| 全身に汗がまとまりつくような外とは違い、店内はとても冷たい風を流していた。
ほてった身体を冷やすように手をぱたつかせて控え室へと入る。
見慣れた顔がエリナの目にとまる。
「アリサさん、おはようございます」
疲れたような顔をして、しかし笑顔でエリナに返事を返す。
(…アリサさん。何かあったのかな…)
心配そうにアリサを見ながら、ロッカーを開いて着替えを済ませる。
ホステス達が控え室からいなくなっていく。アリサは一番初めに指名が付き、とっくにいなくなっていた。 まだ入りたてで客に名前を知られていないが、一度エリナの名前と顔を覚えた客は、必ずエリナを指名した。
その客がエリナを指名していき、控え室に戻るのはほんの十分程だった。
「あ…。アリサさん。」
煙草を吸い、疲れた様子でソファに深く腰を掛けていた。 エリナに気が付き、冷たいお茶を差し出した。
『ん、水分取らなきゃバテるよ♪』
カランっとグラスの中で鳴る氷が涼しげだった。 アリサからグラスを受け取り、次の呼び出しが来るまでの束の間の休息をとる。
隣でおいしそうにお茶を飲むエリナの頭を、アリサは撫でた。 照れくさそうに顔を赤らめたエリナは、アリサに背中を向けてグラスをテーブルに置いた。
「アリサさんも煙草じゃなくて、お茶とか飲んだほうがいいですよ」
エリナの言葉にアリサは何も言わずに黙って後ろから抱き締める。
「離してください。」 いつものようにアリサを離そうとする。しかしアリサは力を緩める事無くエリナを自分の胸に抱き寄せた。
「酔ってるんですか?」
すっぽりとアリサの胸にうずくまりながらアリサの表情を伺う。
「…………」
エリナの瞳には、アリサの綺麗な顔に伝う涙が見えた。言葉を失うくらい綺麗な顔が、皮肉なことに涙によってより一層輝きを増していた。
ぐっと痛いくらい抱き締められ、エリナの鼓動が早くなる。
『……ごめんなさい……別れて……』
熱い涙はエリナの頬にあたり、やがて互いの涙が交じり合うのに時間はかからなかった。
(携帯)
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