| 年の差なんて気にしないわ。 金さえあれば。 何度かの恋愛に失敗して、もう結婚は諦めていたから、ある意味、妥協かな。 相手は六十のじいさん。 男性機能は辛うじて残ってる程度だけど、私の方が淡泊なくらいだから大丈夫。 金さえあれば良いのよ、金さえあれば。 と、思っていたら、夫の会社は倒産、自宅まで抵当に入れていたから、ほとんど無一文で冬の寒空に放り出された。 夫は会社の残務処理が終わると抜け殻状態、仕方なく、六畳一間のアパートを借りて私が働きに出ることにした。 もちろん夜のお仕事。 夫と知り合ったのも夜だったし。 前の店に頼み込むのも癪で、別の街の店を選んだ。 最初はまあ、見習いということで、初めて店に立った日のことだった。 下品な金のネックレスをした羽振りの良さそうな初老の女性が、目の覚めるような美人を連れて入って来た。 常連らしく、何も言わないのに、ママはブランデーを注いで出した。 それには目もくれず、女性は私の目を見て言った。 「あなた、おいくつ?」 「二十一です」 もちろんさばを読んでいる。 「わかったわ。あなた」と美人の方を見て、「もう今日は帰っていいわ」 美人はニコリともせずに椅子から降り、挨拶もせずに帰って行った。 「若い子はあれだから。いつまでも自分が綺麗でいられると勘違いしてるのね、本当は今だけなのに」 ちょっと困った笑顔を作った。 よく見ればブルドッグに似た豚女だ。 「私だって、若い頃は自分の容姿に自信を持ってたわよ。それで寄ってくる男を振り払い振り払いして……」 豚女はブランデーを一気にあおった。 そして私をジッと見て、言った。 「あなた、いくら?」 意味不明で、返事のしようもない。 「新山様、この子、今日入ったばかりなんです」 と、ママが割って入った。 「だからなんなの?」 「いきなりは、ちょっとご勘弁下さいな」 「だって、この子、顔に書いてるわよ。女が好きですって」 いきなり何を! 「あなた」と新山はママにかまわず続けた。 ママも仕方なくブランデーを注いだ。 「恋愛も結婚も上手く行ってないでしょ」 また困った笑顔を作るしかなかった。 「それはね、あなたがレズだからよ。私の仲間なの」 何の冗談ですか、それは。 「今晩一晩、私と試してみない? あなたは寝てるだけで良いの。絶対に感じるはずよ。あなた、逝ったことある?」 「やめて下さい」とママが遮った。 私はまた困った笑顔を作るしかなかった。 逝く? なにそれ? それって、エロ小説とか、アダルトビデオとかの話でしょ? 普通の女にとってセックスなんて義務みたいなもんでしょ。 そんなので感じるなんて、普通、おかしいでしょ。 確かに感じるって女の子もいたけど、で、それが何よ? 「いいわ。今日は帰る。でも、その気になったら、ここに連絡して。いつでも良いわ。二時間で十万円あげる。いいえ、あなたなら十五万円あげる。いつでも連絡して」 店が終わった後、ママは、 「あの名刺、すぐに捨てなさい。あんなの持ってると、ついフラフラ連絡してしまいかねないからね。あの女の相手させられて、一回でボロボロになって、この店にも恐くて近寄れなくなった子が何人もいるの。貴女は若いから、本当の女の変態がどういうものかわかってないの、さ、捨てなさい」 私はカウンターの下から、別の客に貰った名刺を出し、クシャクシャにして灰皿の上に置き、火をつけた。 メラメラと燃える火に、明日必ず新山に連絡しようと思った。 二時間十五万よ。 耐えられます、どんなことにも。(続くよ)
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