ビアンエッセイ♪

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■11614 / inTopicNo.1)  fall
  
□投稿者/ エビ 大御所(306回)-(2005/08/02(Tue) 12:44:15)
    25歳になる私が生きているのは―






    ただありふれて




    ただ優しく




    ただ厳しい。






    この世界。






    毎日を笑ったり




    怒ったり




    泣いたり





    愛したり…。





    私はそんな今の世界を生きているはずなのに





    ある瞬間―





    過去の世界へと呼び戻されてしまう。






    それはあの響き―






    あの名前を聴く時だ。







    ありがちな言葉だけれど、




    私の心の中にも確かに存在する。









    『忘れられない人』―。







    あの響き




    愛しい名前






    私が呼び続けたその人の名前は。













    アキ、だった。







    fall―





    (携帯)
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■11615 / inTopicNo.2)  独りごちゃ
□投稿者/ エビ 大御所(307回)-(2005/08/02(Tue) 12:46:23)
    今回は…



    100%純正実話(笑)


    (関西弁じゃないのは嘘ですが)




    描いていて


    軽く身売りしているような気分です(笑)


    ご意見ご感想、よろしくお願いします☆



    エビでした。





    (携帯)
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■11616 / inTopicNo.3)  fall1
□投稿者/ エビ 大御所(308回)-(2005/08/02(Tue) 12:50:52)
    ピッーピッー



    「合計で1470円です」



    本屋のレジは割といい仕事だと思う。



    「カバーおかけしますか?」



    他の接客業ほど愛想ふりまかなくてもいいし。



    「2000円お預かりします」



    新刊本のチェックだってできる。




    「530円のお返しです」




    それに…



    本を買うというのはすごくパーソナルな行為だから。




    イヤでも透けて見えるしね、


    お客さんの内側が。




    「商品こちらです。ありがとうございました」



    “…モー娘の写真集は卒業しろよ?


    サラリーマン青年。”




    そんなことをこっそり思いながら見送る


    お客様の背中。






    そしてまた


    「いらっしゃいませ」


    次にやって来るお客さんの内側を


    ピッ―ピッ―


    本をバーコードに通しながら…



    のぞいてみたり。








    私が大学の4年間続けた―


    本屋でのバイト。





    結構?


    いや…



    すごく好きだったな



    あの仕事は。





    単調なレジ作業もあるけれど。



    “棚”と呼ばれる売り場での仕事が



    私は大好きだった。






    びっしりと



    寡黙に―




    高い棚に並ぶ本の背表紙。




    それを見上げながら。



    売れ行きをチェックしたり



    次の発注を考えたり


    新しいレイアウトを構想したり。




    ………




    好きだったな。




    本と向き合う静かな時間も、



    肉体労働に近い、重い本を運ぶ作業も



    本を開いた時の紙の匂いも…。







    大好きだったな





    あの店が。











    大好きだったよ。







    あの店で出逢った






    忘れえぬ人。









    アキ。









    あれは私がまだ20歳だった頃―





    もう





    5年も経つんだね?





    アキ。






    ………。





    (携帯)
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■11617 / inTopicNo.4)  fall2
□投稿者/ エビ 大御所(309回)-(2005/08/02(Tue) 12:55:31)
    「なっちゃん」



    アキはいつも私をそう呼んだ。




    私は


    「アキちゃん」



    バイトの先輩だった彼女を、


    最初はそう呼んでたんだっけ。





    私が働いていた本屋は割と大きな規模の書店で―



    “ジャンル”と呼ばれる本のカテゴリーごとに


    担当が分かれる。





    私が担当していたのは。



    語学の書籍や


    外国の出版物、洋書を扱うジャンルで。




    アキは



    私と同じ担当で働いていた先輩でもあった。




    私とアキが初めて逢ったのは


    私が18歳の春。




    “私が始めたバイト先にいた


    2つ年上の先輩”





    それがアキ。





    私とアキが。



    ただの先輩と後輩じゃなくなるのは


    それから2年後。






    あー…



    以前に描いた今の彼女との件があるから

    ややこしいかもしれない。





    ハッキリ言ってしまえば―



    今の彼女も



    その前に付き合った彼女も。




    そして




    アキも。






    私はあの店で出逢ったんだ。





    私とアキが恋人として同じ時間を過ごしたのは



    春から秋のわずか半年足らず。







    幼すぎた私と





    遠すぎたアキ。







    淡い…?



    違う。





    痛すぎて儚いアキとの記憶を描くのは―




    あまりに恥ずかしい。






    事実を描くならば




    あの頃の自分と向き合わなきゃいけないからだ。







    何も特別なことがあった訳じゃなく




    ドラマチックな展開なんて何もない。







    ただ愛し



    ただ愛され



    ………





    ただフラれた。







    どこにでもありふれていそうな



    20歳の記憶。






    なのに……







    不思議だね、アキ?






    ありふれているんだけど



    呼ぶと柔らかく響く、あなたのその名前。






    5年経った今でも―





    あなたの名前は










    愛しくて仕方ないよ。







    あの頃―




    私達はどんな風にして距離を縮めていったんだっけ?





    ちょっとだけ思い出してみようか。








    描く前に先に謝っとくよ、




    アキ。









    幼すぎた私で








    ごめんね。





    (携帯)
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■11618 / inTopicNo.5)  エビさん(^O^)
□投稿者/ みー 一般♪(9回)-(2005/08/02(Tue) 13:27:28)
    こんにちは(^O^)
    お久しぶりです・・・の感じがしないのは私だけでしょうか?
    なぜならエビさんの言葉が、存在が、私の中で大きくなってしまったからです(*^_^*)

    続き楽しみにしてますね(いろんな意味で…)
    では、また(^O^)

    (携帯)
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■11639 / inTopicNo.6)  こんばんは★
□投稿者/ 亜紀 一般♪(2回)-(2005/08/02(Tue) 20:14:12)
    いつも更新を楽しみに待っている亜紀です

    いやぁ〜エビさんの作品ずっと読ませていただいてるのですが…

    名前が…かぶる…自分と…

    すごくうれしいんですけどね(-^□^-)実話

    21年つきあってきた名前なんでやっぱり敏感になりますよね(笑)

    でしゃばって出て来てしまいました┌(_Д_┌ )┐

    更新楽しみにしています。

    色気より食い気の亜紀でした

    失礼しました<(__)>

    (携帯)
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■11640 / inTopicNo.7)  みーさん
□投稿者/ エビ 大御所(310回)-(2005/08/02(Tue) 20:23:08)
    こんばんは、みーさん。エビです。


    んー…確かにお久しぶりという感じは私もありません(^-^)


    アキサキを書き終えてからも、ちょくちょく顔を出させて頂いたからでしょうか…。


    今回は―


    サクっと終わらせます(できるのか?)

    終わらせますとも(自己暗示)


    ナハハ(笑)



    あら。

    色んな意味で…?


    あれですか?
    あれですね?(笑)


    はい、頑張ります。

    エビも、私も(^-^)


    ありがとうございました、みーさん。


    またお越しください☆



    (携帯)
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■11641 / inTopicNo.8)  亜紀さん
□投稿者/ エビ 大御所(311回)-(2005/08/02(Tue) 20:35:50)
    こんばんは、亜紀さん。初めまして、エビです(^-^)


    いやあ、“アキ”さん!

    いつかご感想頂けないかと楽しみにしておりました(笑)


    今までの

    アキ亜希アキアキ(並べてみました)


    そして今回のアキ。


    今回は特に熱く呼ばせて頂くことになると思うので…


    覚悟してくださいね(笑)


    食い気万歳のエビからのラブコールです☆


    あ、でもですね…

    これは5年も前の話です。



    今はもっと呼びたくなる素敵な名前を


    見つけましたよ(^-^)


    ありがとうございました、亜紀さん。

    またどうぞ☆




    (携帯)
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■11647 / inTopicNo.9)  ♪エビさん♪
□投稿者/ ひとみ 一般♪(26回)-(2005/08/02(Tue) 23:09:32)
    新しい小説!!見つけました!(^^)!



    今回もすごく好きになりそうな予感です☆楽しみ(≧▽≦)




    私も呼ぶだけで愛しく、また懐かしく感じる名前を思い出してしまいました(#^.^#)



    エビさんの小説を読みながらいつも一人で共感してる私です( ̄▽ ̄;)



    またがんばってくださいね♪応援してます(^O^)/

    (携帯)
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■11680 / inTopicNo.10)  ひとみさん
□投稿者/ エビ 大御所(312回)-(2005/08/03(Wed) 19:11:36)
    こんばんは、ひとみさん。エビです(^-^)

    以前からのお付き合いですねー。ありがとうございます☆


    懐かしい名前…

    そうですね。私がこだわった「アキ」は、そう呼べるものかもしれません。


    誰にでもありますよね、そうゆう響きって。

    ひとみさんにとってはどんなご記憶なんでしょう?(^-^)


    この小説は独白的な感じでズンズン進みます→


    記憶があやふやなのと、

    かなり自分を美化して描いてるのは勘弁(笑)


    それではひとみさん、
    見っけていただいてありがとうございました(笑)

    今夜更新します。




    (携帯)
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■11683 / inTopicNo.11)  fall3
□投稿者/ エビ 大御所(313回)-(2005/08/03(Wed) 20:01:24)
    2001年春―



    「新刊の補充は?」


    「完了しました」


    「版元さんに注文FAX流してくれた?」


    「三日前に」


    「助かるよー、なっちゃん」


    「とんでもないです」


    「ふふふ…」


    「にゃはは」



    アキは私より2つ年上。



    私と同じアルバイト社員で


    短大を卒業してからフリーターとしてその店で働いていた。



    「じゃあ…検品行ってくる。あとよろしくね、なっちゃん」

    「ハイ♪」




    私達は二人共アルバイトだったけれど。


    上司である社員さんが休みがちな方で


    こうして二人で売り場を回していたんだっけ。




    結構…



    忙しかったなあ。




    大学はほとんど行かずにバイトしてた。



    ただそれは苦ではなく


    私が選んでやっていたこと。




    あそこでの経験は


    “仕事”というものにプライドを持つきっかけにもなった。




    時給860円で


    月に12〜3万は稼いでいたあの頃。




    「仕事が好き」だけじゃ


    あのハードワークは成立しなかった。




    生々しい理由はただひとつ―







    アキがいたから。







    アキと一緒に働く時間は


    私にとっては労働じゃなかった。





    交わす言葉



    近づく距離



    知り合える感覚。





    アキと私にある隙間を埋めたくて


    私はがむしゃらに働いていたように思う。






    私がアキを想い始めたのはいつだったんだろう?




    記憶は曖昧だけれど


    きっかけは確かにあった。





    それまでただの先輩だったアキを



    目で追うようになったあの春―








    私には別に彼女がいた。







    大学の同級生だった、ヨウコ。




    ヨウコとは真剣に付き合っていて


    微塵の狂いもなく愛し合っていた。





    ただ。



    その微塵の狂いのなさが互いを苦しめ、

    愛をはき違えていた



    「恋愛末期」





    “別れ”という言葉しか


    私とヨウコには残されていなかったはずなのに。




    互いにそれを切り出せない弱さ


    失うことへの恐れ。




    会えばケンカ



    電話でもケンカ。




    ベッドでは涙で涙を洗うような末期症状。







    ヨウコとそんな関係を続ける中









    私はアキに惹かれ始めたんだった。





    (携帯)
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■11684 / inTopicNo.12)  fall4
□投稿者/ エビ 大御所(314回)-(2005/08/03(Wed) 20:05:30)
    「なっちゃん彼氏とはうまくいってるの?」



    アキにはよくこんな質問をされた。




    「はは…まあ」




    “彼氏いるの?”



    この質問には今も昔も変わらずイエスと答える。



    理由は…



    「いない」って言う方が面倒くさいから。



    誕生日やクリスマス、バレンタインデーに花火大会―



    恋人達が集う日に休みを取る為には



    イエスと答えていた方が都合がいい。




    例え真実が


    彼氏ではなく彼女でもね。





    「そっかあ。うまくいってるんだ?」



    人の顔を見る時にこてっと首を傾げるアキの癖



    私はそれがとても好きだった。





    「アキちゃんは?」


    「えっ…私?」



    「そう、好きな人とか彼氏とか。いないんですか?」



    「いやあ…へへ…」



    ………



    女の子って



    あ、私もそうだけどさ。




    素直だなと思う。




    好きな人がいる時に


    『好きな人は?』



    そう訊かれると



    皆決まって嬉しそうな恥ずかしそうな顔をする。




    ………。




    その時のアキの顔もまさにそれ




    “恋をしています”オーラがいっぱい。




    相手はもちろん私じゃないこと



    アキのその気持ちは片思いのそれであること。




    それは知っていた。






    アキを好きになった理由?




    わからない。



    本当にわからない。



    顔も話し方も勿論私の好きなタイプだったけれど―


    ただそれだけの人ならたくさんいる。




    なのに何故アキに特別惹かれたのか。




    ………。




    理由は絶対にわからない。




    それが恋なんだと



    私は思う。





    「頑張ってくださいね」


    恋をしているアキに励ましの言葉。




    「えへへ…うん」



    顔を赤らめるアキ。




    アキのことは諦めようと思っていたか?―



    否。




    相手に好きな人がいようが


    自分に恋人がいようが。





    関係ない。






    それが20歳の私の持論だった。






    『堕とす』





    野望にも似た


    若き日の私の願い。




    弁解をするならば




    ただ欲が深かっただけの私でもなかった。





    アキに惹かれ始めて数ヶ月―





    もう






    自分の気持ちを止めようがなかったんだ。






    (携帯)
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■11685 / inTopicNo.13)  fall5
□投稿者/ エビ 大御所(315回)-(2005/08/03(Wed) 20:10:14)
    「もう少しですね」



    「そうだね…」



    「アキちゃんいなくなったら…仕事終わらないですよ」



    「大丈夫だよ、なっちゃんなら」



    「まあね」



    「でしょ?」



    「ははは」



    「ふふふ…」




    私がアキを想い


    働きづめていたあの春。




    アキと私達二人にとって



    ある転機が訪れた。



    フリーターだったアキが


    社員として働く就職先を見つけたのだ。



    つまり



    アキはあの店を辞めるということ。




    ………。




    「寂しくなります。アキちゃんがいなくなると」



    「私もなっちゃんに会えないのは寂しいよ?」




    先輩と後輩として当たり前の会話を交わしながら―。




    『寂しい』



    寂しい…?



    アキがいなくなるのが、



    寂しい?






    嘘だった。





    私の中で働いた計算―


    アキがこの店を辞めることは




    チャンスだ。





    私がアキを




    堕とすための。






    チャンスになる。





    それが答え。






    同じ空間で働く人と付き合う、又は告白する。





    それって結構リスクが高い。




    付き合っても秘密を守ることに気を張らないといけないし



    断られた後で一緒に働くって…




    さすがに居たたまれない。






    アキが店を辞めたら―



    私が動こう。




    そう決めていた。






    バイト先の先輩後輩という関係を終えたら


    次は恋人になればいい。





    真正面からぶつかってみよう…




    私の中に残されていた微かな純粋。





    自信はなかった。




    アキが私の方を向いてくれるという自信


    ほぼナシ。






    ああ…





    でもだからこそ



    ヨウコとは別れようとはしなかったんだ、私は。





    自分の気持ちがアキに向かっているのを自覚しながら



    ヨウコとは恋人を続けた。






    皮肉なもので―





    私が好きなのはアキだと思うと





    ヨウコには優しくなれた。





    好きじゃないから




    ヨウコとはケンカしなくなった。







    ヨウコはヨウコ。




    アキはアキ。






    そんな風に誤魔化しながら。






    私はただ






    独りになるのが寂しかっただけ。






    (携帯)
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■11686 / inTopicNo.14)  fall6
□投稿者/ エビ 大御所(316回)-(2005/08/03(Wed) 20:16:15)
    「アキちゃんお疲れさま〜」



    「新しい就職先でも頑張ってね」



    「ハイ、これアキちゃんにプレゼント」



    アキが店を去る日―



    誰からも好かれるアキの周りには


    色んな人が集まった。




    餞の言葉


    小さな花束


    旅立つ仲間へ贈られるプレゼント。




    アキはみんなの輪の中で



    手にいっぱいの贈り物を抱え嬉しそうに微笑んでいた。




    朝番だったアキは夕方6時に仕事が終わる。


    一方遅番の私の終業は夜の9時。




    みんなはアキが仕事を終えた6時に



    アキの周りに集まって、名残り惜しそうに話をしていたんだっけ。





    私?




    私はまだ行かない。



    今行ったらさ



    『みんなと同じ』


    でしょ?





    私それ嫌いなんだ。





    アキが帰る間際―



    二人だけになった時に渡そうと思っていた。





    特別な



    贈り物を。






    告白するとかいうんじゃないよ?




    仕事着のまま告白するなんて


    カッコよくないことはしない。




    アキが辞めるその日には―



    バイト代で貯めたお金で買った



    あるプレゼントを贈ろうって決めていたんだ。









    「アキちゃん」



    店のバックヤードで―



    「あ、なっちゃん!」



    皆との話を終え


    ひとりになっていたアキに声をかけた。



    アキはもう帰ろうとしていた頃だったかな


    夜の8時を回っていたと思う。





    「…来てくれないのかと思ったよ」



    アキが私の頭をコツンと叩く。



    「そんなわけないですよ」




    アキが最も一緒に働いたのは私で



    私が一番お世話になったのもアキだ。




    そんな先輩の旅立ちの日に


    私の登場が少し遅いんじゃないか?



    アキの優しいコツンは


    そんな意を含んでいた。



    ………。





    特別で



    いたいんだ。




    だから遅く来たの。





    「はい、これ」



    背中に隠しておいた贈り物を


    アキに手渡す。




    「え…これ…」



    アキは私からの贈り物の袋を見て



    確実に確実に驚いていた。








    それは




    誰が見てもすぐにわかる印象的な薄いグリーンの袋。





    Tから始まるあのブランドの





    その袋だったから。





    (携帯)
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■11687 / inTopicNo.15)  fall7
□投稿者/ エビ 大御所(317回)-(2005/08/03(Wed) 20:20:40)
    「こんないいもの…受け取れないよ」



    アキが首を横にふる。




    「いいんです」



    受け取って。




    「でも…」




    「絶対似合うから。アキちゃんに」



    その言葉からは


    意識的に敬語を抜いた。





    「いいの…?」



    「いいんです」



    私がくだけて笑うと



    「…ありがとう」




    アキも笑って袋を受け取ってくれたね。





    中身?




    小さなネックレス。




    “tear drop”




    確かそんな名前の


    シルバーのネックレスだった。





    たかだか一万円強のものなんだけれど。



    あの店に入るのは



    20歳の私には恥ずかしかったなあ…。






    どうしてもね




    渡したかったんだ、




    残る何かを。







    アキのそばで錆びずに光を放つ





    私という痕跡を。






    残したかったんだ。





    でも確かに…



    同性の年下の子から貰ったらびっくりするよね




    アクセサリーなんて。








    その後私とアキが恋人になってから。




    アキは私と逢う時



    必ずそれをつけていた。





    ひと夏を共に過ごした私達―






    あまり肌の強くないアキの首には



    シルバーで軽くただれたような赤みがいつもあった。






    「つけなくていいよ」



    私が言っても。




    「いいの。嬉しいからつけてるの」




    アキはネックレスを外そうとはしなかった。







    アキの赤くただれた首筋に



    何度も舌を這わせたあの夏。







    「痛…っ。ヒリヒリするよ…」



    アキが嫌がっても



    「黙って」



    私はやめなかった。






    幼い愛撫と




    幼いプレゼント。






    そう





    私はまだ知らなかったんだ。






    安物の愛と



    安物のシルバーの輝きは







    永遠なんかじゃないってことを。








    私が贈ったシルバーのネックレスから光が失われ





    錆びついてしまった秋―








    私達も終わりを迎えたね。








    今なら…?





    そうだな。




    あの値段の10倍は出して


    いいシルバーを贈るよ。






    錆止め剤も忘れずに入れるね







    アキ。





    (携帯)
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■11730 / inTopicNo.16)  fall8
□投稿者/ エビ 大御所(318回)-(2005/08/05(Fri) 08:18:31)
    アキが店を去る夜―


    私はプレゼントを渡して仕事に戻った。




    対面に向かい合い



    「お疲れ様でした、アキちゃん」



    「ありがとう、なっちゃん」



    「……」



    「………」




    好きだと伝えたい気持ちは


    喉元まで出かかっていたけれど。




    「じゃ…」



    「うん、またね。なっちゃん」




    私は準備を整えずには行動できないタイプ。



    アキの電話番号もアドレスも


    携帯の中にはある。




    これからもいつだって連絡を取ることは可能だから…。





    今夜は―



    私が贈った意外なプレゼントを開けて驚いてくれたらそれでいい。




    恋愛の始まりにサプライズは欠かせない、




    私からの“tear drop”は



    少なからずアキに特別な存在としての私を印象づけるだろう。





    打算だらけの頭を首に乗せ




    「またね」



    「はい」




    私はアキを見送ったんだった。










    その日の閉店後―




    私は客のいなくなった売り場で



    静かに本棚と向き合っていた。





    軽く商品を整理しながら




    自分より遙かに背の高い棚を見上げる。






    「………」





    あの時間





    好きだったなあ、私。






    時刻は閉店の9時を30分程過ぎ―



    私もそろそろ帰ろうかと思った時。








    予想外で




    好都合で




    私とアキの距離を縮めることになった


    ある出来事が起きた。






    「なっちゃん」




    静かな店内で。




    「なっちゃん、やっぱりここにいたんだ」



    私の背中から聞こえてきた




    「お疲れ様、なっちゃん」




    アキの声。






    「え…?」




    私が振り返ると




    私服姿のアキがそこにいた。





    「何で?もう帰ったんじゃ…?」




    かなり驚いた。





    「もうちょっとなっちゃんと話したくて…」




    アキが屈託なく笑う。




    ………。




    驚いた。




    私を待っていてくれた?




    アキが?





    驚きは喜びに変わり



    喜びは愛しさに変わり




    愛しさは笑顔に変わった。




    「はは」




    「ふふふ…」






    温かい空気が





    私達を包んだね。






    アキ。





    (携帯)
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■11731 / inTopicNo.17)  fall9
□投稿者/ エビ 大御所(319回)-(2005/08/05(Fri) 08:22:49)
    「私ね、この時間が好きなんです」




    棚に向かい合い




    二人で横に並ぶ閉店後の店内。





    「そうなんだ…」




    アキはニコニコと笑い



    私の顔をのぞいていたと思う。





    でも私は。




    見れなかったなあ、


    アキの顔。







    恥ずかしくて。







    「見たよー、プレゼント」




    …ほら来た。





    「ティファニーなんて彼氏にももらったことないなあ。ふふ…」




    くすくす笑うアキの声。





    どうしようもなく



    恥ずかしい私…。






    くそう




    家で開けて欲しかったな。





    …恥ずかしいじゃん。






    「いいの?もらっても?」




    アキがこてっと首を傾げ


    穏やかに笑う。





    「はい、貰ってやってください」




    私は口を尖らせて伝えた。





    「ありがとう」



    「いいえ」




    「いつも優しいよね、なっちゃんて」



    「そうですか?」



    …あなたにだけはね。



    「そうだよー」



    「…かな?」



    「ふふふ…」



    「にゃはは」






    高い棚で仕切られた静かな店内。







    短く言葉を交わしたり




    照れて俯いたり




    目を合わせて笑ったり。








    私はまだ20歳だったけれど




    これくらいのことはわかった。






    二人で本に囲まれ過ごしたあの時間は―






    とても優しく




    とてもエロティックで





    特別だったこと。








    その後私達が付き合うようになってから



    アキに訊いてみたことがある。







    「あの時から私のこと、意識し始めた?」




    「………」






    アキは何も答えなかったけれど。






    私が吸っていた煙草を取り上げ



    シーツの中へと私の手を引いたね。






    アキにしては強引なキスと




    行為。







    あなたの少し照れた顔が





    私はとても嬉しかったよ。









    アキ。





    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11732 / inTopicNo.18)  fall10
□投稿者/ エビ 大御所(320回)-(2005/08/05(Fri) 08:25:58)
    私とアキが決定的にその関係を変えたのは―



    その閉店後の夜から2〜3週間経った後。




    桜の花も散り始めた


    4月のことだった。





    ある夜―



    アキと交わしていたメールの中で。




    “このあいだ花見した時


    石田君と山本さんが歩いてるの見たよ。

    付き合ってるんだね、あの二人”




    石田君と山本さんとは、店の社員の二人で。




    私が何気なく送ったそのメールに



    アキからの返信は遅かった。





    しばらくして―



    “そっか。やっぱり付き合ってるんだ。あの二人…”



    明らかに浮かないアキからの言葉。




    ………。





    アキが想いを寄せていたのはその石田君だったと




    言葉少なにアキから教えられた。





    思わぬ形で私からアキに


    失恋の決定打を与えたことになった夜。





    “ごめん”



    私が何となく謝ると。



    “いいよ、諦めるいいきっかけになった”



    アキは答えた。




    ………。





    携帯の画面に向かいながら私は



    次にかけるべき言葉を探す。




    ………。




    迷った末



    “今度二人でごはん食べに行きませんか?”


    そう送った。




    アキからの返信は早く。



    “いいよー”



    文末にかわいい絵文字がついていたような気がする。






    その夜の最後のメールで―



    “私がいますよ。アキちゃんには”



    冗談にも逃げられる


    甘い言葉を送った。





    “そうだねー”



    アキもまた


    核心を外して答えてくれたね。










    難しいよね




    好きって伝えるって。




    同性なら特に。






    “好き”の次には



    “付き合う”があるわけで。







    突然同性からその選択を求められても



    困ってしまう女の子が多くて当然だと思う。






    だから私は―



    顔が見えない状態での告白は避けた。






    時として。





    言葉より重要なのは



    空気だ。





    空気を共有するためには



    同じ場にいなければいけない。






    約束をした



    “次のご飯”





    私はその時に賭けてたんだ。








    知らなかったでしょ、アキ?






    私結構





    頑張ってたんだよ。




    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11733 / inTopicNo.19)  fall11
□投稿者/ エビ 大御所(321回)-(2005/08/05(Fri) 08:29:10)
    「お待たせ」



    「いいえ」




    約束のご飯の日。





    アキが社員として就職したのは


    とある小さな洋書屋さんだったから…。





    ああ、



    私が最初に描いた小説に出てきたのは


    アキが働くお店です。





    学生だった私と



    その店で働くアキの休みは、共に平日だったので。





    空いている平日を狙って



    ちょっといい感じのお店に行ったんだ。




    20歳の私にしては少し背伸びした




    フレンチのカフェ。





    あの店での時間の記憶は…




    楽しかったことしか覚えていない。





    アキと個人的に食事に行くのは



    その時が初めてだった。






    私の隣には私服姿のアキ。




    私も新しい靴とシャツを買って、



    おしゃれして行ったんだっけなあ。






    テーブルに置かれた小さなろうそくの光に照らされて―






    私達は笑ったね。







    想いが募って




    緊張して?





    うまくしゃべれないなんてことは


    私にはなく。




    いつもより饒舌で



    いつもよりよく笑う私がいた。





    そんな私を見て





    「なっちゃんと話してると、楽しいよ」




    そう言ってくれたよね。





    ………。





    何かさ。






    すごい嬉しかったよ




    あの言葉。










    食事を終えたら―




    私にはしなくちゃいけないことがあった。






    “今日決める”





    そして幸いなことに



    フレンチカフェでの私達の“空気感”は。





    もう確実にただの友達ではない―



    そんな自信が私の中に生まれていた。










    大阪の梅田という街には―




    赤い観覧車があって。





    繁華街の中で不思議な調和を保っている。




    恋人達がこぞって乗り



    愛を囁き合う密室。





    それがその観覧車。




    ………。






    私も使わせてもらったよ。






    アキと私が初めてキスを交わしたのは





    雨の夜。






    観覧車の窓から見える景色は




    鈍く煙っていて。





    ………






    私には。






    アキしか






    世界中にアキだけしか








    見えなかったよ。






    (携帯)
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■11734 / inTopicNo.20)  fall12
□投稿者/ エビ 大御所(322回)-(2005/08/05(Fri) 08:32:32)
    「お腹いっぱい」


    「そうだね」


    「どうしよっか、これから」



    「ん、どうしよう」



    「………」



    「………」





    食事を終えた私達は―



    ふらふらと



    街を歩く。




    さっさと地下鉄に乗って帰ろうとはしない



    “何だか離れがたい感”




    アキもそれを感じていた。






    ならば





    それならば。





    ………。






    Are you ready?




    アキ。










    「あれ乗ろうよ」



    私は赤い観覧車を指さした。




    夜の観覧車―



    ただの友達と乗る奴はあんまりいない。



    ………。



    アキの返事は早かった。



    「うんっ。いいよ!」




    ………。




    あんまり明るくは答えて欲しくなかったけどね。




    “うんっ”



    なんて。






    やましい気持ちでいっぱいの自分が



    恥ずかしいわ。







    @500円の観覧車のチケット


    二人分。





    「ここは私が出すよ」



    ささやかにカッコつけながら。




    ………




    ここからは恋愛モードに変わりますよ?




    少しずつ




    少しずつ。





    確認を取っていく感じ。









    「…あんまり何も見えないね」



    「そうだね…」



    「雨だしね」



    「雨だもんね…」




    二人で向かい合って座りながら。



    回る



    回る





    赤い密室、観覧車。




    ………。






    吐くかと思ったよ



    緊張して。





    ベタに



    一番高いところで…



    なんて思ってたんだけど。





    無理だったなあ。









    観覧車の周回が



    ほぼ円を描き終えようとした時―





    一念発起。




    バクバク




    バクバク…









    「こっち来て」




    アキを隣に呼ぶ。




    「………」




    立ち上がり、私の隣に座ったアキ。




    「………」




    アキの手を握った。




    「………」




    アキも私の手を強く握り返した。




    「………」




    「………」











    「キス、しよっか」







    アキの唇は



    日焼け止めの匂いがした。





    熱く熱く




    私の内側が吠えた夜。






    (携帯)
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