ビアンエッセイ♪

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■20955 / ResNo.80)  【〜believe in love〜E】
  
□投稿者/ 映美 大御所(263回)-(2008/06/27(Fri) 03:06:00)
    2008/06/27(Fri) 03:08:43 編集(投稿者)



    「断るなんて…本当に後悔しないの? 夢を叶えられるチャンスかもしれないのに…」


    先週、ニューヨーク行きを社長に
    薦められたことをルナは詳しく話してくれた


    『後悔しないよ…。今でなくても チャンスはこれからもきっとあると思うから
    それに いまはエミィがこうして側にいるから…毎日 仕事 頑張れるんだもの』


    「ルナ…」

     
    ルナの強い愛を感じて涙が溢れた
    私たちは離れない…そう信じてた







    予期せぬ出来事が起こったのは
    それから数日後のことだった


    亜紀子の結婚式で友人代表のスピーチを頼まれ
    書いた文を見てもらおうと仕事帰りいつものカフェでルナを待っていた



    約束の時間はもう30分も過ぎていた


    (ルナ どうしたんだろう…?)


    Callしてみたが電波が届かないか…電源が…の
    アナウンスが流れるばかりだった


    忙しいルナにはよく待たされた…


    きっとまた会議か打ち合わせが長引いているのかもしれない
    それか、連絡する間もなく慌てて地下鉄に乗り込んで
    電波の届かない駅を過ぎているのかもしれない


    鳴らない携帯を握り締め…窓ガラス越しに雨の街を見詰めた


    間もなく1時間も過ぎようかという頃だった
    二杯目のカプチーノに口をつけたとき聞きなれた着信音が鳴った


    『エミィ 連絡遅くなってごめんね…。 実は…今日はそっちに行けそうもないの』


    ルナの声はいつになく沈んでいるように響いた


    「まだ仕事が終わらないの ルナ? 私なら大丈夫よ あと少しなら待ってられるわ
    待ちぼうけは慣れてるし(苦笑)」


    『・・・』


    なにか嫌な予感がした


    「ねぇ ルナ なにかあったの?」


    『ん…。あのさ エミィ  私、明日 ニューヨークに行ってくるね』


    「えっ…明日って? そんな急にどうして? 仕事なの ルナ?」


    隣に座ったカップルが私の声に振り返った


    知らずに声のトーンが上がっていたのだろう
    携帯を耳に当てたままカフェの外に慌てて出た


    『詳しいことは戻ってからゆっくり話すわ…エミィには心配かけたくないのよ』


    そのまま電話を切ろうとするルナに訴えた


    「ちょっと待ってルナ…行く理由も教えてくれないなんて すでに心配かけてるじゃない」


    『・・・・』


    数秒間の沈黙があった 


    『実は…さっき リッコのお父さんから連絡があったの…。』


    「お父さんからって…。な…なにかあったの?」


    『…リッコが…睡眠薬を多量に飲んで病院に運ばれたって…』


    「えっ…」


    驚いて声が詰まった


    「そ、それで…リツコさんは?」


    『幸い命には別状はないらしいけどね…』


    ホッと胸を撫で下ろして浮かんだのはリツコの大きな瞳だった

    惚気話をしてルナと笑い合っていた
    幸せそうなリツコの顔が過ぎった・・

    (リツコさん 一体 何があったの…)


    そういえば…

    ”リツコの今の彼 評判よくないから心配してるのよ”

    先日のミチネエの言葉を思い出した



    『エミィ 聞えてる?』


    「あっ…うん ショックでボーっとしてた…」


    ルナが続けた


    『…リッコのお父さんに、すぐ来て欲しいって言われたのよ
    リツコは君の名前ばかり呼んでいるからって…』


    ルナの名を呼ぶリツコが目に浮かんだ


    「う…うん わかった 行ってあげて…。
    だってリツコさんはルナの大切な親友だもの…」


    『すぐ戻ってくるからからね エミィ』


    なぜかわからないけど 胸がざわめいた…


    二人を阻む何かが糸を引いているようで…
    言葉とは裏腹に心の中でルナを引きとめた


    (ルナ…行かないで…)


    カフェをあとにした私は
    雨の降る表通りを傘を差すのも忘れて歩いていた




引用返信/返信 削除キー/
■20956 / ResNo.81)  せつない
□投稿者/ おお 一般♪(1回)-(2008/06/27(Fri) 05:50:35)
    映美さんはじめてまして!コメント書くのは初ですが、実は大分前から『ルナ・エミ』の大ファンです(*^-')b
    なんか、ハラハラな展開になりそうですが、ルナ・エミの愛を信じてます!続き楽しみにしてます!が、あまりムリなさらず、ちゃんと睡眠もとってくださいね(笑)
    ところで、エミィって映美さんですか?

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20974 / ResNo.82)  おおさんへ^^
□投稿者/ 映美 大御所(264回)-(2008/07/01(Tue) 22:59:53)
    こんばんは

    はじめまして おおさん^^

    おおさんは随分早起きなんですね^^

    おおさんからコメント頂いた時間は、夜更かしの私が
    やっと夢の中に誘導された時間でした(笑)

    【ルナエミ】をいつも読んでいただき
    そして大ファンとおっしゃって下さり、とても感激してます。本当にありがとうございますm(__)m

    ハイ。最近、仕事続きの疲れでムリすることなく睡眠が優先になっていますので大丈夫です^^
    ご心配ありがとうございます。

    >ところで、エミィって映美さんですか?

    はい そうです。
    エミィは私(映美)です(笑)

    物語はほとんど創作ですが、ところどころ実話が入っています…

    ですからルナとエミの台詞も…
    私(映美)とルナが…実際に交わした会話が多々入っています。。

    完結まであと少しです。
    ふたりの愛を信じて…
    続きを読んでいただければと思います^^

    コメントありがとうございました


      映美


引用返信/返信 削除キー/
■20983 / ResNo.83)  【〜believe in love〜F】
□投稿者/ 映美 大御所(265回)-(2008/07/07(Mon) 12:01:36)
    2008/07/07(Mon) 13:03:32 編集(投稿者)






    ニューヨークのJFK空港


    空港にはリツコの父が迎えに来ていた


    「ルナさん お久しぶりです…。今回はリツコのことでこんな遠くまで
    来て頂き申し訳ありません」


    深々と頭を下げるリツコの父はロマンスグレーの長髪をバックにまとめた
    いかにも芸術家って感じのお洒落な紳士だった


    リツコの父に会うのは大学の卒業式以来だった
    今回のことで心労が重なっているのだろう 
    その疲れた表情は年齢よりも幾分老けたように見えた



    病院はタクシーで20分ほどですと
    リツコの父は荷物を手にとって歩き出した



    走り出したタクシーの窓から見える摩天楼の街


    巨大なビル群に目が霞んだ 
    映画のスクリーンで何度も観たマンハッタンのストリート
    いま この目にリアルに動く映像が映し出されている…


    〜私はカメラマンでルナはフリーライターね 
    夢は、なんたってアメリカよね…ルナ(微笑)〜


    学生時代…夢を語り合ったリツコの大きな瞳と笑顔が浮かんだ


    ・・・胸の中で呟いた

    こんな形で、夢の地の空気を吸うことになるなんて
    思いもよらなかったよ…リッコ



     

    「あの子は、肝心なことは私には言わないから…本当に困った娘です」


    肝心なこと?
    もしかしてリツコは恋人を追ってニューヨークに来たこと
    お父さんには言ってないのだろうか


    『あの…お父さん リッコの彼のことはご存知ですよね…?』


    「ああ、知っています リツコに今回のことはその彼氏のことが原因なのかと聞いても
    首を振って…飲む量を間違ったのよっていうばかりで何も話してくれない…」

    私に心配を掛けたくはないからという気持ちは分かるがと
    リツコの父は憔悴した表情で溜息をついた


    「父親の私に話せないことも、長年の親友のルナさんになら
    なんでも話すことだと思います。短い時間ですがあの子の傍にいてあげてください」


    『分かりました 私にとってリッコは大切な親友です…。
    何があったのか…聞いてみます』


    「お願いします」



    リツコの父が再び深く頭を下げた



    病院に到着しタクシーを降りると リツコの父は
    ロビーで病室の案内だけすると私は夕方、また来ますと
    待たせたままのタクシーに戻っていった






    病室のドアの前で深呼吸した


    コン コン…
    二度 ノックをするが返答がない


    部屋の中からはなにやら会話らしき声が聞える…


    三度目のノックにも返答がない


    『……』


    思い切ってドアを開けると
    ベットの上に座ったリツコの姿が見えた


    『リッコ…?』




引用返信/返信 削除キー/
■20985 / ResNo.84)  【〜believe in love〜G】
□投稿者/ 映美 大御所(266回)-(2008/07/09(Wed) 01:12:40)

    『リッコ…』


    二度目の声でやっとふり向いたリツコは目を見開き驚いた


    「ル、ルナ ど…どうして……ここへ」


    呆然としたままのリツコのベットの横にルナは立った


    『まったく とんだご招待だよ リッコ(微笑)』


    目の前のテレビではドタバタコメディっぽい賑やかなシーンが画面に映し出されていた
    ドア越しに聞こえた会話はどうやらテレビの中だったらしい


    『やれやれ ノックの音が聞えなかった 原因はこれね(苦笑)』


    リモコンを手にとりテレビのボリュームを下げた


    「毎週欠かさず見てたの…アメリカのコメディードラマって最高よ 面白いの(苦笑)」


    『そう…、とりあえず テレビ見て笑ってるリッコに安心したわ』


    そう言うと取り繕うリツコの笑顔が歪み…
    大きな瞳からみるみる涙があふれ出した


    「ルナ…、ごめんね…私のために…」


    ポロポロ落ちる涙を手で拭いながら
    肩を震わせ本格的にリツコは泣き出した


    そんなリツコの隣にゆっくり腰掛けた


    ありふれた慰めの言葉はたくさんある


    だけど…今は ただ黙って
    リツコの涙がとまるのを待とうと思った







    サイレントにしたテレビの画面は
    ドラマが終わりニュースに変わっていた
    リツコの横顔が乾いた様子に問いかけた


    『リッコ… 一体 何があったの?』



    「……」


    リツコの唇が重く動いた


    「…リセットしたかったの…」


    『リセットって?』


    「眠れるだけ 眠って目覚めたら、真っ白になった私がいればいいのにって思ったの…」


    『何言ってんのよ! もう目覚めたくない覚悟だったんでしょう?』


    縦にも横にもリツコは首を振らなかった


    『原因は彼なの?』


    リツコは視線を落とし…わからないのと俯いた


    「…まだね 切れてなかったのよ」


    『切れてないって?』

     
    「ニューヨークに彼を追ってきた女がいたの…
    その人は、必死に自分と彼との歴史を語ってくれたわ
    泥棒猫だとか罵倒もされた…。 
    何言われてもね 平気だった 一番愛されてる自信があったから(苦笑)』




    『それで、彼は?』



    「何も問い詰めてないのに…いい訳ばかり並べ立てる彼にうんざりして
    無責任な愛をばらまいた結果でしょうって…言ってやったわ
    ただ 今は君を愛してるからって私を抱きしめてくれれば そしたら信じていられたのに…。」



    同じような話を以前も聞いたなと…やるせない溜息が毀れた
    恋愛に不向きだとリツコは嘆くが…そうではない
    結果がいつも振り返れば同じだということだけじゃないか


    「私ね…彼を本当に愛していない…」


    『愛してない?ってどういうこと?』


    「愛されてるから 私も愛さなきゃっていけないって無理してたのよ
    一緒にいれば愛せるって思ってた」


    『バカね 無理して人を愛することないじゃない…私なら、できないよ』



    「…そうよできない…」


    リツコの大きな瞳が潤んだ


    「ねぇ ルナ… 私が、ニューヨークにきた本当の理由を教えてあげる…」



引用返信/返信 削除キー/
■21005 / ResNo.85)  【〜believe in love〜H】
□投稿者/ 映美 大御所(267回)-(2008/07/18(Fri) 04:31:23)
    リツコの潤んだ瞳が真っ直ぐルナを見つめた


    「私…ルナから 離れたかったの…」
     

    『離れたいって…?何故?』


    「ルナに会うたびに、エミさんを深く愛してるんだって感じたわ
    だから 私も負けずに恋をしよう… 誰かを愛そうって思ったの
    今の彼に出会ったとき 今度こそ大丈夫って思った…。
    ニューヨークへ転勤だと彼から聞かされたときに迷わずついていこうって思った」


    リツコはサイレントのままのテレビをOFFにした
    OFFになったテレビの画面には並んでベットに座るふたりが映った


    「エミさんを愛してるからって ルナが私の手をほどいた あの夜…」


    あの夜…それはエミと出会ってからのこと
    部屋に残した荷物をとりに来たリツコが抱いて…と背中越しに手を廻した夜があった


    「リッコは一生必要な存在 失いたくないのって言ってくれたね
    嬉しかった 私も同じ気持だったから…。 でもね…所詮 それは親友としての失いたくない
    そこに私の欲しい愛はない。 わかってた…其れでいいと思った 
    でもね、やっぱり欲しかったの ルナの愛と…ぬくもりが…」


    『リッコ…』


    「近くにいれば、また私はルナをまた求めてしまう…。
    一生 手に入らない愛を求める自分が辛くて…だから…だから…ルナから離れたかったの」


    「ここ(ニューヨーク)に来て望んだ幸せが掴めそうだと思った
    でも なんだかとても無理してる自分に気づいたの…
    そんななか 彼とのゴタゴタに疲れて…気がついたら手のひらの錠剤を数えず飲んでしまってた
    リセットはできなかった…だけど…目ざめてよかった だって こうしてルナにまた会えたんだもの…。」


    リツコの瞳から再び…大粒の涙が零れた


    その涙に忘れたくて忘れられない
    もうひとつの【あの夜】の出来事が再び思い出された


    3年前…
    同時期にそれぞれが報われない恋に傷つき やり切れない夜
    抱いてと泣きながら胸にすがるリツコの瞳に壊れた心は理性を失くし
    友達のラインを越えてしまった…そんな夜があった


    『リッコをこんな風に追い詰めたのは 私のせいね あの時…私がリッコを…』


    「それ以上言わないで…ルナが悪いんじゃないんだから」



    『…リセットできるなら あのときのふたりをリセットしたいよ リッコ』



    それはイヤとリツコは首を強く横に振った






    『ねぇ リッコ…私 リッコに何をしてあげられるの?』


    「…今は…
    ううん…今だけでいいから ただ ルナの胸で泣かせてほしい…」


    胸に顔を埋めるリツコの肩を抱きしめたとき
    あの頃とは違う感情が自分の中にあることに気づいた



    『…リッコ  私はリッコのこと愛してるよ…。
    それは、きっとエミを愛する想いとは違うと思う
    じゃあ どんな愛なのと聞かれても自分でもわからない
    ただ言える事は 私にはリッコは必要なの…。
    だからお願い 自分を大切にして もう軽はずみなことはしないで…』


    腕の中で泣きじゃくるリツコは
    あの頃より一回り小さくなった気がした


    傷ついた鳥の羽をいたわるように
    リツコの髪をそっと何度も掬いながら
    いろんな想いが交錯した…そして涙が溢れた




引用返信/返信 削除キー/
■21012 / ResNo.86)  【〜believe in love〜I】
□投稿者/ 映美 大御所(268回)-(2008/07/20(Sun) 23:44:57)
    2008/07/21(Mon) 00:43:15 編集(投稿者)






    窓に夕日が射しはじめた頃 リツコの父が病室を訪れた


    あれから…
    泣き疲れたリツコは、ベットに横になり学生時代の昔話や
    ニューヨークの街を語りながら…いつしか眠ってしまっていた


    「リツコはここへきてから一番穏やかな顔になった気がします 
    ルナさん きっとあなたに会えたからでしょう…」


    リツコの寝顔を見詰める父の目にキラリと光るものが見えた…



    ふっと思ったのは、会ったことのないリツコの恋人だった


    『あの…リッコの彼は病院には?』


    「その人が来たのは一度きりですよ…。命には別状はないと言ったら安心した顔で
    仕事があるのでと…さっさと帰って行きましたよ」


    もう二度と来てくれなくてもいいと呟き…父は溜息をついた
    私もその言葉に頷いた…。




    「ルナさんがさっき お尋ねの出版社の場所を調べてきました。 ご案内します」



    すっかり寝入ってしまってるリツコをふたりで振り返る
    このまま起こさずに寝かせておきましょうと
    印刷された地図を広げながら父はドアを開けた
     


    『あ、すみません お父さん 少し待ってもらえますか…』


    ペンと手帳を取り出しメモにメッセージを綴った


    そのメモを眠るリツコの枕元においた









    日本を発つ前日…


    今回の急な休暇を申し出た時
    ニューヨークに行くのならと上司が社長に連絡をした


    「ちょうどよかったよ ルナ君 私はまだあの話を白紙にはしていなかったからね」


    とりあえず出版社を覗いてきてほしいと社長は横文字で書かれた名刺を差し出した
    夢への道のりは与えられたチャンスにまず素直に向かってみるのが最大の近道だと
    社長は私の肩を叩いた 


    こんなことって…まるで筋書きが出来てるようなタイミングだと感じた 


    …でも
    自分の決心は変わらない
    今は、エミと離れたくない


    と…思いつつ
    貰った名刺を眺めながら 再びのチャンスに心揺れる自分がいた






    タクシーの中でリツコの父の携帯を借り出版社に電話を入れると
    担当者が取材が伸びて今日は時間が取れないということだった


    明日の午後便で日本に帰国すると事情を説明したら 再度 連絡を入れますとの返答だった…。


    今回の目的はあくまでリツコの見舞いだったから…
    出版社の人に会えなければそれは縁がなかったということだ 別に構わないと思った


    やりとりを聞いていたリツコの父が連絡待ちの間に夕飯でも食べにいきましょうと
    タクシーをUターンさせた



    宿泊する予定のミッドタウンのホテルからほど近い日本料理店


    この店はリツコのお気に入りなんですと父が言った


    静かな空間に琴の音色が響く

    ここが異国の地だとは感じない和の趣が漂う店内
    あいにくお座敷しか空いていないというのには何故か納得した


    「あの子は愛情に恵まれていない子なんです…特に家族愛には」


    運ばれた食前酒に口をつけリツコの父がゆっくりと語りだした


    「リツコが小学校3年のとき母親が他界して 私は男手ひとつであの子を育ててきました
    リツコが中学の時でした 私には再婚を考えた女性がいたんですが…どうも、お互いに
    受け入れられなかったんでしょう…。多感な年頃だったリツコは不登校になったりと
    いろんなことがありました。私も結局その女性と上手くいかず別れました 仕事が忙しい私はいつも
    リツコには寂しい思いをさせていました。母親の分まで十分な愛情を注いでやることが出来なかった…」


    意外だった 母親は早くにいないという話は聞いていたが
    リツコが中学の時 不登校生徒だったなんて 今…始めて知った


    「高校に入ってルナさんとの出会いがあの子に輝きをくれました

    〜お父さん すごく気が合う友達できたの その子とね 将来 一緒の仕事しょうねって
    約束したんだ ねえ 私たちにカメラの手ほどきしてよね〜 何度も言ってました(苦笑)」


    高校で知り合ったときのリツコはそんな過去があるなど微塵も感じさせなかった
    いつも明るくて大きな瞳をクルクルさせてよく笑う まるで向日葵みたいな子だった


    頭のなかで記憶を手繰った
    同じクラスになり隣に座ったリツコが瞳を輝かせて話しかけてきた日のこと


    〜私の父はカメラマンなの その影響で 私も最近 写真をよくとるの  
    ファインダー越しに風景を眺めてるとね 違う世界が映るの… 
    シャッターを押す瞬間って自分だけに映る世界をストップさせるみたいで なんだか快感よ(笑)
    ねえ ルナさんも一緒にファインダーのぞいてみない〜


    愛情に恵まれていない そうかもしれないと思った 
    今まで、いくつ失恋話を聞いただろう
    いつも、恋をしては傷ついて泣いてばかりのリツコだった


    食前酒を飲み干した リツコの父が縋るような目をした


    「ルナさん お願いがあります…」





引用返信/返信 削除キー/
■21021 / ResNo.87)  【〜Only you〜ふたつの理由〜@】 
□投稿者/ 映美 大御所(269回)-(2008/07/29(Tue) 03:31:02)
    2008/07/31(Thu) 05:06:00 編集(投稿者)




    6月の梅雨の合間の晴れの日


    ニューヨークから戻ったルナと海が見える公園に出かけた


    ここは去年 デートで来た場所だった
    遊歩道を歩きながら…なぜか言葉少ないふたり


    見覚えのある石製のオーナメント
    その前のベンチでルナの手を引き立ち止まった


    「ねえ ルナ このベンチに去年も座ったの憶えてる?」


    『う〜ん どのベンチに座ったなんて憶えてないよ  
    エミィは細かいことなんでも憶えてるね(苦笑)』


    思い出のベンチに座り…しばらく海を見ていた


    海からの吹く風がふたりの髪を靡かせる
    見上げた空の青さが眩しかった






    ルナが折りたたんだレポート用紙を差し出した


    『エミィ スピーチ文読んだよ うん なかなか上手く書けてたよ』


    『それで 友達の結婚式っていつ?』


    「今月の最終の土曜日よ」


    『…最終の土曜日…』


    ルナは呟きながら目を伏せた




    …どうしたんだろう ルナ


    ニューヨークでのこともリツコさんのことも
    会ったら詳しく話すといっていたのに その話題に触れようとしない
    むしろ避けているような気がした


    遠くに見える遊覧船に視線を泳がせる
    ルナの横顔に思い切って訊いてみた



    「ねぇ ルナ リツコさん もう大丈夫よね?」


    『……あ、うん…』


    ルナは頷きかけた…顔を上げ
    何かを決心したように強い瞳で私を見詰めた



    『エミィ…』



    「……何?…」


    『エミィ…、私ね ニューヨークに行こうって思ってる』



    「えっ…」


    予期せぬルナの言葉に一瞬
    心地よく吹いていた海からの風がやんだ



    「……」


    『向こう(ニューヨーク)でしばらく仕事してみようかって思ってる…』


    私の頭の中でいくつもの?が渦巻いた

    どうして? 
    チャンスはこれからもあるって?
    その話は見送ったんじゃないの?
    それとも…?
    リツコさんとなにかあったの?



    いくつもの?の言葉を束ねて 
    一呼吸した
    そして 冷静にルナに問いかけた



    「詳しく話して…ルナ」



    『帰国する日の朝 NYで活躍する日本人女性ライターに会ったの…。
    短い時間の中 その人の取材に同行してマンハッタンの街を一緒に歩いた
    エネルギッシュに動く世界の中心の街に私の心は揺さぶられたわ
    ”時間は貴女を待ってくれない”と語った その人の瞳にも魅かれた
    そして…夢に向うこと考え直したの それがひとつの理由よ…』


    「ひとつ…の理由?」


    『もうひとつ…理由があるの』



    それはね…と
    空を仰ぎルナは目を閉じた



    閉じた瞼の裏側では
    リツコの父の言葉と
    その夜の出来事を思い出していた





引用返信/返信 削除キー/
■21028 / ResNo.88)  【〜Only you〜そばにいて〜A】
□投稿者/ 映美 大御所(270回)-(2008/07/31(Thu) 05:01:53)
    2008/07/31(Thu) 05:08:38 編集(投稿者)




    ルナが再びニューヨークに行くという…


    海の向こうに陽が沈んでいくのが見える
    こんな哀しい気持ちで夕陽を眺めたのははじめてだった


    帰国する前夜 
    リツコの父と食事をしたときにと…ルナは静かに語りだした


    「ルナさん お願いがあります
    こちらに来て仕事をして貰えませんか…」


    「退院しても リツコをあの男のもとへは帰すつもりはない
    私のもとで、一緒にカメラの仕事を手伝わせます

    こんな お願いするのは、
    貴女がこちらでの転職を勧められている話を訊いたからです
    …でなければ こんな無理はいいません。
    リツコは貴女と一緒にアメリカで仕事するのが夢でした…
    ルナさんにとっても夢への一歩なのであれば是非、向ってほしいと私も心から思います
    いや…せめて…リツコの心が落ち着くまででいい、傍にいてやって欲しいんです」


    『……』


    ひとり娘を思う父の縋るような目にどんな返事をすればいいか迷った



    丁度そのときだった
    リツコの父の携帯が鳴った


    その電話はてっきり出版社からの返事だと思ったが…


    「わかりました すぐ行きます」


    短く答え電話を切った 父の表情は曇っていた


    「リツコが病室を無断で抜け出そうとしたらしいです
    タクシーに乗り込もうとしたところを
    探していたナースが見つけ部屋に連れ戻したようです。」







    リツコの父と食事もそこそこに病院に駆けつけた

    病室に入るとリツコはベットで点滴を受けていた

    リツコは父とルナを交互に見詰め よかった…と頷いた


    「ルナ…まだNYにいたんだ ルナ 帰っちゃったのかと思った」


    リツコは潤んだ瞳で…手を伸ばした
    その手をルナはそっと握り締めた


    『リッコ だめじゃない 心配したのよ 一体 どこへ行こうとしてたの?』

    「わからないの…、ここはNYなのに 私ったら日本にいる錯覚に陥ってたみたい
    目が覚めてルナのメッセージ読んだら なぜか自然に体が起き上がってね…気がついたらタクシー乗り場にいたの…」


    サイドテーブルにルナが書いた
    メモのメッセージが開いたままになっていた


    ―リッコへ

    泣きたいときはね 我慢せずに泣けばいいよ

    大丈夫よ
    世界の中心にいるリッコなら幸せなんてすぐに見つけられる

    NYの街をファインダー越しにSTOPさせて
    リッコの撮った世界をたくさん見せてよ

    でも 一番見たいのはリッコの笑顔よ

    お父さんに心配掛けちゃダメだよ

    じゃあ また来るからね

    そのときは NYの観光ガイド よろしくね^^

    ―ルナ



    リツコの瞳からまた大粒の涙が零れ始めた


    「やっぱり…ダメなのよ 私」


    『何がダメなの?』


    「ルナが傍にいないと…私 やっぱり ダメなの
    ねえ…帰らないで ルナ ずっと そばにいてルナ…」

    枕に次々零れる涙をルナは拭った

    『リッコ そんなに泣いたら 涙 無くなっちゃうよ(苦笑)』


    リツコの父はそんな二人の様子をただ黙って後ろで見ていた








    『いま リッコは傷ついてボロボロなの
    一人ぼっちになれば またリッコの心は折れてしまうかもしれない』


    「ねえ ルナ… ルナは私より…リツコさんの方が大事なの?」


    ルナは目を閉じた


    『どちらも大事よ』



    どうしてだろう…
    どこか冷静な自分がいた


    きっと予感していたのかもしれない

    それはルナがNYに行くといった
    あの夜から…

    心がざわざわとなにかわからない不安に駆られて
    ルナの笑顔が消えていく夢を見た


    ”ルナのことをお願いね”
    リツコさんがそう言って瞳を潤ませたあの夜


    ”君の名(ルナ)をずっと呼んでる”と
    リツコの父からの電話にニューヨークに慌ててとんだルナ


    ずっと前から分かっていた


    ルナとリツコさんの深い絆


    それは紛れもない 
    愛であることを…



引用返信/返信 削除キー/
■21036 / ResNo.89)  【〜Only you〜ピロートーク〜B】
□投稿者/ 映美 大御所(271回)-(2008/08/04(Mon) 23:34:33)


    ―ふたりの沈黙がどれくらい続いたのだろう…


    すっかり陽が落ち外灯が点りはじめた公園
    夜景目当てのカップル達が何組もベンチの前を通り過ぎていく


    『暗くなってきたね…そろそろ行こうか エミィ』


    ルナがベンチから腰を上げた


    「どこ行くの…ルナ?」


    『エミィったら 私の部屋に決まってるでしょう…(微笑)あ、そうだ駅前のコンビニでアイスを買って行こうね』


    「……」


    私は、ルナの瞳にぎこちなく微笑み返した。


    ルナは憶えていてくれてたんだ…。
    昨年のこの公園の帰りだった
    はじめてルナの部屋に行く途中 コンビニでアイスを買っていったことを…


    NY行きの話しなどなければ、今頃 ルナの腕に絡まりはしゃいでいただろう


    『エミィ…そんな哀しい顔しないで まだ肝心なこと 話せていないのよ…
    さっ 行こう』


    私の肩をルナは抱きしめた…。




    マンションに着くまで
    ずっと言葉少ないふたりだった…。






    玄関のなかで
    いつものように 互いの唇を探りあい暗闇のなかの長いkiss


    途中 不意にルナが唇を離した


    『そうそう…今日は溶けないようにしなきゃね(微笑)』


    アイスの入ったコンビニ袋をかざし 
    キッチンへと向かうルナの背中に…ずっと、我慢してた感情が弾けた


    「ルナ…イヤよ…」


    ルナの背中に抱きついた

    そのはずみでコンビニ袋が床に落ちた


    『エミィ…どうしたの…』


    「…イヤよ  ルナ…行かないで!」


    「どうしてなの…、どうして…! 離れない 離れたくないって言ってたじゃない
    あれは嘘だったの…」


    堰を切ったように涙が溢れ出した
    ルナの背中を涙の粒が濡らす


    『…エミィ…』


    ルナのかすれた声が背中越しに聞こえた


    『私だって 離れたくないよ  私だって…辛いのよ…。
    どれだけ悩み 苦しんだか…、エミィにはわからないでしょう…』


    廻した私の腕を解き ルナはゆっくり振り返った
    ルナの黒い瞳も涙で濡れていた
     

    「…ルナ」


    両手をとりあい電気もつけずの暗い廊下に
    するするとふたりは座り込んだ




    廊下で泣きながら抱き合い…
    ふたりで這うようにベッドに移動した…。









    「ねぇ…ルナ ルナはリツコさんを愛してるんでしょう?」


    …呼吸が落ち着いた後のピロートークはそんな質問から始まった


    目を閉じたままのルナの唇を指先でなぞる…



    『愛してる…っていったら?』


    「やっぱりって…言うわ…」


    『うん 愛してる…』


    「やっぱり(苦笑)」


    『でもね…、その愛は…エミィを愛する気持ちと違う』


    「わかんないわ…愛してる…は愛してるでしょう…」


    『…』


    『一番の大切な親友として…愛してる…だから幸せになって欲しい』
    私が しばらく一緒にいることでリッコの心の傷跡が癒えて そしてまた幸せを見つけられるならと思った…だから…』


    話し続けるルナの唇を指先で塞いだ…



    もうそれ以上 聞きたくなかった…
    誤魔化さないで
    愛してる…でいいじゃない
    愛の形なんて星の数ほどある
    だから いいじゃない
    でも順位をつけるなら私が一番よね…ルナ

    どんな愛でも私は負けない
    ルナを愛する気持ち 誰にも負けない



    『…ん…』


    ルナが私の指先を掴んだ


    『エミィ…、なにしてんの…最後まで話を聞いて……』


    今度は唇でルナの言葉を塞いだ…


    「ねえ ルナ 連れてって…」



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