| 息を整えつつ─
サトが無事に駅に着いた事を鼻で確認した。
滑り台に照らされた朝日が反射して、思わず私は目を閉じる。
「おう、ハルカ」
バサバサ、 と羽が擦れる音。
この匂いはゲンさんだ。
「おはようございます」
ゲンさんは滑り台の頂上に止まると。
「おいっす。どうだ?調子は」
「まだ良くわかんない事だらけですよ。ゲンさんは?」
「今日は燃えるゴミの日だからな…。バカな輩がゴミを荒らさないように見張ってる訳よ」
ゴミの日…。
「カラスが、って事?」
「ああ。これが俺の仕事。地味でやんなるぜ」
カラスが。 烏を見張る…。
「大変、ですね…」
「あ?まぁ楽しくはねーわな。この傷も思い起こせば五年前年末と言えば沢山出るのはゴミってな訳で、」
「フジさんは?いないのかなー…」
話が長くなりそうなので途中で遮る。
「おう、フジか。んー…どうだろうな。あいつも対象がいないしな」
「え?」
どういう意味?
「俺らは幸せを届ける特定の対象者がいないのさ。だからこうやって地道にポイント稼ぎするしか道はない」
「そう、なんですか…」
「俺は好き好んでここに止まってるけどな…。フジはもう長いぜ。なんせハトだしよ…」
出来ることなんて、 限られちまう、と。
ゲンさんはため息混じりに呟いた。
そうなのか…。
ラフィもフジさんの業は重いって。
言ってたっけ…。
「でもおかしいよな。フジの意思で死んだ訳じゃないんだぜ?」
イデオロギーのせいさ、とゲンさんは続けた。
「………イデオロギー?」
「フジはなー沖縄で死んだのよ、いわゆる戦死だ。…もう60年になる」
せつねーよなぁ、と。 ゲンさんは空を仰いだ。
そんな。
60年も…。
「………。」
胸がモヤモヤした。
フジさん…。
そんなの早く生まれ変わるべき、なんじゃないの?
「これが俺らの世界よ。矛盾だらけだぜ。」
こっちの世界と大して変わらねーよ、と。
ゲンさんは言った。
「そうだハルカ。」
「はい?」
「お前さんにいいものを見せてやろう」
?
(携帯)
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