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scene-before3years.0122
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□投稿者/ もの 一般♪(2回)-(2012/10/08(Mon) 18:24:48)
| 「ふーらーれーたー…」
益田がそう電話してきたのが、今から大体13時間も前。 もう2年も3年も前からくっついたり別れたりしてきた彼女と、ついに今日、本当に破局したらしい。 にも関わらず益田がどうしようもない程荒れたりしていないのは、もう随分前から今日のことを予感していたからだろう。
益田の彼女は私に言わせれば、端的に言えば、あざといこだった。 益田がそういうところを好きなことも分かっていて、愚痴に付き合いながらいらいらした日もあったんだから、私なんていう人間も相当マゾい。
なんだかんだと沈んだ顔はしている彼女を飲みに誘ったけれど、人のいるところでは口数が少なくて。 ただ料理ばかり見ているから、程よく酒が入ったところで自宅に誘った。 それが夜中過ぎ。 飲んだり、寝たり、DVD見たり、そんな風にしながらぽつぽつと零れる益田の言葉を全部聞いて、拾った。 どれだけ好きだったかよく知っているから、どれだけ同じことが繰り返されても面倒だとは思わなかった。
一頻り飲んだり食べたりすれば、いくら在庫豊富な私の冷蔵庫の中身もそろそろ心もとなくなってくる朝。 勿論、心もとないのは酒類部門だけれど。 お互い仕事のない日曜日。二人でなんとなく、言葉にすることもなく、コンビニへ向かう朝。
益田は来た時の格好そのまま、ジーンズに深い緑のファー付きジャケット。 私はもういい加減着古して捨てた方がいいだろうという感じの、擦り切れかけたジャージプラス白色パーカー。 指先があんまりにも寒いからポケットに突っ込んで擦り合わせていたら、隣にいる益田も同じことをしていたから、なんだかおかしくなった。
二人とも無言。 喋ることもないし? 唇から零れる息が白い。 あー…そうだ、煙草買おう。そろそろ切れるんだった。
「なんか、さ」
「ん?」
益田の声が弱い。 横を見たらちょっと笑ったりなんかしている。 あーもう、嫌だな。そんな遠く、見ないでよ。戻って来い。
「人のでもいいから、…傍、……居て欲しかった」
「……………」
背の高い益田を睨みつけると、自然と視線が上を向く。
「そういうこと言う?」
「…だって、ほんとだし…」
こいつ、本当に、だめなやつ。 そんなことちっとも思ってないくせに。 本当は、誰のものでもなく自分のものでいて欲しかったくせに。 自分で分かってて言っているから、そんな風に遠く見て笑うことになるんだって、知ってるんなら、さあ。 言うな。
でも、私は黙っていた。
本人が分かっているだろうことを、もう一度他人が言うなんて馬鹿げている。 だから代わりに空を見た。
「煙草買わなくちゃなあ。切れそう」
「灯子、禁煙しなよ……」
余計なお世話だっつーの。
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