ビアンエッセイ♪

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

■21324 / ResNo.70)  エイプリルフール
  
□投稿者/ イチカワ 一般♪(1回)-(2009/03/29(Sun) 13:51:45)
    それは些細な行き違いが発端だった。

    これまで何度となく繰り返された、言葉の応酬。


    仕事帰りで疲れた声をしたアヤノさん。

    春期講習期間中だからだろう。

    ここ数日、彼女は忙しくて。

    デートはおろか、

    電話しても途中で眠りこける有様だった。


    しょうがない。

    分かってる。

    元々私も生徒だったんだ。

    彼女の生活はよく分かっている。


    授業が無い時間も、

    生徒たちからの質問に極力対応し、

    常に生徒たちがその周りを囲んでいるような、

    生徒からの人気も抜群の、

    面倒見がよく、熱心で、

    優しくきれいな先生。


    そんな先生が、私は大好きで。

    気付いたら、恋をしていた。


    いつもいつも先生の周りを付いて回って。

    志望大学にも合格して。

    そして、卒業を待って、

    プライベートで遊びに連れて行ってもらって。


    そうして、デートを重ねていって、

    告白をし、幸運にも付き合うようになって、

    もうすぐ半年になる。



    付き合う前に、言われた言葉。


    「カオリ、知ってると思うけど。

    私、こういう生活だから。

    あんまりデートもしてあげられない。

    でも、大事にする。

    それでも、いいかな。」


    そんなの、分かっているつもりだった。


    それでも、「大事にする」が嬉しくて。

    その台詞はよく覚えている。




    …弱いのは、私の心だった。

    分かっているのに。

    寂しさがエスカレートして。

    押し潰されそうになることに耐え切れなくて。

    つい出てしまった、強がり。


    「サークルの先輩に、告白されちゃった。

    先輩、私と遊んでくれるし、結構イケメンだし、

    ちょっと、付き合ってみようかなと思う」


    告白されたのは、本当。

    でも、私は全く付き合ってみようなんて、思えなかった。

    アヤノさんが好きだから。アヤノさんしか見ていないから。


    だから、アヤノさんに言って欲しかったんだ。


    「そんな莫迦なこと言ってないで。

    カオリは私のものなんだから、私だけを見てなさい」


    でも、電話の向こうの

    彼女の口から漏れたのは、

    乾いた一言だけだった。


    「…勝手にしたら」


    あまりにも冷たい一言に、

    つい私もムキになってしまう。


    「じゃあ勝手にする…」


    違う。そうじゃない。

    勝手にしたいんじゃないの。

    あなたに、甘えたいだけなの。

    あなたに、私じゃなきゃだめでしょう、って

    優しく諭して欲しいだけなの。


    ね、いつもそうでしょう。

    そうやって、

    最後は困ったような顔で、

    しょうがないなあ、って。


    私のことを抱きしめてくれるんでしょう。



    私とアヤノさんの構図は、

    いつもそうだった。


    甘える私、

    甘やかしてくれるアヤノさん。


    その優しく、心地よい関係に

    包まれているのに慣れてしまって

    それが如何に貴いかなんて、

    忘れてしまっていた。


    今日のやり取りも、

    そうやって、いつもの甘やかしてもらう一環だったはずなのに。


    それをするために、

    あまりにもアヤノさんは疲れすぎていて、余裕が無かったし、

    私は寂しさに押し潰されそうで、余裕が無かった。



    意図していた会話にならず、

    余裕の無いアヤノさんをつい責めたくなってしまう。


    「ね、アヤノさん。まさか信じてないよね」


    声が、つい乾いてしまう。


    「何?」

    「今日、4月1日だよ」


    「…嘘なの?」

    「嘘だよ」


    ため息が電話の向こうから聞こえた。


    ――私が、そんな、アヤノさん以外の人と、付き合うわけ、無いでしょ。

    ――そっか、嘘か。ははは。信じちゃったよ。


    こういうやり取りをして、

    この話を終わらせるつもりだった。

    そして、いつもの甘い雰囲気に戻したかった。



    でも、そう切り出そうとして、


    言葉を発したのは、アヤノさんが先だった。


    「…性質が悪すぎるよ。

    ごめん、私今笑ってあげられる余裕、本当ない」


    違うの。

    そうじゃないの。


    私を、見て欲しくて。



    「ちょっと、距離置かせてくれるかな。

    私に余裕が無さ過ぎるから。

    本当、ごめん。もう、切るね」


    私が何か言葉を発しようとすると、

    それをさえぎるかのように、

    電話は切られてしまった。


    あまりの性急さに、

    私は電話を持ったまま、動けなかった。




    …そして、やっと行き着いた。


    莫迦は、私だった。


    自分を見て欲しいあまり、

    相手を見るのを忘れていた。


    彼女がギリギリの状態で頑張っていたのを知っていたのに。


    甘やかしてもらってばかりで、

    彼女を甘えさせることを、一切してこなかった。



    私以上に、彼女は今


    甘えさせてくれる腕を求めているはずなのに。



    気付いたときには、電話は切れていて。

    掛け直したけれど、電源が切られていた。



    今、電話の向こうで、

    彼女は泣いているかもしれない。

    なんとなく、そんな気がした。



    彼女にどうしたら甘えてもらえるのか、


    こんなことすら、

    今の私はどうしたらいいのか、全くわからなかった。


    半年も付き合ってきたのに。





    …今まで私は、何を見てきたのだろう。



    私はただ一人、

    なんだか悲しくて、

    泣くことしかできなかった。
引用返信/返信 削除キー/
■21327 / ResNo.71)  お詫びと次のお題
□投稿者/ イチカワ 一般♪(2回)-(2009/03/30(Mon) 03:31:33)
    すみません、
    うっかり次のお題を
    書き忘れました。


    次は…



    歓迎会



    でお願いします。



    イチカワ

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/

<前のレス10件

スレッド内ページ移動 / << 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 >>

このスレッドに書きこむ

Mode/  Pass/

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

- Child Tree -