ビアンエッセイ♪

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■22047 / 4階層)  窓際の彼女5
□投稿者/ KEI 一般♪(5回)-(2016/03/30(Wed) 00:35:10)



    千秋が電気をつけた。

    「狭いところだけど入って」

    「おじゃましまーす」

    僕は靴を脱いで千秋に案内されるまま部屋に入った。

    まずは玄関を入るとすぐにキッチンがあった。

    小さいがダイニングテーブルがある。

    その奥にはテレビやソファ、テーブルが八畳ほどの小さな空間にあった。

    ここがきっとリビングなのだろう。

    リビングを入ると左側にもう一つドアがあったが、きっとそこが寝室。

    さすがに泊まるつもりはないから、寝室など見る必要もなかったのだが、

    「真琴、こっちに来て」

    と呼ばれて僕は寝室に向かった。

    寝室はとてもきれいで整理されていた。

    僕の家とは大違い。

    寝室を見回していると、千秋が急に制服を脱ぎ始めた。

    「え、ちょっ」

    僕は慌てて寝室を飛び出した。

    「真琴、どうしたの?」

    「いや、だって!千秋がいきなり脱ぐから」

    「着替えるだけだよ。真琴も着替えな」

    そう言って千秋はジャージを僕に手渡した。

    「でも、僕、今日は帰るし…」

    「何でよ。今日は一緒にいてくれるって言ったじゃん」

    「いや、そんなつもりで言ったんじゃ」

    「やだ。寂しいの…」

    千秋はまた僕の腕を掴んだ。

    「…分かった、分かった」

    僕は千秋の頭をポンポンと撫でた。

    「やった!」

    千秋ははしゃいだ子どものようにジャンプをして僕に飛びついた。

    こんなにかわいい千秋を見られるなんて、夢にも思っていなかった。



    「いただきまーす」

    夜ご飯は千秋が作ってくれた。

    肉じゃが。

    僕の大好物だった。

    さっぱりとした甘さで煮込んであって、ジャガイモが箸で掴んだ瞬間にホロホロと崩れ落ちるのが、僕は好きだった。

    「千秋、これおいしい」

    「そう、よかった。ねえ、真琴、ここにご飯粒ついてるよ」

    僕はよくご飯粒を顔につけていた。

    それは子どもの頃から変わらない。

    行儀は悪いが、ご飯茶碗を持ってガツガツと掻き込むようにして食べていた。

    それがおいしいものであればあるほど豪快に。

    手を顔中に当ててみたが、ご飯粒らしきものを取ることができなかった。

    「もう」

    と言って、千秋は僕の右の頬についていたご飯粒を取ってくれた。

    「ありがとう」

    「どういたしまして」

    そう言うと千秋は僕の頬についていたご飯粒を自分の口に運んで食べた。

    「おいしい」

    千秋は幸せそうにニコニコしていた。



    「真琴、先にお風呂に入っちゃって」

    「うん。分かった」

    僕は千秋からタオルを借りて、お風呂に入っちゃって入った。

    いつもは面倒でシャワーしか浴びないのだが、今日は千秋がお風呂を入れてくれたのだから入らない訳にはいかなかった。

    白い入浴剤が入れられた湯船に肩まで浸かり、角に頭を置いて天井を見上げた。

    こんなに幸せなことがあっていいのだろうか?

    僕が毎日見てきたあの窓際の彼女とキスをして、手を繋いで、ご飯を食べて、同じ部屋で寝ることになるなんて、想像もしていなかった。

    僕は気持ちが高鳴り、数分も入っていないのに、なんだかのぼせてしまった。

    軽くシャワーを浴び、髪と体を洗い、すぐにお風呂から上がった。

    「お風呂気持ちよかった。ありがとう」

    「いいえ。それじゃあ私も入るから、先に寝ててもいいよ」

    「うん。分かった」

    千秋がお風呂のドアを閉めるのを確認して、僕は寝室に入った。

    寝室には布団が二つ敷かれていた。

    一つは千秋の、もう一つは僕のだろうか。

    部屋の端にもう一つ丸められた布団があった。

    千秋の家族が何人なのかは分からないが、あれはきっとお父さんかお母さんのものだろう。

    僕は布団の上に大の字になって寝転がった。

    体の火照りがなかなか冷めなかった。

    だがいつしか僕のまぶたは重くなり、眠りについた。



    「真琴、起きてー」

    千秋の声がした。

    「ふあ〜」

    僕は大きなあくびと大きな伸びをして布団から起き上がった。

    チュッ

    「おはようのチューだよ」

    千秋はニコニコしながら言った。

    「ほら、早く朝ご飯食べて学校行かないと。遅刻しちゃう」

    僕は時計を見た。

    時刻は八時の五分前。

    「やっべ!」

    僕は急いで制服に着替えた。

    「いただきます」

    玉子焼きにウィンナー、鮭の塩焼きと大根おろし、きゅうりの漬け物に梅干し、ご飯と味噌汁。

    いつも食パン片手に家を飛び出す僕にとっては、旅館のような豪華なメニューだった。

    どれもおいしい。

    おいしいのだが、一つひとつを味わう時間はなかった。

    いつもの倍の速さでご飯をかきこんだ。

    「ごちそうさま!いってきます!」

    僕は千秋のアパートを飛び出した。

    階段を下りて、ハッと気がついた。

    千秋も高校生。

    しかも後ろの高校。

    だったら一緒に出ないとまずい。

    僕は急いで部屋に戻った。

    「千秋、行くぞ!」

    「もう、おいていかないでよ」

    千秋は頬を膨らませて怒って見せた。

    そして、僕に自転車の鍵を渡すと、

    「先に行っていいよ。私は今日、一時間目自習だから」

    「そうなの?」

    「うん。早くしないと真琴が遅刻しちゃう」

    「分かった。それじゃあ、また図書館で」

    「うん」

    僕は千秋に手を降りアパートを出た。



    続く





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  └Nomal Re[2]: 感想^^ お返事 / KEI (16/04/24(Sun) 02:15) #22066

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