ビアンエッセイ♪

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■10567 / inTopicNo.1)  和美のBlue
  
□投稿者/ つちふまず 大御所(924回)-(2005/06/29(Wed) 23:16:00)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    私の好きな人を…。
    紹介します。


    歳は六つ上です。


    バイト先のオーナーです。


    多忙の為か、一週間に一度位しか会えません。


    背が高くて。


    頭のサイズはこれくらい(掌を広げます)しかありません。


    大抵スーツで現れます。


    滅多に笑う人じゃないし、


    仕事に厳しい人みたいだし。


    (社員さんはよく怒られています。)


    全然読めないというか、


    住んでいる世界の次元が違うとしても。


    でも好きなんです。


    どうしようもなく好きなんです。


    届かない想いだとしても。


    絶対に諦められない予感があるから。


    計画を練ります。


    あの人の中で私は少しでも。


    素敵に映りたいから。


    だから。


    この夏。


    ちょっと頑張ろうと思います。


    近付きたい。


    伝えたい。


    この海と。


    空の青さに。







    私の想いを乗せたいです。


    ※御意見感想は、下記HPまで。宜しくお願いします(^O^)

    (携帯)
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■10568 / inTopicNo.2)  和美のBlue 1
□投稿者/ つちふまず 大御所(925回)-(2005/06/29(Wed) 23:19:35)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    p.m 20:00



    「カズ、一番テーブルね。」


    「はーい。」


    海沿いのレストランバー。


    R134沿いの。
    鎌倉と逗子の中間に。


    私のバイト先はある。


    ウッドのテラスと。
    大きなオウムがいるお店。


    店内はアジアンな家具でまとめられている。


    御要望があれば、


    奥に個室もある。ゆったりしたソファで、寛げる。


    「お待たせしました。」


    料理をテラス席のカップルへと。


    海風が心地良くて、


    だからこのお店で働いているって言っても…。


    過言ではないんだけど。


    特に夏場には。


    このテラス席からは花火も楽しむ事が出来る。


    もっとも私は。


    花火なんて見る暇もないんだろうな…。


    「和美、ちょっと5番。」


    「あ、うんわかった。」


    和美、が私の名前。


    カズ、と呼ばれる事も多い。好きなように呼んで下さい。


    「お待たせしました。」


    オーダーを取る為に。


    サロンのポッケから、
    ボールペンを取り出して。


    かち、と芯を出した。


    「はい。シャンディーガフを御一つ…、コロナ…、」


    ふと目に。


    車道から店へと入る。
    赤いアルファロメオ。





    …来た。


    「あ、すみません…。もう一度お願いします。」


    ボーッとしてしまった。


    だめだめ。


    「…はい。」


    オーダーされたメニューを。


    一つ一つなぞる。


    一品一品確かめる毎に。


    胸が。


    ドキドキしてくる。


    「お待ち下さいませ。」


    ボールペンをノックして。


    サロンにしまって。


    伝票を裏にして。


    テーブルに静かに置いた。






    聞こえる。


    バタンと地下で、


    ドアの閉まる音。


    うちのお店は裏口はないから、


    トントン、と。


    ウッドの階段を歩く音。


    ブラウンのショート。毛先に緩いウェーブ。


    大きめのサングラス。


    パンツにインされた体にフィットされた七分丈の白いシャツ。


    細身のパンツに巻かれた、ヴィトンのベルト。




    全てがナツさんを彩るラグジュアリーで。


    ナツさんの歩く道は、


    日本ではないような。


    デッキに座る全ての客が。


    振り返る瞬間。




    「おはようございます。」


    頭を下げると。


    足早にナツさんは。
    私の声に。


    小さく右手を上げて。





    何も言わずに店内へと入った。


    (携帯)
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■10569 / inTopicNo.3)  和美のBlue 2
□投稿者/ つちふまず 大御所(926回)-(2005/06/29(Wed) 23:22:20)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ナツさんは同性愛者だという事は。


    結構前から知ってる。


    「ナツさんならアリだよね…。」


    バイト仲間はいつかそう言ってた。


    私にしてみれば。


    同性愛など。
    考えた事もなければ、


    人生の内で意識するはずもないと、思っていた。




    何故、好きになったのか。





    …そんなのわかんない。


    いろんな事が理由として上げられるけれど。


    どれも取ってつけたような理由になりそうで。


    口にしたくない。


    でも何処か浮き世離れした雰囲気と。


    ビジュアル的なものと。


    あまりにも完璧な存在として、私の中に入り込んで来たから。


    好きにならずにはいられなかった、と言うのが…、


    私なりのイイワケ、かな。





    いつか聞いた事がある。


    凄くドキドキしながら。


    「オーナーみたいな人って…いるんですね。」


    って。


    確か開店三周年の、
    打ち上げの時だったと思う。


    ナツさんはその時。


    テキーラを口にしていた覚えがある。


    グラスに口を付けながら。


    「一県に一人は、いるよ。」


    と。


    口の端を持ち上げながら。


    その言葉を聞いた。


    “一県に一人”


    どういう基準かはわからないけれど。


    ナツさんの交遊範囲が想像出来てしまう気がして。


    ほんのちょっと寂しかった。


    完璧にナツさんを意識したのは。


    去年の夏だった。


    その日は金曜日で。


    ナツさんが現れるとは思っていなくて…。


    嬉しかった。


    でも悲しかった。


    何故なら。


    「個室空いてるよね。」


    「……はい。どうぞ。」


    ナツさんの隣には。


    見たことのない。


    でも何処かナツさんと同じ雰囲気を纏った。


    綺麗な女性。


    “彼女”


    の存在を初めて実感した夜。


    料理やドリンクを。
    運ぶたび。


    重なり合った指。


    絡まっていた視線。


    目に入らない訳がなかった。


    私はデザートを運んだ後に。


    トイレに入って、
    鍵をかけて泣いた。


    好きなんだと。


    実感した夜だった。




    あれから一年─







    私は勝負に出ようと思う。

    (携帯)
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■10570 / inTopicNo.4)  和美のBlue 3
□投稿者/ つちふまず 大御所(927回)-(2005/06/29(Wed) 23:26:33)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    作戦その壱─


    テーマ。


    “まずはコミュニケーション”


    「お疲れ様です。」


    店内のフードとドリンクが全て配膳済みである事を確認して。


    ナツさんの座る、


    店内では奥まったテーブルに。


    私はアイスティーを置いた。


    竹で出来たトレイを持ちながら。


    「サンキュ。」


    売り上げのデータが入力されている、端末のPCを。


    ナツさんはジッと見て。


    目を反らす事はない。


    やっぱり…。


    素敵だな。


    私はこの人の。


    目尻が凄く好き。


    鋭いようで、でも…。


    「どうした。」


    フッと私を見上げた。


    PCを睨んでいた目と同じ。


    鋭い目。


    凄く濃い睫毛…。


    思わず目を反らした。


    「あ、あの…。」


    言わなきゃ。


    「?」


    手を休めてナツさんは。


    頭を傾けた。


    「あの、オーナー?」


    「何?」


    「オーナー、時間のある時でいいんですけど…。」


    「ん?」


    鋭い目が。


    ふと優しくなった気がして。


    ほら、やっぱり。


    この目尻が好きなの。


    睫毛が触れるか触れないかの。


    「カクテル、教えて頂けませんか?」


    作戦の具体的内容─


    小さなテーマその壱。


    “教えを乞う”


    ナツさんはうちの店では。
    客が多い時に。
    シェイカーを振る。


    その技術には。
    バーテンダーも舌を巻いていて。


    「カクテル?」


    「はい。私もフロアだけじゃなくて…、ドリンクも手伝えたらなって。」


    これは本心。


    「ん。」


    ナツさんは腕を組んで。


    バリ製のチェアに背をもたれた。


    だめ、かな。


    やっぱり…。


    するとナツさんは、


    背もたれから体を離して。


    「カズ。」


    「は、はい。」


    「フロアも大事。ほら。」


    ナツさんは外の。


    テラスを指差した。


    「あ…すみません!」


    見ると男性客が。


    手を挙げていた。


    「すみません。失礼します…。」


    私の言葉には答えずに。


    ナツさんはまた、


    PCに目を向けた。


    作戦その壱─


    さっそく失敗(涙)


    教訓─


    『コミュニケーションはタイミングを考える。』


    全然駄目じゃん私…。


    はぁ……。

    (携帯)
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■10571 / inTopicNo.5)  和美のBlue 4
□投稿者/ つちふまず 大御所(928回)-(2005/06/29(Wed) 23:31:08)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    作戦その壱─


    『教えを乞う』─×


    ふう。


    やっぱりダメ、か。


    ふに(涙)


    どうやって近付けばいいんだろう…。


    困ったなぁ。


    早いな、くじけるの。


    ─11時を過ぎて。


    客もまばらに。


    静かな店内へと。


    私は土曜日はラストまで。
    (ナツさんが来るから)


    でもナツさんは。
    日付が変わる前には。


    大抵帰って行く。


    でもこの日は。


    新メニューの確認もあったせいか。


    ナツさんは日付が変わっても。


    厨房にいた。


    私にしてみれば…。


    ラッキー♪


    話せなくたっていいの。


    同じ空間に居るだけで…。


    ドキドキする。


    凄く嬉しい。




    テラスをクローズにして。


    店内のお客だけを、


    接客していた。


    サウンドをアップテンポな物から、メローな物に変える。


    私はお気に入りの、


    ダイアナロスのベストをオーディオにセットした。


    「好きだな、それ。」


    バーテンダーのヤスさんが、ニコニコしながら話し掛けて来る。


    「はい。すんごい好きなんです。ダイアナロス。」


    「若い子からそういう言葉が出るのは…いいね。」


    モミアゲと繋がったヒゲを。


    ヤスさんは撫でた。


    店内に流れる、


    古き良きラブソング。


    ふとナツさんが、


    厨房から出てきた。


    店内をグルっと見渡して。


    長い足を優雅に。


    こちらに向かって来る。


    …なんだろ。


    「ヤスさん。もう上がっていいですよ。」


    ナツさんの。


    低くて良く通る声。


    「ん、いいの?」


    ヤスさんは磨いていたグラスを、棚に戻した。


    「後は私が。お疲れ様でした。」


    ナツさんはそれだけ言うと。


    頭を小さく下げて、テラスに出た。


    「ふっふ。やったね。」


    ヤスさんは嬉しそうに。
    私に笑いかけた。


    「お疲れ様でした。」


    「珍しいな…。オーナー残るのか?」


    あ、そっか。
    確かに珍しい…。


    「ですね…。」


    「言葉に甘えて。お先に。」


    ヤスさんは私に手を振りながら、カウンターから姿を消した。


    店内にはあと一組…。


    外に目をやると。


    ナツさんは店の看板である、


    オウムに餌をやっていた。


    (携帯)
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■10572 / inTopicNo.6)  和美のBlue 5
□投稿者/ つちふまず 大御所(929回)-(2005/06/29(Wed) 23:37:19)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ─am1:00


    「ありがとうございました。」


    最後のお客を見送って。


    テーブルの食器を厨房へと下げる。


    あれ?
    電気が…消えてる。


    見るとキッチンには誰もいなくて、


    ウォッシャーの電源だけが着いていた。


    帰っちゃったんだ。


    クスン。


    ひどいな…もう。


    カチャカチャと。


    食器をウォッシャーの中に入れて、スイッチをオンにした。


    あとは放って置けば、


    乾燥もやってくれるから…、


    「カズ、おいで。」


    ウォッシャーの向こうから。


    声がした。


    え。


    あ、そうだ…。


    オーナー。


    帰ってなかったんだ。


    って事は…。


    ぐるっと。
    周りを見渡した。


    ふ、ふたりっきり!!


    「…カズ!」


    ホールの向こうから。


    さっきより大きな声。


    「はい!い、今行きます!」


    パタパタとサロンを揺るがせて。厨房を走る。


    ガチャン─


    「いた!…い。」


    カランカランと。


    大きなボウルを。


    ひっくり返してしまった。


    ひゃあ〜(涙)


    痛い痛い、と。
    スネをさすりながら。


    ホールへと出ると。


    バーカウンターに。


    ナツさんがいた。


    私を見ずに、リキュールのボトルを片手に。


    “来い来い”


    と、白いシャツの手が。
    揺れていた。


    あ……。


    もしかして。


    「おいで。」


    カウンターの中を指差した。


    教えて…くれるのかな!


    きゃーっ!!


    どどどどうしよう。


    ドキドキドキドキ。


    「は、…はい。」


    緊張しながら。


    ナツさんの隣に立った。


    何本かのボトルを。


    テンポ良くトントンと。


    そしてシェイカーを。


    用意する。


    ナツさんは私よりも。


    頭一つ分位背が高い。


    私はチビッ子。


    見上げると彫りの深い綺麗な横顔。


    形のいい耳に。


    薄いピンクの石。
    綺麗なピアス…。


    「カズ。」


    見上げていた横顔が突然。
    こちらを見た。


    「えっ!あ!…はい!」


    「まずは…。」


    ナツさんは指を自分の頬に当てた。考えている時の癖なのは。


    私も良く見ているから知ってる。


    「でも…。」


    「…はい?」


    「カズ、小さいね。」


    カウンターの高さと。私の頭を交互に見て。


    「フッ。」


    小さく笑った。

    (携帯)
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■10573 / inTopicNo.7)  和美のBlue 6
□投稿者/ つちふまず 大御所(930回)-(2005/06/29(Wed) 23:41:54)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    そんなぁ。
    もー。


    クックッと。


    ナツさんは笑いを堪えるように。


    「チビッ子は無理ですか…?」


    悲しい…。


    「そんな事ない。教える。」


    流台の蛇口をひねって、
    ナツさんは手を洗っていた。


    良かった…。


    ホッ。


    「まずは…と。簡単な物から。」


    綺麗なブルーのボトルと。


    透明の液体が入ったボトル。


    それと冷蔵庫から。


    グレープフルーツジュース。


    「何ていうカクテルですか?」


    テキパキと。


    分量を計り、


    手早くシェイカーの中に。


    それを注ぐ。


    「チャイナブルー。」


    小さな声で。


    ナツさんは手を休める事なく。


    作業を進めた。


    「チャイナブルー。飲んだ事あります。ふふ。」


    「分量は後でメモ取って。」


    「はい。」


    全てを注がれたシェイカーに。


    キャップをして。


    ゆっくりそれを持ち上げた後。


    「これが知りたいんでしょ。」


    と一言言った後。


    上下に。


    リズムよく。


    ナツさんの腕がしなって。


    シェイカーが振られた。


    か。


    か、


    カッコいい…。


    クラクラしてきた。


    もう、なんていうか。


    「振ってごらん。」


    「え。」


    はい、とシェイカーを。
    手渡された。


    びっくりする位冷たい。


    「こう…ですか。」


    見よう見まねで。


    振ってみる。


    「もうちょい。」


    スッとナツさんは。
    私の背後に回って。


    後ろから手を回す形で。


    私の両手に手を沿えた。


    「ん。そう。」


    密着する体。


    白いシャツから伸びた腕。


    肘の辺りに、


    小さなかさぶた。


    傷なのかな。


    ちょっともう…。


    振られるシェイカー。


    その中で踊るのは。


    氷じゃなくて。







    私の心臓そのもの、かな。

    (携帯)
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■10574 / inTopicNo.8)  和美のBlue 7
□投稿者/ つちふまず 大御所(931回)-(2005/06/29(Wed) 23:50:29)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    シャカ、シャカ、と。
    店内に響く。


    すごくすごく。
    一秒一秒が、
    ゆっくりな気がする。


    好きな人が、
    真後ろで私を包んでる。


    リアルに思えない程、
    胸が高まった。


    「もう、いいよ。」


    ナツさんの手が離れて。


    私はキャップを外した。


    「……注いで。」


    声を合図に。
    グラスに注ぐ。


    トポトポトポ…、



    「わぁ…綺麗…。」





    海の色?


    空の色。


    どっちだろう…。


    私を守るように、


    カウンターにもたれていたナツさんの腕の存在も…。


    忘れる位。


    とっても綺麗だった。


    「飲んでごらん。」


    「はい。」


    恐る恐る。
    グラスを持ち上げて。
    口に含んだ。


    「おいしー…。」


    ライチの甘みと。
    ちょっとのアルコール。


    「ん。」


    頭上からナツさんの声。


    今更ながらに…。


    ドキドキ。


    店内に優しく響く。


    ダイアナ・ロス。


    「ナツさんも、どう、ぞ。」


    遠慮がちに。


    前を向いたまま。


    グラスを持ち上げた。


    「…私は車だから。」


    フッと耳に。


    息がかかったのは。


    気のせいだったのかな。




    you're everything …


    everything is you…


    優しく響く。


    ダイアナの声に混じって。


    「もう遅いね。」


    頭上で響く、


    ナツさんの声。


    「…はい。」


    このままでいたい。


    もっと話したい…。


    「今日はおしまい。」


    フッと頭のてっぺんを。


    左手で撫でられた。


    それと同時に、


    割と近い位置にあった。


    ナツさんの体が離れた。









    ドキドキの夜。


    ナツさん。









    眠れる訳が、なかったよ。


    (携帯)
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■10575 / inTopicNo.9)  和美のBlue 8
□投稿者/ つちふまず 大御所(932回)-(2005/06/29(Wed) 23:54:34)
    “教えを乞う”


    とりあえず…○?


    これを期に。
    ステップアップしたい。


    作戦その弐─


    “ナツさんを知る”


    とりあえず。
    この前のお礼をしよう♪


    次の木曜日─


    いきなりチャンス到来☆


    雑誌の取材があったので。ナツさんがお店に現れた。


    土曜日の事もあり。


    ナツさんがお店に来た瞬間。やっぱり胸がドキドキして。


    全然集中出来ません。


    「ええ。じゃ、写真はそちらで。」


    料理を並べたテーブルに、ナツさんは案内した。


    なんていうのかな。
    ナツさんって…。
    見た目怖そうなんだよね。


    笑わない人だからかな。


    出版社の人とのやりとりを。オープンの準備をしながら。


    私は見ていた。


    パシャ、パシャ、と。
    フラッシュがたかれる。


    「ええ。そうですか。あ、それなら…。」


    背中に聞こえる。


    ナツさんの声。


    どうやってお礼…。
    なんてったってナツさんだし。


    どんなお礼をすればいいか…。


    想像つかないなぁ(涙)


    「カズ。おいで。」


    「え?あっはい!」


    いきなり名前を呼ばれて。


    びっくりした。


    「写真取るよ。」


    「ええっ!?」


    「すみません…スタッフの顔写真も欲しいので。」


    出版社の人は。
    少し申し訳なさそうに。


    「カズ、テラスで。」


    ナツさんは出版社の人を無視して、私の背中を両手で押した。


    「えっ!ちょっ!オーナー?」


    やだやだ。


    写真なんてー!


    恥ずかしいよ!!


    「頼むよ。オウムじゃダメだって言うからさ…。」


    甘い声が。


    耳元で聞こえて。


    「えー…。」


    「看板娘。お願い。」


    「オーナーが写った方がいいですよ〜。ううー。」


    言いつつも体を押されて、


    夕陽の差し込むテラスへと。


    「…写真は苦手。」


    正面にナツさんは向き合った。


    今私の手に。


    カメラが有ったら。


    写したい。


    夕陽と。海と。ナツさん。


    「カズ?」


    「え…あ、はい。」


    「お礼するよ。今日の仕事はこれで終わりでいい。」


    ポン、と。


    肩を軽く叩かれて。


    ナツさんは店内へと。


    入って行った。


    え?今…。


    なんて?


    お礼?


    今日の仕事は終わり?


    本当に?







    変なニヤケ顔で。
    雑誌に写ってしまったのは。


    言うまでもない。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10576 / inTopicNo.10)  はじめまして。
□投稿者/ かな 一般♪(1回)-(2005/06/29(Wed) 23:56:25)
    こんばんわ。すごくいいおはなしなので頑張って書いてくださいね。つちふまずさんは神奈川の人ですか?私は神奈川在住でよく鎌倉方面にいきます!この話のレストランは珊○礁ですか?違うかな?この話は実話ですか?知りたいです。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10577 / inTopicNo.11)  和美のBlue 9
□投稿者/ つちふまず 大御所(933回)-(2005/06/29(Wed) 23:58:16)
    「乗って。」


    真っ赤な。


    アルファロメオ。


    これに乗る日が来るなんて…。


    思わなかったよー!!


    わ〜ん(涙)


    「……カズ?早く。」


    不思議そうな顔で。


    ナツさんは中々車に乗らない私を見ていた。


    「あ、失礼します…。」


    バタン、バタン、と。
    二人で車に乗り込む。


    レザーの匂いが。
    鼻をかすめた。


    外の波音と喧騒が。
    無くなる瞬間。


    何も言わずにナツさんは、キーを差して車にエンジンをかけた。


    発進しながらシートベルトをスルスルと絞める動作を見て。


    私も慌ててベルトを付ける。


    海沿いの国道に。
    車はスムーズに合流した。


    「…………。」


    何。


    話せば…。


    いいのかな、なんて…。


    ドキドキが。


    聞こえちゃいそう。


    恥ずかしくて嬉しくて。


    窓の外の海しか見えない…。


    「クックッ。」


    「え?」


    笑い声が聞こえて。


    運転席を見た。


    「カズ、変な顔してたね…。」


    雑誌の事…(涙)


    「CG加工、とかしてくれないですかね…。」


    くすん。
    悲しい…。


    「売り上げ上がる。きっと。」


    クックッと。
    ナツさんは口の端を持ち上げて。また少し笑った。


    「ああもう…海に飛び込みたいです…。」


    「大丈夫。可愛いよ。」


    「……………。」


    今。


    可愛いって聞こえた。


    可愛いって…。


    「……カズ?また変な顔。」


    可愛いって言われちゃった…。


    いやーんどうしよう!!


    ドキドキするよ〜!


    「何が食べたい?」


    「え?」


    「好きな物でいい。」


    運転席を見ると。


    ナツさんは前を向いたまま。


    口の端を持ち上げた。


    好きな物…。


    ハンバーグ?

    やだやだ。子どもみたい。

    カレーライス?

    違うよもう〜(涙)


    好きな物…。
    かつナツさんに、
    ふさわしい食べ物…。


    ダメ。


    ぜんっぜん思い付かない。


    ふるふると。
    頭を振って。
    泣きそうになっていると。


    「ラーメン食べようか。」


    甘い声が。


    また車内に響いた。


    ラーメン!?


    ナツさんが?


    い、意外…。


    「嫌い?」


    「すっ好きです大好きです三食ラーメンでも生きられる位…。」


    「…………。」





    クックッと。
    またナツさんは笑った。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10579 / inTopicNo.12)  和美のBlue 10
□投稿者/ つちふまず 大御所(934回)-(2005/06/30(Thu) 00:03:53)
    割と小汚い(お店の人ごめんなさい)ラーメン屋さんに。


    入った瞬間─


    注がれる視線。


    男女共に…。
    注目を浴びる、ナツさん。


    め、目立つ…。


    気付いているのかいないのか。


    ナツさんはカウンターの丸椅子に、すぐに着席した。


    「ネギミソチャーシューと餃子一つ。」


    甘い声で。


    言わないで〜(涙)


    しかもそんな濃いメニュー!


    「カズは?」


    「あ、私もそれで。」


    ああ。


    流されやすい私…(涙)


    「カズ、学校は?」


    ナツさんはジャケットのポッケから、カラフルなパッケージの煙草を取り出した。


    「あ、はい。楽しいです、すごく。」


    「そう。良かった。」


    一つを取り出して、


    トントン、と先っぽをカウンターに。煙草を鳴らした。


    「はい。ありがとうございます。」


    「早いね。もう二年生か。」


    うちのお店のマッチを。
    早い動作で。
    すぐに火が着く。


    「そうですね…早いです。」


    ナツさんには。
    返しても返しきれない。
    恩が実はある。


    「今年は好きに使いなさい。去年と同じ金額が振り込んであるから。」


    「そういう訳には…行かないです。」


    ナツさんには。
    学費を借りていて。


    それには訳がある。


    私には両親がいない。


    正確にはいるけれど。
    いないのと同じ。


    ここでは詳しくは言わないね。


    どうしても大学に行きたかった私は。


    バイト先のオーナーであるナツさんに。


    「学費を稼がせて下さい。」


    と、相談した。


    私にしてみれば、シフトを増やして欲しい、という意味で言ったんだけれど。


    ナツさんの答えは違った。


    「学費の面倒は見る。その代わり、卒業までは働いて欲しい。」


    という答えだった。


    それからはバイト代から少しずつ、学費を返している。


    私の住む小さなアパートも。
    住宅手当てという形で。


    半額に近い値段で借りていて。


    普通のバイトなら。
    ありえない位の待遇。


    私はバイトでどんなに疲れていても。


    絶対に単位を落とす事がないように、学校に通っている。


    今年一年終れば。


    栄養士の資格が取れる。


    「本当にありがとうございます。」


    頭を深く下げると。


    「……食べよう。」


    運ばれたネギミソチャーシューからは。




    とってもいい匂いがしてた。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10580 / inTopicNo.13)  和美のBlue 11
□投稿者/ つちふまず 大御所(935回)-(2005/06/30(Thu) 00:09:02)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「美味しかった…ネギミソチャーシュー。」


    お腹いっぱい。


    苦しいくらい…。


    帰りの車中。


    隣のナツさんを見た。


    満足したように、口の端を持ち上げている。


    んー。


    やっぱりやっぱり。


    素敵…。


    綺麗?カッコいい?


    全部当てはまってしまう。


    こんな人がいる事自体。


    何だかやっぱり信じられない。


    また海沿いの道に出る。


    「口の中が…。ネギ。」


    ぼそ、と。


    ナツさんが呟いたので。


    「ふふっ。アハハ。」


    思わず笑った。


    確かに口の中が。


    ちょっとネギ臭い(笑)


    「あ、そうだ。」


    確かガムが…。


    バッグの中を探った。


    板ガムを見付けて。


    「いりますか?」


    「ん。」


    はい、と手渡そうと思ったら。


    ………。


    手は差し出されてなくて。


    ナツさんはハンドルを握ったまま。


    小さな口を開けていた。


    これは…。その。


    「頂戴。」


    あ、とまた口を開ける。


    入れてって事ですか!?


    きゃあー!!


    慌ててガムのパッケージを、ペリペリと捲って。


    おそるおそる。


    端を持って。


    ナツさんの口に入れた。


    「サンキュ。」


    モグモグと。
    形のいい口が動いて。


    ああ。


    もう…。


    め、めまいが。


    「どうしようか。…まだ七時だ。」


    ナツさんは右手にしていたフランクミューラーを見た。


    え!?


    まだ。


    まだいて、いいのかな。


    どうしようどうしよう。


    またドキドキしてきた…。


    「うっ。」


    「カズ?どうした?」


    「す、すみません。」


    「食べ過ぎたかな。」


    「いえ、何か…。めまいが起こり過ぎて気持ち悪くなりました。」


    体が付いて行かない〜。


    「そうか。帰ろうか。」


    「えっ!!違います違います!元気ですー!」


    「クックッ。…ふっ。」


    ナツさんから見たら…。


    私絶対変な女だ。


    間違いない(涙)


    ナツさんの。


    含み笑いと。


    私の溜め息が。


    アルファロメオの中で響いた。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10581 / inTopicNo.14)  かなさん&読者の皆さんへ
□投稿者/ つちふまず 大御所(936回)-(2005/06/30(Thu) 00:16:19)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    はい初めまして(^O^)
    つちふまずです。

    珊瑚礁、じゃないんですよ(笑)
    おしいですけどね!

    でも実在するお店です。

    今は神奈川に住んではいませんが、近い内に戻ります。

    良かったらHPにも遊びに来て下さいね♪(下にアドがあります)

    さてさて…。
    フライング?
    いやいやすみません。

    本来なら七月から…、
    始めようと思ってたんですが。

    バトンが回されたので(笑)
    始めちゃいます!

    そう、今回は…。
    ナツさんでーす!
    来ると思わなかったですか?
    いやいや書いちゃいます!

    夏。海。空。
    そしてナツさん。

    皆さんも。
    恋しちゃってくれたら…、
    嬉しいつちふまずです!

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10583 / inTopicNo.15)  初めましてm(_ _)m
□投稿者/ ちび 一般♪(5回)-(2005/06/30(Thu) 01:02:17)
    ちびと申します。

    私事ですが、今、ラーメン屋さんで働いているので、思わず『ネギミソチャーシュー』、反応してしまいました(^^;)

    それと、『ナツ』という名前。

    これにも反応してしまいます…。


    チャイナブルーは今の相方が好きで、ちびも好きになったカクテルで。

    反応しまくりの、お話です(笑)

    なんだか、心が、あったかくなりました。



    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10591 / inTopicNo.16)  NO TITLE
□投稿者/ 由兎魔 一般♪(27回)-(2005/06/30(Thu) 10:00:52)
    新作ですよね!?待ってましよ〜♪やっぱ、夏・海・空と言ったらナツさんですよね〜続きが待ちどうしいです!!つちふまずさんにはつねに応援してますんで、頑張ってさい★♪
引用返信/返信 削除キー/
■10597 / inTopicNo.17)  由兎魔さん
□投稿者/ つちふまず 大御所(937回)-(2005/06/30(Thu) 11:25:59)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    つちふまずです(^O^)

    はい、今回はナツさんです。
    ブラックナツさんしか…、
    今まで書いて来なかったんですけどね。

    改めて書く機会が出来て良かったです。

    最後までお付き合いよろしくです!

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10598 / inTopicNo.18)  和美のBlue 12
□投稿者/ つちふまず 大御所(938回)-(2005/06/30(Thu) 11:29:41)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    車はお店を通り過ぎて。
    逗子から葉山へと。


    海沿いを走る。


    音を抑えたBGM。


    こんなチャンスない。


    絶対ない…。


    急遽変更して。


    作戦その弐─


    “ナツさんを知る”


    「ナツさん。」


    「ん。」


    「あの…彼女さんとは上手く行ってるんですか?」


    小さなテーマ。


    “彼女とはどうですか?”


    「彼女?」


    「はい。去年連れて来てたじゃないですか…綺麗な人。」


    忘れもしない。


    そういう人に限って。


    細かく覚えてる。


    「去年…。」


    ふむ、と長い指で頬に触れた。


    これ、ナツさんのクセ。


    すっごい好き…。


    「彼女はいないよ。」


    ハンドルを握り直す。


    右に大きく、
    車は曲がった。


    「え?」


    何!?


    「多分カズが見たのも…彼女ではないと思う。」


    言いながらナツさんは。


    防波堤近くまで車を寄せると。


    サイドブレーキを引いて。


    エンジンを止めた。


    「彼女じゃないんですか!?」


    「違う。…降りよう。ここは綺麗だから。」


    「え……あ。」


    慌てて車から降りる。


    「飲み物買ってくる。」


    スタスタと。


    自販機に向かうナツさん。


    え、あ。


    待って〜。





    アイスコーヒーを二本買って。


    ナツさんは防波堤の上に。


    ヒラリと登った。


    見上げると。


    ………高い。


    無理だよナツさん(涙)


    うーん、とうなだれると。


    「おいで。」


    手を差しのべられた。


    か。


    カッコいい…。


    だめだめ。


    めまいしないように…。


    「んっ……と。」


    ナツさんの手を取ると。


    強い力で防波堤の上に。


    すぐに持ち上げられた。


    「やーっ綺麗〜!!」


    右手に。
    私達が辿って来た海沿いの国道。


    小さく何台も、車のテールランプが流れて…。


    正面に。
    小さな江ノ島。


    「ん。」


    ポン、とアイスコーヒーが渡されて。


    ナツさんはスーツなのもおかまいなしに。


    防波堤に座った。


    「あ、りがとう、ございます…。」


    ナツさんは答えずに。


    煙草を取り出して。


    それに火を着けた。


    ナツさんの一つ一つの動作は。ゆっくりだから。


    すごく見とれる。


    あ、いけない。


    作戦その弐。


    まだ途中だったっけ…。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10599 / inTopicNo.19)  和美のBlue 13
□投稿者/ つちふまず 大御所(939回)-(2005/06/30(Thu) 11:33:36)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「彼女さんじゃなかったんですね…。」


    じゃあの人は一体…。


    トイレで泣いたんだけどな。


    っていうか暫く、


    バイトするのも辛かった位…。


    「と、言うよりは…。」


    「はい?」


    「カズが…どの娘の事を言ってるのか、見当が付かない。」


    え。


    本当に!?


    隣のナツさんを見ると。


    『普通』の顔。


    「あの、今まで、何人位…いるんでしょうか。」


    一体…。


    「ん?ん〜。」


    ナツさんは。


    小さな頭を傾けた。


    やだ…。


    変な質問するんじゃなかった。


    胸が滅茶苦茶痛い。


    そりゃそうだよ…。


    こんな素敵な人だもん。


    彼女の100人や200人…。


    「そういうの、もういい。」


    小さく呟くのが聞こえた。


    「………え。」


    「無理してたし。」


    “無理?”


    聞いた事のない。


    溜め息が聞こえた。


    「疲れちゃったんだよ。」


    フッとこちらを見て。




    ナツさんは微笑んだ。


    彫りの深い二重が、
    細く。


    あ。


    あ……。


    なんか。


    悔しい。


    見た事のない表情を見る事が。


    余計に。


    “好き”


    を感じさせる事に。


    気付いた気がして…。


    私はうつ向いた。


    「もうすぐ夏だ。」


    ナツさんの声の後に。
    また煙を吐いた気配。


    言葉が…。


    出ないよう(涙)


    でも。


    あんな顔見ちゃったら…。


    「あの…なんていうか。」


    「ん。」


    「うまく…言えないんですけど。」


    いや、まだ早いよね。


    これを言うのは。


    作戦立ててないし。


    「ん?」


    えーとえーと。


    どうしよどうしよ(涙)


    作戦…作戦。


    作戦その参は何だっけ?


    えーと。


    あ、そうだ!


    「カズ?」


    「あの!番号…教えて下さい!」


    「え?」


    あ、あれ。


    やだ私…。


    ああ…んもう。


    何言って、


    「教えてなかった?」


    そうか、と。


    ナツさんはジャケットのポケットから、携帯を取り出した。


    え。


    ホント?


    「赤外線で送る。携帯出して。」


    はい、とナツさんは。
    携帯を私に向けた。


    う、嘘でしょ…。


    こんな簡単に。


    「早く。」


    「あ、は、はい。」


    慌ててバッグから携帯を取り出した。


    赤外線。





    アドレスもゲット(歓喜)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10600 / inTopicNo.20)  和美のBlue 14
□投稿者/ つちふまず 大御所(940回)-(2005/06/30(Thu) 11:36:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「じゃ。」


    「はい、土曜日に…。」


    私のアパートの前で。


    アルファロメオは止まった。


    車のエンジン音は静かだったけれど。


    私のテンションは上がりっぱなしだった。


    …だって。


    ナツさんの車に乗れた事。


    ラーメンを食べた事。


    綺麗な夜景が見れた事。


    携帯の番号とアドレスを、
    聞けた事。


    嬉し過ぎて。


    「ありがとうございました。」


    「ん。」


    煙草を右手の指に、
    挟んだまま。


    ナツさんは口の端を持ち上げた。


    車から降りると─


    ナツさんのアルファロメオは静かに、去って行った。


    はー。


    胸を抑えて。


    天を見た。


    心臓が…。


    口から出るかと思った。


    よろよろと。
    アパートの階段を登る。


    なんか。


    なんか…。


    凄い日だった。


    “好きな人”と。


    一緒に居る事が…。


    こんなに…。


    ─カチャ、バタン、と。


    部屋に入る。


    「ふふっ。…ふふ。」


    電気も付けずに。


    何故だか笑えて来て。


    すごくすごく、
    嬉しすぎて。


    「は〜。」


    トコトコ、ドサ、と。


    そのままベッドに。
    倒れこんだ。


    ナツさん…。


    やっぱり好きだよー。


    「う〜っ!!」


    バタバタと。
    ベッドの上で泳いでみた。


    ふう…。


    寝返りをして。


    天井を見上げる。


    今日は…。
    いわゆる夢みたいな一日。


    だったな…。


    けど。


    さっきまで一緒に居たのに。


    あ。


    …あれ。


    あれれれ。


    “もう会いたい”


    会いたい(涙)


    私…こんなに好きなんだ。


    改めて感じてしまった。


    途端に。


    切なくなる。





    ─作戦その壱。


    “まずはコミュニケーション”


    …クリア?


    ─作戦その弐。


    “ナツさんを知る”


    一応クリアかな?


    ─作戦その参。


    “携帯の番号を聞く”


    …クリア!


    じゅ、順調過ぎて…。


    何だか怖いかも。


    いいのかな、なんか。


    でも、


    ─バッグに手を伸ばして、


    携帯を開いた。


    さっき赤外線で受信したデータを、表示させた。


    んー。


    うん。


    聞いたからには…。


    やっぱり今日のお礼をしよう。







    メール新規作成、
    の画面を表示した。


    (携帯)
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