| それから数ヶ月があっと言う間に過ぎた。 新しい環境に慣れるのと、仕事を覚える ので忙しかった。 時々、お局さまの攻撃にあい、ヘコむことはあったが、 基本的には楽しい職場だった。 どんどん日々は過ぎていくのに、 私は彼女を忘れることができなかった。 一度会っただけで、連絡先も分からない。 たぶんもう会えないであろう相手なのに。
ほどなくして、私は香水を買った。 バラの香りの。 どうしようもなく淋しくなると、 バラの香りを手に付け自分の口を塞ぐ。 そうするとあの時のことが蘇り、 自慰にふけってしまうのだ。
一年ほど経ったある日、私は彼女を発見した。 彼女はテレビの中にいた。 英語が全くできないくせに、コテコテの関西弁を話す外人さん、 しかもモデル並みの美貌ということでウケていた。 大爆笑の音声の中、私は涙を流してた。
私は彼女にファンレターを書くことにした。 彼女から貰った手紙の文面をそのままに。
『おおきに!ほんでごめん!! 話されへんふりしたんは、緊張でパニクっていたからや。 実はこれからオーディションがあるんや。 そんでも、あんたのおかげでだいぶ リラックスできたわ。 ほんまに感謝してるわ!ほんまはまた 会いたいけど、あんたの大切なもん 奪ってもうて、責任感じて会われへん。 けど会いたい‥‥ごめん!忘れて! ほな、元気で!』
彼女は気づくだろうか?
数日が経ち、彼女から返事が来た。 『LOVE』と、ひとこと。 その下に Eメールアドレスが一行。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
そして私は夜行バスを待っている。 せっかく就職できた会社も辞め、 アパートも引き払い、単身 上京し 彼女のマネージャーになるつもりだ。 近くのイタリアンレストランから、 ニンニクの焼ける香りが漂ってくる。 私の身体からはバラの香りが漂う。 バスに乗り込むと一番後ろの席に 高卒くらいの女の子が座っている。 私は迷うことなく彼女の隣りに座った。 きっと彼女はバラの香りに包まれているだろう。
完
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