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scene-before3years.0122
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□投稿者/ もの 一般♪(3回)-(2012/10/08(Mon) 18:49:13)
| 益田と私は高校の同級生だった。 今時?って思われるかも知れないけど、私はどっちかっていうとヤンキーみたいなすれたグループにいて、美術部の益田は穏やかな人たちばかりが集まる、地味なグループの成員だった。 だから当然の如く関わりなんて何もなくて。 でも、私は割りと始めの方から益田が気になっていたんだから、今思えば長い片思い。
高校入学当時から益田は背が高くて、156cmあるかないかの私は羨ましい人だなあなんて思っていた。 それが、入学式で益田を見た第一印象。 正面から見たら、綺麗な子だなと思った。 綺麗っていうか…造りが繊細? 私は鋭い猫目で造作もきついし、どうやら表情も冷たいみたいで、よく怖い、って言われていた。 チビだけど怖いってどういうことよ、と思いながら、可愛いなんて言われるよりは嬉しかったから、あーそって。 そんな自分を受け入れていたけど。 でも、益田を見たら、この人私の理想だって思ってしまったんだよね。 全体的に色素が薄くて、優しい顔立ちをしていて。 睫が長くて、顔の濃くない外国人みたいな。
「……何?」
コンビニに入ると中が暖か過ぎて脱力。 そのままぼんやり益田の顔なんか鑑賞してしまっていたらしい。 不思議そうに聞かれたから眉をしかめたら、益田が笑った。
「また、そんな顔してる」
「不機嫌そうな?」
「うん」
「………慣れてんでしょ」
「うん」
口数の少ない益田は、私といても大体聞いていることが多い。 高校の頃からグループの中では聞き役をやっていた。 大勢に囲まれて大勢の話を聴いているけれど、自分からはあんまり喋っている様子のない益田が、気になっていた。 十代の女の子って構って欲しがりじゃない?自分の話、沢山しない? でもあの人は穏やかに笑いながら聞いているだけだなあと思ったら、なんだか気になって。
「灯子ー」
「何?」
「もうこれくらいでいいんじゃない?」
益田の声を合図に会計をして、行きと同じ道を帰る。 私達は行きよりも更に無口で。
なんでだろう、コンビニなんて人の多い空間に出向いたからだろうか。 それとも途中で、益田が手に取っていた炭酸飲料のせいだろうか。 益田が、彼女が好きだからなんて、いかにも幸せボケしたへらへら笑いでそれを買い込んでいるのを、幾度か見たことがある。
隣を行く足は長くて、歩幅も大きいから、自然私は早足になる。 益田はさあ、絶対、気付いてないけど。
コンクリートの上、彼女の歩幅に合わせて歩くことに専念していたら、益田がぽつりと言った。
「………一人だなあ」
「………………」
自分が思わず半眼になったのが分かる。 あーあーあー。 それは他のどの台詞より言っちゃいけない台詞でしょうが。 隣に誰がいるか、見えてないの!?あんたの親友、灯子様でしょうが。 私の怒りのオーラが伝わったらしく、こっちを見た益田がへらへら笑う。 幸せそうじゃない、なんだか諦めたみたいな顔で。
「違うよ、そういう意味じゃないよ」
「知ってるっつーの」
地を這う自分の声。でも気遣ったりなんかしない。 仕事の後の半日と、貴重な休日を潰して付き合っているのにその台詞はあんまりだ。 思い切り睨みつけたら、嬉しそうに益田が微笑む。 何こいつ、前から思ってたけどMなんじゃない?
「……灯子、いつも変わんないね」
「それ、10年後にもっかい言って。30越えたらきっと喜ぶから」
「……救われてるなあ」
そうでしょ? 当たり前でしょ。
この私があんたのために、どれだけ我慢して苦労して、今の私になったと思ってるんだろう。 この私がそれだけやってるんだから、あんたはそうやって救われてくれてないと困る。 コンビニで買った煙草に、もとからパーカーのポケットに入っていたプラスチックの安物ライターで火をつける。 あー…煙草美味い。
「帰ろ、寒い」
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