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■19755 / inTopicNo.81)  ALICE 【58】
  
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(26回)-(2007/08/11(Sat) 02:09:34)
    「もしかして、私がどこの事務所に所属してるのか、ダイナに言っ・・」


     −勿論!−


    雪花のしてやったりな声が響いた。





    ・・ああ、やってしまった。





     −自慢出来る部分は、しとかないとね。ん?何?まずかったの?−


    「いや、大丈夫」



    勿論、全然、大丈夫ではない。


    あまかった。

    こんな経路でボロが出るとは。



    忘れていた先刻までの検察官とのやりとりが、
    再び思い煩いとなって胸に舞い戻って来る。

    思考がマイナスになってきた、分かり易い証拠だ。



    「ダイナは、どんな反応だった?」


     −“へぇ”ってさ。リアクション薄くてガッカリだったわ。彼女、加賀美絢のこと知らないのかもね。忙しいモデルだし−


    「そう、ね」



    勿論、知らないハズがない。




     −とにかくさ、ちゃんと連絡入れるのよ?−


    「ははは」



    笑うしかないだろう。




     −笑ってんじゃないわよ。じゃあね。 ・・ っと、それから−


    「何?」


     −前も言ったけど、喰われるなよ−


    「…ご忠告どうも」


     −じゃ〜ね−




    “既に喰われました”

    などと言える訳もなかった。







    なんと言う事だ。


    とりあえず頭の中を整理しよう。


    私の立場は今、どれだけ危うい所に位置するのか。



    まず、

    加賀美所長とアリスが、私の知人である事は、
    間違いなくダイナに知られてしまった。


    雪花の寛大な“フォロー”のおかげで。


    『ありがた迷惑』とはまさにこういう事を言うのだ。

    口止めをしていなかった自分が悪いのだけれど。



    しかし、ダイナがあの夜語った、
    忘れられない過去の登場人物が、

    他でもない加賀美絢とアリスであると、

    私が知っているという事は、まだダイナの知る所ではないのだ。



    勿論、訝しがってはいるだろうが。


    あの夜の自分を振り返ってみる。


    忘れられない元恋人、つまりアリスの事を、
    むやみに聞き出そうとしてはいなかっただろうか。

    不自然なほど、アリスの話に食い付いてはいなかったろうか。


    意識的に控えてはいた為、大丈夫だとは思うが、

    酔うほどでは無かったとは言え素面ではないのだから、
    完璧に演技を出来ていたとは断定出来ない。


    それはダイナも同じだが。


    だいいち、

    話の最後でそれまで“アイツ”と呼んでいた忘れられない女を、
    つい“アリス”と無意識のうちに口走ったのはダイナの方だ。


    ああ、でも、

    ダイナのこのミスで、私の言い訳の幅がかなり広がるのだろう。




    そうだ、相手がダイナであれば、

    いくらでも誤魔化しが利く。


    例え、


    全てが始まったあの日に、
    アリスを乗せて真っ青なスポーツカーを振り切ったのが私だと、ダイナが知ったとしても、

    大した事ではない。


    彼女が復讐にどれだけ精を注ぎ込む性格かは分からないが、
    殺されはしないだろう。



    そう、ダイナは、問題ではないのだ。

    アリスに知られなければよいのだ。


    言い換えれば、


    アリスにだけは知られてはいけないのだ。



    ダイナと寝たことを。



    それを防ぐ為には、やはりダイナを何としてでも誤魔化さねばなるまい。






    だけど、



    私とダイナの一夜を知ったからと言って、

    アリスが何をする訳でもないとは思う。




    だから、ただ、私が嫌なのだ。

    アリスに知られたくないのだ。


    なぜ?


    それは、多分・・・



    アリスには、

    私といる時に、安らぎを感じて欲しいと、願うから。



    それから、

    アリスの心に傷を付ける可能性のある事は、

    少しでも避けたいというのが私の本音だ。




    本当の信頼や安らぎを求める場合、

    男女の関係、
    いやこの場合、女女と言うべきか、

    恋愛関係、しいては肉体関係は邪魔だ。


    アリスは少なくともダイナに好感を持ってはいないだろうし。



    事は、慎重に運ばねばならない。



    まず、今私に迫られている決断は。



    ダイナに連絡をするか、しないか。



    これは、前者だろう。


    今ダイナに反感を持たれては、
    どこでアリスにあの一夜が伝わるか分からない。


    それから、ダイナからはもう少し、得られるかも知れない情報もある。


    次に、


    あの夜ホテルでダイナが語った過去の恋人と、彼女を奪った人間が、
    自分の同僚と上司だという事実に、

    私は気付いてるのだと打ち明けるか、それとも白を切るか。


    アリスに関する情報を得る目的でダイナと接触するのであれば、

    これも前者を選ぶ事になる。


    肝心なのは、打ち明ける程度だ。


    ダイナの気分を害さない方法を取らねばならない。


    まぁ、既に現時点でダイナが私に敵意を抱いていたなら、
    元も子もないが。


    雪花から私の所属事務所を聞いて、

    どれ程警戒しているか、だな。


    案外、
    ただの偶然としか考えていないかもしれない。



    推測したところで、前にも後ろにも進まない。



    隣のソファに置いていたバッグをたぐり寄せると、


    お待たせ致しましたと、女性の店員がテーブルの上に白い深皿を置いた。


    「13番のお客様、真イカと海老のシーフードサラダでございます」


    彼女は感じ良くニコッと笑うと、
    番号札を回収して去って行った。



    ドレッシングの酸い匂いが食欲を刺激したが、

    フォークではなくバッグの中のシステム手帳に手を伸ばした。



    主に名刺を収納してあるカバーの内側を探ると、

    やはり目当ての物がそこから出て来た。




    “ Dinah 090-xxxx-xxxx ”


    ホテルのウェルカム・スイーツに添えてあった、
    品書きのカードの余白部分に、

    青いペンでそう書かれている。


    私は携帯電話を開いて、
    番号を入力した。


    発信ボタンを押す前に、
    深呼吸する。


    魚介の香りが鼻腔に入り込み、
    余計に胃が下がった。



    ボタンを押して、電話を耳に当てる。





     −Hello!?−


    ワンコール目でいきなり威勢の良い声が響いた。


    戸惑いながらも私は声を落ち着け、

    「ダイナ?」

    と返答した。


     −そうですよ。貴方は?−


    「ルイ子です。分かりますか?」



    3秒ほど置いて、

     −久しぶり−

    と、返ってきた。

    明らかに落とされたトーンから、
    警戒心が伝わってくる。


    「お久しぶり。忙しいと思って、掛けるタイミングが分からなかったの」


     −雪花ね−


    「ええ、今、彼女と電話で話してたところ。どう?元気?」


     −ごめん、今時間無いのよ−


    「あ、ごめんなさい。それじゃあまた・・」


     −来週月曜、この間のホテルのバーで−


    「え?」


     −10時、午後よ。待ってるわ−



    私の返事を待つ気など到底無いという速さで、
    電話は切られた。


    アリスと恋仲になる女は、
    どうしてこうも強引なのだろう。



    とにかく、

    私が加賀美絢の事務所で働いているという事実が、
    やはりただの偶然だとはみなされていない事はハッキリした。



    溜息をついて握ったフォークは、
    私の心のように重かった。


    白いイカの輪を刺して口に含むと、

    やはり私の嫌いな味がした。



    予想もしなかったほどのスピードで整えられた駆け引きの舞台に向けて、

    エネルギーを溜め込むかのように、



    私はそれを黙々と食べ出した。
引用返信/返信 削除キー/
■19756 / inTopicNo.82)  ◆ぎのごさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(27回)-(2007/08/11(Sat) 02:11:10)
    イカ、お嫌いですか。

    私は大好きですよ。
    特にお刺身。

    ヤリイカ、アカイカ、
    こりこり系が好きです。

    タコも好きです。

    ナマコは嫌いです。
引用返信/返信 削除キー/
■19760 / inTopicNo.83)  i love you
□投稿者/ kanan 一般♪(1回)-(2007/08/11(Sat) 22:21:20)
    突然失礼します。カナンという者デス。
    カコログにも戻ってALICE全作品一気読みしまシタ!
    心打たれます、、、すごく奇麗な文章デスね(〃´Δ`)
    小説を読みすすめている間にすっかり虜になりましたデス、、、
    アタシは昼間ふつうのオフィスレディーしてマス。たぶんあおいしのさんより年上↑↑のような気がしますよ。
    あおいさんは言葉遣いしっかりしてますけどかなり若い予感デス。
    アタシはいちお法律のオシゴトに就いています、どじっ子デスが頑張って社会人してます(-ω-;)
    よければアタシのプロフ見てくだサイ!
    前略プロフィールというホームページの8639683デス。
    小説これからもがんばってくだサイ!
    それからそれからもしよければあおいサンのプロフも教えてもらえたら嬉しいのデス!
    それからそれからもしよければあおいサンのプロフも教えてもらえたら嬉しいのデス!
引用返信/返信 削除キー/
■19763 / inTopicNo.84)  ALICE 【59】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(29回)-(2007/08/13(Mon) 04:13:16)
    ホテルの前にタクシーが到着した時、

    時刻は約束の15分前だった。



    ロビーのレストルームで簡単にメイクを直し、

    気合いを入れて、


    25階のバーに辿り着いた時、

    時刻は約束の5分前だった。



    バーカウンターには既に、
    以前と同じ位置に腰を下ろすダイナの後ろ姿があった。


    先回も思った事だが、

    脚の長さが尋常じゃない所為で、
    座っている姿では、185センチもあるとはとても信じられない。


    立たれた瞬間に、グンと背が伸びたように感じる。



    この間の夜も、

    雪花と私が到着した時にはダイナはこの席に座っていたのだが、

    あの時は近付いてみるまで彼女だと判別出来なかった。


    2度目の今は、背中が大胆に空いたトップスを着ている彼女が、
    ダイナであると認識できるが、

    何か、

    前より背中が寂しげに感じる。


    気のせいかも知れないが。




    「こんばんは」


    そう言って右のスツールに滑り込んだ私を向いたダイナの表情は、

    前回一瞬で私の緊張をほぐした、
    人なつっこい笑顔とは、

    全く違っていた。


    高いプライドを全面から放出しているようで、

    そうまるで、

    初めてあったあの町中でアリスの前に立ちはだかった、
    高慢なオーラの彼女に似ていると、

    私は感じた。



    「こんばんは」

    そっけない声でそう返したダイナは、

    ロックグラスに三分の一程残っていた、
    濃いブラウンを飲み干して、

    バーテンダーにお代わりの催促をした。


    グラスを退いたのは、

    この間のシャンプーだった。


    私も彼女にスプモーニを頼む。


    今夜は頭を使うのだ。
    強いアルコールはいけない。



    「時間に余裕を持って行動するタイプなのね」

    「え?」 こちらを向かずにダイナが言う。

    「ダイナ、この間も先に待っていて私を迎えてくれたわ。モデルの世界は時間に厳しいの?」

    「まぁ。弁護士ほどではないと思うけど」



    いきなりの先制攻撃がダイナから飛んできたちょうどその時、

    ダイナと私の前にそれぞれのグラスが出された。


    それに気を取られるフリをすることで、
    私は動揺を誤魔化す。


    「そうね。時には数分の遅れが命取りになったりする」


    ダイナはしばらく肘を付き、
    手に持ったグラスを見つめ、

    それから私を向いて、
    ゾッとするほど冷たい瞳で、


    「一体アンタは何を知ってるの?」


    と言った。



    直球に、私の決意が揺らぐ。


    認めるか、それとも白を切るか。



    しかし、

    “何のこと?”

    と返すには長すぎる沈黙を私は空けていた。



    いいのだ。

    最初から、白を切るつもりは無かったのだから。


    焦るな、私。


    全て計画通り。


    大丈夫、上手くやれる。



    言葉を発する前に一度深呼吸をしたかったが、
    ダイナの手前、堪えた。


    「アリスが今、加賀美絢と一緒に住んでいて、
     その前は、ダイナ、貴女と暮らしていたという事を、知っているわ」


    ダイナは、それ見たことかというように、
    顎を上げて見下すように私を睨んだ。


    「目的は何?」


    「目的・・・やっぱり、何か誤解しているのね」


    「誤解!?」

    ダイナがグラスをテーブルに叩き付ける。


    シャンプーが驚いてこちらを向いたが、
    すぐに目を反らし、ボトルを整理し始めた。

    全身が耳になっているに違いない。



    週初めで、しかも22時を回っているからだろう、

    広いフロアには私たちの他に6人の客しかおらず、
    それも3組のカップルで、

    彼等はバーカウンターから離れた、
    上から下までがガラスの壁に添ったテーブルで、

    25階からの夜景を見ながら各々の世界に浸っている。


    ダイナのアクションにこちらを振り向いた者も居たかもしれないが、

    私が見回した頃には、
    こちらに注意を向けている者は誰も居なかった。


    例えこのフロアが満席だったとしても、

    町中でアリスを拉致したダイナのことだ、



    声を控えめになどしなかったろうが。
引用返信/返信 削除キー/
■19764 / inTopicNo.85)  ◆kananさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(30回)-(2007/08/13(Mon) 04:19:35)
    メッセージありがとうございます、
    綺麗なお名前ですね。

    プロフィール、拝見致しました。
    凄いですね、気の向くままにウィーンにまで行ってしまわれるとは。
    行動力のある人は素敵だと思います。

    私のプロフィールということですが、
    それは身長・体重のような事で良いのでしょうか。
    172センチ、上から90・60・85
    とか言ってみたいものですね。
引用返信/返信 削除キー/
■19765 / inTopicNo.86)  ゎいゎい
□投稿者/ kanan 一般♪(1回)-(2007/08/13(Mon) 10:08:19)
    おはよーございマス!
    コメント返しテンション上がります↑☆
    あおいさんはなんかいつでもクールですね、いいカンジデス。
    アタシは今日は風邪をひいてオシゴトお休みしてしましまシタ、、、
    でもそのおかげで更新読めたからラッキーですね!
    あおいさんのプロフィールも、アタシと同じ前略プロフィールに書いてもらえたら、、、
    無料で登録デキるのでめんどくさくなかったらでいいので(人´Δ`)
    そしてできれば顔写真なんかも見せてほしいデス。
    アップとかじゃなくても隠してたりとかでもヨイですので、あおいさんのイメージを持ちたいというか、スイマセン!
    意味不明デスかね。
引用返信/返信 削除キー/
■19770 / inTopicNo.87)  ALICE 【60】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(31回)-(2007/08/16(Thu) 00:14:23)
    2007/08/19(Sun) 01:53:38 編集(投稿者)

    皮肉めいた顔でダイナが笑う。


    「アリスと、あの女と、毎日顔を合わせている人間が、
     立場を隠して私に近付いてきて、そこに目的が無い訳が、無いでしょう」


    「誤解その1、私は自分の立場を隠したつもりはない、
     誤解その2、この間の夜は、私がセッティングしたものではない」


    「それなら何故・・」 ダイナの声が怒りで震える。

    「何故、加賀美絢を知っていると言わなかったのよ」



    大丈夫、計画通りの展開だ。

    私は自分に言い聞かせる。



    「それはダイナ、貴女が私と彼女達の関係を知らなかったように、
     私も、貴女と彼女達の関係を知らなかったからよ」



    ダイナが逆上する前に、

    「この間はね」

    と、すぐに付け足した。



    「この間、ダイナに初めて会った時、」

    まず、嘘その1、

    雪花を交えて三人で飲んだ晩、私がダイナに会うのは二回目だった。



    「貴女が私の上司と同僚と繋がりがあるなんて、私は全く知らないでここに来た」

    嘘その2、

    過去に所長と一触即発のブッキングを済ませているとは知らなかったが、
    アリスとは何かしらの関係があると踏んでいたし、

    だいいちそれだから雪花の誘いを受けたのだ。



    「貴女が過去の恋人の話をしている時、それがアリスの事を言っているだなんて、私に分かるハズも無かった」

    その3、私から巧みに質問を投げかけて、アリスだという確信を得た。



    「恋人を奪った女が弁護士だったと聞いて、それが私の事務所の所長だなんて、思いつきもしなかった」

    すぐに所長だと考えついた。―――その4。



    「でもね、ダイナ、自分では気付いてなかったようだけど、
     話の最後に貴女、これまで“アイツ”としか呼んでなかった昔の恋人を、一度だけ“アリス”って、
     私の前でそう呼んだのよ」



    眉間に皺を寄せて私の話を聞いていたダイナが、
    ハッとしたように背筋を伸ばした。


    そう、それでいい。




    「“アリス”なんて、そうある名前じゃないでしょう。
     聞いた当座は酔っていて、一瞬考えただけで止めてしまったんだけど。
     ダイナと別れた後、昨晩を振り返って、そしたら色んなピースが繋がってきたのよ。
     “有名な弁護士”だとか、そういうのがね。
     アリスと加賀美所長が恋人同士であることは、仕事をしていて既に知っていたしね」






    法廷で嘘偽りを語らないと宣言する私が、

    私生活ですらすらと虚偽を並べ立てている。




    逆よりは、いいか。


    いや、こっちの方がインモラルか。




    ダイナは推し量るように私を見て、

    「あの女の指示で私に近付いたんじゃ、ないのね?」


    と、静かに訊いた。



    「まさか」


    これは、本当にまさかあるハズもない事だ。


    「所長は私とダイナが顔見知りだなんて、全然知らないわ。
     彼女の口から貴女の名を聞いた事も、一度もない」


    「そう」


    と言ったきり、

    ダイナの表情は未だ晴れないままだ。


    少し彼女を一人にした方が良いかも知れない。

    その方がばつの悪い思いをせずに、素直な彼女に戻りやすいだろう。



    なんて、

    本来ばつの悪い思いをすべきなのは私であるのに、

    何を偉そうに。


    私は心で、自分をなじった。



    「ごめん、ちょっとお化粧直し」



    親しすぎず、
    それでいて感じのよい笑顔を作って見せ、


    私は席を立った。







    レストルームに入って、

    鏡の前に立ち、

    流し台の冷たい大理石に手をついて、



    「はぁーーーーーーーーー」



    と、声に出して緊張を解いた。



    疲れた。


    裁判よりも、気を張っていた気がする。


    アリスの夢の話に耳を傾けていた時程ではないが。




    でも、上手くやった。

    ミスは、無いはずだ。




    多少重苦しい気持ちもあるが、

    別にダイナを陥れようとしているのではないと、

    自分を慰める。


    『嘘も方便』という言葉をずっと嫌ってきたが、

    今夜ばかりはこの諺にすがるしかない。




    もう一度ゆっくり息を吐いて、

    フロアに出て行こうとしたが、


    その前に私は洗面台で手を洗った。

    石鹸は使わず、

    ただ流れる水で音を立てずに厳かに。






    そうする事で、

    今しがたこの口が吐いた偽りを荒い流せる訳が無い事は知っていたが、




    センサーが反応しなくなって流水が自動的に止まるまで、

    無心に私はそうしていた。
引用返信/返信 削除キー/
■19771 / inTopicNo.88)  ◆kananさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(32回)-(2007/08/16(Thu) 00:24:56)
    こんばんは。熱帯夜が続きますね。

    プロフィール、作りました。
    なんだか味気ない感じになったけど。
    画像、全面は出せませんが、
    ホントに小さくて宜しければ。
    5541148です。
    恥ずかしくなってきたら消しちゃいます。
引用返信/返信 削除キー/
■19798 / inTopicNo.89)  ALICE 【61】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(33回)-(2007/08/19(Sun) 02:26:12)
    レストルームからフロアに出、


    席に戻ろうと目線をダイナに向けた私は、

    おやと思った。



    彼女の左横のスツールに座る、人影が見えたからだ。

    空席だらけなのにも関わらず、
    わざわざ詰めて座るという事は、

    知り合いか、

    もしくはナンパでもされているか。



    が、5歩ばかり進んで、


    後ろ姿でも特徴のあるカラーと形から、

    私はそれがバーテンダーの制服であるのに気付いた。



    そしてそれがシャンプーである事にもほぼ同時に気が付いた。



    二人は頬がくっつくほど顔を近付けている。


    『あの大嘘つきめ』と、

    小声で私の噂話でもしているのだろうか。




    まさかとは思いつつも、少し不安になる。




    それにつけても、

    一流ホテルのバーテンダーが、
    客の話し相手になるのにカウンターを抜けるとはどういう事か。

    こんな時リリーだったら一言そう物申しそうだな、

    などと考えながら進んだ私は、


    彼女達の4メートル程手前まで来て、


    我が目を疑った。





    二人がくっつけていたのは頬ではなく、

    唇だったからだ。



    彼女達のキスは、

    糸を引く音が今にも聞こえてきそうな程激しく、

    その生々しいシルエットに見ているこちらが赤面してしまいそうだ。




    幸い他のカップル達は誰も気が付いていないようだが、

    それも時間の問題だろう。



    これは、どうしたものか・・・。



    それ以上進むに進めずに立ちつくしていると、


    唇を合わせたままダイナの開いた背中に腕を回し、

    顔の向きを反転させたシャンプーと、私の、



    目が合った。



    彼女は慌てて腕を外し、

    唇を外し、


    それからダイナに何か耳打ちすると、

    自分の持ち場に早足で戻って行った。



    カウンターコーナーを曲がる際にもう一度私と目が合ったが、

    ばつが悪そうにするどころか、
    彼女の顔は嬉々としていた。


    日本もオープンな国になったものだ。



    やれやれという気持ちで自分のスツールに腰を下ろした私を、

    ダイナが明るい笑顔で迎えた。



    気掛かりも解消し、

    今宵の獲物も確保でき、

    ご満悦といったところか。



    とにかく今夜の私の役目は終わったのだ。


    私もダイナに笑顔を向けた。


    「そろそろ部屋に戻るわ。ルイ子、送ってくれる?」


    「勿論」


    笑顔のまま私は答えた。



    立ち上がった私達に反応し、

    シャンプーが動かしていた手を休めて見送りの姿勢を取ったが、


    歓送とは程遠い、嫉妬に燃えた眼で私を睨んだ。




    そんな顔しなくても、

    ダイナは今夜は貴方のものよ。



    そのメッセージが伝わるように、

    私は遠慮がちな微笑みをシャンプーに向けたが、



    余裕の表れと見えたのか、

    それがかえって嫉妬心を刺激したらしい。



    彼女の憤りに燃える瞳に涙が盛り上がったのに気付いて、


    私は慌てて目を反らした。





    女心のなんと難しいことか。
引用返信/返信 削除キー/
■19841 / inTopicNo.90)  NO TITLE
□投稿者/ 摩耶 一般♪(1回)-(2007/08/21(Tue) 22:59:22)
    なんか普通に美人さんなんですけど…
引用返信/返信 削除キー/
■19939 / inTopicNo.91)  初めまして。
□投稿者/ 六華 一般♪(1回)-(2007/08/30(Thu) 02:18:25)
http://p11.chip.jp/mybloody/
    このお話の書き始めぐらいから拝見させていただいてました。

    いつも早く続きが読みたくなるぐらい楽しみにさせてもらってます。自分は小説書いたりとかあんまり得意じゃないんで純粋に尊敬してます。


    それから勝手ながらプロフ拝見させていただきました。すっごい美人さんだったんでびっくりしました(笑)


    文目茶苦茶ですがこれからも楽しみにさせてもらいます。頑張ってください☆

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■19960 / inTopicNo.92)  ◆摩耶さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(34回)-(2007/09/05(Wed) 22:09:17)
    普通に、普通ですよ。
    化粧も下手ですし。
引用返信/返信 削除キー/
■19961 / inTopicNo.93)  ◆六華さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(35回)-(2007/09/05(Wed) 22:13:43)
    パソコンが壊れていました。

    ずっと読んで下さっていたんですか?
    ありがとうございます。嬉しいです。
    だんだん読みにくい内容になっていそうなので、
    途中で読者に逃げられていってるだろうなと、思ってたんです。
    辛抱強く見守って下さったら嬉しいです。
引用返信/返信 削除キー/
■19967 / inTopicNo.94)  ALICE 【62】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(37回)-(2007/09/07(Fri) 00:51:45)
    前回と同じスイートの、

    二重扉の前まで来ると、



    私を振り返って、「入っていく?」 とダイナが言った。



    なるほど、

    シャンプーが仕事を終えるまでの暇潰しというわけか。


    いいだろう。

    嘘を付いた数だけとは言わないが、

    ワインの1、2杯なら、償いとして付き合わせて頂くとしよう。




    勿論、詫びのつもりである事は秘密だが。



    そうして私は彼女の招きに応じた。



    部屋でスペイン産の白を飲みながら、
    コの字型のソファに角を挟んで座ったダイナと私は、

    たわいもない話をした。


    ここでいうたわいもない話というのは、
    本当に文字通りたわいの無い話で、
    主に海外での仕事中に起きた色々なハプニングや出会った人物について、
    ダイナが身振り手振りを交えながら話していた。


    数十分前まで一触即発の現場の中心にあった、

    アリスと所長については話題の隅にも上らない。



    ダイナが望まないのであれば、
    私も蒸し返す気はなく、

    そちらが仕事の話をするなら私もある程度自分の話題を提供するべきかとも思ったが、

    仕事 イコール 加賀美絢とアリスに繋がる訳で、

    二人の存在をわざと避けながら私のビジネスライフを語るのも、

    きっと聞いている側でさえ不自然な気まずさを感じかねない為、


    結局私は聞き役に徹していた。


    と言っても決して退屈していたのではなく、
    なかなか話し上手なダイナの体験談を、

    私は素直に楽しんで聞いていた。



    それでも今仕事で抱えている案件の事を考えると、
    今夜は早めに帰ってゆっくり自分の部屋で精神を休めたかったので、

    長くても60分で席を立とうと、

    私はワインのコルクが彼女の美しい手によって抜かれた時に、
    腕時計を確認して決めていた。


    残り時間が7分になった時に、

    脈絡も無くダイナが言った。


    「それで、アリスはどう?」


    一瞬、アリスとのキスはどうだったのかと訊かれた気がして、
    動揺した私はグラスを持つ手をビクッと振るわせたが、

    意を決してアリスの名前を出したのか、
    ダイナはダイナで自分に注意をとられているようで、

    私のそぶりには気付いていそうになかった。


    「元気にしてるって事?忙しく働いてるわよ」


    ダイナは 「そう」 と答えると、
    ワインのボトルを持ち上げて私にグラスを傾けるよう促した。


    本当はもう結構という時間になっていたのだが、
    ここに来て上ったアリスの話題を聞き逃す訳にはいかず、

    私はグラスを持った。



    「アリスの事、どう思う?」

    私の意見を本気で聞き出したいというのではなく、
    自分の考えを述べる前フリを求めているような訊き方だと、
    私は思った。

    下手に興味をそそる答え方をして、
    墓穴を掘る訳にはいかない。


    山吹色の水が揺れるグラスをテーブルの上に置き、

    私は迷った時に日本人がよくする曖昧な笑い方をして、
    「んーーー・・」 と言ったきり間を空けた。


    「アリスって、本当変でしょう。謎が多い。って言うよりも謎しかない」

    「ふふ。そうね。ミステリアスよね」

    「でしょう。まぁ、もう関係ないけどね」



    そう言うとダイナは脚を組み替えてソファの背もたれに体重を掛け、

    もう一日の終わりだというような長くリラックスした溜息をついたので、


    これ以上アリスの話題は続きそうにないなと、
    そう思った私は、

    中身を空する為にグラスを持ち上げた。


    「ねぇ」


    掛けられた声に顔を上げると、

    悪戯っぽく目を細めたダイナが腕を組んで言った。



    「アリスの秘密、知りたくない?」







    まだワインを口に含んでもいないのに、

    私の喉がゴクリと鳴った。
引用返信/返信 削除キー/
■19968 / inTopicNo.95)  NO TITLE
□投稿者/ 六華 一般♪(2回)-(2007/09/07(Fri) 04:55:45)
    お返事ありがとうございます。

    基本的にあまり長いものは読まないのですが、この作品には心惹かれるものがありまして、楽しく読ませていただいてます。
    ずっと感想とか書かなかったわけですが、考え方だったり視点だったりが面白かったり同意したりとかあってその時ごとに違うことを思ってる自分自身に対しても楽しく感じています。

    文で上手く表せれないのが悔しいですがとにかくこの作品は大好きです。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■19972 / inTopicNo.96)  ALICE 【63】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(38回)-(2007/09/08(Sat) 02:13:04)
    「あの娘の秘密かぁ。ちょっと興味あるわね」



    アリスのことを“あの娘”と、
    わざと疎遠に響く三人称を使って呼ぶことで、


    私はあくまでもアリス個人にではなく噂話に興味を抱いたフリをした。



    「大した事じゃあないかもしれないけど」



    ダイナが腰を少し上げて、

    私に寄り添う程近くに移動した。



    胸が高鳴る。

    病気のこと?
    お金のこと?
    それとも過去の女性遍歴?
    あるいは男性遍歴?



    もしかして、“魔女”の事?

    ダイナは魔女の正体を知っているのだろうか。


    十年も悩まされ続けてきた悪夢の事を、
    誰かに話すのは初めてだとアリスは私に言ったけれど、

    夢の話や魔女の話、
    本当はダイナにはもっと深く打ち明けていたりしたのかな。


    だったら少しショックかも。


    なんて、そんな風にふと感じて、

    私は自分に少し失望した。


    バカじゃないのか。私。

    小さい人間。


    きっと少し酔ってきたんだわ。



    「実はね」




    だいいち、大したことじゃ、

    本当にないかもしれない。


    『アリスって、よく寝言で“魔女”に追い掛けられてるのよ。子供みたいでしょ』


    そんな事かもしれない。




    やはり少し酔いが回ってきたのだろう、

    もはやダイナの言葉など上の空になりかけていた時だった。












    「彼女、偽名よ」






























    頭の中で何かが弾けたように、

    私の脳が酔いから、そして閃きに覚醒した。




    ダイナの言葉が耳に木霊する。



    “偽名よ”



    じゃあ、本当の名は?






    ―――藤鷲塚





    それだ。


    アリスの苗字は【園真井】なんかじゃない。



    藤鷲塚、藤鷲塚紅乃の藤鷲塚。



    やっぱり二人は血縁関係にあるのだ。





    興奮を抑えて、

    私はダイナに言った。



    「じゃあ、本当は園真井じゃなくて、何ていうの?」


    ダイナは、

    アリスの本当の苗字を知って、
    あの藤鷲塚と結び付けはしなかったのだろうか。

    案外、この間までの私のように、
    紅野心が藤鷲塚の一族である事を知らないのかもしれない。



    「違うわよ、園真井じゃない」

    「うん、園真井じゃなくて、何?」


    そんなに勿体ぶられても。
    本当は既に知っているのだけれど。


    ここは演技をするしかないだろう。





    「だから、違うんだって。偽名は苗字じゃなくて、“アリス”の方よ」






    ・・・え?





    言葉を失った私は、

    ダイナの口から出た次の言葉に、



    さらに愕然とした。
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■19973 / inTopicNo.97)  ◆六華さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(39回)-(2007/09/08(Sat) 02:17:53)
    十分なお言葉です。
    ああそんな風に感じて読んで下さる方もいらっしゃるんだなと、
    じんわりきます。
    嬉しいですね、心からの感想を述べて頂けるのって。
引用返信/返信 削除キー/
■19974 / inTopicNo.98)  ALICE 【64】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(40回)-(2007/09/08(Sat) 02:25:36)
    「クレノ」



    ダイナは、確かにそう言った。

    疑いようもなく、鮮明な、よく通る声で。





    それでも私は、聞き返さずにはいられなかった。






    「・・・クレノ??」



    「そう、KURENO。知ってた?」




    私はかぶりを振る。




    「やっぱり何処ででも【アリス】で通してるのね。
     何となくパスポートを見た時にそう書いてあったの。ローマ字でね。
     ソノマイ クレノが本名。アリスじゃ、ない」



    ・・まさか、こんな事になろうとは。



    「その事、本人には言ったの?」

    「言ったわよ。“何コレ、ここに書いてあるの。アンタ、ホントはクレノっていうの?”ってね。
     そしたら何て答えたと思う?私からパスポートをふんだくって、“それが何?”だって。えっらそうに」


    その時感じた腹立ちを思い出したのか、

    ダイナはやたら感情のこもった、とげとげしい声で言った。



    「ま、苗字を誤魔化してるなら、何か大きな理由でもあるのかとも思うけど。犯罪とかね。
     下の名前だしね、ただの気まぐれか何かだと思うわよ。
     でもルイ子も、仕事でアリスにムカつく事があったら、言ってやれば?
     “本当はクレノって言うんだって?”ってね。ちょっとムキになるアイツが見られるかもよ」


    そう言ってダイナは面白そうにククッと笑った。







    私の頭の中を、


    あの夜、アリスが夢にうなされた夜に聞いた数々の単語や言葉が散乱する。





    魔女。


    魔女の名前。


    自分でアリスと名付けた。


    男。


    真白が魔女に殺された。


    居なくなった母親。


    帰って来ない父親。







    冷静に考えれば、

    この不可解なピースで、巨大なパズルの四隅だけでも埋められる・・・!!






    そう思った私は、


    「そっか、偽名か。いつか使う時が来たら、その手でからかってみるわね」


    と笑って、

    一気にワインを飲み干した。





    「ごちそうさまでした。そろそろ、帰るわね」

    「帰るですって!?なんで?まだ早いでしょ?」


    ダイナにしても、シャンプーとの夜遊びを待ちわびているハズなのに、

    彼女は私の帰宅宣言に過剰に反応して眉をひそめた。



    「いや、仕事もあるしね。もう眠らないと」

    「泊まっていけばいいじゃない。前みたいに」



    今度は私が眉をひそめる番だった。


    「ダイナ・・私は複数でsexする趣味はないのよ。彼女と二人で楽しんで」

    「・・・何言ってるの?彼女って?」


    この後に及んで誤魔化す目的は何だろうか。
    好みの女を相手にしている時は、
    とりあえず他の女への興味を隠すというポリシーだろうか。



    「バーテンダーの彼女よ」

    そう言って私はグラスに付いた口紅をバッグから取り出したハンカチで拭った。


    「バーテンダーの彼女?ここのバーの?何で?あんなの呼ぶ訳ないじゃない!」

    「あんなのって・・。さっきの濃厚なキスの続きをここでするんでしょう?」

    「しっっないわよ!さっきのキスは・・ルイ子の反応が見たくてしただけ」



    それこそ何の為に。

    何でもいいが、とにかく早く帰りたい。

    私は巨大なジグソーパズルを抱えているのだ。



    「そうなの?まぁ、よく分からないけど。とにかく仕事もあるし、帰るわね。
     今日はありがとう。最後には笑ってくれて良かったわ」


    立ち上がって踵を返すと、
    後ろから腕を掴まれた。


    「どうして帰るの?態度が悪かった事は謝るから!」



    バーを出て以来初めてその話題に触れたダイナを振り返って見ると、
    泣きそうな顔をしていた。


    「ううん、誤解してたんだから、怒って当然だったのよ。気にしてないわ」

    「違うのよ」


    ・・・何が?


    「私の悪い癖なの」


    ・・・だから何が?


    「惚れてる相手と喧嘩すると、高飛車で、凄く嫌な感じになるの」



    なるほど。

    アリスを拉致した時も、見事な高飛車ぶりだった。



    ・・・え・・


    それじゃまるで、

    ダイナが私に惚れてるような言い方ではないか。
    冗談でしょ。


    「なんとか言ってよ」

    黙ったままでいる私の腕を、
    ダイナが揺さぶる。


    「う、ん」


    「ルイ子があの女のところで働いてるって知った時、腹が立った。
     けどそれよりも、ショックだった。
     ルイ子が何か目的があって私に近付いたんだって思うと、悲しかったわ凄く」



    それが、

    今日私が見た寂しげな背中の理由だと?



    「他の誰でもダメだったの。イイ男も、イイ女も。一般人も、業界人も。
     誰と居てもアリスを忘れる事が出来なかった。
     でも、ルイ子には何かを感じたの。
     あんな風に、アリスとの過去を誰かに打ち明けるなんて、今まで無かった事なのよ」



    止めどなく自分の気持ちを吐き出すダイナを前に、
    私はただ驚いて、相槌も打てずにいた。

    容姿がタイプであった故に私と肉体関係を持ったのだろうし、

    それなりに自分がダイナに気に入られていることは、感じていた。


    が、それは“遊び”の一環なのだと信じて疑わなかった。


    ダイナが私を気に入っているという雪花の見解を聞いた時も、

    きっとダイナは私を自分の数あるコレクションの中に加えようとしているのだとしか、
    思わなかった。


    だって、


    アリスに惚れた人間が、

    何をどう間違えればその穴埋めに私を選出するというのだろう。

引用返信/返信 削除キー/
■19978 / inTopicNo.99)  ALICE 【65】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(44回)-(2007/09/08(Sat) 02:36:52)
    「だから、何か言ってよ」

    少し怒ったようにダイナが私を急かす。



    「ダイナ、分からないわ。どうして私なの?」



    ―――“どうして私なの”


    今まで、どんな男に愛を語られても、言った事のない台詞を私は口にしていた。

    “どうして私?” だなんて、

    そんな卑屈で自意識過剰な言葉、
    頭の中に上った事さえなかった。


    だが今は、

    “どうして私なのか”と、疑問に思わずにはいられない。


    それはダイナが、女の中でも極上の部類だからだろうか。




    「どうしてって・・・」 ダイナが困ったように笑う。


    それは私が初めて見る彼女の表情だった。



    そんな事を感じている場合ではないが、

    とても魅力的だと思った。




    「そんなの、言葉にできるものじゃないわ。
     ただ、ルイ子はこの間の夜、私の舌や指先には夢中になったけど、私自身にはちっともなびかなかった。
     朝、部屋を出て行く時の、ルイ子の顔の未練の無さときたらもう」



    私の腕を放し、お手上げという風にダイナが両手を上げる。


    私は彼女の言葉の色んな部分に自分の顔が赤くなるのを感じた。


    「さっきのキスにも、全然妬いてくれないしね。
     どうせ、電話掛けてこなかったのだって、ただ忘れてただけなんでしょう?」




    バーでの駆け引きで知力を使い果たしたのか、
    上手いフォローの言葉が出てこない。

    あろうことかこのタイミングで私は目を反らしてしまった。




    「ルイ子の心を掴んでいる男が憎いわ。
     その人のところへ向かうのかと思うと、余計に帰したくなくなる」


    ダイナはそう言うと、

    長い指で私の顎を持ち上げた。


    「それって、ただ無いものねだりなだけにも聞こえるわ。手に入りにくいから、欲しがるだけじゃない」

    「でもそれだけじゃないわよ。手に入れ難ければ誰でもいい訳じゃない。
     手に入れたいと思える相手じゃないとダメなんだから」




    顎に添えられたダイナの手を、
    優しく握って引き離す。


    「手に入った途端、捨てるつもりなんでしょう」




    私の手を強く握り返してダイナが不敵な笑みを浮かべる。


    「そんなのやってみなければ分からないじゃない?
     それとも何、ルイ子は死ぬまで自分を大切にしてくれる保証が無いと、始められない訳?
     恋愛なんて、先が分からなくて当然でしょう?」


    確かに、そうだ。
    だいいち私は一生モノの愛を求めて恋愛をするタイプでは元からない。

    ダイナの方も、そんな私の価値観を見抜いているのだと思う。



    「ねぇ、ルイ子。
     私の言ってる事って、イケナイ事?
     私のやってる事って、イケナイ事?」



    ダイナはそう言うと空いている方の手を私の腰に回し、

    自分の体にぐいと引き寄せた。



    ダイナの色香漂う瞳を私が真っ直ぐに見つめ返すやいなや、


    彼女は私の首筋を下から上へ舐め上げた。




    彼女の絡みつく腕や舌を、

    私は振り払えずに居た。


    沢山の嘘でアリスの情報を聞き出した私は、
    それなりの報酬を与えなければならない気がしたのだ。


    そして、

    ダイナ程の女に、
    私への恋心を赤裸々に告白させたことに、
    言い様のない躊躇いと、罪悪感さえ感じていた。


    私も同じように心の内をさらけ出すことが出来ない代わりに、

    体を開く事が、


    せめてもの償いになるのならと、



    そんな低俗で卑しい考えに私は支配されつつあった。








    私が抵抗せずにいると、

    ダイナはその滑らかな舌を首筋から唇へ移動させ、
    私の口を塞いだ。


    そうしてあっという間に私のブラウスのボタンを外し、

    下着を投げ捨てて、


    露わになった私の乳房にかぶりついた。





    「ねぇ、イケナイ事?こんなに素敵な事が、間違いなの?」



    笑いながらそう繰り返し、

    ダイナは手品師のように瞬く間に私を産まれたままの姿に変えた。







    ―――いけなくは、ない。



    ただ、

    ダイナ、


    貴女の間違いは、



    私の心を掴んで放さないその人は、


    部屋に住み着く黒猫のような男ではなくて―――。














    快楽に遠のく意識の中で、




    私はアリスの名を呼んだ。
引用返信/返信 削除キー/
■19993 / inTopicNo.100)  拝見させて頂きました。
□投稿者/ れい 一般♪(9回)-(2007/09/09(Sun) 04:01:09)
    一気に作品に引き込まれてしまいました。

    面白いです。心から。

    あおい志乃さんの作品は、
    前のタイトルに金魚が付いている
    小説を読ませて頂いておりまして、
    その頃から「頭のいい人の書く文章だな〜」と
    思いながら拝見させて頂いておりました。

    こちらの作品、本当に書き出しの頃に
    一度拝見させて頂いておりましたが、
    ゆっくり更新ということだったのでずっと
    チェックせず、寝かしておきました(笑)

    そろそろ、と思い、読んだのですが、
    引き込まれて、最初からこんな時間まで
    一気に読んでしまいました。

    いや、本当めっちゃ面白かったです。
    寝かしといて、良かった。


    更新、心より楽しみにしております。
    ゆっくり、頑張ってください。

    完結されるのを楽しみにしております。

引用返信/返信 削除キー/

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