| 1日の業務をようやく終え、タイムカードを切った途端疲れがどっと押し寄せてくる。
忙しかった1日をぼんやりと思い出しながら、宇野愛友美(うのあゆみ)はナースステーションを後にした。
「とっとと帰って、今日は早めに休みますか…。」
誰に言うわけでもなく、独り言を呟いてロッカーの鍵を開ける。
白衣を脱いで私服に着替えた瞬間、気分は完全にプライベートモードだ。
「はぁっ…。」
職場の病院が見えなくなったのを確認し、思わず大きな溜め息を吐く。
最近仕事にやりがいを感じられない。
職場で患者に作り笑顔を振り撒いてるからか、仕事以外で最近笑えていない気がする。
疲れきった表情をして、ビールでも買って帰るかなぁ…とぼんやりと考えていた時だった。
目の前を歩いていた女性がフラりとよろけ、そのまましゃがみこんでしまった。
「え…っ!?」
愛友美は思わず歩くのをやめて、女性の背中を凝視する。
女性は細い肩を上下させ、苦しそうに呼吸をしているようだ。
他の通行人が見て見ぬふりをして、どんどんと後ろを通りすぎて行く。
本当は愛友美も早く帰りたかったが、彼女をほっておく事が出来なかった。
「…大丈夫ですか?」
視線を合わせようと屈んで顔を覗き込むと、真っ青な顔をした女性と視線が合った。
愛友美の顔を見てどこかホッとした表情を浮かべた女性は、苦しそうにしながらも愛友美に微笑みかけてくる。
「…ごめんなさい、気分が悪くて」
「他に具合が悪いとこはないですか?」
「んー…頭痛と目眩かなぁ…」
今現在何とか会話は出来てるものの、気温は30度後半。
このままここにいたら、彼女の体力がどんどん奪われていくのは容易に考えられた。
「立てそうですか?」
「支えがあれば…何とか」
愛友美はそう答えた女性に肩を貸して、タイミング良く通りかかったタクシーを捕まえる。
「どちらまでいかれますか?」
「…N総合病院までお願いします。」
まさか先程後にした職場に逆戻りになるとは…。
来た道をタクシーで引き返し、見慣れた景色を窓越しに見つめながら、愛友美は苦笑いを浮かべた。
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(携帯)
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