| 2005/03/15(Tue) 15:03:35 編集(投稿者)
(信じられない。私がまだ、男性不信だったら、どうするつもりだった?) きっと険しい形相の聖は、那智から体を遠ざけつつ、物騒にもしっかりと傘の尖った先端をその喉元に向けたままの体勢を取りながらも、 「私は降りる! 雨宮さん、車を停めて下さい」 運転手には礼儀正しくお願いするのだが、車の走行速度は落ちる気配がない。 それどころか車窓から街並みに視線をやると、明らかに中野とは別方向を走っている。 「無駄ですよ、聖。雨宮は僕には逆らえませんし、貴女は僕を傷付けられない」 殺気立った眼差しを露にする聖と相反した静謐な眼差しを向けながら、那智がにじり寄る。 「近づくな! 私は本気だ!」 言い切る声は毅然とした強さに満ちているのに、腕が震える。 自分が男だと認識する音楽関連以外の人間なら、容赦の無い行動に出れたかも知れない。でも、那智は女で、どんなに憎んでも、屈辱を味わわせた存在であっても、自分をあの日助けたくれた人間である事に変わりはない。 『離して・・・男は嫌だ・・・! 近寄らないで』 チンピラ男を前に、泥酔しながら、確かに記憶に残る、過去の自分の悲しいまでに震えた声音。直後に現われた救い手。 その相手をじっと見ている内に、聖は殺気も失せて、傘を模した護身用の武器をシートの下に放棄した。 弱さだと指摘されればそれまでだが、正義感の強い聖にとって、女子供は守るべきもので、決して傷付けられない。況して那智は恩人なのだ。 舌打ちする聖に、 「ほら、貴女は優しい人だから」 と予期していた那智の言葉。 (優しいじゃなくて、易しいって言いたい癖に!) 瞳にのみ剣呑な光を残しただけの聖と違って、那智には遠慮等ない。 「僕があの夜、女性達だけのイベントに行ったのは、ほんの気紛れからでした。でも、其処で貴女を見つけた。弱ってはいたけれど、その瞳は悲壮な程真っ直ぐで犯し難いまでに純粋で・・・」 そう言うや否や、華奢な体を捕まえると、陶酔しているかのような面持ちで、那智は聖に言い放ったのだ。 「貴女を始めて見た時から、ずっと貴女が欲しかった」 と。
(STAGE7へ続く)
|