□投稿者/ 王兎 一般人(2回)-(2014/11/28(Fri) 02:49:23)
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モヤがかかったような頭の中と、しぱしぱする目を無理矢理こじ開ける。 成人式の後、インタビューに答えて、友人のもとへ行こうとして、それで・・・。 徐々に覚醒してきた意識と直前までの記憶を思い出し、一気に目が覚めた。 どうしよう!、みんな心配しているかもしれない!、と起き上がろうとした。
「え・・・?」
しかし、全身を上から押さえつけられ、首を少し持ち上げるのが限界だった。 首と、手先と、足先しか自由になる箇所はなく、その自由も些細なものだ。 慌てて自分の身体を見下ろすと、黒い革のベルトでベッドに拘束されていた。 黒い革のベルトは至る場所を締めつけ、私の自由を確実に、強固に奪っている。 身体に力を入れてみるが、ベルトは全く動かず、身体も全く動いてくれない。 自分があの後誰かに気絶させられて誘拐されたのだと、その時初めて気が付いた。
必死に辺りを見渡すと、自分以外には誰もおらず、室内であることが分かった。 窓は1つもなく、扉は木製の頑丈そうなドアが1つ、あとは浴室とトイレ。 浴室とトイレの壁は透明のガラスでできており、中が丸見えの状態だ。 床一面にはカーペットが敷き詰められ、クローゼットらしきものが見える。 ベッドの真横には何やら棚が置いてあり、天井にはシャンデリアがぶら下がる。 ラブホテルの一室か富豪の屋敷の一室か何かのようだと、ぼんやり考える。
これからのことを考えていると、ガチャン、と鍵が開けられる音がした。 そしてゆっくりと入口のドアが開き、1人のにこやかな女性が現れた。 それはあの記者でもカメラマンでもなく、初対面の見知らぬ女性だ。 自分よりは5歳か10歳ぐらい年上に見えるその女性は、こちらに歩き出す。 膝下までのシンプルなワンピースを身にまとっている女性は、清楚そのものだ。
「意外と目が覚めるのが早かったわね」
自分の真横に来た女性は、そう言うと細い指で私の顔の輪郭を撫で上げた。 くすぐったさと不安と恐怖から顔を背けると、ふふっと笑われてしまう。 女性はそのままベッドの隅に腰を下ろし、優しい手つきで髪を手ぐしですく。
「茉莉梨奈さん。20歳。大学2年生。県外で一人暮らし。・・・合ってるかしら」
先ほどの取材で答えた情報をつらつらと口にした女性の顔は、穏やかで優しい。 とりあえず微かに首を縦に振ると、女性は今度は唇をむにむにと弄び始めた。 リップを塗られているであろう唇が光を反射し、ぷるぷると輝く。
「振袖、窮屈でしょうから脱がせて、他の服に替えておいたわ」
よく見ると自分が今着ているのは振袖ではなく、Tシャツにジャージだった。 少し大きめのサイズのようだが、確かに振袖よりは着慣れているし断然楽だ。 女性の名前は小笠原百合だと名乗った以外、年齢も職業も何も教えてくれない。 しばらく唇や髪を好きなように弄ばれ続けていたが、ようやく指が離れた。
「ふふ・・・怖くて不安で、声も出ないってところかしらね?」
さらりとした髪を耳にかけ、女性は恍惚としたような表情で見つめてくる。 少し震えている身体を女性の指が這っていき、時々くすぐるような動きを見せる。 髪から耳、耳から輪郭、輪郭から首、首から腕、腕から胸元へ・・・。 微妙な距離で触ってくる指がくすぐったく、身を捩ろうとするがあまり動かない。 先程から声を出そうとしているのに空気しか出てこず、震えも止まらない。
「大丈夫よ、殺したり乱暴にしたりなんてしないわ、安心してちょうだい」
彼女は散々指を這わせることを楽しんだ後、自分の手足を組み、優雅に笑う。
「あの記者とカメラマンは私の部下のようなものなの、悪い子ではないわ」
やはりあの雑誌の記者とカメラマンはこの女性、小笠原百合の仲間だった。 きっと雑誌だというのも嘘で、ただの口実、個人情報の収集のためなのだろう。 やっぱり取材だなんてちゃんと断ればよかったのだと、今更ながら後悔した。 百合は怯える梨奈が可愛くて仕方がないというように目を細め、微笑んでいる。
「ここは私の自宅の一室なのだけど、地下だしそうそう見つからないわ。 それになかなか出られないでしょうし、出すつもりもない・・・」
梨奈は百合の目に狂気の色を感じ取り、後退りをしたい気持ちになった。 ぱっと見は優しそうで優雅で上品な女性なのに、どこか怖く、どこか冷たい。 未だベルトのせいで満足に身体が動かず、混乱しており、声もろくに出てこない。 ぎしぎしと音を立てるベッドとベルト、目の前で微笑み続ける初対面の女性。 気絶させられて誘拐された見知らぬ家の地下室に、全く読めないこれからの展開。 全てが不安と恐怖に入れ替わり、逃げようという気持ちは全く湧いてこない。
「怯えている梨奈はとっても可愛いわ、まるで小動物のようね」
百合は少し待っているように言い残すと、再度ドアから外に出て行った。 ようやく全身を支配していた緊張が解けて、少しだけ落ち着くことができた。 全身を拘束されていて、個人宅の地下室にいるなら、脱出は不可能に近い。 改めて冷静に現状を整理すると、その絶望に泣き出したい気持ちに駆られる。 これからどうなるのだろう、と悶々としていると、再びドアが開いた。
「食事を持ってきたわ、梨奈」
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