| 久しぶりに通る病院からの帰り道
今日はぼーっとしながらゆっくり歩いて帰ろうか。
遠くで少し気が早い蝉が鳴いていた
可哀想に
あんた出てくるん早すぎて一人ぼっちやん
焦ってもええ事なんかないのに。
たった10日しかないんやろ?
いくら鳴き叫んだって
友達にも 恋人にも 会われへんやん…
ほな、せめて
私が覚えとくから。
そうやって生きた証として鳴いたあんたの声を。
だからさ そない生き急がんと、ちょっと休憩しながら鳴いて
1ヶ月生きや。
生きてや
帰り着くと やけに家が広く感じた。
病室が狭かったから?
いや、ちゃうな
まなみがいてないからや。
それと もう一つ
そこにあったはずの物が、沢山消えていたから
荷物、もう運んだんや…―。
おかんの部屋を覗くと、ここに引っ越して来た時の何もない殺風景な部屋があった。
一人には慣れてる
音のない家にも
あたたかみのない空気にも
慣れてるやんか。
何で今更 涙なんて出るんだろう。
(携帯)
|