酔っちゃったわ。と言う顔をしている。

    少しの愛しさを感じて、自分の力でこの女の名前を思い出したいと思った。




    −忘れないで。





    ズキズキと頭が鈍く痛む。


    私は彼女の指を解くと、手洗いに向かうために立ち上がった。



    「なーに、早利も酔ったの?」


    「うん、そうみたい。」


    ゆっくり歩いて洗面所に入った。



    数分、1人でいられる間に、さて



    彼女が誰かを必死で思い出そう。



    胸ポケットからタバコを取り出して火をつける。

    洗面所に飾ってある幾つかの風景写真が目に入った。

    海外。

    アジア。

    ヒキチの趣味だ。



    「あ・・」




    一つ青々とした空の下の公園が目に止まる。何処かでこれを見ている。


    手を伸ばした。


    頭が痛い。



    手を伸ばした。



    写真を壁から外して手に取る。


    タバコの灰が落ちた。




    写真には 青いペンで




    『DARCY』と書いてあった。




    ダルシー


    ダルシー








    −一緒に行くの。



    −ごめん。





    −私と一緒に。

    −誰か1人を束縛したいって思えない。



    −私じゃダメなの?





    −誰か1人を自分が一番大事にするなんて責任が持てないんだよ






    −私を傍で見てたら分かるわ。







    −無理だよ










    多分、怖かったんだと思う。そこに飛び込むのが。


    つまり、勇気が欠けていた。






    −じゃあ1人で行くわ。






    雨が降るから傘を忘れないで。そして今このやり取りも、決して忘れないで。

    優しく呟いてくれた。


    いい?忘れないで。私1人で行くから。

    安心して、1人で行くから。


    ねえ私が言った、この言葉を覚えていてね。じゃあ行って来まーす。





    嫌だった。それが嫌だった。



    そのまま部屋を出た。




    私は香の炊かれた、そうした花の匂いの手洗いで、向こうの店内の音楽を遠くシャラシャラと聴きながら、それらを思い出す。



    忘れてはいけないものを忘れようとして、忘れてはいけないものを忘れてしまった。



    ああ、私は罰を受けている、今。



    彼女の名前を叫びたい。
引用返信/返信 削除キー/
■13784 / inTopicNo.5)  うわぁ…
□投稿者/ れい 一般♪(26回)-(2006/03/01(Wed) 00:21:20)
    果歩さんだー!おかえりなさい!!

    タイトルは、私が今回のUP分を読み終えて、最初に発した言葉です。笑

    うわぁ、すごい!すごい!!やっぱり果歩さんの書く文章は人を惹きつけると思います。



    ストーリーも佳境ですね。

    話がつながって、ひとつにまとまっていく感じがなんとも快感です。

    収束していく感じがして、安心もする反面、寂しくもあったりして。


    ラストまで、心の底から応援しています。

    無理なさらないで、がんばってくださいね。

引用返信/返信 削除キー/
■13806 / inTopicNo.6)  ミュルティコロール 【22】 青のダルシー:未来のシイナは。
□投稿者/ 果歩 一般♪(6回)-(2006/03/03(Fri) 22:23:21)
    店に入ってきた女は、ハツエさんの恋人だった。

    しかも、あたしが車で当てて、さらに、持っていたカバンを盗んだ人。


    急に酔いなんて醒めた。

    あたしはお酒に酔うより、人間とか音楽に酔いたい。


    そういうのも醒めるほど、その人が立ってることが偶然過ぎて気味が悪かった。



    ハツエの恋人は、当然のようにハツエに話しかけ、当然のようにヒキチの魚料理を食べてる。

    あたしとこの人の接点は、ここで触れられたくなんて無かったので、大人気なくトイレから電話する。


    「今日はこのまま。」という大人ぶった返事が、あたしも少し大人になったら同じことを言うかもしれないと思わせた。

    何だか馴れ馴れしい。


    あたしはサリーと精神的に馴れ馴れしいのかもしれない。

    語り合ったら簡単に馴れ馴れしくなれるって解った。


    同じ匂いがする。だとしたら、だとしたら?

    この人、誰かをちゃんと好きになれていないのかもしれない。と思った。


    ハツエさんを正しく好きじゃないのかもしれない。

    他に女がいるし、ハツエさんもそれを知ってるし、それを知られていると、この人も知ってる。


    あたしはそういうのを、トイレから戻って椅子に座って、中国酒を飲みながら数秒で察した。


    イライラしたいのに、出来ない。

    だってあたしも、そうだから。






    −シーちゃんは優しい。








    市子に。だけどね。


    そうしてハツエが、隣に座るように言うと、当たり前の顔で隣に座って、さらに当たり前にハツエさんの指に触れた。


    かと思うと、トイレに行ってしまった。


    じっとしててよ、イライラするの。そういうのが。まるであたしと一緒だから。




    「シイナの作るドレスはね、花嫁を綺麗に見せるなんて一つもこもってないの、そういう気持ち。」と、ハツエさんがピンク色のほっぺで言った。


    「どういう意味ですかー」と、あたしもピンク色の喋り方をする。


    この時間と空間は、酔ったもん勝ちだと思った。





    トイレから戻って、向こう側に座ったサリーが、黙って聞いてる。



    「綺麗にしてあげたいっていうより、幸せでしかないってことを残らず出させようっていう感じ」

    「何ですかそれ」



    ハツエさんはニッコリした。



    「お前の幸せを、あたしがあたしのやり方で、全部見せてあげる。っていう感じ」


    「なるほど。」と、サリーが呟いた。



    あたしも実は、そうなんだよねと思った。


    体型とか肌の色とか、生地とかそういうのじゃなくて、着せるためのドレスじゃなくて、脱がして見せるの、気持ちを。


    中身を感じさせるのが好き。


    市子はそれを、素敵ないやらしさだと言った。シーちゃんそれ、いやらしくて素敵ね。



    「あーなんとなくそうだったかも」と、奥さんが言った。

    「でしょう?」


    「うん」
    「着てみないと解らないのね」


    「今日来る友達も、そういうの作って貰えるんだね」と、サリー。


    「そうよ。」
    「羨ましい?」


    「羨ましいわ」と、ハツエ。


    その素直に即答するところが、あたしには余り見せない部分に思えて悔しい。


    だから次に言う言葉は、勿論これしかないの。




    「『着せてあげようか?」』



    2人同時に同じ事を言った。

    あたしとサリーで同じ事を。


    あたしもサリーもびっくりして、ハツエもビックリしてた。



    けれども次にはハツエさんがクスクスと笑ってくれた。


    「やだ、2人とも私と結婚したいの??」



    あたしは奥歯に病院の消毒の匂いがしそうなくらい落ち着かなくて、慌てて言った。


    「あたしのは、作ってあげますって意味ですよー。」


    サリーは黙ってタバコに火をつける。
    その火が何となく、私はそういう意味じゃない。と言ってるみたいだった。


    「いったでしょ。あたし結婚しないって」と、ハツエさんがニコリと言ってのける。

    「だって旅行にも行きたいって言ってたじゃない」

    「ああ、それはもういいのよ。」


    サリーの口から白い煙が見えた。
    白いけれど、あたしには実は黒い煙に見えそうだった。


    「そこに何があるの?って聞いたら、全部って言ってたじゃないですか。」 あたしは続けた。


    あの時、おにぎりを食べながら 「そこに何があるの?」と、あたしはバカみたいに枠の大きな質問をしてしまった。


    けれどもハツエさんは、




    「全て。」




    と、軽々と答えた。



    けれども言った後に、目をじっと閉じて、また開いた。あたしは抱きたくなった。そうだった。




    あ。

    ハツエさんが、あたしの目をじっと見ていた。お願い、もう言わないで。言わないで。そういう目をしてきた。

    あたしはそれすら抱きたくなる気持ちにさせられる。

    あたしを動物にさせるハツエは間違いなく、市子の未来の姿に思えた。

    とすれば、隣にで無言の余裕をかまして一服しているサリーは、未来のあたしかもしれない。

    酷い。酷い思いつきだよね。どうなの。





    「ねえねえちょっと味見して!」と、ヒキチの奥さんが小さな丼を差し出す。


    その崩れ方に、3人がそれぞれ、ホっとしていることが恥ずかしかった。

    「なーに?」

    「ロコモコ丼」

    覗くと、白い陶器の器に、ひき肉と目玉焼きがのった味付けご飯。

    「美味しそうー」
    「まだ食べれるなら味見して!メニューに入れるから」


    「ロコモコって何?」と、あたしは聞いた。魔法の呪文みたい。


    「ハワイの丼よ。」と、ハツエさんが箸を手に取りながら教えてくれた。



    サリーは手を伸ばさず、次のタバコに火をつけて、何かを考えている。

    あたしも同じことを考えたかったけれど、ハツエさんが箸を渡してくれたから、一緒に試食した。

    「あ、美味い」
    「でしょ?」

    「ヒキチの料理っぽくないね」と、あたしは無口なコックさんに言った。

    「うるさいよ。」と、やっと喋ったヒキチに、ハツエさんが少し嬉しそうだった。

    「やっと喋った」と、奥さんが笑う。

    「この人って初対面の女性には人見知りし過ぎなのよ。ごめんねー」
    「だと思いました。」


    サリーが3本目に火をつけようとしてた。






    この人・・・





    何かイライラしてる。


    何かイライラしてる。間違いない。







    一体なんだろう。








    「いらっしゃいませー。」 と、奥さんが言った。




    店のドアがチリリンと鈴を揺らしてた。

引用返信/返信 削除キー/
■13807 / inTopicNo.7)  れいさんへ。
□投稿者/ 果歩 一般♪(7回)-(2006/03/03(Fri) 22:27:53)
    ただいまー

    何となく続きから載せました。読んでくださってありがとうー。

    一杯感想書いて下さって、とても、それこそ嬉しいです(ノー`*)

    引き続き、ぼんやり書いてみますー。





引用返信/返信 削除キー/
■13808 / inTopicNo.8)  ミュルティコロール 【23】 イエロー:『おやすみなさい』
□投稿者/ 果歩 一般♪(8回)-(2006/03/03(Fri) 22:40:50)
    ねえジュンコさん。


    と、目を閉じている私にアサコの声がする。



    「何?」

    「んー。」

    後部座席に並んで座る、私とアサコの隙間、つまりは距離なんて、数ミリも無いというのに心細そうな声だった。


    「どうしたの?」と、私は目を閉じたまま聞いてあげた。



    「ジュンコさん、疲れてるならこのまま帰ってもいいんだからね。」と、アサコが言った。

    「あー大丈夫よ。眠くなっちゃっただけなの。」
    「そう?」

    「うんうん。」
    「それならいいけど・・」



    私は、アサコが包んで握っている私の指を、アサコの手の中で、大丈夫。とくすぐって動かしてやった。


    「着いたら起こしてあげるから、グウグウ寝ちゃっていいよ?」


    「そんなにちゃんと眠れないわよ」と、私は目を閉じたまま笑った。



    「ねえ子守唄とかお話とか、そういうので寝なかった?」

    「小さい時は、あったかな。忘れちゃったわ」


    アサコが、じゃあねー。と言う。


    「何?」

    「私がママから聞いたのを言ってあげる」
    「あるの?」



    アサコの母親。

    多分アサコそっくりの母親。



    会ったことはない。

    会いたいと思うけれど、会えない。


    これから先に、会えるかどうかもわからない。



    「ママは、これしか言ってくれなかったから、覚えちゃったんだけど。」
    「うんうん」

    私は目を閉じたまま、まぶたの向こうにアサコを間違いなく感じていた。




    「そしてね、デタラメな歌。」

    「ママが考えたの?」



    そう。と、アサコが言った。


    そうして私の親指だけを、丁寧に、そっとそっと握り直して、ポツポツと朗読のように呟き始めた。




    タクシーの運転手が、気を利かせてラジオのボリウムを消す。



    車の窓の向こうに、薄く聞こえる外の音と、そうしてアサコの鈴のような声が始まった。







    『おやすみのうた』




    泣く数だけの かなしみ を

    あなたがにぎっているならば



    その手をひらいて にぎりたい





    知らない時間の知らない場所で


    あなたが泣いているならば



    一緒の時間の一緒の場所で


    優しい時間を与えたい




    夜の黒がいいました



    これは空を隠している色じゃない


    空だって目を閉じる時間があるのだと





    おやすみなさいの空なのだ。





    星がいいました




    私達は休憩中の涙なのだと。





    誰かの目から離れて光る



    悲しみのときも


    喜びのときも


    流れてみせる涙の粒が




    あの子が眠っている間だけ



    夜の黒に飛び出して



    そこで光って休んでいるのだと。






    だったら私




    あの子の涙を





    今夜も見上げているかもしれなかった。






    きれいに光って


    きちんと受け止めて見れていた。





    だから


    おやすみと呟けるのでした。






    遠くて近くのダレカ



    私にも そこから おやすみをくださいなー。












    そこで終ったので、私はゆっくりと目を開いた。


    アサコがいた。


    アサコしかいなかった。


    アサコがいてくれた。




    そっと親指を握っていた。

    多分、アサコの母親も、同じことをしてあげていたのだと分かった。




    「ありがとう。」と、私は言った。


    「眠れた?」

    「うん、グウグウ眠れたー」


    「嘘つき!」と、アサコが笑って言う。

    「もうー歌うんじゃなかった。恥ずかしくなった!」と言う。


    「私は一生忘れないことにしましたよ。」と、運転手が真面目に言ってくれた。「さすが、役者さんだね」



    これはアサコの芝居じゃない。

    これはアサコにしか出来ない、アサコ。


    アサコ自身を演じられるのは、やっぱりアサコ。



    「ありがとうー」と、今度はアサコが運転手にお礼を言った。







    「あ、あの緑の壁のお店で止めて下さい。」




    イエローはすっかり、何処かに行ってしまっていた。





    「ねえジュンコさん」


    「何?」



    アサコが真顔で私を見つめてこう言った。


    「食べる前に試着するの?それとも食べて、お腹が出てから?ここって料理屋さんでしかないじゃない?」



    私は笑った。



    今日は試着じゃなくて、ご挨拶だからね。と、カバンから財布を取り出して、料金を払う。


    タクシーの後部座席のドアが、パタリと開いた。






    「夜の黒がいいましたー

     これは空を隠している色じゃない

     空だって目を閉じる時間があるのだと

     おやすみなさいの空」



    「え!?覚えたの!?」とアサコが驚く。




    私は言った。





    「覚えたんじゃないの」

    「えー?」




    「アサコに、貰ったの。」




    と、私はアサコと一緒に店のドアを開けながら、向こうに座っている人達を、自分の目でしっかりと見た。








    −若年性?


    −老人性白内障が、あなたみたいに若い歳で起こるのは稀です。


    −見えなくなるんですか?



    −水晶体。つまり目のレンズが、どんどん黄色に濁っていくんです。





    しかも、あなたの場合、その濁る速度が異常に速い。それに・・・。




    イエロー



    私のイエロー。





    アサコが、薄くなっていく、ということ。








    「いらっしゃいませー」
引用返信/返信 削除キー/
■14641 / inTopicNo.9)  Re[2]: ミュルティコロール 【23】 イエロー:『おやすみなさい』
□投稿者/ Q00 一般♪(1回)-(2006/05/24(Wed) 09:49:27)
    果歩さん

    この続きもうかかないんですか?
    ずっと待っていたんですが…
    貴方の書く文章、大好きです。
引用返信/返信 削除キー/
■14652 / inTopicNo.10)  わたしもめっちゃ待ってます
□投稿者/ れい 一般♪(30回)-(2006/05/25(Thu) 06:53:05)
    私の、更新を心待ちにしているナンバーワンが果歩さんです。

    果歩さんの、独特の世界観が好きです。


    ストーリーも佳境で、大変だと思いますが、
    無理のない範囲で頑張ってほしいと、いちファンとして考えています。

    半年でも1年でも、お待ちしてますので
    いつか更新してください♪


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■14696 / inTopicNo.11)  QOOさん・れいさんへ。
□投稿者/ 果歩 一般♪(1回)-(2006/05/26(Fri) 23:16:02)
    お話、覚えていて下さってありがとうー。

    書き始めたからには、書き終わりたいのですが、色々あって

    少し休憩していました。
    チャットでぼんやりしてみたりとか。外の空気吸ってる感じでした。

    こうして「待ってたー。」という呼びかけがあると、本当に嬉しいですね(*^-^)

    このお話は、自分の中では一番、色々なものが詰まり過ぎていて、自分の一部みたいになっています。


    だから終わらせないと自分も半端なままだ。と、大袈裟だけれど、もうそんな感じです。

    お二人がいつか読み終えてくれるのを励みに、頑張りまーす(*^-^)


    年内完結が目標(*^-^)・・・。
引用返信/返信 削除キー/
■14700 / inTopicNo.12)  お待ちしておりますね。
□投稿者/ れい 一般♪(31回)-(2006/05/27(Sat) 08:03:31)
http://www.mypress.jp/v2_writers/chocolateholic/
    果歩さん

    メッセージ、ありがとうございます。
    年内でも来年にかかっても、お待ちしておりますので
    頑張ってくださいね。決して無理はなさいませぬよう。。

    三色の競演を楽しみにしているれいでした。
引用返信/返信 削除キー/
■15194 / inTopicNo.13)  Re[2]: わたしもめっちゃ待ってます
□投稿者/ age 一般♪(1回)-(2006/06/29(Thu) 09:34:59)
    age
引用返信/返信 削除キー/
■15302 / inTopicNo.14)  ミュルティコロール 【24】 薄桃:醒めた実の匂い
□投稿者/ 果歩 一般♪(1回)-(2006/07/13(Thu) 12:20:02)
    「サリー先生?」と、私は鈴に鳴って呼ばれた気がした。


    過去を思い出せないのではなく、現在の女の名前一つ失ったことに、苛立ち始めていた私の耳に届く。

    その声の方向を見ると、店の入り口にアサコが立っていた。


    「どうして此処に?」と、私は尋ねた。

    隣で少しだけ青い顔色のジュンコが、それでも私にニッコリとして返事をする。

    「ここで人と待ち合わせをしてたんです。」


    店の中が、少しだけザワザワとした。

    当然だ。名の知れたアサコがいるせいだ。皆の目の中にアサコが映って増えていく。

    「アサコが早利の書いたものに出てるって、全然思いつかなかったけど、そういえばそうだったわ。」と、横に座っていた女が笑いながら言った。

    そうだったわ。と、ジュンコとアサコに笑っている。


    私の仕事に溶け込む他人を、ちっとも気にしないこの人は、大人だ。


    「ひょっとしてあたしの仕事って、この子のドレス?」と、シイナが言った。


    「そうよ」



    「ふーん」



    カウンターの真後ろにあるテーブルに、女優と、その付き人は座った。


    私は、状況を飲めても筋が読み込めなくて、質問をする。

    「ドレスって?」

    「あたしのウエディングドレスよ。」と、アサコが私に答えた。


    「結婚、するの?」

    「うん。」


    私以外の全員が、落ち着いて話を聞いている。

    世界では、女優が結婚するとなると、一塊の話題になるのが先の読みだ。


    その程度だ。


    その程度の世界だ。私達はそれでも世界では、その程度。


    だから素直に祝福を。



    「相手は私の知ってる人かな。おめでとう。」と言うと、アサコは微笑み返しをした。

    「知ってるも何も、ここにいる誰かよ」と、女が言った。

    「この店に相手が来るの?」

    「そうだよー。来るんじゃなくて、もう来てるの。」と、アサコが言う。

    カウンターの奥にいるヒキチすら、知っているかのように知らん顔をしていた。

    シイナはアサコの洋服を眺めて、一人何かを考えている。


    アサコと向き合って座っているジュンコは、奥さんから貰ったお冷を飲んで深呼吸していた。
    顔色が少しだけよくなっている。

    そのコップを持つ手に、アサコの指が触れて、触れたその指はそのまま、手首の辺りを撫でていた。

    その撫で方で私は全てを読んだ。

    「ひょっとして・・」

    「そうよ。」

    女が私に言った。「そういうことよ。」








    シイナ

    ジュンコ

    アサコ

    ヒキチ

    ヒキチの妻



    全員が一つの、透明に濁った、その偏見の砂の溜まる水槽。



    漂っているのか、泳がされているのか、けれども私は、そこに沸いて出るはずの安心感や急激な結束感は、何故か感じなかった。







    同じ世界。








    アサコとジュンコが仕事以外で支えあっていても不思議ではない。

    けれども恋愛であるのは不思議以上に、簡単に理解できない。

    理解できないけれど、ああそうかと簡単に納得した。


    「あたしは先生が女好きだって知ってたわよ。」と、アサコが頬杖をついて言う。

    「そう?」

    「うん」



    そこへ男の声が割り込んだ。「Asakoでしょ!」

    アサコが見上げると、奥のテーブルから来たらしい、酒に酔った20代位の男が2人。

    「ううん、違うよー。」と、アサコは笑って返事した。

    「えー!嘘だろ?本物っぽいよ?」
    「絶対本物だって!」

    小さく興奮している感じで、アサコをジロジロと眺めた。
    アサコは撫でていたジュンコの手を離さず、笑ったままで違うよーと返事を繰り返す。

    男の一人が携帯電話を尻ポケットから取り出し、アサコの横にかがんで勝手に撮影をしようとした。

    ジュンコが言う。「ちょっと、やめなさいよ。」


    「えーやっぱり違うの?」

    「だから言ってるでしょー?違うよー。」


    私達は会話を止めて、それが終わるのを待っていた。

    けれども次の言葉が、アサコを怒らせた。


    「そっかー偽者かぁ」


    フラフラしながら詫びれもせずに言ってのけた。

    途端にアサコが立ち上がって、笑ったまま男の頭にジュンコの飲みかけの水を振り掛けた。



    そうするだろうと思っていたが、私は見ていた。



    ジュンコが止めるのは、間に合わなかった。


    「何すんだよ。」と、男が笑って言う。一緒にいた男も笑っている。

    「偽者扱いしないでよ。」

    「本物じゃねーんだから偽者だろ??」

    それは違うだろう。


    「それ違うだろ。」


    シイナが言った。「っていうよりさ、あっち行ってくんない?」


    「はぁ?」

    「あたし達、大事な話してんだから邪魔すんなよ。」

    「何ー大事な話ってー俺らも入れてーーよーーーーー」


    水を引っ掛けられても腹を立てず、シイナを煽っている。

    たちが悪そうな感じになり始めていた。


    「ね!本物?やっぱ本物?それとも偽者?」


    また同じことを言い始める。


    アサコとジュンコは目を合わせて、店を出ようとしている。
    迷惑かけちゃ、ダメだから。出よう。

    と、アサコの腕を男が掴んだ。「逃げないでよーーーー」

    「ちょっと離してよ。」
    「何で逃げんのーー」

    「離せよ。」と、シイナが立ち上がった。

    私も向きを変えた。
    女もそちらを見る。

    「離してよ。」と、アサコが腕を振ったが、離さない。

    「じゃあ一枚だけ写メしてよー」
    「離してよ!!!」

    「離せよ。」と、シイナが男の肩を掴んで言った。いけない。

    遅かった。

    「何だよお前、何様?」
    「嫌がってんだろ?」
    「何?レズのファンみたいなことすんなよ」

    私はヒキチに目配せした。

    「とにかく離せよ」
    「離してよ!」

    「ギャアギャア煩ーんだよ。」と、もう一人の男がシイナの胸を押した。

    よろめいてカウンターに背中が当たり、飾ってあったピンクのラクダが倒れた。

    ガシャンという音。


    「シイナ!」と、アサコが叫び、腕を振る。「離して!バカ!」

    シイナが男にグラスを投げた。

    まともに当たって、顔を抑えてうずくまる。

    アサコの腕を離してもう一人がそれに近寄る。

    ジュンコがアサコの手を引いて寄せ、男から離れる。


    グラスをぶつけられた男の額から赤いものが見えた。



    ヒキチは受話器を耳に当てている。



    「痛ってー・・・っこの野郎・・」

    男がシイナを殴ろうと拳を振った。

    シイナの顔、ではなく・・


    「ハツエ!!!!!」

    「ハツエさん!!!!!」



    かばった女の顔に当たり、女が倒れた。異様にゴツと鈍い音がした。
    殴られた勢いで倒れ、頭をカウンターに当ててしまったのだ。


    シイナとジュンコが叫ぶ。



    ハツエを抱き起こすとを、彼女からも赤いものが見えた。

    何も言わない。

    ハツエは私に、何も言わなかった。



    ヒキチがカウンターから出てきて言った。

    「出ろよ。外に出ろ」

    ハツエを殴って酔いが醒めた男と、アサコに絡んだ男は、少し正気が戻って青くなっている。

    他の客達が同じ目で見ていた。



    男が財布から紙幣を出すと、床に投げて、慌てて店の外へ出て行った。





    今思えば、自分の力で完全に蘇らなかった彼女の名前、ハツエという名前、そういったハツエについての程度こそが、私の中での彼女の薄さを示していたと思う。

    何故、忘れたのかより

    何故、思い出せなかったのか。


    こんな形で思い出したことが、私には拍子抜けだった。


    「ハツエ・・」と、私は彼女を抱き起こし、額に触れる。


    ハツエは、やっと薄目で笑い、そのまま目を閉じた。


    「ハツエさん!」

    「あんまり動かすな。」




    わぁという店内と、サイレンと、ヒキチ夫婦と、そしてシイナが私の隣で彼女をずっと呼んでいた。


    ハツエさん

    ハツエさん


    抱きかかえた彼女から、薄い、果実の匂いがした。



    「ハツエ」



    私はハツエを呼ぶことが出来た。


    けれどもその時にはもう、私とハツエは、役割を交代したのだった。



引用返信/返信 削除キー/
■15303 / inTopicNo.15)  ミュルティコロール 【25】 青のダルシー:あたしの十字架。
□投稿者/ 果歩 一般♪(2回)-(2006/07/13(Thu) 12:46:56)
    ハツエさんが紹介すると言っていた子が、入り口から入って来た時に、あたしは真っ先に市子の呪いを感じた。


    悲鳴をあげてもいいかもしれなかった。それくらい感じた。



    市子と、最後に観た映画の中にいた彼女が今目の前に立ってて、だから市子を連れてきたのかと思った。

    そんなこと、あるわけないのにね。



    「ひょっとしてあたしの仕事って、この子のドレス?」と、あたしは確かめる。

    「そうよ。」と、ハツエさんがニッコリした。



    有名な人間の仕事をするのは初めてじゃなかったけど、あたしは何となく、やっぱり市子の呪いを感じたくなった。


    アサコは後ろのテーブルに座って、少し疲れた顔をして、けれども、それでも、それ以上に元気な顔を作って、サリーと話してる。


    アサコとサリー


    作家先生と女優さんだから、顔見知りでもおかしくないけど。


    嫌すぎる。


    世界の狭さに吐き気がしたし、一つの世界って考えが拭えてない、そんなあたし自身にも吐き気がした。


    けれども、さっきまでイライラしていたはずのサリーが、何となく落ち着いているのが可笑しかった。


    アサコが、一緒に連れてきた女と手を握り合っているのを見て、何だそういうこと。と思った。

    まるで夜に部屋に帰ってきて、玄関の明かりのスイッチを入れた直後みたい。


    パっと見える感じ。

    そしてそれが当たり前な感じ。平気な感じ。




    女同士の結婚式は、初めてな訳じゃないけど、嫌過ぎる。


    あたしとハツエさん、ハツエさんとサリー先生、サリー先生とアサコ、アサコとあたし。



    本当に吐き気がする。



    あたしが望んだものは、「あたしと市子」の唯一つだけだったのに。






    コップのお酒を飲んだ。





    あたしは、レズの女優のドレスなんかより、ハツエさんの下着一枚でも考えてる方が楽だ。

    あたしは。



    サリーから奪ったカバンの中に入っていたのは、サリーの愛情だってことを知ってる。



    だけどあたしは。それを逃がさない。



    市子は今どうしているかと、また思い出してきたから、あたしはアサコの着ている服を見つめて、遠くへ引っ込めた。


    薄い黄色が似合ってた。

    膨らみの少ないドレスを作ろう。

    これは仕事だ。



    あたしは酒を飲みながらでも、少しずつアサコの似合う形を頭の中で浮かべていった。


    市子と最後に観た映画で、この子が言っていた台詞が好きだったんだけど、思い出せない。


    題名すら思い出せない。



    ミー・・なんとか。


    じゃなかった。


    何だっけ。ミュー・・





    「えー!嘘だろ?本物っぽいよ?」
    「絶対本物だって!」


    酔っ払った男二人が、アサコに絡んできた。

    有名人だからって騒ぐ感じが、煩かった。



    あたしは上手に酒に飲まれないやつは大嫌いで、男が嫌いって訳じゃない。

    もちろんあたしは男になりたい訳でもない。


    だけど男の質感が多すぎるから、こういう言い回しをされる。


    「レズのファンみたいなことすんなよ?」


    「離しなよ。」と、のんびり言ってたつもりが、ドンと突かれた拍子に、頭にきた。


    あたしは、あたしの酒のグラスを投げつけた。

    本当はイスでもいいくらいに、この夜の不愉快な感じは最高に最低で、本当に吐き気がした。


    あたしは吐き気が多すぎる。



    酔ってる阿呆な男は、あたしを殴ろうとした。

    面倒だから受けて返そうと思っていたのに、ハツエさんがあたしを。


    「ハツエさん!!!!」


    あたしを守って殴られてしまった。



    嘘みたい。


    あたしを守ってる女がいる。


    あたしを守ってくれたのは、あたし自身と市子だけで、市子がいない今は、あたし一人だけだと思ってた。


    割り込んで殴られたハツエの顔が喋った気がした。

    あたしの後輩に手出されたら、仕事が困るのよ。そう言った気がした。




    あたしの先輩は、こんな時だからこんな言い方をすると思えた。


    恋人のサリーが抱き上げて心配していた。

    あたしが代わりたかった。



    あたしはポツンとしていた。



    男達は店の外に出て行って、ヒキチが後を追って、アサコも店を出て、奥さんが救急車を呼んで、あたしは何故か、床を片付けてた。


    他の客は騒ぎながら店を出て行って、奥さんとヒキチが後始末をしてて、サリーとハツエさんは救急車で病院へ行った。

    うねるように時間の進みが狂ってた。


    あっという間の出来事だった。

    けれども思い出せる程、ノロマな速度の事実。




    あたしは音に出してもやっぱり、ポツンという感じだった。


    あの映画の台詞、こんな感じだったけど、思い出せない。


    何だったかな・・





    あたしはその時、そうして、痛いほど感じたことがあった。









    本当の居場所は 選ぶんじゃなくて 選ばれるんじゃなくて



    気づくのが楽なのかもしれない。

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■15310 / inTopicNo.16)  お待ちしてました
□投稿者/ れい ちょと常連(52回)-(2006/07/14(Fri) 06:35:51)
    いよいよ三色が混ざりましたね。

    果歩さん、執筆お疲れさまです。

    スレッドが上がっていて、もしや、と思いましたが。

    久しぶりに果歩さんの文が読めて、嬉しかったです。

    あとはラストへ収束していくのかな…。無理はなさらぬよう、
    年内完結目指して(笑)頑張ってください。



    (携帯)
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■15311 / inTopicNo.17)  れいさんへ。
□投稿者/ 果歩 一般♪(3回)-(2006/07/14(Fri) 07:49:10)
    いつも読んでくださってありがとう(*^-^)

    無理せずのんびり書いてみまーす(*^-^)
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■15312 / inTopicNo.18)  Re[2]: ミュルティコロール 【25】 青のダルシー:あたしの十字架。
□投稿者/ Qoo 一般♪(1回)-(2006/07/14(Fri) 09:07:42)
    嬉しい☆更新ありがとうございます。
    今後の展開楽しみにしてます


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■17476 / inTopicNo.19)  Re[2]: ミュルティコロール 【25】 青のダルシー:あたしの十字架。
□投稿者/ 待ってます 一般♪(1回)-(2006/12/15(Fri) 08:57:06)
    age
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■19103 / inTopicNo.20)  Re[2]: ミュルティコロール 【25】 青のダルシー:あたしの十字架。
□投稿者/ A 一般♪(1回)-(2007/05/22(Tue) 05:46:07)
    待ってます
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