| 「今日は風が強いようだから、制服のスカートには気をつけるのよ」
出かける前に、和沙の母は確かにそう言っていた。 しかし、和沙がそのことを思い出したのは、もう帰宅した後だった。
うぅ…なんで今日に限ってあんな柄…
高校生にもなって、母親が買ってきた服や下着ばかり着ている和沙も和沙だが、 これまで勉強漬けだった人生では仕方がない。 けれど、さすがに今どきの女子高生で子供用のマスコットやキャラクターが プリントされた下着を愛用している人は少数だということは和沙も認識していた。 だが、今回はあまりにも相手が悪かった。 真澄は…今朝和沙と鉢合わせした時にでも偶然目に入ったのかもしれない。 おそらく、彼女の性格からこの弱みにつけこんでくるだろうことは 充分に想像できる。
疲れた…
和沙は今日一日がとても長く感じられた。 本来なら入学式が終わったらさっさと帰るつもりだったから、 そんなに疲れるはずはないのだが。 気分的には体育祭やマラソン大会などでも終わったかのような 倦怠感でいっぱいだった。
和沙は、明日の準備をしてから今夜はもう早めに寝ることにした。 鞄の中身を整理しているうちに、 学年カラーについての説明用紙が目に飛びこんできた。 どうやら二年生が紺で、三年生が黒だったらしい。 「あ」 注記とされているので危うく見落としてしまいそうだったが、 それは下の方に確かに小さく記されていた。 『なお、生徒会役員はこれとは別に白色を着用する。 生徒会役員候補生に選抜された者も同様である』 今朝には知らなかったが故の悲劇。
なんだって、昨日確認しなかったのか…
真澄が生徒会関係者だって知っていたら…あまり関わりたくないから、 少なくともあのような行動はとらなかったはずなのに
なんだって、今朝道を間違えたのか…
入試の際には、他にも志願者が居たため送迎車で校内に入ったが、 その窓から確認しておけば闇雲に迷うこともなかったのに 和沙の心には、後からあとから後悔の念が押しよせてくる。
とにかく…今日はもう寝よう
布団の中に入っても、和沙の胸の内が晴れることはなかった。 しばらくは、悶々と今日あった出来事を回想していた。 ふと、目に映るのは…明日着ていく予定の下着。
ハア…
思わぬアクシデントもかさなり、 口からこぼれるため息はより一層深いものになった。 和沙は重苦しいため息を数回ついた後、 今度からは自分で買い物に行こうと決意した。
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