□投稿者/ 蜂 一般人(3回)-(2012/12/10(Mon) 19:01:29)
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それからというもの、毎日毎日、まともな勉強は一切させてもらえなかった。 オナニーやセックスのやり方、コツ、アダルトグッズの使い方・・・・。 そんな一般社会で生きるにはほぼ不必要であろう知識と技を叩き込まれた。 お陰で新入生といえど、半年も経てば学園の生活と授業に慣れてしまっていた。 『お前たちも、半年後にはこうなるだろう』―――――北沢が言った通りだ。 あの時見た上級生同様、裸でいることも、授業を受けることも、普通になった。
だから今日、入学式ということで制服を着ているのが、真里菜には違和感がある。 入学式は一応きちんとした行事のため、制服の着用が特別に許可されるらしい。 多分、外部受験の生徒に逃げられたりしないための、カモフラージュだろう。 1年生だけではなく、2年生や3年生の生徒も普通に制服を着用している。 首輪も久しぶりに外すことを許されたが、何だか首回りが落ち着かない。
「では、明日からさっそく、本格的に授業をしていくわね。 今日は寮に戻って、各自明日からの学校生活に備えて下さい。 寮の監督者からも話があると思うけど、ちゃんと聞いておくこと。 手本となるべき生徒は、他の生徒を寮まで誘導してちょうだい」
それだけ言うと、鈴野はさっさと教室を出て行き、生徒だけが取り残された。 未だに外部受験で入学してきた生徒は泣いたり、呆然としたりしている。 まるで、3年前のこの学園に入学してきたばかりの真里菜たちのようだった。 気持ちは痛いほど理解できるが、自分たちは外部受験の生徒の手本なのだ。
「みなさん、とにかく寮の方に戻りましょう!!」
鈴野のように数回手を叩いてから声を張り上げたのは、持ち上がりの生徒の1人。 彼女は佐々木結衣、2年生の時に同じクラスになったことがある人だった。 結衣はクラス全員を何とか立たせ、鈴野の指示通り、無事全員を寮まで誘導した。
寮に入り、受付のような場所で奥の方に声をかけると、1人の女性が出てきた。 高等部側の寮の監督を務めているこの学園の女性教師である、倉本美香だ。 倉本は若いとはいえないが、大人の女性らしい雰囲気と容姿を兼ね備えた教師だ。 彼女に案内され、奥の食堂へと行き、そこで倉本からの説明を受けた。
「初めまして、私が高等部の寮の監督をしている、倉本美香です。 今からこの寮での生活の説明なんかをしていくから、よく聞いて下さい」
そこで衣類の着用は一切認められないことや、食事などの時間について話される。 当然だが、衣類の話が出た時に再度騒々しくなり、結衣がそれを静めてくれた。 一通りの説明を終えた後、部屋割りが発表され、とりあえず解散となった。
「今日からよろしくね」
「は・・・・はい・・・・」
真里菜のルームメイトは外部受験で入学してきた、岡田希という同級生だった。 肩までのボブは綺麗に整えられ、前髪も眉毛の辺りで真っ直ぐに揃えてある。 目は丸くてくりっとした奥二重で、和服が似合いそうな容姿をしている。 視力がそんなによくないのだろうか、銀の細いフレームの眼鏡をかけている。
「あ、あの・・・・持ち上がりの方、ですか?」
「敬語じゃなくてもいいよ、クラスメイトなんだし。 ・・・・うん、中等部から入学した」
「・・・・」
希はそれっきり黙り込んでしまい、ただ真里菜の後ろについて歩くだけだった。 真里菜は中等部の寮とあまり変わらない構造の寮の廊下を、すたすたと歩く。 その数歩後ろを希が俯くようにしてついていき、2人の自室に辿り着いた。
「ここが私たちの部屋」
2つのベッドにクローゼット、トイレにローテーブルにテレビにソファー。 お風呂は共同の浴室があり、ご飯は全て食堂で作られ、食堂で食べる仕組みだ。 勉強のための机がないのはやはり、まともに普通の勉強をしないからだろう。 真里菜と希の分の荷物は、ベッドの近くの床に積み上げられて置かれていた。
2人は時々話しながら、荷解きをし、それぞれの荷物を仕舞い込んで片づけた。 その時に、希がこの学園に入学させられた理由かもしれない出来事の話を聞いた。
希は少し裕福な家に生まれ、兄と姉が1人ずついる、3人兄弟の末っ子だった。 それと幼い頃に交通事故で母親を亡くした同い年の従姉妹が一緒に暮らしていた。 彼女の父親は頑張って働いていたものの病気を患い、長期の治療中だという。 希の父親の双子の妹の一人娘である彼女を、希の両親は快く引き取って育てた。 彼女の父親が入院している病院から家が近いというのも、引き取った理由らしい。 希は兄や姉とも、その従姉妹とも仲が良く、4人兄弟のように接していた。
しかし成長していくにつれて、両親は、希に愛情を注がなくなっていった。 兄と従姉妹は勉強より運動ができ、姉は運動よりも勉強ができる子供だ。 それに比べて希は、勉強も運動も平々凡々、特に秀でたところはない子供。 それがつまらないのだろう、両親は、3人と希の差を、徐々に広げていった。 虐待などと言われるレベルではなかったが、希に大きな心の傷を与えた。
そんなある日、両親に呼び出された希は、この学園の話を切り出されたのだ。 『希、お前にぴったりの学校だ。お母さんの知り合いが勧めてくれたそうだよ』。 パンフレットを手渡され、目を通すと、確かに良い感じの学校ではあった。 成績的にも何の問題もなく受験できるようで、入学に対し、特に障害はなかった。 熱心に勧める両親と自分の希望もあって、希はこの学園を志望校にした。 喜んだ母親は早速学園に電話をかけ、願書を取り寄せ、必要な書類も揃えた。 両親は次々に手続きを済ませ、あっという間にこの学園への入学が決まった。 学力試験も面接もなく入学できたため、希はそのことに単純に喜んでいた。
しかし、入学してみれば、あのパンフレットも両親の話も、嘘だらけだった。 こんな場所だとは微塵も思っていなかった希にとって、かなりのショックだった。 そして、自分はあの家族に捨てられたんだろう、と、何となくだが悟った。 両親がこの学園の正体を知らなかったというのは、ちょっと考えづらいからだ。 だから今の希には、この学園以外、どこにも居場所がない―――――
希はゆっくりと、しかし淡々とそのことを語り、力なく微笑んでみせた。 真里菜はその姿に悲しみを覚え、無意識のうちに希の身体を抱き締めていた。 少しの間抱き締めた後、再び希の顔を見ると―――――希は微笑んだままだった。
「いいの、もう・・・・私は、あの人たちに、家族なのに捨てられたも同然。 私の居場所は、この学園にしかないの・・・・他にはどこにもないの。 私は・・・・私は・・・・私は、この居場所を守ってみせるわ・・・・。 どんな場所だって、どんな人たちだっていい、私を認めてくれるなら・・・・」
「・・・・」
家族に捨てられたことを悟り、理解した時に、希の中の何かが壊れたのだろう。 希はこの学園の中に自分の居場所を求め、認めてもらえることを望んでいる。 つう、と静かに涙を流した希の身体を、真里菜はもう1度強く抱き締めた。
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