ビアンエッセイ♪

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■20111 / ResNo.70)  第一章 さくらいろ (60)
  
□投稿者/ 琉 ちょと常連(66回)-(2007/10/01(Mon) 00:51:56)
    植物の栽培方法のことにはほとんど無知の和沙でも、
    百合は球根類の一種、という知識くらいは持ち合わせている。
    その中でも、ユリ科は鱗茎と呼ばれているらしい。

    「やっぱり…」
    何がやっぱりなのかは全く分からなかったが、
    真澄の手元を覗けばすぐに理解できた。

    あれ、石…?

    彼女が言うには球根類はより深く植えた方がよく育つらしいのだが、
    この百合の場合、球根のさらに下にある小石が成長を阻害しているそうだ。
    小石といってもかなり硬い。
    地に根ざしているかと思えるくらい頑丈なようだった。

    「せぇの。一二の三、よいしょ」
    真澄の指示に従って作業すること約十分、
    二人で協力してようやく石の除去に成功した。
    普段は肉体労働なんてほとんどしない和沙は、
    もう手足が痺れてヘトヘトになっていた。
    すぐ横に座っている真澄も同様だ。

    「先輩、お顔に泥がついてますよ」
    「あなたもね」
    してやったとばかりに、真澄は片目を閉じて微笑んでいる。
    その姿は、やっぱり女神のように美しかった。
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■20112 / ResNo.71)  第一章 さくらいろ (61)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(67回)-(2007/10/01(Mon) 00:59:42)
    「…しかし、ここの百合の花はすごい数ですね」
    視線を逸らしながら和沙は話題を振った。
    「前に欅谷先輩に案内していただいた時にも圧倒されたのですが、
    特にあのオレンジの百合が驚きでした」
    百合の花というと、すぐ白とか薄紅色を連想しがちな和沙は、
    黄色や橙色などのカラーと百合との組み合わせに意外性を感じた。
    「あれはレガタよ。その外側がソルボンヌで、
    手前側がシンプロンとカサブランカね」
    訊いてもいないのに、花のことになると真澄はスラスラ答えた。
    そういえば、この温室の植物に対して、真澄はいつも真剣な表情をしている。
    全力投球で手入れをしているのが、傍から見ていた和沙にも伝わってくるのだ。
    「草花がお好きなんですね…」
    「栽培委員長をやっているからね」

    …そうだった

    ここで以前、杏奈からそう聴かされていたではないか。
    「もしかして、明日ここを使うのも…?」
    「もちろん、私が決めたわ」
    気持ち良いくらい高々と、真澄は宣言した。
    新入生歓迎会とは、毎年生徒会長の企画が最優先されるようだ。
    真澄の情報によれば、何でも去年の会長はソフトボール部長だったとかで、
    その一存でスポーツ大会が行なわれたらしい。
    お世辞にも体育の成績が良いとはいえない和沙からしてみれば
    助かったのかもしれないが、その代わり今年の企画立案者である
    真澄は一癖ある性格の持ち主だ。
    今の段階で温室を使用することは知ったものの、
    当日何をするのかまでは和沙も分からない。
    だから結局、一概にどっちが良いとは断定できないのであった。

    「あなたのさっきの話ね…」
    「へ?」
    突然の真澄の発言に、和沙は彼女が何て言ったのか聞きとれなかった。
    「温室の中でも一際目を引くあの百合は、この学校のシンボルなのよ。
    紹介した以外にも、ここには様々な百合が栽培されているわ。
    様々な品種の百合はこの学校へ通う一人ひとりの生徒を指しているの。
    乙女が集う学園…それになぞらえて百合園ってついたのね」
    和沙は、何気にすごい話を教わったような気がした。

    「ほら、もう立ちなさい」
    見ると、真澄はいつの間にか立ち上がっていて、
    こちらに手を差しのべている。
    手伝ってくれたお礼に、再度お茶をご馳走してくれるというので、
    和沙は喜んでそれを受けることにした。
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■20113 / ResNo.72)  第一章 さくらいろ (62)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(68回)-(2007/10/01(Mon) 01:09:19)
    「二階堂ファンクラブ?」

    真澄が二杯目のカップに口をつけたのを確認して、
    和沙は思い切って斎のことを訊ねてみた。
    先ほど見た光景のことをそれとなく詮索したかったのだ。
    もちろん、真澄がそういった事情を知っている者として
    クロだった場合を考えて、慎重に言葉を選ばなくてはならない。

    「斎は…中学時代から人気があったわよ。
    まあ、女子校であんな外見なら仕方ないでしょう?
    高校に入学する頃には周りが収集つかなくなっていて…
    手紙入りのプレゼントは分かるにしても、
    昼休みまでほぼ毎日のように呼び出されていたけど、
    何の用だったのかしらね?」

    副会長に関してはシロ、か…

    斎と三年間同じクラスだったという真澄の証言からは、
    当時の出来事を間近で見ていただけあって
    さすがに臨場感が伝わってくる…のだが、
    和沙が一番知りたい核心の部分までは分からなかった。
    というか、彼女はあまり他人のこういう事情に興味がないようにも見て取れた。

    「じゃ、じゃあ、欅谷先輩のご友人のことは…」
    「杏奈の友達…?」
    「えっと…体格が良いサバサバした感じの人で、
    先輩ととても親しそうな方だったんですけれども…」

    一通り訝しげな表情をした後、真澄は「あっ」と声をあげた。
    何か知っていそうである。

    な、何…?

    数秒の沈黙が和沙にはとても長く感じられた。
    ゴクンと自らの唾を飲みこむ音が聞こえるのが早いか、
    真澄が口を開くのが早いかという状況で彼女はこう告げた。

    「そんなの、私が知るわけないでしょ!」

    …瞬殺だった。
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■20114 / ResNo.73)  第一章 さくらいろ (63)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(69回)-(2007/10/01(Mon) 01:16:19)
    「私のことは訊いてくれないのね…」
    真澄は少し残念そうに、そして拗ねた口調で呟いた。

    違う。
    本当は真澄のことでも気になっていることはたくさんある。
    あの怖そうな二年生に心当たりは?
    ここではいつもさっきのような真剣な眼差しをしているの?
    そして…桜吹雪の涙のワケは?
    知りたいことを彼女の口から真相を語ってくれたら
    どんなにすっきりするだろうことか。
    でも、訊けない。いや、訊いちゃいけない。

    だから結局…踏みこめないでいる。

    そんな和沙の憂いを知らずに、真澄は相変わらず
    ぶつぶつと不満をこぼしていた。

    こっちの気も知らないで…

    律儀な和沙は、瞳を固く閉じて散々考えた結果…
    「会長は何で生徒会に入ったんですか?」
    こう訊くのが、和沙の精一杯だった。
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■20119 / ResNo.74)  NO TITLE
□投稿者/ スマイル 一般♪(2回)-(2007/10/01(Mon) 21:02:30)
    琉サン
    別に長いとは感じませんょお(^-^)v
    自分はぁ〜出来れば長く続いてくれたらィィなぁと勝手に思っていますょ。頑張って下さぃね!琉サン(`∀´σ)σ
    心から応援したいと思います。(*≧m≦*)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20122 / ResNo.75)  スマイルさま
□投稿者/ 琉 ちょと常連(70回)-(2007/10/02(Tue) 18:10:42)
    こんにちは。お返事、ありがとうございます。
    長くても楽しんで読んでいただけるなら、嬉しいです。
    これから、第一章も最後の山場に突入しますが、
    果たして和沙は生徒会役員候補生になるのか、
    真澄はどんな駆け引きをするのか、といった点に
    注目してもらえたらと思います。
引用返信/返信 削除キー/
■20123 / ResNo.76)  第一章 さくらいろ (64)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(71回)-(2007/10/02(Tue) 18:23:48)
    本当なら「何で私を生徒会に入れたいんですか」と言うはずだった。
    けれど、役員にいくら似たようなことを問いただしても、
    適当にはぐらかされるだけだし、以前に経験済みだ。
    ならば、本人たちの所縁を参考にするのがよりためになる。

    「私?」
    きょとんとした表情で、真澄はこちらを見返してくる。
    「そりゃ、生徒会長になりたかったからに決まっているわ」
    何て単純明快な理由。
    確かに、生徒会の会長になりたいのならば、
    生徒会に入らないわけにはいかないが…
    でも、和沙はそういうことを訊きたかったのではなくて、
    もっと本質的なことを知りたかったのだ。
    そういう言葉のアヤみたいなものを真澄はさらにダメ出しした。
    「別に生徒会に入る理由なんて、どうでも良いのよ。
    過去には、毎日ケーキが食べられるからとか、
    受験に有利だからとか、懇意にしている先輩の後を追って…
    なんていう人も居たわね。
    学園生活が暇だからその潤いに、くらいの気持ちで充分よ」
    そうは言われても、じゃあそうですか、といって
    あっさり入会するわけにはいかない。
    というか、今の説明を聞くと、まるで生徒会が
    不純な動機の集まりにしか見えなくなってしまう。
    「動機は大切じゃない、と言いたいわけじゃないの。
    ただ、動機だけ素晴らしくても、それが活動に反映されないと
    意味をなさないでしょう?
    キッカケなんて人それぞれなのだから、千差万別で当たり前なのよ。
    だからキッカケに優劣もないの」
    なるほど、とつい腕を組んでしまいそうになるような問答である。
    けど、それなら入る時のやる気も関係ない…
    ということにつながりかねないのではないか。

    「会長は私が生徒会で活躍するとお思いですか?」
    和沙は自分の中でのわだかまりをぶつけてみた。
    正直、良い仕事をしてくれると見込んで推薦してくれていたのなら、
    その期待に応えられなかった時が辛い…
    そんな和沙の不安を嗅ぎとったのか、真澄は静かにこう返事した。
    「結論から言うと、分からないわね。
    だって、やってみないと分からないことって
    世の中にはたくさんあるじゃない?
    でも、学年主席の成績や冷静沈着な態度から、
    あなたが誰よりも見込みがあると判断したのは確かなの。
    これは、私だけの意見じゃなく、役員全体の意見よ」
    真澄の言葉からは、率直な分、変なお世辞は感じられなかった。
    しかし、推薦する立場としてのありのままの説明をされると、
    和沙には不思議と誠意として伝わってきた。
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■20124 / ResNo.77)  第一章 さくらいろ (65)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(72回)-(2007/10/02(Tue) 20:03:54)
    片付けは自分がやる、と申し出て、和沙はカップを流し台へと持っていった。
    あれからさらに一時間以上は話しこんだせいで、
    帰宅できるのは結局六時を回りそうである。

    ジャアアアァァ…
    心地良い水道水の刺激は気持ちまで洗ってくれるようだ。
    でも、春先はまだ肌寒いこともあって
    二分も水に触れているともう冷たく感じる。

    そういえば…

    真澄とここで出会った時、彼女は何か言いかけていた。
    確か…ごめんなさいね、だっけ。
    「あの、先輩は先ほど、何を謝ろうとしていたのですか?」
    真澄は、生徒会長であり先輩でもあるから、
    入学したばかりの和沙には、まだ呼び方を使い分けるのは難しい。
    「先ほど?」
    どうやら、真澄はすでに忘れているらしい。
    まあ、一分前はもう昔という主義の人なら仕方ないが。
    「この温室に私が入ってきた時のことです」
    「ああ…」
    そこまで話して、ようやく彼女は思い出したらしい。
    「あれは、急に呼び出してごめんなさいね、という意味だったのよ。
    ほら、今日は生徒会室の前に張り紙をしてあったじゃない?
    帰宅しろ、と指示した後でやっぱり残って…なんて悪いから、一応ね」
    そこまで言われて、和沙はハッとした。

    結局、何の用事だったの?

    杏奈から伝言を聞いてここまで来て、真澄に会った。
    そこまでは良い。
    しかし、もう帰ろうという頃になっても
    未だ彼女が自分を呼び出したワケが分からなかった。
引用返信/返信 削除キー/
■20125 / ResNo.78)  第一章 さくらいろ (66)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(73回)-(2007/10/02(Tue) 20:20:39)
    「あのう、今日は何の用事だったのでしょう?」
    何故だろう、すごく嫌な予感がする。
    すると、和沙の予感を示唆するように、
    真澄が例の薄ら笑いを浮かべた。
    「あ、明日は希実ちゃんにもよろしくって伝えてね」
    「は?」
    彼女の発言が理解できない。
    けど、希実ちゃん「にも」ということは、複数形なわけで。
    「希実と誰に、何をよろしくお伝えすれば良いのでしょう?」
    それでも、和沙は食い下がって譲らなかった。
    いや、半分は意地だ。
    一方で真澄は大げさにため息をついて、
    哀れむような視線を向けながらこう告げた。
    「残念ね。きっと心優しい和沙だったら、
    手を差し伸べてくれると思ったんだけど…
    生徒会規約の第三九条二項に、関係者以外に
    嗜好品などの諸経費を計上することを禁じてるのよ。
    あのローズヒップティーは特に高価で、
    特別なお客様にしか振る舞わない一級品なのよね…」

    脅迫しているのか、この人は?

    一瞬、そう疑わずにはいられない和沙だったが、
    まさか庶民にそんなお金があるわけもなく、
    初めから自分に選択肢がないことを悟るのだった。

    「ご存知ですか?私も一年なんですけど…」
    焼け石に水、のような状態ではあったが、
    それでも和沙は諦められなかった。
    「もちろん知っているわよ。
    だからまだ、何を手伝ってほしいかは
    言っていないでしょう?」
    「希実には、何て説明するんです?
    彼女はまだ手伝うことに了解していませんよ」
    そう。
    それもまだ解決していない。
    でも、真澄は一笑してそれすらも蹴散らした。
    「大丈夫よ。あなたが来ることになったら、
    必ずや彼女もついて来てくれるわ」

    何だ、その確証に満ちた答えは…

    かえってこちらの方が躊躇してしまいそうになるほど、
    それは説得力のある予言だった。

    「とにかく、明日の昼休みはこの温室に集合よ」
    生徒会長の命令は絶対的な効力を有す。
    そんなこんなで、和沙と希実は乗せられた船から降りることも許されないまま、
    明日の歓迎会の手伝いをすることになったのだった。
引用返信/返信 削除キー/
■20149 / ResNo.79)  第一章 さくらいろ (67)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(74回)-(2007/10/08(Mon) 00:09:58)
    「しっかしさぁ…」
    「ん?」
    希実の発言は、くしくもクラスメイトのざわめきで遮られ
    和沙の耳まで届くことはなかった。

    「…ごめん、何て言ったの?」
    そうして、和沙が訊き直そうとした矢先。
    「お〜い、そこの二人!これ運ぶの手伝ってよ」
    声の主は二階堂生徒会副会長。
    彼女の手元には、何やら教壇にも似たテーブルが一つ置かれていた。
    どうやら、一人で持つには重たいから加勢してほしいとの要請のようだった。
    「はい」
    和沙と希実は、返事をしながら斎の方へ向かった。

    生徒会(長)が毎年企画するこの新入生歓迎会は、
    文字通り、新入生を歓迎するためにあるものだが、
    その内容は様々であり、しかも少々粗っぽい。
    別名『洗礼の儀』とも名高いこの行事は、
    新入生だけでなく生徒会をはじめとする在校生にも
    楽しみにしている者は多い。
    事実、去年のスポーツ大会では、ドッヂボールをやって
    二年生のクラスが優勝している。
    ただ、今年は使用する施設の関係上、
    全校生徒を招待するわけにはいかないらしく、
    この埋め合わせは後日、対面式として別に執り行なうそうだ。

    「…以上を持ちまして、生徒会代表挨拶とさせていただきます」
    たった今、真澄が代表挨拶を終えたところだった。
    けれど、和沙はテーブルを運ぶのに夢中で何一つ聴いていない。
    というか…忙しすぎてじっくり耳を傾けている時間などないのだ。
    「じゃあそれ終わったら、今度はこの椅子をあっちに持っていって」
    休む間もなく、斎から次の指示が入る。
    疲れた、などと文句を言える立場ではないことを、
    和沙はよく知っている。
    しかし、昨日の一件とは何も関係がない希実までも
    同じように手伝っていることが、和沙には信じられなかった。

    『必ずや彼女もついて来てくれるわ』

    和沙は、ふと昨日の真澄の話を思い出した。
    彼女はどうして予想できたのだろう?
    そして、希実はどうして…
    反動で隣に居る希実の顔を覗こうとすると、
    「どうしたの?」と尋ねているような仕草をして見せた。

    「そこ、手が止まってる」
    すかさず横から注意され、和沙たちは焦って
    椅子を運ぶ作業を続けた。
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