| ピッーピッー
「合計で1470円です」
本屋のレジは割といい仕事だと思う。
「カバーおかけしますか?」
他の接客業ほど愛想ふりまかなくてもいいし。
「2000円お預かりします」
新刊本のチェックだってできる。
「530円のお返しです」
それに…
本を買うというのはすごくパーソナルな行為だから。
イヤでも透けて見えるしね、
お客さんの内側が。
「商品こちらです。ありがとうございました」
“…モー娘の写真集は卒業しろよ?
サラリーマン青年。”
そんなことをこっそり思いながら見送る
お客様の背中。
そしてまた
「いらっしゃいませ」
次にやって来るお客さんの内側を
ピッ―ピッ―
本をバーコードに通しながら…
のぞいてみたり。
私が大学の4年間続けた―
本屋でのバイト。
結構?
いや…
すごく好きだったな
あの仕事は。
単調なレジ作業もあるけれど。
“棚”と呼ばれる売り場での仕事が
私は大好きだった。
びっしりと
寡黙に―
高い棚に並ぶ本の背表紙。
それを見上げながら。
売れ行きをチェックしたり
次の発注を考えたり
新しいレイアウトを構想したり。
………
好きだったな。
本と向き合う静かな時間も、
肉体労働に近い、重い本を運ぶ作業も
本を開いた時の紙の匂いも…。
大好きだったな
あの店が。
大好きだったよ。
あの店で出逢った
忘れえぬ人。
アキ。
あれは私がまだ20歳だった頃―
もう
5年も経つんだね?
アキ。
………。
(携帯)
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