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■13787 / 1階層)  りょうて りょうあし 白い花 (6)
□投稿者/ 平治 一般♪(8回)-(2006/03/01(Wed) 21:26:42)
     翌日、職員室に【憩いの部屋】の鍵を取りに行くと、もう既になかった。
     部屋の靴箱に見たことのある靴が入れてあってほっとして扉を開けた。

    「おはよう」
    「おはようございます。早いんですね」
    「うん。先に来て、部屋あっためておこうと思って」

     それは誰のために?
     そんなの分かりきったことだった。
     嬉しいのと恥ずかしいのとで、私は胸がきゅっと締め付けられたような気持ちになって、俯いた。
     ふと視線の先に白い素足が見えた。

    「裸足で寒くありませんか?」
    「ううん。その方が好きなの」
    「なんか、歌姫みたいですねえ」
    「歌姫?」
    「なんかほら、ヒトトヨウとか、オニツカチヒロとか、裸足で歌ってるじゃないですか」
    「へえ、そうなんだ。テレビあんまり見ないから分からないや」

    「ねえ、それより」
     ぐっと手を引かれて、華奢な腕に捕らえられた。
     細くて華奢なひとなのに、力強くて、腕のなかはあったかかった。
    「おはようのキスは?」
    「えっ、でも誰か来るかも」
    「こんな朝から誰も来ないって。目閉じて」
     言われるままに目を閉じる。
     しばらくじっとしていたけれど、待っていたことが訪れず、目を開けた。
    「せ、先輩?」
    「ああごめん。つい見入っちゃって」
    「そんないいものじゃないですよ」
    「ううん。可愛い」
     ちゅっ、と頬に唇が触れた。
     そのまま唇が額や、耳に、首筋に、落ちるように滑っていった。
    「や、やだ、何ですか」
    「どんな味がするかなぁと思って」
    「味なんかしないでしょう」
    「うん。でもいいの」
     西本さんはそのままキスを続けた。
     段段、私の口から、抑えようとしていた息が洩れる。 
    「どうかした?」
     西本さんは、意地悪そうに微笑んだ。
    「分かってて、してるんですか」
    「ううん。今分かったの。感じるんだぁ、って」
     顔が熱くなる。
    「意地悪」
    「ごめんごめん」
     そう言うと、西本さんはパッと手を離して、私を解放した。
    「これ以上はどうすればいいかわからないから許してください」
    「あ、そっか。そうでしたね」
     私はほっとしたような、残念のような気持ちで、椅子に腰掛けた。
     西本さんも隣に座る。

    「ごめんね?」
    「え?」
    「年上なのに、自分から仕掛けたのに、知らなくて」
    「別にそんな…」
    「じゃ、おはようのキスしよう」

     不意打ちに、ちゅっと。
     西本さんの唇が私の唇を掠めた。

    「もうっ」
    「だって大事なところにキスするの忘れてたんだもの」

     くすくす。
     西本さんは、やわらかい顔をして笑うなとふと思った。
     優しそうな雰囲気の人だけど、笑うとすごく、そんな感じ。
     上手くは言えないけれど、下がった目尻とか、ゆるむ口元が可愛い。

    「ところでさー」
    「はっはい!」

     そんなことを考えてぼーっとしていたので返事が遅れてしまう。

    「ん? どうかした?」
    「いえっなにもないです」
    「そう? あのさー色気ないよね」
    「何がですか?」

     私のことかと思って軽いショックを受ける。
     が、西本さんはこの部屋の鍵をじゃらじゃら遊びながら、続けた。

    「この部屋の名前。愛し合うにはちょっとねえ、なんて」

     【憩いの部屋】。
     たしかに色気も何もない。学校の教室に色気を求めるのもどうかと思うけど。

    「秘密の部屋、とかはどうですか?」
    「あ、いいかも。秘密かぁ、ふふ」

     私が適当に出した提案に、西本さんは満足そうに微笑んだ。

    「秘密の花園みたい。読んだことある?」
    「映画になったやつですよね」
    「そうそう。結構好きだったなー」
    「実は映画見ただけで、本は読んだことないです」
    「そうなの? 図書室に入ってるよ」
    「そうですか」
    「今度借りてみー。本読むの好きみたいだし。藤野さんは何が好き?」
    「うーん。ライトノベルとか。まぁ何でも読みますけど」
    「ふーん。そういうのはよくわかんないや」
    「じゃ、西本さんはなにがお好きですか?」
    「目についたのを読む程度で、あんまり知らないの」
    「そうですか」

     会話が止まる。

    「あの」
    「はい」
    「西本さんはどうして、その…私なんでしょうか」
    「ええ? どうしてって」
    「まだお話するようになって間もないですし、そんなに共通点もなさそうに思うし、よくわかりません」
    「どうしてなんだろうね。ううーん…」

     西本さんは考え込んで机に突っ伏してしまった。
     つい、気になって訊いてしまったけど、あんまり突っ込まない方が良かっただろうか。

     −−−−キーン…コーン…
     そのまま時間は過ぎていき、始業のチャイムが鳴った。
     その音にびっくりしたようにがばっと顔を上げて、西本さんは言った。

    「どうしてだかわかんないや。こんな気持ちになったの初めてだもの。キスしたいなんて今まで一度も思ったことなかった」
    「そうですか…」
    「あ、でも、勘違いしないで、誰でも良かった訳じゃないと思うから」
    「はい」

     ないと思う…って、そんな曖昧な。
     私は少し切なくなった。



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