ビアンエッセイ♪

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■10601 / inTopicNo.21)  和美のBlue 15
  
□投稿者/ つちふまず 大御所(941回)-(2005/06/30(Thu) 11:39:56)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ん〜っと…。


    暗い部屋。


    光る携帯。


    〉今日はありがとうございました。


    出だしはこれでいっか。


    後は…、


    〉今日はありがとうございました。また連れてって下さいね!


    ………。


    んー。


    違う気がする…。


    何か図々しくない?


    カタカタ、とクリア。


    えーと。


    〉今日はありがとうございました。これからも頑張ります!売り上げアーップ!


    …。


    違うなぁ(涙)


    あーん何て書けばいいの〜!


    「うーっ!!」


    ジタバタと。


    またベッドの上を泳いだ。






    その時。


    〜♪〜♪


    ………。


    突然の、メール着信。


    慌てて携帯を持ち直した。


    ま、まさか。


    ゴクリ。


    震える指で、


    メールを確認するボタン。


    ピ、と押すと。







    差出人─




    『村上 奈津』




    ぎゃあ!!


    ナツさん!




    顔、が。
    にやける。




    さらにドキドキして…。


    メールを開く。







    〉ネギミソ気に入ったかな?今日はお疲れ様。

    〉カズさ。土曜日、出来たら早く出勤出来ないかな?

    〉新しいユニフォームを試着して貰いたいんだ。

    〉来れたら来てねヾ(*'-'*)






    ………。





    え。


    あ、あの。


    土曜日…は。


    もちろん早く行くけど…、


    最後の。


    これ。


    ヾ(*'-'*)


    これよ。


    ナツさん…。


    顔文字とか、使うんだ。


    意外………。


    っていうか…ね?




    「かわいいーっ!!」





    ジタバタジタバタと。


    また泳いだ。




    好き。
    本当に好き。


    こんなに好きになった人。


    今までいない。


    メールの返信を、急ぐ。







    〉はい!行きます!
    〉ご馳走様でした♪(^人^)♪







    送信完了。





    携帯を見ては。


    閉じては。


    見ては。


    ウフフと。


    ニヤニヤと。


    ナツさんからのメールを表示したまま。







    握ったまま眠った。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10619 / inTopicNo.22)  和美のBlue 16
□投稿者/ つちふまず 大御所(942回)-(2005/06/30(Thu) 20:41:24)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    金曜日─


    作戦その四。


    “自分を磨く”


    まずは…。


    ここから。


    ─いらっしゃいませ


    「17:00に予約してます…。相川です。」


    “はい、承っております…お荷物、お預かりしますね?”


    まずは。


    美容院。


    「いらっしゃい。」


    小さく頭を下げながら。


    私の頭の形から、


    髪質まで知り尽した…。


    美容師のマイさん。


    ベリーショートの銀髪が。
    色白の肌に。
    キマってる人。


    「今日はどうする?」


    私の背後に回って、


    手を後ろ髪に差し入れる。


    どれ位伸びたか確認してくれている。


    「あの…マイさん。」

    「ん?」

    「ガラっと変えちゃって下さい。」


    あの人に。


    あの人にもっと、


    気付いてもらえる位…。


    「ガラっと?」


    「お願いします…。時間がないんですよ〜。」


    「あれ、今日は急ぎ?」


    背の高いマイさんは、
    私の顔を覗き込んだ。


    「あ、ううん今日は急いでは…ないけど。」


    「そう?んーガラっと。ガラっとか…。」


    そうだなぁとマイさんは。
    苦笑いした。


    「はい。イメージチェンジってやつ、したいんです。」


    「イメチェンか。…ばっさり切る?」


    似合うと思うよ、と。


    マイさんは私の肩に乗った髪を。持ち上げた。


    「ショート…は。幼く見えそうだから、ちょっと…。」


    ただでさえチビっ子だし(涙)


    だから怖くて、


    ショートにした事ない。


    「短くした事ないよね?」


    いつも毛先だけだもんね、
    と、マイさんは手ぐしで。
    私の髪を整えた。


    「うん。ないです。」


    似合うのかな〜。


    全然想像つかない。


    「切っちゃダメ?」


    ふふん、とマイさん。


    え。


    本当にショート?


    「ショートですか?」


    「うん。絶対似合う。前からずーっとそう思ってたよ。」


    「本当ですか?」


    ショートかぁ。


    うーん。


    「任せて。大人っぽくしてあげる。」


    どうぞ、とシャンプー台に。


    案内された。


    大丈夫なのかな…。


    ううん。


    マイさんの腕、信じようっと。


    だってマイさんの言った…、


    “大人っぽい”


    これ。


    作戦その四の…。


    キーワードだもん。






    超重要!

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10620 / inTopicNo.23)  和美のBlue 17
□投稿者/ つちふまず 大御所(943回)-(2005/06/30(Thu) 20:57:18)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    シャンプーが終わり。


    「でもまた何でイメチェン?」


    シャキシャキと。


    マイさんのハサミは。


    テンポ良く私の髪を切る。


    「んー。んー。」


    「恋かね?」


    確信してます、とばかりに。鏡越しのマイさんは微笑んだ。


    「あい。ふふ。」


    「いいねーいいねー。」


    切りがいがある、と。
    マイさんはまた笑った。


    「すっっごい大人なんです。」


    生きてる世界さえも…。
    きっと違うんだけど。


    「大人、かぁ。」


    「うん。でもやっと…少しだけ。ほんのちょっとだけ近付いたような気がして。」


    ほんのちょぴっとだけど。


    「あら、まあ。」


    「わかんないですけどね?」


    「大丈夫。可愛く仕上げましょう。」


    鏡越しに。
    またマイさんは微笑んだ。


    「大人になりたーい。」


    「動かない動かない。」


    「はーい。」


    どんどん減っていく、
    髪を見て。


    ちょっと不安になったけど。


    「伝わるといいね。」


    「うん。伝わるといいな。」


    胸の中に。


    暖めていた小さな想い。


    少しずつでいいから。


    伝えて行きたい。







    二時間後─


    「はい、終了…。」


    タオルで服に付いた、
    小さな毛を。
    マイさんは払ってくれた。


    「…………。」


    「どう?」


    「………。」


    初めて見た。


    私のショート。


    こんな感じになるんだ。


    ………っていうか。


    いい。


    いいじゃん!!


    長い前髪を残して。


    オレンジ系のカラーを入れて。


    重く見えない。


    「小悪魔ショートボブ。」


    いっちょ上がり、と。
    マイさんは鼻を擦った。


    「小悪魔…。」


    す、素敵な響き。


    「柔らかい上に細いから、ペッタンコにならないようにね。」


    内側からドライヤーかけて、と。マイさん。


    「仕上げにスプレーワックス軽くかけたらツヤが出るから。」


    かけますかけます!


    「お疲れ様でした。」


    「あ、ありがとうマイさん!」


    「いいえ。」


    小悪魔…、


    いい♪


    会計を済ませて─


    「ありがとうございました。」


    閉まる自動ドア。




    小悪魔でも…。


    相手は多分。







    閻魔様なんだけど★


    でも。


    頑張ろうって気になった。







    早くナツさんに見せたいな。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10628 / inTopicNo.24)  和美のBlue 18
□投稿者/ つちふまず 大御所(944回)-(2005/07/01(Fri) 07:57:52)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    土曜日─


    シフトは17:00からだったけれど、一時間早めて。


    ドキドキしながら出勤。


    「おはようございま〜す。」


    バーカウンターの近くで。


    リキュールの入った段ボールを抱える人影。


    「おはよ、…あ!カズ?」


    髪切ったね、と。
    ヤスさんは両手をチョキの形にして。チョキチョキと。


    「はい〜ふふ。」


    「いいじゃねぇか。ダハハ。」


    照れながら厨房へ。


    「おはようございまーす。」


    と、誰もいない…。


    休憩時間か。


    ナツさんは…と。


    いないなぁ。


    まだ来てないのかな。


    厨房を抜けた先に。


    スタッフルーム。


    その向かいに。


    オーナールーム。


    現場主義のナツさんは店内にいる事が多いから、


    このオーナールームに居る事は少ない。


    でもドアが少し、


    開いている事に気付いて。


    コンコン、と。


    ノックして。


    「おはよう…ございま、」


    あ。


    あらら。


    ナツさんがいた。


    でも。


    来客用のレザーのソファに。


    もたれるように。


    寝てる。


    寝てる…。


    きゃーっ!!


    ドキドキと。
    ウキウキが。


    混じり合った心で。


    そっとオーナールームに。


    入って後ろ手にドアを閉めた。


    とても低くて、
    大きなソファ。


    店内と同じ物。


    肘置きの部分に。
    もたれるように。


    体にフィットした、
    黒のロンT。


    ビンテージ物かな。
    色褪せた細身のジーンズ。


    シンプルが。
    高級に見える人。


    ホントに本当に。


    素敵な人…。


    吸い込まれるように。


    ソファの下に敷かれたラグの上に、ちょこんと座って。


    その寝顔を見つめた。


    スースーと。


    聞こえるか聞こえないかの。


    寝息…。


    白い頬に、細い顎。


    あ、ソバカス発見(笑)


    二重の瞳。
    長い長い睫毛。


    外人さんみたいな…。
    ゆるゆるパーマのかかった、


    ショートカット。


    疲れてるのかな…。


    ふふ。


    寝顔は意外と、幼いかも。


    普段はギラギラ、


    してる感じだけどね…。




    触っても、いいかな。


    触りたい、な。


    そーっと。


    手を伸ばして…。


    短い前髪に。


    触れ、


    「…………!」


    スッとナツさんの右手が伸びて。




    私の手首を掴んだ。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10629 / inTopicNo.25)  和美のBlue 19
□投稿者/ つちふまず 大御所(945回)-(2005/07/01(Fri) 08:00:51)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    あ……。


    え。


    掴まれた右手が。
    熱い。


    「ナツ、さん…。」


    目を少しだけ開けて。


    「ん………。」


    眠そう、な、顔。


    視線が絡まって。
    思わず目を反らした。


    やだ。


    ナツさん。


    無防備は見たことないから。


    恥ずかしくて見れない。


    「………誰。」


    えっ。


    あ、そうか。
    髪、切ったから…。


    「…私です、カズ、です。」


    「………。」


    「え。」


    グッと手を引かれた、


    と思ったら。





    ナツさんの上にいた。


    訂正。


    ナツさんの上に重なるように。


    乗ってた(涙)




    う、


    うわーっ!!


    ちょ、ちょっと。


    これ。


    どしたら…。


    グッとナツさんの手に。
    力が込もって。


    抱き締め…られて、る。


    っていうか、


    ほそっ、細いーっ!


    ちゃんと食べてるのかな?


    それ、
    どころじゃないけど。


    ナツさんの腕の中。


    暖かい腕の中。


    いい匂い…。


    顔が首筋に、
    埋まるように。


    ナツさんの跳ねた短い髪が。私の鼻をくすぐる。


    「な、…ナツさん。」


    出来るだけ小さい声で。


    呼んだ。


    「ん………。」


    寝惚けてる。


    完全に。


    誰と…。


    間違えてるのかな。


    ひーん(涙)


    でも…、


    間違いでもいいや。


    もうちょっと…、


    こうして…。






    「髪…切ったの…。」


    え。


    閉じていた目を開けた。


    体を起こすと。
    眠そうな目をしたナツさん。


    手を伸ばして。


    私の前髪に触れた。


    「あ、切りまし、た。」


    目を反らして、
    体を離そうとしたら。


    「いいね。」


    触れていた手は。


    両手に増えて。


    前髪と。


    私の耳にかかっていた髪に。


    そっと触れた。


    ………。


    顔、に。
    血が登る。


    「お、起きてたんですか。」


    上から見下ろす。


    ナツさんの彫りの深い顔。


    「起きてた。」


    よ、とナツさんは言った。


    「おはよう、ござい、ます。」


    なんでこんな体制で(涙)
    私が押し倒したみたい…。


    「カズ。」


    え。


    髪に触れていた両手に、


    力が込もって。


    上から下に。


    頭が移動したと思ったら。


    ナツさんの顔が超近い…、


    訂正。





    唇が重なった。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10633 / inTopicNo.26)  すみません、
□投稿者/ ちび 一般♪(6回)-(2005/07/01(Fri) 15:49:26)
    鼻血出そうです、私!!

    私の初めての人も『奈津子』と言いました。


    ちびも小悪魔になりたい!!!



    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10655 / inTopicNo.27)  和美のBlue 20
□投稿者/ つちふまず 大御所(946回)-(2005/07/02(Sat) 09:41:18)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    目の前に─


    綺麗な鼻筋。
    長い睫毛。
    形のいい耳。


    柔らかい、唇。


    あ。


    う。


    キス、してる。


    キスだ。


    リアルに。





    何秒かして─


    ナツさんの顔が離れた。


    「ユニフォーム、着ようか。」


    いつものように、


    口の端を持ち上げて。


    しかも。
    ちょっと意地悪そうに。


    左の眉だけが上がってた。


    「あ、は、はい。」


    何がなんだか。


    パニック状態。


    慌ててナツさんから。
    体を離して、


    ソファから降りた。


    キス…。


    しちゃった。


    っていうかされちゃった。


    きゃあ〜!!!


    顔を両手で抑えて。
    興奮を落ち着かせようと。


    「………と。これね。」


    振り返るとナツさんは。


    いつの間にか、
    デスクの横にあった段ボールから、ラップされた袋を手にしていた。


    「カズ。ほら。」


    着て、と。


    手を伸ばして。


    あの、


    ナツさん?


    なんでそんな、普通…、


    あのー…。


    「あの、ナツさん?」


    キスって。


    どうして。


    「ん。」


    何?という顔。


    その時─


    コンコン、と。
    背後にノック音。


    「あ、もう来た。どうぞ。」


    あれれ。


    「ハイ、ナツ。」


    振り返ると。


    ガチャ、と開くのと同時に。


    背が高くて。


    髪が長くて。


    いわゆる美人が。


    そこにいた。


    ジーンズにノースリーブを、二枚重ね着して。


    華奢な腕がすっごく白い。


    カラーのエクステンションが、よく似合う。


    「これから着る所。待ってて。」


    かけて、と。
    ナツさんは。
    ソファに促した。


    「どうも。」


    小さく頭を下げられたので。


    「あ、ど、どうも…。」


    私もぎこちなく挨拶。


    「カズ、着替えて。」


    袋を立っていた私に。
    ポンと差し出されて。


    「あ、はい。」


    慌てて部屋を、


    出ようとした時。


    ドアの取っ手を回して、


    また閉めようとした時。


    「………」
    「………」


    何かを囁き合う声がして。


    そこに視線を向けると。


    デスクにもたれて立つナツさんの首に。


    美人さんの腕が絡まって。







    キスしてた。


    こちらに体を向けた、


    ナツさんの目が、


    私の目と合った。


    ナツさんは。







    笑ってた。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10656 / inTopicNo.28)  和美のBlue 21
□投稿者/ つちふまず 大御所(947回)-(2005/07/02(Sat) 09:45:08)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    何。


    何………?


    なんで。


    どうして?


    ナツさん笑ってた。


    意味がわかんない。





    更衣室に入って。


    荷物をロッカーに入れる。


    ラッピングされたそれを。
    カサカサと開ける。


    中には。


    ベージュのパンツと、スリットの入った細身の麻のロンスカ。


    2パターン出来るのかな。


    そしてサロン。


    上は…。


    ノースリーブの。
    アジアンな模様、
    綺麗なオレンジと紫の。
    ラインが無数に入った、


    ノースリーブのサマーニットだった。


    かっこいい。


    夏っぽい。


    ナツっぽい?


    ナツさんのセンスかな。


    着てみよう。


    手早く服を脱いで。


    ロンスカに手をかけた。


    全てを身に付けて。


    鏡の前に立った。


    アジアンだ。


    うん、可愛い…。


    靴はサンダルにするのかな。


    上から下まで。


    見てみた。


    あ。


    顔。


    私…。


    見ると私の顔は。


    涙で溢れそうに。


    情けない顔をしてた。


    「う。」


    何でキスなんか。


    あの人は…。


    誰?



    鏡の前で。


    混乱した胸の内が爆発しそうに。


    なったけれど。


    「…………だめ。」


    泣かない。


    泣かないもん。


    まだ泣かない。


    ゴシゴシ、と。
    両方の瞼をこすって。


    私は更衣室を出た。




    ─コンコン、


    「失礼します。」


    恐る恐る開けたドア。


    ホッとした。


    ナツさんはソファに。
    例の美人さんは。


    向かい合うように別の椅子に。
    二人は離れて座ってた。


    「やっぱり私の腕、いいのね〜。」


    美人さんは立ち上がると。
    嬉しそうに私に近付いて。


    肩の辺りや、
    スカートの出来を。
    確かめていた。


    あ、わかった。


    デザイナーさんだ、この人。


    「カズ。こっち。」


    来て、とナツさんは。


    手招きをして。


    私はデザイナーさんから離れて、ナツさんの前に立った。


    腕を組んで。


    私の体を。
    上から下までチェック。


    「うん……。」


    真剣な目。


    ナツさん。


    ね、ナツさん。


    何でキスしたの?


    ただの挨拶?


    「うん。これで注文する。」


    ナツさんは立ち上がると。


    「お疲れ様。戻って。」


    私の肩をポンと叩いた。




    リセットボタンを。









    押されたみたいだった。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10669 / inTopicNo.29)  和美のBlue 22
□投稿者/ つちふまず 大御所(948回)-(2005/07/03(Sun) 12:32:58)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    p.m20:00─


    「いらっしゃいませ…。」


    ナツさんは。


    デザイナーさんとの打ち合わせを済ませた後。


    “出かけてくる”


    と言って。


    お店を去ってしまった。


    「お待たせしました…。」


    どんな動作も。


    なんだか手に付かなくて。


    自分で言うのも何だけど。


    上の空。


    「ありがとうございました…。」


    顔が。


    どんどん。


    歪んでくのがわかる。




    ナツさんとキスした。


    ナツさんは違う人と、


    キスしてた。


    ナツさんにとっては。


    多分キスは。


    「いらっしゃいませ。」


    と同じ位の。


    コミュニケーションの一つ。


    …なのかな。


    …やだ。


    やだな。


    はぁ……。


    テラスで。
    夜の闇の中。


    小さく砕ける波音を聞いた。


    今頃ナツさん…。


    あの人と。




    ………あ。


    ダメ。
    抑えてたものが…。


    出ちゃう。


    「…ちょっと、抜けます。」


    パタパタと。


    更衣室に駆け込んだ。




    ナツさん。


    好きだよ。


    すっごい好き。


    滅茶苦茶好き。


    でもナツさんのレベルに。


    中々付いてけない。


    ナツさんの、


    “当たり前”


    が、私には…。


    “当たり前じゃない”


    全てが基準外で。


    全てが大人。


    ダメなのかな。


    やっぱり私は、


    子どもかな。


    こんなに泣けちゃう位…。


    好きになっちゃうなんて。




    「うぇ……。」







    泣いて泣いて。



    フロアに立つのは。







    30分経った後だった。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10670 / inTopicNo.30)  和美のBlue 23
□投稿者/ つちふまず 大御所(949回)-(2005/07/03(Sun) 12:36:10)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    作戦その伍…。


    家に帰って。
    日記を開く。


    今日の日付と。
    お天気を書いたけど。


    その先が進まない。


    作戦その伍。


    その伍、は…。


    ダメ(涙)


    バッテンを書いて。


    作戦その伍を消去。


    完全に。
    ふりだしにリターン。


    作戦なんて…、


    もう立てられないよ〜!


    ジタバタと。
    またベッドの上で泳いだ。


    はぁ…何やってんだろ。


    馬鹿みたい…。


    手を伸ばして。
    バッグから携帯を出した。


    ナツさんが入れてくれた、
    この前のメール。


    何度も読み返してみる。


    「ふぇ〜ん。」


    バサ、と枕に撃沈。


    今頃ナツさんは…。


    あのデザイナーさんと。


    …ダメ。想像すると頭おかしくなる。


    考えないようにしよう。


    ベッドから降りて。
    キッチンまで歩く。


    小さな冷蔵庫を開いて。


    ミネラルウォーターのペットボトルに口を付けた。


    ふぅ…。おいし。


    シャワー浴びて、
    寝ようかな…。




    〜♪〜♪


    携帯。メールだ。


    開いて中身を確認する。


    あ、ヤスさんだ。


    件名:ブルーポイントクルーの皆様へ。


    “今度の月曜日。急遽BBQ開催。用事ない人は来てね〜♪(余り物処分&リキュール再搬入の為)”


    バーベキュー。


    か。どうしよう。


    月曜日は授業はない。


    だから土曜日と日曜日は。


    大抵ラストまでバイト。


    んー。
    でもなぁ。


    何かバーベキューなんて行く気分じゃ…。


    ん?


    カタカタ、と。


    画面を下へと移動した。


    転送された文章に。
    ヤスさんが付け足したのか。


    “オーナーも来るよ、カズ☆”


    とだけあった。


    ………。


    あ。


    ほ、本当に?


    「くーっ!!」


    またジタバタジタバタと。


    ベッドで遊泳。


    ナツさん来るんだ!
    珍しい〜!


    絶対行く!!




    …っていうかヤスさん。


    知ってるのかな(汗)


    バーテンダーには。


    人を見る目が。


    すごーく備わってなきゃ出来ない仕事だって…。


    いつかヤスさん言ってたけど。




    ……よし。


    作戦は、やめよう。


    サラサラと。


    日記にペンを走らせた。






    “嫌な事は気にしない”






    その一行をでっかく書いて。




    「むん!」




    バスルームに入った。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10671 / inTopicNo.31)  和美のBlue 24
□投稿者/ つちふまず 大御所(950回)-(2005/07/03(Sun) 13:12:45)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    月曜日─


    雨じゃなくて良かった〜。


    快晴!
    サンサンと。
    照り付ける太陽。


    梅雨時とは思えない、強い日差し。


    アパートからお店までは。
    歩いて五分。


    海で行われるバーベキューの為に、ビーサンを履いて。


    お店までペタペタと走った。




    「おはよーございます!」


    テラスを駆け上がりながら。


    勢い良く店内に入ると。


    ヤスさんを始め、


    キッチンの人。
    フロアの人。


    合わせて八人位が。


    バーベキューの準備をしてた。


    「おーカズ、手伝え〜!」


    兎がたくさん跳ねているアロハシャツを着たヤスさんが、


    クーラーボックスにザラザラと、製氷器から氷を移していた。


    「は〜い!」


    お店の目の前は海だから、


    夏のハイシーズン前には。


    よくこうしてバーベキューをする。


    クルーの親睦を深める為に、ヤスさんが毎年。


    企画するんだって。


    いつも突然だから、全員は集まれないみたいだけど(笑)


    下ごしらえをキッチンで。


    クーラーボックスを抱えて。


    テラスの階段を降りようとした時。


    一台の車が。


    お店に入って来た。




    あ。


    ナツさん、だ。


    車が違ったから。
    一瞬わからなくて。


    黒のマセラティ。


    セクシーな車…。


    一瞬だけ見えた。


    白のノースリーブに。


    サングラス。


    か。


    カッコいい…。


    思わず地下に入る車を。
    目で追い掛けてしまった。




    階段を全部降りて。


    地下に続くスロープを見ると。


    バタン、と。
    ドアを閉めるナツさんが見えた。


    スタスタ、と。


    白いベルトをした。


    ベージュの細身のパンツの足が、こちらに向かって来る。




    「おはよう、ございます。」


    何だか会うたび。


    緊張しちゃう。


    「おはよ。」


    サングラスを外さずに、


    ナツさんは私の前を通り過ぎて。


    トントン、とテラスの階段を登って行った。


    背中を見ると。


    パンツを腰履きしている為か。


    腰の辺りに地肌が見えた。


    あ。


    …タトゥー。


    チラッとでもわかった。


    結構大きな、
    タトゥーが入ってる。


    ナ、ナツさんらしい…。


    きゃあ〜っ。


    ドキドキしながら。





    クーラーボックスを持ち直して。海へと向かった。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10672 / inTopicNo.32)  和美のBlue 25
□投稿者/ つちふまず 大御所(951回)-(2005/07/03(Sun) 13:16:37)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ズンチャ、ズンチャ、と。
    レゲエのリズム。


    砕ける波音。


    「始めるぞ〜!」


    「カンパーイ!」


    イエーと。
    グラスを片手に。


    BBQスタート。


    タープ(日陰を作る為の屋根ね)の下で。


    即席とは思えない位。
    豪華なバーベキュー。


    食べ物と飲み物のプロが集まってるから…。


    とっても美味しい♪


    私はメンバーの中では、
    一番歳下という事もあり。


    お肉を焼いたり、ヤスさんを手伝ったりと。


    そんな中でもやっぱり…。


    目で追ってしまう。


    折り畳みのビーチチェアに座って、料理長と目を細めて話してる。


    やっぱりいいなぁ♪


    ナツさん…。


    目が離せない。


    「カズよそ見しなーい!ほら、氷!」


    「あ、す、すみません。」


    金髪のモヒカンで。モミアゲと髭が繋がっている、ヤスさん。


    シェイカーを振る腕は。


    ポパイみたい♪


    ブラックフライの緑のサングラスをしてるけど。


    本当は人の良さそうな優しい目をしてるんだよね。


    「オーナーにこれ、持ってって!」


    トン、と即席で設置した木製のバーカウンターに。


    ヤスさんはグラスを置いた。


    「はーい。あ、これ何ていうカクテルですか?きれーい。」


    ヤスさんはふふんと笑うと。


    「セックスオンザビーチ!」


    「す、すごいカクテル…。」


    何てハレンチな…。


    「ちゃんとオーナーに、カクテルの名前言ってから出すんだぞ!」


    イヒヒ、とヤスさんは嬉しそうに笑った。


    「ええっやだ〜!」


    「ほらほら温くなる!」


    「ひ〜ん。」


    グラスを持って。


    チェアに座るナツさんに近付く。


    ヤスさんを見ると。


    “言え、言え、”


    と。ニヤニヤしてる(涙)


    「あ…飲み、物です。」


    座るナツさんに屈んで。
    グラスを渡すと。


    「何?これ。」


    ナツさんもニヤニヤと。
    やりとりを聞いていたのか。


    「あ、セッ、セッ、」


    「せ?」


    「セックスオンザビー…チで、す。」


    ボソボソと言う。


    恥ずかし〜(涙)


    ナツさんはクックと笑った後、


    グラスに口を付けて。


    「カズ。…これはロングアイランドアイスティーだよ。」


    ふっとナツさんは笑った。


    「たまってんなーカズ!」


    ワハハと料理長は笑った。





    んもうヤスさん!!(怒)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10674 / inTopicNo.33)  ちびさん
□投稿者/ つちふまず 大御所(952回)-(2005/07/03(Sun) 14:44:26)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    はいどうも(^O^)
    つちふまずです。

    良かったらHPに感想板がありますので、そちらにもお越しくださいね〜♪

    和美は書いていてとても楽しい一人です。
    今回は恋に対して前向きで、無器用な女の子が…。
    書きたかったんですが。
    いかがでしょう。

    走り回る女の子は、書いていて私も元気になれます。

    辛い恋も。
    書けばドラマになるんでしょうけれど…。

    やっぱり明るい物が、
    つちふまずは好きなので。
    皆さんが笑ってくれたら、
    つちふまずは嬉しいです。

    今後もカズを。
    応援してやってくださいね!


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10676 / inTopicNo.34)  和美のBlue 26
□投稿者/ つちふまず 大御所(953回)-(2005/07/04(Mon) 08:07:31)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「ワハハハ!」
    「キャー!!」


    お酒も回って来て。
    みんないいカンジ。


    私はというと…。
    みんなに飲まされて。


    ヘロヘロ。


    うい〜。


    「よーっし今年も禊、するぞ〜!!」


    上半身裸のヤスさんが。


    気合いだーっ!と。
    叫んでる。


    背中から腕にかけて。
    ファイアーパターンの、
    いかついタトゥー。


    おおっ来たな〜!
    とみんな大騒ぎ。


    ミソギ?


    って…なんだろ?


    「今年は…。カズ!お前だぁー!!」


    ザッザッと砂を舞い上がらせて。


    向かってくる熊…。
    間違えたヤスさん。


    えっ。


    「あ〜和美!頑張って!」


    可哀想に、と。
    みんなパーッと散ってく。


    え!?


    ……きゃあ!!


    アッと言う間に。
    ヤスさんに抱えあげられて。


    「いやー!!」


    ジタバタジタバタと。


    バシバシ叩いて見たけれど。


    アッという間に。


    波打ち際。


    ま、まさか!!


    「カズ。覚悟せい。」


    「いやいやいやー!!」


    ザブザブと。
    海に入るヤスさん。


    浜の向こう。


    ナツさんを見ると。


    クックッといつも以上に、口を抑えて笑ってる。


    「和美のミソギー!おりゃ!」


    「きゃあっ!!」


    ふわっと体が浮いた後。




    ─ザブン。


    多少加減されたのか。


    ヤスさんのほぼ真下に。


    落下。


    「ぷわっ!!」


    顔を上げると。


    「今年の夏はいい事あるぜ。」


    ニッとヤスさんは。


    全身濡れた私に。


    笑顔。



    ワッハッハと。
    浜の向こうでは。
    大爆笑。


    「んもー!ヤスさん!!」


    体を起こして。


    後ろから大きなヤスさんの背中に。


    思いっきりしがみついて、


    引っ張った。


    「うわっ!!」


    ─ザブン。


    「ふふーんだ。」


    「このやろ〜!」


    「きゃあー!!」


    真夏日だったから良かったけど。


    良かったけどさ?(涙)


    水を吸って重くなった服を引きずりながら。


    「おーカズ最高!!」


    みんな盛り上がり過ぎ。


    ふぇ〜ん(涙)


    「シャワー浴びて来いや。カズ近いんだから。」


    料理長がワッハッハと。
    豪快に笑った。


    「ふぁーい。」


    ビーサンを片手に。


    一旦おうちに戻る事になった。


    和美のミソギ……。




    いい事あるかなぁ(涙)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10677 / inTopicNo.35)  和美のBlue 27
□投稿者/ つちふまず 大御所(954回)-(2005/07/04(Mon) 08:10:28)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    うう〜。


    ち、ちべたい。


    ペタペタと。
    上から下まで水分を含んだ体を引きずって。


    ゴーホーム。


    まぁ近いからいいけど。


    いいけどさ(涙)
    ふぇ〜ん。


    よれよれと。
    アパートの階段を上がり、


    鍵穴にキーを差し込んだ時。


    「男前。」


    下から声が聞こえた。


    え?


    下を見ると、


    トントンと。


    階段を登る…。


    外人さん。
    間違えた。


    ナツさんじゃん!


    「あ。」


    「シャワー貸して。」


    スタスタと。


    私の正面に立つ。


    「え。」


    「カズの次でいいから。」


    ひどい頭、と。
    ナツさんは長い指で。
    私の前髪を撫でた。


    「あ……はい!」


    慌てて鍵を開ける。


    シャワー?


    シャワーって!!


    「どどどどうぞ。」


    「ん。」


    ナツさんが。


    うち。


    うちにーっ!!


    パタンと閉めると。

    ナツさんはサンダルを脱いで、

    中に入って行った。


    「す、すみません散らかって…、」


    慌てて私も。


    ビーサンを脱いで、
    部屋に入ろうとすると。


    「そのまま。ゴー。」


    バスルームを指差して。


    ナツさんは口の端を持ち上げた。


    「ははは、はい!」


    また慌てて。


    バスルームへ入る。


    濡れた服を。
    最速で脱いで。


    すぐにお湯を出した。


    ちょ、


    ちょっと待って。


    変な物なかったかな…。
    部屋の中。


    ああっ!
    食べかけのピザ…。
    そのまんまだ(涙)


    トリートメントもそこそこに。


    多分8分位で、
    バスルームを出た。


    あ。


    やば。服…。


    着替えがない(涙)


    うぇ〜ん。


    バスタオルを巻いて。


    「失礼、します…。」


    自分の部屋なのに。


    無茶苦茶緊張して。
    ドアを開けると。


    わわっ!!


    ベッドに寝そべる、
    ナツさんがいた。


    何かをジッと見て。


    「あ、シャワー、どうぞ、」


    ナツさんを見ずに。


    前屈みで。


    クローゼットを開けると。


    「ん。」


    ナツさんは体を起こして。


    私の横を通り過ぎようとした時。


    「可愛いパンツ。」


    ええっ!!


    ナツさんを見ると。


    あれ、と。


    指を差した先に。


    下着干し。


    水玉のパンツが。


    そこにはあった。




    撃沈↓


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10678 / inTopicNo.36)  和美のBlue 28
□投稿者/ つちふまず 大御所(955回)-(2005/07/04(Mon) 08:13:26)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    サー、サーと。


    水が流れる音。


    「…………。」


    服を着た私。


    ベッドであぐらをかいて。


    考え中…。


    ナツさんが。


    シャワーを浴びてる。


    いやナツさんだって人間だから…汗ばんだらシャワー位。


    浴びるんだろうけど。


    うわ〜っ!!


    バタン、とベッドに横たわると。


    クンクン。


    あ。これ、


    ここに寝てたから…。


    いい匂い。
    甘いようでいて。
    柑橘系。


    あーこのまま。


    死んでも…、


    「眠いの?」


    えっ!


    顔を上げると。


    いつの間にバスルームを出たのか。


    バスタオルを頭から被って。


    黒のフレアパンツ。


    上も。黒。


    ホルターネックタイプの。
    キャミソール。


    シルバーのチェーンタイプの、ベルトをしてる。


    「あ、あれ?」


    服が違う…。


    良く見ると手に。
    白い袋があった。


    「さっぱりした。」


    化粧水、借りるよ、と。


    小さな鏡台の前に。
    ナツさんは立った。


    「は、はい。……あ。」


    背中が大胆に開いているデザイン。


    初めて見る、
    背中のタトゥー。


    「すご…い。綺麗…。」


    鏡越しにナツさんは。
    ん?と眉を上げた。


    「人魚、ですね。」


    こちらを振り返るような、
    姿勢の。
    セクシーなマーメイド。


    「ああ…これ。」


    ナツさんも背中の人魚みたいに。こちらを振り返った。


    「はい。」

    「ん。」


    とだけ言うと。
    私の隣に。


    ゆっくり近付いて。
    座った。


    わわわわ。


    「焼けたね。」


    頬の辺りを。
    長い指の腹で。


    触れられた。


    「あ、は、はい…。」


    恥ずかしくて。
    うつ向いた。


    だって凄く凄く。


    湯上がりで。


    かっこいい服で。


    全然なんだか、


    違うんだもん。


    「あの、どこか…行くんですか?」


    ナツさんの格好は。
    さながら。
    パーティー仕様。


    「うん。ちょっとね。」


    外していたフランクミューラーを。右手にした。


    「そうですか…。」


    寂しいな。


    今日は夜まで一緒に…。


    いられるかなって、


    ちょっと期待…。


    「カズ。」


    「え?」


    「カズも行くか。」


    だな、という顔。


    「ええっ!」


    「行こう。」


    ど。







    何処行くんですか??


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10687 / inTopicNo.37)  和美のBlue 29
□投稿者/ つちふまず 大御所(957回)-(2005/07/05(Tue) 08:05:53)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    夕陽に染まった。
    海岸線。


    静かに進むマセラティ。


    窓を開けていたから、
    風になびくのがわかる、
    私の髪。


    口に入った長い前髪を、頭を振って払った。


    「私です。…はい。」


    ナツさんはハンドル片手に。電話中。


    「ええ。カズ、連れて行きます。…はい。」


    相手は…ヤスさんみたい。


    それにしても。


    道路交通法なんて。
    ナツさんには。
    関係ないんだろうなぁ。


    だけどね?ナツさん。


    マセラティ。


    外車ってよくない。


    すれ違う、車、車。


    みんなこっちを見るのが。
    助手席からありありと。


    「はい、失礼します。」


    ヤスさん…。


    ニヤニヤ顔が。
    目に浮かぶ(涙)


    ナツさんはBGMの音量を。
    少し上げた。


    なんか。


    え、映画みたい…。


    感動(涙)


    「少し走るよ。」


    見るとナツさんはサングラスをしてるので、


    口の端が持ち上がるのだけ。確認出来た。


    「あの…何処に行くんですか?」


    「ん。レストラン。」


    レストラン。


    って…。


    ナツさんが言う、
    レストラン、とは?


    ガストじゃないよね…。


    「こ、こんな格好で、いいんですか?」


    私の格好。
    裾を絞れるタイプの。
    楽なカーキ色の綿パンと。


    青いタンクトップ、と。
    サンダル。


    「いい。カズらしい。」


    よ、と。
    こちらを見ながら。


    ナツさんは煙草をくわえた。


    う。


    うわわわわわ。


    まためまい、が。


    私最近こればっかり(涙)


    「どこまで、行くんですか?」


    車は海岸線から離れて。


    大きな道路へ。
    合流していく。


    「都内。」


    とだけナツさんは言った。


    都内…。


    こ、これはもしや。


    デートというやつでは。


    「お腹は空いてる?」


    「空いてます!」


    ミソギのせいで全然食べてないし(涙)


    「期待していい。」


    と言って。


    灰皿にトントン、と。
    灰を落として。


    またそれをくわえた。


    何処まで行くんだろう。


    流れて行く景色。


    静かに流れるサウンド。







    何処までも連れてって。







    なーんて言えるはずもないけど。







    大・興・奮!

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10688 / inTopicNo.38)  和美のBlue 30
□投稿者/ つちふまず 大御所(958回)-(2005/07/05(Tue) 08:09:39)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    車は高速に入り。


    チャカ・カーンが静かに響く。


    暫く沈黙だったけど。


    「カズさ。」


    ナツさんが口を開いた。


    「はい?」


    なんでしょう。


    「卒業したら、どうする?」


    あ。…進路かな。


    「ん…それ話そうと思ってました。」


    そうだ。


    ナツさんには話さなきゃ、と思ってた。


    「ん?」


    「今のお店で…働いちゃダメですか?」


    栄養士の資格を取ったら。
    フロアだけじゃなくてキッチンもやってみたい。


    「…………。」


    ナツさんは長い指を。
    頬に当てた。


    「やっぱダメ、ですか…。」


    「…いや、そうじゃない。」


    「え?」


    ナツさんを見た。


    「やりたい事、やりなさい。」


    「…………。」


    「うちに縛られる事はない。」


    学費の事…かな。


    「違います。働きたいんです。ダメですか?」


    私あのお店、
    凄く凄く。
    好きだもん。


    「そうか。」


    ナツさんはフフ、と。
    一つ笑った。


    「はい。…ふふ。」


    「ありがとう。」


    え…。


    “ありがとう”


    やだ。


    なんか凄く。


    嬉しい…。


    「頑張ります。」


    もっともっと。


    「ん。」


    ナツさんは満足したように、微笑んだ。


    「あ、ナツさん。ナツさんのお店って…、他にもあるんですよね?」


    あと二店、あるって聞いた。


    「ん。中目黒…。恵比寿。…と、鎌倉。」


    中目黒。
    お洒落っぽーい。


    「行ったみたいです。」


    どんなお店なんだろ。


    「………ん。」


    あれ。


    ナツさんの答えが。


    一瞬遅れた、ような。


    「今度ね。」


    「はい!」


    やったぁ。






    車はいつの間にか、


    高速を降りて。


    市街地へと入った。




    海とは違う。


    人の波と。


    たくさんの車。


    ナツさんは本当は。


    こっちがホームなんだよね。


    海も似合う人だけど…。




    「何処に停めるかな。」


    少しスピードダウンして。


    ナツさんはタイムズを見付けて、そこに入った。


    「到着。」


    ナツさんはすっかり暮れた回りを眺めた後。


    サングラスを外しながら、


    車を降りた。


    ビルの谷間。


    黒いセクシーな服に、


    身を包んだナツさん。


    やっぱり何処でも。







    カッコいい。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10717 / inTopicNo.39)  和美のBlue 31
□投稿者/ つちふまず 大御所(959回)-(2005/07/06(Wed) 08:19:09)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ビルの谷間から。
    一本入ると。


    そこはびっくりする位。
    古い民家が立ち並ぶ。


    下町。


    歩いていた私達の前を。
    三毛猫が横切った。


    こんな所にレストラン…。
    どんな店だろ。


    それにしても。
    ナツさん…。


    コンパスが長い!
    ひえ〜。


    少し小走りに、
    ナツさんの後に続くと。


    突然ナツさんが止まった。


    トン、と背中に。
    ぶつかってしまった。


    「…あ、すみません。」


    「ここだよ。」


    「え……。」


    これ!?


    ナツさんを見ると。
    赤いレンガの建物。


    古ぼけた電飾の、
    看板があった。


    電球が切れかけているのか。点滅してる…。


    “ブランカ”


    と。片仮名で書いてあった。



    「来て。」


    カランカランと。
    古いドアを開けた。


    店内には、


    誰もいない。


    赤茶気た革の椅子。
    明るみを抑えた照明。


    あ、南野陽子のポスター(笑)


    うん、すごく…。
    なんていうんだろ。


    古き良き、洋食屋さん。


    「いないな。」


    ナツさんはキョロキョロと、見渡すと。


    キッチンかな。
    奥から小さな人影。


    「いた。…ママ!」


    ママ!?


    ナツさんは笑顔で。


    その人影に。


    駆け寄った。


    そこには、小さな小さな。


    ─おばぁちゃんがいた。


    ナツさんを見て。
    たくさんの皺を、
    抱えた顔を。


    もっとくしゃくしゃにした。


    ナツさんはしゃがんで。


    「元気だった?」


    「…………。」


    おばぁちゃんは。


    うんうんと頷くだけで。
    言葉はなかった。


    「食べに来たよ。」


    ナツさんの目は。
    すごーくすごーく優しくて。


    まるで娘を見る母親みたいで。


    何故かすごく。
    胸がグッとなった。


    おばぁちゃんはナツさんの肩を、二、三回擦った後。


    静かに、
    ゆっくりと。
    また奥へと。
    下がって行った。



    ナツさんは振り返ると。


    「かけて。」


    そこに、と。
    促してくれた。


    「ママ、って…。」


    まさか母親じゃ、ないですよよね。


    「ああ…。」


    ナツさんはまた、懐かしい目をした後に。


    「昔、お金が無かった。いつもここで…。」


    「食べてたんですか。」


    なるほど。


    「ん。中学生の時。」


    …………。


    そうなんだ。


    でも。


    聞く事はしなかった。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10718 / inTopicNo.40)  和美のBlue 32
□投稿者/ つちふまず 大御所(960回)-(2005/07/06(Wed) 08:22:31)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    15分程して─


    おばぁちゃんは二つ。
    お皿を持って。


    私達のテーブルに。


    「わぁ……。」


    トン、と置かれたお皿には。


    デミグラスソース。


    綺麗な目玉焼き。


    人参のグラッセと。
    手作りかな?…ポテト。


    とっても美味しそうな。


    ハンバーグだった。


    「ハンバーグだぁ。」


    大好き♪


    おばぁちゃんはウンウン、と頷いた後に。


    また下がって行った。


    ハンバーグから。
    ゆらゆらと上がる湯気。


    「よだれが出てきました。」


    「ん。」


    ナツさんも目を細めた。


    おばぁちゃんは。
    今度はライスのお皿を二つ持って。再び、テーブルへ。


    「たくさんお食べ。」


    おばぁちゃんの。
    しゃがれた声。


    「はい…頂きます。」


    「頂きます。」


    二人で手を合わせて。


    ナイフとフォークを手に。


    いざ…。


    ………あれ。


    見るとナツさんは。


    手にフォークとナイフを持ったまま。


    ハンバーグを見つめていた。


    「…ナツさん?」


    どうしたんだろ。


    「あ……。いや。」


    食べよう、と。


    思い直したように。
    ハンバーグにナイフを入れた。





    「おいしーい!!」


    こんな美味しいハンバーグ。食べた事なーい!


    見るとナツさんも。


    一口一口。
    味わうように。


    笑顔で食べてた。


    「このソース、どうやって作るんでしょう…。」


    デミグラスソースが。
    とにかく特徴的で。


    「これで昔はご飯食べてた。」


    ナツさんは。
    苦笑いで。


    「何杯でも行けそうですね…。」


    見るとおばぁちゃんは。
    ニコニコしながら、


    私達が食べる姿を。
    満足そうに見てた。








    「ママ、ご馳走様。」


    ぴったり\1400。
    ナツさんは払って。


    またしゃがんでおばぁちゃんの、肩を抱いた。


    口元をモグモグしながら。
    おばぁちゃんも笑顔で。


    「ありがとね。」


    おばぁちゃんは。
    しっかりそう言った。


    「…………ん。」


    ナツさんはまた立ち上がって。


    「ご馳走様でした。」


    私が頭を下げると。
    ウンウンと笑った。


    カランカランと。


    また夜のネオンが目に飛び込む。


    ナツさんは外に出た後に。


    ブランカの外観を。







    ジッと見つめてた。


    (携帯)
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