| 見上げる顔が。
彫りの深い横顔が…。 何て言うのかな。
“思わず抱き締めたくなる”
顔。
図々しいかなぁ。
だって…。 切ない顔なんだもん。
「閉店なんだ。」
え?
「…………。」
「今日で店じまい。」
ナツさんは。
フッと消えた電飾を。
長い指でそっと撫でた。
「そうなんですか…。」
確かに、 おばぁちゃん…。 待ってたみたいだった。
「………。」
「食べれて良かったです。」
とってもとっても。
美味しいハンバーグ。
「行こうか。」
「…はい。」
ビルの谷間を。 また二人で歩く。
長いコンパス。
すぐに差がつく。
あ…。
ナツさんの背中の、人魚。
泣いてるみたいに、
見えたのは。
眩しすぎる街の、 せいだったのかな。
帰りの車中─
今までのドキドキは。
ちょっと変化していた。
私を包むのは。
心から一緒にいたいと。 思える人が。
側にいる、安心感。
暖かい何かが。 産まれてて。
隣のナツさんは。
何も言わずに。
タバコをくわえて。
ほんの少し開いた窓から入る、風に前髪が揺れていた。
「カズ。それ。」
ナツさんは後部座席を。 親指で差した。
「はい?」
取ってって事かな。
振り返って。
CDがたくさん入った、ケースを取った。
「好きなのかけて。」
「はい。」
ペラペラと捲ると。
ボサノバ、
レゲエ、
ラテン…。
「ダイアナロス、ない?」
「え。」
「違った?」
いつもかけるから、と。 ナツさん。
うん。
好き。
……すごく。
私。
「……好きです。」
「…………。」
「すごく。」
手を止めて。
ナツさんを見た。
ナツさんは変わらずに。
左手でタバコを持ったまま。
前を見ていた。
ナツさん。
「…一番後ろ。」
「え?」
「ダイアナロス。」
「……あ。はい。」
ペラペラとめくると。
手書きのCDR。
ダイアナロス、と。 筆記体の綺麗な文字。
オーディオにセットすると。
切ないダイアナの声が。
聞こえて来た。
(携帯)
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