| それからは─ ナツさんと顔を合わせても。
「お疲れ様です。」
「ん。」
いわゆるオーナーと、 バイトとして。
必要最低源のコミュニケーションのみを取り、
ユニフォームもリニューアルされ、夏本番を迎えた。
夏の繁忙期には。 毎年三人ほど、 ホールはバイトを雇う。
今年も新しいメンツを迎えて、せわしなく仕事をこなした。
ナツさんもこの時期は、 土曜日だけでなく。 木曜日や日曜日にも現れる。
中目黒をクローズさせた事は、鎌倉へ足を運ぶ時間が前よりも出来たのか。
言葉を交しにくい私にしてみれば微妙だった。
それでも。 中目黒が閉店してから。
少しナツさんは変わった。
あの時見た白髪は、もう綺麗なブラウンに変わったけれど。
より一層、
はっきり言ってしまうと。
厳しい人になった。
もっと笑わなくなった。
言葉を発しなくなった。
テラスから海を眺める姿が、
多くなった。
ヤスさんが言うには。
「何だか戻っちまったな。」
らしい。
ナツさんの過去は、
想像もつかなければ、
ほとんど知らない。
けれど。
一時期ナツさんと、 近い距離にあった事。
何だか嘘みたいに見えた。
「カズちゃん、カズちゃん。」
金曜日のクローズ前。
食器を片付けていた、 私の背中に。
「ん、何?」
臨時バイトで雇われている、希ちゃんに声をかけられた。
希(ノゾミ)ちゃんは女子大生。以前から良く、うちのお店に食べに来てくれていたらしい。
長い髪と。 方エクボが特徴的。ナツさんとまでは行かなくても、背が高い。
「今日オーナーってラストまでかなぁ。」
希ちゃんは。 テラスのオウムに餌をやっている、ナツさんを見た。
「ん…どうだろうね。」
さほど気にせずに、 手を動かした。
「素敵。もー遊ばれたい!」
「………。」
頼んでみたら、と。 心に思ったけど。
口にはしなかった。
「ね、カズちゃんはオーナーと話した事、あるんだよね?」
「…少し、だけどね。」
本当に少し、なんだろうけど。
「ね、どういう人?」
ね、ね、と。
「んー。」
「ん?」
「どういう人、なんだろうね…。」
わかんないや、と。
私は苦笑いした。
(携帯)
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