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■20245 / inTopicNo.21)  ALICE 【76】
  
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(65回)-(2007/10/28(Sun) 07:56:12)
    “ 園に捨てられていた ”












    オリーブの木の下に横たわる、
    真白の死体が頭に浮かんだ。


    いや、違う。
    そうじゃない。

    私は自分の抱いたイメージが誤りである事をすぐに悟った。


    “捨てられていた”
    というのは、
    死ではなく生の事を意味しているのだろう。


    「真白さんは、捨て子だったのね…?」


    真白にしても、
    アリスの父親にしても、
    どうも死の印象が強すぎていけない。




    「そう」


    ヘアゴムをするりと指で絡め取り、
    アリスが髪をほどく。


    「母は、園の井戸の脇に、捨てられていたんだ。だから…」


    「だから?」


    聞き返した私をアリスがじっと見つめる。


    「分からない?」

    「分からないって、何が?」

    「名前だよ」






    ドキッとした。


    名前。

    アリスの名前。


    先刻まで解いていたジグソーパズル。


    アリスの本名、クレノ。






    …いや、違う。これは関係がないはずだ。


    名前?




    私が返答に窮していると、


    「園真井だよ」


    と、アリスが諦めたようにそう言った。


    「え?園真井?アリスの苗字?」



    ここまで言っても分からない?とでも言いたげに、
    アリスが首をかしげて私を見つめる。



    園真井、

    ソノマイ、

    そ・の・ま・い、


    ああダメだ、分からない。


    園真井、園真井、園真井、園真井園真井園真井…



    頭の中が、
    アリスの苗字を作る三つの漢字で埋め尽くされ、
    経文を読まされているような気分になり始めた時、


    その文字の樹海の奥に、閃くものが突如現れた。




    「園の井戸…」


    私の呟きに、アリスが唇の端を上げて、付け加える。


    「真ん中」




    真ん中…




    …ああ、そうか、そうか!!






    「園の、真ん中の、井戸…で、園真井!!そうなのね!?」



    アリスが、ニッと笑う。


    「安易だけど、なかなかセンスのある市長よね」



    ああ、そうだ。


    棄児が発見された場合、
    その市町村の長が、棄児の氏名をつけ、本籍を定め且つ附属品、発見の場所、
    年月日時その他の状況並びに氏名、
    男女の別、出生の推定年月日、
    及び本籍を調書に記載しなければならない。


    例のポストが設置された時期に復習したはずなのに、
    滅多に取り扱わない事項の為、
    戸籍法の第何条だったかを覚えていない。

    情けない。


    アリスなら、確実に全て暗唱出来るのだろう。



    「本当ね。凄く綺麗な響きだもの。じゃあ真白って名前も、同じ人が付けたのね?」

    「そう。肌があまりに真っ白な赤子だったから」



    なるほど、

    それは、分かる。


    …ん?でも待てよ、


    「アリス、あの園は“偶然”見つけたんじゃなかったっけ…」

    「そうだよ」

    「でも、園は真白さんが発見された場所なんでしょう…?」





    これは、どういう意味なのだろう。
引用返信/返信 削除キー/
■20254 / inTopicNo.22)  ALICE 【77】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(66回)-(2007/11/01(Thu) 06:20:51)
    アリスがブランケットの下で身体を動かしたのが分かった。


    膝を立てたようだ。

    やけにぎこちない動きだった。


    そういえば、ワンピースを着ていたっけ。



    「その格好じゃくつろげないよね。何か貸そうか?」

    「ううん。もう朝だし」



    その返答にハッとして壁の時計に目をやると、
    針は5時を半分回っていた。


    「本当だ。もう朝だね…」


    ソファから立ち上がって、
    私は窓際に歩いて行き、

    カーテンを左右に引いた。




    まだ少し白っぽい朝の光が、
    パキラの幹を、葉を、引きちぎられて剥き出しになった断面を、照らす。


    つい1、2時間前までは、
    そこにユニが立っていて、
    彼は凍った笑顔で私を呪い殺そうとしていて、


    そのもう少し前までは、
    私はダイナの指に全身を悶えさせていたのだ。



    今こうしてアリスと共に陽の光に目を細めていると、

    それらがここからはずっと遠い所に在るように感じる。




    夜が朝になる、

    ただそれだけで、


    こんなにも人は気持ちの色を切り替えてしまえる。




    それなのに、

    毎晩自分を物語のアリスに置き換えて、
    それが実現する事を切望して目を閉じた少女は、

    朝の光に包まれても、

    絶望しか感じなかったのだ。



    アリスにとって、

    クレノという名前は、


    一体どれほど強い陰力を持っているのだろう。






    「アリス、もう今からは寝ない?」

    「うん。起きてる」

    「そっか。じゃあ、コーヒー飲んでもいいね。それとも紅茶がいい?あとはオレンジジュ…」

    「紅茶ください」




    そのあまりに可愛らしい返答の仕方に、
    私は思わず苦笑した。


    「かしこまりましたお嬢様」

    窓際から戻ってテーブル上の自分のカップを持ち上げながら言うと、


    「ノン。お嬢様じゃなく、お客様です」

    アリスが左手の人差し指を立てて軽く左右に振った。


    「かしこまりましたお客様。ホットがよろしいですか?それともアイス?」

    キッチンへ向かいながら注文を訊くと、
    「ホット」と答えながらブランケットを脇へ除けて立ち上がり、
    アリスは私の後ろをテクテクと付いて来た。


    カウンターの内側へ私が回ると、
    アリスは向こう側のスツールにちょこんと腰掛け、
    私の手元を見つめて頬杖をつく。


    ケトルをIHのヒータープレートに置き、
    引き出しから未開封のアッサム茶葉を取り出しながら、

    私は切り出す。


    「園、アリスが園を見つけたのは偶然なんだよね?」

    「そうだよ」


    一度途切れた話題だった為、戸惑いを見せるかと思ったが、
    アリスは間髪入れずに答えた。


    「園を見つけたのは、本当に偶然。買い取る為に所有者を調べていた過程で、色々寄り道をして。
     40年前に、そこで捨て子が見つかった事も分かった」


    …と、いう事は。

    「じゃあ、園を見つけたのも偶然、そして、そこが真白さんのフルサトだったのも、偶然??」


    「そう」 


    「…ねえ、それって、さ。凄い事なんじゃないの?私、まだちょっと把握し切れてないんだけどさ。
     その偶然が重なる確立って、もしかして天文学的な数字?」


    アリスが頬杖をついたまま、肩をすくめてみせる。

    「園を見つけたくらいでは、騒げないけど。母が天涯孤独な事も、知っていたけれど。
     でも、この二つが繋がっていたのは、少し、驚きだったかな」


    ティーポットにティーメジャー、
    ストレーナーなどを棚から出して揃えながら、
    それが “少し” という程度のものなのかを、考える。


    いや、どう考えても、違うだろう。


    私の考えに応戦するように、
    ケトルが蒸気を噴き出す。



    「ね、かなり凄いわよ。アリス。それってまさしく “選ばれし者” って感じだわ」

    ティーポットに湯を注ぎながら、
    アリスの反応をチラリと伺うが、
    彼女は私の手の動きを熱心に見つめたまま、
    何も言い出そうとはしない。


    二杯分の水を更にヒーターにかけてから、
    カップとソーサーを取り出す為に後ろの食器棚の扉を開いた。

    アリスに似合うものを選ぶ事に真剣になり出した時、


    「園に居ると、凄く、私、落ち着く」

    背中にアリスの声が当たった。


    「そうね確かに、落ち着いた寝顔だったわ。園はアリスのお気に入りの場所なのね」

    候補を二つに絞りながら答える。


    「お気に入り・・・・・・うん」

    表情は見ていないが、声でアリスの喜悦が伝わってくる。



    マイセンとヘレンドを両方掲げて、
    最終審査に入る。

    「アリスにとって園がお気に入りなら、きっと園にとっても、アリスはお気に入りなのよ」


    よし、ヘレンドだ。
    この苺の蔓の模様が、
    それから線の細い持ち手が、アリスっぽい。

    「あんな分かりにくい場所を見つけられたなんてさ、園が、真白さんが、アリスを招いていたのかもよ。
     うん。きっとそう。園はアリスをいつでも受け入れられるように、両手を広げて待っていたんだね」


    私がそう言い終わるか終わらないかの内に、
    ケトルが汽笛を上げた。


    振り返ると、

    アリスが真顔で私を見つめていた。



    「・・あ、ごめん…ちょっとクサすぎか。いやさ、あまりに園とアリスがしっくり――」

    「ルーイも」

    「え?」



    「ルーイと居る時も、私、凄く落ち着くんだけど」

引用返信/返信 削除キー/
■20262 / inTopicNo.23)  ALICE 【78】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(69回)-(2007/11/05(Mon) 05:27:47)
    2007/11/08(Thu) 04:20:59 編集(投稿者)

    そんな台詞をアリスから突然に贈られても、

    ほとんど動揺しない自分が、
    ここに居た。


    「うん」


    と、私は穏やかにアリスに視線を返す。



    ポットの湯を捨てて、
    茶葉をメジャーで測り入れて、
    そこに湯を被せて、

    そうして考える。



    分かっていた気さえした。

    アリスが、私の事を、他の人間とは区別していた事を。


    初めは思い上がりだろうと決めつけていた、
    私と居る時に見せるアリスの笑顔、涙、くつろいだ表情。

    それが、もしかすれば勘違いではないのかもしれないと、
    思い始めては、
    けれどまた否定したりして。


    ついさっきだって、
    そのパターンに毎度の如くはまって、
    『自分のしている事なんて、アリスにとっては…』
    と、またそんな卑屈心を振り払うのに私は自分の頬まで打った。


    期待が裏切られるのを避けようとしていた、

    それも、あるけれど。



    でもそれよりも、私は、

    気付くのが怖かったのだ。



    そう、

    私も、同じだという事に。



    確かにアリスの存在は、私の鼓動を忙しくさせるし、
    彼女の一挙手一投足に、私はハラハラさせられる。
    常に心配もさせられる。


    でも、それと平行して、


    アリスと居る時、アリスが傍にいる時、

    私は、私の心は、どうしようもなく安らいでいるのだ。


    その感じときたら、安らぎを通り越して、もう切なさだと表現してもよいくらいに。




    これまでの人生で私は、
    同性に恋愛感情を抱いた経験がない。

    だから、もし私がアリスに恋をしているのなら、
    未開の地であるその場所に足を踏み入れる事に、
    戸惑い臆病になるのは、さしておかしな事ではないのだろう。


    でも、きっと私のアリスに対する想いが、
    ただの恋であったなら、
    私はここまでこの感情に二の足を踏んだりはしなかったのだろうと、
    思う。



    私がアリスという存在の中に見いだそうとしているものは、



    多分、

    きっと、



    恋なんかより、もっともっと、

    戸惑わずにはいられないもの。



    それは、

    私がこれまでずっと求めてきて、

    けれどその事実に目を合わせようとしなかったもの。




    ―――真実の愛









    きっと、それなのだ。




    でもそれが、その『真実の愛』とやらが、
    一体どういうものなのか、
    本当の本当にこの世に存在しているのか、
    私はそれさえも分からないから、

    そういう漠然とした想いも含めて、

    それらの期待が裏切られる事を、私は恐れていたのだと思う。



    私の隣でアリスが、

    私にしか見せないような顔で笑うから、

    泣くから、

    眠るから、



    私の抱く不安定な期待が、希望が、

    100%一方通行なわけでは無いと、


    そんな震え上がるほど喜ばしい可能性を、

    私に信じ込ませようとするから―――。




    だから、余計に怖かったのだ。

    その希望の光に、呑み込まれてしまうのが。









    ポットの中で今アッサムの茶葉がじわりと湿り気を帯びていっているように、

    私は、自分の心が、

    今まで目を背けていた真実に染色されていくのを感じた。



    多分これは、

    とてつもなく不安定で、

    もしかしたら破滅に向かうのかもしれない前進なのだろうけれど、


    それでも今この瞬間は、とても落ち着いた気持ちだ。






    アッサムティーの、アロマ・マジック。








    その魔法の香りを静かに吸い込んで、


    私は、


    しっかりとアリスの瞳を見据えた。




    そして、言った―――――

引用返信/返信 削除キー/
■20263 / inTopicNo.24)  満を持して
□投稿者/ ドレミ 一般♪(1回)-(2007/11/05(Mon) 12:35:50)
    あおい志乃さんの小説を初期の頃から読ませていただいている者です。今回のALICE78の投稿を拝見し満を持しての感想です。ルイ子の心の声に完全にノックアウトされました。(笑)
    前から非常に気になっていたことをこの場で質問したいと思います。小説の登場人物に作者さまがモデルになっている人はいますか?あおい志乃さんの小説が大好きで文章力に尊敬している私ですが、それよりも作者さまの人物像に興味がありました。他のいろんな方のレスへの答えかたを勝手ながら拝見させていただいたりして、なんて頭のいい人なんだろうかと勝手に感動していました。とても高い思想を持っている人なんだろうと独断で思っていました。
    小説そのまま作者さまの思想の訳はないと思っていますが、完全に自分の考えではない事を登場人物に考えさせる事はないのではないかと思い、(すいません、意味が判りにくい文で)そこを聞いてみたいと思っていたのです。
    寒い時期に入りましたがお忙しい作者さまの健康状態が気になります。お風邪などひいてはいませんか?これからも楽しみに投稿をお待ちしています。

    ドレミ
引用返信/返信 削除キー/
■20279 / inTopicNo.25)  ALICE 【79】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(72回)-(2007/11/08(Thu) 04:25:40)
    「それは、園と同じように、私もアリスを招いているからだと思う」




    アリスの瞳が僅かに揺れる。

    「同じように…?」



    「そうよ、アリスをいつでも受け入れられるように、両手を広げて待っているの」


    「“アリスをいつでも受け入れられるように、両手を広げて待っているの”?」

    私の台詞をアリスが反復する。


    「そう」

    「どんな“アリス”でも?」

    「ええ、どんなアリスでも」

    「どんな、私でも?」




    アリスがそう問うた時、

    囁きほど小さなその声が、

    私の脳内の雑音を一挙に一掃した。



    突如現れた静寂の中で、

    私は頭の天辺から足の爪先まで、
    自分の全身、全神経、全細胞から、

    見いだせる限りの誠実さを手繰り寄せ、

    それを瞳に、そして声に籠めて、


    放った。





    「どんな、貴女でも」








    アリスの瞳に変化が見られた。


    霧が掛かったのか、

    それとも晴れたのか、


    どちらであるのか判別し損ねたが、

    私の台詞に彼女が動揺したのを感じた。



    このまま見つめ続けるのは、
    誠実さの光線を浴びせ続けるのは、
    目の前の少女を追い詰めてしまう行為のような気がし、

    そろそろ良い蒸らし加減だろう紅茶に私は注意を逸らした。



    二つ並べたカップにアッサムの香りを注ぐ私の動きを、
    アリスが熱心に見ている。

    別の事を考えているのか、
    本当にただ私の動きに興味を示しているのか、
    読み取れない表情をしている。


    シュガーポットを取ろうとして、
    さっきのエスプレッソでグラニュー糖を切らしたのを思い出した。

    仕方ない、味は落ちるが普通の砂糖で代用するか。


    アリスは、ストレートティーはいける口だろうか。


    上白糖をシュガーポットに詰めながら、


    ―――いつもコーヒーの時は…


    と考えて、
    私はアリスの好みがブラックかそうでないかを、
    自分が全く把握していない事に気付いた。


    事務所では三葉が皆の給仕をしているが、
    彼女は全員の飲み方を完璧に熟知している為、
    いちいち訊かずにいつも黙って出してくれる。

    それだから、
    アリスの前にいつも置かれるコーヒーに砂糖が入っているのかどうか、
    私は知らないのだ。



    アリスの前にカップを、
    それからシュガーポットを、手の届く、少し離した所に置いた。


    アリスは、
    目の前のカップから立ち上る湯気の根元を、
    じっと見つめ始める。



    私の心が、だんだんと不安に満ちてくる。



    コーヒーの好みさえ知らない私に、

    “ どんな貴女でも ”


    ―――なんて、


    そんな事を言う資格はあったのだろうかと。


    資格云々ではなく、
    アリスにとって私の台詞は、
    凄くちぐはぐに響いたのではなかろうかと。



    “ どんな貴女でも ”



    その台詞が口を突いて出た時は、
    自然な気持ちであったのだけど。

    実は、私の言った事は酷く勘違いで場違いなものだったのかも知れない。





    自分のカップを持ち上げて、

    私を失言に導いた魔性のアッサムを一口、
    居たたまれない気持ちで飲み込んだ。



    その時。



    「私…」



    トーンを落としたアリスの声が、沈黙を破る。

    私はカップから顔を上げたが、
    アリスは立ち上る湯気を見つめたままで、



    そして、言った。








    「私、絢からお金を貰ってる」


引用返信/返信 削除キー/
■20280 / inTopicNo.26)  ◆ドレミさんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(73回)-(2007/11/08(Thu) 04:48:30)
    こんにちは。
    とても丁寧な応援メッセージをありがとうございます。
    健康状態にまで気を遣って頂いて、恐縮です。
    先週は肺炎の一歩手前まで体調を崩していたのですが、
    もう殆ど全快です。
    通勤前の毎日の点滴のおかげで常況より体重も増え、ツヤツヤです(/-\*)

    K.O.ですか。どの辺りがそんな攻撃力を持っていたのでしょう。

    ドレミさんが気にして下さっていた事。
    ご質問の答えですが。

    …うーん。モデル、うーん。
    居ない、というのが率直な答えです。
    小説の中のキャラクター達は全て架空ですし、
    作者である私から鋳造した人物も、居ないです。

    > 完全に自分の考えではない事を登場人物に考えさせる事はないのではないかと…

    ごめんなさい、私、考えさせてます。。
    きっと、ドレミさんは価値観の問題を質していらっしゃるのだと思いますが、
    私の持つ恋愛やその他様々な対象へのそれは、
    ALICEに出てくる人々とはあまり共通してはいないと感じます。
    …ああ、でも、所々自分の思考と似た文もありますね。
    それに、実際に私が誰かに言った言葉や、また誰かから言われた台詞なども、
    織り混ざったりしています。

    あれ、こう考えると、けっこうモデルが居るのかな?


    ・・・申し訳ないです、いい加減で。

    私は、こんな人間ですので、
    尊敬や感動に値するような者では無いのですよ。。


    本当、寒くなって来ましたね。凍りそうです。
    ドレミさんも、お体にお気を付けて、
    素敵な冬を送って下さいね。
引用返信/返信 削除キー/
■20286 / inTopicNo.27)  ALICE 【80】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(74回)-(2007/11/10(Sat) 05:51:45)
    ―――来た





    伏せられたアリスの睫毛を見つめながら、

    私は答える。

    「そう」



    ルイ子、しくじってはダメよ。



    アリスは顔を上げず、
    言葉を続ける。


    「ダイナからも、お金を貰ってた」


    「うん」


    「ダイナの前も、その前も、そのずっとずっとずっと前も…!」


    何かに急き立てられるように、
    アリスは声を押し殺して叫ぶ。

    「私は、沢山の女から沢山のお金を受け取ってきた…!」


    発作を起こすのではないかと心配になる程、
    切羽詰まったその声に、
    私はただ、

    「うん」

    と返す。

    今は、それがベストな返答だと判断する。



    「知っていたの?」

    まるでティーカップの中に自分の声を押し込めるように、
    アリスが俯いて問う。


    「少しだけ。ダイナと所長の事はね。
     “I'm not your property” って、そういう意味なのよね?」



    もし今アリスが、
    『どこで知ったのか』と尋ねてきたなら、
    私は、
    ダイナとの事を、
    打ち明けてしまおうと思った。


    打ち明けて、しまいたかった。




    けれどアリスは、

    「そう」

    と言っただけで、それ以上何も訊いては来なかった。

    恐らく現在の恋人が私の情報源だという結論に落ち着いたのだろう。


    アリスに金銭を譲渡していると所長から打ち明けられた私が、
    その告白の内容よりも、告白事態に戸惑ったように、
    所長がそういう類のプライベートを他言したと考える事は、
    アリスにとっても意外なものだと思うのだが、

    アリスはその驚きを、
    今、少なくとも表には出さなかった。


    そして、彼女の反応は、
    私の予想の一歩も二歩も先を行って、



    「ルーイは、金で買われた家畜みたいな人間と話していて、楽しいの?」










    そんな、

    そんな事を、


    言ったのだ。




    なんということだろう。


    自分自身のライフスタイルに、

    これほどまでにアリスが自尊心を傷付けられているとは―――。




    カップを持つ自分の手が僅かに震えているのに気付く。





    私はソーサーにカップを戻し、
    軽く息を吸ってから、
    一式を持ち上げて、カウンターを回り、
    アリスの左のスツールに腰掛けた。

    そして、
    それでも一向に顔を上げないアリスの左手に、
    自分の右手をそっと重ねる。


    「私は、貴女に金銭を支払った覚えはないわ。
     それともアリスは、このお茶代として、今私の隣りに居るの?」




    弾かれたようにビクッと背筋を伸ばして、
    アリスは思わずといった感じで顔を上げ、

    私を向く。


    「違う…違う!そんなの…」


    アリスの眉間が苦しげに寄せられる。


    「そんなの絶対に…違う!!」


    「それじゃあ、私だって同じよ!」

    私は語調と共に、アリスの手を握る力を強める。

    「私はね、自分がそうしたいから、アリスと一緒に居るの」



    「でも、私が最低の事をしているのは、事実なんだよルーイ。
     私のしてる事は、最低の事なんだよ。それは間違いないんだ。
     ルーイは、それをどう思うの?」


    「理由が、あるんだと思う」












    アリスが、息を深く吸い込んだのが分かった。
引用返信/返信 削除キー/
■20287 / inTopicNo.28)  ALICE 【81】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(75回)-(2007/11/10(Sat) 06:29:32)
    アリスの瞳孔が、大きく開かれる。


    それを取り囲む虹彩には、
    恐怖と、刹那と、驚きと、不安と、動揺が、
    マーブル模様に渦巻いていて、

    その渦紋の更に奥に垣間見える背景は、

    私の心を今にも呑み込んでいきそうな底無しの色をしていた。


    この闇に、取り込まれてはいけない。

    そうじゃなく私は、ここからアリスを引き上げなきゃならないのだから。






    「私の知らない、理由があるんだと、思ってる」




    もう一度、繰り返す。





    そして、

    思いと力と心と魂を込めて、


    私は言った。





    「どんなアリスでも、受け入れるよ」




    私のその言葉を聞いたアリスが、

    それを呑み込むように喉を動かし、

    大きく開かれていた目を今度は細めた。


    私の思いと力と心と魂を、透かして見ようとするような仕草に思えた。



    長い睫毛を戸惑いの風に吹かれるフィルターのように揺らして、


    「どんな“アリス”でも?」


    と、彼女は言った。




    顎を引いて私は、

    「ええ、どんなアリスでも」

    と答える。





    「どんな私でも?」





    怖じ気づいてしまうほど直情的な、その問い掛けの連鎖は、

    これで二巡目。


    互いの台詞は前回と同じだが、


    そこに込められた生気が、今はもっと重たい。





    逃げ出したくなるほど、切なく響くその問い声から、底無しの瞳から、


    私は、耳を、目を、


    右にも左にも、過去にも未来にも、

    何処にも逸らさずに、答えた。







    「どんな貴女でも」









    ―――例え貴女が、魔女と同じ名を持つ者であっても。
引用返信/返信 削除キー/
■20298 / inTopicNo.29)  お返事ありがとうございます
□投稿者/ ドレミ 一般♪(2回)-(2007/11/17(Sat) 17:35:16)
    あおい志乃さんこんにちは。ドレミです。新たな投稿と私の勝手きままな質問のお返事をありがとうございます。しばらく感動で胸が熱くなりました。
    肺炎になりかけだったお体はもうすっかり良くなりましたか?作者さまは頑張りやな気がしている私(これも勝手です(笑)は心配してしまいます。
    登場人物はあくまでも架空という事ですね。了解です。でも実際に作者さまが誰かに言った事や言われた事が出てきてもいるんですね。これまでの投稿の中のどの部分がリアル体験なのか気になる気持ちもありますが。こんな事まで質問してしまうのはさすがに失礼すぎですよね。(笑)
    私がノックアウトされた部分いろいろとあります。感想を全部言おうとすると長くなりますからまとめると、心の葛藤の表現がとてもリアルな所に、共感したり自分の思い出と重ねてしまう事です。私はルイ子みたいに性格は良くないですが。似ている所も多少ありました。
    それにやっぱりあおい志乃さんは文章が素晴らしいです。ALICE78の中では「その感じときたら、安らぎを通り越して、もう切なさだと表現してもよいくらいに。」が私の1番好きな文章です。80は「打ち明けてしまおうと思った。打ち明けて、しまいたかった。」みたいな繰り返すような感じも好きです。とても奇麗だけどわざとらしくないのもです。
    また長くなってしまいました。続きを読めるのをほんとうに楽しみにしています。

    ドレミ
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■20310 / inTopicNo.30)  ALICE 【82】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(76回)-(2007/11/22(Thu) 05:43:41)
    アリスはしばらく私の瞳を見つめ続け、


    それから再びカップに目を落とし、


    「そぉ…」


    と、シャボン玉を吹くように細い、繊細な息を吐いた。





    私がアリスの手に被せていた手をそっと退くと、

    彼女は今までずっと新種の生物を観察するように、
    力をこめて眺めていたアッサムティーを、

    ようやく警戒の解けた瞳で見つめ、

    カップを手にとって、

    中身を一口含んだ。






    そして、

    長い、溜息のような息をついた後。




    「美味しい」




    ―――呟いた。








    その時、アリスの全霊のモードが切り替わったのが、

    目に見えるように私には分かった。



    これ以上、感傷的な深い情調の交信を続ける欲求がアリスには無い。


    その事を、私は手に取るように悟ったのだ。






    なんて、

    感情の起伏が激しい人間なんだろうと、思った。


    いや起伏というより、盛衰だ。


    この娘の心曲は、突としてむせかえるほど咲き乱れ、そして瞬く間に枯れて散る。


    まるで生死の間の往来を、

    冷めた面で周囲にはひたすら秘密裏に行う。



    なんて、

    精神を荒削るような生き方をしているのだろうと、思った。





    決して第三者には見えないその仮面の下を、

    今こうして私がサーモスタットを通すように見抜いているのは、


    アッサムの魔法の効果の延長なのだろうか。




    それとも、


    私は自分が思うより、



    もっと、


    ずっと、



    アリスにとって『特別な』存在なのだろうか。
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■20311 / inTopicNo.31)  ◆ドレミさんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(77回)-(2007/11/22(Thu) 06:03:07)
    こんにちは。
    応援メッセージ、そしてご感想をありがとうございます。
    肺はすっかり元通りです、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。。
    私は頑張り屋ではないですが、強情な踏ん張り屋ではあるかもしれません。


    > 私はルイ子みたいに性格は良くないですが。

    ルイ子は、本当、性根が良いですね。
    悪が無いというか、灰汁が無いというか。
    良い娘だと思いますが、恐らく私とは気が合わないです。
    というか、ルイ子のような女性には、私は毛嫌いされそうな気がします。

    私の文格への勿体ないほどの高評価をありがとうございます。
    誉めて伸ばすタイプなのですね、ドレミさんは。
    頑張って伸びます!土筆のように!多分!


    雪がちらつきます。
    木枯らしにお気を付けて。

    それでは。
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■20313 / inTopicNo.32)  ALICE 【83】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(78回)-(2007/11/22(Thu) 06:25:08)
    アリスはシュガーポットには一度も手を伸ばさなかった。



    一口飲んで、
    ほぉっと吐息をついて、
    カップをソーサーに戻し、

    まどろむように数秒あてもなく視線を緩め、

    それからまた一口含んで、

    吐息をつく。




    そうやってゆっくり、アリスはカップを空にしていった。



    そんな彼女の隣の席で私は、
    とうに軽くなっていた自分のカップを弄びながら、

    今しがた私とアリスの間で交わされた、
    熱に浮かされたような台詞のやりとりを、

    もっと理性的に記憶に留めようと、


    頭の中のノートにペンを走らせていた。




    そんな沈黙が続いてしばらくした時、
    不意に時間が気になって時計を振り返ると、

    朝の6時をちょうど回ったところだった。



    「6時だ」



    呟くと、
    アリスも時計を振り返り見る。



    「朝はいつも和食?」


    尋ねると、


    「朝は、食べない」


    予想通りの答えが戻ってきた。




    「やっぱりねー。所長もアリスも、朝から料理なんて絶対しなさそう。
     というか、朝でも昼でも夜でも、所長が料理してるところなんて、想像付かない」


    アリスもね、と付け加えようとすると、
    意外な返しで遮られた。


    「絢は、けっこう料理上手だよ。特に、和食は」







    「…ホント?わぁ。意外。ん?じゃあ朝は?」

    「朝は、絢は、食欲より、性欲が強い」








    「そう、なんだ」


    としか、返しようがないだろう。



    早朝から、
    けっこう刺激の強い台詞だと思うのだが、
    アリスは特に意識して発言したわけではなさそうだ。



    「そんな彼女と、昨夜はケンカでもしたの?」

    「ケンカ、してないけど…」

    「けど?」

    「私は別の部屋で一人で寝てたのに。絢が連れて来ていた女が怒鳴り込んで来たから」



    これはまた、穏やかでない話だ。


    「所長って、よくそういう事するの?誰かを連れ込む、ような、事」

    「んーーそうだね。複数の時もある」

    けろりとアリスが答える。




    所長も相変わらずで、

    アリスも相変わらずのようだ。




    私に服を返すという口実が見当たらなかった場合、
    今頃アリスは何処でどうしていたのだろう。


    体を代価として求める女達のベッドの上に、
    生気のない顔で横たわっていたのだろうか。


    私は、 “真実の愛” を見いだす対象に、
    なんて困難な相手を選んでしまったのだろう。



    …と、そんな事はさておき。

    さておく事ではないのだろうが、

    今は、考えても仕方が無い。




    とにかくアリスには、

    心もそうだが、もっと自分の体も、大切にして欲しいものだ。



    それが、彼女の自尊心に繋がっているのだし。



    とりあえず今出来る事として、

    私はトーストとスープを、
    この小さな仕事人間に食べさせた。


    ひき肉、木綿豆腐、トマトなど冷蔵庫の残り物を、
    ニンニクとチキンブイヨンで煮立てた、
    簡単だけど、
    夏バテ防止に効果のあるスープ。




    同じ栄養食でもみそ汁にしなかったのは決して、

    和食が得意な加賀美所長の存在を気にしたからではない。




    決して。






    …多分。
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■20325 / inTopicNo.33)  ALICE 【84】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(80回)-(2007/11/29(Thu) 04:32:36)
    濃紺のツーピースに着替えたアリスは、

    予想通り、外国の絵本から飛び出して来た少女のようで。

    ベッドの隅に腰掛けて、
    長く柔らかな髪を片方で三つ編みながら、

    ドレッサーの前でファンデーションを塗る私と、
    鏡越しに時折目を合わせる。



    メイク道具を一つも持参していなかった彼女は、
    私の物を借りて既に支度を整えていた。

    出勤メイクに費やした時間は、およそ3分。

    種類によっては即席麺さえ出来上がらない。


    それで、あの仕上がりか。
    土台が違うってか。


    やかましい。


    次にこっちを見たら、
    変な顔でもしてやろうかと構えていたが、

    アリスは携帯電話を耳に当て、
    何処かに電話を掛け始めた。



    「○×区、二丁目、…まで1台お願いします…」




    …タクシーで、出勤するのか。


    出勤の支度を始めた辺りから、
    考えてはいたのだ、私も。
    私の車に乗って、揃って出勤するのは、
    やはりまずいのだろうか、どうなのだろうかと。

    まずい、らしい。

    まずい、よなあ。


    所長は決して面倒な性格ではないけれど、
    アリスの事となると、彼女の冷静さはふとしたタイミングで失われてしまうから。

    多分、
    アリスが私の家に泊まったのを知ったところで、
    何も言わないだろうとは思う。

    自身の女癖の悪さが原因なのだし。

    けれど、
    面白くは、ないだろうな。





    “ 自分では気付いていないんだろうけど、ルイ子は、アリスを惹き付ける何かを持ってる ”



    アリスの裁判を初めて傍聴した日の帰りに、
    所長はそう言った。

    その言葉通り、私がまだ気付かないうちから、
    (正確に言えば、気付こうとしていなかったうちから)
    彼女は何かを感じていたのだ。


    私とアリスが互いの内に不思議なほど安らぎを見い出し始めている、
    この感じは、
    周囲から見ていても、薄々勘付けるものなのかもしれない。

    人によるとは思うが。


    少なくとも所長は早い段階で察知していたのだし、

    リリー辺りも、多分…。


    リリー、か。
    少し、彼女の意見を聞いてみたい気もするが。
    まあ、いずれ機会があればだな。


    なにはともあれ、
    私という人間はもしかすれば、
    所長にとって、脅威の存在だったりするのだろうか。




    同じ日に、

    “ あの夜(Qeen's Birthでの夜)にルイ子は私を打ちのめした ”

    というような事を所長に言われた時、
    それは誤解だと、勘違いだと、
    私は真っ向から否定したのだ。

    自分とアリスは、希薄な関係なのだと。




    それが、今となってはどうだろう。

    私は、アリスの母親の顔を知って、
    アリスの夢のガーデンと、現実の園に案内されて、


    “ こうやって、ただ抱き締めてくれる誰かを探していたのかもしれない ”

    “ ルーイと居る時も、私、凄く落ち着くんだけど ”


    そんな台詞をアリスから贈られたのも、
    それは紛れもなく私で。





    ほんのひと月ほど前の私は、心の中で悲観した。


    “ 十代の頃のアリスも知らなければ、
     同じタクシーで同じ屋根の下へ帰る事もなければ、
     寝起きにあくびをするアリスを見る事もない ”


    ―――確か、そんな風に。



    その絶望的な願望の一つが、
    何の前触れもなく実ったのは、
    ついっさっきの出来事。

    あまりに唐突で、だけど自然で、
    今までその事実に気付けなかった。
    それくらい、流れるように、まるで予め定められていたみたいに、
    私の願いは叶ったのだ。




    勿論私にしてみれば、
    ここまで来る間に、そして今だって、
    色々な不安や不満やジレンマと戦っていて、
    決して夢見心地な日々だとは感じていないのだが、

    これらの変化のスピードを、
    感情抜きに、客観的に考えてみると、
    確かにこれは、所長にとって脅威かもしれないと、

    思う。




    だからこそ、

    この変化をなるだけ悟られてはいけない。


    私は所長を敵だとは思っていないが、
    彼女からすれば、そうはいかないはずだから。

    恋人兼所有者である彼女に、
    物理的にアリスとの距離を引き伸ばす行動に出られては、
    私は打つ手が無い。



    アリスは、

    こんな事までは考えていないだろうが、

    少なくとも私とのこの穏やかな時間を、
    崩されたくないという気持ちがあった為に、

    別々に出勤する事を決めたのだろう。




    それは、

    素直に嬉しい。







    スライド式の携帯電話を畳み、

    アリスがベッドから腰を上げた。
引用返信/返信 削除キー/
■20338 / inTopicNo.34)  ALICE 【85】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(82回)-(2007/12/06(Thu) 03:59:15)
    「園にさ」



    サンダルのベルトを留める為に、
    前屈みになりながら、

    アリスが言った。




    「また、私を起こしに来て」




    玄関のフローリングの上がり框に立ちながら、
    腕を動かす度に布地に浮き上がるアリスの肩甲骨を見つめていた私は、


    その骨に唇を乗せたい衝動に駆られた。



    それは、アリスが初めて口にした、

    私への要求だった。



    私はそれを、

    アリスの心の窓の隙間、
    そこから流れ出た風に乗ってやって来た、

    言葉だと感じた。


    その窓が私に向かって開き掛けているのを、

    私は心の目で見た。




    「勿論。また、お弁当作っていくよ」

    「キャベツ抜きのね」


    立ち上がって笑い、

    アリスはドアレバーに手を掛けた。



    その時、私の中で閃くものがあった。



    「あっ、ちょっと待って」


    私は咄嗟に、傘立てから薄い水色の日傘を抜き取り、
    アリスに差し出した。


    「え?」 不思議そうな顔でアリスが顔を傾ける。


    「これ、持っていって」

    「ありがとう。でも私、焼けるの気にしないから」

    「これ、雨晴兼用」

    「今日は快晴よ」

    「知ってる、でも持っていって。そして今度、返しに来て。また、夜中にでも」




    虚をつかれたように、
    アリスは一瞬目を大きく開いた。

    そしてすぐに、
    切ないほど綺麗な笑みに顔を崩し、

    水色の入場券を、私の手から受け取り、言った。



    「星の降る夜に、差して来る。ありがとう」




    そんな、歌のような言葉を残し、

    アリスは扉の向こうに姿を消した。



    一人になった私は、


    アリスの最後の台詞が、
    流星の尾のように辺りに漂う幻を、


    立ちつくしたまま見つめていた。
引用返信/返信 削除キー/
■20405 / inTopicNo.35)  NO TITLE
□投稿者/ S 一般♪(1回)-(2007/12/15(Sat) 21:15:28)
    はじめまして
    作品を読みました!
    凄くおもしろくて,一気に読みました!!


    めちゃくちゃ応援してます。
    頑張ってください。わら

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20432 / inTopicNo.36)  応援しています
□投稿者/ ミコ 一般♪(1回)-(2007/12/24(Mon) 00:50:43)
    しばらく更新がないので寂しいのですが、最後まで応援しています。ルイ子とアリス関係がどうなるのか気になって・・・。
引用返信/返信 削除キー/
■20549 / inTopicNo.37)  あおい志乃さんへ
□投稿者/ たまき 一般♪(1回)-(2008/02/05(Tue) 19:06:36)
    初めてまして,小説を読みました。

    文章がとてもきれいで読みだしてから止まりませんでした。

    これからも楽しみにしています!


    あと気になった事がありまして…
    ダイナさんっているんじゃないですか,その名前って「鏡の国のアリス」の中の猫の名前と何か関係しています?


    図々しくてすいません!


    無理をなさらず更新頑張ってください!

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20550 / inTopicNo.38)  ◆ミコさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(1回)-(2008/02/09(Sat) 00:20:42)
    こんにちは、コメントありがとうございます。
    来月が桜花の季節だなんて信じられないくらい、
    寒い毎日が続いています。
    それでも開花前線は必ずやって来るのですね。
    ピンクの花びらが散り始める頃には、
    私の生活にゆとりが出来そうですので、
    まとめて更新したいと思います。
    それまでにも余裕があれば少しずつ書き加えたいです。
引用返信/返信 削除キー/
■20553 / inTopicNo.39)  ◆Sさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(5回)-(2008/02/09(Sat) 00:24:50)
    応援のメッセージをありがとうございます。
    嬉しいです。
    完結までにはまだまだ時間が掛かりそうですが、
    お付き合い頂ければ幸いです。

引用返信/返信 削除キー/
■20554 / inTopicNo.40)  ◆たまきさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(6回)-(2008/02/09(Sat) 00:31:54)
    はじめまして、こんにちは。

    実は、ダイナだけでなく、
    “ALICE”に登場する人物の名、
    またその他の固有名詞は全て、
    『不思議の国の・・・』と何らかの繋がりがあるのです。
    分かり易いものもあれば、捻りを加えてあるものも。あります。
    ただのちょっとした遊び心なんですけどね。
    最後まで指摘が無ければ、
    完結した時にさりげなく明かそうかな、と思っていたのですが。
    気付いて頂けて嬉しいです。
引用返信/返信 削除キー/

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