| ふたりの口唇がまさに触れようとしたその時、めぐみが笑いだした。 「ぷっ、ハハッ、ハハハハハハ。ごめん。」 「なによ!」 「ごめん、あたし緊張すると笑っちゃうの。本当にごめんさない。」 「ムードないなぁ‥‥ふふっ、ははっ。ごめん、あたしも笑えてきた。くくっ。」 「もう!、だめだよっ!」とめぐみが友香里の口唇に軽くキスした。 「あっ、ずるい!!あたしも。」 「いや〜、助けて〜!」 とめぐみは逃げ回った。
それから二人の仲は急速に進んで、 何回目かのめぐみの家でのお泊まりの時、ベッドで友香里が、 「ねぇ、気になっていたんだけど聞いていい?」 「うん。なに?」 「あのさ、あたしが告ったときにさ、何故あっさりとOKしてくれたの? 怒らないでね。誰でもよかったのかなとか。不安で。あたしはすごい悩んだから。」 「‥‥‥‥そうなんだ‥‥実はね、女同士の恋愛に免疫があったんだよね。」 ちょっと待っててねと言ってめぐみは、裸のままベッドを抜け出した。 机の引き出しをゴソゴソしたと思ったら、本のような物を持って戻ってきた。 「なに、それ?」 それは蝶の絵の表紙の、鍵の付いた日記帳だった。 鍵は4桁の数字を合わせるタイプのやつだ。 「おばあちゃんの日記帳。あたしが小さい時に亡くなったんだけど、 あたしが蝶々の絵を気に入って離さなかったんだって。 南米原産の透明な羽根を持つ蝶々らしいんだけど。 それで形見分けでもらったの。鍵が付いてるから誰も読まなかったの。 大きくなってあたしも色々試したけど、ダメだった。 でもこないだのクリスマスの前の日に、突然数字が浮かんで試したら 開いちゃったの。読んでみて。」 「えっ、いいの?」 「えっとね、ここから読んでみて。」
そこには、隣家の人妻との出会いから別れまでの恋を 赤裸々に綴った内容だった。相手の気持には気づきつつも、 どうしても一歩が踏み出せないもどかしさや、相手への想いが切々と書かれていた。 途中から友香里の瞳から、涙がこぼれ始めた。
節子が泣いていた。嬉しくて泣いていた。
泣きながら友香里は、 「ねぇ、おばあちゃんの名前はなに?」 「えっ、笠原真理子だよ。」
節子は号泣していた。あぁ、神さま、ありがとうございます!ああ。
その時、節子は突然、上へと引っ張られた。 眼下には、号泣し出した友香里に戸惑いながらも、一生懸命に慰めているめぐみが見える。 やがて地球が見えて、天空の光に吸い込まれていった。
完
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