□投稿者/ 響子 一般人(3回)-(2010/12/21(Tue) 04:37:35)
| 2010/12/21(Tue) 04:38:32 編集(投稿者)
優が指定された場所―――――人気の無い路地裏に到着すると、そこには美しい女性の姿があった。 真っ赤なコートを羽織り、真っ赤なハイヒールを履いた、とても妖艶で美しい、魅力的な女性だった。 茶色く染まり、巻かれた毛先は豊満な胸元まで垂れ、目は切れ長で力強く、鼻は高くて唇は薄いピンク色。 ハイヒールを履いているせいでいくら身長が高く見えたからといっても、おそらく170cmはあるであろう身長。 まるでモデルか女優のような圧倒的な美しさ、指先まで行き届いた美しさに、優は気圧され言葉を失っていた。 そんな優を知ってか知らずか、美麗はふわり、と微笑み、ちらりと視線を足元に送った。
「・・・・ッ、美和!!!!」
そこには、手足も身体も縄で縛られ、口元にガムテープを幾重にも貼られた幼馴染がいた。 制服姿のままというところを見ると、どうやら放課後に巻き込まれたらしい。 近くには美和のスクールバッグと、真っ二つに折られた美和の携帯電話の残骸が転がっていた。 慌てて美和の元に走り寄ろうとするが、美麗に視線だけで止めなさい、と止められた。
「この子は重要な人質よ。さあ、本題に入りましょうか」
「人質・・・・?本題・・・・・?」
「ええ。生憎私には、相手に何も知らせないまま何かをするなんて根性は、持ち合わせていないわ」
美麗は辺りを見渡し、人が来ないのを確認してから、その整った薄ピンク色の唇を開いた。
「・・・・・・嘘・・・・・・」
「本当よ。こんな事で嘘をついて、何かメリットがあるかしら?」
美麗から聞いた話は、ひどく優を混乱させ、絶望させる話だった。 彼女はとある人の部下で、その美麗からすれば雇い主にあたる女性が、この間車の中から優を見つけたそうだ。 たまたま学校帰りの優を見かけただけだったが、その人は優のことを大変気に入ってしまったのだという。 何が何でも手に入れたい、そう考えたその人に言われてやって来たのが、目の前に立っている美女、美麗だ。 美麗はあらかじめ優に関する情報を出来るだけ調べ、下校中の美和を捕らえ、近くの公衆電話から電話したらしい。 その美麗の雇い主がどういう人かは知らないが、とても大きな権力を持った大金持ちの女性だという。 ちなみに美麗は、由緒ある家の現当主であるその人の親戚にあたることになると聞いた。
「信じられないでしょう?幸せな日を過ごしてい時に突然、こんな現実離れした話を聞かされるなんて」
「・・・・・・」
「だけど、全部本当の話よ。だからこの子を借りさせてもらったの。貴方を出来るだけ無傷で連れて行く為にね」
美麗の言う通り、いきなりそんな現実離れした小説か何かのような話をされても、優には上手く理解出来なかった。 だがしかし、このままでは美和も自分も危険な状態にあることは1番に分かった。 “何が何でも”優をその人の元へ連れて行く気満々である美麗は、何をするか分からない。 美和が心配そうな、不安そうな、泣き出しそうな顔で見上げてくるのを横目に、優はどうしようかと対策を練る。 しかし、相手がどういう人か知らない、高校1年生の普通の女の子である優には、どうしたらいいのか全然分からない。 そんな優を見て微笑んでいた美麗だったが、ふぅ、とかすかに溜め息をつくと楽しそうな顔で言った。
「別にこの子を殺すとか、そんな物騒な真似はしないわ。ただ、貴方が同行を断った場合、痛い目には遭ってもらうわ」
「美和は関係無いじゃないですか!!」
「ええ、そうよ。この子は完全なる部外者よ。でも貴方の大事な幼馴染を人質にとってしまえば、貴方が動かしやすくなるもの」
「・・・・・・ッ!!!」
ギリ、と力一杯自分の両方の拳を握り締め、俯いた優を見つめながら、美麗は言った。
「お友達を助けるか、自分を助けるか―――――」
優は昔の事を思い出し、胸を痛めた。美和やその他の友達や家族は、今何をしているのか気になった。 あれから早くも2年の月日が流れ、優は綺麗な女性へと成長を遂げていた。 漆黒の美しい髪は鎖骨まで流れ、太陽をあまり知らない肌は透き通るように白く、目はぱっちりとし、はっきりした顔立ちだ。 元々母親がモデルの仕事で稼いだ時期があったほどの美人だったが、どうやらその遺伝子をしっかり受け継いだらしい。 身体も細いことには細いが、不健康そうには見えず、逆に健康そのものに見える細さだ。 日頃から着ている着流しを着た状態の優は、ひどく色っぽく、しかも大人びた女性に見える。 寝ている間にはだけたのだろう、大きく開いた胸元から見えるくっきりとした谷間のラインに、程よい大きさの形がいい胸。 帯を絞めることでより一層腰のラインが際立ち、胸元同様、はだけた裾からは白い太ももが見える。
優が来た時から優の部屋として宛がわれた、1人で使うには充分過ぎる広さの洋室には、必要最低限の物しかない。 テレビ、ソファー、ガラスがはめ込まれたテーブル、木製のチェスト、トイレ、浴槽付きの浴室、ベッド、クローゼット。 あれが欲しい、と言えば、多少時間はかかるが、大抵のものは手に入れることが出来た。 それにこの洋室も、優の為に優が来る前に和室を改造してつくらせた特別な部屋らしかった。 ただ、この部屋が普通の部屋と違う点は、ドアも窓もないということ。わざとつくっていないらしい。 ドアの代わりだとでもいうように、鉄格子が人が入れるぐらいの大きさで取り付けてある。 外側から幾重にも厳重に鍵が閉められている為、内側から外に出ることは出来ない。
チェストの上に置かれた金色の時計をちらりと見ると、朝の9時半を指していた。 もうそろそろ朝ご飯がここに運び込まれてくるはずだ。 そして―――――自分を監禁している“あの人”も、その後やって来るはずだ。 優は朝から昔の事を思い出して気分が悪い上に、今日のこれからを想像して溜め息をついた。
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