| 2017/01/26(Thu) 16:24:30 編集(投稿者) 2016/12/14(Wed) 17:28:58 編集(投稿者) 2016/12/14(Wed) 12:24:47 編集(投稿者)
「えっと、衣類はこれで良しと。後は…。」
部屋の真ん中に座って纏めた荷物を指差しつ呟く。 壁にかけたハンガーに吊るされた真新しい高校の制服。 私の名前は笹山 唯、4月から高校生そして寄宿舎での生活が始まる。
ママと二人で生活してきたこの家に染み付いた匂いとも後三日。 独り立ちといえばかっこいいのだけれど、ママと別々に生活するのはやはり寂しい。 荷物の整理の手を止め、ぼんやりと眺める窓の外。この景色ともさようなら。 二階から見える公園の桜はちらほらとほころび始めていた。
トントンと階段を登って来る足音に部屋の中に意識を引き戻される。
「唯、準備は出来たの。」 「まだ、でもあと少し。」 「もう高校生だものね、この間までヨチヨチ歩いていたのに。」 「一体いつの話をしてるの、ママ。」
二人の笑い声が響くのも後三日。 改まったように、真顔になり座りなおしたママの様子に手を止める。
「あのね唯、一つだけ話しておきたいことがあるの。」 「なに、いまさら改まって。」 「あっちの家からの勧めなんだけどね、ママ結婚しようと思うの。」
あっちの家―――
ママを囲っていた男の家、三年前に亡くなったその男が私の父親。 華族の流れを引く旧家でこの地方の有力者。 私たちの生活費は全てあの家から出ているし、私の進学先もあの家から指定されたお嬢様学校。 私が拒否したところでどうせママの結婚は押し切られることになる。 だからママを安心させようとありったけの笑顔で答えた。
「私は大丈夫だから、ママの好きにすれば良いよ。」
高校の三年間そして大学に進学すればさらに四年間は寄宿舎暮らしになるのだし、 ママが良いのならそれで構わない。
「ねえねえ、どんな人。」 「内緒。でも優しくてかっこいい人だから大丈夫よ。」
結局それ以上詳しいことは聞かずに三日後に私は高校の寄宿舎へ入った。
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