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■1590 / inTopicNo.1)  魅せられて
  
□投稿者/ t.mishima 一般人(12回)-(2005/02/15(Tue) 02:55:03)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/04(Fri) 19:32:42 編集(投稿者)

    S.E(序章)

    --------------------------------------------------------------------------------
     ステージに降り注ぐ光たちは獲物を追うジャッカルのように聖(ヒジリ)を追う。赤や青に脚色された刃を時に剥き出しにしながら。
     マイクスタンドを蹴り、時に強烈なシャウトを発する聖からは小さな体躯等予想出来ない。女性とはいえ、鍛えられた腹筋に支えられる歌声は男性のボーカリストに負けない力強さと奥深さがある。そして相反するかのように女性にしか持ち得ない危険な妖艶さをも醸し出している。
     如何に普段、彼女が幼顔で可憐な容姿をしていようと、アイラインを濃く引き黒いステージ衣装に身を包めば、彼女は王だった。メンバー四人の演奏はそれを支える大地であり、風でしかない。まさにぐいぐいとひっぱっていくリーダー。凶暴な野生の獣だ。
      大仰なパホーマンスと派手なメイクで女性のファンのみをターゲットに絞ったインディーズの音楽シーンに蔓延する一般的なヴィジュアル系のボーカリストの域を、彼女は既に越えていた。聖・・・橘聖が地方から大都会に殴り込みをかける様に上京しバンド結成してから早五年。ライブハウスの動員を次々と塗り替えて来たこの人気バンドに加入してからたったの半年。昔からのこのバンドのファンをしていた者達の脳裏に聖の前にボーカルを勤めていた者の姿は、もはや一瞬たりとも浮かび上がる事は無くなっていた。
     「ヒジリー!」
     アンコールのラストソングを歌い終わった聖に男達が女達が狂ったように声をかける。
     聖は飛び散る汗すら自分を飾る宝石に変えて、ニヤリと笑み、背中を向け、ステージ上から消えた。尚も観客席から聖を追い続ける怒涛のような歓声。聖に代わってマイクを持ち、「またな」というギタリストの顔も声も観客達の眼中にはない。

     そんな聖のワンマンステージを食い入るように見、声を嗄らす観衆の中に、長身の18、9の少女・・・否、少年といった方が少女は喜ぶのだろうか・・・は、居た。
     「見つけた・・・。今度は逃がさない。」
     楽しそうに呟いて、少女もまた、踵を返した。

    (STAGE1へ続く)
引用返信/返信 削除キー/
■1591 / inTopicNo.2)  魅せられて@−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(13回)-(2005/02/15(Tue) 02:56:04)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/15(Tue) 02:56:49 編集(投稿者)

    STAGE1 邂逅

    --------------------------------------------------------------------------------
     午後10時5分前、シーケーサーとマイクを黒いバッグに仕舞い、聖はスタジオスピリッツのAスタジオを出た。彼女が寝床を構える中野から態々此処大塚のスタジオへ通うのは、音響器具がボーズで統一されている事の他にスタジオの店長とウマが合うからだと言って良い。メンバーは聖と同じ中野区の者、池袋、目黒、埼玉の者が居てバンド練習はいつも此処を使うとは限らなかったが、個人連で週6日、最低でも1日2時間、聖はスピリッツに篭って個人練習する。早朝起きて腹筋50回、バイトのある日は歩きながら出来る呼吸練習をしながらバイト先に向かう電車に乗り込み、帰りにスタジオといった具合にだ。
     「おつかれ。」
     店長やスピリッツで働く金髪のお兄さんに声をかけられ、少々疲れていた表情を聖は清涼感漂う笑顔に変えた。
     「うぃす。」
     バンドマンならではの受け答えなのだが、聖の幼さの残った端麗な顔には合いも変わらず似合わない。
     「店長、三日振りですね?」
     「あ、もう片方の仕事が忙しかったんや。橘さんは今日も四時間、頑張ったな。」
     「いえいえ。とんでもないっす。まだまだ下手なので。」
     動員500となったバンドのボーカリストの言葉だが、そう言う聖から嫌味等微塵もなかった。
     若さ故に恋に狂った時期もあった、音楽を辞めようと迷った時期さえあった。上京して五年経った。どれだけ幼く見えようと聖はもう24歳になっていた。早い者は、もうとっくにメジャー路線で、メジャーを選ばない者でもメジャーばかりが使うような有名なホールでライブしをているからだ。
     「そやな。けど頑張れ。」
     スタジオ代の御釣を出しながらの店長の言葉に一瞬弾かれ、聖はきらきらした瞳でもう一度笑い、「では、また明日。」とスタジオスピリッツを後にした。

     外気は凍えそうな程寒かった。東京は聖の故郷と違い雪等殆ど降らないし冬の寒さは易しかったが、寒がりの聖にはコートを着ていても冬の夜気は十分身に凍みる。おまけに小雨がぱらついて来た。
     「早く帰ろう・・・。」
     一人ごちて駅へと続く下り坂を駆け下りようとした時、コートのポケットから携帯の着メロが鳴り出した。
     (ト単調だから桃生さんか。)
     「はい、聖です。」
     やれやれと思いつつ、電話に出るとバッハの彼の名曲とは不釣合いの無駄に元気な大声が聖の耳を劈いた。
     「聖ちゃん! もう、何度も電話したのよ!」
引用返信/返信 削除キー/
■1592 / inTopicNo.3)   魅せられて@−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(14回)-(2005/02/15(Tue) 02:57:36)
http://pksp.jp/mousikos/
     「そうですか。私、個人連に励んでたんです。・・・で、マネージャーさんの用件を簡潔に述べて下さい。」
     聖は、ボーカルを務めるバンド・INSOMNIAはメンバー含め曲も全て好きだったが、唯一マネージャーの桃生美沙だけは苦手だった。
     聖はバンド内では途中加入の新参者ではあったが今やINSOMNIAの特攻隊長と呼ばれる程意見の発言も多いし、人脈を広げる大物のライブの打ち上げにも精力的に参加している行動派ではあるが、それ以外のプライベートは・・・音楽鑑賞は別として結構静寂を好んでいる。単刀直入に言うと、用件もある時はあるが、用も無い電話の方が絶対的に多いこのマネージャーは苦手というより、もはや嫌いの仲間に片足突っ込んでいる状態だった。
     「もう、合コンの誘いとかじゃないのよ。・・・聖ちゃんに事務所に来て欲しいの。」
     「まさか今から?」
     美沙のきつすぎる香水の匂いを嗅いでしまったかのように、聖は不機嫌な表情をする。
     「そうよ。」
     「申し訳ないですが、私、銭湯行かなきゃならないので。」
     風呂無しアパートに住んでいるから、と電話を切ってやろうと思ったものの、
     「バンドの用事なのよ。お風呂位貸すわよ。」
     バンドの用事という一言で、ウンザリしつつ、聖は「苦手」な桃生美沙の待つ、アクアレーベルの事務所に向かった。

     吉祥寺の駅から10分程歩いたアクアレーベルの事務所で聖はうんざりしていた。
     「用件って、新しいスタッフの紹介ですか。こんな夜中に。」
     どっと落ち込む聖。無理もない、スタッフは大切だが、新人スタッフの紹介など後日ゆっくりいつでも出来ることなのだから。
     「そうよ。人手多い方が良いし、アンケート用紙はわざわざ業者に頼みたくないけどカッコイイ方が良いじゃない? だから、そういうの得意な人を募集してたら、良い人材が居るのに気がついて・・・演劇やってるから、駄目もとだったんだけど。」
     「はあ。」
     「演劇馬鹿のこの子がたまたまこの間のナルキッソスでのライブを気紛れで見ていて・・・。」
引用返信/返信 削除キー/
■1593 / inTopicNo.4)   魅せられて@−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(15回)-(2005/02/15(Tue) 02:58:06)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/19(Sat) 10:05:12 編集(投稿者)

     事務所に着いてからさっさと用事とやらを済ませたい一心だったし、ライブの案内の葉書に宛名の書かれたシールを貼るという作業をしていた人も何人か居た事も手伝って、美沙の口から「紹介」という言葉が発せられるまで聖は今まで面識のない人間などその場に居ないと決め付けて居た。だが、「この子」という言葉に美沙以外の人間に礼を損じてはならないと普段の冷静さが蘇り、注意深く辺りを見回す。
     だが、注意深くというのは不要だった。
     「夜中に失礼しました。はじめまして。」
     件の「この子」は、女にしては長身で175センチはあるだろうか、ずば抜けて端正なその顔立ちが少し美沙に似てなくもないが、厚化粧の美沙とは正反対の爽やかな印象の、だが、少々風変わりの印象を与える少女だった。
     「那智です。」
     ややボーイッシュではあるもののライブ以外でもナチュラルメイクは欠かさない派の聖と違い、ノーメイクの那智の面(オモテ)は中性的というより性別を感じさせないという表現の方がしっくりとくるだろう。ギリシャ神話のアポロンの彫刻のような堀の深い端麗な顔を人の良さそうな笑顔で華やがせ聖に握手を求めてくる。
     が、何処かしっくりと来ない。風変わりというか、何か妙な印象を那智と名乗った少女から自分が感じた訳が、聖にはすぐに思い当たった。
     「いえ、スタッフの皆様は大切ですから。こちらこそ、はじめまして、橘聖です。」
     精一杯取り繕いながら、差し出された手を握りながら、聖は彼女を何気なく見遣った。
     はじめましての挨拶と一緒にとられた皮のハットは、那智のマイブームなのか男物だったのだ。ビンテージものと思われるジーンズも、ニットも全部が、だ。
     「ごめんなさいね、聖ちゃん。この子、舞台でいつも男役ばっかりやっている所為かちょっと変わっているのよ。」
     取り繕う美沙の声に、ついつい那智をまじまじと見てしまった自分に気付き、聖は頭を振る。
     「いえいえ、よくお似合いですし、服装等個人の自由ですから。」
     男装の麗人というわけか・・・と納得する聖には、偏見とか迫害という辞書が殆どなかった。
引用返信/返信 削除キー/
■1594 / inTopicNo.5)   魅せられて@−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(16回)-(2005/02/15(Tue) 02:58:46)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/15(Tue) 02:59:02 編集(投稿者)

     聖は上京して間もない頃一時期モデルのバイトをやっていたこともあって、おかまと呼ばれる人や同性愛者にも関わって来たし、ましてバンドをやっていれば、自分のコスプレをする輩にも遭遇するし、先人のメジャーの貴公子の姿形、口調や声色まで真似る者も目の当たりする機会も多い。その経歴によるかはどうかは別として、人の迷惑にさえならなければ、後は個人の自由、他人の趣味に口を出す輩の方が失礼・・・というのが、聖の到ってシンプルな考えだ。
     「しかし、演劇をなさっているとか。倶楽部にせよ、そちらに支障は出ませんか?」
     「いえ、大丈夫です。学生もしていますが、舞台稽古に入っても、PC位操れますし。」
     (位、ね。ちょっとした、気紛れという訳か。)
     聖は、まあ、役に立ってくれるなら良いやと思い、
     「では、宜しくお願いします。もう遅いですし、私はこれで失礼します。」
     室内の時計を一瞥するなり、今夜は流しでシャンプーかなと舌打ちしつつ、踵を返そうとする。が、そんな聖に美沙は、待ったをかける。
     「聖ちゃん、ごめんなさい。銭湯間に合わないでしょ? うちのマンションすぐ其処だから、泊まってきなさいよ。」
     一見申し訳なさそうに言う美沙だが、どこかその瞳は嬉々としている。多分、数々の浮名を流す美沙のことだから、新しい男の話・・・どこどこのボーカルと付き合い出しただの、そういう自慢話をしたいのだ。勿論、そう分かっていて付き合う義理など聖にはない。
     「いえ、ご心配には及びませんよ、マネージャー。流石にメンバーとはいえうちの猛者どもに借りれませんが、流し位ありますので。」
     冷淡に切り返して、事務所を出ようとしたのだが、突然腕を掴まれて足を止めざるをえなかった。
     微々たる驚きを孕んだ瞳に怒気を絡めて、美沙だろうと思い、腕の主に視線をやったが、聖のアーモンドアイに映し出されたのは、今しがた紹介されたばかりの新人スタッフ・那智のものだった。
     「姉さん、貴女のように煩い女がいるマンションなんかじゃ聖さんが嫌がりますよ。・・・聖さん、桃生の実家は広いので、是非そこの客間をお使い下さい。」
     礼節の欠かない流麗な声音で那智はそう言うが、振り解こうにも流石に演劇馬鹿と称された事はある。しっかり鍛錬されているのだろう、彼女の腕はぴくりともしない。
     だが、それ以上に・・・、
     (今、なんて言った?)
     「・・・ね、姉さん?」
引用返信/返信 削除キー/
■1595 / inTopicNo.6)   魅せられて@−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(17回)-(2005/02/15(Tue) 03:02:14)
http://pksp.jp/mousikos/
     何処のどなたがだよ?・・・聖は聖らしくない裏返った声で、那智と美沙を交互に見遣る。
     「あ、言ってませんでしたっけ。僕は桃生那智。桃生美沙の一応血を分けた妹です。」
     飄々と言う那智が傍らに居れば、
     「なんですって! 何処の誰が煩い女なのよ! 折角聖に会わせてあげたのに!」
     もう傍らにはルージュを塗りたくった赤い唇で、叫ぶ美沙が居る。
     (リーダーの元カノだろうが、全くなんでこんな女がマネージャーなんだ。)
     毒づきながら、雰囲気はともかく確かに顔立ちは少し似ている気はしていた事を思い出し、
     (こうやって人目を気にせず人を取り合う様はそっくりだよ。)
     と、聖はバンド仲間でだけの打ち上げであった為まだマシだったものの、半月前の打ち上げでアガペーのギタリストを美沙が他の女と取り合って居たのを脳裏に毒づいた。もはや、美沙への最小限の礼儀を通すのもどうでも良いから、さっさと家路に着きたい気持ちで一杯だった。
     「聖さん、この煩い女と居るよりかは、初対面とはいえ、僕と居る方が楽しいですよ。ジャンルは違いますが、同じステージに立つ者ですし。」
     にこりと、だが、有無を言わさぬ迫力を込めて言う那智と、離してくれそうにないその手からの圧力に半ば押し切られて、
     「ああ、そうですね。気が合うかも知れませんし・・・。」
     聖は気付けばそう頷いていた。

    (STAGE2へ続く)
引用返信/返信 削除キー/
■1596 / inTopicNo.7)  魅せられてA−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(18回)-(2005/02/15(Tue) 03:02:54)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 19:13:41 編集(投稿者)

    STAGE2 貴公子の罠

    --------------------------------------------------------------------------------
     「やっぱり家に帰ります。」
     アクアレーベルの事務所ビルを出てすぐ、弾かれたように聖はそう言った。
     (幾らマネージャーの妹とはいえ、今日見知ったばかりの相手の家に泊めてもらおうだなんて。)
     頭に血が昇っていたとはいえ、早急に美沙や那智の陳腐な言い争いの現場から立ち去りたかったとはいえ、余りに自分の行動が軽率だった事に恥じ入る他ない。
     「何故、急に気が変わったんです?」
     (いや、だから、取り決めたのも急だったよ。)
     凛然とした眼差しで問う那智は絶世の美少年アドニスも舌を巻いて逃げかねない迫力はあったが、所詮は子供・・・というか、凄みなら負けない聖には痛くも痒くもない代物だった。
     「君の家に泊めてもらうのが嫌な訳ではないんだ。面識のない者が突然泊まりに来るなんてご両親にご迷惑だよ。」
     敬語を取り去って、友人の妹に言い聞かせるような大人の態度を取る聖。
     迷惑だろうという予測もある。だが、それだけではない。この少女からは何処か腑に落ちない胡散臭さが聖には感じ取れたのだ。
     (何故、姉に演劇馬鹿とまで称される男装の麗人が、売れてる方とはいえインディーズの手伝いなんて買って出る? PCに向かってデザインだなんて・・・。)
     聖はストレートではあるが、馬鹿ではない。バンドマンには人を見て計略を練るセンスも必須で、当然聖はそこに長けているから、こうしてステージに立ち続けられているのだ。
     が・・・。
     「父は仕事仕事で・・・母は愛人のマンションに泊まりに行ってばかり居て・・・僕は屋敷で一人きりなんです。」
     那智の声色の異変に、凄んでいたように見えたのは、気の所為だったのだろうかと聖は自分の目を疑った。
     「それで、寂しくて。聖さんと今日知り合えて、聖さんのステージ観てからずっと憧れていたから、凄く興奮してしまって、僕つい迷惑な事を。」
     隣に居る男装の麗人・・・もとい那智は、未成年でまだまだ甘えたくて、だが、自分の個人的趣味・・・つまりは男装により、とびきりの美形にも関わらず変わり者の演劇部員たちにも構って貰えず、友人が欲しくて突然バンドの手伝いをすることになったのではないか? と人の良い聖はさっさと那智に抱いていた胡散臭さを簡単に消化してしまった。
     「あ、いや・・・君が迷惑だなんて・・・それは絶対違う!」
引用返信/返信 削除キー/
■1597 / inTopicNo.8)   魅せられてA−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(19回)-(2005/02/15(Tue) 03:03:24)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/18(Fri) 02:15:52 編集(投稿者)

     何と言うか、聖は昔から弱者を放って置けないというか、子供の頃から女の子で少々分が悪かろうと、弱い者虐めをする男の子相手に真っ先に向かっていったがいいは、喧嘩で勝利した後、苛められていた方の対応に困っていたような観があり・・・もっと言えば、弱者に見える相手からは操作され易いのだ。
     「では、・・・もしお嫌でなければ家に来て下さい」
     つまりは、弱々しげに瞳を潤ませてそんな事を言われて、首を縦に振るなというのは、無理な話だった。
     那智の策略など聖は知る由もない。
     「では、お言葉に甘えてお世話になります」
     聖が無防備にも彼女を信じ、口調を元に戻して深々と頭を下げた時、那智の顔からは不安げな子供の仮面はすっかりと取り払われていた。

     まったく、偶然にしたってどうしてこんなに今日の自分は驚くことに見舞われるのか、何ら心の動きのない表情を装う聖は、ゲストルームのバスルームを使用した後からずっと那智の部屋に居た。
     何畳かなんて聖には検討のつかない広い部屋は調度品一つ一つまでアンティークで統一され、しかも、
     (天蓋付きのベットなんて始めて見たぞ!)
     と聖が驚嘆するように、桃生の経済力は凄まじいものだった。おまけに庭の端には、色とりどりの品種の花が咲き誇るだろう温室が見えている。
     桃生の家は金持ちだとは思っていた。美沙はいつも新作のブランド品に身を包んでいたのを目にしていたからというのもあるが、先程那智が当然の如く携帯で迎えの車を呼び出していたからである。大の大人の為でなく二十歳前の子供の為にお抱え運転手を雇うなんて、ただの親ばかなだけで出来る筈もないが、これ程までの屋敷に住んでいるとは思いもしなかった。
     (何故、あいつはこんな凄い屋敷を出て在り来たりなマンションに住んでいるんだ?)
     浮名流しの美沙を訝りながら、食後のデザートならぬカモミールを頂く、聖。徒歩で通えるからというだけの理由ではあったが、一応、お嬢様学校の部類に入るミッションスクールで一通りのマナーを習っていた事に今ほど感謝したことはない。そうでなければ、贅沢とは無縁の自分は食事の作法一つでとんだ失態を見せていただろうから。それに自分が好奇心旺盛であったことにも感謝だ。
     「彼女は色恋に狂わなければ、あの美しい歌声を無くさずに済んだのに惜しいですね」
引用返信/返信 削除キー/
■1598 / inTopicNo.9)  魅せられてA−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(20回)-(2005/02/15(Tue) 03:04:00)
http://pksp.jp/mousikos/
     こんな風に教養深い那智にさらさらと反応出来る。因みに今のは、オベラ歌手のマリア・カラスの話だ。さっきは、真夏の夜の夢で有名なシェイクスピアの事を語らっていた。
     洋楽すら殆ど聴かない今時のヴィジュアル系のロッカーに、勿論こんな知識はない。
     「聖さんって、本当に博識ですよね。心理学者の話からオペラ歌手まで何でもござれだ。」
     不意に椅子から立ち上がり、優雅に那智が微笑む。
     先程通してくれた書斎から興味深い本でも自分に見せる為に取りに行ってくれるのだろうと思い、つられて聖も笑んだ。
     「とんでもないです。私の知識は単なる好奇心の賜物で偏りがありますし。」
     等と言いつつ、内心聖は嬉しかった。美沙は苦手だが那智とは親密になれそうな期待さえ感じ始めていた。バンドマンとはシェイクピアどころかオペラ歌手の話など到底出来はしない。
     バンドマン同士でも・・・今はワンマンライブが多くそういう経験は減ってしまったが・・・対バン相手の出身地が近かったりすると親しみを憶えるのと同じで、趣味の共感を得ると初対面の相手でも気が緩むものだ。その気の緩みが聖から野生の勘というか危機を感知する鋭敏な直観力を鈍らせてしまっていた。
     (それにしても・・・。)
     機嫌よさげに例の天蓋つきベットに腰を降ろし、シーツを撫でている那智を横目に聖は思う。
     (男装趣味はこの際置いておいて、才色兼備とは那智のような人物の為にあるんだろうな。)
     那智は容姿端麗で、背だって欧米の女性と大差ない・・・。
     (私は・・・顔は・・・まあモデルしてた位だからそこそこかも。背・・・私はないな。金・・・それも余りに無縁。)
     聖は・・・一年前まで半年間同棲していたのは除いて・・・住んでいる共同トイレの風呂無しアパート、おまけに一階には大家が住んでいる自分の身の上を思い出し、一瞬どっと疲れてしまった。
     が、一瞬にしてはっとした。何故か頭がくらくらする。
     那智はそんな聖を悠々と観察していたが、すらりとした足で聖の方へ歩み寄って来る。
     (これは・・・)
     疑いたくはなかったが、疑いようのない事実。この体の異変は単に具合が悪いだけではない筈だと、聖は今更ながら自分の浅はかさに舌打ちした。
     「利口なだけじゃないです。貴女は本当に可憐だ。」
     那智の手は今や聖の頤にかけられていた。
     「そろそろ効いてきたでしょう?」
     疑いたくはなかったが、現実は現実だ。
引用返信/返信 削除キー/
■1599 / inTopicNo.10)  魅せられてA−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(21回)-(2005/02/15(Tue) 03:04:49)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/17(Thu) 15:21:00 編集(投稿者)

     「き・・・、貴様!」
     聖は那智を敵視して、きっと睨む。
     その間にも、頭蓋骨の内側からごーんと音が響くような感覚が強まる。体が火照り出す。
     「利口だけど人を信じ易いな。勿論そこも可愛いですけど。」
     落ち着き払って、酷薄の笑みを浮かべる那智。対照的に意識を少しでもすっきりさせようと、瞳を瞬かせる聖。
     「さっき・・・のカモミール・・・か?」
     「ええ。」
     可愛いに属する単語は年上年下男女問わず、今まで聖に発せられてきた。だが、那智からのそれは、無害でお気楽な人間からの言葉ではない。
     女子校時代を思い出す。自分に好意を向けてくるのは手作りクッキーやチョコをくれるファンが大多数。だが、そのごく一部は違っていた。
     「力ずくっていうのは、少し面倒だったんですよ。」
     体の奥から抑制の効かぬものに操られそうになるのを耐えかねている聖に近づいてくる那智の唇。
     「からかうのは・・・よせ。」
     そう言わずにはいられないが、だが、分かっている、叫んでも仕方がない事は。これ程巨大な鉄骨の屋敷だ。ゲストルームにまで備え付けのバスルームがある程の。防音設備は一部屋一部屋施されているに違いない。
     だからこそ、聖は無様に叫びはしない。暴れようにも視界が眩むのだが、仮に今もし正常な状態であったとしても那智には敵わない事は事務所での事で立証済みだ。
     「おや、意外に落ち着いてるんですね。叫んでも良いですよ?」
     獲物を捕獲した豹のように那智は満足な瞳で聖を見遣る。
     「誰が・・・卑怯なヤツを喜ばせるような事を・・・わざわざ・・・・」
     瞳にだけ劣らぬ強い意志を見せながら、演技だったのだと今更ながらに聖は思い知らされる。泣き出しそうな寂しい子供の表情は偽物だった。
     「僕が喜ぶ事? なさいますよ、貴女は。」
     それを予感しきつく閉じられた聖の唇に勝ち誇った那智のそれが触れた。

    (STAGE3へ続く)
引用返信/返信 削除キー/
■1649 / inTopicNo.11)  魅せられてB−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(22回)-(2005/02/19(Sat) 11:31:14)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/21(Mon) 12:23:00 編集(投稿者)

    STAGE3 屈辱の一夜

    --------------------------------------------------------------------------------
     火照る体を持て余し震える聖をベットに横たえ、那智は頬に髪に口づけを落としながら、捕らえた哀れなその人を観察していた。
     カモミールに混ぜた媚薬は無味無臭で効果が現れるのに幾許かの時間を要するが効き目は絶大だ。捕らえたスパイの口を割らせる拷問用のものだった。その媚薬を父が総合病院の院長を勤める医師ということで、薬に対しての並々ならぬコネクションがあるからこそ、大学生の身分の那智が手に入れられたのだが、聖は汗まみれになりながらも未だ理性を総動員させて皮膚のずっと奥から湧き上がってくるものと対峙してる。プロのスパイでも、吊るし上げられた手を自慰の為に使おうともがき、最後には敵に恥じも外聞も捨て男性器を入れてくれと哀願するというのにだ。
     「辛いでしょう? 自慰の趣味等ないというのなら、僕にお願いしてみては如何です?」
     言いながら那智は聖に貸し与えたゲスト用の白いネグリジェのボタンの二つまで開け上気した鎖骨に唇を這わす。
     綺麗で可憐な女だと思う。オリーブブラウンに髪の毛を染め、本人は少し擦れた感じを漂わせているつもりらしいが、すっと通った鼻梁といい、特別なリップクリームでも使っているのか赤子のようなピンクの唇に、純真さを見て窺えるアーモンドアイは、聖の生まれ持った品位を揺ぎ無いものとしている。
     そして、しっかりと手入れの行き届いた木目細かな肌は、童顔ということを差し引いても聖を実年齢よりずっと幼く見せていた。
     「素晴らしく綺麗な肌だ。すっぴんの方が綺麗な24歳なんて、僕は今までお目にかかったことがありませんよ。」
     那智は目を眇め、聖の素の美貌を眺める。吸い付くような肌に触れるとびくっと体を震わせつつ不機嫌な視線が刃を向けるが、それには別段恐れ等感じない。
     金持ちで頭の切れる那智は十代だったが、幸か不幸か修羅場慣れしている。生意気だと容赦なく向かってくる相手の拳に晒される事等日常茶飯事だったが、護身術以外にも本格的に武道で体を鍛え上げ、未だ嘗て敗者に回った事などない。聖の睨みは鋭敏ではあったが、そんな那智を怯ませる程のものではなかった。
     「素直じゃないというより、こういうことに疎いんですかね?、貴女は。」
     憎々しげに見上げる聖の瞳を笑みで持って見詰め返す那智。ネグリジェの裾をたくし上げ、強引に左右の脚を割ろうとする。
     「な・・・ぜ、私をこんな目に?」
引用返信/返信 削除キー/
■1650 / inTopicNo.12)  魅せられてB−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(23回)-(2005/02/19(Sat) 11:31:57)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:12:08 編集(投稿者)

     抑えがたい本能の衝動に一瞬うろたえながらも、聖はきつく言い放つ。
     「お前に恨まれる・・・謂れ等ない・・・!」
     当然の言い分に、
     「まだ、頑張りますか?」
     那智は楽しげに笑うだけだった。
     辛いと悲鳴を上げそうになる感情を力ずくでねじ伏せても、またすぐに意志にはどうにもできない熱に浮かされ、それに屈服しそうになるぎりぎりの線。そこに立たされていても、聖は聖でしかなかった。
     聖は自我と好戦的な意識の塊だった。例えばステージに立つ時、常に聖は「俺を見てくれ!」と心で吼える。そこに立てば女である事を忘れ、歌い、叫ぶ。そこは聖にとって自己顕示欲を満足させる場であると同時に戦場だった。過激なファンを上回るだけのパワーを見せなければ、バンドマンに明日等ない厳しさを楽しみさえしていた。一瞬一瞬に全てを賭け、その場に立つ。闘争心を持て余しているかのようだとメンバーは口々に言っていた。「呑まれそうだ」「時折お前が恐くなる」聖の放つ圧倒的なオーラに凌駕され怖気づき、付いていけないと去った仲間すらいた。
     そんな自分を聖は時に恨みもしたが、今夜ばかりはその性に感謝すらしていた。
     「逢っていきなり・・・とんだ歓迎だ・・・。お前は、・・・誰でもこう、なのか?」
     苦渋に可憐なかんばせを歪めながら、皮肉たっぷりに、普段の玲瓏な声音とはおよそ不釣合いな口調で聖は笑う。
     「もし、・・・お前が男だったら急所を蹴り上げてやるところだ・・・」
     強靭な自我が那智に媚び諂う徒の人形になるのを防いでいたのは事実だった。
     下半身に今にも消え入りそうな力を意識的に奮い立たせ、空を蹴る聖は、那智には意外な生き物だった。
     聖はインディーズとはいえ売れっ子のボーカリストだ。プライドはエベレスト並だとは察しがついた。だが、盛った薬の強力さを思えば、容易に自分の眼下であられもなく自慰を仕出すか、自分は男ではないが入れてくれと哀願する痴態を容易に演じ出すと思っていた。
     が、捕らえたと思った美しい蝶は蜘蛛の巣の中にいて尚、素晴らしい意志の強さで足掻いていた。
     「本当に素敵な人だ。楽しみ方を考え直しましょう」
     那智は一旦身を引き、うっとりとオリーブブラウンの髪に唇を添え始める。
引用返信/返信 削除キー/
■1651 / inTopicNo.13)  魅せられてB−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(24回)-(2005/02/19(Sat) 11:32:37)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/21(Mon) 12:24:22 編集(投稿者)

     さっさと一網打尽に自分に平伏し思うがままになる相手なら確かに気楽だがそれまでだ。一度や二度で自分は満足し、こんなに美しい容姿をしている相手でも手に入れた有り難味を忘れてしまうだろう。
     だが、聖は那智が思っていたよりもずっと反抗心旺盛だ。自我が強い者程落とし甲斐があるというものだというのが那智の見解だった。
     「誰でもだなんて、僕はそんな見境のない輩ではないよ。」
     人の良い微笑みさえ浮かべる彼の男装の麗人にとって、聖から進んで繰り広げられる痴態を見ることなど、今はどうでも良い事だった。
     (確かにこの人が我慢できなくなるまで待って、懇願する様を見下ろすのも楽しいだろうけど・・・。)
     これ程の人だ。手なずけた方が楽しみが増す・・・。
     那智の気持ちは、最早決まっていた。
     (まずは快感を教え込む方が先だ。)
     聖は魅力的だ。行動的で活動的で可愛らしいとあれば、男が放っておく筈もないし、付き合いも人並みにしているだろうが、はっきり言って快楽に素直に身を流すタイプではない。
     「貴女、イッた事ってないでしょう?」
     眼下のアーモンドアイを覗き込み、唐突に那智は言を発した。
     滑らかな肌から漂うリラクゼーション効果があるのだろう、すっとしたボディーローションの香を楽しみながら、悪戯っぽく口元に笑みを浮かべて。
     「なっ!・・・。」
     思った通り、聖は火照った体を更に紅潮させ、見る見る内に頬は真っ赤に熟れた林檎のようになる。
     那智にとって、それは新鮮な反応だった。今時、イッたかの話でうろたえる女なんて、十代後半でも珍しいというのに。
     「可愛い反応だ。」
     唇の端で悪意の欠片もなさそうな笑みを浮かべる貴公子のような少女を目に、聖は更に身が熱くなるのを感じる。
     (困る。)
     見れば見る程那智は綺麗なのだ。聖は同性に興味を持たれた事は何度かあったが、それに応えたことなどない。それどころか、ハリウッド映画の戦争映画に出てくるよう鋼のような筋肉を持った男達が理想像ではあったが。
     だが、那智は魅力的なのは事実だった。男とも女とも見て取れる完璧な容姿に悪魔と神が競って与えたもうた才智と財力。その持ち主に可愛いだなんて言われてときめくなというのが無理な話だ。それもこんな理性が脆くなった時に。
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■1652 / inTopicNo.14)  魅せられてB−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(25回)-(2005/02/19(Sat) 11:33:15)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/21(Mon) 12:25:21 編集(投稿者)

     「貴女の品位を守ったのは、プライドや理性だけじゃないんだ。無知である事・・・。」
     言いながら、那智は今度こそ強引な態度に打って出る。
     「・・・やめろ・・・。」
     痛々しいまでに理性を失わない聖に構わず、両足の間に割って入る那智。
     「止めたら貴女が辛い。どんなに乱れようが今夜の事は媚薬の所為にすれば良いんです。」
     そう聖に逃げ道を与え、その唇を自分のそれと舌とで塞ぎ、迷わずショーツを破り去ると、代わりに自分の指をそこに与える。
     「!」
     目を見開き、那智の暴挙に一瞬驚きはしたが、それよりも蜜壺に与えられた快感に身を震わせた。
     赤く熟れたそこはまるで聖自身とは別の生き物のように、意志に反して飲み込んだ那智の指に甘んじ、吸い付くように更に奥深く飲み込もうとしている。
     もし、唇を塞がれてなかったら、淫靡な声を上げていたに違いない。
     「意地悪しないで、もっと早く与えてあげるべきでしたね。」
     舌を出し入れする合間に、那智は皮肉ではなく、意外にもすまなそうな顔をしてみせた。
     気丈に振舞ってはいたが、聖だって生身の女だ。その証拠に強力な媚薬の所為とはいえ、蜜壺からはしどけなく白い液体が流れていた。
     「声は、そろそろでしょうが貴女が恥かしさを忘れる頃、たっぷり聞かせて頂きます。でも・・・。」
     濡れそぼった子宮を掻き乱しながら、那智は聖の口腔をも犯す。
     そこを触れられるのは本当に久方ぶりで、驚きはあったが。同性だったが、那智のその中性的な容姿の所為か、薬の所為か、不思議と嫌悪感はない。
     聖は、理性では抑制の効かない熱さを体中に感じ、静かに息を弾ませていた。那智が話す時を避け、声にならない嬌声を漏らす。
     「でも、どんなに乱れても・・・それは、僕が盛った薬の所為だ。」
     那智のその再度の言葉は、暗示となって聖の脳裏に刻み込まれる。
     何処で身に付けたのだろう? 起用に自らを穿つ指は二本に増やされ、聖を内側から手なずけていく。
     「・・・あっ・・・。」
     そろそろだという那智の宣言の通り、蛇のように口腔を嬲っていた舌が離れ声を漏らしても、聖はさして気に留めなかった。
     聖とて自分の身の内に潜む淫魔を押さえ込む限界を最早越えていたのだ。
     限界まで我慢したのだ。まして薬の所為なのだ、と何度も自分に言い聞かせる。
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■1653 / inTopicNo.15)  魅せられてB−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(26回)-(2005/02/19(Sat) 11:34:28)
http://pksp.jp/mousikos/
     「それで良い。思った通り、可愛い声です。」
     反抗心を呼び覚まし兼ねない言葉は避け、那智は優しく涙を浮かべた聖の瞼にくちづけ、埋め込んだ指で円を描き、時に出し入れする。
     (しっかりしろ・・・!)
     聖に言い聞かせるように何処かで声がしたが、それはか細く、すぐに深層意識に消えていった。

     煌々と灯りに照らされた部屋で、雪華のような白い肌を薄紅色に染めた聖がシーツの波間で揺れていた。揺らされていたと言った方が正しいかも知れない。
     如何なる窮地に立たされても常に先頭に立ち光り輝いてきた彼女にとって、傀儡のように誰かの思い通りになるのは、その夜が初めてだったに違いない。
     虜囚の様に衣を剥がされ、着衣乱れぬ涼やかな相手を前に熱に浮かされたように荒く息を吐き、幾度となく体の中心を穿たれながら抗いもしない。
     そんな自分を聖は知らない。目にした事がない。だから、夢に違いない。
     「聖、貴女はとっても綺麗だ。」
     声の主は耳朶を小鳥がそうするかのように甘噛みし、暗示のようにそんな呪文を繰り返す。自分が逃れないように、一番敏感な部分を撫で上げながら。
     「・・・やっ・・・。」
     力無い子供のように嫌々と頭を振っても、自分を嘗め回す視線からは逃れられない。
     いつもの自分とは何もかもが違っていた。
     声が違う。こんなにか弱くか細く艶めいた声をいつもの自分は出さない。そして、弱々しい姿を誰かに明かしたりはしない。
     立場が違う。夢を追いかける掴み取り、他者を引っ張り食らうのが聖という存在だった。こんな風に誰かに揺さ振られ、意のままに操られるなんて、全く持って自分らしくなかった。
     だが、狂おしい程の欲求が荒波となって皮膚の奥深くから押し寄せるのを聖は止められない。
     「可愛い人だ。僕の指をこんなに欲しがって・・・。」
     何処か冷たい甘い声の悪魔から聖は逃れられない。
     自分のヴァキナが奥深く穿たれて尚、その指を欲しがって淫らな収縮を繰り返えしているのが聖自身も認識していた。
     それは聖にとって屈辱的な事で、とてもいけないことで。だから、そういうことは出来るだけ避けてきたし、表情は平気を装い、喘ぎ声は噛み殺して来たというのに、今夜だけは違っていた。
引用返信/返信 削除キー/
■1654 / inTopicNo.16)  魅せられてB−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(27回)-(2005/02/19(Sat) 11:35:10)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/25(Fri) 21:56:09 編集(投稿者)

     薬が彼女の細胞一つ一つにまで眠る肉体の欲求を覚醒させ、悪魔がその狡知と美貌を武器に聖から最も尊ばれる才能とも呼べるものを奪っていた。指で自由を奪い、くちづけで正気を奪う。
     「本当に素敵です。貴女は何も考えずこうして僕に全て委ねていれば良い・・・。」
     甘い言葉で自尊心を傷つけず、悪魔は聖の確固たる自我を奪う。
     標本にされた蝶のように魂を不自由にしながら、聖にはそれを気取らせない。
     「・・・はぁん・・・。」
     ぼんやりとした夢の中にいるかのような意識の中、一晩中聖は揺らされ続けた。

    (STAGE4へ続く)
引用返信/返信 削除キー/
■1684 / inTopicNo.17)  Re[1]: 魅せられて
□投稿者/ asaka 一般人(1回)-(2005/02/21(Mon) 01:48:50)
    とてもすてきな文章ですね。
    続き楽しみにしてます!
引用返信/返信 削除キー/
■1690 / inTopicNo.18)  asakaさんへ
□投稿者/ t.mishima 一般人(28回)-(2005/02/21(Mon) 22:08:29)
http://pksp.jp/mousikos/
     感想の書き込み有難うございます(^_^) 大変励みになりましたvv
     詩集は出させて頂いているのですが、小説を書くのは彼是十年振りなので至らない部分もあるかと思いますが、頑張って書かせて頂きますね。

引用返信/返信 削除キー/
■1700 / inTopicNo.19)  魅せられてC−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(29回)-(2005/02/25(Fri) 21:57:47)
http://pksp.jp/mousikos/
    STAGE4 賭け

    --------------------------------------------------------------------------------
     (此処は・・・?)
     翌朝目覚めた聖は、羽毛のように柔らかで温かい毛布に包まれ、その心地良さに再び眠りに落ちそうになりながらも見慣れない家具を見るともなく目に留めていた。
     いつもなら低く味気ない天井がある筈の視界は白い布地に覆われている。少しばかりの倦怠感を感じる体は、見覚えの無いグリーンのシルクの寝巻を羽織っている。
     (何でこんな高そうな物?)
     聖は如何わしく瞬きし、暫く眠気と奮闘していたが、やがて、カチャッというほんの小さな食器の音に反射的に身構えた。
     視線をやった部屋の中程には、中世ヨーロッパを思わせる見事なその造りに相応しく気品に溢れる、その部屋の主が一人。身支度を済ませて、ロシアンティーなのだろう、アプリコットをスプーンで掬っている。昨夜の事等まるで悪びれていないのか、彼女は落ち着き払った視線を聖に向けた。
     「姫君のお目覚めですか。まだ七時過ぎだ。もう少しお休みになっていて下さい。」
     そう言って口元を笑みで彩る彼の麗人とは対照的に、聖は心穏やかではなかった。
     一瞬にして悪夢のような一夜を脳裏にまざまざと思い出し、自分と那智への嫌悪感に突き動かされる。
     「冗談じゃない!」
     鋭く叫ぶなり、がばっとベットから飛び起き、夜叉の如き形相で那智の前に立つ。
     那智はと言えば、敵意剥き出しの聖を前に悠然と構えている。
     「おや、何かお気に召さない事でも?」
     黒い前髪を優雅に掻き揚げながら、まるで唄でも詠むような気兼ねの無さで言を発する。だが、牙を向く聖に些か気分を害されたらしく、・・・聖にとっては思い出すのも屈辱的な一夜である事に何ら変わりは無かったが・・・その声音からは一晩中何処か労わる様に繰り返された睦言の甘さの片鱗すら感じられない。
     それどころか、冷やかに聖を一瞥すると傍らに置いていた朝刊を詠み始めた。
     那智の自分等歯牙にもかけない様子を目に、聖は自分にとっては大事件だったが、件のお嬢様にとっては・・・度を越えてはいたが・・・昨夜の事はほんの悪戯でしかなかったのだと認識する。
     本当は罵ってやりたかった。お前は卑怯者だと。
     大声で叫びたかった。お前を呪ってやると。
     だが・・・。あんな真似までしておいて、後ろめたさ一つ感じないような相手に、言葉は不要だった。最早此処にいる意味も無かった。
     「誰にも言わないなら、それで構わない。」
引用返信/返信 削除キー/
■1701 / inTopicNo.20)   魅せられてC−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(30回)-(2005/02/25(Fri) 21:58:46)
http://pksp.jp/mousikos/
     聖は一言そう言うなり、足早に那智の部屋を飛び出した。

     ゲストルームで迅速に着替えを済ませ、顔だけ洗うと、聖は足下に脱いだばかりのシルクの寝巻を丁寧に畳んで置いた。
     シルクの塊を目に、いつの間に意識を失っていたのかは知り得もしない事だが、今更ながら、突っ伏した自分の身体が那智の手によって浴室まで抱き抱えられ体の隅々までを洗い清められていたことを思い出す。勿論、着替えの面倒までみられていたのだ。
     おぼろげな意識の中に浮かんだその光景を・・・だからこそ聖は余計に思い出したくなかった。淫猥な自分の女の部分を卑怯な手で無理矢理引きずり出した当の那智本人に、抵抗一つせず無防備に身体を清められていたなんて――! その上、朝目覚めれば、那智は別段悪びれた様子も無くそれどころか余裕綽々で、自分だけが心乱れていた。
     その事実が聖の自尊心を酷く傷つける。あんな一夜を過ごす位なら、淫らな身体の欲求に耐え、寝も遣らず、唇を噛み狂い叫んでいた方がずっとマシだった。
     堪らなく惨めだった。あんな自分の醜態を自分のものだとはどうしても認めたくなかった。
     「どうしてあんな奴にされるがままに!」
     洗面台の鏡を睨みつけ、聖は怒鳴らずには居られなかった。

     最悪な気分を振り払うかのように、聖は頭を振り、ゲストルームを出る。視界には金持ちの住まいに相応しく所々壁画の飾られた贅沢な廊下が広がっている。贅の限りというより中世の芸術と技巧の限りを尽くしたその光景が、何故か昨夜この屋敷に来た時とは違って見えた。
     素晴らしいミュシャの版画に赤い絨毯に、昨日はあれほど心躍ったのに。今は、大好きな筈の芸術家の絵さえ心を苛立たせる。
     そればかりではない。自分自身さえ昨日までとは異質のもののように感じられ、自分の身体が自分の身体ではないような違和感を聖は覚えていた。
     何度も頭を振り、穏やかならぬ心境で玄関へ向かう途中、
     「お客様、お食事を今お運び致しますよ。」
     と使用人だろう女性に声をかけられたが、殆ど反射的に「急いでおりますので。」と頭を下げ、後は逃げるように屋敷を出た聖は、雨の中を走り出した。
     昨夜の小雨は今は大雨に変わっていたが、完膚なきまでに叩きのめされた心境の時は、その冷たさは妙に心地良い。
     勿論、雨に打たれて昨日が洗い流される事にはならないけれど。
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