| Thanks , maman─
「死にゃしないわよ」
が口癖だったあなたのおかげで、私の消化器官は頑強に鍛えあげられました。
2006,8,--
今もそんな印字なぞ気にすることなくやっている私ですが。 食アタリを経験したことは、一度もありません。
…でした。
彼女に逢うまでは─
「お待たせ」
約束の時間からは早2時間が過ぎているというのに、 やって来た彼女が言ったのはその一言。
「いいえ」
「旦那がしつこくてね」
「…………」
“言うか?普通” そんなセリフも彼女は言ってはばからない。
助手席に乗る10年上の彼女を乗せ、私の車は走り出した。
旦那持ち。 賞味期限切れスレスレのワガママ年増。
冷静な分析も─
繋がらない携帯。 平日の僅かな時間に限られた逢瀬。
辛いと感じる事さえも─
キーっ。
彼女といると忘れてしまう。
止めた車。 虹色の橋がかかる海辺の倉庫で。 彼女に覆い被さる。
「…………」
吸っても舐めても絡めても、息遣いひとつ変えない彼女。 余裕たっぷり。
ムカつくからシートベルトを外し手を伸ばす。
薄いニットの裾から手を入れ。 腰近く、彼女の地肌に触れるのが一番好きだ。
何でって?─
隠せないから。
失われつつある肌の張りや、微妙なたるみは。 強気な彼女にあって唯一20代の小娘に負ける部分…、
「今、年齢は隠せないなって思ったでしょ?」
体を離し、彼女が私の顔を包む。
………あら。
「いや、はは…」
「賞味期限て。その期間を過ぎて食べたら責任は取れませんって意味なのよ」
知ってる?と、 耳元で囁かれる。
「…知ってる」
「私は、やましさなんて感じない」
「…知ってる」
彼女に法律は適用外。
「やめとけば?」
不敵に笑う、 極めて危険なこの食品には。
責任もない、人を傷つける事にやましさもない。
なのに─
「…やめないで」
こうして今日も、 私は彼女に空腹を満たしてもらう。
腹痛に変わって胸が小さく痛み出すのは。
決まって何日か後だ。
fin.
お次は…「罠」で♪
(携帯)
|