| それから、数日後 ------
ピンポーン
お姉さま、帰っていらしたのかしら・・。
「あっ・・恵子さん・・」
そこには恵子の姿があった。
「こんばんは。ちょっといいかしら?」
真里菜は、慌てた様子で、
「どうぞ・・。散らかってますけど。」
恵子は、部屋の中を見回し、ソファに腰かけた。
煙草に火をつけ、フーっと大きく息を吸い込んだ。
真里菜は慌てて、灰皿を出して、インスタントコーヒーを入れる。
「どうして、連絡をくれないのかしら?お願いしてあったと思うんだけど」
真里菜は、黙っていた。何て答えたらいいのか・・真里菜の頭は混乱していた。
「で、サーヤは元気なの?」
「はい。今のとこ落ち着いていらしゃいますよ。」
「なら良かったわ・・。直接サーヤに会おうかと思ったけど、貴女に話たい事もあ
って。」
真里菜は、恵子にコーヒーを出した。
恵子は、フレッシュをたっぷりと入れ、カップを口にした。
「私ね・・。サーヤをアメリカへ連れて行こうかと思っているのよ。」
真里菜は驚いた顔で、恵子の顔を見た。
「どうしてですか?」
「今度アメリカでね、いい治療がでたらしいのよね。その医者にサーヤを
診せたいって思っているのよ。その準備もあるしね。」
真里菜は、絶句した。
お姉さまが・・アメリカへ・・。
治療な為と言われれば、真里菜は何も言えなかった。
自分の無能さを思い知らされる・・。
「でも・・。」
真里菜は、その先の言葉は言えなかった。
「貴女も、サーヤに少しでも可能性があるとしたら、それに賭けたいって思うでし
ょ?分かってほしいのよ・・。」
真里菜は、黙ってうなづいた。
確かにそうだ・・。助かるものなら、助けたい・・。
「これで、サーヤの事は忘れてちょうだい。」
恵子は、鞄の中から小切手を取り出し、真里菜に手渡した。
真里菜は、驚きの表情を隠しきれなかった。
恵子は、真剣な眼差しで、真里菜に言った。
「貴女がいれば。サーヤはアメリカに行くことを拒むかも知れないわ。
あの子は、今を大事にしたい・・そうこないだも言ってた。
でもね、可能性が少しでもあるなら、私はあの子を治してやりたい・・。
そう思っているのよ。
だから、分かってほしいの。そんなに貴女たち、日もたってないでしょ
う。今なら、貴女にとっても傷が浅くて済むわ。」
真里菜は、目の前が真っ暗になった。
私に、お姉さまを忘れろと・・・。
真里菜は、じっと一点を見つめてただ、呆然と恵子の話を聞いていた。
「3000万用意してあるわ。これで、家を借りるなり買うなりして、早急に
ここを引き払ってちょうだい。そして、貴女の勤めている会社の社長は、私の親し
い人なの。だから、もう話はつけてあるから。」
「会社?話って・・」
恵子は、新しい煙草に火をつけながら、真里菜に言った。
「心配しないでいいわ。仕事なら、いくらでも紹介するつもりよ。
ただね、完全にサーヤの前から消えてほしいのよ。」
ゆっくりと煙草の煙をはいて、恵子は話を続けた。
「これも、サーヤの為だと思ってちょうだい。」
「でも・・、お姉さまが何とおっしゃるか・・」
恵子はいきなり強い口調で言った。
「だから、消えてほしいって意味が分からないの?」
真里菜は、何も言えなかった。
「貴女も、サーヤを愛してるんでしょ?それなら分かってくれるわよね。」
恵子は、再びつけたばかりの煙草をもみ消して、立ち上がった。
「2週間後の飛行機を取ってあるの。1週間の余裕は貴女にも必要でしょう。
これ以上、貴女に言うことはないわ。
それと、仕事だけど、明日数社の会社パンフ届けさせるから、その中から決めて
くれたら、すぐ話はつけるから。」
恵子は、そういうと、そのまま玄関を出て行った。
真里菜は、何も考えられなかった。
後から後から、涙が溢れてきて、立ちすくんだままだった。
部屋では、カチカチと時を刻んむ時計の音だけが響いていた。
(つづく)
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