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Nomal あおい志乃からご挨拶 /あおい志乃 (06/11/20(Mon) 11:58) #17281
Nomal ALICE 【36】 /あおい志乃 (06/11/20(Mon) 12:23) #17282
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│      └Nomal ◆myaonさんへ /あおい志乃 (07/06/03(Sun) 02:35) #19212
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Nomal ALICE 【51】 /あおい志乃 (07/06/03(Sun) 02:27) #19211
Nomal NO TITLE /昴 (07/06/14(Thu) 01:46) #19274
│└Nomal ◆昴さんへ /あおい志乃 (07/06/15(Fri) 11:02) #19282
Nomal ALICE 【52】 /あおい志乃 (07/06/15(Fri) 11:01) #19281
Nomal (削除) / (07/06/19(Tue) 15:59) #19288
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Nomal (削除) / (07/06/20(Wed) 09:29) #19290
│└Nomal ◆さめださんへ /あおい志乃 (07/06/22(Fri) 02:35) #19301
Nomal ALICE 【53】 /あおい志乃 (07/06/22(Fri) 02:31) #19299
Nomal ALICE 【54】 /あおい志乃 (07/07/03(Tue) 03:46) #19396
Nomal あおい志乃さん♪ /昴 (07/07/10(Tue) 01:46) #19436
│└Nomal ◆昴さんへ /あおい志乃 (07/07/13(Fri) 01:23) #19468
Nomal 昴さんへ /なつき (07/07/11(Wed) 08:27) #19448
│└Nomal ◆なつきさんへ /あおい志乃 (07/07/13(Fri) 01:34) #19469
Nomal ALICE 【55】 /あおい志乃 (07/07/13(Fri) 01:17) #19467
Nomal ALICE 【56】 /あおい志乃 (07/07/18(Wed) 23:53) #19501
Nomal 感想 /麻 (07/07/19(Thu) 08:17) #19502
│└Nomal ◆麻さんへ /あおい志乃 (07/08/06(Mon) 02:44) #19622
Nomal ■あおいさん /ぎのご (07/07/27(Fri) 11:25) #19532
│└Nomal ◆ぎのごさんへ /あおい志乃 (07/08/06(Mon) 02:45) #19623
Nomal ALICE 【57】 /あおい志乃 (07/08/06(Mon) 02:39) #19619
Nomal ■あおいさん /ぎのご (07/08/06(Mon) 13:11) #19646
│└Nomal ◆ぎのごさんへ /あおい志乃 (07/08/11(Sat) 02:11) #19756
Nomal ALICE 【58】 /あおい志乃 (07/08/11(Sat) 02:09) #19755
│└Nomal i love you /kanan (07/08/11(Sat) 22:21) #19760
│  └Nomal ◆kananさんへ /あおい志乃 (07/08/13(Mon) 04:19) #19764
Nomal ALICE 【59】 /あおい志乃 (07/08/13(Mon) 04:13) #19763
│└Nomal ゎいゎい /kanan (07/08/13(Mon) 10:08) #19765
│  └Nomal ◆kananさんへ /あおい志乃 (07/08/16(Thu) 00:24) #19771
│    └Nomal NO TITLE /摩耶 (07/08/21(Tue) 22:59) #19841
│      └Nomal ◆摩耶さんへ /あおい志乃 (07/09/05(Wed) 22:09) #19960
Nomal ALICE 【60】 /あおい志乃 (07/08/16(Thu) 00:14) #19770
Nomal ALICE 【61】 /あおい志乃 (07/08/19(Sun) 02:26) #19798
Nomal 初めまして。 /六華 (07/08/30(Thu) 02:18) #19939
│└Nomal ◆六華さんへ /あおい志乃 (07/09/05(Wed) 22:13) #19961
Nomal ALICE 【62】 /あおい志乃 (07/09/07(Fri) 00:51) #19967
Nomal NO TITLE /六華 (07/09/07(Fri) 04:55) #19968
│└Nomal ◆六華さんへ /あおい志乃 (07/09/08(Sat) 02:17) #19973
Nomal ALICE 【63】 /あおい志乃 (07/09/08(Sat) 02:13) #19972
Nomal ALICE 【64】 /あおい志乃 (07/09/08(Sat) 02:25) #19974
Nomal ALICE 【65】 /あおい志乃 (07/09/08(Sat) 02:36) #19978
  └Nomal 拝見させて頂きました。 /れい (07/09/09(Sun) 04:01) #19993
    └Nomal ◆れいさんへ /あおい志乃 (07/09/11(Tue) 03:12) #20005


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■17281 / 親階層)  あおい志乃からご挨拶
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(89回)-(2006/11/20(Mon) 11:58:47)
    “ALICE”のTreeが上限を超えましたので、
    改めて新規作成致しました。
    初めてこの作品にお目に掛かった方は、
    よろしかったら過去のページに戻って、
    是非第一話から“ALICE”をご覧になって下さい。

    こんにちは。あおい志乃です。
    ご愛読ありがとうございます。

    なかなか更新がスムーズにいかず、(コレ何回言ってるんでしょうか)
    情けない限りでございます。。
    完結までに時間が掛かります事はもちろんの事、
    話もまだ半分にも達していませんので、
    にも関わらずこれからどんどん内容が複雑になっていく予定ですので、
    こんな途切れ途切れの更新では、
    だんだん理解し難くなっていくと思われます。。

    もしかしたら、
    少しずつ更新していても、とことん無視して、
    完結した時に初めて一気に読んで下さった方がイイかもしれません。

    どんな方法でも結構ですので、
    最後までおつき合い頂けましたら、
    幸いです。


    芯から冷える寒い寒い季節がやって参りましたが、
    お体に十分お気を付けて、
    健やかにお過ごし下さいませ。



      あおい 志乃
[ □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■17282 / 1階層)  ALICE 【36】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(90回)-(2006/11/20(Mon) 12:23:02)
    振り返ると、


    2メートル程先の通路に、

    二十代半ばの見知らぬ女性が二人、
    並んで立って、こちらを見ていた。

    ゴールドのフープタイプのピアスをした、色白の女と、
    ストレートの黒髪の女。

    今時のオシャレOLといった感じで、
    二人とも緊張した面持ちをしている。

    二人をよけるようにしてすれ違ったウエイトレスに、
    「あ、ごめんなさい」 と言って道を譲ったピアスの女の声が、
    先ほどの声と同じだったので、
    声の持ち主は彼女達で間違いないらしかった。


    「えっと・・加賀美、絢先生です・・よね?」

    そろそろと私達のテーブルまで近付いて来て、
    ピアスの女が自信なさげにそう言った。


    それに対して所長はニッコリと上品な笑みを浮かべ、

    「ええ、私は加賀美絢です」

    と、セクシーな声を出した。


    「きゃあ!やっぱり、ほらね!!」
    「私達、大ファンなんです!握手して貰ってもイイですか!?」

    「勿論」 所長が右手を差し出す。


    「わぁ〜感激です!話し込まれてるところ、失礼だったかなと思ったんですけど・・」

    そう言って私の方をチラッと見た黒髪の女の言葉に、
    まったくそうだと私は心の中で頷いた。


    「いいえ、貴女達のような美しい方ならいつでも歓迎です」


    所長のセリフに、
    私は飲みかけていた水を吹き出しそうになる。

    私の反応には構わず、
    所長は財布から名刺を二枚取り出して、
    胸に挿していたペンで、その裏に何やら書き込んだ。

    「何かご相談があれば、表の番号かアドレスまで、それから・・」

    と言うと、名刺を裏返し、

    「何もご相談が無ければ、こちらのアドレスにご連絡下さい」

    そう言って艶やかに笑い、それぞれに差し出す。


    女達の瞳がハート形になる。


     

    ・・・そんな事ばかりやってれば、そりゃ恨みも買うわよ。


    「失礼ですけど、こちらの方は先生の恋人さん・・ですか?」


    今度こそ、本当に吹き出す寸前だった。

    所長が心から愉快そうにハハハと笑って、
    黒髪の女に 「どうしてそうお思いに?」 と尋ねる。


    「友人がQueen's Birthの常連で、先生はいつもとても綺麗な女性とご一緒してるって言っていたものですから」

    彼女は “常連” という言葉を発する時に、
    少し誇らしげな響きでそう言った。

    あの場所に出入りしている友人を持っている事が、
    何か特別なコネクションであるかのような言い方だ。

    私は心の中で、 “くだらない” と呟いた。



    それにしても、

    恋人が同性だという噂がこんなにも簡単に広まっていて良いのだろうか。
    仕事に影響は無いのだろうか。


    けれど所長はまったく気にする様子もなく、

    「違いますよ。この女性は私の事務所で働いているの。ね?」

    と、私にまで余所行きのスマイルを向ける。


    「ええ、只の上司と部下の関係です」

    “只の”を強調して、私も彼女達に愛想笑いをする。



    「えーー!!じゃあこの方も弁護士さんなんですね!?」
    「うそーー!美人な方ばっかりなんですね!握手して貰ってイイですか!?」


    「は?私?一般人なんですけど」

    「いいんです!」
    「私もーー!!」



    何故、女という生き物は、
    こうも宝塚的なノリを好むのだろう。

    中・高でも何度か同性からラブレターなるものを貰ったり、
    明らかに異質な眼差しを向けられたりした経験があるが、
    まったくもって、理解不可能だった。

    同性相手に普通を超えた憧れを抱く行為は、
    自分に自信が無く、異性に苦手意識を持ったヘテロ女が、
    高校デビューだか大学デビューだかを経て男好きになっていくまでの、
    単なる暇潰しだとしか捉えておらず、

    「付き合って下さい!」 なんて口ばっかりで、
    「いいよ付き合おう。当然sexもするのよね」 と鎌をかければ、
    そそくさと逃げ出す程度の、そんな気持ちなのだろうと、
    考えていた。

    そういうイイ加減な自己陶酔行為の押し売りに、
    私は喜ぶどころか煩わしさと嫌悪感しか抱けなかったが、

    ダイナや所長は、まったく逆なのだろう。

    同性からの賞賛を糧とし、
    それが例え本気でなく淡い恋心であっても、構わず存分に吸収し、
    更に気持ちを煽り、
    身も心も自分に捧げさせる。

    一種のプロフェッショナルだ。


    目の前にいる、この女達も、
    いずれ所長と肉体関係を持つに至るのだろうか。


    と、

    私は自分の手を握る彼女達をぼんやり見つめながら思った。



    「じゃあ、私はこれで失礼しますね」

    所長が突然立ち上がって、会計へ向かったので、
    私も慌てて女達の手を放し、席を立つ。

    「あっ、あの、貴女の連絡先は教えて貰えないんですか?」


    ピアスの女が上目遣いで私を見る。


    ・・・冗談じゃない。

    「私はパス」 思わずそんな素っ気ないセリフが私の口をついて出た。

    「仕事のご依頼なら、事務所でお待ちしております」

    とりあえずそうフォローを入れ、
    私は既に店から姿を消している所長を追った。


    背に熱い視線を感じながら、



    “不純な動機では来てくれるなよ”


    と、私は靴音を尖らせた。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■17283 / 1階層)  ALICE 【37】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(91回)-(2006/11/20(Mon) 12:35:41)
    2007/02/10(Sat) 23:02:42 編集(投稿者)

    「なんで置いてくんですかっ」


    キーレス操作で車のロックを解除しながら私が口を尖らせると、

    所長はイタズラっぽく笑って、
    助手席に乗り込んだ。


    「ルイ子って、ああいうタイプ苦手でしょう」
    「ええ、苦手も苦・・」

    「暑っ!車の中暑いわ!」
    「・・・今エアコンつけますから」


    初夏の日光で蒸した車内の空気をひとまず外に逃がす為に、
    私は窓を全開にした。

    汗が一筋背筋を流れるのを感じた。


    「せっかく男にも女にもウケのいい容姿なんだから、もっと楽しめばいいのに」

    サンバイザーを下ろしながら所長が言う。


    「所長はそうやって楽しんだ結果、大勢から憎まれ恨まれてきたんでしょう?」

    車を発進させながら、
    私はさりげなく会話の流れを、
    女達に中断される前に交わしていた話題に引き戻す。


    「そうよ。“アンタを殺して私も死ぬ”。いったい何人にそう言われたかしら」
    「はは。女の人と一線越えると、後が怖そうですね」

    「確かにね。男とはまた違った方向で、力を発揮するから。力というか、熱というか」
    「それなのにどうして、女性で遊ぶんですか?」

    赤信号で停まり、
    私は窓を閉めてエアコンをハイにする。


    「遊ぶ・・人聞き悪いわね。確かにそうだけど。
     どうしてって、そりゃあ、恨まれるのも憎まれるのも、私には苦じゃないからよ。
     それだけ私に執着してるって、コトでしょう?」

    「まぁ、そうですね」
    「つまり、負けを認めてるってコトよ、彼女達は。“殺したい”だなんて、究極の敗北だと思わない?」

    「・・どうでしょう。私は、怖いって感じただけですけどね」
    「あら、その言い方だと、経験済み?」


    過去に一人だけ、
    別れ話の最中に物騒な物をちらつかせたヤツがいた。


    「“殺してやる”って、包丁出してきたもんですから、男の急所を思いっきり蹴って逃げました。
     勝ち負けがどうのこうのって、そんな事考えてる余裕は無かったです」


    所長が高らかに笑う。

    「そう、それじゃあ私みたいな思考は異常だと思うわよね」
    「性格悪いなぁと思いますけど、まぁ、一理あるとは感じますよ」

    「夜中に目を覚ますと、さっきまで私に抱かれて鳴いてた女が、私の首にナイフを突き立てているの」

    所長が、手入れの行き届いた長い爪で私の首を軽く突く。


    「恐ろしくないんですか?」 爪から体を遠ざけながら私はハンドルを握る。

    「今から自分は殺されるかもしれないと思うと、そりゃ相手に多少の恐怖は感じるわよ。
     けれどだんだんと、哀れに思えてくるの。
     消してしまいたい程に私を愛してしまった女が、不憫でしかたない。
     哀れな女の目をじっと見て、それから私は目を閉じる」


    所長は、今まさにその場面にいるように、
    シートにもたれながら、瞼を閉じた。


    「そうすると、女は凶器を捨てるの。それからすすり泣く。だから私は目を開けて、彼女を抱きしめて、口づける。
     その時確信するのよ。完全に、勝者はこの私だってね」



    ・・勝者、か。

    そのまま殺されてしまったら、
    勝者も何も、人生が終わってしまうのだが。
    けれど、恋愛がゲームであれば、
    所長は多数の挑戦者を相手に完全試合を成し遂げてきたのだと、
    確かにそう言えるのだろう。


    「その私がよ」 私の隣りに腰掛ける勝者が、不意に声のトーンを落とす。

    「その私が、あの娘といると、立場が逆になる」


    ―――“あの娘”


    「アリス・・」

    「そう。眠っているアリスを見て、このまま殺してしまえたらって、何度思ったか知れないわ」


    私は、数時間前に、
    裁判所の朝日が差し込む廊下で見た、
    眠る恋人を見つめる所長の表情を思い出した。



    あの時所長が、

    アリスを殺してしまいたいと思っていたというのなら、



    人は殺意を抱くその時、

    殺したいと願う、
    まさにその相手を目の前に、





    なんと美しい表情をするのだろう。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■17285 / 1階層)  ALICE 【38】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(93回)-(2006/11/20(Mon) 12:48:48)
    「アリスを、殺したりしないですよね・・」


    おそるおそる尋ねた私に、


    「当たり前でしょ。あの娘のせいで人生の破船を経験するなんて、ごめんだわ」


    と所長がキッパリ言い放つのを聞き、
    私は自分がホッとしているのを感じた。


    「それに、仮に私がアリスを殺したら、ルイ子は今日のこの話を公にするでしょう」
    「・・え?」

    「アリスの味方である貴女に、殺人の動機になるような話をすれば、絶対に私は不利になるじゃない。だから殺さないわよ」
    「あの・・なぜ私がアリスの・・味方、なんです?」

    「だって、そうでしょう?」 目を大きく開いて、所長が言う。

    どうやら、嫌味でも皮肉でもなく、本心からそう言っているようだ。


    「私は、別にアリスの敵でも味方でもないつもりですけど。
     アリスに死んで欲しいとも思いません。所長に人生を棒に振って欲しいとも思いません。
     それだけです」


    所長は私の言葉に、穏やかな表情で耳を傾けていた。

    「それじゃあもし、私がアリスを殺したら、ルイ子は私の弁護をしてくれる?」


    声の調子からでは、彼女のその発言の真意を探る事は難しかった。


    “アリスの味方である貴女に、殺人の動機になるような話をすれば、絶対に私は不利になる”


    つまりは、
    アリスを殺してしまいたいという気持ちを抑える為に、
    衝動に駆られた時のストッパーになるよう、
    今日私に、プライドの高い所長はこんな告白をしたというのか。

    そこまで、思い詰めているのだろうか。



    「アリスを、殺したりしないで下さいね」

    私には、そう答える事しかできなかった。


    所長が力無く笑う。

    「ルイ子は絶対に私を弁護しない。私には分かるのよ。
     貴女はきっとアリスの為に戦うわ。
     あの夜、私を打ちのめして、勇敢にアリスを連れ去っていったように」




    “あの夜” とは、

    Queen's Birthでのあの夜を指すのだろう。

    あの日の事を、所長がそんな風に感じていたとは―――。

    私に打ちのめされただなんて・・!


    私の方は、ただ怒りに任せて突っ走っていただけで、
    所長の手に掛かれば私の下手な救出劇など、
    すぐに制止されてしまうのだと、
    勇敢とは程遠い気持ちでいたというのに。


    実際アリスは、すぐに恋人の元へ戻って行った。


    「所長は誤解してます。私とアリスって、何にも無いんです」


    本当、虚しくなるほど。


    「友達っていうのでもないし、同僚としても親しくもない。
     アリスと一番時間を共有しているのは、他でもない所長なんですから。
     私にはアリスの気持ちも何もかも分かりません。
     希薄な関係です」


    そうなのだ。

    いくら私がダイナと寝ても、
    アリスがお金で女達の元を渡り歩いて来た事を知っても、
    アリスの体を心配しても、

    結局そんなもの、私の独りよがりで、

    アリスと私の間の距離に、影響を及ぼす事など無いのだ。


    そこに愛が無くとも、
    アリスと最も親密な関係にある人間が所長である事に変わりはなく、

    私など、
    十代の頃のアリスも知らなければ、
    同じタクシーで同じ屋根の下へ帰る事もなければ、
    寝起きにあくびをするアリスを見る事もない。


    “私とアリスは希薄な関係”


    自分で口にした言葉に、
    こんなに自分が傷付くとは、

    思っていなかった。



    「そういう事を言ってるんじゃないのよ」

    エアコンのスイング方向を調整しながら所長が言う。


    「自分では気付いていないんだろうけど、ルイ子は、アリスを惹き付ける何かを持ってる」


    そんなもの、私の何処にあるというのだ。
    思い当たる節がない。

    考え込んでいると、
    バシッと肩を叩かれた。

    「そーんな深刻になるんじゃないわよ。今日私が言った事は、忘れていいわ。
     アリスを殺したりなんか、しないわよ。何もそこまで悩んでるワケじゃないんだから」

    「・・ええ」

    「ちょっと、愚痴ってみただけ。さっ、運転に集中して」



    所長はすっかりいつもの彼女に戻っていたので、
    私もそれ以上アリスの話題は口にせず、黙って車を走らせた。

    けれど、頭の中からアリスの影が消える事はなかった。


    アリスの存在が、
    日に日に私の中で膨らんで、大きくなっている事は、
    もはや否定できない。


    私は・・・


    アリスにもっと近付きたいのだ。

    もっと、アリスを知りたいのだ。



    心の声はもう聞こえない。

    私の中に芽生えた欲求を制してはくれない。


    声はずっと、私の心の枷(かせ)だった。

    けれど同時に、

    他人への執着によって傷付く事から私を守ってくれる、
    強靱なプロテクターでもあったのだと、


    私は今更になって気が付いた。



    その厚い盾は、




    もう無い。




    ダイナに抱かれたあの夜に、
    消えて無くなった。


    私が、自分で打ち砕いたのだ。




    心の声から解き放たれた私は、

    これからどうなっていくのだろう。



    この解放は私にとって、何を意味するのだろう。




    “ 自由 ” ?



    それとも、



    “ 孤独 ” ??







    その答えはきっと、







    アリスが握っている。
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▲[ 17281 ] / ▼[ 17293 ] ▼[ 17371 ]
■17292 / 1階層)  (;△;)
□投稿者/ 凌 一般♪(6回)-(2006/11/21(Tue) 20:19:16)
    僕なんかがレスしたせいで100こえちゃって…新しくスレたてしなくちゃいけなくなっちゃって申し訳ないです…あおい志乃さんにも読んでる方々にも…。
    これからは完結までレス控えさせていただきますm(_ _)m

    更新嬉しかったです。

    返信全然しなくて構わないんで;ほんとうにすみませんでした…。

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17292 ] / ▼[ 17372 ]
■17293 / 2階層)  (゜□゜)えっ? 凌さんへ
□投稿者/ ゆらら ちょと常連(68回)-(2006/11/21(Tue) 21:30:11)
    そんなことないですよ。きっとあおいさんも
    読んだ感想をもらえて嬉しかったと思いますよ♪
    だからお返事もくれたじゃないですかぁ〜(´ー`)ね〜☆
    書き手としては、あまり何も反応が無いのも
    淋しかったりするもんかもしれませんよぉ〜?・・☆
    (おさぼりしまくりですが・ちょっと書き手でもあるので(苦笑))
    あまりお気にせずにね☆

    ・・っとあおい志乃さんでもない私が勝手に返信するのは
    おかしな筋ですが・・気になったので(´ー`)横入りしました。
    あおい志乃さん、すいません。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17293 ] / 返信無し
■17372 / 3階層)  ◆ゆららさんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(97回)-(2006/11/29(Wed) 19:57:10)
    私がなかなか来ないばっかりに、
    ゆららさんにフォローをして頂いてしまいました。
    すいません、そしてありがとうございます。。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17292 ] / 返信無し
■17371 / 2階層)  ◆凌さんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(96回)-(2006/11/29(Wed) 19:56:04)
    きゃあ!ビックリするコト言わないでください。。
    そんなワケないでしょう。
    これからも、凌さんさえ宜しければ、
    励ましのメッセージをプレゼントして下さいね(_ _*)))


[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 17506 ]
■17402 / 1階層)  今更名乗り辛いけど…
□投稿者/ 昴 大御所(296回)-(2006/12/03(Sun) 14:27:56)
    すいません。『ALICE』100レス目を頂いたのは昴です(>_<)

    タイミングを逸して『冬です』にコメントしたので…

    志乃さんにも気づいて頂いていないご様子で…決してスルーされた訳じゃないですよね…(苦笑)

    ですので凌さんは気に病まれなくても…
    そして書いている立場としては
    応援は励みや支えになっても邪魔になることなんてありませんよ

    志乃さん、寒くなりましたので
    ご自愛下さいませ!

    昴は風邪で布団の中…(T_T)
    でも明日からフツーに仕事

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17402 ] / ▼[ 17511 ]
■17506 / 2階層)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(99回)-(2006/12/21(Thu) 23:04:23)
    わぁぁぁごめんなさい!
    スルーなかんじゃ決して無いです。。

    お久しぶりです。本当に。
    一ヶ月に一日しか休日が無い日々でして(本気です)、
    全然覗きに来れませんでした。
    すいませんなーー。
    やっと落ち着いたので、
    これからはまたゆるりらと更新していきたいと思ってます。

    どうぞよろしく。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17506 ] / ▼[ 17785 ]
■17511 / 3階層)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(301回)-(2006/12/21(Thu) 23:41:44)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    どうやら同じ時間にPCに向かっているようで・・・
    ALICE【40】は最初に拝読させて頂いたのではないかと
    一人勝手に喜んでいます

    心配されなくてもスルーだなんて思っていませんから(笑)
    お互いにボチボチとマイペースで行きましょう

    それと、【ちょっと常連】から【常連】への昇格おめでとうございます
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17511 ] / 返信無し
■17785 / 4階層)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(5回)-(2007/01/24(Wed) 02:21:29)
    あ、ホントだ、常連だ。
    こんな状態の私が、その呼び名に果たして相応しいのでしょうか。
    品格が問われますね。。ははは。。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 17507 ]
■17477 / 1階層)  久々に来たら…
□投稿者/ 凌 一般♪(7回)-(2006/12/15(Fri) 10:54:16)
    僕なんかのためにみなさんコメントありがとうございます…。ほんとに申し訳ないです。

    あおい志乃さん。更新ずっと待ってます。

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17477 ] / 返信無し
■17507 / 2階層)  ◆凌さんへ
□投稿者/ あおい志乃 常連♪(100回)-(2006/12/21(Thu) 23:18:04)
    こんばんは。お元気ですか。

    本当にお久しぶりになってしまいました。
    またコメントして下さって、ありがとうございます。
    嬉しいです、とっても。

    楽しみに更新を待っていて下さる方がいると、
    励みになります。
    感謝感謝です♪
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■17505 / 1階層)  ALICE 【39】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(98回)-(2006/12/21(Thu) 23:00:28)
    誰も居るはずのない事務所の4階の窓から、

    薄明かりが漏れているのを歩道に立って見上げながら、

    私は首をかしげた。



    30分前に戸締まりをしてここを出た私が、
    最後だったハズなのに。


    あと一つ角を曲がれば自宅のマンションに辿り着くという所まで来て、
    持ち帰るハズだった書類を忘れてきた事に気付き、

    こうしてやむなくUターンして来たのだった。


    電気の消し忘れ?
    いや、それはない。
    去り際に運転席の窓から見上げた時は、確かに真っ暗だったのだ。

    4Fの誰かが忘れ物を取りに来ているのだろうか。

    昼間のランチの後、私の車で事務所に戻った所長は、
    その足ですぐ出張に出かけて行った。
    帰りは明後日だと言っていたから、所長ではない。


    ・・ははーーん。さてはすみれちゃんだな。

    事務所を出る時に目に入った、
    彼女のデスクの上に置き去りにされたピンクのポーチを思い出した。
    あれはすみれちゃんがいつも持ち歩いている物だ。


    入り口の鍵は掛かっているが、セキュリティが解除されている。
    やはり誰かがいるようだ。


    4Fの扉を開けて室内を覗くと、
    ソファ上部の蛍光灯が一つ点灯していた。
    窓から漏れていた灯りの正体はこれらしい。



    「お疲れさまでーす」

    声を掛けるが返事はない。


    とりあえず自分のデスクへ行き、
    書類を探しながら、

    「えと、どこに入れたんだっけか」

    なんて、わざと独り言を言ってみたりして。


    だって、なんだか背中が寒い。




    その時、


    灯りの下で何かがムクッと起き上がった。



    「ぎゃあ!!!」 色気のない私の叫び声がこだまする。


    なななな、なに!どうしよう!?

    ・・ん??あ・・れ??




    「アリ・・ス?」



    そう、そこにはアリスが、

    虚ろな目でぼぅっとソファで身を起こす、アリスがいた。


    「あーーーーもぉ。。ビックリさせないでよ!」


    一人興奮する私をよそに、
    アリスは無表情のままだるそうに自分の首をさする。

    「一体こんな時間に何してるの?」


    ゆっくりと私の方に顔を向け、アリスが答える。

    「・・寝ていた」

    「そりゃ見れば分かるわよ。なんでここで寝てるの?仕事が無いなら帰ってちゃんと布団で寝なよ」
    「・・(ぐぅ)」

    「寝るなっ。ね、だから家帰んなよ」
    「・・」

    「帰れない理由があるの?」


    しばし間を空けて、
    それからアリスはハァっと小さく溜息をついた。

    「待ち伏せしてたから」

    「え?え??・・ストーカー?」
    「絢のね。あの人私の顔見るといつも絡むんだ」

    「絡むって、大丈夫なの?警察には?」
    「そこまで危険ではない。と思う。絢の熱烈なファン、みたいなものかな。絢のお手つきのファン」

    「お手つき・・か。女王の寵姫であるアリスは、側室の嫉妬の対象ってワケね」
    「さぁ、何を考えてやってるのか分からない。疲れるよ」


    本当に心底疲れ切ったような声を出したアリスは、
    またもやソファに横になろうと体勢を整え出す。


    「だからっ!こんなトコで寝るのやめなって。疲れとれないし不用心だよ。友達は?泊めて貰えるようなトコ無いの?」
    「あるけど」

    「けど?」
    「今日はシタクナイ」

    「え?何を??」


    アリスは黙って私の目を見つめ返す。


    シタクナイ。したくない。何を?


    ・・・あ。


    そういうこと。そういうこと?

    sexしなけりゃ泊めてくれないってワケ??


    面食らった顔をしている私から目を反らし、
    アリスは再びモゾモゾと寝に入る。


    「だーーめだって!もぉ・・私のうち来なよ、ほら早く!支度して!」

    アリスは躊躇う表情を見せた。

    「何?遠慮なんか要らないわよ」
    「sexしなくてイイの?」

    「はぁ!?!?!?」


    このヤツは、本気で言ってるのか!?

    私は思いっきり眉間に皺を寄せて、
    動こうとしないアリスの腕を、強引に引っ張った。

    「そんなこと、するわけないでしょーが!さっさと来なさいよね、ばーーーか!!」


    私に腕を引かれて、腰を上げながら、

    「知ってるよ」 と、アリスは笑った。



    ・・・たく。冗談じゃないわよ。

    本当、調子狂う。



    触れた肌から、

    速まった鼓動がアリスに伝わりはしないかと、



    私は頬が赤くなるのを感じた。
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▲[ 17281 ] / ▼[ 17773 ]
■17509 / 1階層)  ALICE 【40】
□投稿者/ あおい志乃 常連♪(101回)-(2006/12/21(Thu) 23:22:38)
    2007/02/11(Sun) 00:31:22 編集(投稿者)

    アリスのいない数週間、

    私はここ最近の、というより、
    アリスに出会ってからの自分自身について、
    考えていた。


    確実に、私は私のリズムを崩し始めていた。

    アリスと接している時に感じる、
    微妙な感情のニュアンスの節々と、

    それに表立っては、

    所長と繰り広げたあの夜のバトル。


    そしてついには、


    ダイナと、つまり、同性と一線を越えたコト。




    常に他人と距離を置いてきた私が、
    一人の人間の影響で、

    どんどん思わぬ方向へ変化を遂げている。



    私は何がしたいんだろう。

    私はアリスに対して、何を求めているのだろう。

    アリスを知りたい、近付きたいと思ったところで、
    具体的に私自身が望んでいる事が分からない。


    私は何がしたいんだろう。


    そう問いかけてみても、

    結局答えに辿り着けはしなかった。


    辿り着ける事を期待してもいなかったのだが。




    ドライヤーで髪を乾かしながら、
    また同じような思考の迷路に嵌り込んでいると、

    つい時間の巡りを忘れて温風を浴び過ぎてしまい、

    せっかく汗を流したばかりだというのに、
    首筋がうっすら汗ばんでくるのを感じた。


    寝室に寄ってエアコンのスイッチを入れ、
    寝具を整えてから、

    冷房の利いているリビングへ小走りで向かう。

    急ぐ程の距離でもないのだが、

    中にいる人影を想像すると、
    ついつい足が急くのだ。




    こんな私は、


    やっぱりどうかしている。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17509 ] / ▼[ 17781 ]
■17773 / 2階層)  NO TITLE
□投稿者/ 世羅 一般♪(2回)-(2007/01/23(Tue) 00:18:54)
    今晩は
    初めまして

    風邪など引いてなければ良いのですが…

    更新がないので気になってます

    仕事もお忙しいとは思いますが、楽しみにしていますので、ゆっくり、あおいさんのペースで書いて下さい


    本当に楽しみにしてます

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17773 ] / 返信無し
■17781 / 3階層)  ◆世羅さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(1回)-(2007/01/24(Wed) 02:13:08)
    こんばんは。

    気になって下さってありがとうございます。
    (なんじゃそら・・)

    あいにく丈夫なもので、風邪ひとつひかずに生きております。
    近いうちに更新します!
    こんなペースでホントごめんなさいね〜。。
    おっと、それと、メッセージありがとうございます。嬉しいです♪


[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 17519 ] ▼[ 17527 ] ▼[ 17530 ]
■17518 / 1階層)  ALICE 【41】
□投稿者/ あおい志乃 常連♪(103回)-(2006/12/22(Fri) 23:28:50)
    2007/01/29(Mon) 02:26:21 編集(投稿者)

    リビングの扉を開くと、


    ひんやりと冷たい風が私の頬に優しく吹き付けた。



    私のTシャツと綿の短パンを身に着けたアリスは、

    濡れた髪を無造作に垂らして、
    テーブルに置きっぱなしだったファッション雑誌をパラパラとめくっていた。


    そういえば、この間のスエットをまだ返して貰っていない。


    「ストーカーさんはもう退散したのかしらね」

    冷蔵庫を覗きながら声を掛けると、

    「さぁ、どうだか」

    と気のない返事が返ってきた。


    「そういう事ってしょっちゅうあるの?待ち伏せされていたりとか」
    「んー・・たまに」

    「所長には知らせたの?」
    「ううん。言ったってどうにもならない」

    「所長に叱って貰えば?」
    「彼女達の携帯の番号を、絢が保存してるとは思えない」


    ・・・彼女“達”。

    どうやら敵は単数ではないようだ。
    私が使った“側室”という表現は、
    あながちハズレでもなかったらしい。


    「まったく、所長はどこでそういう虫をくっつけてくるんだろ」
    「どこででも、じゃない?」


    私は昼間のOL風な二人の顔を思い浮かべて、

    「なるほどね」

    と呟いた。



    缶ビールをアリスの顔の前に差し出すと、

    彼女は「ありがとう」と言ってそれを受け取り、
    少しの未練もなく、開いていた雑誌をパタンと閉じた。


    「今日は、いないんだ。恋人」

    隣りに腰掛けた私にアリスが言う。


    「ああ、そうみたいね」


    私のその不自然な回答に、
    思った通り、アリスは何の反応も示さない。

    普通なら、
    『“そうみたい”って、同棲相手の行動も把握してないの?』
    だとか、
    『なによその冷め切った感じ』
    だとか、
    少なからず茶々が入るものだが。

    きっとアリスはそういう類の事は言わないと、
    私は予想していたのだが、
    その予想が当たった事が、なんとなく嬉しく感じた。


    特に会話もなくぼんやり深夜のニュースを鑑賞し、
    番組のエンドロールが流れ出した頃には、
    私のビールの缶は空になっていた。

    アリスに目をやると、
    彼女の方も既に飲み干しているようだ。


    「明日も仕事だし、そろそろ寝ますか」

    そう言って立ち上がると、

    「私はどこで?」

    とアリスが私を見上げた。


    本人は無意識なのだろうが、
    この上目遣いは・・・最強だ。


    「玄関に向かって右の突き当たりが・・って、こないだも同じコト言ったわ。結局ここで寝てしまったけど。
     今日こそは、私の寝室できちんと眠ってね」

    「ルーイは?」
    「私はここで」

    「私が寝室を使っていたら、夜中に帰ってきた恋人が驚くわ」
    「内鍵を掛けておけばいいわよ」

    「家の主をソファで寝かせるなんて出来ない」


    律儀な事を言うもんだなぁと、私は思わず微笑んだ。


    「いいのよそんなコト。貴女がこんなトコで寝ていたら、余計にユニを驚かせるわ」


    私がそう言うと、アリスは一瞬躊躇うように目を伏せ、
    それからもう一度私を見上げて口を開いた。

    「一緒に寝ればいいじゃない」


    その言葉の意味を捉え損ねて、
    しばし私が黙ったままでいると、

    アリスはすくっと立ち上がって、

    「嫌なのね、分かった」

    と、私に背を向けた。


    「え?何が?分かったって何?」

    慌てて声を掛けると、
    アリスはむこうを向いたまま、

    「私と寝るのが嫌なんでしょう」

    と、そんな事を言うのだ。


    「言ってないさそんな事!嫌とかそういう意味じゃないって!」
    「じゃあどうして?」


    振り返り、訴えかけるような目で私を見つめるアリス。

    本当、分からない。アリスって分からない。
    他人と会話さえまともにしたがらないくせに、
    ベッドは一緒って、どういう価値観なんだろう。


    「どうしてって・・・アリスこそ嫌なんじゃないの?今夜は一人で休みたかったんじゃないの?」
    「ルーイはいいんだよ、だって服は脱がなくってイイんでしょう?」

    「はぁ!?脱ぐ必要がどこにあるのよ!!!」


    思わず声を大きくした私を見て、
    アリスは満足そうにニッコリ微笑む。

    「じゃあ、問題ないじゃない。ね」
    「・・先に部屋に行ってて。私はここを少し片付けてから行くわ」

    「うん。ごちそうさま」

    手に持ったままだった空き缶を軽く振ってみせ、
    テーブルに置いてから、
    アリスはリビングを出て行った。


    バタンとドアの閉まる音を聞いて、
    私はフーーーーーっと息を吐く。

    本当、おかしな娘。



    缶を水で濯ぎながら、私は、
    Queen's Birthからアリスを連れ出したあの日から今日までを数えると、
    たった一週間という短い期間でしかない事に気が付いた。

    あの夜アリスの身に降りかかった出来事は、
    普通なら、1年、いや人によってはもっと長く、
    生々しく吐き気を伴う最悪な記憶になるはずだ。

    トラウマにもなりかねない。

    常識的に言って、
    完全に忘れ去る事は、まず出来ないような類の事だろう。


    それなのにアリスときたら、

    全く平然としていて、
    “sex”なんて言葉を冗談の中に織り交ぜる程だ。

    立ち直りが早いのは幸いな事だが、
    傷付いた様子がこれほどまでに見られないのは、
    かえって私の目に痛々しく映る。

    いったい今までどれ程の辛苦を、
    しかも日常的に味わって来たのだろうと、
    勝手に想像して胸が痛くなる。


    加賀美所長が原因なのではない。

    実際彼女はアリスに善くない事をしているし、
    二人の関係がお互いにプラスになっているなどとは、
    口が裂けても言えないが、

    それでも二人が別れたところで、
    アリスの人生が穏やかで安らげるものになるとは、
    思えない。


    そんな風な事を考え込んでしまった私は、
    少し重い気分で寝室のドアノブに手を掛けた。




    室内は枕元のテーブルライトの明かりで薄く灯されていた。


    一瞬、クイーンサイズのベッドは無人のように思えたが、
    枕元に回り込むと、
    アリスの絹のような長い髪が、
    繊細なうねりを描いてシーツの上に横たわっているのが見えた。

    あまりに身体が薄いので、
    布団を被っていると、誰もいないように錯覚するのだ。


    私はなるべくベッドをきしませないよう、
    静かに入り込んだ。

    アリスの香りが舞い上がる。

    シーツをめくると、
    アリスは自分の両腕で身体を包むような体勢で、
    静かに、眠っていた。


    こういう寝方をする人は寂しがり屋だと、
    いつか見た雑誌にそう書いてあったのを思い出した。



    小さな背中にソッと手を当てると、
    頼りなげな体温が伝わってきた。



    「おやすみアリス」


    私はそう言って、


    灯りを消した。

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▲[ 17518 ] / ▼[ 17782 ]
■17519 / 2階層)   ALICE 【41】あおい志乃さんへ
□投稿者/ ゆらら ちょと常連(75回)-(2006/12/22(Fri) 23:51:42)
    お帰りなさい〜☆昨日からしっかりと読ませてもらってま〜す♪

    私の個人的な考えだとアリスのセリフを読む度に

    ついマリリン・モンローを思い出してしまいました☆

    体つきは正反対だけど彼女も愛情よりもまず体を欲しがられたと

    聞いた事がありましたのでつい・・。なぜかアリスがルイさんに

    変にこだわったり、からかったりしているところとか微笑ましくて好きでした☆
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▲[ 17519 ] / 返信無し
■17782 / 3階層)  ◆ゆららさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(2回)-(2007/01/24(Wed) 02:14:37)
    モンローですか!
    ワタクシあまりモンローには詳しくないもので。
    ププッピドゥ、ひらり。くらいしか。
    研究してみます、モンローについてもっと!
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17518 ] / ▼[ 17783 ]
■17527 / 2階層)  待っていま〜す(#^_^#)
□投稿者/ ミコ 一般♪(1回)-(2006/12/23(Sat) 23:41:26)
    お仕事忙しいみたいですね。でも、楽しみに更新お待ちしています!
    ルーイとアリスとの関係がとても気になりますからね。(^_-)
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▲[ 17527 ] / 返信無し
■17783 / 3階層)  ◆みこさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(3回)-(2007/01/24(Wed) 02:15:49)
    気になりますか。ありがとうございます。
    私も気になります。
    ちゃっちゃと進まんかい。

    ・・私がな!!
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17518 ] / ▼[ 17784 ]
■17530 / 2階層)  あおい志乃さま
□投稿者/ シラン 一般♪(1回)-(2006/12/24(Sun) 23:31:55)
    シランです。志乃さんにお手紙です。

    先日は夢のような一時をありがとうございました。
    何回もメールを返してもらえて、
    しかも意外と近くに住んでいると知ってそれだけでも
    じゅうぶん嬉しかったのに、まさか逢ってもらえるなんて
    「仕事の間の少しだけなら大丈夫ですよ」とメールがきたときは
    興奮して一人で布団かぶって叫んでしまいました。

    スタバで過ごした一時間はほんとうにアッという間で
    あの日から今日までずっとメールしないので変に思いましたか?思いますよね。
    本当はしたかったんです、わけがあるんです…
    私は志乃さんの小説と志乃さんの言葉から伝わってくる雰囲気に惹かれていて、
    だから見た目は何も求めないって言ったじゃないですか?
    きっと小説を書く人は地味目な人が多いかと思っていて、本当にそれで良かったんです。
    それなのに、本当に志乃さんに逢って、
    ALICEを書いている人があんまり奇麗でかわいい人で、
    独特のオーラを持っていて、嬉しいのと同時にすごくプレッシャーになりました。
    志乃さんは少しも悪くないんです、私が勝手に卑屈っぽくなってしまいました。
    志乃さんとお別れしてから、ひとりになって余計になんか悲しくなって
    遠い世界の人だったんだって思うと、泣いてしまうくらいでした。
    私は緊張して気が利くことも言えなかったし、顔も普通だし、
    志乃さんに幻滅されたかもしれないとか考えて、もしもう返してもらえなかったら
    と考えると、メールできなくなりました。
    だから今日は一ファンとして話しかけようと思ったんです。

    これからもALICEの更新ずっとずっと待っています。

    ps
    志乃さんは私的にはアリスとルーイを混ぜたような人だと思いました。

    シランより。
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▲[ 17530 ] / 返信無し
■17784 / 3階層)  ◆シランさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(4回)-(2007/01/24(Wed) 02:20:11)
    “先日”じゃ、なくなってる・・!
    ごめんなさい。本当申し訳ない。
    いや、いやいやいや、そんなそんな、何をおっしゃいます!!
    幻滅って・・そんなコト言いつつ、
    やんわりと私が警戒されている???
    って思ってしまいますよ、そんな感じですよ。
    メール、私は送ってしまいますよ?
    なんだか色々ここで言うのもなんですし。

    本当に今更になっちゃって申し訳ないです。
    更新しなくとも、
    ちゃんと定期的に覗きに来るべきだということを、
    改めて思い知りました。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■17809 / 1階層)  ALICE 【42】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(7回)-(2007/01/29(Mon) 02:06:19)
    「私のこと、愛してる?」


    アリスがそう言った時、

    草原に風が吹いた。



    5メートル程の距離を置いて向かい合っている私達の他には、

    揺れる草花しかここには居ない。


    質問はどうやら私に向けて放たれたようだ。




    「愛しているわ」

    というセリフが私の口から自然と零れた。



    どこからか鳥のさえずりが聞こえ、

    草原を日差しが優しく包んでいた。


    なんて穏やかなところだろうと、

    私は思う。




    「私のことを愛しているなんて、ルーイはきっと言えなくなる」


    アリスが言った。



    その表情を読み取ろうとするが、
    逆光で彼女の顔は見えない。

    輪郭を日食の輪のように光らせたアリスは、

    「きっと言えなくなる」

    もう一度そう繰り返し、後ずさり始める。

    「私の本当の姿を知ったら。愛してるなんて言えなくなる」



    「“本当の姿”って何?」


    私がそう訊いても、アリスは何も答えずにどんどん私から離れて行ってしまう。



    気が付けば、

    穏やかに晴れていた空はいつの間にか、
    灰色の分厚い雲に覆われ、

    草原には黒い影が立ちこめていた。


    「アリス!“本当の姿”って何なの!?」


    答えの代わりに降り出した、

    冷たい雨が私の頬を打つ。


    「待って、アリスお願い!待って!!」



    いくら叫んでも走っても、

    一向に追いつけない。



    激しい雨風が音を立てて吹き荒れていた。




    「私は・・」


    微かにアリスの声が耳に届いたが、

    それは不吉な風の音に遮られ、


    彼女の姿と共に暗闇に掻き消された。




    「アリス!アリス!!アリス!!!!」























    叫びながら私は目を覚ました。


    体がうっすらと汗ばんでいる。


    ・・夢を、見ていたのか。


    今でも耳に夢で聞いた不吉な風音が焼き付いているようだ。


    ・・・いや、気のせいではない。



    確かに、まだ聞こえる。あの音が。



    私はハッとして上体を起こし、

    手探りで枕元のライトを灯した。


    「アリス!?」


    不吉な音は、風などではなく、
    アリスの呻き声だったのだ。

    隣で目を閉じるアリスは、
    苦しそうにもがき、必死で呼吸をしていた。


    私は名前を呼びながら、アリスの頬をぴしゃりと叩いた。

    その肌は汗で冷たく濡れていた。


    「アリス!アリスどうしたの!?アリス!!」



    私の呼びかけに、アリスがパッと目を開いた。


    薄明かりでも分かるほど、顔面が蒼白だ。


    「大丈夫!?」



    すると突然、

    彼女が私の胸に縋り付いて来たので、

    その勢いに押された私はベッドのヘッドボードにぶつかり、
    背中に小さな痛みを感じた。


    一部分を擦り剥いたらしかった。



    戸惑いつつ、

    私はアリスの痩せた身体に腕を回し、

    彼女を抱き締めた。



    速まった私の鼓動の速度に合わせて、



    背中の傷がツキンツキンと痛んだ。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■17830 / 1階層)  ALICE 【43】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(13回)-(2007/01/30(Tue) 22:06:09)
    私の腕の中で、


    アリスは小さく震えていた。



    「どうしたのアリス。大丈夫よ」


    私自身、ただならぬアリスの様子に動揺し、
    少なからず不安を覚えていたのだが、

    この腕の中から今にも消えて無くなってしまいそうな少女に、

    精一杯穏やかな声をつくり、
    彼女の痩せた背中をさすった。



    「薔薇が・・赤い・・」
    「え?」

    「白だと思ったのに・・!」


    囁きよりも小さな声で、
    アリスが言う。

    その声は何かに怯えているようだ。


    「怖い夢を見たの?」

    まだ、目が覚めきっていないのだろうか。

    震えの止まらない肩を抱き締める手に、
    私は更に力を込めた。


    「怖い夢を、見ていたのね?」


    私の胸に顔をうずめながら、アリスが頷く。

    「見てしまうの、嫌なのに・・」


    アリスが声を出す度に、
    薄い綿の生地を一枚隔てて、
    その温かな吐息が私の胸にじわりと広がる。

    その艶めかしい感覚に、一瞬、
    全身が鳥肌を立てる。


    「よく見るの?怖い夢」

    「同じ夢を、同じ夢を、何度も、何度も。ずっとずっと。10年前からずっとずっとずっと・・」


    同じ単語を繰り返すアリスのそのセリフが、
    呪文のように真夜中の部屋に響く。


    「それは、辛いね。どんな夢なの?話せば、少し楽になるかもしれないわよ」
    「・・・誰にも、話した事がないの。上手く説明できるか分からない」

    「ゆっくり話せばいいのよ。勿論、無理ならいいのよ」
    「ガーデンを・・」

    「うん?」
    「ガーデンを、歩いてるの」


    「・・うん。歩いてるのね」


    提案をしたのは私の方だが、
    こんなにすんなりと言われるままに夢の内容を語り出すとは思っておらず、
    相槌を打つのに少し間が空いた。

    だがアリスは私の反応など、気にも留めていないようだ。


    「私はガーデンを歩いてる。
     見事なまでに薔薇の木で埋め尽くされたガーデン。
     今にも動き出しそうな程、生き生きとした濃い緑の葉と競い合うように、
     白の、真っ白の薔薇が、全ての木々に咲き乱れている。
     ガーデンの中心には薔薇のアーチがあって、それは半円のような曲線を描くトンネルになっている。
     ガーデンはいつもとても綺麗に晴れていて、
     私はいつも、イイ気持ち。そこにいると私は、穏やかな気持ち」


    「うん」

    私は、アリスの髪を優しく優しく撫でながら、
    夢の語りに耳を傾けた。
    胸に掛かる吐息と、髪から舞い上がるアリスの香りに、
    頭がくらくらする。



    「けれど、雨が降ってくる。いつも、いつも、雨が、降ってくる。
     いつもの事なのに、私はいつもいつもその雨に驚く」



    先刻までアリスの隣で見ていた私の夢にも、
    突然の雨が招かれざる客として出演した事を私はぼんやり思い出す。


    「私は雨を凌ぐ為に、アーチに駆け込む。
     濡れた肌を手で拭っていると、指先が、アーチから伸びていたツタに当たる。
     その衝撃で、花がひとつ、地面に落ちてしまう」


    私に話しかけるというよりも、
    ただ紙面上の物語を朗読するようにアリスは語った。


    「私は屈んで、その白い薔薇の花を両手ですくい上げる。その時―――」


    アリスが唾を呑み込むのが分かった。


    「花弁から、白色が、流れ落ちるの」


    アリスの体の震えが、大きくなる。


    「その薔薇は本当は、赤色だったのよ。白いペンキで染められていただけだった。
     雨が本当の姿を見破ったのよ!!」



    ―――“本当の姿”



    私の夢の中で、
    確かにアリスはそれと同じ言葉を語っていた。


    「私は驚いて、その偽物の花を下に落とす。そうしたら、今度はあちこちから、白い雫が落ちてくる。
     アーチの薔薇は、本当はみんな、みんなみんなみんな、赤だったの・・!!」


    アリスの声は、もはや泣きそうだった。


    「うん・・不思議の国のお話とは、色が逆なのね。そこで目が覚めるの?」


    アリスがかぶりを振る。


    「私、走って逃げる。アーチから抜け出そうとするの。でも、走っても走っても、出口が見えない。
     外から見た時は、ほんの短いトンネルだったのに。
     走っても走っても走っても外に出られなくて、そうしているうちに、アーチの薔薇はみな赤色になった」



    何かから逃れようとしたり、
    出口のない迷路で彷徨ったりする夢を、
    人は何の前触れもなしに見る夜がある。

    私も時々、
    その何とも言えない恐怖感と共に目覚める事があるが、
    現実に戻ってしまえば、
    今まで自分の精神が身を置いていたその世界の詳細はいつも朧気で、
    思い出そうとしても、
    夢に登場した人物や建物や景色や言葉の荒い外観を、
    ぼんやりと浮かべるくらいにしか出来ず、
    ただ、“怖かった、夢で良かった” と胸を撫で下ろすのだ。



    他人に話すのは初めてだと言いながら、
    記憶を辿る為のわずかな沈黙さえ置かず、
    夢で見た映像を流れるように言葉に変換する事ができるほど、

    その悪夢の一秒一秒がアリスの脳と心に焼き付いているのだろう。

    10年という年月の間で、
    いったいアリスは幾度、

    悪夢の雨に打たれたのだろう。




    「するとアーチの側面から一本の黒い手が伸びて来て、私の腕を強く掴んだ。
     そして私を薔薇の垣根の中に引きずり込む。
     そこには階段がある。螺旋状にずっとずっと遠く下まで続いている。
     私はその手に腕を引かれながら、長い長い階段を下へ下へと駆け下りていく。
     何かが私の体中にまとわりつく。
     振り返ると、上から薔薇のツタが追いかけて来ていて、生きているみたいに私を縛り付けるの。
     首に、腕に、足首に緑が巻き付く。引き抜こうとすると、くい込んだ棘が私の皮膚を掻き裂く。
     無理矢理引きちぎると、ツタが血を流した。
     そうして私は自分の血とツタの血で、真っ赤になりながら進んだ」


    アリスの語りを聞きながら、
    だんだん私は映画を観ているような気分になってきていた。
    イメージが頭の中に沸き上がる。

    抑揚の無いアリスのその話し方が、
    かえって想像の中の色彩を鮮やかに仕立てるようで、
    白や黒や赤や緑の絵の具が、
    我を我をと激しく自己主張しながら、
    脳内のキャンパスに無尽蔵に飛び散る。



    「そして、私はようやく階段を下りきって、外に抜け出す。
     今まで私がいたアーチのトンネルを振り返ると、
     それは天まで届きそうな巨大な塔になっていた。
     外の光に包まれた私は、安堵感でその場に倒れ込んでしまう。
     けれど・・・」


    アリスはそこで、一度息を呑んだ。


    「ガーデンの薔薇は・・」


    その声は、まるで怪談話をする時のような、
    不気味な音で響いた。


    「ガーデンの薔薇は、一つ残らず、赤色になっていた。
     白い薔薇なんて、初めから一つも無かったのよ。
     私は地に膝を着いたまま、傷だらけになった自分の体を見る。
     私と薔薇の血でまだらになった肌に、未だ赤い雫が点々と落ちて広がる。
     私はゆっくりと天を仰ぐ。
     青く晴れた空から、血の雨が、その生々しい匂いと共に、
     とどまることなく私に降り注いでいた」










    そこまで喋り終えると、
    アリスが強ばらせていた体を少し柔らかくしたので、
    私もいつの間にか緊張でしばし止めたままにしていた息を吐いた。


    「・・そこで、目が覚めるのね?」

    「そう。この夢を見た時はいつも、
     絶望感と吐き気を纏って目を覚まして、それから私は一日を始めるの。
     でも今日は、階段の途中で、ルーイが起こしてくれたから」

    「そぉ・・」


    正夢だとか、夢占いだとかには全くもって興味も信仰も無いが、
    背後に何かがあるとは思わずにはいられない、

    なんとも不吉な夢だ。



    「・・・ったのかもしれない」

    「え??」

    「こうやって、ただ抱き締めてくれる誰かを探していたのかもしれない」






    所長に比べれば私など、
    アリスとはまったくもって希薄な関係で、

    寝起きに彼女のあくび姿を見ることも出来ないと、
    心の中で愚痴りはしたが、


    まさかその半日後に、

    あくびどころか、
    真夜中に腕に抱いた彼女の香りに包まれて、


    そしてこんな言葉を贈られる立場になろうとは。



    胡散臭い占い師でも自称予言者でも何でも、

    この異例の昇格を前もって予測できた者がいたなら、



    朝のニュースの血液型占いさえ毛嫌いする私は、

    今すぐアンタの信者になって、


    ちゃちな水晶玉でもカードでも、


    自費出版の自伝小説だって何だって片っ端から買い占めてやるさ。





    だから私に力を貸して、

    アリスの眠りを脅かす悪夢の正体を暴いてくれと、



    投げやりな気持ちで私は祈った。

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▲[ 17281 ] / ▼[ 17848 ]
■17842 / 1階層)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(327回)-(2007/02/01(Thu) 00:39:58)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    あーあ、勿体無いなぁ・・・これだけ凄い作品を書いているのに
    1ヶ月あいたから一般になっちゃった

    今回は純粋に感想です
    夢の描写を拝読して【凄い!やっぱり志乃さんは天才だ!】と思いました

    ルイ子がアリスの話しを聞いて情景が浮かんだように
    私にも、その情景がカラーで浮かびましたので・・・

    お仕事は少し落ち着かれたのでしょうか?
    如月、これからが寒さの本番です
    どうぞ御自愛下さいませ
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17842 ] / 返信無し
■17848 / 2階層)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(15回)-(2007/02/02(Fri) 04:30:58)
    あら、名称って期間を置くと一から出直しなんですね。
    知らなかった。

    天才??
    まさか。まさかまさか。
    それより天災ですよ、心配なのは。
    これだけ降雪量が少ないと、
    今に物凄い事が起こるんじゃないかと、
    そんな気がしてなりません。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 17849 ]
■17843 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ ビヨンセ 一般♪(1回)-(2007/02/01(Thu) 00:51:20)
    初めまして★
    もう毎日毎日ALICE読みたい為に寝る前ここ開いてます!!
    更新されてた日にゃぁテンション上がりまくりで読ませてもらってます!!
    毎回読み終えるのがもったいない程大好きです(>_<)
    これからもあおい志乃さんのペースで更新頑張ってください(^O^)

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17843 ] / 返信無し
■17849 / 2階層)  ◆ビヨンセさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(16回)-(2007/02/02(Fri) 04:36:05)
    まぁ、なんて嬉しい事を言って下さるのでしょうか。
    どうもありがとうございます。

    しかし、毎晩無駄に更新チェックさせてしまっているとは・・
    申し訳ない。。

     これからは貴方のその労苦を無駄にせぬよう、
     ちゃきちゃき更新します!

    と宣言できればいいのですが。
    ほら吹きにはなりたくないので、誓えません。

    ゆるりと見守って下さいね。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■17847 / 1階層)  ALICE 【44】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(14回)-(2007/02/02(Fri) 04:27:30)
    あまりに意外なアリスのセリフに、


    驚嘆や狂喜や請願など様々な感情でごった返していた私の頭は、

    適切な返事をすぐに思い浮かべる事が出来ず、


    私は言葉を返すタイミングを失った。




    その間を拒絶と感じ取ったのか、

    一瞬の隙をついて、
    アリスは身を翻して私の腕の中から抜け出し、

    顔を背ける。


    懐きかけた野良猫が、
    人間に対しての警戒心を再び思い出し、
    突然爪を出すような、

    愛らしいが心がチクリと痛む仕草だった。



    「いや、それくらいお安い御用だけど」


    慌ててアリスの肩に手を伸ばすと、
    彼女がビクッと全身で小さく身構えたので、
    私はその腕を引っ込めた。


    「怖い夢でうなされてたら、所・・誰だって、抱き締めるくらいするでしょう?」

    「抱き締めた後に、必ず続きがある」


    相変わらず抑揚の無い声で、アリスがそう答える。



    ・・・続き、か。


    真夜中に怯えて震える娘を、
    ただで慰める事をせずに、
    毎回sexに流れ込ませるというのか。

    ダイナも所長も、そんな野蛮な人間ではないだろう。

    恐らく、だが。


    ただ、
    急に自分に縋り付いてきたアリスの行為に見当違いの応えを示し、
    つまり誘惑だと受け止めたという事だが、
    アリスの性格から言って、そう展開した時に、

    「ただ抱き締めていて」

    などとは言えず、
    求められるがまま体を開き、心を閉ざす。

    ・・・という事なら、十分ありえる話だ。


    だいいち、

    ダイナも所長も、
    このアリスに、弱々しい部分があるなどとは、
    夢にも思っていないのではないだろうか。

    容姿と同じように中身まで、
    無表情で無感動な、
    何も感じない、傷付いたりなどしない、
    人形のような存在だと、
    そんな意識をアリスに対して抱いているように感じられる。

    きっとそれは、
    アリス自身にも原因があるのだ。

    自分を金で買った女達に、
    機械的な態度を取っているのは、
    それはアリスの自発的な行動であって、
    そんなアリスに女達は余計に精神を乱される。


    そういう悪循環を、
    繰り返してきたのではないだろうか。

    所長もダイナも、
    それ以前の、私の知らない数々の女達も。

    そうしてアリスは何年もの間、
    たった独りで悪夢の恐怖を耐え忍んできたのだろうか。


    どうして、なぜ、誰も、
    無表情の仮面の下に隠された、
    アリスの寂しげな顔に気付かないのだろう。


    どうして、なぜ、アリスは、
    こんなにも不器用で、
    そしてこんなにも、
    その不器用さを隠す事において器用なのだろう。



    目の前の少女が、
    とてつもなく不憫に感じられて、
    今度は私から、
    思いっきり抱き締めてやりたいという衝動に駆られた。


    「ね、抱き締めてイイ?」


    先刻のアリスに負けじと劣らずの、
    そんな驚きのセリフが私の口を突いて出る。



    「・・何って?」 


    アリスが怪訝そうに眉をひそめる。




    その素直すぎる表情が、
    更に私の衝動を後押しした。


    そして素早くアリスの背後に回った私は、

    腕を開いてガバッと乱暴に彼女の肩に巻き付けた。



    「ぅあ!何!?暑苦しいルーイ!」

    「うるさい!この小娘が!」


    額をゴツンとアリスの後頭部にぶつける。


    「イッタっ。ルーイってバーカ!バーカ!!」


    私に羽交い締めにされながら、

    アリスは跳ねるような声を上げて笑った。




    “さっき泣いた子がもう笑う” そのものだ。




    アリスがこんなに喜怒哀楽を表に出すのは、

    もしかしたら私といる時だけなのかもしれない。





    ―――なんて、





    そんな風に感じるのは私の思い上がりだろうか。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 17889 ]
■17855 / 1階層)  あおい志乃さま
□投稿者/ ぶきっちょ 一般♪(1回)-(2007/02/04(Sun) 18:26:51)
    はじめまして、
    ぶきっちょと申します。


    前々から読ませていただいたんですが思い切っての感想を書かせていただきます。



    全ての登場人物の方を大好きに愛おしく思えてしまう作品ですね、
    私的に誰がいいとか悪いじゃなくて皆がぶきっちょは大好きです。


    女の職場で働くぶきっちょとしては何だか親近感も湧いてしまいました。


    更新楽しみに待っていますが、
    あおいさんのペースで待っていますのでどうかお気使いなく★



    あなたの綴る文章が大好きなぶきっちょでした。





    ―でわでわ。




       ぶきっちょ

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17855 ] / 返信無し
■17889 / 2階層)  ◆ぶきっちょさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(21回)-(2007/02/11(Sun) 00:34:40)
    思い切って声を掛けて下さって、
    ありがとうございます。
    とっても素敵な感想を述べて下さって、
    ありがとうございます。
    励みになります!
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 17886 ]
■17882 / 1階層)  Re[1]: あおい志乃からご挨拶
□投稿者/ 綾乃 一般♪(1回)-(2007/02/09(Fri) 10:43:33)
    いただいたメールを不注意で消してしまい返信できませんでした。
    申し訳ありません。
    これで投稿できるようになりましたでしょうか?
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17882 ] / 返信無し
■17886 / 2階層)  ◆綾乃さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(18回)-(2007/02/11(Sun) 00:21:02)
    ありがとうございます。
    おかげで不具合は解消されました。
    お手数おかけ致しました。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■17888 / 1階層)  ALICE 【45】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(20回)-(2007/02/11(Sun) 00:29:31)
    「ね、アリスってさ」


    上体を倒して私の胸にもたれる、
    アリスの後頭部に顎を乗せながら、声を掛けると、


    「ん?」

    と、アリスが私を見上げた。


    「名前、アリスって名前さ、自分で付けたって?すみれちゃんが前にそんな事言ってた。それホント?」

    「んーー、そういえば言ったか」

    「言ったんだって。ホントに自分で付けたの?」


    顔に掛かった髪を指で払いながら、

    「そうだよ」 とアリスが答える。


    「へぇ・・。それってさ、名前の候補を書いた紙を沢山床にばらまいて、
     で、赤ん坊のアリスがハイハイして、最初に辿り着いた・・」

    「違うよ」


    まだ話し終わらない内に、アリスが私の言葉を遮る。

    「違うの?じゃあどんな方法で?」

    「方法って、普通にだよ。気が付いたら私の名前が無かったから、だから自分で考えただけ」


    ・・・んん?

    どういう、事だろう。
    気が付いたら名前が無かったって、いったい何歳の時の話だ?

    「三つになる頃だったと思うけど」

    私の心を見透かしたように、アリスが言う。


    「え??3歳?」

    「多分ね。【Alice's Adventures in Wonderland】が私のイチバン好きな本だったから。
     本文全部書き写すくらい気に入ってた」

    「ちょっ・・待って。え?話が、分からないんだけど」

    「だから、本の登場人物の名前を貰っただけだって」


    なんだそれは。余計に頭が混乱してきた。


    「待って、それってさ、3歳のアリスがさ、本を読んで、そこに出てくるヒロインを真似て、
     “そうだ、私の名前コレにしよーーっと”、って、そういうコト??」

    「アハハっ何その下手な芝居。ルーイって変ね」


    小馬鹿にしたようにフフンと笑って、
    アリスが私に向き直って座る。


    「変なのはそっちでしょう。なんで名前が無いのよ」

    「なんでって、そんなの、誰も付けなかったからでしょう?」

    「親は?読み書きの出来る3才児を育て上げるほどの親が、
     名前を付けないなんてあり得ないでしょう?」


    と、言ってしまってから、

    ああしまったと、私は後悔した。


    アリスの瞳がサッと曇るのが、
    見て取れたからだ。


    慰安旅行の温泉宿、
    乳白濁の湯で温まった体に五月の夜風を感じながら、
    並んで歩いた月夜の晩に、

    アリスは言っていた。


    “自分の事を心配する親はいない”


    と。


    やはりあれは、
    両親の存在が既に無いという意味合いだったのか。


    「アリス、ごめ・・」

    「読み書きは自分で覚えた」 謝り切れぬうちにアリスが早口で語る。

    「うん、デリカシーの無い事言ってごめん。両親をそんなに早くに亡くしているって、知らなくて」

    「生きてたけど?」

    「・・え?」


    話の展開に付いていけず、
    瞬きを繰り返した私をチラリと一瞥して、


    「男が死んだのは私が十の時だから」


    そう呟いたアリスは、
    自分の膝に肘を付いて頬杖を付く。


    「男・・お父さん、よね?」


    無言でいるが、否定しないところを見ると、
    どうやらその解釈で間違ってはいないようだ。


    「親がいたのなら、どうして?」

    「どうして?」

    私の質問を反芻したアリスの声には、
    まったく感情が込もっておらず、
    それでもアリスの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

    その冷たい微笑みに、
    私は一瞬呼吸を止めた。


    「男は月に一度の頻度で食糧を運んできたわ。
     数十キロの米の袋だった事もある。
     私の事を雀か何かだと思ってたのかしらね」


    そう言って小首をかしげたアリスは、
    短くアハハと乾いた笑い声を上げた。


    一緒になって笑っていいのかどうなのか、
    場の雰囲気を読み損ねた私は、
    泣き笑いのような微妙な表情をしたのだろう。

    「へーんな顔」

    そう言ってアリスが悪戯っぽくニィっと唇の端を上げたので、
    ホッとした私は、

    “お米って、冗談でしょ?”

    と軽口を叩こうとし、
    口をつぐんだ。


    次の瞬間にはもう、
    アリスの顔から笑みが跡形もなく消え去っていたからだ。


    「それから男は私を魔女の所に幾たび連れ出した」


    真夜中の夢を語った時と同じように、
    アリスは再び淡々と語り出す。

    けれど、
    恐怖におののいていた先刻とは違い、
    その目は深い憎しみの感情をたぎらせているように見えた。


    「そんな者が、まともな名前を付けられる訳がない。
     あの男が魔女の名で私を呼ぶ度に、私は自分が汚されていくのを感じた。
     あの男は死んで当然だったのよ」


    アリスの口から流れ出る言葉は、
    まるで現実味が無く、
    これもまた悪夢の解説の続きなのだろうかと、
    そんな疑いが私の頭に浮かんだ。


    けれど目の前で目を鈍く光らせるアリスが、
    あまりに美しく、この生活感の溢れかえる部屋に似つかわしくないので、

    アリスがフィクションを語っているというよりは、
    彼女自身がフィクションの世界の住人のようで、

    だんだんと彼女を遠くから見つめ出している自分に私は気が付いた。


    アリスと自分の間に下りかける見えないベールを、
    私は瞬きで振り払う。


    「魔女って、アリスのお母さん・・?」


    久々に発せられた私の相槌に、
    アリスが大きく目を見開く。

    「まさか!!」

    「あ・・ごめん」


    信じられないという顔つきでアリスが声を大きくしたので、
    私は咄嗟に気弱な声を出す。


    「母は、男と魔女の被害者だった。母は体が弱くて・・。
     とても弱い人だったから、だから私を育てられなかったんだ」


    憎しみの込められていた瞳が、
    瞬く間に悲しみの色に様変わり、

    そしてさらに嬉々とした輝きを放った。


    「見る??」


    弾んだ声でそう尋ねたアリスは、
    私の返事を待たないうちからベッドを跳ね降り、
    ハンガーに吊されていた自分の上着をまさぐりだした。


    「お母さんの写真でも持ってるの?」

    そう聞き返しながら、
    まさかアリスに限って、
    そんなあからさまに健気な習慣など持っていないだろうにと、
    私は首を振った。

    瞳をキラキラさせながらベッドへ戻って来たアリスが、
    握りしめていた左手を、私の顔の前でパッと開く。


    そこにあったのは、
    見覚えのあるシルバーの小さな円筒。



    ―――これは・・



    そうだ、ダイナに追われていたアリスを拾ったあの日、
    彼女が車に置き忘れていた、
    あのリップスティックだ。


    「これ、お母さんのモノだったのね」

    私の言葉には答えずに、
    アリスは軽く指で捻って、スティックのキャップを外した。


    と、そこから姿を現したものは、


    アリスの唇の色をしたピンクの紅ではなく、

    筒に沿って丸められた、小さな紙のように見えた。



    白く細い指をゆっくりと動かし、

    宝の地図をもったいぶった仕草で見せびらかすように、


    アリスは誇らしげな顔で、



    それを私の顔の前で広げて見せた。

[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 18072 ]
■17947 / 1階層)  ALICE 【46】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(23回)-(2007/02/18(Sun) 01:26:53)
    それは、


    一枚の古い写真だった。



    白と薄緑のグラデーションに染められた、
    上品な振袖に身を包んだ、
    とても、とても美しい女性が、

    趣のある和室の畳の上に正座をして、

    写真の中からこちらに微笑みかけていた。


    そんなはずはないのに、
    私はこの女性と、
    以前どこかで会った事があるような気がした。


    「“真っ白”って書いて、真白、ましろ。母の名前。私の、母の名前」



    【真白】



    本当に、その名に相応しい人だと感じた。


    “色白”と言うよりも“白色”の肌。
    新雪のように真っ白な肌。

    アリスと、よく似ている。



    ―――この人が。アリスを産んだ人。



    変な、感じだ。


    そりゃあアリスだって人の子だと、
    分かってはいたけれど、

    けれど、

    本当の本当は、
    物語の中から突然飛び出して、
    この世界に迷い込んでしまった、

    アリスって、
    そんな架空の人物なんじゃないだろうかと、

    私は心のどこかでそう思っていたのかも知れない。



    そうか、

    この人からアリスは産まれたんだ。



    母はとても弱い人だったと、アリスが言ったように、
    写真の中の彼女は着物の上からでも分かる程華奢な体つきで、
    その笑顔も儚げだった。


    【佳人薄命】のごとく、

    病ゆえの短命だったのだろうか。



    私は写真に手を添えて、
    今一度真剣に、今は亡きアリスの母親を見つめた。





    「ルーイ、見過ぎ」

    悪戯っぽくそう言ったアリスが、
    私の手から写真をサッと引き抜いて自分の胸に押し当てる。


    「あぁ、ごめんごめん」

    「私に似てるって、そう思ってたんでしょう」


    明らかに同意の他は期待していないその問いかけに、

    私は笑って、「そうね、そっくり」 と答えた。


    「でしょう。私、母親似なんだよね」


    幼い子供のように、アリスが顔をほころばす。


    確かに、
    アリスと真白はとてもよく似ている。
    だが、写真を見た瞬間に、
    彼女の顔と、誰か別の人物が、
    強烈に私の記憶の中でダブった気が、した。

    すごく、この真白という女性に似た誰かを、
    私は知っている気がするのだ。

    しかし、
    確信も持てないそんな余計な戯れ言で、
    こんなに無防備に笑うアリスの眉をひそめさせるなど、
    馬鹿らしい以外の何ものでもない。


    「本当、よく似ているよ」


    私はもう一度そう繰り返した。


    「この写真はメリーがくれた」

    「メリー?」

    「そう。メリーは私以外で私のことを“アリス”って呼んでくれた初めての人」


    私の頭の中にクエスチョンマークが無数に浮かんでいる事など知らないアリスは、
    満足げにそう言うと、
    真白の写真をクルクルと丸めて再びリップスティックの中に仕舞った。


    「そのケースも、お母さんの物なの?」

    「これ?うん、そう。多分。うん。家にあったから」


    するとアリスは急に、
    輝いていた目の光を失い、表情に影を落とした。

    「私・・」


    そう言って言葉を切ったアリスを、
    私は無言で見守る。


    「私、母のこと、覚えていないの」

    まるで、
    許し難い大罪を告白するように、
    アリスは小さくそう言った。


    「2歳の時までは、一緒に暮らしていたはずなのに。気が付いたら、私一人で・・」

    「ちょっと、待ってアリス…2歳?2歳でしょう?
     そんなの覚えてなくて当然よ。いくら貴女が天才児だったとしても・・」

    「ううん、そうじゃないの。
     メリーのことは覚えてるの私。母親と暮らしてたことも、覚えてる。
     でも、どんな風にそうしていたのかが思い出せない、記憶が無い。
     以前はここにいて、今はもういない。それだけはハッキリと分かった。それだけ。
     私がこんなだから、母を余計苦しめたのかもしれない。きっとそうなんだ」



    いったいメリーって誰なの?
    そもそも、それは人の名前なの?
    “余計”苦しめたって、
    じゃあ貴方の母親を煩せたというその他の主な要因は何なの?
    それがアリスの父親と魔女なの?

    だから魔女って、何なのよ。


    質問は山のようにあるが、

    抽象と具象の糸が不規則に織り混ざったアリスの話に土足で踏み込んで、
    リアリティを与えてくれと、
    そんなデリカシーのない要求をする勇気は、
    私にはない。

    アリスに自身の内面を明かす許しを与える、
    この雰囲気を壊さないよう、慎重に行動せねば。


    夢か現実か、区別が付かないようなストーリーを語る、
    架空の存在か実在か、区別が付かないほど美しいアリス。

    いっそのこと、この少女を含め何もかもがお伽話であったなら、
    こんなに頭を悩ます事もないのにと思いつつ、

    いやしかし、
    現にアリスは私と同じこの世界に生きる人間なのだから、
    彼女を取り巻く黒い霧の正体を暴いて、
    もっとアリスの実質に触れたいと、
    必死に現実を追い求める私。

    異質な空気の漂う部屋の薄明かりに、
    真っ赤な薔薇や、
    箒に乗った魔女の幻が浮かんでは消える。


    なんてサイケデリックでアカデミック。


    絵心に乏しい私も今なら、

    マルク・シャガール顔負けの、
    夢、色彩溢れる印象的な絵画を、

    巨大なキャンパスに踊らせる事ができるかもしれない。



    けれどやっぱり絵心の無い人間の住まいには、
    絵の具もキャンパスも揃っていなくて、

    そしてそれらの材料がたとえ揃っていたとしても、
    絵心のない私は絵筆を握る気にもならない訳で、

    ただただアリスの中心に近付く為に、
    無難な質問が何処かに落ちていないかと、
    試行錯誤を繰り返すのだ。


    やはりここは、
    一番具体性を持つ、真白に焦点を絞った方が良さそうだと、
    私は判断した。


    「2歳の時に、お母さんは・・亡くなったの?」

    「母は、魔女の名が付いた私を傍に置いておくのが怖かったんだと思う。
     だから、出て行ったんだ。
     その途中で、男と魔女と仲間達に捕まった」


    ・・・また、男と魔女のご登場だ。


    それでもアリスが本当に全てを淡々と語るので、
    ぼぅっとしていると、
    その内容が現実離れしている事をつい忘れてしまいそうになる。

    ファンタジックな物語を話すファンタジックに美しいアリスを、
    ただ見つめていたい気持ちになるのだ。


    が、そういうわけにはいかない。



    きっとアリスは、

    何らかの助けを必要としているのだ。


    ―――と思うのだが…。



    それにつけても、

    アリスの話は滑稽である。


    ―――魔女の名前?


    “アリス”という名のどこが、
    そんなに恐ろしい名前なのだろう。


    ―――母親が男と魔女と仲間達に捕らえられた?


    “男”は父親だとして、
    やはり“魔女”が鍵のようだ。


    この暗号の解き明かしをしてくれと、
    アリスに問いかけようものなら、
    その瞬間からアリスが口を閉ざしてしまいそうで、
    今は訊くに訊けない。

    それに、アリスは最初から、
    暗号を語っているつもりも意識もなさそうだ。


    本当に、言葉を慎重に選ばねばならない。



    もしかすると裁判の時よりも、
    脳をフル回転させているかもしれない、
    そんな私の奮闘など知らないアリスは、
    とろんとした目をして、
    長い睫毛を数回瞬かせる。


    「ねむたくなった?」


    私の太股を枕にして寝転がるという動作で、
    アリスは質問に答えた。


    「母は・・」

    仰向けに寝転がったアリスが、虚ろな目で口を開く。








    「逃げ出す途中で魔女に殺されたんだ」

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▲[ 17947 ] / ▼[ 18109 ]
■18072 / 2階層)   ALICE 読んでます☆
□投稿者/ ゆらら ちょと常連(82回)-(2007/02/21(Wed) 14:20:21)
    アリスの過去が少しずつアリスの口から語られてきて

    ルーイもますますアリスに惹きこまれてきましたね☆

    またまったりと、楽しみにしています☆
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 18072 ] / 返信無し
■18109 / 3階層)  ◆ゆららさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(25回)-(2007/02/24(Sat) 02:41:59)
    ここら辺は、
    ホント読んでいても面白くないと思います。。
    それでも後々、見逃せないキーになってくるので、
    またその時にでも読み返して下されば・・。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■18108 / 1階層)  ALICE 【47】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(24回)-(2007/02/24(Sat) 02:40:09)
    ・・・“殺された”。



    今夜アリスが語る奇妙な物語の中で、
    とうとう人が殺された。

    真白は、
    病死ではなかったのだろうか。

    アリスの話が文字通りの意味を持っておらず、
    ただ彼女の精神の闇を象徴的に表しているだけなのだとしても、

    “殺す” だの “殺される” だなどの表現が、
    好ましいとは決して言えない。

    ましてや、それが文字通りの意味合いなのだとしたら・・・。



    アリスが巻き込まれた、
    あるいは今尚その渦中にいるのかもしれない状況を感覚的に想像した私は、
    何とも言えない不安を感じた。


    アリスの背後には、きっと恐ろしく冷たい何かがある。

    アリスの園の中心に近付けば近付くほど、
    ここが、
    “花咲き乱れ、蝶舞い踊る”楽園ではないのだという、
    過酷な現実をじわりじわりと突き付けられる。

    頭上に立ちこめる暗雲の、
    計り知れない大きさに、
    圧倒されそうになる。


    けれど、

    そこから目を背け逃げ出す気持ちが、
    この心に微塵も存在しない事に気付き、
    数か月前までの、誰にも深入りせず心乱さず歩んできた自分と比較すれば、
    その変化には我ながら驚かずにはいられない。


    「真白さんは、逃げて何処へ行くつもりだったのかな」

    返事がないので、
    眠ってしまったのだろうかと思ったが、
    少し間を置いた後でアリスが呟いた。


    「母は私を・・私を・・・」

    「迎えに来ようとしてたのかな」


    妙な沈黙が流れる。

    まずい事を言ってしまったのだろうか。


    もしや、
    真白の死は、
    『道路に飛び出した幼い我が子アリスを救おうと、
     身代わりに車に跳ねられる』
    などという悲劇だったのだろうか。

    ありえなくはない。


    「・・ったらいいな」

    「え?」

    「私を迎えに来るつもりだったのなら、いいのに。・・・ありっこないけど」


    どうやら、
    交通事故説は流れたようだ。

    私は自分の仮説の陳腐さを秘かに恥じた。


    「あの日から、母は今日まで死に続けている」


    ―――“死に続ける”


    妙な表現だ。
    人は死んでしまえば何も続けられないというのに。


    もう少し具体的な答えを引き出す質問ができないだろうかと思ったが、
    気が付くとアリスは寝息を立て始めていた。


    相変わらず、寝付きがい・・





    「“曲がりっぱなしの廊下を私は黒い腕に引かれて走る”」



    突然の声に、ギョッとしてアリスを見下ろす。



    「“そして回りながら下へ下へと墜ちていく”」



    しっかりと目を閉じたアリスの口が、
    まるでそこだけ別の生き物のように動いた。




    私は、アリスの唇を見つめながら、
    しばらく視線を他へ移せないでいた。


    今のは、何だったのだ。


    確かにアリスは眠っている。

    ただの寝言と言うのには、
    どうもしっくり来ない、妙な違和感を感じる。


    アリスの口が語ったのには違いないが、
    もっと、アリスの潜在的な部分から発せられたとでも言うような、
    ああ、何と言えばいいのか、
    まるでアリスの体内にレコーダーが埋め込まれていて、
    そこに吹き込まれていた音声が流れ出したとでも言うような。


    そう、つまり、酷く機械的な感じがしたのだ。


    落ち着かない気分になった私は、
    ソッとアリスの手首に指を添えて、
    その熱と生ける血液の動きを感じ取り、胸を撫で下ろす。




    ダメだ、途方に暮れそうだ。

    謎が多すぎる。



    だが一つだけハッキリした事は、

    アリスが、母親の愛を切ないほど縋り求めていたという事だ。



    アリスの母親―――真白。


    写真で見る彼女は、本当に美しい人だった。

    アリスとよく似ていた。






    ―――“この人、アリスに似てますね”



    不意に私の記憶の中で誰かがそう呟く。



    ・・あれ?

    これは、誰が言ったセリフだったか・・。


    そうだ、すみれちゃんだ。

    あの時は確か、化粧品のテレビCMに出ていた女優の誰かを見て、
    彼女がそう言ったのだ。


    化粧品、か。









    ―――その時、


    私の頭にある人物の顔が閃いた。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 18112 ]
■18110 / 1階層)  ALICE 【48】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(26回)-(2007/02/24(Sat) 02:53:29)
    その人は、


    記憶の中で、
    私を取り囲むように見つめていた。





    ―――ああ、あの時、

    所長が私の胸にかすみ草を挿したあの夕暮れの帰りの車内、


    運転席の窓から見た、何十枚もの同じポスター。


    そこから私を見つめていた無数の瞳。


    ああ、まさにあの女性、

    名前は、名前は・・


    クレノ・シン。紅野心。


    そう、この有名な女優が、アリスの母親・真白と似ているのだ。



    雰囲気こそ全く違うが、
    顔立ちの特徴がかなり一致する。

    というより、この紅野心、アリスともよく似ている。

    それもそのはず、
    母親と似た顔立ちの人間に、
    その娘が似ているのも無理はない。


    しかし、

    どちらかと言えば、
    アリスと真白を直結して考えるよりも、

    二人の間に紅野心を置いて、
    間接的に三人を繋げる方が、しっくりくる。

    つまり、
    真白と紅野心が似ていて、
    紅野心とアリスが似ている。

    そんな感じなのだ。


    本当に、とてもただの【他人の空似】だとは思えない。
    血の繋がりを感じずにはいられないのだ。

    どうして今まで気付かなかったのだろう。


    こんな事って、あるのだろうか。



    私の腿を枕に、
    無警戒にすやすや寝息を立てるアリスの寝顔を見つめながら、
    私は堪りかねて呟く。


    「何が何だか、分からない」


    本当に、分からない。


    この巨大な迷路の全体図が、朧気にも見えてこない。


    けれど、


    迷路の中心にいるアリスは、

    きっと私に手招きをしている。


    いや、

    そこから連れ出して欲しいと、

    私に訴えかけていると、そう感じるのだ。







    ねえアリス、



    そうなんでしょう?


[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 18110 ] / ▼[ 19115 ]
■18112 / 2階層)  ALICE ☆あおい志乃さんへ
□投稿者/ ゆらら ちょと常連(83回)-(2007/02/24(Sat) 03:45:29)
    やだなぁ☆ずっと読んでますよぉ〜☆
    おとなしく静かに〜そっと☆ひっそりと☆

    真夜中に「アリス」を読めてラッキーでした♪

    今は物語の伏線部分で後々意味を持つ箇所なんですよね☆
    う〜ん♪楽しみながら読んでますから大丈夫です♪

    またまったりと待ってますので☆では・・☆
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 18112 ] / 返信無し
■19115 / 3階層)  ◆ゆららさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(2回)-(2007/05/23(Wed) 01:14:06)
    ゆららさん、お久しぶりです。
    お元気でしたか。

    もうすぐ梅雨入りですね。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19116 ]
■18270 / 1階層)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(347回)-(2007/03/08(Thu) 02:42:47)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    更新してない時にスレッドが上がってしまう事は
    志乃さんの本意ではないかもしれませんね・・・

    お久しぶりです昴です
    アリスとルイ子の二人でベッドに居ても
    何も始まらない(←そういう意味では)のに
    どんどん複雑になって、いつもハラハラドキドキ

    お仕事がお忙しそうですが体調に気をつけて
    完結まで頑張りましょう
    (最近昴も停滞気味です)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 18270 ] / ▼[ 19155 ]
■19116 / 2階層)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(3回)-(2007/05/23(Wed) 01:14:58)
    停滞気味、ではなく、
    完全停滞、になっていました。

    ははは。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19116 ] / ▼[ 19302 ]
■19155 / 3階層)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(384回)-(2007/05/28(Mon) 01:11:07)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    人様のことは言えません
    昴も似たようなもんです(爆)
    投稿数リセットに首の皮1枚で繋がっている感じでしょうか
    ボチボチでいいので完結を目指しましょう(←自分に言ってる)

    ゆっくりでも楽しみにして
    ちゃんと拝読してますよ
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19155 ] / 返信無し
■19302 / 4階層)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(15回)-(2007/06/22(Fri) 02:38:04)
    首の皮一枚、ですか。
    久々に聞く表現です。ふふふ。
    私など、何度もちょん切れてますね。スパスパと。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■19114 / 1階層)  ALICE 【49】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(1回)-(2007/05/23(Wed) 01:13:09)
    2007/06/03(Sun) 10:00:55 編集(投稿者)

    “ 藤鷲塚 紅乃 (fujiwashizuka kureno )”



    なんと堅苦しい名前だ。


    インターネットの検索サイトに “ 紅野 心 ” と打ち込み、

    ヒットしたフリー百科事典に載せられていた彼女の本名に、
    私は思わず顔をしかめた。


    『紅野 心(本名:藤鷲塚 紅乃)―――女優。
     華道の代表的流派【華道家元藤鷲塚】三十二世 藤鷲塚 爵師(fujiwashizuka sakunori)の長女として、
     19**年に生まれ、現在33歳。
     次期家元藤鷲塚 朗(fujiwashizuka rou)を兄に持つ。』



    どこか良家の出であった事を何となく認識してはいたが、
    三十世代も続く華道の家の出身だったとは、知らなかった。

    ブラウン管の中で彼女が放つオーラのようなものは、
    他の女優と比べても群を抜いているという印象があったが、
    なるほど、家柄がそれに一役買っているのかもしれない。


    しかし、
    検索にかけて最初に辿り着いた彼女の公式HPには、
    バイオグラフィ欄にもどこにも、
    本名や出生については載せられていなかった。



    マウスを下へスクロールすると、
    彼女の出演した映画のタイトルがずらっと続いている。


    『Underground』

    というタイトルには、見覚えがあった。



    再び最上面に戻り、
    最初に見た紅野心のプロフィール写真をもう一度眺める。

    一昨日の晩、写真で見たアリスの母親、真白の顔を、
    思い出して頭の中で重ねてみる。

    やはりとてもよく似ているが、
    雰囲気が全く違う。対照的だ。

    真白と紅野心、
    二人はまるで、白と黒、

    いや、

    白と・・





    「あ!!この人!!!!」


    突然の大声に思わずビクッと肩を上下させて振り返ると、
    すみれちゃんが私のすぐ後ろに立って、
    目を大きく見開いていた。


    「この人ですよ!私がこないだアリスに似てるって言った人、この人です!!」


    興奮した様子で、私のパソコンの画面を覗き込む。


    「あ〜なるほどね。確かにね」

    と、昼食の弁当と箸を手に持ちながら、
    リリーも寄って来る。


    「えぇ!?誰って??どれどれ??」

    食後は絶対に横にならねばならないと、
    ソファに寝ころんで漫画本を読んでいた三葉が飛び起きて来、
    私の膝の上に滑り込んだ。


    これで、
    外出で不在のアリスと所長を覗く4Fの全員が、
    私のデスク周りに密集している事になる。


    「紅野心!なるほど〜似てるっすね!怪しいトコだらけってのも、あの謎女アリスとカブる!」

    アリスの事を語る三葉の言葉には相変わらず少し棘がある。

    「本当、紅野心さんって怪しいくらい綺麗ですよねえ」
    「え?怪しいってそういう意味じゃなくて…すみれさん知らないんすか?」

    「ああ、兄殺しの事?」


    「兄殺し!?」 「兄殺し!?」


    リリーの口から飛び出した、とんでもない言葉に、
    私とすみれちゃんの声が綺麗にシンクロした。


    「あれ、ルイ子さんも知らないんすか?まぁ、けっこう前の話ではありますけどね」
    「でもかなり有名だし、大概は知ってると思うけど。ネットで検索すれば死ぬほど引っかかるんじゃない?」

    「いや璃々子さん、それがそうでもないんすよ。数はあっても、どれも噂話の域を出ないレベルばっかなんすよね」
    「へぇ〜そうなんだ。当時の関係者の暴露とか無いわけ?」

    「無いんす。事務所と、それと実家の力だと思うんすけどね」
    「あぁなるほどね。あの家って身内に政治家もいるし、警察の上の方とかも押さえてそうよね」

    「そうそうっ!」


    「ちょっと、二人でどんどん進むのやめてよ」 リリーと三葉の盛り上がりに私は待ったをかけた。

    「そうよ、ねぇリリー、どういう事なの?」 すみれちゃんも堪りかねてリリーの腕を揺さぶる。


    「アンタ達、ほんっと何も知らないのね」
    「うるさいな」

    「まぁまぁ、今説明しますから」 三葉が睨み合うリリーと私の間に割って入った。


    「紅野心には兄貴が二人いたんす。上の方は若くして亡くなってるんすけど。
     年が近い方は、次期藤鷲塚三十三世のイケメンっすよ」

    「藤鷲塚朗?」 私の言葉に、「もちろん」 と三葉が親指を立てた。

    「えっ!?紅野心さんって、藤鷲塚朗と兄妹なのぉ!?」

    「え、すみれさん、そこから説明必要すか・・」 三葉の言葉に同調し、リリーもはぁと溜息のジェスチャーをする。


    すみれちゃんには悪いが、リリーに鼻で笑われるのは癪なので、
    私も実は今しがた紅野心と藤鷲塚家の繋がりを知ったのだとは、
    言わないでおいた。


    「私、昔から彼の作品何回か観に行ってるのよ?本人と会った事もあるけど、でも全然知らなかった」

    「え!そうなんすか!?めちゃくちゃイイ男でしょう?
     最近歌舞伎とか能とかの世界でも、ちょっと顔がイイからってタレント紛いな事する人多いですけど、
     そんなのと比べモノにならないっすよね??」

    「ん〜、顔は特に比べた事がないけれど、でもメディアに露出するのは嫌いみたいね。
     伝統を誇りに思う気持ちは、確かに今の若い人達よりも大きいのかもしれないわ」


    すみれちゃんの言葉を聞きながら、
    私はいつか一度だけニュースで見た彼(か)の若き華道家を思い出していた。
    カメラに向かってニコリともしない整った顔立ち、
    全身から浮世離れしたオーラが漂っている男だと感じた気がする。

    確かに藤鷲塚という名前は有名だが、
    この家の人間は滅多にメディアには登場せず、
    伝統文化という家の敷居を高く持ち、
    常人からは距離を置いている感がある。

    そういう価値観から考えると、
    藤鷲塚の家にとって、“女優”という肩書きを持つ紅野心の存在は、
    あまり喜ばしいものではないのではないだろうか。

    そして紅野心のHPに、藤鷲塚の文字が一つも無いのは、
    彼女の側からも、実家との繋がりを敬遠している事の表れと考えるのが自然だ。

    双方が互いに関係を公にする姿勢を取らないのであれば、
    私やすみれちゃんのように、
    紅野心と藤鷲塚の関係を知らない人間も、そう少なくないのではないだろうか。


    「おっと、今は朗はどうでもいいんだった」

    ようやく私の膝から降りた三葉が、今度は私のデスクの上に腰掛ける。

    「肝心なのは、上の兄貴、ジャクっすよ」


    「ジャック?」 「外人さん??」

    同時に声を裏返した私とすみれちゃんを、
    リリーが冷ややかな目で見る。

    「ばーか。ジャ・ク、だよ。静寂の寂。間抜け」

    「あ、そですか」 外人にさん付けするすみれちゃん程、間は抜けていないと思うが。


    リリーと私のやりとりに三葉がケタケタと笑い声を上げる。

    「もぉ〜コントじゃないんすから。で、その肝心の長男は、問題児だったんすよ。
     問題児っていうか、異端児っていうのかな。頭の方は、恐ろしく良かったみたいっすけどね」

    「顔もね」 とリリーが付け足す。

    「問題児って、不良だったの?」


    ・・ふ、不良・・。
    久しく聞かないすみれちゃんのその表現にリリーも反応したらしく、
    笑いを堪えるように口元がひくついている。

    「不良〜・・まぁそういう表現もありっすかね。なんていうか、とにかく変わり者だったんすよ。
     天才と馬鹿は紙一重って言いますしね。とにかく並の協調性を持ち合わせてなかったようで。
     子供時代はかなり陰気だったって噂ですし、十代に入ると派手に遊び出したみたいっすけど、
     それでも、気味悪い男だったって。普通じゃない、狂った感があったとか」

    「てかさ」 とリリーが私の隣のアリスの席に腰掛けながら口を挟む。

    「三葉って何でそんな詳しいわけ?10年前に長男の事件が起こった時、私は高3だったし、
     嫌でもワイドショーの特集とかで藤鷲塚家の事情通になったけど、アンタ当時小学生でしょ?」


    ―――え?


    「まぁまぁ、興味ある分野ってのは人それぞれっすよ」


    三葉がランドセルを背負いながらゴシップを追い掛けていた事など、
    この際どうでもいい。

    10年前に高校3年生?

    と、いう事は。という事はだ。
    リリーって今、28歳??

    当然の如く自分と同じか、もしくは下だと思い込んでいた。

    実年齢を知っていたところでリリーに対する私の態度が今より丁寧になったとも思わないが、
    それにしてもリリーにしてみれば生意気な新人だっただろうなと、
    私はほんの少し反省した。
    ほんの少しだが。


    「で、」 と三葉がワイドショーを再開する。

    「璃々子さんが今言ってしまいましたが、今から10年前に事件は起きました。
     当時寂28、紅野心23っすね。
     ある晩ホテルの一室から110番があったんです。そして、そこに警察が辿り着くと…」





    すみれちゃんの、

    コクッと唾を飲み込む音が聞こえた。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19164 ]
■19120 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ 凌 一般♪(1回)-(2007/05/23(Wed) 08:02:46)
    続きが読めることとても嬉しいです。
    無理せずに、ですよ。
    実はずっと待ってました。

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19120 ] / 返信無し
■19164 / 2階層)  ◆凌さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(5回)-(2007/05/29(Tue) 02:42:53)
    いつもいつもありがとうございます。
    見放さないでいて下さって・・。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19187 ]
■19163 / 1階層)  ALICE 【50】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(4回)-(2007/05/29(Tue) 02:41:49)
    2007/06/03(Sun) 10:17:50 編集(投稿者)
    2007/05/30(Wed) 22:49:35 編集(投稿者)

    「“まるで血の雨が降ったようだった”」


    三葉が声を低くして、そう言った。


    「新聞の一面に載った一文っすよ。
     警察が駆けつけると、そこには喉を掻き裂かれて既に絶命している寂と、
     血塗れの紅野心がいたんです」





    ―――“血の雨”



    その言葉に、私は頭をガンと殴られた気分になった。



    それはまさしく、アリスの、アリスの夢。
    偽のペンキを塗られた薔薇のガーデンで。
    アリスに降り注いだ雨。


    先月出張で一泊したホテルの部屋を思い浮かべ、
    血に染まって呆然とこちらを見る紅野心をそこに立たせてみようと試みたが、
    その人物がどうしても、アリスの顔に描かれた。


    「紅野さんが寂さんを殺したのだったら、どうして捕まらなかったの?」


    すみれちゃんの言う通りだ。いったい何故・・?


    「殺人を犯しても、罪に問われない最も簡潔な理由は?弁護士諸君」


    リリーの質問に、私とすみれちゃんは声を揃えた。


    「正当防衛」 「正当防衛」


    「大正解っす」 三葉が指を鳴らす。

    「紅野心自体、危なかったんすよ。下腹を深く刺されてて。
     抑えるのに使ったシーツが、全部真っ赤に染まってたって言いますから、相当でしょうね」


    聞いているだけで貧血を起こしそうな話だ。


    「凶器になったナイフも、寂が購入した物だと裏付けが取れたようっす」

    「つまり寂さんは、紅野さんを本気で殺そうとしていたって、いうこと?」

    「それはそうよすみれ。じゃなかったら、正当防衛になる訳ないじゃない」

    「そんな、実の妹なのに・・動機は?」



    そう、肝心なのは動機だ。


    「問題はそこっすよ。その動機っていうのが、動機っていうのが・・」

    「何なのよ」 私はもったいぶる三葉を急かす。


    「動機は、ずばり・・・不明です」


    「はぁ!?」

    「えーーー分からないの?」 すみれちゃんも気落ちした声を出す。


    「まじ、はっきりした事は分からないんすよ。まぁ、色々マスコミの間で説は出たんですけどね。
     結局核心を突いたものは無くて、真相は闇の中ってヤツっすよ。ねっ、璃々子さん?」


    「そうだったわね」

    残り2年で三十路街道を走り出すとは到底思えない、
    クリクリした大きな黒目を上方に向けて、
    当時を思い出すようにリリーが相槌を打つ。


    「動機もハッキリしないのに、よく正当防衛ですんなり片付いたわねぇ。死人に口なしって事かしら」

    さすがはヤリ手弁護士。
    おっとりしていて抜けている事が多いが、
    すみれちゃんのこういう切り口は鋭い。


    「まぁそれもあるけど・・・なんとなく分かりそうなもんじゃない?」

    リリーが試すような目で私をチラリと見る。


    「寂の人格、生前の評判が悪かった。そしてそれゆえに、藤鷲塚の家が、彼を見捨てた、って辺りかな」

    「ルイ子さん、ご名答」 三葉が片目を閉じ、リリーがフンッと笑う。


    「藤鷲塚の人間が、どういう証言をしたのか、その詳細は不明ですけど、
     とにかく寂を庇うような意見は無かったって事っすね。
     全員一致で、紅野心の側に付いたってわけっすよ」


    それは、十分納得のいく展開だ。
    藤鷲塚といえば、先刻リリーも言っていたように、
    身内に政治関係者もおり、
    それに確か、家元の妻の実家が、
    大手製薬会社、青葉グループだったように思う。

    金の亡者にスキャンダルは禁物。
    身内の人間に不名誉が降りかかるのを防げないのなら、
    その対象は二人よりも一人の方が良い。

    そしてどちらを選ぶかとなれば、
    それが幼少期から異端とされていた、寂の方になるのは当然だ。
    長男という立場ゆえ後継者とはいえど、
    すでに代わりは決まっている。
    もしかすれば、
    弟の朗が三十三代目となる事は、
    寂が死ぬ前から決まっていたのかもしれない。
    そうであれば、目の上のタンコブを取り除く機会である。
    とまで思ったかどうか、
    藤鷲塚の人間の心を私は知らないが、
    とにかく寂は切り捨てられたのだ。


    少し表情を寂しげにしたすみれちゃんが話を変える。

    「ホテル側に、何かを見たり聞いたりした人はいなかったのかしら」
    「ああっと、言い忘れてたんすけど、実は殺人の現場には、もう一人いたんですよね」

    「なんっでそんな大事な事を言い忘れるのよ」
    「だって仕方ないんすよルイ子さん、全然参考にならないんですもん」

    「で、それは誰よ?」


    答えを急かしながら、
    私は耳を塞ぎたい気分だった。

    血塗れのガーデンの夢を見始めたのは、
    10年前からだとアリスは言った。

    もし、その殺人現場に10歳のアリスが居合わせたなら・・


    「親戚か誰かだったと思います。確か・・30前後くらいの女の人だったんじゃないかな。
     詳しい情報は無いんすよね」


    三葉の言葉に私は胸を撫で下ろした。

    考えてみれば、
    ただ紅野心に容姿が似ているというだけで、
    アリスがこの事件に関わっているなど、
    可能性の低い話だ。

    いやしかし、
    もし血の繋がりがあるのなら、
    多少の関わり合いはあるのだろうが。

    けれど、
    もしアリスが藤鷲塚家の一員なら、
    あれほどまでにお金を必要とするのは不可解だ。


    だが、
    ただの遠い親戚なら。

    その事実をどうやって確かめる?


    アリスの苗字が“藤鷲塚”だったなら、一気に事が進むのに。



    「園真井・・か」


    無意識に、私はアリスの姓を呟いた。


    ―――“園真井 アリス”


    初めてそのサインを書類の隅に見つけた時、

    作られたように綺麗な名前だと思った。


    “ソノマイ”と読むのだと知った時、

    音楽のように美しい響きだと思った。



    「アリスの名前がどうかした訳?」

    「え、あ、いや、藤鷲塚とか、園真井とか、漢字三文字の苗字って富豪っぽいなと思って」

    「“加賀美” もっすよ!」 すかさず三葉が付け加える。

    「ガキっぽい発想」 すかさずリリーが憎まれ口を挟む。


    「うるさいわね」



    ・・・ダメだ。こんなやりとりをしている場合ではない。


    ここは一旦アリスの事は頭の隅に置き、

    紅野心の過去に話題を集中すべきだと、私は思い直した。


    「話戻すけど、部屋に居たその女性がどうして参考にならないワケ?本来なら重要参考人でしょ」

    「まぁ、そうなんすけどね。なんたって唯一の目撃証人ですから。見た事を、話す事ができれば、ですけど」

    「それってまさか・・」


    すみれちゃんが呟いた “まさか” の続きが、
    自然と私の口を突いて出た。


    「彼女も、死んでいたの・・?」


    「彼女は、生きてました。でも、彼女の“脳”が、死んでたんです」

    「植物人間ってやつね」 リリーが補足する。


    三葉とリリーの説明によれば、
    その女性は元々そのような状態だったのではなく、
    殺害の場面を目の当たりにしたショックで、
    発作を起こし、正気を失ったという。

    紅野心は寂に呼ばれてホテルの部屋に行ったというのだが、
    彼女の証言ではその時すでに、
    その女性は自由を奪われた状態にあったという事で、
    寂が何らかの理由で、
    紅野心と彼女を拉致し、危害を加える計画を立てていたと、
    当時のメディアは伝えたらしい。


    「ま、一般家庭で育った人間なんかにはわかりっこない、複雑な感情のもつれがあったんでしょうね。
     肉親同士の、恨みとか、妬みとか、そういう黒〜い何かが」


    三葉はそう言うと、
    私のPCのマウスのカーソルを右上に動かし、
    ネタは全て出し尽くした、という合図のように、
    開きっぱなしになっていた紅野心のウインドウを閉じた。



    三葉の口調からすれば、
    恐らく彼女はこの事件に関して出来る限りの調査をし尽くしたようだし、
    10年も前の事を今更私がネットサーフィンをして掘り起こそうとしたところで、
    そこから藤鷲塚家とアリスの繋がりを見つけ出す事は、
    不可能だろう。


    『女優の紅野心と似てるよね』と、アリスに直球を投げたらどうなるだろう。

    『誰それ、知らない』とあっさり返されて、
    結局他人の空似・赤の他人という結果で終わるかも知れない。

    だったら、紅野心なんかについてあれこれ考えを巡らすのは、
    ただの取り越し苦労である。


    今のところ結局、
    私はアリスの夢の解き明かしを少しも前進させていないのだ。


    溜息をつく代わりに、


    私は椅子に腰掛けたまま手足を広げて伸びをした。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19163 ] / ▼[ 19199 ]
■19187 / 2階層)  はじめまして
□投稿者/ myaon 一般♪(1回)-(2007/05/31(Thu) 02:34:22)
    待ちに待った更新、思わずレスです。
    かなり前からあおいさんの小説を読ませてもらってます。
    ほんとうに嬉しいです。テンション上がります↑↑
    普通にあおいさんのファンといっても過言ではないと思います。
    人として興味がありますね。
    SNSとかって参加してますか?
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19187 ] / ▼[ 19204 ]
■19199 / 3階層)  ◆myaonさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(7回)-(2007/06/01(Fri) 01:50:15)
    はじめまして。コメントありがとうございます。
    ファンですって?そんなそんな。もったいのうございます。

    SNSですか。
    mixiなら登録していますよ。
    最近とっても多いですよね、参加者が。
    トラブルも、ですけど。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19199 ] / ▼[ 19212 ]
■19204 / 4階層)  Re[4]: ◆myaonさんへ
□投稿者/ myaon 一般♪(2回)-(2007/06/02(Sat) 01:21:09)
    ミクシィわたしも参加してるんです。
    もし、あおいさんさえ良ければミクシィの中で会いたいです。
    あおいさんのIDを教えるのが無理ならわたしのIDを言いますので、
    覗きに来て欲しいんですけど、だめでしょうか。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19204 ] / 返信無し
■19212 / 5階層)  ◆myaonさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(9回)-(2007/06/03(Sun) 02:35:03)
    こんばんは。
    お酒の席から帰宅した足で、
    気分がノッたので、そのままキーを打ちました。
    酔ってるつもりはないのですが、
    ALICEの本文と共に、
    文章がおかしかったらごめんなさいね。

    mixi、myaonさんも登録されてらっしゃるんですね。
    IDですか、そうですね。
    一応防犯の為に、日記は制限をかけているんですが、
    それでもよろしければ。
    お言葉に甘えてmyaonさんのIDを教えて頂けたら助かります。

    っと、ここで1つお願い。
    このコメント欄に書き込む事は、避けて下さいね!
    危ないですから。
    E-Mail Addressを付けておきますので、そちらで知らせて頂けたらと思います。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19197 ]
■19170 / 1階層)  あおい志乃さんへ。
□投稿者/ 凌 一般♪(2回)-(2007/05/29(Tue) 21:24:33)
    覚えていて下さったんですねo(^-^)o

    なにがあったのかわからないし、僕にはなにもできないのかもしれません。

    でも、あおいさんが、あおいさんの書いてくれるこの物語が大好きだから、

    僕は何十年後になったってここであおいさんをずっと待ってます。



    (携帯)
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▲[ 19170 ] / 返信無し
■19197 / 2階層)  ◆凌さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(6回)-(2007/06/01(Fri) 01:47:00)
    いやいや、特にそんな何かがあった訳ではないのですよ。
    あまりにおそ〜い更新なので、愛想つかされても仕方が無いなというだけです。

    何十年後って、さすがにそこまではお待たせしないです。
    いや、断言はできないか。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■19211 / 1階層)  ALICE 【51】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(8回)-(2007/06/03(Sun) 02:27:35)
    「んーーーーっ。それにしても、そんな血生臭い事件を起こしておいて、
     紅野心はよく芸能界に生き残れたわね」



    首を捻って関節を鳴らしながら私がそう言うと、


    すみれちゃんがいつの間にか持ち出して来ていた、

    プレッツェル菓子の箱を開けながら頷く。



    「確かにそうですよね。私生活がオープンなハリウッドとは対照的で、
     日本の芸能界って、ちょっとした人間臭さが命取りになったりしますもんね。
     お酒の席で一般の人に軽い怪我をさせてしまって、
     そのせいで、人気の絶頂から瞬く間に転落したり」


    私もすみれちゃんの言葉に頷き返す。


    確かに日本という国は、
    物や企業や団体や人物に対して一度付いたマイナスのイメージに長く執着する嫌いがある。
    良く言えば潔癖(これが誉め言葉と言えるかは微妙なところだが)、
    悪く言えば不寛容。

    芸能界などは、
    汚名を返上しようと懸命になればなるほど、
    その骨折りの姿に聴衆は興を冷ますのだ。

    費用と時間を大量にかけて振る舞った料理でも、
    “お粗末様でした” と言って謙遜するのが美徳とされるこの国では、
    優雅に泳ぐ白鳥の水面下の努力を晒す事は、タブーなのである。

    激太りしたスターが、
    自身のダイエット生活をノンフィクション番組として放映し、
    その話題性で更に飛躍する、
    なんて事も珍しくない米国とは、まさに真逆である。


    「ところがむしろ、紅野心は兄殺しをきっかけにその地位を確立したようなもんっすよ」

    そう言った三葉は私のデスクの上からアリスのデスクへ座ったままズリズリと移動し、
    長い腕をすみれちゃんの方に伸ばした。


    すみれちゃんは微笑んで一袋、菓子の包みを三葉の大きな掌に載せた。


    「そう、確か彼女が助演で出てた映画の公開の時期と、事件がちょうど重なったのよね。魔性の女の役」

    「璃々子さんも見ました?【Underground】。
     あれ、一時上映禁止になったんすよね。紅野心の無実が決まるまで。
     それが逆に皆の興味をそそって、一気に紅野心の名前が日本中に知れ渡ったんすよ」


    バリっと軽快な音を立てて、三葉が菓子のビニールを破る。


    「それまでは無名だったの?」

    「知る人ぞ知るって感じっすかね。藤鷲塚家の名前も出してなかったみたいっすから。
     演技の定評はマニアの間では凄かったらしいっすけど。
     【Underground】の中の紅野心が、これまた過激に美しくて。オールヌードだったんすよ。
     実際に兄を殺したっていう背景が、マイナスじゃなくプラスになる程、妖艶なイメージでファンを虜にしたんすよ。
     まぁ、大した女っすね」


    言い終わるか終わらないかのうちに、
    三葉は大きな口を更に大きく開いて、
    5、6本束にした15センチ程の細長い菓子を半折りでその空間に押し込んだ。



    と、その時入り口のドアが開き、


    今まさに話の中心だった女優の若かりし頃を連想させる顔が現れ、

    私達の方を一瞥してみせ、



    慌ててアリスのデスクから跳ね降りた三葉は「ググッ」と妙な音を立てたかと思うと、

    物凄い勢いでむせ始めた。


    「きゃーーー!お水お水!!」

    すみれちゃんが慌てて給湯室へ駆け出し、
    三葉も真っ赤な顔をしてそれに続く。


    「何やってんだか」 

    リリーもアリスの椅子から腰を上げ、自分のデスクへ戻って行く。


    そんなドタバタ状態など耳に入っていないかのように、
    アリスはいつもの涼しげな顔で歩いて来、
    私の隣りの自分の席へ腰掛けた。


    そしてパソコンの電源を上げる。



    一昨日の夜、
    アリスの不可思議な寝言を聞いた後、
    私は結局アリスに膝枕を貸したままの態勢で眠ってしまい、

    翌朝9時過ぎに目を覚ますと、

    既にアリスの姿は消えていた。


    ただ今回は、
    一度目にアリスを泊めた時とは違って、
    綺麗に畳まれた服の上に、
    一枚の書き置きが残されていた。


    『心地良い枕をありがとう』


    簡潔で、何か少し色っぽいその文章の美しい楷書体に、
    寝起きの私はしばし見とれたものだ。

    その文字を残した指が、
    今は私の隣で軽やかな音を立ててパソコンのキーを打っている。

    爪には淡いグリーンのマニキュアが施されていて、
    その色より少し濃い目の半袖のブラウスと、
    よく合っている。

    下はローライズのプリーツスカート。


    アリスの装いには、おおよそ好みという名の偏りが見られない。

    シックだったり、アヴァンギャルドだったり、
    ストイックだと思えば、次の日には大胆なセクシースタイル。


    まるで専属のスタイリストが付いてるようで、
    本当いつも、芸能人みたい。

    そうそう、芸能人といえば、女優の紅野心とは親戚か何か?



    ・・・なんて、バカみたくあっさり言ってしまえたらイイのに。



    そんな事を考えていると、

    さり気なく見ていたつもりが、
    私はいつの間にかアリスを凝視していたらしく、

    いささか怪訝そうに、彼女は私を覗き返してきた。


    「・・今日の服、可愛いね」


    咄嗟に出た私のセリフにまず反応を示したのは、
    アリスではなく、

    私達の向かいに座るリリーだった。

    目を大きく見開いて、
    物言いたげな顔つきで私を睨む。


    「何よ」

    「別に」


    リリーが書類に目を落とすのを見届けてから、
    私は再びアリスに向き直った。


    「アリスって、色んなタイプの服着るよね」


    またもやリリーの視線を感じたが、
    今度はそちらを向かないでおいた。


    「そう、かな」

    逆にアリスが、
    リリーの存在を気にするように、視線を泳がせて答えた。


    第三者が居合わせる場で、
    仕事以外の話を振られるのが、初めてだからだろう。


    「そうだよ、感心するくらい。服、好きなの?」

    私が構わず続けると、
    早くもこの状況に適応したのか、
    アリスは動揺をすっかり無くして、

    「んーー特には」

    と、いつものポーカーフェイスで返してきた。


    「特に興味無いって?でも、同じ服着てた事ないじゃない」

    と、私はすみれちゃんが以前言っていた事を思い出し、
    受け売りでそう述べた。


    「絢が大量に買ってくるから」


    私は思わず三葉の居所を確認した。
    給湯室からすみれちゃんと笑い合う声が聞こえてきたので、
    一安心する。


    「そうなんだ。所長、優しいじゃんね」

    私がそう言うと、
    アリスは微かに困惑した顔をして、
    考えるような間を少し空けた後、

    「そうだね」

    と言った。



    ―――やっぱり。

    アリスは否定しないと、思っていた。


    『うん、絢はすごく優しい』

    なんていう返事が来るとも思っていなかったが、

    けれど、こういう時アリスは、

    『頼んでもいないのに』
    『ただの自己満足でしょう』

    などと、皮肉る事はきっと無いと、
    私には分かっていた。


    アリスのこういうところに、

    私はすごく惹かれてるんだと、自覚する。


    アリスの心が真っ直ぐな事、

    瞳が澄んでいる事、


    アリスの虜になる人間は、

    それに気付かない。


    そしてアリス自身も、気付いていない。


    恋人を自分の所有者としか見ないアリス。

    相手が感情的になればなるほど、
    自分はどんどん機械的になる。

    自分に向けられる憎しみや怒りを無表情で吸収するのは得意で、

    けれど温かさや愛情を認識する事は、

    アリスにとっては不可能に近い、不得意分野なのだろう。


    それでも、

    相手をけなす事はしない。


    アリスにとって、
    その純粋さは、邪魔でしかないのかもしれないけれど、

    そういう特質って、
    いざ手に入れようと思っても、
    なかなか上手くいくものじゃないんだよ。


    なんて、

    そんな事を言えば、
    アリスはもっと困った顔をするんだろうな。



    私自身、

    そんな道徳の教科書みたいな事を考える自分に、



    困惑してしまう。

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▲[ 17281 ] / ▼[ 19282 ]
■19274 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ 昴 大御所(390回)-(2007/06/14(Thu) 01:46:08)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    ↑また気づいていらっしゃらないんでしょうね
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▲[ 19274 ] / 返信無し
■19282 / 2階層)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(11回)-(2007/06/15(Fri) 11:02:13)
    気付いてないって、何にですか?
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19281 / 1階層)  ALICE 【52】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(10回)-(2007/06/15(Fri) 11:01:39)
    三葉とすみれちゃんが給湯室を出て来たので、
    私は話題を変えた。


    「アリスお昼何食べた?」
    「何も」

    「何も?」
    「何も」

    「なんで?」
    「なんとなく」

    「なんとなくって・・そんなんだからガリガリなんでしょ。栄養あるもの食べなよ」


    私のデスクの隅に置かれた、
    コンビニのパスタの空容器をアリスがチラリと見る。


    「なによ、家ではこんなもの食べてないわよ」
    「何も訊いてないけど」

    「本当なんだから」


    嘘じゃない。

    ただ、料理をするのはユニだけれど。
    でも私だって週一くらいでキッチンに立つ。


    アリスは物凄いスピードで、
    山になった種類に押印をしながら、
    こちらを見もせずに、

    「ご立派」

    と言った。


    普段事務的な事しか喋らないクセに、
    私には、随分皮肉を言うじゃないの。


    「分かったわよアリス、あんたの為に栄養たっぷりの弁当、作って来ようじゃないの」


    私のセリフを聞いているのかいないのか、
    アリスは黙って立ち上がり、

    書類の束をバンッとデスクの板に落として揃え、
    ノートパソコンと一緒に小脇に抱えて、
    出入り口に歩いて行った。




    ああ、そう、無視ですか。


    まぁ、アリスが他人の手作り弁当なんて、食べるワケないよな。
    私だって、他人の為に早起きしてせっせと料理なんて、柄じゃないし。

    でもまぁ、アリスが可愛い顔で「お願い」と言えば、
    やってやれない事もないのだけど。

    そんな事、死んでも言わないだろうけど。


    ぶつぶつ考えていると、

    ふいに、


    「ルーイ」


    と呼ばれ、私は眉間に皺を寄せたまま声を振り返った。



    「キャベツは抜きでね」





    ・・え? え??


    遅れて気付いた、アリスの返事の意味に、
    耳の内側からその効果音が聞こえてきそうなほど、
    私の脳内温度が急上昇するのが分かった。


    「い、イエッシューー!」


    私の口から飛び出した言葉に、
    アリスが片眉をひそめる。


    「や、だから、“Yes,sir”と、キャベツの“chou”を掛けてさ、ほら・・」




    ・・・穴があったら、埋まりたかった。

    舞い上がったあまり、
    テンションをコントロール出来ず、
    こんなくだらない駄洒落を口走るとは・・。


    いたたまれず下を向くと、


    「くっだらない」

    と、アリスの乾いた声が飛んできた。


    正直、助かった。


    厳しいツッコミに反論する振りをして、
    照れを誤魔化そうと、

    私は顔を上げた―――








    そこで、私の目に映ったのは、


    あの、笑顔だった。



    世界中に春の嵐を巻き起こすような、

    アリスの笑顔。


    久しぶりに、この光のような笑みを見た気がした。



    「くだらないよルーイ」


    もう一度そう繰り返したアリスは、

    そして部屋を出て行った。






    「何すか今の!?」


    感慨に耽る暇もなく、
    三葉が私に迫る。

    そうだ、皆、居たのだ。


    「アリスのあんな顔・・初めて見ました」

    幻でも見たような、惚けた表情ですみれちゃんが呟く。


    リリーの反応が少し怖かったのだが、

    「アリスも人間だったのか」

    と、いつも通りの彼女らしい皮肉を言っただけだった。


    「つーか、ルイ子さんいつの間にアリスと仲良くなってんすか!?“ルーイ”って、何すか!」

    「私も、驚いちゃいました」


    仲良く、か。

    そうか、そう、見えるだろうな。


    「別に、普通に喋ってただけじゃない。話しかければ答えるし、冗談言えば、笑うさ。アリスだって」


    『アンタ達がアリスを無視してるからでしょう』

    という意味を込めて、私はそう言った。


    “無視”

    という程、悪意のあるものではないけれど、

    時たまアリスが休憩時間に事務所に居合わせても、
    皆は自然と彼女がそこに居ないかのように振る舞うのだ。


    所長もそれを黙認、というより、
    むしろアリスの孤立を快く思っているように見える。

    そしてアリス自身、
    自分のそういう位置を、恐らく少しも気に掛けていない。


    無視する側、される側、
    共に不満が無いのなら、
    その状態は“平和”といえるのかもしれない。

    が、私は何だか気にくわない。


    「それって、あたし等にもアリスと仲良くしろって事っすか?無理無理!
     会話続かないですもん、絶対」


    三葉の言葉に、私は言い返す事をしなかった。
    確かにその通りではあるのだし、
    それにただ釈然としないというだけで、
    私のエゴを押しつける事は出来ない。


    「いやーーでもルイ子さん、その調子でお願いします。所長からアリスを引っぺがして下さいよ!」

    「私はそんなつもりじゃ・・!」


    「三葉ちゃん、それは言うべき事じゃないんじゃない?」

    すみれちゃんが、穏やかに、しかし厳しい眼差しで言った。


    「そう、だいいち例えルイ子がそのつもりだったとしても、
     物事が三葉の都合の良いように進むとは限らないだろうに。
     私達にとって確実なのは、仕事がやりにくくなるって、事だけよ」

    「いいんです!!!」

    リリーの言葉の前半部分に私が異議を唱える隙を与えず、
    三葉が声を大にした。


    「誰がどんなつもりであろうと、あたしは何だって利用しますから!
     所長が振り向いてくれるんなら、何だってするんだから!!」

    半ば自分に言い聞かせるようにそう叫んだ後、
    三葉は私達からフイッと顔を背けて頑固さを演出するような仕草をし、
    背筋を大げさに伸ばしてスタスタと早足で部屋から出て行った。


    ドアの閉まる乱暴な音を聞いた後、
    すみれちゃんが困ったように笑って、

    「ルイ子さんがそういうつもりじゃ無いって事は、みんな分かってますからね」

    と言った。


    「ありがとう」 と一応そう返しておいたが、
    正直、微妙な気持ちだった。


    確かに私は所長からアリスを奪い取ろうとはしていないし、
    そんな欲求も無い。

    それじゃあ私の望む事は何なのか。


    一昨日の晩、同じ事を悩んだ時は、
    ついぞその答えは出なかった。

    ただ漠然とアリスに近付きたいと思っている自分が見えるだけで、
    その具体的な形を掴む事が出来ずに終わった。

    だが今は一つだけ、
    新たにハッキリした事がある。


    ついさっき、
    アリスの笑顔を見た時に気付いたのだ。



    私は、アリスが笑うと、堪らなく嬉しいのだと。


    私の望みは、

    アリスが沢山沢山、笑顔でいられること。


    多分それは、

    真冬に桜が咲くよりも難しい事。


    だからそれだけ価値がある事。



    私は所長とアリスの仲を引き裂く気は無いが、

    所長の存在がアリスの笑顔を曇らせる大きな要因であるのならば、


    それを黙って見ている気も、


    無いという事だ。
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▲[ 17281 ] / ▼[ 19300 ]
■19288 / 1階層)  (削除)
□投稿者/ -(2007/06/19(Tue) 15:59:25)
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▲[ 19288 ] / 返信無し
■19300 / 2階層)  ◆ヒカさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(13回)-(2007/06/22(Fri) 02:32:28)
    おーーーなるほど。
    分かりました、見つけました。
    ありがとうございます!
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▲[ 17281 ] / ▼[ 19301 ]
■19290 / 1階層)  (削除)
□投稿者/ -(2007/06/20(Wed) 09:29:00)
    この記事は(投稿者)削除されました
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▲[ 19290 ] / 返信無し
■19301 / 2階層)  ◆さめださんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(14回)-(2007/06/22(Fri) 02:35:36)
    こんばんは、コメントありがとうございます。
    私はキツイとも何とも感じていませんので、大丈夫ですよ。
    本当にただ、『私、何に気付いてないの!?』と興味津々だっただけなのです。
    バカですね、私。。

    これからもお時間のある時に、
    ALICEに目を通して下さったら嬉しいです。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19299 / 1階層)  ALICE 【53】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(12回)-(2007/06/22(Fri) 02:31:27)
    「ルイ子?」



    性行を終えてから20分程経ったろうか、

    左頬を下にして横たわり、うとうとしていたところを、
    暗闇から不意に名を呼ばれ、

    私は思わず息を止めた。




    行為の後は必ずと言っていいほど、
    すぐさま死んだように眠るユニが、
    こんな風に起きているなんて事は、

    酷く珍しいからだ。


    少なくとも私の覚えている限りでは、

    これが初めてである。



    「なぁに?」


    声に背を向けたまま返事をしたが、

    答えはすぐには返って来なかった。



    「ユニ?」


    暗闇の中、今度は彼を振り向いて呼んだ。



    やはり返事は無いが、

    呼吸の音と僅かに伺える横顔の動きで、

    彼が眠っていない事を察知した。




    「眠らないなんて、珍しいわね」


    彼の頬に手を当てると、

    瞬きをしたのか、睫毛が指に触れた。



    「ルイ子、何を考えていたの?」

    「何って・・眠りかけてたところだったわよ」


    「sexの最中、何か考え事をしていたろう」



    思いもかけないユニの言葉に、

    私は思わず彼の肌から手を退いた。



    「何を考えていたの、ルイ子」




    二度、そう言われて、


    私は一瞬固まってしまっていた思考を解き、記憶を遡る。




    挿入されながら今夜、

    私は何を考えていたのか。



    思い当たるのは一つだけ。



    アリスの事。



    オルガズムに張り合って、

    私の感情を二分に出来る存在なんて、



    アリスの他には無い。




    今夜の事は、はっきりとは覚えていないが、


    恐らくいつものように、


    ―――アリスは今頃眠っているのだろうか。

    ―――またガーデンの夢に苦しんでいるのだろうか。


    そんな風に呪文の如く、私は思惟していたのだろうと思う。




    ただ、

    ここ最近、性行中に思考が二分されるのには、

    訳があるのだ。



    以前はもっと、


    ユニに心底集中していた。


    集中せざるをえなかった。


    なぜならそれだけ彼の行為は魅力的だったからだ。



    では何故今、以前のようにいかないのか。


    それは、ユニの技量が落ち込んだからではない。








    ダイナに抱かれた夜が、あるからだ。







    ベッドの上での彼女の技術は、

    それはそれは、想像を超える素晴らしさだった。



    あの感覚を知ってしまってからは、

    ユニに抱かれながら、快感を感じる度に、


    無意識的にダイナとの夜を感覚的に思い出し、

    あの時の絶頂感と、今を、比較してしまう。




    非常に虚しい事である。



    そのような意味のない比較などすまいと、

    意識をユニに集中させようとすればするほど、


    私の中で動くユニの息遣いに、生臭さしか感じなくなる。



    そんな匂いを振り払おうとすればするほど、

    身体は絶頂に達してはいても、


    心は別の空間に置き去りにされたような状態に陥るのだ。


    私の心が特に目的を持たない時、

    行き着く先は決まってアリスである。





    それをユニに気付かせてはならないと、


    最近私がベッドの上で過剰に振る舞っている事を、

    何となく、自分でも気が付いてはいた。



    それでもユニには悟られていないと、

    何を根拠にか、都合良く考えていたのだが。



    私の演技も意識も、どちらも甘かったのだろう。


    そこまでフォローを突き詰める熱意も、正直無かった。




    「黒猫クンの事しか、考えてなかったわよ」


    と、私はユニに嘘を返したが、


    そう言う以外に無いだろう。



    返事は無いが沈黙から、

    ユニが私の答えに満足していない事は伝わってくる。







    こういうやりとりは、

    面倒くさい。



    ユニらしくない。

    いつもならこんな時、
    おどけたリアクションで私を笑わせてくれるのに。



    キスでもしてこの嫌な雰囲気を打破しようか。

    しかしそこから行為になだれ込むのはもっと勘弁して欲しい。




    そう思った私は結局、

    これ以上は何も言わない事に決め、

    彼に背を向けて眠りに就く態勢を取った。




    「何かを無理に聞き出したい訳じゃないよ」



    黙った私の代わりに、ユニが口を開いた。


    「ただ、僕に聞きたい事や聞いて欲しい事があるなら、話して欲しいんだ」





    隣りにいるのは本当にユニなのだろうかと、
    耳を疑わずにはいられない程、

    予想外の台詞だった。



    私が答えあぐねている内に、


    「おやすみ」


    と、ユニの方からこの会話に終止符を打った。



    「おやすみ」と返せずにいた私は、

    その後しばらく暗闇の中で目を開けて、


    一体ユニの心境にどんな変化が起きているのだろうかと、

    考えてみたが、

    普段からろくに会話もしていないのだから、

    半分眠りながらの浅い模索で答えを見つけられるはずもなく、



    全体の感想として私は、

    結局【面倒くさい】という印象しか抱けないまま、



    いつのまにか眠りに就いた。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■19396 / 1階層)  ALICE 【54】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(16回)-(2007/07/03(Tue) 03:46:37)
    買ったばかりのミュールなんて、

    履いてくるんじゃなかった。



    地味に痛む左足の小指を庇いながら、
    気を抜くと漂流してしまいそうな人の波を泳いで、


    私は巨大なスクランブル交差点をようやく渡りきった。


    抜けるような青空の下は、
    こんなに人で溢れかえっているのに、

    雲の白にも侵されないその見事なまでに青一色のキャンバスを、

    見上げる者は見当たらない。


    皆が皆、時間に追われて早歩き。

    頭の中はそれぞれの関心事でいっぱいなのだ。


    かつては私もそうだった。


    けれど、

    遠い異国の地を身一つで歩き回った経験が、

    私に自然の美しさを、
    そしてその美を楽しむ事を教えてくれた。

    どんな時にでも、
    空や風や花に心を向ける心のゆとりの大切さを、
    学ばせてくれた。


    のだったが、


    今の私に自然を愛でる余裕は無く、

    左手に持った弁当の中身が傷みやしないかと、
    太陽の光を憎々しくさえ感じながら、

    靴擦れに痛む足を休めずに、
    アリスとの約束の場所まで駆けている。



    パステルピンクの壁をした、
    こぢんまりとした美容室を視界に捕らえた私は、

    駆けるスピードを更に速めて近付いていった。


    美容室の前で立ち止まり、
    額から流れ落ちた冷たい汗を拭ってから、
    携帯電話を開く。



    『東峰ビル交差点裏のブロック。
     淡いピンクの壁の美容室。
     入り口の扉に面した通りを西に向かって進んだ、
     その突き当たりにある公園。
     その中で待ってる』




    お昼をどこで食べようかと、
    昨晩アリスの留守電に残した私のメッセージに、

    今朝届いたアリスからの返答のメールである。


    簡潔明瞭で、殺風景な文章。


    それでも読む度、掌がこそばゆい。


    少し乱暴に電話を閉じて、
    私はもう一度汗を拭った。




    入り口前のこの場所から見て、

    突き当たりが緑の植物地帯である事は確認出来るのだが、


    公園というより無法地帯にしか思えない。


    とりあえず進んでみると、
    突き当たってようやく、
    その緑の壁に入り口らしきものがあるのを認識できた。


    私の背丈を悠に超えた針葉樹の垣根を、
    更に別の植物の蔦が覆っている一面の壁に、
    ぽっかり縦に開いた隙間があるのだ。

    それは蔦に巣くわれた鉄格子の扉だった。

    僅かにこちら側に開いている。



    蔦の正体は葉から推測すると、恐らく薔薇で間違いだろう。





    中指だけ掛けて扉を引いてみると、

    意外にも、寂れた金属音も無くすんなりと開いた。



    それと同時に冷たく何か神聖さを思わせる、
    精錬された空気が流れ出、

    私は吸い寄せられるように、



    その光の中へ足を踏み入れた。
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▲[ 17281 ] / ▼[ 19468 ]
■19436 / 1階層)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(392回)-(2007/07/10(Tue) 01:46:39)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    お久しぶりです。昴です
    今回のことで、はっきりと理解しました
    続きに書くと気づいて頂きにくいことを(笑)

    志乃さんには去年の8月以来
    こうしてたまにおしゃべりをさせて頂いているので
    前回はつい独り言を言ってしまいました
    (ご理解頂いてますよね? 笑)

    首の皮1枚・・・そうですね、世代がバレてしまいますね(爆)

    完結目指して頑張りましょうネお互いに
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19436 ] / 返信無し
■19468 / 2階層)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(19回)-(2007/07/13(Fri) 01:23:26)
    見落とすことや、
    または文末が質問系ではないと、
    ここで切りよく終わらせようと、
    コメントを見送ることもありますので、
    特に深い意味がある訳ではないのです。
    だから、私からの返事がなくても、
    あまりお気になさらないで下さいね(*´ェ`*)

    小説、昴さんも頑張って下さいね。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19469 ]
■19448 / 1階層)  昴さんへ
□投稿者/ なつき 一般♪(1回)-(2007/07/11(Wed) 08:27:05)
    志乃さんや映美さんへレスする為に自分のエッセイをアップしてるんですか?
    なんかおかしくないですか?
    周りを気にせず頼らず、もっとカッコ良くして下さい!と応援したいです
    自分の彼女だけに目を向けましょう
    志乃さん、スレ汚し申し訳ありません…


    (携帯)
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▲[ 19448 ] / 返信無し
■19469 / 2階層)  ◆なつきさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(20回)-(2007/07/13(Fri) 01:34:46)
    難しいですね。
    確かにここは、話し合いをする主旨の掲示板ではないので、
    何列にも渡ってレスのし合いが続いている光景は、
    少しこの場所の目的に外れているのかもしれません。
    けれど応援のメッセージは確かに励みになりますし、
    その境界線の定義は分かり難いかもしれませんね。

    小説を書いている側が、そのレスを読んで不快に思うようでなければ、
    いいんじゃないかな?という気もしますが、
    閲覧している方達が、何か違和を感じるのであれば、
    やっぱりそれも良くないのでしょうね。

    とりあえず私は、
    今のところどんなメッセージでもありがたく読ませて頂いています。

    ん〜〜(u_u)ムズカシイ!
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■19467 / 1階層)  ALICE 【55】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(18回)-(2007/07/13(Fri) 01:17:10)
    一言で言うならばそこは、




    異空間だった。





    4αほどの広さのその場所は、

    公園というよりもただの荒れた庭だった。




    中央にある煉瓦造りの丸い井戸や、

    同じく煉瓦で出来た立水栓、


    幾何学的に張り巡らされたウォーキングロードのタイルなどを見ると、


    かつては此処が素敵で愛らしい花園であった事が予想されるが、


    今では、まず井戸が干からびている事は確認せずとも想像が付くし、

    花壇は所々崩れ落ち、

    タイル道も歩く人が居ない為か半分以上が土で隠れているという有様だ。



    外壁は、扉に巻き付いた蔦を見て予想した通り、

    薔薇の幹がその全面を覆っていたが、


    そこに花は一つも見当たらない。



    扉を抜ける時、光に包まれた瞬間は、

    この先はもしかすればアリスの夢のガーデンに繋がっているのかも知れないと、

    そんな予感がしていたのだが、


    そんなはずが無いのは勿論のこと、

    薔薇の咲き乱れるガーデンどころか、


    手入れなど数十年はされていないだろう、荒れ具合だ。






    それでもここには、何か精錬された透明感が溢れかえっていた。


    異空間だと感じたのは、

    荒れたその様子からではなく、

    文字通り空間が、外と中では異なるように思えたからだ。



    園内の木漏れ日は明らかに、
    外界のそれよりも数段柔らかに見え、

    植物の緑も、
    絵に描いたような艶めきを放っている。


    何よりも、

    空気が違う。



    一歩足を踏み入れた瞬間、

    私の鼻腔に風が走るように流れ込み、


    血管を駈け巡って、


    私の体の内を流れていた呼気を、

    全く新しく入れ替えてしまったような、



    そんなハッとするほど颯爽とした感覚に襲われたのだ。



    澄み切った清らかな空気は、

    そして何とも言えない良い香りがした。


    とにかくこの崩れかけの庭園は、

    言葉では表現できない、独特の雰囲気を持っていた。




    風に吹かれて頬にかかった髪を払い、

    無意識に首の後ろを手で撫でた私は、


    いつの間にか体から汗がすっかり退いているのに気付いた。




    改めて園内を見渡すと、


    豊かに葉を付けた2本のオリーブと思われる木の、

    右側の幹の陰から、


    風に吹かれて揺らめく長い髪が見えた。



    陽の光で金色に輝くその繊細な糸が、

    この園に充満する香りの発端のように感じられた。



    そっと近付くと、


    そこには木の根元に寄りかかって眠るアリスの姿があった。



    髪と共に長い睫毛が揺れ、

    白い肌は純白の鳩の羽根よりも滑らかに輝き、

    耳を澄ませば微かに聞き取れる寝息は、

    どんなに美しい鳥のさえずりよりも愛らしかった。



    華奢な体を頼りなげに横たえるその姿は、

    あまりに美しく儚く、




    瞬きをすれば、





    次の瞬間には消えてしまうのではないかとさえ思われた。

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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19501 / 1階層)  ALICE 【56】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(21回)-(2007/07/18(Wed) 23:53:12)
    私は屈んで、

    そっとアリスの頬に触れた。


    壊れないように、優しく。そっと。



    するとアリスは音もなく瞼を開き、

    色素の薄い瞳で私を見上げたので、


    私は微笑んで彼女に「おはよう」と言った。



    それからアリスの髪に付いたオリーブの葉を手で軽く払い、

    「いい夢、見てたのかな。起こしてごめん。でもお弁当早く食べないと、午後の仕事に遅れるわ」

    と、弁当の包みを掲げて見せた。



    アリスは目を細めて微笑んだ。

    「一瞬、夢が叶ったのかと思った」


    「え?」


    「アリスの物語の最後を知ってる?」


    ・・・ああ、不思議の国の話か。


    「うん、なんとなく。確か、夢オチだったのよね」

    「そう。トランプに襲われて悲鳴を上げたアリスは目を覚まして、
     自分がお姉さんの膝に頭を載せて眠っていた事に気付くの」



    アリスは眩しそうに遠くを見ながら、続ける。



    「“本当によく寝たわね”って言いながら、お姉さんはアリスの頭に落ちてきていた葉っぱを優しく払い除ける。
     アリスが夢の国での冒険を話して聞かせると、お姉さんはアリスにキスをして、こう言う。

     
     “it was a curious dream, dear, certainly! But now run in to your tea, it's getting late”」



    うっとりするほど綺麗な声と発音で、

    アリスは歌うように本の中の台詞を口ずさんだ。



    「子供の頃、何度も何度もこの箇所を繰り返して読んだ」


    遠くを見つめるアリスの横顔に、

    私は見とれて、

    見惚れた。


    「眠る前に本を閉じてからも、目を閉じてからも、頭の中で唄うの。

     it was a curious dream, dear・・・dear. My dear」




    ベッドの上で小さく小さく丸まって、自分の腕で体を抱いて、

    自分の為に子守歌を歌う、

    小さなアリスを思い浮かべ、

    私の胸は切なさで痛んだ。



    「いつか私のことも、そうやって起こしてくれる人が現れたらいいと思った。
     “あなたは奇妙な夢を見ていたのよ”って。
     “そんなことより、走っていってお茶にしましょう”って。
     誰かがそう言って、私の今までの人生を全て夢に変えてくれる事を、私は毎晩願ったの」





    これ以上、

    聞いている事は出来なかった。




    幼いアリスが、どんな思いで自分を“アリス”と名付けたのか、

    それを考えると、

    胸が押し潰されそうになった。


    眠れば悪夢を見、

    目が覚めても、全て夢だと思いたい程の日常が待ち受けているだけの、

    そんなアリスの苦しみを、


    今すぐここで取り去る事が出来たなら、


    その力が私にあったなら、


    どんなにか良いだろう。








    溢れる思いは言葉にならなかった。



    自分の痛々しい物語を、美しい声で歌い上げるアリスの唇を、




    私は言葉の代わりに唇で制した。











    私達は、


    本当にほんの数秒、軽く唇を重ねた。



    顔を離すと、アリスは私が何かを言い出すのを待つような目で、

    じっと私を見つめた。



    “全ては夢なのよ”

    と、今はまだ、言えない。


    アリスの見ている悪夢の正体さえ、私は知らないのだから。





    今の私に言える事は―――





    「お昼、作って来たから。早く食べよう」





    そう言った私を、アリスはしばらく黙って見つめ、

    それからうつむき、小さくコクッと頷いた。


    アリスの睫毛に光るものが見えた気がしたが、


    私は気付かないふりをした。


    その涙が何を意味するのか、

    うれし涙なのか、それとも、

    やはり自分を救うことの出来る人間などいないのだという、


    絶望の涙なのか、


    私には分からなかったからだ。




    けれど必ず、

    そう必ず、

    私はアリスを救い出してみせる。


    真っ赤な薔薇と血の雨が降る悪夢のガーデンから、


    花の咲かない暗く冷たい現実から、



    アリスを連れ出してみせる。



    私は、固く心に誓った。















    アリスと初めてキスをしたこの場所を、


    この日の輝きを、

    木漏れ日や風の薫り、


    その全てを、



    私は今も忘れていない。
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▲[ 17281 ] / ▼[ 19622 ]
■19502 / 1階層)  感想
□投稿者/ 麻 一般♪(16回)-(2007/07/19(Thu) 08:17:10)
    2007/07/19(Thu) 08:17:57 編集(投稿者)

    いつも更新されるたびにこの小説を読ませていただいてます。

    とても内容が深く面白い小説だと思います。

    アリスとルイ子にはくっついてもらいたいなと思います。

    これからも更新頑張ってください<(_ _)>

[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19502 ] / 返信無し
■19622 / 2階層)  ◆麻さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(24回)-(2007/08/06(Mon) 02:44:22)
    こんばんは、メッセージありがとうございます。
    嬉しいです。

    ルイ子とアリスですか。
    もしこの二人が恋人同士になったとしたら、
    ほのぼのやっていくんでしょうね。

    小説なんかには出来ないくらい、
    平和な毎日のやりとりを。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19623 ]
■19532 / 1階層)  ■あおいさん
□投稿者/ ぎのご 一般♪(1回)-(2007/07/27(Fri) 11:25:20)
    話がすすんでて、かなり小躍りヽ(´▽`)/ですよ

    数秒のアリス達のキスを想像して…なんか胸がキュンキュンですよ(*´`)
    最後の「今も忘れない」みたいなのが、かなり気になりますね( ̄(エ) ̄)

    猛暑で軽く腐敗きのこになりかけなぎのごでした

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19532 ] / 返信無し
■19623 / 2階層)  ◆ぎのごさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(25回)-(2007/08/06(Mon) 02:45:12)
    あれ?
    なんだかお名前の濁点が増えているような・・。
    気のせいかしら。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19619 / 1階層)  ALICE 【57】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(22回)-(2007/08/06(Mon) 02:39:52)
    検察官との第一回目の交渉を終えた私は、


    帰りの車内で、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。



    交渉場所となった向こうの事務所を出てから最寄りのコーヒーショップに車を入れ、
    ドライブスルーにするか少し迷った末、

    今から事務所に帰れば昼食の機会を逃す可能性がある為、

    ここで軽く腹ごしらえをしていくことに決めた。



    駐車場のスペースが空いていた割に、
    店内は混み合っていた為意外に思ったが、

    客層が十代であるのを見、
    今日が土曜日であるのを思い出した。


    注文カウンターの前に3つ続く列の内、
    店内側の一番左の列に並びながら、

    上方のメニュー板を見上げていると、

    私の前に並んでいた男子高校生3人組がカウンターに呼ばれるのと同時に、


    私のショルダーバッグのポケットの中で携帯が振動した。



    取り出して見ると、

    雪花からの着信だった。



    「はい」


     −もしもしルイ子?今仕事?−


    「一仕事終えてお昼買ってるところよ」


     −お疲れ。ところでさ−


    「“ところで”が早いわね」



    注文を終えた男子高校生達が各々のトレーを持ち、
    カウンターに添って左に流れた。

    次のお客様どうぞ、と、
    店員に声を掛けられ、

    私は前に進みながら、
    少しの間、会話を中断する旨を雪花に伝えようとした。

    携帯電話片手に通話をしながらの応対など、
    いくら客の立場と言え、
    節度が無くて私は好きではないからだ。


    だが、



     −アンタ、ダイナとどうなってんの!?−




    スピーカーから響いた雪花の台詞に、

    私は言いかけた言葉を呑み込まざるをえなかった。



    「え・・・どうって・・」


    店内でお召し上がりですか、それとも・・と、
    こちらが電話中である事に気付いていないかのように、

    マニュアル通りの笑顔で店員が言う。


    大学生アルバイターという風なその男性店員は、
    白い太縁の今時な眼鏡をしていたが、

    その奥にある瞳は少しも笑っていない。



    眠っていても答えられそうなマニュアル通りの質問に、

    何故か頭が少し混乱した。



    「あ・・ここで、持って帰りません」



    生まれ故郷が日本であることを疑いたくなるような私の返答に、


    店員が神経質そうに眉をピクリと動かし、

    雪花が受話器の向こうで「ん?何って?」と訝しげな声を上げる。


    「ちょっ・・と、待って」


    ダイナ、まさか、
    あの夜の事を雪花に話したのか?

    なぜ?

    私はどう答えればいいのだ?


    私が窮地に立たされている事など知らない店員は、

    ご注文は?

    と言った切り、笑顔で固まり続けている。


    私は電話のマイクを口元からずらし、

    ラテをトールサイズで早口に頼み、

    カスタマイズは割愛して「それから」と、
    カウンターに敷かれたサイドメニュー欄を選びにかかった。


    並んでいる間に、アボガドとトマトのサラダにしようと決めていたのだが、
    私が指差したのは、

    何故かその隣のメニューだった。


    「真イカと海老のシーフードサラダですね?」


    と繰り返した店員の言葉に、

    『いいえ、イカはあまり好きではないんです』

    とは言えず、


    黙って頷いた。




    フードの番号札を受け取って左にずれると、


     −ちょっと、何なのよ?−


    と、しびれを切らして雪花がしゃくり上げた。


    「ごめん。・・それで、ダイナが、何だって?」



    声に動揺が表れないよう注意しながら、

    私は店内を見回し、奥のコーナー席が空いているのを確認する。



     −何だってじゃあないわよ。バーで飲んだ日以来、アンタからまったく連絡が来ないって、ダイナ怒ってたわよ」

    「え?連絡?」

     −番号、渡されたんでしょう?−


    思わずトレーに載せてある楕円形のフード番号札を見たが、


    ああ、そうだと私は思い出した。



    あの日、

    遅刻ギリギリの時刻に飛び起きた私が、
    ベッドを抜けて出勤の用意をしている間、

    ダイナはいかにも低血圧そうな不機嫌な顔つきでコーヒーをすすっていたのだが、


    それじゃあと部屋を出て行こうとした私に、

    自分の連絡先を書いたメモを寄越したのだった。


    Queen's Birth以来の所長と事務所で顔を合わせる事を考えると、
    あの時はそれどころではなく、

    それきり今まですっかり忘れてしまっていた。



    そういえばあのメモはどうしたのだろう。

    席に向かって歩きながら考える。

    捨てた覚えもないから恐らく手帳のカバーに挟んであるのだろう。


    言われてみれば、ダイナの方はこっちの連絡先を知らないのだ。



     −まぁ、私が帰った後、そこまで二人で盛り上がった訳じゃないだろうしね。
      番号渡されたって社交辞令かもしれないし、なかなか本当に電話掛けようって気になれないのも分かるけどさ−


    あ・・そう、か。


    それだけか。


    力が抜けた。


    あの夜の淫らな秘密は未だ秘密のままで、

    太陽の下に放り出されてはいないのだと知った私は、


    安堵のあまり、辿り着いた席のソファに落ちるように座った。



    弾みでトレーの上のカップがぐらつく。



    「ごめんごめん。そっか、なるほどね」


     −何がなるほどよ。昨夜遅くにダイナがお店に来たのよ。まったくフォローするの大変だったのよ?
      ルイ子は私が彼氏に会う為にあの日帰ったって事、バラしたっていうのにね−


    「えぇ?ああ、ごめん。あれね。でも私が言わなくても、ダイナ気付いてたわよ。その事で責められたの?」


     −“彼氏と仲良くね”って、サラッと言われただけよ−


    「よかったじゃない」 すっかり気を楽にした私はリラックスした気分でカップに口を付けた。


     −“よかないわよちっとも!私にはもはや興味ナシって感じよ。ルイ子の事は、だいぶ気に入ったみたいだけど−


    「え、そうなの?ふーん」


    鼻腔から、口の中から、深く染み入る豆の香りについつい間の抜けた相槌を打つ。
    胃が空腹で伸縮し、イカのサラダでさえ待ち遠しく感じる。


    番号札をテーブルの脚に付いたフックに掛けた。


     −ふーんじゃないわよ。それなのにアンタときたらさ。あのダイナから番号教えられて、放っておくなんて。
      ほんと、フォローした私に感謝すべきよ−


    フンッと鼻を鳴らす雪花の様子が目に浮かぶ。


    「ありがと。フォローって、どうやって?」 なんの気なしに私はそう訊いた。


     −“あの人、売れっ子弁護士なもので、寝る暇もないくらい忙しいんだと思います。私のメールにも返事さえしませんもの”
      って言っておいたわよ−





    コーヒーを飲み込むはずみで鳴った喉の音が、

    やけに大きく耳に響いた。




    嫌な、


    予感がする。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19756 ]
■19646 / 1階層)  ■あおいさん
□投稿者/ ぎのご 一般♪(2回)-(2007/08/06(Mon) 13:11:55)
    ギク……やはり濁点多いか(-_-;)

    久しく感想書いてなかったのて゛名前忘れてしまいましたよ…って、さすがあおいさんスルドイですね(-_☆)キラリ そのスルドサでこの猛暑をのりきってください(←意味不)
    ルイ子と同じくイカが苦手なことに喜びのぎのごでした☆

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19646 ] / 返信無し
■19756 / 2階層)  ◆ぎのごさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(27回)-(2007/08/11(Sat) 02:11:10)
    イカ、お嫌いですか。

    私は大好きですよ。
    特にお刺身。

    ヤリイカ、アカイカ、
    こりこり系が好きです。

    タコも好きです。

    ナマコは嫌いです。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19760 ]
■19755 / 1階層)  ALICE 【58】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(26回)-(2007/08/11(Sat) 02:09:34)
    「もしかして、私がどこの事務所に所属してるのか、ダイナに言っ・・」


     −勿論!−


    雪花のしてやったりな声が響いた。





    ・・ああ、やってしまった。





     −自慢出来る部分は、しとかないとね。ん?何?まずかったの?−


    「いや、大丈夫」



    勿論、全然、大丈夫ではない。


    あまかった。

    こんな経路でボロが出るとは。



    忘れていた先刻までの検察官とのやりとりが、
    再び思い煩いとなって胸に舞い戻って来る。

    思考がマイナスになってきた、分かり易い証拠だ。



    「ダイナは、どんな反応だった?」


     −“へぇ”ってさ。リアクション薄くてガッカリだったわ。彼女、加賀美絢のこと知らないのかもね。忙しいモデルだし−


    「そう、ね」



    勿論、知らないハズがない。




     −とにかくさ、ちゃんと連絡入れるのよ?−


    「ははは」



    笑うしかないだろう。




     −笑ってんじゃないわよ。じゃあね。 ・・ っと、それから−


    「何?」


     −前も言ったけど、喰われるなよ−


    「…ご忠告どうも」


     −じゃ〜ね−




    “既に喰われました”

    などと言える訳もなかった。







    なんと言う事だ。


    とりあえず頭の中を整理しよう。


    私の立場は今、どれだけ危うい所に位置するのか。



    まず、

    加賀美所長とアリスが、私の知人である事は、
    間違いなくダイナに知られてしまった。


    雪花の寛大な“フォロー”のおかげで。


    『ありがた迷惑』とはまさにこういう事を言うのだ。

    口止めをしていなかった自分が悪いのだけれど。



    しかし、ダイナがあの夜語った、
    忘れられない過去の登場人物が、

    他でもない加賀美絢とアリスであると、

    私が知っているという事は、まだダイナの知る所ではないのだ。



    勿論、訝しがってはいるだろうが。


    あの夜の自分を振り返ってみる。


    忘れられない元恋人、つまりアリスの事を、
    むやみに聞き出そうとしてはいなかっただろうか。

    不自然なほど、アリスの話に食い付いてはいなかったろうか。


    意識的に控えてはいた為、大丈夫だとは思うが、

    酔うほどでは無かったとは言え素面ではないのだから、
    完璧に演技を出来ていたとは断定出来ない。


    それはダイナも同じだが。


    だいいち、

    話の最後でそれまで“アイツ”と呼んでいた忘れられない女を、
    つい“アリス”と無意識のうちに口走ったのはダイナの方だ。


    ああ、でも、

    ダイナのこのミスで、私の言い訳の幅がかなり広がるのだろう。




    そうだ、相手がダイナであれば、

    いくらでも誤魔化しが利く。


    例え、


    全てが始まったあの日に、
    アリスを乗せて真っ青なスポーツカーを振り切ったのが私だと、ダイナが知ったとしても、

    大した事ではない。


    彼女が復讐にどれだけ精を注ぎ込む性格かは分からないが、
    殺されはしないだろう。



    そう、ダイナは、問題ではないのだ。

    アリスに知られなければよいのだ。


    言い換えれば、


    アリスにだけは知られてはいけないのだ。



    ダイナと寝たことを。



    それを防ぐ為には、やはりダイナを何としてでも誤魔化さねばなるまい。






    だけど、



    私とダイナの一夜を知ったからと言って、

    アリスが何をする訳でもないとは思う。




    だから、ただ、私が嫌なのだ。

    アリスに知られたくないのだ。


    なぜ?


    それは、多分・・・



    アリスには、

    私といる時に、安らぎを感じて欲しいと、願うから。



    それから、

    アリスの心に傷を付ける可能性のある事は、

    少しでも避けたいというのが私の本音だ。




    本当の信頼や安らぎを求める場合、

    男女の関係、
    いやこの場合、女女と言うべきか、

    恋愛関係、しいては肉体関係は邪魔だ。


    アリスは少なくともダイナに好感を持ってはいないだろうし。



    事は、慎重に運ばねばならない。



    まず、今私に迫られている決断は。



    ダイナに連絡をするか、しないか。



    これは、前者だろう。


    今ダイナに反感を持たれては、
    どこでアリスにあの一夜が伝わるか分からない。


    それから、ダイナからはもう少し、得られるかも知れない情報もある。


    次に、


    あの夜ホテルでダイナが語った過去の恋人と、彼女を奪った人間が、
    自分の同僚と上司だという事実に、

    私は気付いてるのだと打ち明けるか、それとも白を切るか。


    アリスに関する情報を得る目的でダイナと接触するのであれば、

    これも前者を選ぶ事になる。


    肝心なのは、打ち明ける程度だ。


    ダイナの気分を害さない方法を取らねばならない。


    まぁ、既に現時点でダイナが私に敵意を抱いていたなら、
    元も子もないが。


    雪花から私の所属事務所を聞いて、

    どれ程警戒しているか、だな。


    案外、
    ただの偶然としか考えていないかもしれない。



    推測したところで、前にも後ろにも進まない。



    隣のソファに置いていたバッグをたぐり寄せると、


    お待たせ致しましたと、女性の店員がテーブルの上に白い深皿を置いた。


    「13番のお客様、真イカと海老のシーフードサラダでございます」


    彼女は感じ良くニコッと笑うと、
    番号札を回収して去って行った。



    ドレッシングの酸い匂いが食欲を刺激したが、

    フォークではなくバッグの中のシステム手帳に手を伸ばした。



    主に名刺を収納してあるカバーの内側を探ると、

    やはり目当ての物がそこから出て来た。




    “ Dinah 090-xxxx-xxxx ”


    ホテルのウェルカム・スイーツに添えてあった、
    品書きのカードの余白部分に、

    青いペンでそう書かれている。


    私は携帯電話を開いて、
    番号を入力した。


    発信ボタンを押す前に、
    深呼吸する。


    魚介の香りが鼻腔に入り込み、
    余計に胃が下がった。



    ボタンを押して、電話を耳に当てる。





     −Hello!?−


    ワンコール目でいきなり威勢の良い声が響いた。


    戸惑いながらも私は声を落ち着け、

    「ダイナ?」

    と返答した。


     −そうですよ。貴方は?−


    「ルイ子です。分かりますか?」



    3秒ほど置いて、

     −久しぶり−

    と、返ってきた。

    明らかに落とされたトーンから、
    警戒心が伝わってくる。


    「お久しぶり。忙しいと思って、掛けるタイミングが分からなかったの」


     −雪花ね−


    「ええ、今、彼女と電話で話してたところ。どう?元気?」


     −ごめん、今時間無いのよ−


    「あ、ごめんなさい。それじゃあまた・・」


     −来週月曜、この間のホテルのバーで−


    「え?」


     −10時、午後よ。待ってるわ−



    私の返事を待つ気など到底無いという速さで、
    電話は切られた。


    アリスと恋仲になる女は、
    どうしてこうも強引なのだろう。



    とにかく、

    私が加賀美絢の事務所で働いているという事実が、
    やはりただの偶然だとはみなされていない事はハッキリした。



    溜息をついて握ったフォークは、
    私の心のように重かった。


    白いイカの輪を刺して口に含むと、

    やはり私の嫌いな味がした。



    予想もしなかったほどのスピードで整えられた駆け引きの舞台に向けて、

    エネルギーを溜め込むかのように、



    私はそれを黙々と食べ出した。
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▲[ 19755 ] / ▼[ 19764 ]
■19760 / 2階層)  i love you
□投稿者/ kanan 一般♪(1回)-(2007/08/11(Sat) 22:21:20)
    突然失礼します。カナンという者デス。
    カコログにも戻ってALICE全作品一気読みしまシタ!
    心打たれます、、、すごく奇麗な文章デスね(〃´Δ`)
    小説を読みすすめている間にすっかり虜になりましたデス、、、
    アタシは昼間ふつうのオフィスレディーしてマス。たぶんあおいしのさんより年上↑↑のような気がしますよ。
    あおいさんは言葉遣いしっかりしてますけどかなり若い予感デス。
    アタシはいちお法律のオシゴトに就いています、どじっ子デスが頑張って社会人してます(-ω-;)
    よければアタシのプロフ見てくだサイ!
    前略プロフィールというホームページの8639683デス。
    小説これからもがんばってくだサイ!
    それからそれからもしよければあおいサンのプロフも教えてもらえたら嬉しいのデス!
    それからそれからもしよければあおいサンのプロフも教えてもらえたら嬉しいのデス!
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▲[ 19760 ] / 返信無し
■19764 / 3階層)  ◆kananさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(30回)-(2007/08/13(Mon) 04:19:35)
    メッセージありがとうございます、
    綺麗なお名前ですね。

    プロフィール、拝見致しました。
    凄いですね、気の向くままにウィーンにまで行ってしまわれるとは。
    行動力のある人は素敵だと思います。

    私のプロフィールということですが、
    それは身長・体重のような事で良いのでしょうか。
    172センチ、上から90・60・85
    とか言ってみたいものですね。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / ▼[ 19765 ]
■19763 / 1階層)  ALICE 【59】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(29回)-(2007/08/13(Mon) 04:13:16)
    ホテルの前にタクシーが到着した時、

    時刻は約束の15分前だった。



    ロビーのレストルームで簡単にメイクを直し、

    気合いを入れて、


    25階のバーに辿り着いた時、

    時刻は約束の5分前だった。



    バーカウンターには既に、
    以前と同じ位置に腰を下ろすダイナの後ろ姿があった。


    先回も思った事だが、

    脚の長さが尋常じゃない所為で、
    座っている姿では、185センチもあるとはとても信じられない。


    立たれた瞬間に、グンと背が伸びたように感じる。



    この間の夜も、

    雪花と私が到着した時にはダイナはこの席に座っていたのだが、

    あの時は近付いてみるまで彼女だと判別出来なかった。


    2度目の今は、背中が大胆に空いたトップスを着ている彼女が、
    ダイナであると認識できるが、

    何か、

    前より背中が寂しげに感じる。


    気のせいかも知れないが。




    「こんばんは」


    そう言って右のスツールに滑り込んだ私を向いたダイナの表情は、

    前回一瞬で私の緊張をほぐした、
    人なつっこい笑顔とは、

    全く違っていた。


    高いプライドを全面から放出しているようで、

    そうまるで、

    初めてあったあの町中でアリスの前に立ちはだかった、
    高慢なオーラの彼女に似ていると、

    私は感じた。



    「こんばんは」

    そっけない声でそう返したダイナは、

    ロックグラスに三分の一程残っていた、
    濃いブラウンを飲み干して、

    バーテンダーにお代わりの催促をした。


    グラスを退いたのは、

    この間のシャンプーだった。


    私も彼女にスプモーニを頼む。


    今夜は頭を使うのだ。
    強いアルコールはいけない。



    「時間に余裕を持って行動するタイプなのね」

    「え?」 こちらを向かずにダイナが言う。

    「ダイナ、この間も先に待っていて私を迎えてくれたわ。モデルの世界は時間に厳しいの?」

    「まぁ。弁護士ほどではないと思うけど」



    いきなりの先制攻撃がダイナから飛んできたちょうどその時、

    ダイナと私の前にそれぞれのグラスが出された。


    それに気を取られるフリをすることで、
    私は動揺を誤魔化す。


    「そうね。時には数分の遅れが命取りになったりする」


    ダイナはしばらく肘を付き、
    手に持ったグラスを見つめ、

    それから私を向いて、
    ゾッとするほど冷たい瞳で、


    「一体アンタは何を知ってるの?」


    と言った。



    直球に、私の決意が揺らぐ。


    認めるか、それとも白を切るか。



    しかし、

    “何のこと?”

    と返すには長すぎる沈黙を私は空けていた。



    いいのだ。

    最初から、白を切るつもりは無かったのだから。


    焦るな、私。


    全て計画通り。


    大丈夫、上手くやれる。



    言葉を発する前に一度深呼吸をしたかったが、
    ダイナの手前、堪えた。


    「アリスが今、加賀美絢と一緒に住んでいて、
     その前は、ダイナ、貴女と暮らしていたという事を、知っているわ」


    ダイナは、それ見たことかというように、
    顎を上げて見下すように私を睨んだ。


    「目的は何?」


    「目的・・・やっぱり、何か誤解しているのね」


    「誤解!?」

    ダイナがグラスをテーブルに叩き付ける。


    シャンプーが驚いてこちらを向いたが、
    すぐに目を反らし、ボトルを整理し始めた。

    全身が耳になっているに違いない。



    週初めで、しかも22時を回っているからだろう、

    広いフロアには私たちの他に6人の客しかおらず、
    それも3組のカップルで、

    彼等はバーカウンターから離れた、
    上から下までがガラスの壁に添ったテーブルで、

    25階からの夜景を見ながら各々の世界に浸っている。


    ダイナのアクションにこちらを振り向いた者も居たかもしれないが、

    私が見回した頃には、
    こちらに注意を向けている者は誰も居なかった。


    例えこのフロアが満席だったとしても、

    町中でアリスを拉致したダイナのことだ、



    声を控えめになどしなかったろうが。
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▲[ 19763 ] / ▼[ 19771 ]
■19765 / 2階層)  ゎいゎい
□投稿者/ kanan 一般♪(1回)-(2007/08/13(Mon) 10:08:19)
    おはよーございマス!
    コメント返しテンション上がります↑☆
    あおいさんはなんかいつでもクールですね、いいカンジデス。
    アタシは今日は風邪をひいてオシゴトお休みしてしましまシタ、、、
    でもそのおかげで更新読めたからラッキーですね!
    あおいさんのプロフィールも、アタシと同じ前略プロフィールに書いてもらえたら、、、
    無料で登録デキるのでめんどくさくなかったらでいいので(人´Δ`)
    そしてできれば顔写真なんかも見せてほしいデス。
    アップとかじゃなくても隠してたりとかでもヨイですので、あおいさんのイメージを持ちたいというか、スイマセン!
    意味不明デスかね。
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▲[ 19765 ] / ▼[ 19841 ]
■19771 / 3階層)  ◆kananさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(32回)-(2007/08/16(Thu) 00:24:56)
    こんばんは。熱帯夜が続きますね。

    プロフィール、作りました。
    なんだか味気ない感じになったけど。
    画像、全面は出せませんが、
    ホントに小さくて宜しければ。
    5541148です。
    恥ずかしくなってきたら消しちゃいます。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19771 ] / ▼[ 19960 ]
■19841 / 4階層)  NO TITLE
□投稿者/ 摩耶 一般♪(1回)-(2007/08/21(Tue) 22:59:22)
    なんか普通に美人さんなんですけど…
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19841 ] / 返信無し
■19960 / 5階層)  ◆摩耶さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(34回)-(2007/09/05(Wed) 22:09:17)
    普通に、普通ですよ。
    化粧も下手ですし。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19770 / 1階層)  ALICE 【60】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(31回)-(2007/08/16(Thu) 00:14:23)
    2007/08/19(Sun) 01:53:38 編集(投稿者)

    皮肉めいた顔でダイナが笑う。


    「アリスと、あの女と、毎日顔を合わせている人間が、
     立場を隠して私に近付いてきて、そこに目的が無い訳が、無いでしょう」


    「誤解その1、私は自分の立場を隠したつもりはない、
     誤解その2、この間の夜は、私がセッティングしたものではない」


    「それなら何故・・」 ダイナの声が怒りで震える。

    「何故、加賀美絢を知っていると言わなかったのよ」



    大丈夫、計画通りの展開だ。

    私は自分に言い聞かせる。



    「それはダイナ、貴女が私と彼女達の関係を知らなかったように、
     私も、貴女と彼女達の関係を知らなかったからよ」



    ダイナが逆上する前に、

    「この間はね」

    と、すぐに付け足した。



    「この間、ダイナに初めて会った時、」

    まず、嘘その1、

    雪花を交えて三人で飲んだ晩、私がダイナに会うのは二回目だった。



    「貴女が私の上司と同僚と繋がりがあるなんて、私は全く知らないでここに来た」

    嘘その2、

    過去に所長と一触即発のブッキングを済ませているとは知らなかったが、
    アリスとは何かしらの関係があると踏んでいたし、

    だいいちそれだから雪花の誘いを受けたのだ。



    「貴女が過去の恋人の話をしている時、それがアリスの事を言っているだなんて、私に分かるハズも無かった」

    その3、私から巧みに質問を投げかけて、アリスだという確信を得た。



    「恋人を奪った女が弁護士だったと聞いて、それが私の事務所の所長だなんて、思いつきもしなかった」

    すぐに所長だと考えついた。―――その4。



    「でもね、ダイナ、自分では気付いてなかったようだけど、
     話の最後に貴女、これまで“アイツ”としか呼んでなかった昔の恋人を、一度だけ“アリス”って、
     私の前でそう呼んだのよ」



    眉間に皺を寄せて私の話を聞いていたダイナが、
    ハッとしたように背筋を伸ばした。


    そう、それでいい。




    「“アリス”なんて、そうある名前じゃないでしょう。
     聞いた当座は酔っていて、一瞬考えただけで止めてしまったんだけど。
     ダイナと別れた後、昨晩を振り返って、そしたら色んなピースが繋がってきたのよ。
     “有名な弁護士”だとか、そういうのがね。
     アリスと加賀美所長が恋人同士であることは、仕事をしていて既に知っていたしね」






    法廷で嘘偽りを語らないと宣言する私が、

    私生活ですらすらと虚偽を並べ立てている。




    逆よりは、いいか。


    いや、こっちの方がインモラルか。




    ダイナは推し量るように私を見て、

    「あの女の指示で私に近付いたんじゃ、ないのね?」


    と、静かに訊いた。



    「まさか」


    これは、本当にまさかあるハズもない事だ。


    「所長は私とダイナが顔見知りだなんて、全然知らないわ。
     彼女の口から貴女の名を聞いた事も、一度もない」


    「そう」


    と言ったきり、

    ダイナの表情は未だ晴れないままだ。


    少し彼女を一人にした方が良いかも知れない。

    その方がばつの悪い思いをせずに、素直な彼女に戻りやすいだろう。



    なんて、

    本来ばつの悪い思いをすべきなのは私であるのに、

    何を偉そうに。


    私は心で、自分をなじった。



    「ごめん、ちょっとお化粧直し」



    親しすぎず、
    それでいて感じのよい笑顔を作って見せ、


    私は席を立った。







    レストルームに入って、

    鏡の前に立ち、

    流し台の冷たい大理石に手をついて、



    「はぁーーーーーーーーー」



    と、声に出して緊張を解いた。



    疲れた。


    裁判よりも、気を張っていた気がする。


    アリスの夢の話に耳を傾けていた時程ではないが。




    でも、上手くやった。

    ミスは、無いはずだ。




    多少重苦しい気持ちもあるが、

    別にダイナを陥れようとしているのではないと、

    自分を慰める。


    『嘘も方便』という言葉をずっと嫌ってきたが、

    今夜ばかりはこの諺にすがるしかない。




    もう一度ゆっくり息を吐いて、

    フロアに出て行こうとしたが、


    その前に私は洗面台で手を洗った。

    石鹸は使わず、

    ただ流れる水で音を立てずに厳かに。






    そうする事で、

    今しがたこの口が吐いた偽りを荒い流せる訳が無い事は知っていたが、




    センサーが反応しなくなって流水が自動的に止まるまで、

    無心に私はそうしていた。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19798 / 1階層)  ALICE 【61】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(33回)-(2007/08/19(Sun) 02:26:12)
    レストルームからフロアに出、


    席に戻ろうと目線をダイナに向けた私は、

    おやと思った。



    彼女の左横のスツールに座る、人影が見えたからだ。

    空席だらけなのにも関わらず、
    わざわざ詰めて座るという事は、

    知り合いか、

    もしくはナンパでもされているか。



    が、5歩ばかり進んで、


    後ろ姿でも特徴のあるカラーと形から、

    私はそれがバーテンダーの制服であるのに気付いた。



    そしてそれがシャンプーである事にもほぼ同時に気が付いた。



    二人は頬がくっつくほど顔を近付けている。


    『あの大嘘つきめ』と、

    小声で私の噂話でもしているのだろうか。




    まさかとは思いつつも、少し不安になる。




    それにつけても、

    一流ホテルのバーテンダーが、
    客の話し相手になるのにカウンターを抜けるとはどういう事か。

    こんな時リリーだったら一言そう物申しそうだな、

    などと考えながら進んだ私は、


    彼女達の4メートル程手前まで来て、


    我が目を疑った。





    二人がくっつけていたのは頬ではなく、

    唇だったからだ。



    彼女達のキスは、

    糸を引く音が今にも聞こえてきそうな程激しく、

    その生々しいシルエットに見ているこちらが赤面してしまいそうだ。




    幸い他のカップル達は誰も気が付いていないようだが、

    それも時間の問題だろう。



    これは、どうしたものか・・・。



    それ以上進むに進めずに立ちつくしていると、


    唇を合わせたままダイナの開いた背中に腕を回し、

    顔の向きを反転させたシャンプーと、私の、



    目が合った。



    彼女は慌てて腕を外し、

    唇を外し、


    それからダイナに何か耳打ちすると、

    自分の持ち場に早足で戻って行った。



    カウンターコーナーを曲がる際にもう一度私と目が合ったが、

    ばつが悪そうにするどころか、
    彼女の顔は嬉々としていた。


    日本もオープンな国になったものだ。



    やれやれという気持ちで自分のスツールに腰を下ろした私を、

    ダイナが明るい笑顔で迎えた。



    気掛かりも解消し、

    今宵の獲物も確保でき、

    ご満悦といったところか。



    とにかく今夜の私の役目は終わったのだ。


    私もダイナに笑顔を向けた。


    「そろそろ部屋に戻るわ。ルイ子、送ってくれる?」


    「勿論」


    笑顔のまま私は答えた。



    立ち上がった私達に反応し、

    シャンプーが動かしていた手を休めて見送りの姿勢を取ったが、


    歓送とは程遠い、嫉妬に燃えた眼で私を睨んだ。




    そんな顔しなくても、

    ダイナは今夜は貴方のものよ。



    そのメッセージが伝わるように、

    私は遠慮がちな微笑みをシャンプーに向けたが、



    余裕の表れと見えたのか、

    それがかえって嫉妬心を刺激したらしい。



    彼女の憤りに燃える瞳に涙が盛り上がったのに気付いて、


    私は慌てて目を反らした。





    女心のなんと難しいことか。
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▲[ 17281 ] / ▼[ 19961 ]
■19939 / 1階層)  初めまして。
□投稿者/ 六華 一般♪(1回)-(2007/08/30(Thu) 02:18:25)
http://p11.chip.jp/mybloody/
    このお話の書き始めぐらいから拝見させていただいてました。

    いつも早く続きが読みたくなるぐらい楽しみにさせてもらってます。自分は小説書いたりとかあんまり得意じゃないんで純粋に尊敬してます。


    それから勝手ながらプロフ拝見させていただきました。すっごい美人さんだったんでびっくりしました(笑)


    文目茶苦茶ですがこれからも楽しみにさせてもらいます。頑張ってください☆

    (携帯)
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19939 ] / 返信無し
■19961 / 2階層)  ◆六華さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(35回)-(2007/09/05(Wed) 22:13:43)
    パソコンが壊れていました。

    ずっと読んで下さっていたんですか?
    ありがとうございます。嬉しいです。
    だんだん読みにくい内容になっていそうなので、
    途中で読者に逃げられていってるだろうなと、思ってたんです。
    辛抱強く見守って下さったら嬉しいです。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 17281 ] / 返信無し
■19967 / 1階層)  ALICE 【62】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(37回)-(2007/09/07(Fri) 00:51:45)
    前回と同じスイートの、

    二重扉の前まで来ると、



    私を振り返って、「入っていく?」 とダイナが言った。



    なるほど、

    シャンプーが仕事を終えるまでの暇潰しというわけか。


    いいだろう。

    嘘を付いた数だけとは言わないが、

    ワインの1、2杯なら、償いとして付き合わせて頂くとしよう。




    勿論、詫びのつもりである事は秘密だが。



    そうして私は彼女の招きに応じた。



    部屋でスペイン産の白を飲みながら、
    コの字型のソファに角を挟んで座ったダイナと私は、

    たわいもない話をした。


    ここでいうたわいもない話というのは、
    本当に文字通りたわいの無い話で、
    主に海外での仕事中に起きた色々なハプニングや出会った人物について、
    ダイナが身振り手振りを交えながら話していた。


    数十分前まで一触即発の現場の中心にあった、

    アリスと所長については話題の隅にも上らない。



    ダイナが望まないのであれば、
    私も蒸し返す気はなく、

    そちらが仕事の話をするなら私もある程度自分の話題を提供するべきかとも思ったが、

    仕事 イコール 加賀美絢とアリスに繋がる訳で、

    二人の存在をわざと避けながら私のビジネスライフを語るのも、

    きっと聞いている側でさえ不自然な気まずさを感じかねない為、


    結局私は聞き役に徹していた。


    と言っても決して退屈していたのではなく、
    なかなか話し上手なダイナの体験談を、

    私は素直に楽しんで聞いていた。



    それでも今仕事で抱えている案件の事を考えると、
    今夜は早めに帰ってゆっくり自分の部屋で精神を休めたかったので、

    長くても60分で席を立とうと、

    私はワインのコルクが彼女の美しい手によって抜かれた時に、
    腕時計を確認して決めていた。


    残り時間が7分になった時に、

    脈絡も無くダイナが言った。


    「それで、アリスはどう?」


    一瞬、アリスとのキスはどうだったのかと訊かれた気がして、
    動揺した私はグラスを持つ手をビクッと振るわせたが、

    意を決してアリスの名前を出したのか、
    ダイナはダイナで自分に注意をとられているようで、

    私のそぶりには気付いていそうになかった。


    「元気にしてるって事?忙しく働いてるわよ」


    ダイナは 「そう」 と答えると、
    ワインのボトルを持ち上げて私にグラスを傾けるよう促した。


    本当はもう結構という時間になっていたのだが、
    ここに来て上ったアリスの話題を聞き逃す訳にはいかず、

    私はグラスを持った。



    「アリスの事、どう思う?」

    私の意見を本気で聞き出したいというのではなく、
    自分の考えを述べる前フリを求めているような訊き方だと、
    私は思った。

    下手に興味をそそる答え方をして、
    墓穴を掘る訳にはいかない。


    山吹色の水が揺れるグラスをテーブルの上に置き、

    私は迷った時に日本人がよくする曖昧な笑い方をして、
    「んーーー・・」 と言ったきり間を空けた。


    「アリスって、本当変でしょう。謎が多い。って言うよりも謎しかない」

    「ふふ。そうね。ミステリアスよね」

    「でしょう。まぁ、もう関係ないけどね」



    そう言うとダイナは脚を組み替えてソファの背もたれに体重を掛け、

    もう一日の終わりだというような長くリラックスした溜息をついたので、


    これ以上アリスの話題は続きそうにないなと、
    そう思った私は、

    中身を空する為にグラスを持ち上げた。


    「ねぇ」


    掛けられた声に顔を上げると、

    悪戯っぽく目を細めたダイナが腕を組んで言った。



    「アリスの秘密、知りたくない?」







    まだワインを口に含んでもいないのに、

    私の喉がゴクリと鳴った。
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▲[ 17281 ] / ▼[ 19973 ]
■19968 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ 六華 一般♪(2回)-(2007/09/07(Fri) 04:55:45)
    お返事ありがとうございます。

    基本的にあまり長いものは読まないのですが、この作品には心惹かれるものがありまして、楽しく読ませていただいてます。
    ずっと感想とか書かなかったわけですが、考え方だったり視点だったりが面白かったり同意したりとかあってその時ごとに違うことを思ってる自分自身に対しても楽しく感じています。

    文で上手く表せれないのが悔しいですがとにかくこの作品は大好きです。

    (携帯)
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▲[ 19968 ] / 返信無し
■19973 / 2階層)  ◆六華さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(39回)-(2007/09/08(Sat) 02:17:53)
    十分なお言葉です。
    ああそんな風に感じて読んで下さる方もいらっしゃるんだなと、
    じんわりきます。
    嬉しいですね、心からの感想を述べて頂けるのって。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19972 / 1階層)  ALICE 【63】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(38回)-(2007/09/08(Sat) 02:13:04)
    「あの娘の秘密かぁ。ちょっと興味あるわね」



    アリスのことを“あの娘”と、
    わざと疎遠に響く三人称を使って呼ぶことで、


    私はあくまでもアリス個人にではなく噂話に興味を抱いたフリをした。



    「大した事じゃあないかもしれないけど」



    ダイナが腰を少し上げて、

    私に寄り添う程近くに移動した。



    胸が高鳴る。

    病気のこと?
    お金のこと?
    それとも過去の女性遍歴?
    あるいは男性遍歴?



    もしかして、“魔女”の事?

    ダイナは魔女の正体を知っているのだろうか。


    十年も悩まされ続けてきた悪夢の事を、
    誰かに話すのは初めてだとアリスは私に言ったけれど、

    夢の話や魔女の話、
    本当はダイナにはもっと深く打ち明けていたりしたのかな。


    だったら少しショックかも。


    なんて、そんな風にふと感じて、

    私は自分に少し失望した。


    バカじゃないのか。私。

    小さい人間。


    きっと少し酔ってきたんだわ。



    「実はね」




    だいいち、大したことじゃ、

    本当にないかもしれない。


    『アリスって、よく寝言で“魔女”に追い掛けられてるのよ。子供みたいでしょ』


    そんな事かもしれない。




    やはり少し酔いが回ってきたのだろう、

    もはやダイナの言葉など上の空になりかけていた時だった。












    「彼女、偽名よ」






























    頭の中で何かが弾けたように、

    私の脳が酔いから、そして閃きに覚醒した。




    ダイナの言葉が耳に木霊する。



    “偽名よ”



    じゃあ、本当の名は?






    ―――藤鷲塚





    それだ。


    アリスの苗字は【園真井】なんかじゃない。



    藤鷲塚、藤鷲塚紅乃の藤鷲塚。



    やっぱり二人は血縁関係にあるのだ。





    興奮を抑えて、

    私はダイナに言った。



    「じゃあ、本当は園真井じゃなくて、何ていうの?」


    ダイナは、

    アリスの本当の苗字を知って、
    あの藤鷲塚と結び付けはしなかったのだろうか。

    案外、この間までの私のように、
    紅野心が藤鷲塚の一族である事を知らないのかもしれない。



    「違うわよ、園真井じゃない」

    「うん、園真井じゃなくて、何?」


    そんなに勿体ぶられても。
    本当は既に知っているのだけれど。


    ここは演技をするしかないだろう。





    「だから、違うんだって。偽名は苗字じゃなくて、“アリス”の方よ」






    ・・・え?





    言葉を失った私は、

    ダイナの口から出た次の言葉に、



    さらに愕然とした。
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▲[ 17281 ] / 返信無し
■19974 / 1階層)  ALICE 【64】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(40回)-(2007/09/08(Sat) 02:25:36)
    「クレノ」



    ダイナは、確かにそう言った。

    疑いようもなく、鮮明な、よく通る声で。





    それでも私は、聞き返さずにはいられなかった。






    「・・・クレノ??」



    「そう、KURENO。知ってた?」




    私はかぶりを振る。




    「やっぱり何処ででも【アリス】で通してるのね。
     何となくパスポートを見た時にそう書いてあったの。ローマ字でね。
     ソノマイ クレノが本名。アリスじゃ、ない」



    ・・まさか、こんな事になろうとは。



    「その事、本人には言ったの?」

    「言ったわよ。“何コレ、ここに書いてあるの。アンタ、ホントはクレノっていうの?”ってね。
     そしたら何て答えたと思う?私からパスポートをふんだくって、“それが何?”だって。えっらそうに」


    その時感じた腹立ちを思い出したのか、

    ダイナはやたら感情のこもった、とげとげしい声で言った。



    「ま、苗字を誤魔化してるなら、何か大きな理由でもあるのかとも思うけど。犯罪とかね。
     下の名前だしね、ただの気まぐれか何かだと思うわよ。
     でもルイ子も、仕事でアリスにムカつく事があったら、言ってやれば?
     “本当はクレノって言うんだって?”ってね。ちょっとムキになるアイツが見られるかもよ」


    そう言ってダイナは面白そうにククッと笑った。







    私の頭の中を、


    あの夜、アリスが夢にうなされた夜に聞いた数々の単語や言葉が散乱する。





    魔女。


    魔女の名前。


    自分でアリスと名付けた。


    男。


    真白が魔女に殺された。


    居なくなった母親。


    帰って来ない父親。







    冷静に考えれば、

    この不可解なピースで、巨大なパズルの四隅だけでも埋められる・・・!!






    そう思った私は、


    「そっか、偽名か。いつか使う時が来たら、その手でからかってみるわね」


    と笑って、

    一気にワインを飲み干した。





    「ごちそうさまでした。そろそろ、帰るわね」

    「帰るですって!?なんで?まだ早いでしょ?」


    ダイナにしても、シャンプーとの夜遊びを待ちわびているハズなのに、

    彼女は私の帰宅宣言に過剰に反応して眉をひそめた。



    「いや、仕事もあるしね。もう眠らないと」

    「泊まっていけばいいじゃない。前みたいに」



    今度は私が眉をひそめる番だった。


    「ダイナ・・私は複数でsexする趣味はないのよ。彼女と二人で楽しんで」

    「・・・何言ってるの?彼女って?」


    この後に及んで誤魔化す目的は何だろうか。
    好みの女を相手にしている時は、
    とりあえず他の女への興味を隠すというポリシーだろうか。



    「バーテンダーの彼女よ」

    そう言って私はグラスに付いた口紅をバッグから取り出したハンカチで拭った。


    「バーテンダーの彼女?ここのバーの?何で?あんなの呼ぶ訳ないじゃない!」

    「あんなのって・・。さっきの濃厚なキスの続きをここでするんでしょう?」

    「しっっないわよ!さっきのキスは・・ルイ子の反応が見たくてしただけ」



    それこそ何の為に。

    何でもいいが、とにかく早く帰りたい。

    私は巨大なジグソーパズルを抱えているのだ。



    「そうなの?まぁ、よく分からないけど。とにかく仕事もあるし、帰るわね。
     今日はありがとう。最後には笑ってくれて良かったわ」


    立ち上がって踵を返すと、
    後ろから腕を掴まれた。


    「どうして帰るの?態度が悪かった事は謝るから!」



    バーを出て以来初めてその話題に触れたダイナを振り返って見ると、
    泣きそうな顔をしていた。


    「ううん、誤解してたんだから、怒って当然だったのよ。気にしてないわ」

    「違うのよ」


    ・・・何が?


    「私の悪い癖なの」


    ・・・だから何が?


    「惚れてる相手と喧嘩すると、高飛車で、凄く嫌な感じになるの」



    なるほど。

    アリスを拉致した時も、見事な高飛車ぶりだった。



    ・・・え・・


    それじゃまるで、

    ダイナが私に惚れてるような言い方ではないか。
    冗談でしょ。


    「なんとか言ってよ」

    黙ったままでいる私の腕を、
    ダイナが揺さぶる。


    「う、ん」


    「ルイ子があの女のところで働いてるって知った時、腹が立った。
     けどそれよりも、ショックだった。
     ルイ子が何か目的があって私に近付いたんだって思うと、悲しかったわ凄く」



    それが、

    今日私が見た寂しげな背中の理由だと?



    「他の誰でもダメだったの。イイ男も、イイ女も。一般人も、業界人も。
     誰と居てもアリスを忘れる事が出来なかった。
     でも、ルイ子には何かを感じたの。
     あんな風に、アリスとの過去を誰かに打ち明けるなんて、今まで無かった事なのよ」



    止めどなく自分の気持ちを吐き出すダイナを前に、
    私はただ驚いて、相槌も打てずにいた。

    容姿がタイプであった故に私と肉体関係を持ったのだろうし、

    それなりに自分がダイナに気に入られていることは、感じていた。


    が、それは“遊び”の一環なのだと信じて疑わなかった。


    ダイナが私を気に入っているという雪花の見解を聞いた時も、

    きっとダイナは私を自分の数あるコレクションの中に加えようとしているのだとしか、
    思わなかった。


    だって、


    アリスに惚れた人間が、

    何をどう間違えればその穴埋めに私を選出するというのだろう。

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▲[ 17281 ] / ▼[ 19993 ]
■19978 / 1階層)  ALICE 【65】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(44回)-(2007/09/08(Sat) 02:36:52)
    「だから、何か言ってよ」

    少し怒ったようにダイナが私を急かす。



    「ダイナ、分からないわ。どうして私なの?」



    ―――“どうして私なの”


    今まで、どんな男に愛を語られても、言った事のない台詞を私は口にしていた。

    “どうして私?” だなんて、

    そんな卑屈で自意識過剰な言葉、
    頭の中に上った事さえなかった。


    だが今は、

    “どうして私なのか”と、疑問に思わずにはいられない。


    それはダイナが、女の中でも極上の部類だからだろうか。




    「どうしてって・・・」 ダイナが困ったように笑う。


    それは私が初めて見る彼女の表情だった。



    そんな事を感じている場合ではないが、

    とても魅力的だと思った。




    「そんなの、言葉にできるものじゃないわ。
     ただ、ルイ子はこの間の夜、私の舌や指先には夢中になったけど、私自身にはちっともなびかなかった。
     朝、部屋を出て行く時の、ルイ子の顔の未練の無さときたらもう」



    私の腕を放し、お手上げという風にダイナが両手を上げる。


    私は彼女の言葉の色んな部分に自分の顔が赤くなるのを感じた。


    「さっきのキスにも、全然妬いてくれないしね。
     どうせ、電話掛けてこなかったのだって、ただ忘れてただけなんでしょう?」




    バーでの駆け引きで知力を使い果たしたのか、
    上手いフォローの言葉が出てこない。

    あろうことかこのタイミングで私は目を反らしてしまった。




    「ルイ子の心を掴んでいる男が憎いわ。
     その人のところへ向かうのかと思うと、余計に帰したくなくなる」


    ダイナはそう言うと、

    長い指で私の顎を持ち上げた。


    「それって、ただ無いものねだりなだけにも聞こえるわ。手に入りにくいから、欲しがるだけじゃない」

    「でもそれだけじゃないわよ。手に入れ難ければ誰でもいい訳じゃない。
     手に入れたいと思える相手じゃないとダメなんだから」




    顎に添えられたダイナの手を、
    優しく握って引き離す。


    「手に入った途端、捨てるつもりなんでしょう」




    私の手を強く握り返してダイナが不敵な笑みを浮かべる。


    「そんなのやってみなければ分からないじゃない?
     それとも何、ルイ子は死ぬまで自分を大切にしてくれる保証が無いと、始められない訳?
     恋愛なんて、先が分からなくて当然でしょう?」


    確かに、そうだ。
    だいいち私は一生モノの愛を求めて恋愛をするタイプでは元からない。

    ダイナの方も、そんな私の価値観を見抜いているのだと思う。



    「ねぇ、ルイ子。
     私の言ってる事って、イケナイ事?
     私のやってる事って、イケナイ事?」



    ダイナはそう言うと空いている方の手を私の腰に回し、

    自分の体にぐいと引き寄せた。



    ダイナの色香漂う瞳を私が真っ直ぐに見つめ返すやいなや、


    彼女は私の首筋を下から上へ舐め上げた。




    彼女の絡みつく腕や舌を、

    私は振り払えずに居た。


    沢山の嘘でアリスの情報を聞き出した私は、
    それなりの報酬を与えなければならない気がしたのだ。


    そして、

    ダイナ程の女に、
    私への恋心を赤裸々に告白させたことに、
    言い様のない躊躇いと、罪悪感さえ感じていた。


    私も同じように心の内をさらけ出すことが出来ない代わりに、

    体を開く事が、


    せめてもの償いになるのならと、



    そんな低俗で卑しい考えに私は支配されつつあった。








    私が抵抗せずにいると、

    ダイナはその滑らかな舌を首筋から唇へ移動させ、
    私の口を塞いだ。


    そうしてあっという間に私のブラウスのボタンを外し、

    下着を投げ捨てて、


    露わになった私の乳房にかぶりついた。





    「ねぇ、イケナイ事?こんなに素敵な事が、間違いなの?」



    笑いながらそう繰り返し、

    ダイナは手品師のように瞬く間に私を産まれたままの姿に変えた。







    ―――いけなくは、ない。



    ただ、

    ダイナ、


    貴女の間違いは、



    私の心を掴んで放さないその人は、


    部屋に住み着く黒猫のような男ではなくて―――。














    快楽に遠のく意識の中で、




    私はアリスの名を呼んだ。
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19978 ] / ▼[ 20005 ]
■19993 / 2階層)  拝見させて頂きました。
□投稿者/ れい 一般♪(9回)-(2007/09/09(Sun) 04:01:09)
    一気に作品に引き込まれてしまいました。

    面白いです。心から。

    あおい志乃さんの作品は、
    前のタイトルに金魚が付いている
    小説を読ませて頂いておりまして、
    その頃から「頭のいい人の書く文章だな〜」と
    思いながら拝見させて頂いておりました。

    こちらの作品、本当に書き出しの頃に
    一度拝見させて頂いておりましたが、
    ゆっくり更新ということだったのでずっと
    チェックせず、寝かしておきました(笑)

    そろそろ、と思い、読んだのですが、
    引き込まれて、最初からこんな時間まで
    一気に読んでしまいました。

    いや、本当めっちゃ面白かったです。
    寝かしといて、良かった。


    更新、心より楽しみにしております。
    ゆっくり、頑張ってください。

    完結されるのを楽しみにしております。

[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 19993 ] / 返信無し
■20005 / 3階層)  ◆れいさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(45回)-(2007/09/11(Tue) 03:12:44)
    こんばんは。メッセージありがとうございます。

    4時ですよ!
    夜更かしです!
    そんなに遅くまで、時間を割いて作品に目を通して頂けて、
    とっても嬉しいです。

    寝かせて下さってたんですね。
    でも、この話、まだ折り返し地点にも到達していないようなんです。
    もう少し寝かせておけばよかった!と後悔なさるかも・・
    ごめんなさいねーー。ダラで。。

    すぐ下のツリーにれいさんのお名前がありました。
    【うさぎ病】の作者様ですね?
    拝読致しました。
    れいさんは、ワーカホリックな方かな?と思いました。
    それと、オシャレなライフスタイルを確立していらっしゃいそう。
    そんな雰囲気を文節の間から感じました。

    勝手な印象です。
    全然違ったらご免なさい!


    秋ですねーー。
    今年こそ紅葉満喫!
[ 親 17281 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/


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