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■19228 / 親記事)  色恋沙汰
  
□投稿者/ 琉 一般♪(1回)-(2007/06/07(Thu) 16:03:39)
    もしも人生をやり直せるとしたら、私は高校生に戻りたい。

    二度として出会えない、あなたに逢えたから…
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■19239 / ResNo.1)  第一章 さくらいろ (1)
□投稿者/ 琉 一般♪(2回)-(2007/06/09(Sat) 16:40:32)

    私にとって恋とは、絶対的な憧れだった。

    理想に忠実な人物像を探し求めているわけではない。
    だからもちろん、好きになれないところもある。
    ただ、どうしても気がつけば目で追ってしまう。
    側に居ると妙に気にかけてしまう。
    その人の言うことは何故か素直にきいてしまう。
    そんなことの繰り返しで私はようやく気づいたんだ。
    ああ、これは恋なんだって。
    …一目惚れなんてありえないと思っていたのに。


    それは、桜の蕾が少しずつ開きはじめた四月のことだった。
    ハアッハアッハアッ…
    今年から高校生になる澤崎和沙は、とても焦っていた。
    入学式があるというのにあわや遅刻しそうだったからだ。
    だが別に、寝坊したとか電車を乗り過ごしてしまったとか
    そういう失態のせいではない。
    和沙は自分が入学する学校の広さを読み違えていた。

    地方都市の郊外にある百合園女子中学高等学校は、
    中高一貫性の私立女子校で、いわゆる金持ちのご令嬢が通うお嬢様学校。
    平成になって出来たわりと新しい学校だが、
    すでに有名大学に何人も卒業生を輩出している進学校である。
    お嬢様学校でありながらも独自のカリキュラムを導入して、
    文武両道を重んじ、現代で活躍する女性の育成に力を入れている。
    新鋭産業の経営者だけでなく、噂を聞きつけた老舗大企業の社長までが
    娘をこぞって入れたがる、名門校だった。

    和沙はここに特待生として入学する。
    百合園女子高では、特別入試で選抜された若干名の優秀な学生に、
    入学金を含めた学費免除という特例措置をもうけている。
    ごく普通の一般家庭で生まれ育った和沙が入学できたのも
    そういう理由によるものだ。
    しかし、いくら特待生とはいえ初日から遅刻というのはまずい。
    加えて和沙は入学式で新入生代表挨拶を担当することになっていた。

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■19240 / ResNo.2)  第一章 さくらいろ (2)
□投稿者/ 琉 一般♪(3回)-(2007/06/09(Sat) 17:12:27)
    公立学校とは桁違いの額の授業料がかかることもあってか、
    校内の敷地はやたらと広い。
    おまけに校舎は全て新しく、様々な最新設備が整っている。
    まさに贅を尽くした学校だった。
    和沙は、どうやら学内専用の大庭園に迷いこんだらしかった。
    校門をくぐってからもう二十分以上は歩き続けている。
    「ハア〜。ここどこよ…」
    和沙は内心、想像していた規模をはるかに超えた敷地面積に
    うんざりしながら誰か道を教えてくれる人を探していた。

    百合園女子の大庭園とは、中学校舎から高校校舎に向かう途中にある。
    「大」とつくからにはそれなりに大きいわけで、
    広さだけだとちょっとした森のようだった。
    ここでは、四季折々楽しめるほど多くの植物が栽培されている。
    中でも、薔薇・椿・もみじの三種類の小庭園はそれぞれで独立していて、
    それらを三角形につなぐ通りもまた桜・イチョウ・紫陽花のみが続く
    並木道として生徒たちの憩いの場になっていた。

    ほんの一瞬の出来事だった。
    突然強い風が吹いて、和沙の眼には小さなゴミが入り視界を阻んだ。
    「痛っい…もう最悪」
    それまでの苛立ちもあって、乱暴に眼をごしごしと擦ってから瞼を開けた
    次の瞬間、徐々に明るく見えてくる視界には信じられないものが映った。
    「…女神?」
    和沙は思わずそう呟いた。
    いや、そう思わずにはいられなかったのだ。
    すらりと伸びた長い手足に、端正な顔立ち。
    緩やかなウエーブを描く色素の薄い髪になめらかな白い肌。
    半端ではない美人だということは遠目からもよく分かった。
    まばゆいばかりの朝日が色白な肌をさらに白くさせ、
    辺りを舞い散る桜の花びらがあまりに幻想的で、
    少し離れたベンチで眠るその女性はさながら女神のようだった。
    息をのむ美しさというのは、こういうことをいうのだろうか。
    早く道を尋ねないといけないことも忘れて、
    和沙はその場でただただ見とれていた。

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■19241 / ResNo.3)  第一章 さくらいろ (3)
□投稿者/ 琉 一般♪(4回)-(2007/06/09(Sat) 17:35:39)
    ピリリリリリ…

    しばらくの間、動けずにいた和沙だったが、
    やがて携帯電話の着信音で我に返った。
    「はい、もしもし…」
    それは、なかなか来ない和沙を心配した入学式の運営担当の
    教師からの催促の電話だった。
    「はい、すみません。それじゃあこれから向かいます」
    和沙は、自分の状況を説明して道を教えてもらい、
    すぐに向かうことを伝えて電話を切った。
    静寂の空間に突如としてベルが鳴ったので、
    思いのほか響いてしまった。

    起こしてしまったかな…?

    和沙はもう一度、さっきのベンチを覗こうとした…その時。
    「ねぇ、あなた」
    「うわっ」
    背後から急に肩をつかまれたので、和沙は驚いた。
    振り向くと、そこには例の女神が立っていた。

    いつの間に…

    遠くから見ていた時には気づかなかったが、同じ百合園高校の
    制服を着ている。
    しかも、ブレザーの胸元にある学年カラーは白…

    白って何年生だっけ?

    和沙は、自分の一年生カラーが臙脂であることはもちろん知っていたが、
    二年生や三年生のカラーが何色だったかは忘れていた。
    とりあえず、臙脂でないことから上級生であることは間違いない。
    近くで見ると、本当に綺麗な人だった。
    和沙にはさっきにも増して、一際輝いて映った。

    ああ、きっと人望厚い素晴らしい先輩なんだろうな…

    ところが、その上級生は笑顔のまま続けてこう言った。
    「お急ぎのところ申し訳ないのだけど、校内のこの辺りでは
    携帯電話はマナーモードにしてくださらないかしら?
    私、この時間は朝の礼拝をする時間と決めているの」
    「…はい?」
    「はっきり言って、迷惑なの」
    瞬間、和沙は固まってしまった。

    なんか、性格悪い…かも
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■19242 / ResNo.4)  第一章 さくらいろ (4)
□投稿者/ 琉 一般♪(5回)-(2007/06/09(Sat) 17:55:57)
    「あなた、新入生?」
    「はい。外部受験生なので、迷ってしまって…」
    「そのようね…」
    和沙は一刻も早くその場を立ち去りたくて、
    挨拶もそこそこにお辞儀をしてさっさと体育館へ向かおうとした。

    「待って」
    再び彼女は和沙の手首を掴んで呼び止めた。
    「何ですか…?」
    「良いわ。案内してあげる」
    「は?」
    「いいから、いらっしゃい」
    そう言って、彼女は掴んだ手首にさらに力を入れて
    勢いよく歩いていった。

    彼女が何者なのか、和沙には全く分からなかった。
    手がかりは学年カラーが白色の上級生であることだけ。
    そして、和沙がこれまでに見たこともないくらい綺麗な
    とても美しい女性であることだけだった。
    斜め後ろから覗かせる彼女の横顔は、
    やっぱり綺麗で凛としていて女神様のようだった。

    しばらく歩くと、だんだん入試を受ける時に見たような建物が
    ちらほら見えてきた。
    「ほら、そこの角を曲がると第一体育館よ」
    にっこり笑って、彼女はようやく手を離してくれた。
    「あ、ありがとうございました」
    「良いのよ。貸し一つと思えば」
    悪意はないのだろうけど、やっぱり手厳しい彼女の笑顔に
    見送られながら、和沙は急いで入学式の会場へ向かった。
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■19243 / ResNo.5)  第一章 さくらいろ (5)
□投稿者/ 琉 一般♪(6回)-(2007/06/09(Sat) 18:24:50)
    「遅いっ」
    「申し訳ありません!」
    鬼のような形相で出迎えた教師にひたすら頭を下げ、
    和沙は入学式のリハーサルに臨んだ。
    新入生代表挨拶は学年主席が行い、次席はその補佐をすることになっている。
    ということは…ここにはもう一人同じ一年生が同席していることになる。

    「あ、あの隣に座っても良いですか…?」
    和沙が訊ねるとその生徒は、一瞥し興味なさそうに答えた。
    「どうぞ」
    「あ…失礼します」
    同い年のはずなのに、何でこんなにおどおどしているのだと
    和沙は自分で自分に突っ込みを入れていた。
    しかし…隣の彼女、最初は不機嫌なのかと思いきや、
    どうやら違うらしいと理解するまでにはさほど時間はかからなかった。
    リハーサルはまだ始まったばかりだというのに、
    彼女はもう眠たそうに欠伸をしていた。
    「氷田さん、お行儀が悪いですよ!」
    側を通った教師に注意され、隣の彼女はしぶしぶ姿勢を正した。

    ヒダさんっていうんだ…

    和沙はほんの少し興味がわいたので、声をかけてみた。
    「あの…同じ一年A組だよね?私、澤崎和沙。よろしく!」
    「んあ?…ああ、よろしく。私は氷田希実」
    「私は外部受験生なんだけど、氷田さんもそうなの?」
    「そうだよ〜。澤崎さんと同じ特待生」

    …アレ?

    百合園高校の主席は、必ずしも特待生とは限らない。
    それだけこの学校はレベルが高いのだ。
    だからこそ、和沙は疑問に思った。
    「え…?何で特待生って…」
    「だって有名じゃん。今年度の入試をダントツのトップで
    合格した秀才でしょ?この学校の生徒だったら誰でも知っているって」
    「そんな…秀才だなんてとんでもない…」
    「ハハハ。澤崎さんは謙遜なんだねぇ」

    褒められて悪い気はしないが、和沙は秀才と呼ばれることが
    むず痒くて仕方なかった。
    確かに和沙は中学の頃から常に席次は一位であり、
    その成績は他の追随を許さないほどだったが、
    それは決して天才肌をいうわけではなく、
    これまでの成績は努力によって培ったものだった。
    だから和沙からしたら、一生懸命努力して
    今の成績を何とか維持している自分などよりも、
    勉強は特にしなかったという希実みたいなタイプこそが
    秀才にふさわしい感じがした。
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■19244 / ResNo.6)  第一章 さくらいろ (6)
□投稿者/ 琉 一般♪(7回)-(2007/06/09(Sat) 18:42:09)
    リハーサルは簡単な説明と挨拶の予行練習だけで済んだ。
    式典が始まるまでにはまだもう少し時間があるため、
    和沙と希実は一度教室に戻って控えているよう指示された。
    A組の教室には、もうかなりの数の生徒が登校していた。
    彼女たちのほとんどが附属中学からの持ち上がりだろうか。
    早速、仲間内でグループを作ってはおしゃべりに興じていた。
    和沙は特にすることもないので、一人で自分の席に座って
    読みかけの文庫を開いた。

    「それで今日は生徒会長が挨拶をなさるってもっぱらの噂ですわ」
    「まぁ!それでは高柳会長が?」
    「それだけではなく、今日は二階堂副会長もご列席なさるとか…」
    キャーッ!!!
    興奮した少女たちは、歓喜の声をあげた。
    少し離れた和沙の席ですら、その声は響いた。

    生徒会長…?

    そういえば、リハーサルの時は見なかった…ような気がする。
    うろ覚えだが、確か代理の人が済ませていたはずだ。
    しかし、このクラスメイトたちのはしゃぎよう。
    これは相当人気のある会長なのだろうことは容易に想像できる。
    これだけの盛り上がりは女子校ならではの相乗効果か。
    現生徒会長がどんな人であるかは知らないが、
    だからといって和沙は特に興味も湧かなかった。
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■19291 / ResNo.7)  第一章 さくらいろ (7)
□投稿者/ 琉 一般♪(8回)-(2007/06/20(Wed) 09:30:47)
    まもなく入場する時間が近づいてきたので、
    和沙たちは廊下に整列して胸飾りのコサージュを
    係の上級生につけてもらっていた。
    「はい、出来ました。今日は代表挨拶、頑張ってね」
    和沙につけてくれた先輩は、そう言うとにっこりと微笑んだ。
    ここでもやっぱり、和沙は有名人のようだった。
    「ありがとうございます。頑張ります」
    返事をした和沙の目には、無意識のうちにその人の学年カラーが映った。

    紺、か…

    何年生なのだろう、と思いながらふと隣の希実に目をやると、
    彼女にコサージュをつけている先輩の学年カラーは黒だった。

    え…?

    これはどういうことだろう。
    今朝見た女性は白、自分たちは臙脂、さっきの先輩は紺、
    そして今隣にいる先輩は黒…
    高校は三年間しかないはずなのに、学年カラーは何故か四色。

    特待生カラーがあるとか…?
    いやいや、それでは自分は臙脂であるはずがない。

    …どうなっているの!?

    入学早々、和沙には謎ができた。
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■19292 / ResNo.8)  第一章 さくらいろ (8)
□投稿者/ 琉 一般♪(9回)-(2007/06/20(Wed) 09:50:36)
    入学式は滞りなく行なわれた。
    リハーサルで挨拶していた時には緊張した和沙だったが、
    本番は自分でも驚くほど冷静にこなすことができた。
    たぶん、直前に緊張で震える和沙の手を
    希実がそっと握って目配せしてくれたおかげだ。
    彼女は、一見マイペースでやりたい放題のように思われがちだが、
    芯はとても繊細で優しい性格なのかもしれない。

    新入生の挨拶の後は、在校生の出番である。
    「続きまして、在校生代表挨拶。
    百合園女子高等学校生徒会長、高柳真澄」
    「はい」

    ああ、さっき見かけなかった生徒会長とやらか…

    知らない名前だったが、噂の生徒会長を一目拝んでおこうと和沙は顔を上げた。

    …!!

    壇上で雄弁を振るう姿には見覚えがあった。
    ふと目をやると、列席している副会長の胸元も白色をしていた。

    『白』は生徒会役員カラーだったんだ!

    和沙が女神だと思った彼女は、学園の女王だった。



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■19293 / ResNo.9)  第一章 さくらいろ (9)
□投稿者/ 琉 一般♪(10回)-(2007/06/21(Thu) 00:31:15)
    初日ということもあり、校内の説明はあっさりとしたもので、
    午前中に学校は終わった。
    「さようなら、澤崎さん」
    「さようなら」
    和沙は女ばかりの環境に馴染めるか、お嬢様学校で浮いていないか
    心配だったが、こうやって挨拶を交わす程度の友達は出来た。
    希実に至っては、もうすっかりお互いの名前を呼び捨てにしている。
    もっとも、和沙の場合は代表で挨拶をした有名人というところが大きかった。

    「ねぇ、澤崎さん。ちょっとよろしいかしら?」
    「ええ。何でしょう?」
    下校時間だというのに、和沙はさっきからひっきりなしに
    呼び止められていた。
    「澤崎さんは、どの部活動に入るかもうお決めになったの?」
    「…え?」
    「いえ。もしまだ決めかねていらっしゃるなら、
    私たちと見学にまいりません?」
    「はあ…」
    和沙はもともと部活に入るつもりはなかった。
    一応特待生として入学していることもあり、
    高校生活は勉強一筋でいくつもりだったのだ。
    でも、百合園は部活動が盛んなことは知っていたし、
    強制ではないものの特に所属している委員会がなければ
    普通は何かしらの部活に入部する者が圧倒的だった。

    「和沙、呼び出しだって」
    どうやって断ろうかと迷っている和沙に
    こっそり呼び声がかかったのはその時だった。
    面倒臭そうに取り次いだのが希実だったからか、
    さしずめ委員会か何かの勧誘だろう、と
    和沙は誰に呼ばれたかはさほど気にしてなかった。



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