| 「メールが来たよ」というメール着信音が携帯から鳴った。 陽子はテーブルの上に置いた、携帯を取りに、ソファから立ち、向かった。
“こんにちは。佳苗です。今日、○○市にある喫茶店「yuzu」で、11時に待ってます。” それは、何度かメールのやり取りをしている3人のお姉さまの中の一人だった。 11時、もう、まもなくじゃない!陽子はあわてて、寝室に向かった。白の無地のハーフスカートに、ラベンダー色のブラウスを重ね、ベージュの七分袖のカーデガンを纏い、初夏らしく、白のバッグを持って、身支度を整えた。「yuzu」は自宅から自転車で10分程度のところにある、住宅街の中の喫茶店。有名な雑誌にも掲載されたことがある、サンドイッチがおいしいお店。だけど、近くにあるからいつでも行けるわ〜と、結局、この地に住んで6年になるけど、一度も行ったことが無い。 颯爽と自転車を走らせた。どんな人だろう、携帯で写真のやり取りは何回かしているけど、正直、写真と実際は違うからというのが陽子の見解。 自転車を10分くらい走らせて、「yuzu」に着いた。駐輪場に自転車を止め、スタンドを立てて、キーをロックした。 チリリンと、店内に響く、木製のドアを引いたときに鳴る鐘。時計を見ると調度11時だった。メールの内容を思い出し、窓際に座っている、白いブラウスに真っ赤なバッグを思い出した。 あの人だ。高鳴る胸を押さえながら、陽子は近づき、佳苗に声をかけた。 「失礼ですが、佳苗さんですか?」 椅子に座って本を読んでいた女性は、本を閉じて、にっこりと会釈をした。 「どうぞ」と、テーブルの前の椅子を勧められた。テーブルにはピンクのロングクロスが掛けられている。 かなり緊張気味に椅子に座った。 つづく
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