| 数時間が経(た)ち、辺りは夕闇に照らされていた。 目を覚ました愛は、自分に繋いであった拘束具が外されている事に気付き、相沢の優しさに少し触れた気がした。 こんな形でここに連れてこられて、二日目。 最初こそは相沢をひどく憎んだが、峰子も無事だと知り、安堵感からか、相沢に興味が出てきた。 それはまだ、好きとかの感情ではなく、一人の人間として、相沢を見るようになった。 そこに怒りはもうなかった。
―コンコン。 社長室の扉を叩く音がした。 愛はベッドから下りて、奥の部屋から出て、扉に近づいた。 開くと、般若の部屋へ連れてもらったあの黒服だった。
『お目覚めですか?里山様。』
この会社に来て初めて優しい言葉を掛けてくれた人。再び、声が掛かり、愛は嬉しかった。
『あっ、はい。』
『そうですか。では、この服に着替たら、また部屋から出てきて下さい。』
そう言いながら、黒服は愛に洋服を渡した。 洋服に目を通すと、ジーンズに薄手のセーターだった。実にラフな格好だ。 愛は素早く着替え部屋を出る。 黒服は頷き、愛を手招き、前を歩いた。
『あの…今度はどこに行くんですか?』
『紅哉様の所です。紅哉様は我が会社の四天王です。成績優秀の朱雀様、気性は荒いですが、部下からの信頼が厚い般若様。そして、クールで少しキザですが…相沢社長の側近の紅哉様です。』
『もう一人は!?四天王なんでしょ。まだ三人しか聞いてないわ。』
『もう一人は……三人のリーダー格にあたる、飛龍(ひりゅう)様です。飛龍様は、相手により態度を変える事が得意で世渡り上手なんです。しかし、人間的には欠陥品と言われています。いい噂は聞きません。』
そんな人間がリーダー? よほどの権力家か、はたまた、誰かからの重圧が掛かっているのだろうか。 なぜ、般若たちはそんなリーダーについているの? 愛は混乱していた。
『ここです。僕はここまでなので里山様、どうぞお入りください。』
『ありがとうございます。』
愛は軽く会釈して、扉を開いた。
(携帯)
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