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■5687 / 5階層)  姫鏡台・6
□投稿者/ 葉 一般人(12回)-(2009/04/12(Sun) 00:49:10)
    それと同時に覆い被さっていた女の身体の重みと温もりが消え、私はうつ伏せにひっくり返された。
    だが、すぐに背中に重みを感じた。いく寸前だったので不満だったが、背後から乳房を掴まれてまた我を忘れた。
    「ああ‥」
    それまでとは違う、性急で激しい愛撫だった。唇がうなじを這い耳朶を噛み、 やや乱暴に背後から乳房を包み乳首を弄る。荒い息遣いが背筋を滑り、お尻の谷間から熱く奥に入り込む。
    「あ‥ああ‥」
    どうなってるの? そこは違う――どっちが舌で、どっちが指なの? いやどっちでもいい――
    「だめ‥もう、だめ‥」
    後は言葉にならず、全身が痺れて、弛緩した。

    我に返った時、私がいたのは死後の世界ではなかった。
    いや、ある意味、三途の川を渡って獄卒に閻魔様の前に引き据えられたのに等しい。日頃から喫煙厳禁の部屋で黙々と煙草をふかしているのは沙耶だった。
    「なんで‥京都‥」
    「買い付けるようなものがなかったから」
    相変わらずのにべもない口調。しかし、ベッドに腰かけるその足元を見て、私は凍りついた。
    「だからやめとけって言ったのに、全くあんたは‥」
    あの姫鏡台(買った時サイズ)がぺしゃんこに潰れている。いや、潰されている。
    「これは朱漆じゃないよ。多分、血」
    沙耶の淡々とした言葉に私は目をむいた。
    「あと、鏡の裏」
    言われるままに目をやると、割れて粉々になった鏡の台座に小指の先ほどの黒い絹糸の束のようなものが貼り付けてあった。―――これは、説明して貰うまでもなく、髪の毛だ。
    「心中物の芝居が流行った頃‥元禄くらいの物だと思う。想い人の形見か、心中立ての証に互いの血や髪を仕込んだ物かは分からないけどね」
    姫鏡台の残骸を見下ろしながら私は呟く。
    「近松の浄瑠璃を聞いたわ、女の」
    「そりゃ、場末の遊女でも唄えたでしょうね。当時は歌謡曲みたいなもんだから」
    「最初から分かってたの?」
    沙耶は横を向いた。
    「生々しくて嫌だと思っただけよ、今も気分悪いわ‥それよりあんた、服着たら?」
    そこで初めて、自分が裸だと気がついた。

    姫鏡台の残骸(沙耶が踏み壊したらしい)を焚き上げてもらった帰り、ふと聞いてみた。
    「そう言えば沙耶、あの時あたしの前にお風呂使った?」
    「はっ?」
    自分の店の玄関先で、沙耶は敷居にけつまづく。
    「なんで?」
    「風呂場の床に泡が残ってて転んだから」
    「す‥すいません」
    そのまま店の奥へ行こうとすると、がっしり肩を掴まれた。


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