| そろそろいいかな〜と思って、僕は病室に戻ることにした。 廊下を歩いていると、向こうから歩いてくる江利子さんが見えた。
「あっ、もういいんですか?」 僕が声をかける。 「ええっ、お待たせしました。終わりましたので。」 相変わらず、穏やかな口調で話しかけてくる。 「そうですか、じゃあ僕は悠稀の所に戻りますね。」 そう言って、歩き出そうとしたところを呼び止められた。
「天さん・・・」 何かと思って振り向く。 今までの江利子さんからは想像できないような、 怒ったような真剣な視線をむけられた。
「会長がおっしゃっているので、今回の件は私からは何も言いませんが・・・ 今後、会長を傷つけるようなことは、決して、しないでください。」 僕の顔から目をそらさずに、彼女は、一言づつ、しっかりと言葉にしていく。
ああっ、きっと、この人も・・・悠稀のことが大切なんだ・・・ 何も言い返せないよ。
「・・・はい、すみません。」 僕は深々と頭をさげる。 それ以外に思う言葉はなかった。
するとその頭をぽんぽんと叩かれた。 「あなたは・・・素直な方ですね。会長もそこに惹かれたんでしょう。」 僕が頭を上げると、そこにはいつもどおり笑っている江利子さんがいた。 「早く会長のところへ行ってあげてください。」 「はっ、はい。」 急に穏やかな雰囲気になったのに、一瞬ついていけなかったけど、 僕は慌てて悠稀の病室に向かった。
病室に入ると、悠稀はベットの上で 江利子さんが持ってきたらしい書類を読んでいた。
「おかえりなさい、ごめんなさいね、お待たせしてしまって。」 「いや、全然。さっきそこで江利子さんと会ったから。 それにしても、書類がたくさんあって、大変だね・・・」 僕は悠稀が見ている書類を覗き込んだ。 各部の活動内容から、昨年度の予算、会計報告、今年度の予算案など、 細かく書かれていた。 うわ〜・・・こんなの全部見るんだ・・・すごいな・・・
「天も手伝ってもらえるかしら?」 「うっ、うん・・・なにをしたら良い?」 「とりあえずあなたが見てきてくれた部活だけでいいから、 報告書に目を通してほしいの。」 「うん、わかった。」 そういって、悠稀から報告書の一部をもらう。
うわ〜・・・一部だけでもこんなにあるんだ・・・。 しばらく報告書とにらめっこしていたけれど、 悠稀のため息で彼女の方へ目をやる。 ちょっと疲れた顔してる・・・のかな?
「大丈夫?少し休んだら?昨日の今日なんだから。」 「ありがとう、そうね、無理してもしかたないわね。」 「うん、僕のことは気にしないで、これ読んだら勝手に帰るから。」 「そう、じゃあ、少し横になるわ。」 そういって悠稀はベットに横になると目をとじた。
僕はそのまま江利子さんが持ってきた報告書を眺める。 各部の活動内容が細かく記載されていて、 これを悠稀は全部把握してるのか〜・・・すごいな・・・ それからしばらく、報告書を読むのに集中していた。
一通り読み終えて、ふと顔を上げると、寝ている悠稀の横顔が目に入る。
まつげも長くて・・・やっぱり・・・すごく綺麗な人だ・・・ 彼女はゆっくりと寝息を立てて、寝ているみたいだ。
僕はそっと彼女に近づくと、ベットに手をついて・・・見とれてしまった。
こんな綺麗な人に怪我させたんだよね・・・僕・・・
綺麗で、仕事もできて、いつも周りから注目されてる有名人・・・
この人のそばにいるのには、今の僕じゃやっぱり釣り合いがとれないよね・・・
僕にできることはなにがあるかな・・・
悠稀の側にいてもおかしくない人間になりたいよ・・・
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