ビアンエッセイ♪

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■22243 / 2階層)   GLOOVE
□投稿者/ 気まぐれメガネ 一般♪(3回)-(2017/10/27(Fri) 16:58:56)
    ―― No.3  中で響く音  ――


    「私、美味しそうなパスタ屋さん調べといたんだ」



    そう言いながらコーヒー豆はスマホのブラウザを開いた。
    途端に大音量で音楽が流れ出す。



    「うわー!ちょっ!!待って待って待ってぇー!!」




    なるほど、コーヒー豆はドジ・・・っと。
    心のメモ帳に書き記しておこう。
    さらにメモ帳に書くため、質問をしてみる。



    「今の曲は誰の曲?」


    「西城秀樹だよ」


    「え!?え・・・っとぉ、え!?
     西城秀樹って、あの、昭和歌謡の西城秀樹?」


    「うん!私ね、今昭和歌謡にハマってるんだぁ」


    「そ、そっか。お母さんの影響とか?」


    「ううん。お母さんはSMAP聴いてるよー。
     解散って聞いたときは庭に記念碑建てるって言ってさー。
     止めるの大変だったんだからー」


    「ええ!?おか、おか、お母さん!?記念碑!?」


    「お父さんはビリー聴いてるな」


    「ビリーって、どこのビリーかな?」


    「もちろんビリージョエルだよぉー!!ミューさん面白ぉーい!」





    豆ファミリーの方がよっぽど面白いわ。
    どんな豆たちだよ。



    「あ、パスタ屋さん、あっちみたい」



    スマホの地図を見ながら歩きだしたコーヒー豆についていく。
    雨は上がり、相合傘はできそうもない。
    まぁいい、チャンスは必ずやってくる。



    「そう考えたらさ、私はお父さんの影響を受けてるんだなぁ」


    「え?ビリー・ジョエル?」


    「うん。ビリー・ジョエルってさ、アメリカの昭和歌謡みたいなものじゃない?」


    「え・・・っと、まぁ、うん、年代的にはそうなる・・・のかな」


    「じゃ、私はお父さんの影響です!」



    と言いながら私の目をのぞき込んできたコーヒー豆に、ちょっとドキッとしてしまった。
    コーヒー豆は私より低身長なので、上目遣いがなんともエロイ。
    慌てて視線を足元へと外す。
    ドキッとしたことがバレないように、なんとか次の会話をひねり出さねば。



    「あっちだ」



    と言いながら突然右折したコーヒー豆になんとかついていき、
    ひねり出した質問をしてみる。



    「それで、SMAPの記念碑はどうなったの?」



    言ってからすぐに後悔した。
    あ、この質問広がらないな。
    それよりもっとコーヒー豆自身のことを知りたいのに。


    「なんかね!街中のSMAPのCDを買い占めて、そのCDでタワーみたいな記念碑を作る!って言い出したんだよー!あ、あっちだ」



    今度は左折。

    なんとか気の利いた事を言いたいな、なんかないかな。



    「それは・・・カラスが寄って来なくなるね!」


    「メリット小さいよぉ〜!」



    そう言って歯並びの良い笑顔を見せたコーヒー豆は、とても可愛らしかった。
    ヤッバイ、めっちゃタイプだ。
    どうしよう。
    可愛い人がいいとは思っていたけど、まさかこんなにタイプの人が来るなんて思ってもみなかった。



    「ここだ!」



    突然立ち止まったコーヒー豆に合わせて私も慌てて立ち止まる。
    そして見上げた目線の先には、セブンイレブンが。



    「セブンのパスタが好きなの?」


    「あれ?お店無くなったのかな?」



    心のメモ帳追記。
    コーヒー豆は方向音痴。



    「そんな簡単に無くならないでしょ!
     私に地図、見せてみて?」



    わざとコーヒー豆の顔に近づいて、そっと匂いを嗅ぐ。
    すんすん、なるほど、残念、風下だ、匂わない。

    コーヒー豆が慌ててスマホを私に突き出した。




    「あの、えっと、今度はミューさんが案内して!!」



    絶対照れてるよーーー!!
    可愛いなーーー!!


    ここはお姉さんらしく頼りになるところを見せるチャンスだ。
    スマホを握るコーヒー豆の手を包むように握り、画面だけをこっちに向ける。




    「おけ。
     あぁ、んとー、なるほど、これ、きっと逆だよ。
     最初に右折したところを左折だったんじゃないかな。
     こっちだと思うよ」



    そう言ってコーヒー豆を見ると、完全にそっぽを向いて耳が真っ赤になっていた。
    どうやら私の勘違いでなければ、コーヒー豆は私に好印象を持っているらしい。
    なんて可愛いんだ。
    このまま抱き寄せてしまいたい。

    しかしここは真摯な対応をしよう。
    焦ってはいけない。
    私たちにとっての今日はまだ始まったばかりなのだから。




    パッと手を放し歩き出す。
    コーヒー豆に穏やかな声音で話しかけながら、頭の片隅で考えるんだ、私。
    さっき二つ目の信号機を曲がってきたから、なるほど、こっちだ。
    そして、到着した。




    「イルカの銅像だね」




    コーヒー豆の言葉にそっとうなずくしかなった。
    自信満々に歩いてきたのに!!
    恥ずかしっっっ!!




    もう一度スマホの地図を難しそうな表情でのぞき込むコーヒー豆を、じっと眺めてみる。
    色白の肌。切りそろえられたボブカット。スッと通った鼻筋に、大きくてたれた目。
    ぷっくらと控えめに膨らんだピンク色の唇がとてもとても、それはそれは、なんともいやはや、エロイ。
    もう一度完結に言おう。
    唇が、エロイ。そう、エロイのだ。
    キスしたい。
    その柔らかそうな下唇をそっと咥えて吸いながら舌先でチロチロと・・・





    「分かったぁー!!」



    うわお!!ビックリしたーーん!!
    いきなり大きい声出すから肩がビクって!!ビクってなったわ!!




    「これさ、南口だよ!私たちが居るのは北口でしょ?
     北口と南口の分岐だから、イルカの銅像に戻って来て正解だったんだね!
     ミューさんすごーい!!」



    あぁ、良かった。とりあえずビビったのは気付かれてないっぽい。



    「偶然だけどね(笑)。
     それか、もう一度私が改札から出てくる所からやり直して、今までのこと無かったことにする?」



    コーヒー豆はころころと笑い声をあげ言った。



    「やだよ。せっかくのミューさんとの思い出、なくしたくないよ」



    そう言ってうつむいたコーヒー豆。
    そっと優しく抱き寄せて、その赤く染まった耳にキスしたい。
    なんて可愛いんだろう。
    見た目だけじゃなく、心も可愛い人なんだ。
    愛おしいなぁ・・・



    「で、なんで今ミューさんはビックリしてたの?」




    バレてたぁぁぁああああ!!
    せめてスルーしてほしかったぁぁぁああああ!!




    現実に響くことのない私の心の声は、耳障りなほどの大音響でしばらく心の中に響いていた。
    そしてそっと記そう。
    コーヒー豆は意外と私を観察している、って心のメモ帳に。



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