| その人は、
記憶の中で、 私を取り囲むように見つめていた。
―――ああ、あの時、 所長が私の胸にかすみ草を挿したあの夕暮れの帰りの車内、 運転席の窓から見た、何十枚もの同じポスター。 そこから私を見つめていた無数の瞳。 ああ、まさにあの女性、 名前は、名前は・・ クレノ・シン。紅野心。 そう、この有名な女優が、アリスの母親・真白と似ているのだ。 雰囲気こそ全く違うが、 顔立ちの特徴がかなり一致する。 というより、この紅野心、アリスともよく似ている。 それもそのはず、 母親と似た顔立ちの人間に、 その娘が似ているのも無理はない。 しかし、 どちらかと言えば、 アリスと真白を直結して考えるよりも、 二人の間に紅野心を置いて、 間接的に三人を繋げる方が、しっくりくる。 つまり、 真白と紅野心が似ていて、 紅野心とアリスが似ている。 そんな感じなのだ。 本当に、とてもただの【他人の空似】だとは思えない。 血の繋がりを感じずにはいられないのだ。
どうして今まで気付かなかったのだろう。
こんな事って、あるのだろうか。 私の腿を枕に、 無警戒にすやすや寝息を立てるアリスの寝顔を見つめながら、 私は堪りかねて呟く。 「何が何だか、分からない」 本当に、分からない。 この巨大な迷路の全体図が、朧気にも見えてこない。 けれど、 迷路の中心にいるアリスは、 きっと私に手招きをしている。 いや、 そこから連れ出して欲しいと、 私に訴えかけていると、そう感じるのだ。
ねえアリス、
そうなんでしょう?
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