| 最期にお父さんを見送ったのは、まなみ一人だけだった。
その時 二人が何を話していたのかは知らないそうだが きっと最後にお父さんは、まなみの人生を変える程の力をくれたんやろう。
また前を向けるように
また心から笑えるように
それから まなみは以前のまなみのように笑えるようになり
何事も斜に構えず捉えられる様になったそうだ。
自分の病気ともしっかり向き合って
辛い治療や大手術にも耐え抜いてくれた…と。
お母さんが話す話の一つ一つを 色んなまなみを思い浮かべながら聞いていた
これまで 大切な人を2人も失ったまなみは
残された人間の気持ちと
残してしまうかもしれない人間の気持ち
その両方の間できっと随分苦しんでいた事だろう……
抱き締めたい
今すぐに 思いきりまなみを抱き締めたいよ。
早く… 私の腕に帰ってきてくれませんか。
その時 病室の扉が開き、清水さんが入ってきた
結希がバッと起き上がり
『清水ちゃん…! ねーちゃんはっ…!?』
と、聞くと
清水さんは小さく微笑みながら頷いて
『頑張ってくれたよ、まなみちゃん。』
と、右手で小さくピースを作って言った。
思わず立ち上がってしまっていたらしい私は
胸を撫で下ろすのと同時に、また椅子に座り込んで大きく息をついた。
すると
『櫻井さん。』
と清水さんに呼ばれて 顔を上げると
『まなみちゃんが、呼んどる。
まだ意識は朦朧としとるけど、この部屋を出た時からずっとあなたの名前を呼んどったよ。
まだココには戻ってこれんけん、まなみちゃんの所まで来てくれんかいな?』
横にいるお母さんを見ると にっこりと笑って頷いてくれた。
【ICU】
そうプレートに書かれた部屋の中は 色んな機械から出る音と、人工呼吸器が放つ規則正しい空気音だけが響いている
入る前に手を消毒して、白い割烹着の様なエプロンと大きなマスクをつけさせられた。
まなみの元に辿り着くまでに、何人かの憔悴しきった人達がいて
その部屋の一番奥のベットに、疲れ果てた様子のまなみがいた。
『何かあったらナースコールしてね。』
と言い残して、清水さんがその場を離れる。
(携帯)
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