| 2017/12/08(Fri) 11:42:28 編集(投稿者)
マンションへ帰ると、ライサお姉さんはシャワーを浴びている様子。 そのまま真っ直ぐ台所に向かい、メイドに頼んで小瓶を一つ貰う。 あの蛙を体操服の袋からその小瓶に移した。 手にした小瓶の中の蛙。
リビングのソファに座って見詰めているうちに思い出す子供の頃の思い出。 小学生の時、夏休みに毎日近所の男の子達といつも一緒だった。 皆で公園の池で蛙や虫を追いかけて遊んでいた。 大きな蛙を捕まえて家に持って帰るとママに怒られたけど、 男の子達と池で遊ぶのは自由にさせてくれた。 楽しかった。
『姉に報告する。』 そう考えていたけれど、小瓶の中で跳ねる蛙を見ているうちに可愛くなった。 部屋で飼えないかな…。
「後でね。」
蛙に小さく囁いて、 その小瓶をリビングのテーブルの上に置き、 宿題をやろうと自室で机に向かった。
どのくらい経ったのだろうか、リビングのほうから姉の悲鳴が聞こえた。 びっくりして部屋から飛び出せば、姉がリビングの隅で立ち竦んでいる。 怯えた青い視線の先で、小さな蛙が小瓶の中で跳ねていた。
ああ、あの蛙。 思い出したようにテーブルへ歩み寄り、小瓶を掴んで姉に指し示し。
「お姉さん、下駄箱の靴に蛙が入れられてたの。」
壁際を後退りする姉の顔が引き攣った。
「唯っ、それ、捨てなさい!」 「ぇ? 可愛いのに…。」 「今すぐ捨ててきてっ!」
怯えて金切り声を上げて叫ぶ姉の様子に戸惑った。 少し悲しくて、うつむき加減に小瓶を見詰める。 可愛いのに…。 ちょうどその時、ライサお姉さんがお風呂から出てきた。
「どうしたのイリーナ?」 「ゅ、唯が。 か、蛙を…。」
姉の声が震えていた。 其の言葉に、ライサお姉さんが立ち竦み顔を引き攣らせる。
二人とも蛙が苦手なんだと気づいた。 姉たちの怯える顔を見たのは初めてだった。 美人で賢い姉たちにはいつもかなわなかった、でも今は…。
小瓶の中で跳ねる蛙に視線を落す。 ふと沸き起こる我侭な思い。
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