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Nomal あおい志乃からご挨拶 /あおい志乃 (07/09/12(Wed) 22:01) #20012
Nomal ALICE 【66】 /あおい志乃 (07/09/13(Thu) 02:07) #20020
Nomal NO TITLE /世羅 (07/09/13(Thu) 00:12) #20013
│└Nomal ◆世羅さんへ /あおい志乃 (07/09/13(Thu) 02:09) #20021
Nomal お久しぶりです。 /凌 (07/09/13(Thu) 16:58) #20025
│└Nomal ◆凌さんへ /あおい志乃 (07/09/16(Sun) 02:47) #20035
Nomal ALICE 【67】 /あおい志乃 (07/09/16(Sun) 02:52) #20037
Nomal ALICE 【68】 /あおい志乃 (07/09/16(Sun) 03:49) #20040
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Nomal ALICE 【70】 /あおい志乃 (07/09/22(Sat) 03:25) #20065
Nomal ALICE 【71】 /あおい志乃 (07/09/22(Sat) 03:48) #20068
│├Nomal 続きを楽しみに待っています /ミコ@^_^@ (07/10/08(Mon) 00:00) #20148
│└Nomal 続きを楽しみに待っています /ミコ^_^# (07/10/07(Sun) 23:59) #20147
│  └Nomal ◆ミコ^_^#さんへ /あおい志乃 (07/10/10(Wed) 04:57) #20158
Nomal ALICE 【72】 /あおい志乃 (07/10/10(Wed) 04:52) #20157
Nomal ALICE 【73】 /あおい志乃 (07/10/24(Wed) 02:54) #20231
Nomal ALICE 【74】 /あおい志乃 (07/10/24(Wed) 03:03) #20232
│└Nomal おつかれさまです /読者 (07/10/25(Thu) 07:27) #20236
│  └Nomal ◆読者さんへ /あおい志乃 (07/10/28(Sun) 07:50) #20244
Nomal ALICE 【75】 /あおい志乃 (07/10/28(Sun) 07:40) #20243
Nomal ALICE 【76】 /あおい志乃 (07/10/28(Sun) 07:56) #20245
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│└Nomal 満を持して /ドレミ (07/11/05(Mon) 12:35) #20263
│  └Nomal ◆ドレミさんへ /あおい志乃 (07/11/08(Thu) 04:48) #20280
Nomal ALICE 【79】 /あおい志乃 (07/11/08(Thu) 04:25) #20279
Nomal ALICE 【80】 /あおい志乃 (07/11/10(Sat) 05:51) #20286
Nomal ALICE 【81】 /あおい志乃 (07/11/10(Sat) 06:29) #20287
│└Nomal お返事ありがとうございます /ドレミ (07/11/17(Sat) 17:35) #20298
│  └Nomal ◆ドレミさんへ /あおい志乃 (07/11/22(Thu) 06:03) #20311
Nomal ALICE 【82】 /あおい志乃 (07/11/22(Thu) 05:43) #20310
Nomal ALICE 【83】 /あおい志乃 (07/11/22(Thu) 06:25) #20313
Nomal ALICE 【84】 /あおい志乃 (07/11/29(Thu) 04:32) #20325
Nomal ALICE 【85】 /あおい志乃 (07/12/06(Thu) 03:59) #20338
│└Nomal 応援しています /ミコ (07/12/24(Mon) 00:50) #20432
│  ├Nomal 即プレイOK /千里 (12/05/14(Mon) 22:20) #21507 完結!
│  └Nomal ◆ミコさんへ /あおい志乃 (08/02/09(Sat) 00:20) #20550
Nomal NO TITLE /S (07/12/15(Sat) 21:15) #20405
│└Nomal ◆Sさんへ /あおい志乃 (08/02/09(Sat) 00:24) #20553
Nomal あおい志乃さんへ /たまき (08/02/05(Tue) 19:06) #20549
│└Nomal ◆たまきさんへ /あおい志乃 (08/02/09(Sat) 00:31) #20554
Nomal 返事ありがとうございます。 /たまき (08/02/10(Sun) 11:58) #20556
Nomal ALICE 【86】 /あおい志乃 (08/03/24(Mon) 08:24) #20750
Nomal ALICE 【87】 /あおい志乃 (08/03/24(Mon) 09:14) #20752
Nomal ALICE 【88】 /あおい志乃 (08/06/24(Tue) 03:01) #20949
Nomal ALICE 【89】 /あおい志乃 (08/06/24(Tue) 03:23) #20950
│└Nomal お待ちしてました /れい (08/06/28(Sat) 01:41) #20958
│  └Nomal ◆れいさんへ /あおい志乃 (08/06/28(Sat) 02:14) #20962
Nomal あおい志乃さんへ /凌 (08/06/24(Tue) 08:43) #20951
│└Nomal ◆凌さんへ /あおい志乃 (08/06/28(Sat) 01:57) #20960
Nomal 待ってました(^-^) /★ (08/06/26(Thu) 17:38) #20954
│└Nomal ◆★さんへ /あおい志乃 (08/06/28(Sat) 02:00) #20961
Nomal ALICE 【90】 /あおい志乃 (08/06/28(Sat) 01:52) #20959
Nomal ALICE 【91】 /あおい志乃 (08/06/28(Sat) 03:06) #20963
Nomal 伝えたいこと /リーフ (08/08/03(Sun) 10:02) #21035
Nomal まってます /ぎのご (09/03/07(Sat) 15:03) #21277


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■20012 / 親階層)  あおい志乃からご挨拶
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(46回)-(2007/09/12(Wed) 22:01:52)
    “ALICE”のTreeが上限を超えましたので、
    改めて新規作成致しました。
    初めてこの作品にお目に掛かった方は、
    よろしかったら過去のページに戻って、
    是非第一話から“ALICE”をご覧になって下さい。
    Treeは他に2つあります。
    ・・2つもですか!?
    はい、そうなんです。申し訳ありません。。

    こんにちは。あおい志乃です。
    ご愛読ありがとうございます。

    素人の分際で、こんな長編になってしまい、心苦しい思いでございます。
    全体の構成に重要なストーリーのみをササッと書き進めれば良いものを、
    あまり主軸でない場面も、書き出してしまうと、
    余計な描写を長々と連ねてしまって、
    非常に無駄の多い作品になっているという現状でございます。

    この際、早送り感覚で構いませんので、
    完結したあかつきには、興味本位で目を通して頂ければと思います。


    季節の変わり目ですが、
    体調や気分をお崩しにならず、
    皆様が笑顔で穏やかな毎日を過ごされることをお祈りしております。





      あおい 志乃

[ □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20020 / 1階層)  ALICE 【66】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(47回)-(2007/09/13(Thu) 02:07:10)
    ダイナが小さくいびきをかき出したので、


    私は身を起こした。




    腕時計に目をやるが、暗くてよく見えない。

    枕元の電子時計に縋ると、

    くっきりと光る文字で午前3時2分を表示している。





    交わっていた時間は約3時間にも及んだらしい。


    前回は失神に近い絶頂の後に眠りに堕ちた為、

    時間は定かではないが、

    今日と同じだけの長さには及んでいただろう。





    彼女は私の体にある山や谷、

    河や洞窟、


    ありとあらゆる地形を探り、探し当て、見つめて触れて、

    目と指と舌先で舐め尽くし、



    今夜も先夜も、

    私は同性の手によって自分の体に見いだされる新たな性感帯を数え上げる事が出来ないでいた。







    ただ私の体を悦ばせる為に、全身全霊を尽くしたダイナの体は、

    海底で死んだように眠る船のように、

    ベッドに沈んでいる。




    音を立てないようシーツから身体を順に抜き、

    周りに散乱した自分の下着やスカートを裸足で拾い集める。


    ダイナの衣服も拾い上げ、

    ベッドの端に掛けたが、



    流れるようにそこに横たわる黒いサテンの生地を見下ろし、

    私は動きを止めた。




    ―――何か、おかしい。


    ―――何か、甘すぎる。




    甘いって、何がよ。



    自分でも一瞬、訳が分からなかった。




    だがすぐにその違和感の正体を掴んだ。


    それは別に大したことではなくて。


    ただ、

    ダイナの衣服をベッドに掛けた私の行為が、


    というより、


    今から数時間後、

    ダイナが目覚め、

    私のその気遣い(と呼べる程の事でもないが)を目にした時に、



    彼女の心とこの部屋に充満するであろう空気が、




    甘すぎる。





    私は、

    ダイナとの淫らな関係を美化したくなど無い。



    私とダイナは、

    恋人などではないのだ。





    少し躊躇ったが、


    私はやはり、ダイナの衣服をもう一度床に散らした。





    私に奉仕し尽くし眠るダイナが、

    水がタイルを打つ微かな音で目を覚ますとは思えなかったが、


    念のため、シャワーを浴びることはせず、

    私は乱れた匂いの漂う部屋を出た。




    フロント係の礼節正しい笑顔とお辞儀で見送られ、


    ホテルから一歩外に出ると、




    熱帯夜の風とはこれほどだったろうかと思うほど、

    私の火照った体に吹き付ける南風が、

    湿りを帯びていて不快だった。




    風下の街で眠る人々の夢に、

    不埒な私の裸体が映し出されてしまうのではないかと、


    そんな妙な不安が湧き出す。





    やはり部屋でシャワーを浴びてくればよかった。





    そんな後悔が浮かんだ時、





    タクシーが私の前で停車した。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / ▼[ 20021 ]
■20013 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ 世羅 一般♪(1回)-(2007/09/13(Thu) 00:12:28)
    楽しみにしてます
    ご自分のペースで頑張ってください

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20013 ] / 返信無し
■20021 / 2階層)  ◆世羅さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(48回)-(2007/09/13(Thu) 02:09:42)
    早速の応援メッセージありがとうございます。
    やる気が高まりますね♪

    朝晩冷えますが、
    お風邪を召されませんよう、
    お気を付け下さいませ。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / ▼[ 20035 ]
■20025 / 1階層)  お久しぶりです。
□投稿者/ 凌 一般♪(1回)-(2007/09/13(Thu) 16:58:39)
    2つめのTreeの完成3つめのTreeの始まり、僕にはおめでたいことです。

    おめでとうございます。

    そしてこれからも聞かせて下さい。

    真っ白なノートに落書きするようなレスしてすみませんでした(笑)

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20025 ] / 返信無し
■20035 / 2階層)  ◆凌さんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(50回)-(2007/09/16(Sun) 02:47:58)
    そんな風に言って頂けると、
    心がすっと軽くなります。

    キーボードを打つ指も、軽くなると良いんですけどね。


    お久しぶりです。
    お元気でしたか。

    熱かったり寒かったり、
    この頃は変なお天気ですね。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20037 / 1階層)  ALICE 【67】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(52回)-(2007/09/16(Sun) 02:52:09)
    シャワーだけでは満足出来ず、


    バスタブに熱めの湯を張って、深く身を沈めると、


    全身から灰汁が抜け出していくような感覚に襲われた。



    瞼を閉じると、

    箒に乗った魔女のイラストが点滅する。


    今にも謎解きを始めようとする左脳を私は制する。



    一度考え出せば止まらなくなりそうだ。

    のぼせて鼻血を出す訳にはいかない。


    入浴を済ませたらリビングに行って、

    まずエスプレッソを炒れよう。

    濃いめの。


    それからソファに深く腰掛けて、

    一口それを飲んでから、


    そしてパズルを解こう。




    早まる気持ちを抑える為に、神経質な計画を立てた私は、

    バスタブから出て冷水のシャワーをサッと浴びた。



    ノーブラにロングTシャツ、

    下にはショーツのみを着け、


    スポーツタオルで髪を拭きながらリビングの扉を引いた私は、

    ぱらっと一束垂れて目に掛かった前髪を払おうと目線を上げて、



    ゾッとした。



    予め付けておいた冷房の空気がTシャツの下に流れ込んで、

    腰の産毛を揺らしたからではない。



    ユニが、


    室内灯も付けずにそこに立っていたからだ。




    マネキンのように無機質な表情をした彼は、


    停電時にも点灯し続ける、

    小さなダウンライトの薄い青い光に左半身だけを照らされていた。



    知人に貰ってからろくに世話をしていないのに、

    勝手に成長して今では通常のサイズを大幅に上回る背丈になったパキラの葉を、


    ユニは退屈そうに指で弾き、


    それからゆっくりこちらを向いて、



    「おかえり」



    と、私を睨んだ。




    上がった口角を見る限り、

    実際にはユニは私に笑いかけているようだ。



    それでも陰になっている彼の顔半分には、

    きっと憎悪の色が滲んでいて、

    指先を通して緑の葉に死を注いでいるのだと、



    私は何故かそんな妄想をした。




    「ただいま。起こしちゃったかな、猫クン」


    後ろ手に扉を閉め、ユニの方を向いたまま、

    私は手探りで、シーリングライトの壁のスイッチを押した。




    パッと明るくなった室内に立っていたのは、

    いつもの人懐こい笑みを浮かべたユニだった。



    彼の口角は右も左も、

    ヴェネチアの水路を泳ぐゴンドラのシルエットのように、

    ニッコリと上がっている。





    質問には答えずに歩いて来たユニは、

    両手で私の頬を挟み込み、


    おでこに口づけた。




    こんな時、


    普段の私なら腕をユニのうなじの上で絡ませ、

    顎を上げて唇に蜜を催促するのだが、


    今は、そうせず、ただ立ちつくしていた。



    ダイナとのsexは気が狂うほどの満足感を私の体の隅々にもたらすが、

    与えられる疲労感も、

    それに比例していて、並大抵の重さではないのだ。



    今からユニの相手をする事は苦痛でしかない。


    そして何より私はこれから、

    ジグソーパズルに取りかからねばならないのだ。




    だが私の願いとは裏腹に、

    ユニは唇を下へ移動させた。


    私の上下の前歯の間へ、

    彼の長い舌が差し込まれるのと同時に、

    下着の中にも指が侵入してくる。




    「ユニ、待っ・・」


    唇を離してもすぐにまた塞がれる。



    じゃれているのだと勘違いさせないよう、

    私は力を込めて、ユニの肩を押した。



    「ごめん。疲れてるの。凄く」


    そう言葉に出して、

    私は気が付いた。


    こんな風に行為を中断するのは、

    ユニと暮らし出してから、これが初めてだという事にだ。




    ユニは私の下着から手を引き抜き、

    しばらく惚けたような表情で私の瞳や唇を眺めていたが、


    やがて目を反らし背を向けて、

    元居たパキラの鉢の隣へ静かに歩いて行った。





    自由に抱ける関係にある女に拒絶された場合の男の行動は、

    大きく分けて3パターンだと私は経験から踏んでいた。



    この世の終わりとばかりにしょぼくれて、こちらが妥協の姿勢を見せてもへそを曲げたままでいる男、


    何が何でも欲求を満たそうとする男、
    (この場合は怒り出すか甘え出すかのどちらか)


    それから、


    平静にあっさりと引き下がる男。
    (本気で気にしていないのか、それともプライドの為に装っているだけかはこの際問題にはしない)




    さてこの猫はどのパターンに属するのだろうかと、



    Tシャツの生地の上からでもなぞるように分かる、

    彼の美しい背中を見つめながら、




    私は出し抜けに興味が沸いた。

[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20040 / 1階層)  ALICE 【68】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(54回)-(2007/09/16(Sun) 03:49:32)
    「僕が」



    成人男子にしては少し高めのユニの声が、

    冷えた室内に響く。




    「僕が何を好きで、何を嫌いか、知ってる?」




    こういう唐突な会話の始め方は、

    ユニには珍しくない事だ。


    この猫はパターン3だったのだろうかと考えながら、

    私は質問の答えも合わせて探し出す。




    久方ぶりの我が家へ、ユニによって迎え入れられた晩、

    私達はハンガリー以来のお互いの体を丸24時間かけて貪り合った。


    汗腺に詰まった長旅の疲労と、

    全身の毛穴から吸い込んだ懐かしい故国の空気が混ざり合ったような気だるさに支配された私は、


    絶頂に達する度に曇天のような眠気に襲われて、



    ユニと共に眠っては交わり、また眠っては交わり、

    寝室は性欲と睡眠欲で荒れ狂う海と化した。



    十何回目かの航海を終えて、

    また眠りの世界へと堕ちていく途中で私は、


    「本当に貴方をここに住まわせて良いのかしら。本当に私は貴方の事を何も知らないのに」


    と、自分自身に問うように呟いた。



    「互いに好きだという気持ちと、あとは食べ物の好みさえ知っていれば、他は何も知らなくたっていいさ」




    ユニのその言葉でようやく私は、

    いや私達は、

    人間には性欲と睡眠欲の他に、

    もう一つ大切な欲があったのを胃の底から思い出し、



    野菜室にあった水晶文旦、南水梨、日向夏などの果実をベッドに持ち込んで、

    果汁をシーツと互いの体に垂らしながら、

    笑いながら、


    競い合うように食したのだ。




    互いの歯の隙間を、甘い水分が通過する飛沫のような音を聞きながら、

    何とも言えない幸福感に包まれたのを覚えている。






    その時の気持ちをじわりと胸に再現しながら、私は答えた。


    「ユニは、マグロの赤身と、グラタンと、ダージリンと、それから私の事が好き」




    パキラの幹を撫でながら、

    「正解」

    とユニが言う。



    少しの沈黙が流れ、

    入り口で立ちつくしたままで居る状況に私が心地悪さを感じ始めた時、


    「それじゃあ僕が嫌いな物は何?」


    と、ユニが訊いた。




    一体これは何のゲームだろう。


    彼の意図する事は分からないが、

    とりあえず私は、

    いつだったかイタリアンレストランで彼が食べ残した赤い野菜の名前を言う。


    「ミニトマト」


    「正解。よく覚えてたね」


    ユニが笑う。

    私もつられて笑う。



    「ミニトマトは、本当に僕、食べられないんだよ」

    ユニが、すまなさそうに笑う。




    “そう、それで何が言いたいの?” と言いかけた時、


    「僕が嫌いなものが、もう一つある」


    と、笑ったままでユニが言った。




    “椎茸?アスパラ?キュウリ?何でもいいけどだから何が言いたいの?”


    と、言いかけたその時。













    「他の雄猫の匂いを外で洗い落としてくる気遣いのない女」












    その台詞がユニの口から放たれたと同時に、パキラの葉が一枚、

    彼の長い指でむしり折られた。




    一語一句が私の頭の中で反芻し出したが、

    それでも私の心にはまだ言葉の意味が到達せず、


    ただパキラの悲鳴が耳の奥で木霊していた。




    「他の雄猫とヤルだけヤッて、性欲と体力を根こそぎ奪われて、しかもそれを隠す気遣いのない女」








    若い葉がもう一枚、悲鳴を上げた。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20064 / 1階層)  ALICE 【69】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(55回)-(2007/09/22(Sat) 02:57:33)
    胸に刺さるような、鋭く、

    だけどとても肉厚な生温さをも感じさせるその音を聞いた瞬間、


    私の脳が働き出し、

    ユニの言葉の意味を頭が呑み込み始める。





    感想は、




    ―――まさか




    の一言。



    まさか、

    ユニの口からこんな言葉が語られようとは。




    彼の口は、

    美味しい物を食べ、『美味しい』と言い、

    美しい物を見て、『美しい』と言い、


    それから私にキスをして、

    体中を愛撫し、

    『好きだよルイ子』と言う為、


    ただそれだけの為に存在していると、



    思っていた。






    今、目の前に立つ男が、


    急に見知らぬ人間のように感じられて、



    私の背中を再び悪寒が走る。




    灯りを付ける前に薄暗がりの中で感じた、

    ユニの半身に潜む憎悪の影は、


    幻ではなかったのかも知れない。




    絶句したまま立ちつくす私の横を影のように音もなく通り過ぎ、


    ユニはリビングから出て行った。








    このままこの家から出て行って、

    二度と戻っては来ないのかも知れないという予感がしたが、


    聞こえてきたのは玄関ではなく寝室の扉を開閉する音だった。





    その音を聞くのを皮切りに、

    蝋のように鈍く凝固していた五感が溶け出す。


    ブーンという冷蔵庫の排熱ファンの音が耳に届く。




    気が付けば、

    アリスの事で占められていた頭の半分が、

    ユニの存在に変わっていた。



    一体、どうしたというのだろう。




    私達は今まで、

    干渉や嫉妬とは全く無縁の関係を築いてきていた。


    互いの過去にも未来にも執着は無く、

    今夜家に帰って来るのかどうかさえ、確認しない二人だったのだ。


    特にユニの方は携帯電話さえ持っておらず、

    その為私にとって外出中のユニは常に行方知れずだった。


    他の女と寝ているかもしれないし、

    そうでないかもしれなかった。


    深く考えた事が、無かった。




    それはユニも同じだったはずだ。


    今までも、連絡無しで深夜に帰宅したことは何度かあった。

    が、彼は気に掛けるそぶりもしなかった。



    タイミングが合わず、

    慰安旅行の事を知らせないまま、黙って一泊して帰った日も、

    玄関の扉を開けた私にユニは抱きついて、顔中にキスをして、


    それから土産に買った旅行バッグの底に入っているのを、
    嗅覚でサーチしたのか、

    ガサゴソと中を漁って掘り当て、

    嬉しそうに菓子折り箱の包装紙を破り始めた。



    あの時のユニの鼻歌を、

    演技の産物だと感じるならよほどのひねくれ者だ。




    とにかく、


    私達の間に余計な干渉や追求はあってはならず、

    そういう類のものから自由でいることを、

    二人は望んでいたはずだった。



    しかし、どうやらユニは変わってしまったらしい。


    精神的にも肉体的にも他人から自由でいる事を、
    最大の美徳だとする関係にとって、

    ユニの先刻のような言動は、
    維持管理には致命的だといえる。


    一体、どうしたというのだろう。



    私が度を超して無神経すぎたのだろうか。



    それとも彼は、

    私達の形をもっと別のモノに変えたがっているのだろうか。



    例えばそれは、もっと現実味のある、

    もっと生活感の漂う、


    例えば『結婚』であるとか。





    結婚―――


    ありふれた熟語。



    だけど私には、聞き慣れない外国の言葉のように遠い。




    結婚、は考え過ぎかも知れないが、

    もっと一般的な恋人のように、

    嫉妬で愛情を測り合うような、
    家族ぐるみで付き合うような、

    そんな関係に多少なりともユニは憧れを抱き始めたのかも知れない。


    日本という安泰国家に飼い慣らされたのか。



    もしそうだとしたら、

    私は彼のその欲求を受け止めることが出来るのだろうか。




    答えがどうあれ、

    ユニのことが好きなら、私は今、寝室にいる彼の元へ向かうべきなのだろう。



    重い溜息をついて、ドアレバーに手を掛けたその時、




    扉の向こうから、

    ウィーンという機械音が、極小のボリュームで私の耳に届いた。


    その音は一定の間隔を置いて規則的に鳴っている。





    なんとなく独り言を言いたくなった私は、


    頭の中では、“何だろう” と思っていたにも関わらず、

    実際口から呟いたのは、



    「誰だろう」




    という、


    ちぐはぐな疑問語だった。
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▲[ 20012 ] / 返信無し
■20065 / 1階層)  ALICE 【70】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(56回)-(2007/09/22(Sat) 03:25:21)
    だが、そう言って私はハッとした。




    ―――携帯電話



    この機械音は、着信のバイブ音だ。



    脱衣所に置きっぱなしにしてあるハズのそれに向かって、

    スリッパをパタパタと鳴らして走りながら、


    ダイナかもしれないと、少し気分が重くなる。




    予想される内容といえば、


    黙って帰った事への文句か、

    次はいつ会うか、という取り決めか、


    残る一つが、



    今宵の淫戯の復習。



    私がどんな声を上げたか、どんな表情をしたか、

    そんな事をサディスティックに、甘ったるさも交えた言葉で語るのを、


    長々と聞かされるなんて堪えられない。




    乾燥機の上で小刻みに震え、

    僅かに移動している携帯電話を半歩手前で眺めながら、

    寝たつもりで無視してしまおうと、思った。




    それ以上近付いて行かないまま、

    怖いモノ見たさと似たような感覚で、

    携帯電話のサブディスプレイを薄目で伺ってみる。



    青い背景に白く光る小さなフォントは3つ。

    少ない画数から、それがカタカナの羅列であると予測出来る。



    やはり、ダイナか―――


    と、溜息をつきそうになったその時、




    目を反らす直前に、

    私の脳がディスプレイに並ぶ3つの内、真ん中の文字を認識した。






    ――― リ




    リ ??




    猫じゃらしにじゃれつく猫のような素早さで、

    私は携帯を誰からでも無く乾燥機の上から引ったくった。




    光る文字は、



    【 アリス 】



    アリス!!!!







    「はい!!はい!!!!」


    受話ボタンを押すか押さないかの内に、

    私は電話を耳に当てて叫んだ。




     −・・どうしたの?−




    それは紛れもなく、アリスの声。




    「どうしたのって、アリスこそどうしたの」


     −あんまり大きな声出すから−


    「ごめん、切れちゃうかと思って。それで、どうしたの?」


     −ん・・−





    もう一度、今度はもっと優しい声で、どうしたのと訊こうとした時、




    −借りたままだった服、を、持って来た−



    妙にたどたどしい答えが返ってきた。



    「え?ああ、前の・・え?持って来たって、今どこにいるの?」


     −ん。毒々しいサボテン−


    ・・・


    「あぁ!下?下にいるの今?」


    私のマンションのエントランスホールには、
    本当に毒々しい巨大なサボテンがあるのだ。

    『居る』と言った方がしっくりくるくらい、存在感があるサボテン。


    アリスはまた、「ん」とだけ言って沈黙する。


    「ロック解除するから、上がっておいで。チャイム鳴らさないで、勝手に開ければいいから」


     −分かった−





    通話を終えて、メイン画面の時計表示を見ると、

    時刻は【4:25】。


    服の返却の為だけに、こんな時間に訪ねて来るのはおかしい。


    ダイナに拉致されそうになった時のように、
    変なことに巻き込まれていなきゃいいが。


    ドアチェーンを外しながらそう考えて、
    私はハッとした。


    ダイナの一緒に居た形跡が、何処かに残っていないだろうか。


    身体に染みついた香水の匂いはバスタブで抜いたし、服も替えた。

    しかし、念には念をだ。


    私は脱衣所まで戻り、

    網籠に脱ぎ捨ててあった服を一式、
    洗濯機の中へ放り込み、

    フタを閉めた。




    その時、


    玄関扉の開閉音が耳に届いた。


    出て行くと、


    ノースリーブのシンプルな綿のワンピースを着て、
    左耳の下辺りで髪を一つに横束ねしたアリスが、

    いつもよりもやや白い顔で立っていた。



    左腕に、クリーニングのビニールに包まれた衣類を何着か、

    真ん中で折り掛けている。


    その中に、私のスエットの生地が混ざっているのが見えた。


    クリーニング屋の主人は、
    ところどころに毛玉のあるスエットを、どんな思いでプレスしたのだろうか。

    私だったら、毛玉を増やしてやろうかと、むかついたかもしれない。




    「こんばんは」


    と私が挨拶すると、アリスはじっと私を見つめて、

    それから言った。


    「それって、下は何も着けていないの?」









    しまった。


    私は自分の今の格好が、とても人を出迎える装いでは無い事を思い出した。



    洗濯機に放り込むその前に、一枚履くべきだったのだ。



    「バカな事言わないで、下着は着けてる!先にリビング行ってて」



    耳が熱くなるのを感じながら慌ててそう言い残し、


    私は部屋着を取りに寝室へ逃げ込んだ。
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■20068 / 1階層)  ALICE 【71】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(58回)-(2007/09/22(Sat) 03:48:14)
    逃げ込んだと思った場所は、


    安全地帯では無く、むしろ地雷がそこら中に埋め込まれているような、


    居心地、もとい生きた心地もあまりしない部屋だった。




    ユニが居る事を、忘れていた。




    なんて、いい加減な私の脳。




    ユニはベッドに仰向けに寝転んで、

    彼のお気に入りの写真集(世界のポストばかりが被写体の)を両手で掲げ、覗いていた。



    視線はそのままで、「誰か、来たの?」 と彼が言う。



    「あぁ、うん。同僚。ほら、この間も夜中に来た娘。なんかね、訳ありみたいで」


    「・・そう」



    七部丈の綿パンを履いて、

    どうしたものかと、私はこちらを見ないユニを眺める。



    「ユニ、あのさ、さっきの話なんだけど―――」

    「ああ、ごめん」

    「ううん、びっくりしたけど、だっていつものユニらしくなかったから。でも悪いのは私だから」

    「僕らしいって、何?」



    その声があまりに鋭かったので、


    彼は未だ視線を写真集に当てていたが、

    それでも私は彼に背を向けたくなった。


    またユニに、睨まれているような気分になったのだ。


    ああ何て言おう。


    僕らしいって何?


    というか、 僕らしいって何?  って何?

















    別れたい。


















    その言葉が、ストローで吸った空気のように、

    “ぽっ”  と、

    私の頬の内側、柔らかな口内の湾曲の壁にぶつかった。



    信じられない思いで、

    私はその膨らみを呑み込む。




    ああ、嫌、もう、私っていつもこう。

    リビングにはアリスが居るのに、

    私は全然変わらないんだわ。






    「ごめんねユニ。でも、貴方が心配しているような事は、無いから」



    それはつまり、私は他の雄猫との情事を交わしてなんていないのよ、という意味で。

    実際私が交わっていた相手は、雌であるのだし。



    ・・・なんて、そんな事を本気で言い訳に出来るとは考えていないが、

    だがいずれにせよ、得体の知れない怒りを抱いているユニに、

    “浮気”を認めるような事は、とても言えない。



    私のこの言い訳にユニはどう反応するのだろうと、

    様子を伺っていると、



    ようやく彼は広げていた写真集をパタンと閉じて、

    私を向いた。



    「こっちこそ、ごめん。もういいんだ」


    そう言って、ニコッと笑った。



    いつもの笑顔。



    けれど私は、彼のその笑顔を見る度にこれまでいつも感じていた、

    広いプールに仰向けに浮かんでいるような、開放的な安穏を、


    もはや抱く事は出来なかった。




    ただ、


    ―――器用に笑う男の子




    そう、感じただけ。





    私たちの間で、今夜、何かが変わった。




    でも、それが何かを今確かめる気は、私にも、ユニにも無い。





    「じゃあ、ちょっと、家出娘の様子を見てくるね」


    適度におどけた調子でそう言い、

    私はユニの居る寝室を出た。






    今夜はこれで終わりだが、


    いずれユニとはきちんと話をしなければならないのだろう。


    今まで、会話が少なすぎたのだ。

    そう、今までが楽すぎただけ。




    今後の事を考えると気が重いが、

    今考えたって、仕方がない。






    さて、次はアリス。





    気持ちを切り替えて廊下を進み、


    リビングに入って後ろ手でドアを閉めると、



    玄関のオートロックが閉まる音が、


    それに重なった。
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■20148 / 2階層)  続きを楽しみに待っています
□投稿者/ ミコ@^_^@ 一般♪(1回)-(2007/10/08(Mon) 00:00:24)
    あおいさん、体調はいかがですか?お仕事忙しとは思いますが、更新を楽しみに待っています。
    アリスの訪問が気になりますし、ルイ子とユニの関係がどうなるのか気になりますので。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20068 ] / ▼[ 20158 ]
■20147 / 2階層)  続きを楽しみに待っています
□投稿者/ ミコ^_^# 一般♪(1回)-(2007/10/07(Sun) 23:59:25)
    あおいさん、体調はいかがですか?お仕事忙しとは思いますが、更新を楽しみに待っています。
    アリスの訪問が気になりますし、ルイ子とユニの関係がどうなるのか気になります。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20147 ] / 返信無し
■20158 / 3階層)  ◆ミコ^_^#さんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(60回)-(2007/10/10(Wed) 04:57:36)
    メッセージありがとうざいます。
    サボってしまってごめんなさい。
    これからちょっと面倒な文脈になるので、
    それを見越して二の足を踏んでいました。
    情けないです。

    渇も含んだ応援コメントに感謝致します。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20157 / 1階層)  ALICE 【72】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(59回)-(2007/10/10(Wed) 04:52:47)
    2007/10/28(Sun) 07:32:54 編集(投稿者)

    オートロックの閉まる音の意味について、

    追求するのを後に回す決意を一瞬で下した私は、



    アリスの姿を認めようと、

    室内を見渡した。



    が、彼女は見当たらなかった。




    トイレにでも行ったのだろうかと思ったが、

    そうではなく、アリスはソファで眠っていた。





    自分で自分を抱き締めるような、

    いつもの態勢で、


    左頬を下にして、クリーム色の革の上に横たわる彼女は、


    瞼に深い疲労の色を滲ませていた。




    枕元のアーム部分に垂れかけてある、

    彼女が持参した衣服を持ち上げる。



    クリーニングのビニールに包まれていたのは、

    私のスエットと、

    もう一つは、
    アリスが着ているところを見た覚えのある
    薄いピンクのカーディガン。


    残りは新調したもののようだ。


    明日の出勤用の一式だろうか。


    ボートネックの、濃紺のツーピース。

    スカートのフレア具合が少女チックだけど、上品。


    アリスが着たら、

    きっと着せ替え人形みたいになるだろう。


    私が着たら、

    老けた幼稚園児のような異様さがあるのだろうな。



    …着ないけど、というか着られないけど。サイズ的に。




    この服も、

    所長が用意した物なのだろう。



    今夜は、彼女の機嫌でも損ねて、追い出されでもしたのだろうか。


    ものの数分で倒れて眠り込んでしまうほど、
    疲労困憊しているアリスが、

    午前4時に、
    捨て猫のようにあてもなく、
    街を彷徨う姿を思い浮かべるのは、

    耐え難かった。




    洋服をクローゼットに掛ける為、

    リビングを出た。



    灯りの消えていた寝室には、

    誰も居なかった。



    思った通り、ユニは出て行ってしまっていた。


    写真集はベッドの真ん中に裏表紙を上にして横たわっている。


    アリスの服を掛けた後、

    写真集を手にとって、
    フラップ書棚の最上段に置かれている、
    ユニのローライの隣りにそれを並べた。


    ここが、ユニの宝物の定位置。


    そしてこれが私の家にあるユニの全財産だ。



    寄り添う二つを眺めながら、


    ―――好きなのになぁ



    と、思った。



    私、ユニの事、好きなのになぁ。

    どうして上手くいかないんだろう。



    そりゃあ、私が滅茶苦茶な恋愛観を持っている所為なのだろうけど。

    ダイナと寝ても、ユニに罪悪感一つ感じなかった、
    私はそんなどうしようもない女なのだけど。


    でも、ユニの事、好きなんだけどなぁ。



    でもそれも、好き“だった”に変わりつつあるのだろうか。

    私はもう、ユニのあの笑顔に太陽を想う事が無くなるのだろうか。




    こんなに切なくなるなんて、思わなかった。







    別れたいなんて、思って、ごめん。






    丸いレンズカバーに向かって、


    その向こうにあるユニの瞳に向かって、




    私は心の中で呟いた。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20231 / 1階層)  ALICE 【73】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(61回)-(2007/10/24(Wed) 02:54:46)
    2007/10/28(Sun) 07:34:02 編集(投稿者)

    寝室から運んで来たブランケットをアリスにそっと掛け、

    メインのシーリングライトをOFFにし、

    窓際のブラケットライトをつけた。




    それからキッチンで濃い濃いエスプレッソを入れた。


    一杯分でグラニュー糖が切れたが、

    運が悪いのじゃなく、良いのだと、意識してそう思うようにした。



    ポジティブ・シンキングの褒美か、少し泡も立った。






    カップを持って、

    アリスの眠るソファの足元に腰掛ける。


    一口含むと、

    予想していた以上に、

    でもきっと望んでいた具合に、


    深い、きつい苦味が口中にわっと広がった。


    そうして私は、

    ユニとのキスの味を消し去った。








    ―――さぁ、


    パズルの時間だ。





    ダイナは、“ アリス ” を偽名だと言う。

    パスポートの記載では、アリスの本名は、


    ――― SONOMAI KURENO


    園真井クレノだ。

    くしくも下の漢字は不明だが。
    平仮名であろうと片仮名であろうと、
    そうそう無い名前なのは確かだ。


    そして、
    アリスとアリスの母親・真白と大変よく似た容姿を持つ一人の女優、

    彼女の名もまた、“クレノ” である。


    本名:藤鷲塚紅乃

    芸名:紅野心





    アリスはあの晩、


    “ あの男が魔女の名で私を呼ぶ度に、私は自分が汚されていくのを感じた ”


    と、そう言った。


    “アリス”が本名だと思っていた私にとって、
    その台詞は全く意味が不明だったが、
    それが偽名となると、話は別だ。


    アリスの本名が“クレノ”なら、
    当然父親はアリスをクレノと呼んでいたのだし、
    つまり、つまりは、

    魔女の名 = クレノ

    ということになる。


    クレノという名がいくら稀少だからといって、
    それだけで魔女の正体が紅野心だと断定するのは浅はかだ。


    そこで鍵となるのが、

    紅野心と真白の容姿である。


    “男”つまりアリスの父親が、
    紅野心に似ているという理由を主にして真白をめとったのだとしたら?


    そして本当の想い人である、妻以外の女の名を、
    娘に付与したのだとしたら?



    ―――こう考えると、


    “ 母は、魔女の名が付いた私を傍に置いておくのが怖かったんだと思う ”


    というアリスの台詞の説明にも繋がる。





    となると、


    アリスと紅野心の関係は、

    血縁でもなく、

    ただ単に、

    女優と、
    その女優にブラウン管越しに恋をした男によって、
    同名を授けられてしまった不憫な人間、

    それだけなのか。



    いや、違う。



    紅野心のHPに記載されていた芸能履歴によれば、
    彼女のデビューは、

    今から16年前。


    アリスは現在20歳。


    アリスが誕生した時にはまだ、
    紅野心の存在は世に知られていない。


    という事はつまり、

    アリスの父親はブラウン管越しではなく、
    三次元で紅野心の、いや、藤鷲塚紅乃の存在を認識していたという事だ。


    アリスの薄志的で断片的な台詞の幾つかを寄せ集めて、
    そこから考えを巡らすなら、

    真白はどうやら魔女の存在で心を病んだようである。


    配偶者がTVの中の人物に恋い焦がれ、
    それが家庭崩壊の根本的な要因になるなどという事は、

    可能性としては大きく見積もれない。


    アリスの父親と紅野心は、
    実際に顔を見知った仲であり、

    そこに継続的では無いにせよ、何らかの不道徳な関係があったと考えるのが、

    妥当だ。


    そしてアリス自身も、
    紅野心と面識があったと、
    考えて良いだろう。


    “ 男は私を魔女の所に幾たび連れ出した ”


    アリスはそのように言っていた。



    “魔女”に対してアリスが好意的な感情を抱いていない事は、
    あの夜の彼女の表情、声質、言い回しから判断するに、かなり明確である。


    恐れ、そして強い憎しみが、
    アリスの瞳に込められていた。


    真白とは、2歳までしか暮らしていないのだから、
    母親から“魔女”への憎しみを植え付けられた訳では無さそうだ。


    この辺りで、

    “魔女” を “紅野心” と断定してパズルを進めるとしよう。




    父親が紅野心についての悪口雑言をアリスに浴びせ聞かせたという可能性もあるが、

    (何故なら人間には、
     『可愛さあまって憎さ百倍』
     という、理屈では説明の付かない感情が存在するから)

    それでも、

    “ あの男は死んで当然だった ”

    とまで言うほど父親を憎んでいたアリスが、
    彼の言意を鵜呑みにするとは思えない。


    やはり、

    紅野心本人から直接与えられた印象を基に、
    アリスは彼女への憎しみを、
    瞳と胸の奥に着床させた、

    という見方が有力な気がする。



    紅野心は、


    幼いアリスに、何らかの攻撃性を含む言動を投棄していたのか、



    あるいは今尚、悪意を浴びせ続けているのか。






    もし後者であるのならば、



    魔女の攻撃からアリスを守る為に、


    私に出来る事は、何なのだろう。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

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■20232 / 1階層)  ALICE 【74】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(62回)-(2007/10/24(Wed) 03:03:58)
    脈絡もなく、推察を並べ散らかしてみたが、

    要点を簡潔にまとめる事にしよう。



    アリスの父親と、紅野心(魔女)の間には、
    何かしらの関係性が在していた。

    父親は紅野心を恋い慕い続け、
    妻・真白には彼女の影を重ね、
    真白との間に産まれた子供・アリスには、
    想い人の名を付与する。


    その因果を真白がどの段階で気付いていたかは定かではないが、
    とにかく彼女は夫の内面的、もしくは肉体的裏切りに耐えきれず、
    心身を病み、
    真白・アリスの母娘は共に暮らす事が不可能となる。


    “ 男と魔女と仲間達に捕まった ”


    この台詞がどういう状況を指すのかは、
    今の段階では謎だが。



    真白と離ればなれになった後、
    アリスは身体さえろくに顧みられずに育つ。

    意図は不明だが、父親はアリスを定期的に紅野心に引き合わせる。

    紅野心はアリスに友好的では無かった。
    それがどのような類、また程度だったかは不明だが、

    アリスは父親に対するのと同様の憎しみを、
    彼女に対しても抱き、
    “魔女”と認識する。


    賢いアリスの事だ、
    誰に教わらなくとも、
    自分の家庭を崩壊に導いた原因が、
    写真で見る母親に瓜二つの女とその周囲にある事を、
    独りでに理解していったのかも知れない。



    そして、


    時の経過の具合は分からないが、
    真白は父親と紅野心を要因とする死を遂げ、

    アリスが10歳の時にはその父親もこの世を去った。





    この間、事務所で三葉達と繰り広げた会話によれば、

    紅野心が正当防衛で兄を殺害したのも、


    10年前だ。


    同じ時期に、
    紅野心の周囲で二人の人間が死んでいる。

    そして真白の死にも、彼女は何らかの関わりを持っている。


    なんて、陰暗なオーラに包まれた女だろう。













    こうやって、

    ほんの少し、
    しかもほとんどが正確な裏付けもないまま、
    ただの推測の域を出ないまま、
    アリスの過去を垣間見ただけだが、それが、

    『幸せな子供時代』

    とは、遠くかけ離れている事だけは、
    ハッキリと、クッキリと分かる。

    分からされる。



    もっともっと、
    確実で詳細な情報が欲しいところだが、
    それを何処で手に入れれば良いのか、分からない。

    それに、
    私がいくら、こそこそ嗅ぎ回って、
    地道にアリスの園の茨を掻き分けて進み、
    残酷な事実に身を切られる思いを味わおうとも、

    その痛みをアリスと分かち合えなければ、


    きっと意味が無い。



    私は、アリスに笑顔でいて欲しいのだ。
    これまでは、違ったのだとしても、
    この先の人生を、
    笑い声の響く、そんな日々に変えてあげたいのだ。


    だから、
    今、私のすぐ横で儚げに眠る彼女の口から、
    弱音や泣き言を、
    直接聞く事が出来なければ。

    多分、無意味なのだと思う。


    さりとて私の方から、
    立ち入った質問を浴びせるのは、
    それは度胸があるのではなく無謀な行動だ。



    私がしている事は、間違っているのだろうか。


    アリスの笑顔を見たいが為に、
    アリスの過去の女と肉体関係を持つ事は、
    正しいのか。
    そこに、矛盾は無いのか。



    いや、違う。


    この場合問題にすべきなのは、
    何が正しくて何が間違っているかという事じゃなく、

    アリスがどう思うか、だ。



    私のしている事を知った時、

    多分、アリスは私に笑顔を見せなくなる。




    …でも、

    もしかすれば、
    アリスにとっては全くどうでも良い事なのかも知れない。


    『へぇ、ダイナと寝たんだ。彼女の指、なかなかでしょ』

    なんて、そんな冗談を平気で返してくる程、
    痛くも痒くも無い事なのかも知れない。

    私のやっている事なんて、アリスにとっては。



    …バカだ、私は。大馬鹿だ!!!



    私は自分の頬を、両手でピシャッと挟み打った。


    これじゃあ、
    アリスをオモチャにしてきた女達と一緒ではないか。

    アリスのことを、
    何の感情も持たない人形だと決めつけて、
    自分だけ傷付いたつもりで打ちひしがれる、
    手前勝手な女達と、
    何ら変わりないではないか。



    私は、そんな風にはアリスを見ていない。

    アリスの澄んだ瞳を知っている。
    曇りの無い笑顔を知っている。
    夢に怯えて眠る夜や、
    隠した涙や、
    内に秘めた悲しみや憎しみや切なさを、

    この目で見て、この心で、感じたのだ。


    そして、

    もっと、ずっと、アリスの事を知っていきたい。

    そう思ったのだ。



    近付きたいと思っているその相手に、

    私が隠し事をしてどうする。




    やはり、もうこれ以上ダイナと会う事はやめよう。





    私は、そう心に決めた。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20232 ] / ▼[ 20244 ]
■20236 / 2階層)  おつかれさまです
□投稿者/ 読者 一般♪(2回)-(2007/10/25(Thu) 07:27:48)
    断片的にさらりと読み進むエッセイもいいですが、
    最後は一冊の推理小説として読み返したいですね。

    つづきを楽しみにしています。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20236 ] / 返信無し
■20244 / 3階層)  ◆読者さんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(64回)-(2007/10/28(Sun) 07:50:35)
    コメントありがとうございます。


    ・・・・ごめんなさい。

    本当、恋愛エッセイに投稿する内容では無いですよね。
    堅すぎ、複雑すぎ、に加えて、
    更新滞りすぎ。
    前回までのストーリーを忘れて下さいと言っているようなものですね。

    完結させる事が出来ました時には、
    一度、全ての投稿をまとめてツリーにしたいと思います。


    楽しみにしていますと言って頂けて、
    とっても嬉しいです。
    少しずつの更新にも、辛抱強くお付き合い下さいましたら幸いです。
    もしくは、完結するまで黙殺して頂ければ。


    ああ、カーテンを開けば夜が明けていました。
    日曜日ですね。
    良い休日を!
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20243 / 1階層)  ALICE 【75】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(63回)-(2007/10/28(Sun) 07:40:20)
    「それ、痛くないの?」






    不意打ちの質問に、息を呑んだ。


    首だけ回して振り返ると、

    パッチリと目を開いたアリスが、
    ソファに横たわったまま、私をじっと見ていた。


    「起きてたの?」

    「起きたの。ルーイが自分で自分に暴力を振るっている音で」

    「…ごめん」

    「ルーイって、変な事する」


    そう言ったアリスが、片眉をひそめて笑顔を作る。




    嫌なところを見られてしまった。



    「キャベツなんかが食べられない人に、変人呼ばわりされたくないな」

    「だって、草々する」




    横たわったまま、アリスが小さく欠伸をする。

    野生動物の赤子の様子を、
    望遠鏡で遠くから覗いている時に、
    思いがけずキャッチ出来たお宝映像のようだった。


    憎らしいほど愛らしい。



    「クサクサ?何それ。キャベツがクサクサって…。
     そういえば、この間お弁当食べたあの場所、あんな所、どうやって見つけたの?」

    「ああ、園(その)ね」




    ―――なるほど。

    “園” なのか、あの公園は。



    “ガーデン” は、アリスの夢の中に存在しているのだし、
    あの場所をどう呼べばいいのか、少し迷っていたのだ。



    「そう、園。あんな場所、よく見つけたわね」

    「偶然ね。一年ほど前に。一目で、好きになった」


    そう言うとアリスは上半身を起こし、
    ブランケットを体に巻き付けて、ソファの上であぐらをかいた。

    私も床から腰を浮かして、
    アリスの隣りに腰掛ける。


    「うん、分かるよ。何て言うか、独特の雰囲気があるよね、あの場所。園」


    眠たそうに目をしばたかせながら、
    アリスがニッコリ笑う。

    私も思わず口元が緩む。


    「きっとさ、昔は相当綺麗だったんだろうね。きちんと手入れされてた頃はさ」

    「うん。40年前は、少なくとも井戸の水はまだ涸れていなかったみたい」

    「へえ、40年前か。…どうして分かったの?調べたの?」



    アリスにも何か飲み物を持って来ようと、
    私は腰を浮かしかけた。



    「40年前。私の母が産まれた」



    思わず動作を止めた。








    相槌を打つべきか、アリスの横顔を見ながら考えていると、

    アリスが続けて口を開いた。






    「私の母は、園に捨てられていた」
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20245 / 1階層)  ALICE 【76】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(65回)-(2007/10/28(Sun) 07:56:12)
    “ 園に捨てられていた ”












    オリーブの木の下に横たわる、
    真白の死体が頭に浮かんだ。


    いや、違う。
    そうじゃない。

    私は自分の抱いたイメージが誤りである事をすぐに悟った。


    “捨てられていた”
    というのは、
    死ではなく生の事を意味しているのだろう。


    「真白さんは、捨て子だったのね…?」


    真白にしても、
    アリスの父親にしても、
    どうも死の印象が強すぎていけない。




    「そう」


    ヘアゴムをするりと指で絡め取り、
    アリスが髪をほどく。


    「母は、園の井戸の脇に、捨てられていたんだ。だから…」


    「だから?」


    聞き返した私をアリスがじっと見つめる。


    「分からない?」

    「分からないって、何が?」

    「名前だよ」






    ドキッとした。


    名前。

    アリスの名前。


    先刻まで解いていたジグソーパズル。


    アリスの本名、クレノ。






    …いや、違う。これは関係がないはずだ。


    名前?




    私が返答に窮していると、


    「園真井だよ」


    と、アリスが諦めたようにそう言った。


    「え?園真井?アリスの苗字?」



    ここまで言っても分からない?とでも言いたげに、
    アリスが首をかしげて私を見つめる。



    園真井、

    ソノマイ、

    そ・の・ま・い、


    ああダメだ、分からない。


    園真井、園真井、園真井、園真井園真井園真井…



    頭の中が、
    アリスの苗字を作る三つの漢字で埋め尽くされ、
    経文を読まされているような気分になり始めた時、


    その文字の樹海の奥に、閃くものが突如現れた。




    「園の井戸…」


    私の呟きに、アリスが唇の端を上げて、付け加える。


    「真ん中」




    真ん中…




    …ああ、そうか、そうか!!






    「園の、真ん中の、井戸…で、園真井!!そうなのね!?」



    アリスが、ニッと笑う。


    「安易だけど、なかなかセンスのある市長よね」



    ああ、そうだ。


    棄児が発見された場合、
    その市町村の長が、棄児の氏名をつけ、本籍を定め且つ附属品、発見の場所、
    年月日時その他の状況並びに氏名、
    男女の別、出生の推定年月日、
    及び本籍を調書に記載しなければならない。


    例のポストが設置された時期に復習したはずなのに、
    滅多に取り扱わない事項の為、
    戸籍法の第何条だったかを覚えていない。

    情けない。


    アリスなら、確実に全て暗唱出来るのだろう。



    「本当ね。凄く綺麗な響きだもの。じゃあ真白って名前も、同じ人が付けたのね?」

    「そう。肌があまりに真っ白な赤子だったから」



    なるほど、

    それは、分かる。


    …ん?でも待てよ、


    「アリス、あの園は“偶然”見つけたんじゃなかったっけ…」

    「そうだよ」

    「でも、園は真白さんが発見された場所なんでしょう…?」





    これは、どういう意味なのだろう。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20254 / 1階層)  ALICE 【77】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(66回)-(2007/11/01(Thu) 06:20:51)
    アリスがブランケットの下で身体を動かしたのが分かった。


    膝を立てたようだ。

    やけにぎこちない動きだった。


    そういえば、ワンピースを着ていたっけ。



    「その格好じゃくつろげないよね。何か貸そうか?」

    「ううん。もう朝だし」



    その返答にハッとして壁の時計に目をやると、
    針は5時を半分回っていた。


    「本当だ。もう朝だね…」


    ソファから立ち上がって、
    私は窓際に歩いて行き、

    カーテンを左右に引いた。




    まだ少し白っぽい朝の光が、
    パキラの幹を、葉を、引きちぎられて剥き出しになった断面を、照らす。


    つい1、2時間前までは、
    そこにユニが立っていて、
    彼は凍った笑顔で私を呪い殺そうとしていて、


    そのもう少し前までは、
    私はダイナの指に全身を悶えさせていたのだ。



    今こうしてアリスと共に陽の光に目を細めていると、

    それらがここからはずっと遠い所に在るように感じる。




    夜が朝になる、

    ただそれだけで、


    こんなにも人は気持ちの色を切り替えてしまえる。




    それなのに、

    毎晩自分を物語のアリスに置き換えて、
    それが実現する事を切望して目を閉じた少女は、

    朝の光に包まれても、

    絶望しか感じなかったのだ。



    アリスにとって、

    クレノという名前は、


    一体どれほど強い陰力を持っているのだろう。






    「アリス、もう今からは寝ない?」

    「うん。起きてる」

    「そっか。じゃあ、コーヒー飲んでもいいね。それとも紅茶がいい?あとはオレンジジュ…」

    「紅茶ください」




    そのあまりに可愛らしい返答の仕方に、
    私は思わず苦笑した。


    「かしこまりましたお嬢様」

    窓際から戻ってテーブル上の自分のカップを持ち上げながら言うと、


    「ノン。お嬢様じゃなく、お客様です」

    アリスが左手の人差し指を立てて軽く左右に振った。


    「かしこまりましたお客様。ホットがよろしいですか?それともアイス?」

    キッチンへ向かいながら注文を訊くと、
    「ホット」と答えながらブランケットを脇へ除けて立ち上がり、
    アリスは私の後ろをテクテクと付いて来た。


    カウンターの内側へ私が回ると、
    アリスは向こう側のスツールにちょこんと腰掛け、
    私の手元を見つめて頬杖をつく。


    ケトルをIHのヒータープレートに置き、
    引き出しから未開封のアッサム茶葉を取り出しながら、

    私は切り出す。


    「園、アリスが園を見つけたのは偶然なんだよね?」

    「そうだよ」


    一度途切れた話題だった為、戸惑いを見せるかと思ったが、
    アリスは間髪入れずに答えた。


    「園を見つけたのは、本当に偶然。買い取る為に所有者を調べていた過程で、色々寄り道をして。
     40年前に、そこで捨て子が見つかった事も分かった」


    …と、いう事は。

    「じゃあ、園を見つけたのも偶然、そして、そこが真白さんのフルサトだったのも、偶然??」


    「そう」 


    「…ねえ、それって、さ。凄い事なんじゃないの?私、まだちょっと把握し切れてないんだけどさ。
     その偶然が重なる確立って、もしかして天文学的な数字?」


    アリスが頬杖をついたまま、肩をすくめてみせる。

    「園を見つけたくらいでは、騒げないけど。母が天涯孤独な事も、知っていたけれど。
     でも、この二つが繋がっていたのは、少し、驚きだったかな」


    ティーポットにティーメジャー、
    ストレーナーなどを棚から出して揃えながら、
    それが “少し” という程度のものなのかを、考える。


    いや、どう考えても、違うだろう。


    私の考えに応戦するように、
    ケトルが蒸気を噴き出す。



    「ね、かなり凄いわよ。アリス。それってまさしく “選ばれし者” って感じだわ」

    ティーポットに湯を注ぎながら、
    アリスの反応をチラリと伺うが、
    彼女は私の手の動きを熱心に見つめたまま、
    何も言い出そうとはしない。


    二杯分の水を更にヒーターにかけてから、
    カップとソーサーを取り出す為に後ろの食器棚の扉を開いた。

    アリスに似合うものを選ぶ事に真剣になり出した時、


    「園に居ると、凄く、私、落ち着く」

    背中にアリスの声が当たった。


    「そうね確かに、落ち着いた寝顔だったわ。園はアリスのお気に入りの場所なのね」

    候補を二つに絞りながら答える。


    「お気に入り・・・・・・うん」

    表情は見ていないが、声でアリスの喜悦が伝わってくる。



    マイセンとヘレンドを両方掲げて、
    最終審査に入る。

    「アリスにとって園がお気に入りなら、きっと園にとっても、アリスはお気に入りなのよ」


    よし、ヘレンドだ。
    この苺の蔓の模様が、
    それから線の細い持ち手が、アリスっぽい。

    「あんな分かりにくい場所を見つけられたなんてさ、園が、真白さんが、アリスを招いていたのかもよ。
     うん。きっとそう。園はアリスをいつでも受け入れられるように、両手を広げて待っていたんだね」


    私がそう言い終わるか終わらないかの内に、
    ケトルが汽笛を上げた。


    振り返ると、

    アリスが真顔で私を見つめていた。



    「・・あ、ごめん…ちょっとクサすぎか。いやさ、あまりに園とアリスがしっくり――」

    「ルーイも」

    「え?」



    「ルーイと居る時も、私、凄く落ち着くんだけど」

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▲[ 20012 ] / ▼[ 20263 ]
■20262 / 1階層)  ALICE 【78】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(69回)-(2007/11/05(Mon) 05:27:47)
    2007/11/08(Thu) 04:20:59 編集(投稿者)

    そんな台詞をアリスから突然に贈られても、

    ほとんど動揺しない自分が、
    ここに居た。


    「うん」


    と、私は穏やかにアリスに視線を返す。



    ポットの湯を捨てて、
    茶葉をメジャーで測り入れて、
    そこに湯を被せて、

    そうして考える。



    分かっていた気さえした。

    アリスが、私の事を、他の人間とは区別していた事を。


    初めは思い上がりだろうと決めつけていた、
    私と居る時に見せるアリスの笑顔、涙、くつろいだ表情。

    それが、もしかすれば勘違いではないのかもしれないと、
    思い始めては、
    けれどまた否定したりして。


    ついさっきだって、
    そのパターンに毎度の如くはまって、
    『自分のしている事なんて、アリスにとっては…』
    と、またそんな卑屈心を振り払うのに私は自分の頬まで打った。


    期待が裏切られるのを避けようとしていた、

    それも、あるけれど。



    でもそれよりも、私は、

    気付くのが怖かったのだ。



    そう、

    私も、同じだという事に。



    確かにアリスの存在は、私の鼓動を忙しくさせるし、
    彼女の一挙手一投足に、私はハラハラさせられる。
    常に心配もさせられる。


    でも、それと平行して、


    アリスと居る時、アリスが傍にいる時、

    私は、私の心は、どうしようもなく安らいでいるのだ。


    その感じときたら、安らぎを通り越して、もう切なさだと表現してもよいくらいに。




    これまでの人生で私は、
    同性に恋愛感情を抱いた経験がない。

    だから、もし私がアリスに恋をしているのなら、
    未開の地であるその場所に足を踏み入れる事に、
    戸惑い臆病になるのは、さしておかしな事ではないのだろう。


    でも、きっと私のアリスに対する想いが、
    ただの恋であったなら、
    私はここまでこの感情に二の足を踏んだりはしなかったのだろうと、
    思う。



    私がアリスという存在の中に見いだそうとしているものは、



    多分、

    きっと、



    恋なんかより、もっともっと、

    戸惑わずにはいられないもの。



    それは、

    私がこれまでずっと求めてきて、

    けれどその事実に目を合わせようとしなかったもの。




    ―――真実の愛









    きっと、それなのだ。




    でもそれが、その『真実の愛』とやらが、
    一体どういうものなのか、
    本当の本当にこの世に存在しているのか、
    私はそれさえも分からないから、

    そういう漠然とした想いも含めて、

    それらの期待が裏切られる事を、私は恐れていたのだと思う。



    私の隣でアリスが、

    私にしか見せないような顔で笑うから、

    泣くから、

    眠るから、



    私の抱く不安定な期待が、希望が、

    100%一方通行なわけでは無いと、


    そんな震え上がるほど喜ばしい可能性を、

    私に信じ込ませようとするから―――。




    だから、余計に怖かったのだ。

    その希望の光に、呑み込まれてしまうのが。









    ポットの中で今アッサムの茶葉がじわりと湿り気を帯びていっているように、

    私は、自分の心が、

    今まで目を背けていた真実に染色されていくのを感じた。



    多分これは、

    とてつもなく不安定で、

    もしかしたら破滅に向かうのかもしれない前進なのだろうけれど、


    それでも今この瞬間は、とても落ち着いた気持ちだ。






    アッサムティーの、アロマ・マジック。








    その魔法の香りを静かに吸い込んで、


    私は、


    しっかりとアリスの瞳を見据えた。




    そして、言った―――――

[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20262 ] / ▼[ 20280 ]
■20263 / 2階層)  満を持して
□投稿者/ ドレミ 一般♪(1回)-(2007/11/05(Mon) 12:35:50)
    あおい志乃さんの小説を初期の頃から読ませていただいている者です。今回のALICE78の投稿を拝見し満を持しての感想です。ルイ子の心の声に完全にノックアウトされました。(笑)
    前から非常に気になっていたことをこの場で質問したいと思います。小説の登場人物に作者さまがモデルになっている人はいますか?あおい志乃さんの小説が大好きで文章力に尊敬している私ですが、それよりも作者さまの人物像に興味がありました。他のいろんな方のレスへの答えかたを勝手ながら拝見させていただいたりして、なんて頭のいい人なんだろうかと勝手に感動していました。とても高い思想を持っている人なんだろうと独断で思っていました。
    小説そのまま作者さまの思想の訳はないと思っていますが、完全に自分の考えではない事を登場人物に考えさせる事はないのではないかと思い、(すいません、意味が判りにくい文で)そこを聞いてみたいと思っていたのです。
    寒い時期に入りましたがお忙しい作者さまの健康状態が気になります。お風邪などひいてはいませんか?これからも楽しみに投稿をお待ちしています。

    ドレミ
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20263 ] / 返信無し
■20280 / 3階層)  ◆ドレミさんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(73回)-(2007/11/08(Thu) 04:48:30)
    こんにちは。
    とても丁寧な応援メッセージをありがとうございます。
    健康状態にまで気を遣って頂いて、恐縮です。
    先週は肺炎の一歩手前まで体調を崩していたのですが、
    もう殆ど全快です。
    通勤前の毎日の点滴のおかげで常況より体重も増え、ツヤツヤです(/-\*)

    K.O.ですか。どの辺りがそんな攻撃力を持っていたのでしょう。

    ドレミさんが気にして下さっていた事。
    ご質問の答えですが。

    …うーん。モデル、うーん。
    居ない、というのが率直な答えです。
    小説の中のキャラクター達は全て架空ですし、
    作者である私から鋳造した人物も、居ないです。

    > 完全に自分の考えではない事を登場人物に考えさせる事はないのではないかと…

    ごめんなさい、私、考えさせてます。。
    きっと、ドレミさんは価値観の問題を質していらっしゃるのだと思いますが、
    私の持つ恋愛やその他様々な対象へのそれは、
    ALICEに出てくる人々とはあまり共通してはいないと感じます。
    …ああ、でも、所々自分の思考と似た文もありますね。
    それに、実際に私が誰かに言った言葉や、また誰かから言われた台詞なども、
    織り混ざったりしています。

    あれ、こう考えると、けっこうモデルが居るのかな?


    ・・・申し訳ないです、いい加減で。

    私は、こんな人間ですので、
    尊敬や感動に値するような者では無いのですよ。。


    本当、寒くなって来ましたね。凍りそうです。
    ドレミさんも、お体にお気を付けて、
    素敵な冬を送って下さいね。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20279 / 1階層)  ALICE 【79】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(72回)-(2007/11/08(Thu) 04:25:40)
    「それは、園と同じように、私もアリスを招いているからだと思う」




    アリスの瞳が僅かに揺れる。

    「同じように…?」



    「そうよ、アリスをいつでも受け入れられるように、両手を広げて待っているの」


    「“アリスをいつでも受け入れられるように、両手を広げて待っているの”?」

    私の台詞をアリスが反復する。


    「そう」

    「どんな“アリス”でも?」

    「ええ、どんなアリスでも」

    「どんな、私でも?」




    アリスがそう問うた時、

    囁きほど小さなその声が、

    私の脳内の雑音を一挙に一掃した。



    突如現れた静寂の中で、

    私は頭の天辺から足の爪先まで、
    自分の全身、全神経、全細胞から、

    見いだせる限りの誠実さを手繰り寄せ、

    それを瞳に、そして声に籠めて、


    放った。





    「どんな、貴女でも」








    アリスの瞳に変化が見られた。


    霧が掛かったのか、

    それとも晴れたのか、


    どちらであるのか判別し損ねたが、

    私の台詞に彼女が動揺したのを感じた。



    このまま見つめ続けるのは、
    誠実さの光線を浴びせ続けるのは、
    目の前の少女を追い詰めてしまう行為のような気がし、

    そろそろ良い蒸らし加減だろう紅茶に私は注意を逸らした。



    二つ並べたカップにアッサムの香りを注ぐ私の動きを、
    アリスが熱心に見ている。

    別の事を考えているのか、
    本当にただ私の動きに興味を示しているのか、
    読み取れない表情をしている。


    シュガーポットを取ろうとして、
    さっきのエスプレッソでグラニュー糖を切らしたのを思い出した。

    仕方ない、味は落ちるが普通の砂糖で代用するか。


    アリスは、ストレートティーはいける口だろうか。


    上白糖をシュガーポットに詰めながら、


    ―――いつもコーヒーの時は…


    と考えて、
    私はアリスの好みがブラックかそうでないかを、
    自分が全く把握していない事に気付いた。


    事務所では三葉が皆の給仕をしているが、
    彼女は全員の飲み方を完璧に熟知している為、
    いちいち訊かずにいつも黙って出してくれる。

    それだから、
    アリスの前にいつも置かれるコーヒーに砂糖が入っているのかどうか、
    私は知らないのだ。



    アリスの前にカップを、
    それからシュガーポットを、手の届く、少し離した所に置いた。


    アリスは、
    目の前のカップから立ち上る湯気の根元を、
    じっと見つめ始める。



    私の心が、だんだんと不安に満ちてくる。



    コーヒーの好みさえ知らない私に、

    “ どんな貴女でも ”


    ―――なんて、


    そんな事を言う資格はあったのだろうかと。


    資格云々ではなく、
    アリスにとって私の台詞は、
    凄くちぐはぐに響いたのではなかろうかと。



    “ どんな貴女でも ”



    その台詞が口を突いて出た時は、
    自然な気持ちであったのだけど。

    実は、私の言った事は酷く勘違いで場違いなものだったのかも知れない。





    自分のカップを持ち上げて、

    私を失言に導いた魔性のアッサムを一口、
    居たたまれない気持ちで飲み込んだ。



    その時。



    「私…」



    トーンを落としたアリスの声が、沈黙を破る。

    私はカップから顔を上げたが、
    アリスは立ち上る湯気を見つめたままで、



    そして、言った。








    「私、絢からお金を貰ってる」


[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20286 / 1階層)  ALICE 【80】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(74回)-(2007/11/10(Sat) 05:51:45)
    ―――来た





    伏せられたアリスの睫毛を見つめながら、

    私は答える。

    「そう」



    ルイ子、しくじってはダメよ。



    アリスは顔を上げず、
    言葉を続ける。


    「ダイナからも、お金を貰ってた」


    「うん」


    「ダイナの前も、その前も、そのずっとずっとずっと前も…!」


    何かに急き立てられるように、
    アリスは声を押し殺して叫ぶ。

    「私は、沢山の女から沢山のお金を受け取ってきた…!」


    発作を起こすのではないかと心配になる程、
    切羽詰まったその声に、
    私はただ、

    「うん」

    と返す。

    今は、それがベストな返答だと判断する。



    「知っていたの?」

    まるでティーカップの中に自分の声を押し込めるように、
    アリスが俯いて問う。


    「少しだけ。ダイナと所長の事はね。
     “I'm not your property” って、そういう意味なのよね?」



    もし今アリスが、
    『どこで知ったのか』と尋ねてきたなら、
    私は、
    ダイナとの事を、
    打ち明けてしまおうと思った。


    打ち明けて、しまいたかった。




    けれどアリスは、

    「そう」

    と言っただけで、それ以上何も訊いては来なかった。

    恐らく現在の恋人が私の情報源だという結論に落ち着いたのだろう。


    アリスに金銭を譲渡していると所長から打ち明けられた私が、
    その告白の内容よりも、告白事態に戸惑ったように、
    所長がそういう類のプライベートを他言したと考える事は、
    アリスにとっても意外なものだと思うのだが、

    アリスはその驚きを、
    今、少なくとも表には出さなかった。


    そして、彼女の反応は、
    私の予想の一歩も二歩も先を行って、



    「ルーイは、金で買われた家畜みたいな人間と話していて、楽しいの?」










    そんな、

    そんな事を、


    言ったのだ。




    なんということだろう。


    自分自身のライフスタイルに、

    これほどまでにアリスが自尊心を傷付けられているとは―――。




    カップを持つ自分の手が僅かに震えているのに気付く。





    私はソーサーにカップを戻し、
    軽く息を吸ってから、
    一式を持ち上げて、カウンターを回り、
    アリスの左のスツールに腰掛けた。

    そして、
    それでも一向に顔を上げないアリスの左手に、
    自分の右手をそっと重ねる。


    「私は、貴女に金銭を支払った覚えはないわ。
     それともアリスは、このお茶代として、今私の隣りに居るの?」




    弾かれたようにビクッと背筋を伸ばして、
    アリスは思わずといった感じで顔を上げ、

    私を向く。


    「違う…違う!そんなの…」


    アリスの眉間が苦しげに寄せられる。


    「そんなの絶対に…違う!!」


    「それじゃあ、私だって同じよ!」

    私は語調と共に、アリスの手を握る力を強める。

    「私はね、自分がそうしたいから、アリスと一緒に居るの」



    「でも、私が最低の事をしているのは、事実なんだよルーイ。
     私のしてる事は、最低の事なんだよ。それは間違いないんだ。
     ルーイは、それをどう思うの?」


    「理由が、あるんだと思う」












    アリスが、息を深く吸い込んだのが分かった。
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▲[ 20012 ] / ▼[ 20298 ]
■20287 / 1階層)  ALICE 【81】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(75回)-(2007/11/10(Sat) 06:29:32)
    アリスの瞳孔が、大きく開かれる。


    それを取り囲む虹彩には、
    恐怖と、刹那と、驚きと、不安と、動揺が、
    マーブル模様に渦巻いていて、

    その渦紋の更に奥に垣間見える背景は、

    私の心を今にも呑み込んでいきそうな底無しの色をしていた。


    この闇に、取り込まれてはいけない。

    そうじゃなく私は、ここからアリスを引き上げなきゃならないのだから。






    「私の知らない、理由があるんだと、思ってる」




    もう一度、繰り返す。





    そして、

    思いと力と心と魂を込めて、


    私は言った。





    「どんなアリスでも、受け入れるよ」




    私のその言葉を聞いたアリスが、

    それを呑み込むように喉を動かし、

    大きく開かれていた目を今度は細めた。


    私の思いと力と心と魂を、透かして見ようとするような仕草に思えた。



    長い睫毛を戸惑いの風に吹かれるフィルターのように揺らして、


    「どんな“アリス”でも?」


    と、彼女は言った。




    顎を引いて私は、

    「ええ、どんなアリスでも」

    と答える。





    「どんな私でも?」





    怖じ気づいてしまうほど直情的な、その問い掛けの連鎖は、

    これで二巡目。


    互いの台詞は前回と同じだが、


    そこに込められた生気が、今はもっと重たい。





    逃げ出したくなるほど、切なく響くその問い声から、底無しの瞳から、


    私は、耳を、目を、


    右にも左にも、過去にも未来にも、

    何処にも逸らさずに、答えた。







    「どんな貴女でも」









    ―――例え貴女が、魔女と同じ名を持つ者であっても。
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▲[ 20287 ] / ▼[ 20311 ]
■20298 / 2階層)  お返事ありがとうございます
□投稿者/ ドレミ 一般♪(2回)-(2007/11/17(Sat) 17:35:16)
    あおい志乃さんこんにちは。ドレミです。新たな投稿と私の勝手きままな質問のお返事をありがとうございます。しばらく感動で胸が熱くなりました。
    肺炎になりかけだったお体はもうすっかり良くなりましたか?作者さまは頑張りやな気がしている私(これも勝手です(笑)は心配してしまいます。
    登場人物はあくまでも架空という事ですね。了解です。でも実際に作者さまが誰かに言った事や言われた事が出てきてもいるんですね。これまでの投稿の中のどの部分がリアル体験なのか気になる気持ちもありますが。こんな事まで質問してしまうのはさすがに失礼すぎですよね。(笑)
    私がノックアウトされた部分いろいろとあります。感想を全部言おうとすると長くなりますからまとめると、心の葛藤の表現がとてもリアルな所に、共感したり自分の思い出と重ねてしまう事です。私はルイ子みたいに性格は良くないですが。似ている所も多少ありました。
    それにやっぱりあおい志乃さんは文章が素晴らしいです。ALICE78の中では「その感じときたら、安らぎを通り越して、もう切なさだと表現してもよいくらいに。」が私の1番好きな文章です。80は「打ち明けてしまおうと思った。打ち明けて、しまいたかった。」みたいな繰り返すような感じも好きです。とても奇麗だけどわざとらしくないのもです。
    また長くなってしまいました。続きを読めるのをほんとうに楽しみにしています。

    ドレミ
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20298 ] / 返信無し
■20311 / 3階層)  ◆ドレミさんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(77回)-(2007/11/22(Thu) 06:03:07)
    こんにちは。
    応援メッセージ、そしてご感想をありがとうございます。
    肺はすっかり元通りです、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。。
    私は頑張り屋ではないですが、強情な踏ん張り屋ではあるかもしれません。


    > 私はルイ子みたいに性格は良くないですが。

    ルイ子は、本当、性根が良いですね。
    悪が無いというか、灰汁が無いというか。
    良い娘だと思いますが、恐らく私とは気が合わないです。
    というか、ルイ子のような女性には、私は毛嫌いされそうな気がします。

    私の文格への勿体ないほどの高評価をありがとうございます。
    誉めて伸ばすタイプなのですね、ドレミさんは。
    頑張って伸びます!土筆のように!多分!


    雪がちらつきます。
    木枯らしにお気を付けて。

    それでは。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20310 / 1階層)  ALICE 【82】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(76回)-(2007/11/22(Thu) 05:43:41)
    アリスはしばらく私の瞳を見つめ続け、


    それから再びカップに目を落とし、


    「そぉ…」


    と、シャボン玉を吹くように細い、繊細な息を吐いた。





    私がアリスの手に被せていた手をそっと退くと、

    彼女は今までずっと新種の生物を観察するように、
    力をこめて眺めていたアッサムティーを、

    ようやく警戒の解けた瞳で見つめ、

    カップを手にとって、

    中身を一口含んだ。






    そして、

    長い、溜息のような息をついた後。




    「美味しい」




    ―――呟いた。








    その時、アリスの全霊のモードが切り替わったのが、

    目に見えるように私には分かった。



    これ以上、感傷的な深い情調の交信を続ける欲求がアリスには無い。


    その事を、私は手に取るように悟ったのだ。






    なんて、

    感情の起伏が激しい人間なんだろうと、思った。


    いや起伏というより、盛衰だ。


    この娘の心曲は、突としてむせかえるほど咲き乱れ、そして瞬く間に枯れて散る。


    まるで生死の間の往来を、

    冷めた面で周囲にはひたすら秘密裏に行う。



    なんて、

    精神を荒削るような生き方をしているのだろうと、思った。





    決して第三者には見えないその仮面の下を、

    今こうして私がサーモスタットを通すように見抜いているのは、


    アッサムの魔法の効果の延長なのだろうか。




    それとも、


    私は自分が思うより、



    もっと、


    ずっと、



    アリスにとって『特別な』存在なのだろうか。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20313 / 1階層)  ALICE 【83】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(78回)-(2007/11/22(Thu) 06:25:08)
    アリスはシュガーポットには一度も手を伸ばさなかった。



    一口飲んで、
    ほぉっと吐息をついて、
    カップをソーサーに戻し、

    まどろむように数秒あてもなく視線を緩め、

    それからまた一口含んで、

    吐息をつく。




    そうやってゆっくり、アリスはカップを空にしていった。



    そんな彼女の隣の席で私は、
    とうに軽くなっていた自分のカップを弄びながら、

    今しがた私とアリスの間で交わされた、
    熱に浮かされたような台詞のやりとりを、

    もっと理性的に記憶に留めようと、


    頭の中のノートにペンを走らせていた。




    そんな沈黙が続いてしばらくした時、
    不意に時間が気になって時計を振り返ると、

    朝の6時をちょうど回ったところだった。



    「6時だ」



    呟くと、
    アリスも時計を振り返り見る。



    「朝はいつも和食?」


    尋ねると、


    「朝は、食べない」


    予想通りの答えが戻ってきた。




    「やっぱりねー。所長もアリスも、朝から料理なんて絶対しなさそう。
     というか、朝でも昼でも夜でも、所長が料理してるところなんて、想像付かない」


    アリスもね、と付け加えようとすると、
    意外な返しで遮られた。


    「絢は、けっこう料理上手だよ。特に、和食は」







    「…ホント?わぁ。意外。ん?じゃあ朝は?」

    「朝は、絢は、食欲より、性欲が強い」








    「そう、なんだ」


    としか、返しようがないだろう。



    早朝から、
    けっこう刺激の強い台詞だと思うのだが、
    アリスは特に意識して発言したわけではなさそうだ。



    「そんな彼女と、昨夜はケンカでもしたの?」

    「ケンカ、してないけど…」

    「けど?」

    「私は別の部屋で一人で寝てたのに。絢が連れて来ていた女が怒鳴り込んで来たから」



    これはまた、穏やかでない話だ。


    「所長って、よくそういう事するの?誰かを連れ込む、ような、事」

    「んーーそうだね。複数の時もある」

    けろりとアリスが答える。




    所長も相変わらずで、

    アリスも相変わらずのようだ。




    私に服を返すという口実が見当たらなかった場合、
    今頃アリスは何処でどうしていたのだろう。


    体を代価として求める女達のベッドの上に、
    生気のない顔で横たわっていたのだろうか。


    私は、 “真実の愛” を見いだす対象に、
    なんて困難な相手を選んでしまったのだろう。



    …と、そんな事はさておき。

    さておく事ではないのだろうが、

    今は、考えても仕方が無い。




    とにかくアリスには、

    心もそうだが、もっと自分の体も、大切にして欲しいものだ。



    それが、彼女の自尊心に繋がっているのだし。



    とりあえず今出来る事として、

    私はトーストとスープを、
    この小さな仕事人間に食べさせた。


    ひき肉、木綿豆腐、トマトなど冷蔵庫の残り物を、
    ニンニクとチキンブイヨンで煮立てた、
    簡単だけど、
    夏バテ防止に効果のあるスープ。




    同じ栄養食でもみそ汁にしなかったのは決して、

    和食が得意な加賀美所長の存在を気にしたからではない。




    決して。






    …多分。
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▲[ 20012 ] / 返信無し
■20325 / 1階層)  ALICE 【84】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(80回)-(2007/11/29(Thu) 04:32:36)
    濃紺のツーピースに着替えたアリスは、

    予想通り、外国の絵本から飛び出して来た少女のようで。

    ベッドの隅に腰掛けて、
    長く柔らかな髪を片方で三つ編みながら、

    ドレッサーの前でファンデーションを塗る私と、
    鏡越しに時折目を合わせる。



    メイク道具を一つも持参していなかった彼女は、
    私の物を借りて既に支度を整えていた。

    出勤メイクに費やした時間は、およそ3分。

    種類によっては即席麺さえ出来上がらない。


    それで、あの仕上がりか。
    土台が違うってか。


    やかましい。


    次にこっちを見たら、
    変な顔でもしてやろうかと構えていたが、

    アリスは携帯電話を耳に当て、
    何処かに電話を掛け始めた。



    「○×区、二丁目、…まで1台お願いします…」




    …タクシーで、出勤するのか。


    出勤の支度を始めた辺りから、
    考えてはいたのだ、私も。
    私の車に乗って、揃って出勤するのは、
    やはりまずいのだろうか、どうなのだろうかと。

    まずい、らしい。

    まずい、よなあ。


    所長は決して面倒な性格ではないけれど、
    アリスの事となると、彼女の冷静さはふとしたタイミングで失われてしまうから。

    多分、
    アリスが私の家に泊まったのを知ったところで、
    何も言わないだろうとは思う。

    自身の女癖の悪さが原因なのだし。

    けれど、
    面白くは、ないだろうな。





    “ 自分では気付いていないんだろうけど、ルイ子は、アリスを惹き付ける何かを持ってる ”



    アリスの裁判を初めて傍聴した日の帰りに、
    所長はそう言った。

    その言葉通り、私がまだ気付かないうちから、
    (正確に言えば、気付こうとしていなかったうちから)
    彼女は何かを感じていたのだ。


    私とアリスが互いの内に不思議なほど安らぎを見い出し始めている、
    この感じは、
    周囲から見ていても、薄々勘付けるものなのかもしれない。

    人によるとは思うが。


    少なくとも所長は早い段階で察知していたのだし、

    リリー辺りも、多分…。


    リリー、か。
    少し、彼女の意見を聞いてみたい気もするが。
    まあ、いずれ機会があればだな。


    なにはともあれ、
    私という人間はもしかすれば、
    所長にとって、脅威の存在だったりするのだろうか。




    同じ日に、

    “ あの夜(Qeen's Birthでの夜)にルイ子は私を打ちのめした ”

    というような事を所長に言われた時、
    それは誤解だと、勘違いだと、
    私は真っ向から否定したのだ。

    自分とアリスは、希薄な関係なのだと。




    それが、今となってはどうだろう。

    私は、アリスの母親の顔を知って、
    アリスの夢のガーデンと、現実の園に案内されて、


    “ こうやって、ただ抱き締めてくれる誰かを探していたのかもしれない ”

    “ ルーイと居る時も、私、凄く落ち着くんだけど ”


    そんな台詞をアリスから贈られたのも、
    それは紛れもなく私で。





    ほんのひと月ほど前の私は、心の中で悲観した。


    “ 十代の頃のアリスも知らなければ、
     同じタクシーで同じ屋根の下へ帰る事もなければ、
     寝起きにあくびをするアリスを見る事もない ”


    ―――確か、そんな風に。



    その絶望的な願望の一つが、
    何の前触れもなく実ったのは、
    ついっさっきの出来事。

    あまりに唐突で、だけど自然で、
    今までその事実に気付けなかった。
    それくらい、流れるように、まるで予め定められていたみたいに、
    私の願いは叶ったのだ。




    勿論私にしてみれば、
    ここまで来る間に、そして今だって、
    色々な不安や不満やジレンマと戦っていて、
    決して夢見心地な日々だとは感じていないのだが、

    これらの変化のスピードを、
    感情抜きに、客観的に考えてみると、
    確かにこれは、所長にとって脅威かもしれないと、

    思う。




    だからこそ、

    この変化をなるだけ悟られてはいけない。


    私は所長を敵だとは思っていないが、
    彼女からすれば、そうはいかないはずだから。

    恋人兼所有者である彼女に、
    物理的にアリスとの距離を引き伸ばす行動に出られては、
    私は打つ手が無い。



    アリスは、

    こんな事までは考えていないだろうが、

    少なくとも私とのこの穏やかな時間を、
    崩されたくないという気持ちがあった為に、

    別々に出勤する事を決めたのだろう。




    それは、

    素直に嬉しい。







    スライド式の携帯電話を畳み、

    アリスがベッドから腰を上げた。
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▲[ 20012 ] / ▼[ 20432 ]
■20338 / 1階層)  ALICE 【85】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(82回)-(2007/12/06(Thu) 03:59:15)
    「園にさ」



    サンダルのベルトを留める為に、
    前屈みになりながら、

    アリスが言った。




    「また、私を起こしに来て」




    玄関のフローリングの上がり框に立ちながら、
    腕を動かす度に布地に浮き上がるアリスの肩甲骨を見つめていた私は、


    その骨に唇を乗せたい衝動に駆られた。



    それは、アリスが初めて口にした、

    私への要求だった。



    私はそれを、

    アリスの心の窓の隙間、
    そこから流れ出た風に乗ってやって来た、

    言葉だと感じた。


    その窓が私に向かって開き掛けているのを、

    私は心の目で見た。




    「勿論。また、お弁当作っていくよ」

    「キャベツ抜きのね」


    立ち上がって笑い、

    アリスはドアレバーに手を掛けた。



    その時、私の中で閃くものがあった。



    「あっ、ちょっと待って」


    私は咄嗟に、傘立てから薄い水色の日傘を抜き取り、
    アリスに差し出した。


    「え?」 不思議そうな顔でアリスが顔を傾ける。


    「これ、持っていって」

    「ありがとう。でも私、焼けるの気にしないから」

    「これ、雨晴兼用」

    「今日は快晴よ」

    「知ってる、でも持っていって。そして今度、返しに来て。また、夜中にでも」




    虚をつかれたように、
    アリスは一瞬目を大きく開いた。

    そしてすぐに、
    切ないほど綺麗な笑みに顔を崩し、

    水色の入場券を、私の手から受け取り、言った。



    「星の降る夜に、差して来る。ありがとう」




    そんな、歌のような言葉を残し、

    アリスは扉の向こうに姿を消した。



    一人になった私は、


    アリスの最後の台詞が、
    流星の尾のように辺りに漂う幻を、


    立ちつくしたまま見つめていた。
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▲[ 20338 ] / ▼[ 21507 ] ▼[ 20550 ]
■20432 / 2階層)  応援しています
□投稿者/ ミコ 一般♪(1回)-(2007/12/24(Mon) 00:50:43)
    しばらく更新がないので寂しいのですが、最後まで応援しています。ルイ子とアリス関係がどうなるのか気になって・・・。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20432 ] / 返信無し
■21507 / 3階層)  即プレイOK
□投稿者/ 千里 一般♪(1回)-(2012/05/14(Mon) 22:20:24)
http://www.fgn.asia/
    レベルの高い女の子います+.(・∀・).+♪ http://fgn.asia/

    (携帯)
完結!
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20432 ] / 返信無し
■20550 / 3階層)  ◆ミコさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(1回)-(2008/02/09(Sat) 00:20:42)
    こんにちは、コメントありがとうございます。
    来月が桜花の季節だなんて信じられないくらい、
    寒い毎日が続いています。
    それでも開花前線は必ずやって来るのですね。
    ピンクの花びらが散り始める頃には、
    私の生活にゆとりが出来そうですので、
    まとめて更新したいと思います。
    それまでにも余裕があれば少しずつ書き加えたいです。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / ▼[ 20553 ]
■20405 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ S 一般♪(1回)-(2007/12/15(Sat) 21:15:28)
    はじめまして
    作品を読みました!
    凄くおもしろくて,一気に読みました!!


    めちゃくちゃ応援してます。
    頑張ってください。わら

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20405 ] / 返信無し
■20553 / 2階層)  ◆Sさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(5回)-(2008/02/09(Sat) 00:24:50)
    応援のメッセージをありがとうございます。
    嬉しいです。
    完結までにはまだまだ時間が掛かりそうですが、
    お付き合い頂ければ幸いです。

[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / ▼[ 20554 ]
■20549 / 1階層)  あおい志乃さんへ
□投稿者/ たまき 一般♪(1回)-(2008/02/05(Tue) 19:06:36)
    初めてまして,小説を読みました。

    文章がとてもきれいで読みだしてから止まりませんでした。

    これからも楽しみにしています!


    あと気になった事がありまして…
    ダイナさんっているんじゃないですか,その名前って「鏡の国のアリス」の中の猫の名前と何か関係しています?


    図々しくてすいません!


    無理をなさらず更新頑張ってください!

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20549 ] / 返信無し
■20554 / 2階層)  ◆たまきさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(6回)-(2008/02/09(Sat) 00:31:54)
    はじめまして、こんにちは。

    実は、ダイナだけでなく、
    “ALICE”に登場する人物の名、
    またその他の固有名詞は全て、
    『不思議の国の・・・』と何らかの繋がりがあるのです。
    分かり易いものもあれば、捻りを加えてあるものも。あります。
    ただのちょっとした遊び心なんですけどね。
    最後まで指摘が無ければ、
    完結した時にさりげなく明かそうかな、と思っていたのですが。
    気付いて頂けて嬉しいです。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20556 / 1階層)  返事ありがとうございます。
□投稿者/ たまき 一般♪(2回)-(2008/02/10(Sun) 11:58:34)
    ダイナだけじゃないんですか!?


    すごいですね,遊び心でこんなにも上手に書けていて!


    質問に答えてくださってありがとうございます。
    スッキリしました。笑


    無理をせず,頑張ってください。
    めっちゃ楽しみです。

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20750 / 1階層)  ALICE 【86】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(2回)-(2008/03/24(Mon) 08:24:55)
    各々のデスクに山積みになった業務に、

    私達は明らかに注意を集中出来ていない。




    リリーは右斜め向かいに、

    すみれちゃんは真向かいに、

    そして私は左横に、


    神経の恐らく半分を占領されている。



    3人の雑念の矛先は、同一だ。



    リリーの右斜め向かい、
    すみれちゃんの真向かい、
    私の左隣、


    とはつまり、


    アリスのデスクを意味する。


    今その場所は、

    危険な化学変化を試みる実験室と化しているのだ。




    ―――アリスと、三葉。



    この異様な組み合わせの2人が、

    一つのデスクに向かって、身を寄せ腰を下ろしている。








    気にならないで、いられようか。









    このところ内勤が増えており、

    (といっても暇な時期だという訳ではなく、
     4Fの人間がメイン案件の掛け持ち数を減らし、
     階下のフォローを大幅に受け持つという、
     今は体制の変化を試みている状態なのだ。
     つまり、暇な訳では、全くもってない)

    この機会を活かして、

    本日は丸一日、
    三葉の教育係に、所長直々アリスが任命されたのだ。


    突然の朗報ならぬ妙報に目を白黒させる部下達のリアクションを、
    満足げに眺めながら、

    女ボスは言い捨て御免で出張に立ったのだった。




    妙報が発せられた今朝、
    当初のそれぞれの反応といえば、


    三葉は「ぐぁ!」という蛙のような奇声を上げ、

    すみれちゃんは『第二キャビネットの施錠徹底』という注意書きを、
    30枚プリントアウトし、
    (第二キャビネットは1つしか存在しない)

    コンタクトをはめている最中だったリリーは、
    あっけにとられた隙に片方を落とし、
    しかもそれを自分の足で踏みつけ、

    ブラインドタッチで打ち慣れた自分の氏名を入力したはずの、
    私のPCの画面には、

    『だぃるいじ』

    という意味不明な文字が並んでいた。


    仕事場では無表情・無反応が売りのアリスでさえ、
    (別に売りではないが)

    所長の声に片方の眉を上げるのを、私は見逃さなかった。




    アシスト時のポイントや、
    司法試験に向けての要点などを学ぶようにという、
    所長の大雑把な指示通り、

    初めのうちは明らかにやる気の無い態度で、
    途切れ途切れに呟くような質問を投げていた三葉だったが、

    それに対するアリスの的確で明確、かつ奥深い回答を重ね聞くにつれ、

    だんだんと真剣な顔つきで、
    次第にメモをとるまでに変化していった。



    私は自分の作業に打ち込むフリをしながら、
    このストレンジ・ペアに意識を傾けずにはいられず、

    自分以外の2人も同様である事は、
    時折空中でぶつかる視線から充分伺えた。



    しかし、
    少し前から、

    三葉の言動に新たな変化が現れていた。


    少しずつ、アリスに反論をし始めたのだ。


    主張はそこまで強くないが、
    アリスの意見に何かと小さく異議を唱える声が、
    私の耳を刺激する。


    と、


    「納得いかない!!!!」



    突然、三葉のヒステリックな声が響いた。

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▲[ 20012 ] / 返信無し
■20752 / 1階層)  ALICE 【87】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(4回)-(2008/03/24(Mon) 09:14:10)
    三葉の叫びは、

    私たち外野への『見て見ぬふり・解放宣言』となった。



    皆が手を止めて、

    遠慮無しに二人に注目する。





    「そういう考え方、正しくないと思う」


    ・・・恐れ多くも、アリスの仕事に堂々と文句を付けるとは。


    恐らく、
    最大の恋敵であるアリスの言葉に感銘を受け、
    真面目に聞き入っている自分にはたと気付き、
    だんだんと癇癪の虫が顔を出してきた、

    とまあ、そんなところだろう。



    この無謀な19歳に、1つ年上のアリスがどういう反応を示すのか、
    皆が静かに見守る。


    「・・・山根さんは、」

    「山根って言わないでって言ってるしょ!!三葉!み・つ・は!!」


    スタイリッシュな自分には似つかわしくない、とかで、
    彼女はいつも苗字で呼ばれる事を激しく拒むのだが。



    アリスの、故意ではない絶妙の仕返しに、
    私は思わず肩を震わせた。



    「貴方は貴方の考えを持って進んでいけばいいと思うわ」


    顔色一つ変えないアリスの大人の振る舞いは、
    小娘のプライドを余計に傷付けたようで、
    三葉は目を吊り上げ、声を荒げる。


    「未だ黒星が無いのがそんなに偉いわけ?
     大体、アリスの裁判って気色悪いのよね。
     普段ろくに人と会話も出来ないロボットみたいな人間が、
     弁護士なんて、正義の味方演じちゃってさ、ばっかみたい!!」



    アリスが、
    そんな三葉の怒り任せの言葉如きに、傷付きなどしないのは分かっていたが、
    それでも私は、
    何か、言わずには居られなかった。


    「何よ、いつもアリスの裁判傍聴して帰って来ると、
     “凄い!アリスってやっぱ天才!”とか言ってるくせに」

    「それは言わない約束じゃないっすかルイ子さん!!」

    立ち上がった三葉は私を激しく睨み付ける。
    怒りが留まる気配は無いようだ。

    と、いうか。後に引けないのか。



    「法廷ではよ〜く動くその口で、男も女もたぶらかして。
     所長もこの女に騙されてんですよ!」


    入れ込んでいるのが所長の方である事は、
    三葉も十分感じ取っているはずなのに。

    そんな暴言を吐いて、
    後で虚しくなるのは三葉の方だと、
    私は彼女を少し哀れに思った。

    が、その気持ちよりも、
    腹立ちの方が自分の中でわずかに勝っているのを感じた。

    その感情をどうすべきか迷っていると、


    「三葉ちゃん。言っていいことと、悪いことがあるんじゃない?」


    優しい口調で、しかし強い意志が感じられる声で、
    すみれちゃんが静かに立ち上がってそう言った。


    「いーーーんです。この女には今まで言いたいこと沢山我慢してきたんすから!
     腹ん中溜め込んでるより、ぶつけた方がいいんすよ!
     アリスもあたしに何か言いたいことあるんなら、今言えば!?」


    感情を表情にそのまま反映させる、
    そんな、自分とは正反対の三葉を、
    アリスは何も言わず、ただ見上げていた。


    「そうやって人を馬鹿にして、いつもいつも!何か言ったらどう!?」


    アリスの眉間が僅かに寄せられるのを見た私は、
    彼女が決して三葉を馬鹿にしているのではなく、
    ただ少し困惑しているだけだという風に感じた。


    どうやって助け舟を出そうか・・。

    私が思い迷っていると、


    「三葉に対して普段から思ってても言ってないこと。
     それを教えて欲しいんだってさ。
     何か、言ったら?アリス。少しくらいあるんじゃない?」

    初めてリリーが口を挟んだ。



    さて。

    アリスはどう応じるのか。




    案じつつも、興味が沸いた。

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▲[ 20012 ] / 返信無し
■20949 / 1階層)  ALICE 【88】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(2回)-(2008/06/24(Tue) 03:01:18)
    視線を斜め下の何も無い空間に落としたアリスは、
    しばしの沈黙を設けた後、

    ぼんやりと、言った。




    「コーヒーが、美味しい」









    「え?」
    「は?」
    「えぇ?」
    「何?」




    「ミツハが淹れるコーヒーは、美味しい、凄く。
     ・・・いつも思ってて言ってないこと」








    皆、脱力した様子で顔を見合わせる。





    これぞアリスの、


    完全勝利だ。






    「確かに。何気に絶妙よね。三葉のコーヒー」


    リリーの発言が、
    アリスをフォローするかのように感じられ、
    私は何故だか無性に嬉しくなった。



    「コーヒーとか、そんなの、何も考えないで普通に淹れてるだけっすよ、そんなん・・」

    「うんうん!三葉ちゃんは紅茶も上手!私も思ってたの!」


    すみれちゃんもすかさず加わり、
    皆に持ち上げられた三葉は、
    もはやすっかり毒気を失った顔つきに変わりつつある。


    感情的になり過ぎた事を気まずく思い始めたのか、
    居心地の悪そうな雰囲気が、
    彼女の周囲に漂い始める。


    アリスが隣に居たのでは、
    余計にクールダウンしにくいのだろう。



    「もう正午か。アリス、外で何か、食べて来よっか」


    三葉への助け舟として提出した私のその案に、
    真っ先に反応を示したのは、
    予想外なことに、アリスだった。


    私を向いた彼女の瞳は、
    安堵のあまり、
    それはもう無防備に揺れていて、

    予期せずそんな目で見つめられてしまった私は、
    皆が居るのも忘れて、
    思わず彼女を引き寄せて抱き締めそうになったのを、


    ぎりぎりのところで抑え込んだのだった。
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▲[ 20012 ] / ▼[ 20958 ]
■20950 / 1階層)  ALICE 【89】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(3回)-(2008/06/24(Tue) 03:23:37)
    事務所の並びにあるコーヒーショップでテイクアウトしたランチを持って、

    私とアリスは園へ向かった。


    アリスと園で会うのは、これで4度目だが、
    これまでは全て、現地集合・各自解散だった為、
    園までの道のりを並んで歩いたのは、

    今日が初めてだった。



    毎回私が渡り切るのに骨を折るスクランブル交差点の人間の海を、

    アリスはまるで人魚のように、

    滑らかに、
    涼しげに、

    風と共に泳いだ。



    老若男女がアリスに道を譲っていく様子は、
    エジプト記に記録されている、
    モーセの紅海のエピソードを私に連想させた。








    「今日は、とんだ災難だったわね」


    アリスのお気に入りのオリーブの木陰に並んで腰を下ろす。


    「んーー。彼女は。色んな意味で、私を嫌いなんだろうね」

    「嫌い・・・まあ、不可抗力でしょう。
     でも、アリス、偉かったじゃない。
     言い返すどころか、あの場面で三葉を誉めるなんて、凄い。
     私、真面目に感心しちゃった」

    「深く、考えて、ないよ。
     普段思ってることって、あれしか、無かったから。
     それだけ」


    あっけらかんと、アリスはそう言ってのけた。

    本当に、嫌味の無い人間だ。


    この娘と一緒に居れば居るほど、
    その類稀な、ひねくれの無い心に惹き寄せられる。

    心が澄んでいる分、
    普通では考えられないような、
    深い闇を抱え込んでいるのだろうが、


    それにしてもアリスは、

    性格が良い。

    極めて良い。


    世の中、美人は得をすると言うが、
    あまりに人間離れした美しさを持って産まれると、
    ひとえにそうとは言えないのかも知れない。


    アリスを見ていると、
    その容姿が、
    彼女の人となりに得を与えているとは、
    どうも考えがたい。


    まあそれは、
    アリスの社交性も問題なのであるが。


    それでも、
    もっと普通の、
    何と言えばいいのか、
    人目を惹く“べっぴんさん”レベルであったなら、

    『無口で、だけど喋ってみれば案外可愛らしい』

    という風な印象を持たれたのではないだろうか。


    所長もダイナもそれ以前の女達も、
    ほんのもう少し、
    アリスの内面の美しさに気付けていたなら、

    いくら金銭のやりとりがあったといえど、
    もっと違う形で、
    この娘と良い関係を築けたのではないだろうか。


    アリスと肉体関係を持つことが、
    彼女の心を真っ直ぐに見つめて、
    それを勝ち得るのに妨げとなるのであれば、

    私は、そんな繋がり、一生要らない。




    ・・・と、ここまで考えてから、

    “肉体関係”って、
    いつそんなものを私が望んだんだ、

    と、己の突拍子も無い発想に、
    私は些か動揺を覚えた。


    そんな私の心境など知らないアリスは隣で、
    ベーグルに挟まれたレタスをシャキシャキ鳴らして食べている。


    「変なの。キャベツはダメで、レタスは、いいんだ」

    「好みを変と言われるのは遺憾だわ」


    アリスはツンとした様子でそう返してきた。



    好み、か。


    ・・・ああ、そうだ。

    午前の騒動の中、
    三葉がアリスに放った言葉を聞いて、


    私の中にふと湧き上がった疑問が、あったのだった。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20950 ] / ▼[ 20962 ]
■20958 / 2階層)  お待ちしてました
□投稿者/ れい 一般♪(14回)-(2008/06/28(Sat) 01:41:58)
    あおい志乃さま

    更新、ありがとうございました。
    お疲れさまでした。

    更新されたものが読めて非常に嬉しいです。
    ありがとうございます。


    東京はここ数日、寒暖の差も大きく、
    体調管理がなかなか難しい日が続きます。

    あおい志乃さまも、くれぐれもお体ご自愛下さいませ。


    私は久しぶりに休みが取れそうなので、
    大好きな温泉にでものんびり浸かってこようと思います。
    (そのために仕事頑張っているようなものです)


    またの更新、楽しみにしております。



    れい

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20958 ] / 返信無し
■20962 / 3階層)  ◆れいさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(8回)-(2008/06/28(Sat) 02:14:44)
    れいさんこんばんは。
    真夜中のメッセージ、ありがとうございます。
    れいさんが東京で変わらず、
    お忙しい日々を送っていらっしゃるご様子が窺えます。
    週末の激戦を終えて、お風呂に入ってらっしゃる時間帯かなと、
    思っていたのですが。

    季節の変わり目、体に負担が掛かる時節ですね。
    れいさんこそ、くれぐれもお気を付けて。
    体も、心も。

    温泉、イイですね。
    私も日曜から数日休みを設けています。
    “連休中音信不通”宣言を各方面に堂々と掲げられるよう、
    あと30時間ほど心を無にしてやり抜きたいと思います。

    れいさんの週末が素敵に素晴らしく彩られることを、
    祈っています。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / ▼[ 20960 ]
■20951 / 1階層)  あおい志乃さんへ
□投稿者/ 凌 一般♪(1回)-(2008/06/24(Tue) 08:43:49)
    おかえりなさい。

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20951 ] / 返信無し
■20960 / 2階層)  ◆凌さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(6回)-(2008/06/28(Sat) 01:57:46)
    ご無沙汰しております。

    簡潔で、心温まるメッセージをありがとうございます。
    励みになります。
    凌さんのそのお心遣いに少しでもお返しが出来るよう、
    アリスを動かしていきたいと思います。

    良い週末を。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / ▼[ 20961 ]
■20954 / 1階層)  待ってました(^-^)
□投稿者/ ★ 一般♪(1回)-(2008/06/26(Thu) 17:38:54)
    ほんとにこのお話大好きです!!引き込まれる!(≧▽≦)これからも楽しく読ませてください♪
    素敵なお話ありがとです!

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20954 ] / 返信無し
■20961 / 2階層)  ◆★さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(7回)-(2008/06/28(Sat) 02:00:36)
    初めまして、こんにちは。
    こちらこそ、素敵なメッセージ、ありがとうございます。
    素直に嬉しいですね(/-\*)
    これからも楽しくお読み頂けますよう、
    楽しく書き進めていけたらと思います。

    素敵な週末をお過ごし下さい♪
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20959 / 1階層)  ALICE 【90】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(5回)-(2008/06/28(Sat) 01:52:15)
    「アリスってさ、男の人と付き合うことは無いの?」

    「無い」



    こちらが戸惑うほどの即答だった。




    『法廷ではよ〜く動くその口で、男も女もたぶらかして・・・』


    という三葉の暴言の、

    “男も”

    という部分に、私は引っ掛かったのだった。



    そういえば、アリスの恋愛遍歴の、
    異性編はどうなっているのだろうかと。


    アリスは、

    この通り、“無い” と言う。





    「あ、そっか。無いんだ」

    「どうして?」



    ところでこのところ、
    アリスは積極的に会話を続けるようになってきたように思う。


    以前の彼女なら、
    受けた質問に “イエス” か “ノー” で答えるだけで、
    それ以上自分で話を膨らますようなことは、しなかった。


    ましてや、“どうして”そんなことを自分に尋ねるのか、などと、
    質問を返すことなど、絶対に。


    この変化は、
    私と居る時にそれだけアリスが、
    気分をリラックスさせている事の証拠だろうか。


    確信は持てないが、
    でもきっとそうなのだろうという自信が私の何処かに潜むゆえに、
    以前なら酔った勢いでも言えなかったであろう、
    こんなプライベートな質問も、
    少しの覚悟だけで放ててしまうのだと思う。




    「ほら、慰安旅行で、アリス言ってたじゃない?
     愛してないなら、男も女も同じだ、って」

    「言ったね」

    「だからさ、どっちでもいけるのかなと、思ったんだけど。そっか、違うんだ」



    ベーグルを完食したアリスは、
    スクッと立ち上がったかと思うと、
    おもむろに、背もたれにしていたオリーブの木を登り始めた。

    何をしているのかと私が声を掛ける間も無く、
    いとも簡単にアリスはするすると、
    地上3メートルを超える高さの枝まで辿り着き、
    そこに腰を下ろした。



    「・・・猿か」


    私の呆れ声に、
    アリスの笑い声が、天から降って来る。


    「ルーイはさあ」

    「ん?」

    「私が女と付き合うの嫌?」

    「え?なんで?・・ああ、違うよ。そうじゃなく。
     ほら、アリス昔から相当モテただろうし、それは同性からもなんだろうけど。
     でもやっぱり、数的には言い寄ってくるのは異性が圧倒的に多いでしょ。
     だから、流れでいけば、っていうのも変だけど。
     男と付き合う方が、手軽だったんじゃないかなって、そう思っただけ」





    だって、実際そうだろう。

    特に、パトロンを探すのであれば、
    確実に男の方が簡単に見つかる。


    アリスは木の上で、
    風に吹かれて気持ち良さそうに目を閉じながら、

    「金持ちには男が多いしね」

    と言った。



    私の考えが読まれていたようだ・・・。



    「ま、それもあるし。
     あとさ、女性相手の方が、なんていうか、大変かなって。
     性格的に、束縛とか、嫉妬とかね。
     想像でしか無いけど。人にもよるんだろうけど」

    「そうかもね」

    「アリスが、同性の方がいいっていうんなら、何の問題も無いけど。
     うん、ちょっと訊いてみただけよ」



    本当は、この関連でもう一つ、
    前々から時折頭に浮かんできていた、
    重要な疑念があるのだが、
    それはさすがに少し、
    踏み込みすぎかもしれない。

    とりあえず今日のところは、ここで終わらせようと、
    私は前を向いて適当に鼻唄を歌い始める。





    「特に理由があって女を選んでるわけじゃないよ」


    ところがアリスの方が、
    この話題を続行する姿勢をとったので、
    私の心は少し戸惑いを覚え始めた。


    「うん・・そうなんだ」

    「それから私」

    「うん?」

    「sexは好きじゃないけど」

    「あ、そうなの・・うん」



    アリスは何を言い出すつもりなのだろう。


    彼女が今どんな表情をしているのか、
    見定めたいのだが、
    どのタイミングで上を向けばいいのか、
    私は顔を上げることが出来ないで居た。


    すると、



    「受精はもっと嫌いなの」



    何の心構えも無いままに、


    そんな台詞が私の耳に達し、

    やがて胸に当たった。




    あまりに綺麗な声で、
    アリスがそんな生々しい単語を口にしたので、

    私は妙な…本当に妙な気分になった。






    快晴の空から落ちた大粒の雨のように。

    白百合から放たれた悪臭のように。

    女神から産み落とされた悪魔のように。






    “受精” というワードだけが脳内で異質に浮いていて、

    私はその出処を模索するように、
    落ち着き無く瞳を上下左右に動かす。



    そして、ようやく、

    アリスを見上げた。




    真っ青な夏空を背に、
    鳳凰のように枝に宿ったアリスは、

    そこで美しく微笑んでいた。



    その花のような唇から発せられたと考えるには、


    “受精” という二文字は、



    あまりに違和に溢れていた。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■20963 / 1階層)  ALICE 【91】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(9回)-(2008/06/28(Sat) 03:06:00)
    「ルーイったら、黙っちゃった」



    「・・ああ、ごめん。あまり耳にしない言葉だったから」



    膝から下を前後に揺らして、

    ブランコを漕ぐようにアリスが空を漕ぐ。


    その子供のような仕草は彼女によく似合っていて、

    だからこそ余計に、
    やはり先刻の二文字が生々しく思えた。




    「そうだよね。女同士なら、妊娠の可能性、絶対無いからね」


    アリスの言った台詞を、なんとか冷静に思い返して、
    私はそう返答した。



    「変に思った?」

    「ううん。全然」 と答えてから、

    「安心した」 と、自然に私はそう加えた。



    「安心?」


    「そう。男性関係のトラウマから、女性しか愛せなくなるケースは多いって聞くから。
     アリスがそうじゃないんなら、良かった」




    ―――これが、さっき言い留まった、疑念。


    前々から少しずつ考えていた、不安。




    「そんなこと、考えていたの。ルーイ」


    アリスが、
    意外だというように、
    冗談めいた響きでそう言った。

    だが表情には、
    僅かに困惑というか、
    何かの引っ掛かりが浮かんでいるように見えた。



    「考えていたというか、うん、まあ、考えてしまうというかね。
     アリスが今辛いのも、昔辛かったのも、嫌だからさ」




    過去を変えることが出来ない事は十分承知している。

    それでも、
    アリスが経験した苦しみが、
    少しでも、少なくあって欲しい。


    それが私の、正直な、飾り気の無い気持ちだ。



    所員とも、依頼人とも、
    アリスは仕事中、何の問題も無く男性と接触していたし、
    愛想が良いとは決して言えないが、
    それは誰に対しても同じなわけで。


    とにかく今回のことで、


    『同性と付き合うことには特に意味は無い』と、

    性虐待の過去は無いと、


    アリスの口から聞くことが出来た私は、

    心底安堵していた。




    父親を “男” と称するアリスの呼び方には、
    明らかに侮蔑の念が見られた。


    我が子に食事をまともに与えることさえしない人間が、
    他にもどんな仕打ちをアリスに与えていたか、分からない。
    出来れば考えたくない部分だ。


    アリスのその父親像が、
    そのまま彼女の持つ男性像に与えた影響の大きさは、
    小さくないと予想されるが、
    考えてみれば、アリスの場合、
    不信の対象は異性に限ったことではないだろう。


    彼女の瞳は、
    “男” よりむしろ “魔女” という言葉を発するその時に、
    様々な情意を宿していた。

    紅野心とアリスの父親が、
    一体どんな関係で、
    そして二人が真白・アリスの母娘に対して何を行ったのか、
    この辺りに関する具体性は一切手にしていないが、


    その正体の全貌が、

    アリスを笑顔に導く類である可能性は、






    ゼロだ。






    “sexが嫌い” というのは、

    妻以外の女を想い(あるいは抱き)続けた、
    不道徳な父親に対する嫌悪感と結びついているのかもしれないが、

    実際、アリスは性行為を行っているし、

    その関連での目に見えるトラウマは、無いようだ。


    食欲は極めて少ないが、
    摂食障害では無い、
    自傷行為の痕跡も見られず、
    トゥレットの症状も無ければ、
    自閉気味ではあってもシンドロームとは言えない。


    そういう、他人の同情や心配を簡単に集める要素が、

    アリスには無い。





    ―――だが、



    心が、


    深黒の闇に覆われている。




    アリスは、

    表面を滑らかに保つ為に、
    内面を途方も無く犠牲にしている。


    きっと、そうなのだ。








    ・・・果たしてどちらが良かったのだろう。




    感情の波を抑え込むことをせずに、
    よく笑いよく泣きよく怒る、が、
    コントロールが利かない、
    不安定な人間。


    それとも今のアリスのように、
    何事にも辛抱強く耐えることが出来るが、
    感情が恐ろしく鈍く、
    自身の保守の仕方を知らない、
    不器用な人間。








    どちらにしても、




    心に平安は無い。
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■21035 / 1階層)  伝えたいこと
□投稿者/ リーフ 一般♪(1回)-(2008/08/03(Sun) 10:02:28)
    この作品は、一度読んでもまた読みたくなる作品で、大好きです。
    何度も何度も読み返してはルーイとアリスのやり取りに心温まる感じです。

    また、ゆっくりと更新される日を楽しみにしています。
    暑い日が続いていますので、ご自愛下さい。

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20012 ] / 返信無し
■21277 / 1階層)  まってます
□投稿者/ ぎのご 一般♪(1回)-(2009/03/07(Sat) 15:03:18)
    いつ読んでも…むふふです( ̄▽ ̄〃)
    更新まってます

    (携帯)
[ 親 20012 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/


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