ビアンエッセイ♪

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

[ 最新記事及び返信フォームをトピックトップへ ]

■17781 / inTopicNo.21)  ◆世羅さんへ
  
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(1回)-(2007/01/24(Wed) 02:13:08)
    こんばんは。

    気になって下さってありがとうございます。
    (なんじゃそら・・)

    あいにく丈夫なもので、風邪ひとつひかずに生きております。
    近いうちに更新します!
    こんなペースでホントごめんなさいね〜。。
    おっと、それと、メッセージありがとうございます。嬉しいです♪


引用返信/返信 削除キー/
■17782 / inTopicNo.22)  ◆ゆららさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(2回)-(2007/01/24(Wed) 02:14:37)
    モンローですか!
    ワタクシあまりモンローには詳しくないもので。
    ププッピドゥ、ひらり。くらいしか。
    研究してみます、モンローについてもっと!
引用返信/返信 削除キー/
■17783 / inTopicNo.23)  ◆みこさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(3回)-(2007/01/24(Wed) 02:15:49)
    気になりますか。ありがとうございます。
    私も気になります。
    ちゃっちゃと進まんかい。

    ・・私がな!!
引用返信/返信 削除キー/
■17784 / inTopicNo.24)  ◆シランさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(4回)-(2007/01/24(Wed) 02:20:11)
    “先日”じゃ、なくなってる・・!
    ごめんなさい。本当申し訳ない。
    いや、いやいやいや、そんなそんな、何をおっしゃいます!!
    幻滅って・・そんなコト言いつつ、
    やんわりと私が警戒されている???
    って思ってしまいますよ、そんな感じですよ。
    メール、私は送ってしまいますよ?
    なんだか色々ここで言うのもなんですし。

    本当に今更になっちゃって申し訳ないです。
    更新しなくとも、
    ちゃんと定期的に覗きに来るべきだということを、
    改めて思い知りました。
引用返信/返信 削除キー/
■17785 / inTopicNo.25)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(5回)-(2007/01/24(Wed) 02:21:29)
    あ、ホントだ、常連だ。
    こんな状態の私が、その呼び名に果たして相応しいのでしょうか。
    品格が問われますね。。ははは。。
引用返信/返信 削除キー/
■17809 / inTopicNo.26)  ALICE 【42】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(7回)-(2007/01/29(Mon) 02:06:19)
    「私のこと、愛してる?」


    アリスがそう言った時、

    草原に風が吹いた。



    5メートル程の距離を置いて向かい合っている私達の他には、

    揺れる草花しかここには居ない。


    質問はどうやら私に向けて放たれたようだ。




    「愛しているわ」

    というセリフが私の口から自然と零れた。



    どこからか鳥のさえずりが聞こえ、

    草原を日差しが優しく包んでいた。


    なんて穏やかなところだろうと、

    私は思う。




    「私のことを愛しているなんて、ルーイはきっと言えなくなる」


    アリスが言った。



    その表情を読み取ろうとするが、
    逆光で彼女の顔は見えない。

    輪郭を日食の輪のように光らせたアリスは、

    「きっと言えなくなる」

    もう一度そう繰り返し、後ずさり始める。

    「私の本当の姿を知ったら。愛してるなんて言えなくなる」



    「“本当の姿”って何?」


    私がそう訊いても、アリスは何も答えずにどんどん私から離れて行ってしまう。



    気が付けば、

    穏やかに晴れていた空はいつの間にか、
    灰色の分厚い雲に覆われ、

    草原には黒い影が立ちこめていた。


    「アリス!“本当の姿”って何なの!?」


    答えの代わりに降り出した、

    冷たい雨が私の頬を打つ。


    「待って、アリスお願い!待って!!」



    いくら叫んでも走っても、

    一向に追いつけない。



    激しい雨風が音を立てて吹き荒れていた。




    「私は・・」


    微かにアリスの声が耳に届いたが、

    それは不吉な風の音に遮られ、


    彼女の姿と共に暗闇に掻き消された。




    「アリス!アリス!!アリス!!!!」























    叫びながら私は目を覚ました。


    体がうっすらと汗ばんでいる。


    ・・夢を、見ていたのか。


    今でも耳に夢で聞いた不吉な風音が焼き付いているようだ。


    ・・・いや、気のせいではない。



    確かに、まだ聞こえる。あの音が。



    私はハッとして上体を起こし、

    手探りで枕元のライトを灯した。


    「アリス!?」


    不吉な音は、風などではなく、
    アリスの呻き声だったのだ。

    隣で目を閉じるアリスは、
    苦しそうにもがき、必死で呼吸をしていた。


    私は名前を呼びながら、アリスの頬をぴしゃりと叩いた。

    その肌は汗で冷たく濡れていた。


    「アリス!アリスどうしたの!?アリス!!」



    私の呼びかけに、アリスがパッと目を開いた。


    薄明かりでも分かるほど、顔面が蒼白だ。


    「大丈夫!?」



    すると突然、

    彼女が私の胸に縋り付いて来たので、

    その勢いに押された私はベッドのヘッドボードにぶつかり、
    背中に小さな痛みを感じた。


    一部分を擦り剥いたらしかった。



    戸惑いつつ、

    私はアリスの痩せた身体に腕を回し、

    彼女を抱き締めた。



    速まった私の鼓動の速度に合わせて、



    背中の傷がツキンツキンと痛んだ。
引用返信/返信 削除キー/
■17830 / inTopicNo.27)  ALICE 【43】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(13回)-(2007/01/30(Tue) 22:06:09)
    私の腕の中で、


    アリスは小さく震えていた。



    「どうしたのアリス。大丈夫よ」


    私自身、ただならぬアリスの様子に動揺し、
    少なからず不安を覚えていたのだが、

    この腕の中から今にも消えて無くなってしまいそうな少女に、

    精一杯穏やかな声をつくり、
    彼女の痩せた背中をさすった。



    「薔薇が・・赤い・・」
    「え?」

    「白だと思ったのに・・!」


    囁きよりも小さな声で、
    アリスが言う。

    その声は何かに怯えているようだ。


    「怖い夢を見たの?」

    まだ、目が覚めきっていないのだろうか。

    震えの止まらない肩を抱き締める手に、
    私は更に力を込めた。


    「怖い夢を、見ていたのね?」


    私の胸に顔をうずめながら、アリスが頷く。

    「見てしまうの、嫌なのに・・」


    アリスが声を出す度に、
    薄い綿の生地を一枚隔てて、
    その温かな吐息が私の胸にじわりと広がる。

    その艶めかしい感覚に、一瞬、
    全身が鳥肌を立てる。


    「よく見るの?怖い夢」

    「同じ夢を、同じ夢を、何度も、何度も。ずっとずっと。10年前からずっとずっとずっと・・」


    同じ単語を繰り返すアリスのそのセリフが、
    呪文のように真夜中の部屋に響く。


    「それは、辛いね。どんな夢なの?話せば、少し楽になるかもしれないわよ」
    「・・・誰にも、話した事がないの。上手く説明できるか分からない」

    「ゆっくり話せばいいのよ。勿論、無理ならいいのよ」
    「ガーデンを・・」

    「うん?」
    「ガーデンを、歩いてるの」


    「・・うん。歩いてるのね」


    提案をしたのは私の方だが、
    こんなにすんなりと言われるままに夢の内容を語り出すとは思っておらず、
    相槌を打つのに少し間が空いた。

    だがアリスは私の反応など、気にも留めていないようだ。


    「私はガーデンを歩いてる。
     見事なまでに薔薇の木で埋め尽くされたガーデン。
     今にも動き出しそうな程、生き生きとした濃い緑の葉と競い合うように、
     白の、真っ白の薔薇が、全ての木々に咲き乱れている。
     ガーデンの中心には薔薇のアーチがあって、それは半円のような曲線を描くトンネルになっている。
     ガーデンはいつもとても綺麗に晴れていて、
     私はいつも、イイ気持ち。そこにいると私は、穏やかな気持ち」


    「うん」

    私は、アリスの髪を優しく優しく撫でながら、
    夢の語りに耳を傾けた。
    胸に掛かる吐息と、髪から舞い上がるアリスの香りに、
    頭がくらくらする。



    「けれど、雨が降ってくる。いつも、いつも、雨が、降ってくる。
     いつもの事なのに、私はいつもいつもその雨に驚く」



    先刻までアリスの隣で見ていた私の夢にも、
    突然の雨が招かれざる客として出演した事を私はぼんやり思い出す。


    「私は雨を凌ぐ為に、アーチに駆け込む。
     濡れた肌を手で拭っていると、指先が、アーチから伸びていたツタに当たる。
     その衝撃で、花がひとつ、地面に落ちてしまう」


    私に話しかけるというよりも、
    ただ紙面上の物語を朗読するようにアリスは語った。


    「私は屈んで、その白い薔薇の花を両手ですくい上げる。その時―――」


    アリスが唾を呑み込むのが分かった。


    「花弁から、白色が、流れ落ちるの」


    アリスの体の震えが、大きくなる。


    「その薔薇は本当は、赤色だったのよ。白いペンキで染められていただけだった。
     雨が本当の姿を見破ったのよ!!」



    ―――“本当の姿”



    私の夢の中で、
    確かにアリスはそれと同じ言葉を語っていた。


    「私は驚いて、その偽物の花を下に落とす。そうしたら、今度はあちこちから、白い雫が落ちてくる。
     アーチの薔薇は、本当はみんな、みんなみんなみんな、赤だったの・・!!」


    アリスの声は、もはや泣きそうだった。


    「うん・・不思議の国のお話とは、色が逆なのね。そこで目が覚めるの?」


    アリスがかぶりを振る。


    「私、走って逃げる。アーチから抜け出そうとするの。でも、走っても走っても、出口が見えない。
     外から見た時は、ほんの短いトンネルだったのに。
     走っても走っても走っても外に出られなくて、そうしているうちに、アーチの薔薇はみな赤色になった」



    何かから逃れようとしたり、
    出口のない迷路で彷徨ったりする夢を、
    人は何の前触れもなしに見る夜がある。

    私も時々、
    その何とも言えない恐怖感と共に目覚める事があるが、
    現実に戻ってしまえば、
    今まで自分の精神が身を置いていたその世界の詳細はいつも朧気で、
    思い出そうとしても、
    夢に登場した人物や建物や景色や言葉の荒い外観を、
    ぼんやりと浮かべるくらいにしか出来ず、
    ただ、“怖かった、夢で良かった” と胸を撫で下ろすのだ。



    他人に話すのは初めてだと言いながら、
    記憶を辿る為のわずかな沈黙さえ置かず、
    夢で見た映像を流れるように言葉に変換する事ができるほど、

    その悪夢の一秒一秒がアリスの脳と心に焼き付いているのだろう。

    10年という年月の間で、
    いったいアリスは幾度、

    悪夢の雨に打たれたのだろう。




    「するとアーチの側面から一本の黒い手が伸びて来て、私の腕を強く掴んだ。
     そして私を薔薇の垣根の中に引きずり込む。
     そこには階段がある。螺旋状にずっとずっと遠く下まで続いている。
     私はその手に腕を引かれながら、長い長い階段を下へ下へと駆け下りていく。
     何かが私の体中にまとわりつく。
     振り返ると、上から薔薇のツタが追いかけて来ていて、生きているみたいに私を縛り付けるの。
     首に、腕に、足首に緑が巻き付く。引き抜こうとすると、くい込んだ棘が私の皮膚を掻き裂く。
     無理矢理引きちぎると、ツタが血を流した。
     そうして私は自分の血とツタの血で、真っ赤になりながら進んだ」


    アリスの語りを聞きながら、
    だんだん私は映画を観ているような気分になってきていた。
    イメージが頭の中に沸き上がる。

    抑揚の無いアリスのその話し方が、
    かえって想像の中の色彩を鮮やかに仕立てるようで、
    白や黒や赤や緑の絵の具が、
    我を我をと激しく自己主張しながら、
    脳内のキャンパスに無尽蔵に飛び散る。



    「そして、私はようやく階段を下りきって、外に抜け出す。
     今まで私がいたアーチのトンネルを振り返ると、
     それは天まで届きそうな巨大な塔になっていた。
     外の光に包まれた私は、安堵感でその場に倒れ込んでしまう。
     けれど・・・」


    アリスはそこで、一度息を呑んだ。


    「ガーデンの薔薇は・・」


    その声は、まるで怪談話をする時のような、
    不気味な音で響いた。


    「ガーデンの薔薇は、一つ残らず、赤色になっていた。
     白い薔薇なんて、初めから一つも無かったのよ。
     私は地に膝を着いたまま、傷だらけになった自分の体を見る。
     私と薔薇の血でまだらになった肌に、未だ赤い雫が点々と落ちて広がる。
     私はゆっくりと天を仰ぐ。
     青く晴れた空から、血の雨が、その生々しい匂いと共に、
     とどまることなく私に降り注いでいた」










    そこまで喋り終えると、
    アリスが強ばらせていた体を少し柔らかくしたので、
    私もいつの間にか緊張でしばし止めたままにしていた息を吐いた。


    「・・そこで、目が覚めるのね?」

    「そう。この夢を見た時はいつも、
     絶望感と吐き気を纏って目を覚まして、それから私は一日を始めるの。
     でも今日は、階段の途中で、ルーイが起こしてくれたから」

    「そぉ・・」


    正夢だとか、夢占いだとかには全くもって興味も信仰も無いが、
    背後に何かがあるとは思わずにはいられない、

    なんとも不吉な夢だ。



    「・・・ったのかもしれない」

    「え??」

    「こうやって、ただ抱き締めてくれる誰かを探していたのかもしれない」






    所長に比べれば私など、
    アリスとはまったくもって希薄な関係で、

    寝起きに彼女のあくび姿を見ることも出来ないと、
    心の中で愚痴りはしたが、


    まさかその半日後に、

    あくびどころか、
    真夜中に腕に抱いた彼女の香りに包まれて、


    そしてこんな言葉を贈られる立場になろうとは。



    胡散臭い占い師でも自称予言者でも何でも、

    この異例の昇格を前もって予測できた者がいたなら、



    朝のニュースの血液型占いさえ毛嫌いする私は、

    今すぐアンタの信者になって、


    ちゃちな水晶玉でもカードでも、


    自費出版の自伝小説だって何だって片っ端から買い占めてやるさ。





    だから私に力を貸して、

    アリスの眠りを脅かす悪夢の正体を暴いてくれと、



    投げやりな気持ちで私は祈った。

引用返信/返信 削除キー/
■17842 / inTopicNo.28)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(327回)-(2007/02/01(Thu) 00:39:58)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    あーあ、勿体無いなぁ・・・これだけ凄い作品を書いているのに
    1ヶ月あいたから一般になっちゃった

    今回は純粋に感想です
    夢の描写を拝読して【凄い!やっぱり志乃さんは天才だ!】と思いました

    ルイ子がアリスの話しを聞いて情景が浮かんだように
    私にも、その情景がカラーで浮かびましたので・・・

    お仕事は少し落ち着かれたのでしょうか?
    如月、これからが寒さの本番です
    どうぞ御自愛下さいませ
引用返信/返信 削除キー/
■17843 / inTopicNo.29)  NO TITLE
□投稿者/ ビヨンセ 一般♪(1回)-(2007/02/01(Thu) 00:51:20)
    初めまして★
    もう毎日毎日ALICE読みたい為に寝る前ここ開いてます!!
    更新されてた日にゃぁテンション上がりまくりで読ませてもらってます!!
    毎回読み終えるのがもったいない程大好きです(>_<)
    これからもあおい志乃さんのペースで更新頑張ってください(^O^)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■17847 / inTopicNo.30)  ALICE 【44】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(14回)-(2007/02/02(Fri) 04:27:30)
    あまりに意外なアリスのセリフに、


    驚嘆や狂喜や請願など様々な感情でごった返していた私の頭は、

    適切な返事をすぐに思い浮かべる事が出来ず、


    私は言葉を返すタイミングを失った。




    その間を拒絶と感じ取ったのか、

    一瞬の隙をついて、
    アリスは身を翻して私の腕の中から抜け出し、

    顔を背ける。


    懐きかけた野良猫が、
    人間に対しての警戒心を再び思い出し、
    突然爪を出すような、

    愛らしいが心がチクリと痛む仕草だった。



    「いや、それくらいお安い御用だけど」


    慌ててアリスの肩に手を伸ばすと、
    彼女がビクッと全身で小さく身構えたので、
    私はその腕を引っ込めた。


    「怖い夢でうなされてたら、所・・誰だって、抱き締めるくらいするでしょう?」

    「抱き締めた後に、必ず続きがある」


    相変わらず抑揚の無い声で、アリスがそう答える。



    ・・・続き、か。


    真夜中に怯えて震える娘を、
    ただで慰める事をせずに、
    毎回sexに流れ込ませるというのか。

    ダイナも所長も、そんな野蛮な人間ではないだろう。

    恐らく、だが。


    ただ、
    急に自分に縋り付いてきたアリスの行為に見当違いの応えを示し、
    つまり誘惑だと受け止めたという事だが、
    アリスの性格から言って、そう展開した時に、

    「ただ抱き締めていて」

    などとは言えず、
    求められるがまま体を開き、心を閉ざす。

    ・・・という事なら、十分ありえる話だ。


    だいいち、

    ダイナも所長も、
    このアリスに、弱々しい部分があるなどとは、
    夢にも思っていないのではないだろうか。

    容姿と同じように中身まで、
    無表情で無感動な、
    何も感じない、傷付いたりなどしない、
    人形のような存在だと、
    そんな意識をアリスに対して抱いているように感じられる。

    きっとそれは、
    アリス自身にも原因があるのだ。

    自分を金で買った女達に、
    機械的な態度を取っているのは、
    それはアリスの自発的な行動であって、
    そんなアリスに女達は余計に精神を乱される。


    そういう悪循環を、
    繰り返してきたのではないだろうか。

    所長もダイナも、
    それ以前の、私の知らない数々の女達も。

    そうしてアリスは何年もの間、
    たった独りで悪夢の恐怖を耐え忍んできたのだろうか。


    どうして、なぜ、誰も、
    無表情の仮面の下に隠された、
    アリスの寂しげな顔に気付かないのだろう。


    どうして、なぜ、アリスは、
    こんなにも不器用で、
    そしてこんなにも、
    その不器用さを隠す事において器用なのだろう。



    目の前の少女が、
    とてつもなく不憫に感じられて、
    今度は私から、
    思いっきり抱き締めてやりたいという衝動に駆られた。


    「ね、抱き締めてイイ?」


    先刻のアリスに負けじと劣らずの、
    そんな驚きのセリフが私の口を突いて出る。



    「・・何って?」 


    アリスが怪訝そうに眉をひそめる。




    その素直すぎる表情が、
    更に私の衝動を後押しした。


    そして素早くアリスの背後に回った私は、

    腕を開いてガバッと乱暴に彼女の肩に巻き付けた。



    「ぅあ!何!?暑苦しいルーイ!」

    「うるさい!この小娘が!」


    額をゴツンとアリスの後頭部にぶつける。


    「イッタっ。ルーイってバーカ!バーカ!!」


    私に羽交い締めにされながら、

    アリスは跳ねるような声を上げて笑った。




    “さっき泣いた子がもう笑う” そのものだ。




    アリスがこんなに喜怒哀楽を表に出すのは、

    もしかしたら私といる時だけなのかもしれない。





    ―――なんて、





    そんな風に感じるのは私の思い上がりだろうか。
引用返信/返信 削除キー/
■17848 / inTopicNo.31)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(15回)-(2007/02/02(Fri) 04:30:58)
    あら、名称って期間を置くと一から出直しなんですね。
    知らなかった。

    天才??
    まさか。まさかまさか。
    それより天災ですよ、心配なのは。
    これだけ降雪量が少ないと、
    今に物凄い事が起こるんじゃないかと、
    そんな気がしてなりません。
引用返信/返信 削除キー/
■17849 / inTopicNo.32)  ◆ビヨンセさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(16回)-(2007/02/02(Fri) 04:36:05)
    まぁ、なんて嬉しい事を言って下さるのでしょうか。
    どうもありがとうございます。

    しかし、毎晩無駄に更新チェックさせてしまっているとは・・
    申し訳ない。。

     これからは貴方のその労苦を無駄にせぬよう、
     ちゃきちゃき更新します!

    と宣言できればいいのですが。
    ほら吹きにはなりたくないので、誓えません。

    ゆるりと見守って下さいね。
引用返信/返信 削除キー/
■17855 / inTopicNo.33)  あおい志乃さま
□投稿者/ ぶきっちょ 一般♪(1回)-(2007/02/04(Sun) 18:26:51)
    はじめまして、
    ぶきっちょと申します。


    前々から読ませていただいたんですが思い切っての感想を書かせていただきます。



    全ての登場人物の方を大好きに愛おしく思えてしまう作品ですね、
    私的に誰がいいとか悪いじゃなくて皆がぶきっちょは大好きです。


    女の職場で働くぶきっちょとしては何だか親近感も湧いてしまいました。


    更新楽しみに待っていますが、
    あおいさんのペースで待っていますのでどうかお気使いなく★



    あなたの綴る文章が大好きなぶきっちょでした。





    ―でわでわ。




       ぶきっちょ

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■17882 / inTopicNo.34)  Re[1]: あおい志乃からご挨拶
□投稿者/ 綾乃 一般♪(1回)-(2007/02/09(Fri) 10:43:33)
    いただいたメールを不注意で消してしまい返信できませんでした。
    申し訳ありません。
    これで投稿できるようになりましたでしょうか?
引用返信/返信 削除キー/
■17886 / inTopicNo.35)  ◆綾乃さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(18回)-(2007/02/11(Sun) 00:21:02)
    ありがとうございます。
    おかげで不具合は解消されました。
    お手数おかけ致しました。
引用返信/返信 削除キー/
■17888 / inTopicNo.36)  ALICE 【45】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(20回)-(2007/02/11(Sun) 00:29:31)
    「ね、アリスってさ」


    上体を倒して私の胸にもたれる、
    アリスの後頭部に顎を乗せながら、声を掛けると、


    「ん?」

    と、アリスが私を見上げた。


    「名前、アリスって名前さ、自分で付けたって?すみれちゃんが前にそんな事言ってた。それホント?」

    「んーー、そういえば言ったか」

    「言ったんだって。ホントに自分で付けたの?」


    顔に掛かった髪を指で払いながら、

    「そうだよ」 とアリスが答える。


    「へぇ・・。それってさ、名前の候補を書いた紙を沢山床にばらまいて、
     で、赤ん坊のアリスがハイハイして、最初に辿り着いた・・」

    「違うよ」


    まだ話し終わらない内に、アリスが私の言葉を遮る。

    「違うの?じゃあどんな方法で?」

    「方法って、普通にだよ。気が付いたら私の名前が無かったから、だから自分で考えただけ」


    ・・・んん?

    どういう、事だろう。
    気が付いたら名前が無かったって、いったい何歳の時の話だ?

    「三つになる頃だったと思うけど」

    私の心を見透かしたように、アリスが言う。


    「え??3歳?」

    「多分ね。【Alice's Adventures in Wonderland】が私のイチバン好きな本だったから。
     本文全部書き写すくらい気に入ってた」

    「ちょっ・・待って。え?話が、分からないんだけど」

    「だから、本の登場人物の名前を貰っただけだって」


    なんだそれは。余計に頭が混乱してきた。


    「待って、それってさ、3歳のアリスがさ、本を読んで、そこに出てくるヒロインを真似て、
     “そうだ、私の名前コレにしよーーっと”、って、そういうコト??」

    「アハハっ何その下手な芝居。ルーイって変ね」


    小馬鹿にしたようにフフンと笑って、
    アリスが私に向き直って座る。


    「変なのはそっちでしょう。なんで名前が無いのよ」

    「なんでって、そんなの、誰も付けなかったからでしょう?」

    「親は?読み書きの出来る3才児を育て上げるほどの親が、
     名前を付けないなんてあり得ないでしょう?」


    と、言ってしまってから、

    ああしまったと、私は後悔した。


    アリスの瞳がサッと曇るのが、
    見て取れたからだ。


    慰安旅行の温泉宿、
    乳白濁の湯で温まった体に五月の夜風を感じながら、
    並んで歩いた月夜の晩に、

    アリスは言っていた。


    “自分の事を心配する親はいない”


    と。


    やはりあれは、
    両親の存在が既に無いという意味合いだったのか。


    「アリス、ごめ・・」

    「読み書きは自分で覚えた」 謝り切れぬうちにアリスが早口で語る。

    「うん、デリカシーの無い事言ってごめん。両親をそんなに早くに亡くしているって、知らなくて」

    「生きてたけど?」

    「・・え?」


    話の展開に付いていけず、
    瞬きを繰り返した私をチラリと一瞥して、


    「男が死んだのは私が十の時だから」


    そう呟いたアリスは、
    自分の膝に肘を付いて頬杖を付く。


    「男・・お父さん、よね?」


    無言でいるが、否定しないところを見ると、
    どうやらその解釈で間違ってはいないようだ。


    「親がいたのなら、どうして?」

    「どうして?」

    私の質問を反芻したアリスの声には、
    まったく感情が込もっておらず、
    それでもアリスの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

    その冷たい微笑みに、
    私は一瞬呼吸を止めた。


    「男は月に一度の頻度で食糧を運んできたわ。
     数十キロの米の袋だった事もある。
     私の事を雀か何かだと思ってたのかしらね」


    そう言って小首をかしげたアリスは、
    短くアハハと乾いた笑い声を上げた。


    一緒になって笑っていいのかどうなのか、
    場の雰囲気を読み損ねた私は、
    泣き笑いのような微妙な表情をしたのだろう。

    「へーんな顔」

    そう言ってアリスが悪戯っぽくニィっと唇の端を上げたので、
    ホッとした私は、

    “お米って、冗談でしょ?”

    と軽口を叩こうとし、
    口をつぐんだ。


    次の瞬間にはもう、
    アリスの顔から笑みが跡形もなく消え去っていたからだ。


    「それから男は私を魔女の所に幾たび連れ出した」


    真夜中の夢を語った時と同じように、
    アリスは再び淡々と語り出す。

    けれど、
    恐怖におののいていた先刻とは違い、
    その目は深い憎しみの感情をたぎらせているように見えた。


    「そんな者が、まともな名前を付けられる訳がない。
     あの男が魔女の名で私を呼ぶ度に、私は自分が汚されていくのを感じた。
     あの男は死んで当然だったのよ」


    アリスの口から流れ出る言葉は、
    まるで現実味が無く、
    これもまた悪夢の解説の続きなのだろうかと、
    そんな疑いが私の頭に浮かんだ。


    けれど目の前で目を鈍く光らせるアリスが、
    あまりに美しく、この生活感の溢れかえる部屋に似つかわしくないので、

    アリスがフィクションを語っているというよりは、
    彼女自身がフィクションの世界の住人のようで、

    だんだんと彼女を遠くから見つめ出している自分に私は気が付いた。


    アリスと自分の間に下りかける見えないベールを、
    私は瞬きで振り払う。


    「魔女って、アリスのお母さん・・?」


    久々に発せられた私の相槌に、
    アリスが大きく目を見開く。

    「まさか!!」

    「あ・・ごめん」


    信じられないという顔つきでアリスが声を大きくしたので、
    私は咄嗟に気弱な声を出す。


    「母は、男と魔女の被害者だった。母は体が弱くて・・。
     とても弱い人だったから、だから私を育てられなかったんだ」


    憎しみの込められていた瞳が、
    瞬く間に悲しみの色に様変わり、

    そしてさらに嬉々とした輝きを放った。


    「見る??」


    弾んだ声でそう尋ねたアリスは、
    私の返事を待たないうちからベッドを跳ね降り、
    ハンガーに吊されていた自分の上着をまさぐりだした。


    「お母さんの写真でも持ってるの?」

    そう聞き返しながら、
    まさかアリスに限って、
    そんなあからさまに健気な習慣など持っていないだろうにと、
    私は首を振った。

    瞳をキラキラさせながらベッドへ戻って来たアリスが、
    握りしめていた左手を、私の顔の前でパッと開く。


    そこにあったのは、
    見覚えのあるシルバーの小さな円筒。



    ―――これは・・



    そうだ、ダイナに追われていたアリスを拾ったあの日、
    彼女が車に置き忘れていた、
    あのリップスティックだ。


    「これ、お母さんのモノだったのね」

    私の言葉には答えずに、
    アリスは軽く指で捻って、スティックのキャップを外した。


    と、そこから姿を現したものは、


    アリスの唇の色をしたピンクの紅ではなく、

    筒に沿って丸められた、小さな紙のように見えた。



    白く細い指をゆっくりと動かし、

    宝の地図をもったいぶった仕草で見せびらかすように、


    アリスは誇らしげな顔で、



    それを私の顔の前で広げて見せた。

引用返信/返信 削除キー/
■17889 / inTopicNo.37)  ◆ぶきっちょさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(21回)-(2007/02/11(Sun) 00:34:40)
    思い切って声を掛けて下さって、
    ありがとうございます。
    とっても素敵な感想を述べて下さって、
    ありがとうございます。
    励みになります!
引用返信/返信 削除キー/
■17947 / inTopicNo.38)  ALICE 【46】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(23回)-(2007/02/18(Sun) 01:26:53)
    それは、


    一枚の古い写真だった。



    白と薄緑のグラデーションに染められた、
    上品な振袖に身を包んだ、
    とても、とても美しい女性が、

    趣のある和室の畳の上に正座をして、

    写真の中からこちらに微笑みかけていた。


    そんなはずはないのに、
    私はこの女性と、
    以前どこかで会った事があるような気がした。


    「“真っ白”って書いて、真白、ましろ。母の名前。私の、母の名前」



    【真白】



    本当に、その名に相応しい人だと感じた。


    “色白”と言うよりも“白色”の肌。
    新雪のように真っ白な肌。

    アリスと、よく似ている。



    ―――この人が。アリスを産んだ人。



    変な、感じだ。


    そりゃあアリスだって人の子だと、
    分かってはいたけれど、

    けれど、

    本当の本当は、
    物語の中から突然飛び出して、
    この世界に迷い込んでしまった、

    アリスって、
    そんな架空の人物なんじゃないだろうかと、

    私は心のどこかでそう思っていたのかも知れない。



    そうか、

    この人からアリスは産まれたんだ。



    母はとても弱い人だったと、アリスが言ったように、
    写真の中の彼女は着物の上からでも分かる程華奢な体つきで、
    その笑顔も儚げだった。


    【佳人薄命】のごとく、

    病ゆえの短命だったのだろうか。



    私は写真に手を添えて、
    今一度真剣に、今は亡きアリスの母親を見つめた。





    「ルーイ、見過ぎ」

    悪戯っぽくそう言ったアリスが、
    私の手から写真をサッと引き抜いて自分の胸に押し当てる。


    「あぁ、ごめんごめん」

    「私に似てるって、そう思ってたんでしょう」


    明らかに同意の他は期待していないその問いかけに、

    私は笑って、「そうね、そっくり」 と答えた。


    「でしょう。私、母親似なんだよね」


    幼い子供のように、アリスが顔をほころばす。


    確かに、
    アリスと真白はとてもよく似ている。
    だが、写真を見た瞬間に、
    彼女の顔と、誰か別の人物が、
    強烈に私の記憶の中でダブった気が、した。

    すごく、この真白という女性に似た誰かを、
    私は知っている気がするのだ。

    しかし、
    確信も持てないそんな余計な戯れ言で、
    こんなに無防備に笑うアリスの眉をひそめさせるなど、
    馬鹿らしい以外の何ものでもない。


    「本当、よく似ているよ」


    私はもう一度そう繰り返した。


    「この写真はメリーがくれた」

    「メリー?」

    「そう。メリーは私以外で私のことを“アリス”って呼んでくれた初めての人」


    私の頭の中にクエスチョンマークが無数に浮かんでいる事など知らないアリスは、
    満足げにそう言うと、
    真白の写真をクルクルと丸めて再びリップスティックの中に仕舞った。


    「そのケースも、お母さんの物なの?」

    「これ?うん、そう。多分。うん。家にあったから」


    するとアリスは急に、
    輝いていた目の光を失い、表情に影を落とした。

    「私・・」


    そう言って言葉を切ったアリスを、
    私は無言で見守る。


    「私、母のこと、覚えていないの」

    まるで、
    許し難い大罪を告白するように、
    アリスは小さくそう言った。


    「2歳の時までは、一緒に暮らしていたはずなのに。気が付いたら、私一人で・・」

    「ちょっと、待ってアリス…2歳?2歳でしょう?
     そんなの覚えてなくて当然よ。いくら貴女が天才児だったとしても・・」

    「ううん、そうじゃないの。
     メリーのことは覚えてるの私。母親と暮らしてたことも、覚えてる。
     でも、どんな風にそうしていたのかが思い出せない、記憶が無い。
     以前はここにいて、今はもういない。それだけはハッキリと分かった。それだけ。
     私がこんなだから、母を余計苦しめたのかもしれない。きっとそうなんだ」



    いったいメリーって誰なの?
    そもそも、それは人の名前なの?
    “余計”苦しめたって、
    じゃあ貴方の母親を煩せたというその他の主な要因は何なの?
    それがアリスの父親と魔女なの?

    だから魔女って、何なのよ。


    質問は山のようにあるが、

    抽象と具象の糸が不規則に織り混ざったアリスの話に土足で踏み込んで、
    リアリティを与えてくれと、
    そんなデリカシーのない要求をする勇気は、
    私にはない。

    アリスに自身の内面を明かす許しを与える、
    この雰囲気を壊さないよう、慎重に行動せねば。


    夢か現実か、区別が付かないようなストーリーを語る、
    架空の存在か実在か、区別が付かないほど美しいアリス。

    いっそのこと、この少女を含め何もかもがお伽話であったなら、
    こんなに頭を悩ます事もないのにと思いつつ、

    いやしかし、
    現にアリスは私と同じこの世界に生きる人間なのだから、
    彼女を取り巻く黒い霧の正体を暴いて、
    もっとアリスの実質に触れたいと、
    必死に現実を追い求める私。

    異質な空気の漂う部屋の薄明かりに、
    真っ赤な薔薇や、
    箒に乗った魔女の幻が浮かんでは消える。


    なんてサイケデリックでアカデミック。


    絵心に乏しい私も今なら、

    マルク・シャガール顔負けの、
    夢、色彩溢れる印象的な絵画を、

    巨大なキャンパスに踊らせる事ができるかもしれない。



    けれどやっぱり絵心の無い人間の住まいには、
    絵の具もキャンパスも揃っていなくて、

    そしてそれらの材料がたとえ揃っていたとしても、
    絵心のない私は絵筆を握る気にもならない訳で、

    ただただアリスの中心に近付く為に、
    無難な質問が何処かに落ちていないかと、
    試行錯誤を繰り返すのだ。


    やはりここは、
    一番具体性を持つ、真白に焦点を絞った方が良さそうだと、
    私は判断した。


    「2歳の時に、お母さんは・・亡くなったの?」

    「母は、魔女の名が付いた私を傍に置いておくのが怖かったんだと思う。
     だから、出て行ったんだ。
     その途中で、男と魔女と仲間達に捕まった」


    ・・・また、男と魔女のご登場だ。


    それでもアリスが本当に全てを淡々と語るので、
    ぼぅっとしていると、
    その内容が現実離れしている事をつい忘れてしまいそうになる。

    ファンタジックな物語を話すファンタジックに美しいアリスを、
    ただ見つめていたい気持ちになるのだ。


    が、そういうわけにはいかない。



    きっとアリスは、

    何らかの助けを必要としているのだ。


    ―――と思うのだが…。



    それにつけても、

    アリスの話は滑稽である。


    ―――魔女の名前?


    “アリス”という名のどこが、
    そんなに恐ろしい名前なのだろう。


    ―――母親が男と魔女と仲間達に捕らえられた?


    “男”は父親だとして、
    やはり“魔女”が鍵のようだ。


    この暗号の解き明かしをしてくれと、
    アリスに問いかけようものなら、
    その瞬間からアリスが口を閉ざしてしまいそうで、
    今は訊くに訊けない。

    それに、アリスは最初から、
    暗号を語っているつもりも意識もなさそうだ。


    本当に、言葉を慎重に選ばねばならない。



    もしかすると裁判の時よりも、
    脳をフル回転させているかもしれない、
    そんな私の奮闘など知らないアリスは、
    とろんとした目をして、
    長い睫毛を数回瞬かせる。


    「ねむたくなった?」


    私の太股を枕にして寝転がるという動作で、
    アリスは質問に答えた。


    「母は・・」

    仰向けに寝転がったアリスが、虚ろな目で口を開く。








    「逃げ出す途中で魔女に殺されたんだ」

引用返信/返信 削除キー/
■18072 / inTopicNo.39)   ALICE 読んでます☆
□投稿者/ ゆらら ちょと常連(82回)-(2007/02/21(Wed) 14:20:21)
    アリスの過去が少しずつアリスの口から語られてきて

    ルーイもますますアリスに惹きこまれてきましたね☆

    またまったりと、楽しみにしています☆
引用返信/返信 削除キー/
■18108 / inTopicNo.40)  ALICE 【47】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(24回)-(2007/02/24(Sat) 02:40:09)
    ・・・“殺された”。



    今夜アリスが語る奇妙な物語の中で、
    とうとう人が殺された。

    真白は、
    病死ではなかったのだろうか。

    アリスの話が文字通りの意味を持っておらず、
    ただ彼女の精神の闇を象徴的に表しているだけなのだとしても、

    “殺す” だの “殺される” だなどの表現が、
    好ましいとは決して言えない。

    ましてや、それが文字通りの意味合いなのだとしたら・・・。



    アリスが巻き込まれた、
    あるいは今尚その渦中にいるのかもしれない状況を感覚的に想像した私は、
    何とも言えない不安を感じた。


    アリスの背後には、きっと恐ろしく冷たい何かがある。

    アリスの園の中心に近付けば近付くほど、
    ここが、
    “花咲き乱れ、蝶舞い踊る”楽園ではないのだという、
    過酷な現実をじわりじわりと突き付けられる。

    頭上に立ちこめる暗雲の、
    計り知れない大きさに、
    圧倒されそうになる。


    けれど、

    そこから目を背け逃げ出す気持ちが、
    この心に微塵も存在しない事に気付き、
    数か月前までの、誰にも深入りせず心乱さず歩んできた自分と比較すれば、
    その変化には我ながら驚かずにはいられない。


    「真白さんは、逃げて何処へ行くつもりだったのかな」

    返事がないので、
    眠ってしまったのだろうかと思ったが、
    少し間を置いた後でアリスが呟いた。


    「母は私を・・私を・・・」

    「迎えに来ようとしてたのかな」


    妙な沈黙が流れる。

    まずい事を言ってしまったのだろうか。


    もしや、
    真白の死は、
    『道路に飛び出した幼い我が子アリスを救おうと、
     身代わりに車に跳ねられる』
    などという悲劇だったのだろうか。

    ありえなくはない。


    「・・ったらいいな」

    「え?」

    「私を迎えに来るつもりだったのなら、いいのに。・・・ありっこないけど」


    どうやら、
    交通事故説は流れたようだ。

    私は自分の仮説の陳腐さを秘かに恥じた。


    「あの日から、母は今日まで死に続けている」


    ―――“死に続ける”


    妙な表現だ。
    人は死んでしまえば何も続けられないというのに。


    もう少し具体的な答えを引き出す質問ができないだろうかと思ったが、
    気が付くとアリスは寝息を立て始めていた。


    相変わらず、寝付きがい・・





    「“曲がりっぱなしの廊下を私は黒い腕に引かれて走る”」



    突然の声に、ギョッとしてアリスを見下ろす。



    「“そして回りながら下へ下へと墜ちていく”」



    しっかりと目を閉じたアリスの口が、
    まるでそこだけ別の生き物のように動いた。




    私は、アリスの唇を見つめながら、
    しばらく視線を他へ移せないでいた。


    今のは、何だったのだ。


    確かにアリスは眠っている。

    ただの寝言と言うのには、
    どうもしっくり来ない、妙な違和感を感じる。


    アリスの口が語ったのには違いないが、
    もっと、アリスの潜在的な部分から発せられたとでも言うような、
    ああ、何と言えばいいのか、
    まるでアリスの体内にレコーダーが埋め込まれていて、
    そこに吹き込まれていた音声が流れ出したとでも言うような。


    そう、つまり、酷く機械的な感じがしたのだ。


    落ち着かない気分になった私は、
    ソッとアリスの手首に指を添えて、
    その熱と生ける血液の動きを感じ取り、胸を撫で下ろす。




    ダメだ、途方に暮れそうだ。

    謎が多すぎる。



    だが一つだけハッキリした事は、

    アリスが、母親の愛を切ないほど縋り求めていたという事だ。



    アリスの母親―――真白。


    写真で見る彼女は、本当に美しい人だった。

    アリスとよく似ていた。






    ―――“この人、アリスに似てますね”



    不意に私の記憶の中で誰かがそう呟く。



    ・・あれ?

    これは、誰が言ったセリフだったか・・。


    そうだ、すみれちゃんだ。

    あの時は確か、化粧品のテレビCMに出ていた女優の誰かを見て、
    彼女がそう言ったのだ。


    化粧品、か。









    ―――その時、


    私の頭にある人物の顔が閃いた。
引用返信/返信 削除キー/

<前の20件 | 次の20件>

トピック内ページ移動 / << 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 >>

[このトピックに返信]
Mode/  Pass/

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

- Child Tree -