| 「ごきげんよう、澤崎和沙さん」 うっすらとした微笑を浮かべながら廊下に立っていたのは、 先ほど挨拶をしていた高柳真澄生徒会長だった。 真澄の姿を認めた他のクラスメイトはどよめき、 教室の外だというのにその声はとてもよく聞こえた。
忘れていたけど、この人は人気会長サマだっけ…
「お呼び出しして悪いわね」 言葉とは反対に、真澄はちっとも悪そびれているようには見えなかった。 「何か…ご用でしょうか?」 朝のこともある手前、ついつい嫌味っぽい言い方をしてしまう。 「ええ、忘れ物を届けに来たの。あなた、 今朝急いでいてハンカチを落としたようだから」 「え…」 差し出された白いハンカチは紛れもなく和沙のものだった。 「あ、ありがとうございます」
わざわざ届けに来てくれたのか…
和沙は見直して素直にハンカチを受け取ろうと手を伸ばしたが、 何故かその手は空振りした。 「今朝の借りを覚えていて?」 「…はい?」
まただ…
和沙はこのニヤリとした大胆不敵な笑みに見覚えがあった。 しかも、こんな時は決まって悪い予感がする。 「まさか忘れたとは言わせないわよ?」 「はあ…」 威圧感たっぷりの詰問は、まさに女王のようだ。 彼女が一瞬でも女神のように映ったのは、 どうやら和沙の勘違いだったらしい。 「そうね…あなた、生徒会を手伝ってもらえないかしら?」 「えぇっ!?私がですか?」 「そう。今ちょうど人手が足りなかったのよ。 どうせ、あなたはまだ部活動には入っていないんでしょう?」
ええ、入っていませんが、ナニカ?
和沙は思わず心の中で悪態をついた。 そうでもしないとやっていられないのだ。 だって結局、歯切れの悪い返事をしているうちに、 真澄は和沙の手をとり生徒会室に引っ張っていってしまったのだから。
前言撤回!やっぱりこの人、大っ嫌い!
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